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社説[春闘スタート]雇用改革 慎重に議論を
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/527427
2020年1月28日 07:39 沖縄タイムズ

 主要企業の労使が意見を交わす、きょうの「経団連労使フォーラム」を皮切りに、2020年春闘がスタートする。

 すでに経団連の経営労働政策特別委員会(経労委)報告、労働組合のナショナルセンターである連合の春闘方針が出そろっている。

 経営側の交渉指針となる経労委報告で注視すべきは、新卒一括採用、終身雇用、年功序列賃金を柱とする日本型雇用慣行の見直しを強く押し出した点だ。

 グローバル化の進展で優秀な人材の獲得が難しくなっているとし、人工知能(AI)開発者などを念頭に高額な報酬で人材を確保する「ジョブ型」雇用の活用を促している。

 多様な人材の活用や仕事の質重視など、働く人のやる気を引き出す改革の方向性は理解する。企業の生き残りをかけて競争力を維持・拡大するにはスペシャリスト採用も必要だろう。

 ただ、長期的視点に立った人材育成や人材定着を可能とした日本型雇用が、戦後の経済発展を支えてきたことも事実である。

 人材は「人財」ともいわれるが、今回の慣行打破は社内研修などに力を入れ、次世代の人材を育てるという企業の役割を軽視しているようにも映る。

 経団連が目指す見直しによって、専門スキルに乏しい若者の失業率が高まらないか、待遇改悪やリストラしやすい環境につながらないか、懸念する。

■    ■

 見直しに対する連合の見解はこうだ。

 「日本の企業の99%は中小企業で、非正規労働者が全体の4割を占めている。『転換期を迎えている日本型雇用システム』という文言自体がミスリーディング」

 日本的なよい部分は失われている上、中小や非正規で働く人たちへの視点が欠けているとの批判である。

 賃金水準が正社員の6割ほどにとどまる非正規社員の待遇改善は、引き続き春闘の大きなテーマだ。

 日本型雇用慣行に切り込むというのなら、「同一労働同一賃金」も避けては通れない。

 4月から大企業を対象に、正社員と非正規社員の不合理な待遇格差を禁じる同一労働同一賃金がスタートする。労働者から格差の説明を求められた場合、企業は説明義務を果たさなければならない。

 「底上げ」の実現は差し迫った課題だ。

■    ■

 今春闘で連合は、2%程度のベースアップを求めている。「賃上げの流れを止めず、社会全体に広げることが重要だ」とする。

 経労委報告はベアを容認するものの、全社員一律ではなく、仕事給や業績給などに手厚くする方策を示す。

 日本経済は企業業績が堅調にもかかわらず、内部留保が積み上がり、実質賃金も、労働分配率も低迷している。成長の果実が十分還元されていないのだ。

 「経済の好循環」を実現するためにも賃上げが欠かせない。
 

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横行する「サービス残業」 減らすために必要なのは法規制じゃない!?(鷲尾香一)
https://www.j-cast.com/kaisha/2020/01/26377784.html
2020/1/26 12:00

「違反残業が300万人」という記事が2020年1月20日付の日本経済新聞に掲載された。総務省の調査で判明したものだが、実態面では違反残業として表面化しない「サービス残業」として蔓延し始めている。

労働基準法が定めた法定労働時間は1日8時間で週40時間。1か月単位で計算すると80時間の残業を含めて240時間程度となる。日本経済新聞によると、総務省の労働力調査で2019年4〜11月に月241時間以上働いた雇用者は月平均で約295万人おり、「過労死ライン」と呼ばれる月100時間超の残業をした人も月平均で170万人に達していた。

その要因として、「労務管理の徹底でサービス残業があぶり出され、部下の仕事量が減ったシワ寄せで管理職の残業が高止まりしている」ことをあげている。

〔写真〕減らない残業、どうしよう……

違反残業者数は月平均で295万人

違反残業の問題は、2015年12月25日に元電通社員の高橋まつりさん=当時(24)=が自殺し、その原因が最長月130時間の残業などにあったことが明らかとなり、東京・三田労働基準監督署がそれを過労死として認定したことで、違反残業廃止の社会的気運が高まったことから始まった。

2018年7月24日に閣議決定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」では、1週間の就業時間を60時間未満とする数値目標が設定され、2020年までに週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下とすることが目標とされた。

一方、「働き方改革関連法」では、2019年4月から「罰則付き残業規制」が施行された。この規則では、原則として月間45時間、年間360時間の時間外労働時間(残業時間)を上限としている。

特別な事情があって労使が合意した場合でも、残業時間と休日労働は月100時間、2〜6か月で平均80 時間が上限として設けられている。

これらの上限を超える違反をした場合、罰則として「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されることとなる。

労働力調査によると、月241時間以上働いた違反残業者数は、月平均で約295万人。2018年度(こちら、年度でいいのですか?労働力調査は2019「年」なのですよね?)平均の319万人より減少してはいるものの、雇用者全体の5%を占めた。

ところが、問題はこんなものではない。違反残業として表面化しない「サービス残業」が横行し始めているというのだ。

賃金未払いのまま、残業しているケースは増えている

総務省が発表する「労働力調査」は、労働者を対象として実際に働いた時間を集計する。その一方、厚生労働省の発表する「毎月勤労統計」事業所を対象とし、賃金を支払った分の労働時間を集計している。したがって、二つの統計を比較することで「サービス残業」を推測することが可能になる。

つまり、労働力調査と毎月勤労統計の乖離は、「『実際に働いた時間』−『賃金の支払われた時間』=『賃金の支払われてない労働時間』」となり、賃金が支払われない「サービス残業」を、炙り出すことができる。

実際、二つの統計の乖離は2016年初めまでは月に19時間程度だったが、残業廃止の機運が高まると、2018年初には月18時間を割り込むまでに減少した。だが、その後は再び増加に転じ2019年には月18時間後半にまで戻っている。

「就業時間後は、残業禁止のため仕事ができないので、早朝出勤をしている」(製造業)
「残業が認められなくなってから、自宅で仕事をする時間が倍になった」(教育関係)
といった声に象徴されるように、じつは就業時間以外で賃金が支払われないまま、残業を行っているケースは増加している。

厚生労働省が2019年10月1日に発表した「令和元年版 過労死等防止対策白書」の中では、労働者1人当たりの年間総実労働時間が緩やかに減少しており、これはパートタイム労働者の割合の増加によるものだと分析している。

しかし、今年4月からは「罰則付き残業規制」が中小企業にも適用され、また2024年4月からは適用除外となっている自動車運転の業務、建設事業、医師など一部の事業・業務へも適用される。

果たして、これらをパートタイム労働者の増加で賄い、本当に残業時間を減らすことできるのか。そして、悪質なサービス残業をなくすことはできるのか。

本当に必要なのは、労働基準監督署の機能・人員強化を行い、厳しく企業を取り締まることではないか。(鷲尾香一)

 

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男女平等、日本は過去最低 上野千鶴子氏に聞く
仕組みが意識を変える 「風土合わない」は非合理的/骨抜きの法律 効果はゼロ

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO54800540U0A120C2TY5000/
2020/1/27付日本経済新聞 朝刊

世界経済フォーラムが2019年末に発表したジェンダー・ギャップ指数で、日本は153カ国中、過去最低の121位となった。下落する一方の日本に今、何が必要なのか。認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)の上野千鶴子理事長に話を聞いた。


――ランキングは18年の110位から大きく下がりました。

「悪化したのではなく、変化しなかったのです。諸外国が大きく男女平等を推進している間、日本は何もしなかった。だから結果として順位を下げたのです」


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「国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)が日本に出す勧告がいい例です。選択的夫婦別姓などを早くから指摘されているのに何もしない。選択的夫婦別姓の導入はコストがゼロで効果が出せる施策なのにそれでもやらない。政権与党に本気で変える気がないからです」

――女性活躍推進法などの法整備は進みました。

「罰則規定がないので実効性がありません。例えば、候補者ができるかぎり男女同数になることを目指した候補者男女均等法。法律が施行されて初めての国政選挙となった19年7月の参院選はどうでしたか。候補者の女性比率はわずか28%です。自民党に至っては15%にとどまっています。結果、女性の当選者は28人で改選前後で変化がありません。法律を作った効果はゼロといえます」

「候補者の半数を女性にしない政党には交付金を出さないなどの罰則規定が必要です。女性活躍推進法では応募者と採用者数の男女比も公表すべきです。こんな骨抜きの法律に対してメディアも鈍感すぎます」

――20年に女性管理職を30%にするという目標も達成は難しそうです。

「最初に聞いたときはなぜ50%じゃないの?と思いました。ただ、意思決定の場に女性がもっと入っていく必要があることは確かです」

「他の国は強制力のあるクオータ制を導入して社会を変えてきました。過渡期に一時的にでも強制力のある制度を作ることは大きな意味がありますが、日本では『クオータ制は日本の風土に合わない』と否定的です」

「『日本の風土に合わない』という言葉が意味するのは『合理的な説明ができない』ということです。論理的に答えられないから質問をシャットアウトするために使うのです」

――この状況から脱するには何が必要でしょうか。

「家事や育児など女性が外で働くことを妨げている負担をアウトソーシングする必要があります」

――女性の側の抵抗も根強いのではありませんか。

「インフラが変われば、意識はあっという間に変わります。それを痛感したのは介護保険。導入時には『自宅に他人を入れるなんてとんでもない』と否定的でしたが、今はどうでしょう」

「育児を家事労働者に委託したら、3歳までは年に200万〜300万円かかりそうです。年収の何割だったら普及すると思いますか。世帯年収の2割までなら機会費用を考えて利用するのではないでしょうか。そうなれば、『育児は母の手で』という人々の意識は簡単に変わるでしょう。北欧のように公共サービスにするか、米国のように市場化するか。日本は後者に舵(かじ)を切り始めています。実現には安い労働力の確保が必要ですし、階層格差が前提です」

――育児休業の期間を延ばすなどの施策もあります。

「育児休業ははあまりいい制度とは思いません。男性より賃金の低い女性が育休を取るケースが多いですが、乳児と24時間向き合う"べったり休業"は母親を育児専業にさせます。産前は対等だった夫婦の関係が、1年の育休で変わり、家庭内で役割分担が固定します。女性たちもべったり休業ではなく1日1時間でも職場とつながっていたいと希望していたはずです」

「"べったり休業"を、というのであれば父親の取得を義務化すべきでしょう。これも日本の企業風土に合わないと言われそうです。でもスウェーデンも導入時には反対する男性もいたけれど、やったら大歓迎でした」

――働く女性は3000万人を超えましたが、6割が非正規雇用です。男女の賃金格差も大きな問題です。

「シンプルな解決方法があります。最低賃金を全国一律で1500円にすること。年2000時間で300万円の収入になります。この年収額は夫婦の関係を変える分岐点です。パートナーの年収が300万円を超えると生活水準が変わり、お互い相手が辞めないように、という力学が働きます」 

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ワタミは「ホワイト企業」になったのか? ホワイト認定と「無反省」の実際を探る
今野晴貴 | NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200127-00160528/
2020/01/27(月) 11:58

(写真:アフロ)

 1月19日、ワタミグループが「ホワイト企業大賞」の特別賞を受賞したという報道がされた。これまで「ブラック企業」の象徴的な存在として批判されてきたワタミだが、この受賞で労働条件が改善したと言えるのだろうか。

 本記事では、今回の「ホワイト企業大賞」の性質と、今回を受賞に対する創業者である渡邉美樹氏の考えについて紹介しつつ、そもそもワタミがなぜ「ブラック」と呼ばれてしまったのかについて振り返っていきたい。

「ホワイト企業認定」は本当か?
まず簡単に、「ホワイト企業大賞」について説明しておこう。この賞は、ホワイト企業を「社員の幸せと働きがい、社会への貢献を大切にしている企業」と定義し、7つの項目(「個人」「職場の関係性」「社会貢献」「人間的成長」「自律」「信頼」「誇り」)を選出基準としている。

 この「ホワイト企業大賞」という企画では、そもそも「労働問題」に対する項目がないことがわかる。

 また、企業が10万円を払って応募することや、今回応募した30数団体中31もの企業が賞を受賞しているなど、受賞のハードルは非常に低いことがうかがえる。

 このような数値からみても、受賞によってワタミの労働条件が改善されたものと確実に評価できるのか、疑問を呈さざるを得ない。

「反省しない」創業者
しかも、ワタミは、過去のブラック企業批判についても「反省」はしていないようなのだ。

 今回の受賞をホームページで取り上げることで「現在は改善している」ということをアピールしているだけではなく、「過去」のブラック企業批判まで改めて否定しているからだ。

 ワタミの代表取締役会長の渡邉美樹氏が、「ホワイト企業大賞 特別賞受賞のご報告」という記事で、次の文章を投稿していた。

数年前、ブラック企業批判を受けた時

「本当のブラック企業なら、全社員がやめ、会社は潰れている。」

そう、繰り返しました。

 渡邉氏は、ワタミがブラック企業であったという過去の批判に対して、現在においてもなお、全社員が辞めていないから自分たちはブラック企業ではないという「反論」を蒸し返して、認めようとしていないのである。

 その一方で、渡辺氏は上記の文章中で、自身がワタミに復帰した際に述べた「過去のご批判はすべて受け入れます。その上で、これからの私とワタミを見てください」という発言も引用している。

 この二つの発言の間には矛盾があるように思われるが、「ブラック企業問題」を研究してきた筆者としては、渡邉氏の経営者としての「過去の姿」には、反省すべき点は数多いように思われる。

 そこで次に、渡辺美樹氏が反省すべき発言や言動を改めて振り返り、彼が受け入れるべき批判について改めて考えてみたい。

武勇伝のように語られたパワハラ
そもそもワタミでは、創業者である渡辺氏が、労働者に対して非常に厳しく接していたことを、著書や映像、インタビューなどで、隠すわけでもなく積極的に公開していた。

 社訓に示された「24時間365日死ぬまで働け」という言葉ばかりが有名だが、それだけではない。本人が語り、活字になっているものだけでも次のようなものがある。

「ビルの8階とか9階で会議をしているとき、「いますぐ、ここから飛び降りろ!」と平気で言います。」

(『プレジデント』2010年9月13日号)

「アルバイトとして雇った部下がいましてね。あのころは僕、そいつの頭を何度もスリッパでひっぱたいていました。それでも十数年はついてきてくれましたが、8年ほど前に辞表を出したんです。追い込まれて、潰れたわけです。」

(『プレジデント』2010年9月13日号)

「別に強制している訳じゃない。営業12時間の内メシを食える店長は二流」「命がけで全部のお客様をみていたら、命がけで全部のお客様を気にしてたら、ものなんか口に入るわけない、水くらいですよ。」

(ワタミのYouTube(現在は削除) ワタミグループの理念研修会にて発言)

 このような発言内容が事実であるならば、厚生労働省が定める「パワーハラスメント」に該当することは明らかであり、民事上の損害賠償責任を負うと考えられる。

 つまり、渡邉氏は自らが加害者となって、労働者を精神的に追い込んできたことを、赤裸々に「証言」してきたのである。

 さらに、渡邉氏は自ら次のようにも述べている。

「困難がない事業なんてありません…社員には頭を下げて、「ごめん。今月、給料はゼロです」と言ったことが何度もあります。それはほんのちょっとの違いなんです。心が負けているか、負けていないか」

(『日経ビジネス』2011年11月29日掲載、現在はリンク切れ)

「「利益も売上げもどうでもいい」と毎月ビデオを通してメッセージしているんです。アルバイトはそのビデオを見て感想を書かないと給料がもらえない仕組みになってます」

(『プレジテント』2006年1月30日号)

 1時間の休憩を取らせないことや、給料未払いは労働基準法違反である。それを平然と公の場で宣言しているのは、改めて驚くべきことだ。

 これらの事実は十分に「反省」すべきないようであるし、それをあたかも「武勇伝」のように公言する経営姿勢は、労働者から見て「ブラック」と批判されても当然だと言えよう。

過労自死事件の批判に対して、「ブラックって言われたら一人前」
渡邉氏は、自社で過労自殺事件を引き起こしたことをきっかけに、「ブラック企業」と世間から呼ばれるようになって以後も、「開き直り」ともとれる発言を繰り返してきた。

 2008年、ワタミフードサービスに入社2ヶ月の新入社員が140時間の残業の末に、「体が痛いです。体が辛いです。気持ちが沈みます」「誰か助けてください」と手帳に走り書きして、精神疾患で過労自死し、労災認定されている(労災認定後も法的責任を認めようとしない会社に対して、遺族が2013年に提訴をしたが、2015年に和解になっている)。

 このことに対する批判が相次ぐ中で、渡辺氏は自身のツイッター上などで、自社には責任がなく、亡くなった労働者の方に問題があったかのような発言を繰り返したのである。

「労務管理できていなかったとの認識は、ありません」

(渡邉美樹氏のツイート 2012年2月21日)

「(過労自死した社員を)なぜ採用したのか。なぜ入社1カ月の研修中に適性、不適性を見極められなかったのか」

(『朝日新聞』2013年8月2日)

「「ワタミは僕が今まで29年間つくってきた会社、もう爪の先まで自分のものです。巷では『ブラック企業』と言われているが、本当にふざけやがってと思っている」

(『週刊文春』2013年6月6日号)

 これらは過労自殺事件を引き起こした加害企業の代表が発言した内容としては、非常に不適切なもので、社会から「ブラック」と評されるのも当然だ。

 また、次のような発言からは、労働者の「一人」の人権や命に対し、あまりにも軽んじていると評価せざるを得ないように思われる。

「たまたま一つの事故を取り上げて「ブラック」だと責めるならば、日本には千・万の「ブラック企業」があるわけですよ」

(『池上彰の参院選ライブ』2013年7月21日放送)

「ブラックって言われたら一人前」

(神谷宗幣氏のYouTube 2013年7月13日配信)

 ワタミという会社にとっては、「たまたま一つの事故」に過ぎないといいたいのだろうが、亡くなった当人や家族からすれば「たまたま一つの事故」ではない。一人の人間が自社でなくなり、労働災害が認定されたことの「重み」を渡邉氏は理解するべきだろう。

 このように、渡邉氏は過労自死事件や様々な発言に基づくブラック企業批判を受けておきながら、そのことに対しては、冒頭で述べたように、今回も反省していないようなのである。

賃金未払いを正当化する思想の数々
さらに、ワタミが過労死を引き起こしたり、「ブラック企業」だと呼ばれる原因となったと考えられる渡邉氏の「経営理念」についても振り返っていこう。

 渡邉氏は労働者が給与のために働いたり、労働時間を守って働いたり、休んだリすることを普段から否定していた。

「お金を自分で払っても、給料ゼロでもワタミで働きたい。みんながそう思ってくれるような…組織にして行きたいのです」

(「理念集」)

「「仕事は、成し遂げるもの」と思うならば、「勤務時間そのもの」に捉われることなく仕事をします。なぜなら、「成し遂げる」ことが「仕事の終わり」であり「所定時間働く」ことが「仕事の終わり」ではないから」

(入社内定者に配布される人材開発部作成の「質疑応答」)

 (過労死遺族の被害の話を聞いて)「お話を聞いていますと、週休7日が人間にとって幸せなのかと聞こえてきます」(2018年3月13日の参議院予算委員会の中央公聴会)

「とにかく残業を減らせというのは何か違うと思いますね。」

(「プレジデント」2013年12月30日号)

 過労自死事件も、このように労働者の権利を不当に貶めるような思想の社内風土のもとに起きたものであると考えられる。こうした思想を徹底的に改めなければ、ブラック企業から立ち直ったとは言えないのではないだろうか。

筆者の批判に対して法的措置をとるという脅迫状を送ってきたワタミ
最後に、もう一つエピソードを付け加えておこう。筆者はベストセラーとなった著書『ブラック企業』をはじめとする執筆活動で、ワタミの問題点を指摘してきたが、これについてワタミから「脅し」を受けたことがある。

 2013年5月に、ワタミ株式会社は、筆者に「通告書」と題した内容証明郵便を送りつけ、「5日以内に…謝罪文を提出され度く通告します。万一不履行の場合は法的措置に及ぶ所存につき申し添えます」と脅してきたのである。

 上に見る渡邉氏自身の発言や過労死事件の事実に基づく言論活動に対して、5日以内の謝罪文を出さなければ法的措置に及ぶというのである。

 このように、ワタミは自社の労働者の権利を侵害する思想を発信するだけだけでなく、自分たちの労働条件を批判する者に対してまで、強硬な対応をしてきた(実際には筆者は謝罪文など出さなかったが、法的措置は何ら取られなかった)。

 このことに対してむしろ筆者が謝罪をほしいところだが、いまだに謝罪や撤回の意思表示はない。つまり、本稿で指摘してきたような「事実」に対しては、渡邉氏は反省していないということのようなのだ。

 ワタミがブラック企業からホワイト企業に変わったと社会的に認識されるには、形式だけの「ホワイト企業」を誇示するのではなく、きちんと過去のブラック企業批判や過労死事件に向き合い、それらを根本的に否定することが不可欠だろう。

今野晴貴
NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
 

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4月から土曜保育がなくなる? 保育所が直面する「深刻すぎる問題」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/70003
小林美希 2020/01/25(土) 7:01配信 現代ビジネス

写真:現代ビジネス

■土曜保育がなくなる?

 「え? そんなことしたら、土曜保育がなくなるのでは?」

 私立の認可保育所の園長たちが口を揃えた。それというのも、近く開催される内閣府の子ども・子育て会議で土曜保育の運営費用の変更が了承される見通しで、今年の4月から土曜保育が縮小される方向にあるからだ。

役所があえて教えない、申請すれば「もらえるお金・戻ってくるお金」

 関係者によれば、「保育士が足りないなかでこれ以上の利用者が増えれば共倒れになる」と、少なくとも半年ほど前から土曜保育の縮小に向けた根回しが行われていたという。

 2015年度に子ども・子育て支援新制度が始まって5年。保育所の運営費用の算出根拠となる「公定価格」の見直しが検討されており、2020年4月から改訂される。

 現在、公定価格のなかには土曜保育分も費用が含まれており、「常態的に土曜を閉所する場合」は「減算」され収入が減る一方で、土曜保育が月1回でも全て実施しても同じ運営費用が保育所に支払われている。

 現在、土曜の利用希望があるのにもかかわらず閉所している場合は市町村からの指導が入る。保育所の都合で半日しか開所しない、隔週で開所する場合は減額調整が行われる。利用希望ニーズに応じて必要な時間で開所する場合や他の保育所と合同保育を実施している場合、減額調整は行われない。

 国の調査では、2018年3月時点で土曜保育をせず減算されている認可保育所は全国で73ヵ所。認定こども園で175ヵ所、家庭的保育で572ヵ所、小規模保育で180ヵ所。実施回数が違うのに同じ収入が入るのでは不公平が生じるため、国は実施回数に比例した公定価格の算定に変更しようとしている。

 そうなった場合、懸念されるのは月に少ない回数で土曜保育を実施している保育所が「だったらいっそ土曜はやめてしまおう」となることだ。

 現在、保育士の求人情報を見れば「土日祝日は休み」「完全週休二日制」という言葉が並ぶ。いかに条件をよく見せるか、保育士争奪戦のなかでは、休みが多く見えるほうが経営側にとって都合がいい。

■“保護者いじめ”も起きている

 ある保育経営コンサルタントは、「この数年、国も自治体も世論としても保育士の処遇改善をしなければならず、経営側は保育士の賃金を上げてきた。保育士不足も重なり、大手が保育士の初任給を25万円に設定するなど、初任給合戦にもなった。一方の経営者の本音はいかにして人件費などのコストを削って利益を残すか。土曜保育を行わないことで労働日数を短くし、その分を賃下げするという良い口実にしたいのではないか」と見ている。

 そして、北関東のある地域では「土曜に保育をやらないと“保護者の質”が上がる」と囁かれている。

 子育てに理解があり余裕のある企業であれば、土日の勤務は免除され、育児短時間勤務を導入していることが多い。いわゆる平日の9時から17時で働くことができるのは大企業や公務員など比較的恵まれた職場環境にある保護者というわけだ。

 ある保育士は「土曜に勤務がない子育てに理解がある会社の多くは給与も高い。保護者は教育に熱心で習い事に目が向いているからか、保育所には割り切って預けてお迎え時間も早く、クレームも少ない。保育士としても楽だ」と語る。

 保護者にとっても保育士にとってもワークライフバランスは大事だが、それを盾にしてまるで“保護者いじめ”のような実態もある。

 東京近郊のある地域では、農家も多く3世代同居も多い。その地域にある私立の認可保育所に子どもを預ける女性(30代半ば)は、通勤に1時間以上かかるため、入園前に延長保育を実施している保育園を調べたうえで希望した。

 育休明け直後は短時間勤務もできたが、半年もすると「残業できないならパートになるか子育てに専念したら」と会社から宣告された。

 預け先の保育所では母親がパート勤務というケースが多く、夕方17時頃にはお迎えラッシュが始まる。

 延長保育になるギリギリ前の18時に女性がお迎えにいくと園内の電気は消され、子どもがポツンと一人。保育士たちは帰り支度を始めている。

 女性は、「本当は延長保育を使いたいが、実際に使おうとすると園からは『他のご家庭にはご理解とご協力をお願いしているので、1家庭のためだけに保育士を置いて特別扱いはできない』と言われて延長保育ですら使えない。土曜はなおさら。このままではクビになる」と困惑している。

■土日祝日の保育ニーズ

 都内のある保育園でも、ある時期から土曜保育を利用するには両親ともに都度、就労証明を出すよう求められるようになり、“水際作戦”が図られた。

 すると、ネグレクトの傾向が強い保護者が勤務日でない日に預けることができず、子どもは家から追い出されて近隣の家に朝から晩まで入り浸るようになった。

 別の私立保育所では、近隣の公立保育所に子どもを預けているにもかかわらず、土曜の一時保育の利用者がいる。

 園長が預けに来た母親に理由を聞くと、「親が高熱を出しても会社に行っていなければダメ。私が仕事で夫が休みでも、夫は子どもを1人だけならみることができるが、子ども2人を同時に任せるとパニックになって虐待が心配。でも、うちの保育園では『お父さんが休みなら預かれない』と言われる。だったら他に預けるしかない」と話したという。

 これまでの取材からも、こうした例は決して珍しくはなく、実際には現場の運用面で意図的に「利用させない」ように園側が保護者に圧力をかけていることも少なくないが、国は「土日は平日より利用者が少ない」と、縮小を図ろうとしている。

 現在、雇用の受け皿はどこにあるのかを見れば、土日祝日に保育ニーズがあるのは明らかだ。

 文部科学省の「学校基本調査」の大卒の就職状況を見ると、2019年3月卒業では、男性の就職先で多い産業の1位が卸売・小売業(15/9%)、2位が製造業(14.7%)、3位が情報通信業(12.2%)となる。女性は1位が医療・福祉(19.3%)、2位が卸売・小売業(14.7%)、3位が製造業(9.5%)だ。

 この10年、20年と就職状況は似た傾向にあり、いずれも、土日祝日や早朝・夜間にニーズのある仕事だ。

 こうしたなかで、土曜保育が3人に1人という利用状況は過少で、水際作戦のほか、土日に働けないのであれば出産を機にやめざるを得なかった、正社員から非正規にならざるを得なかったなどの事情も影響しているはずだ。

■土曜も女性が“ワンオペ育児”

 そして、従前より公的な保育所ではなく認可外の保育所が土日祝日をカバーしている現実があることを忘れてはならない。

 厚生労働省「認可外保育施設の現状とりまとめ」(2017年度)によれば、ベビーホテルの21%が24時間保育を実施。20時から22時の夜間保育を23%が行い、7%は宿泊も行っている。

 認可外保育となる企業主導型保育所では、2017年3月30日時点で、7時以前の早朝保育の実施率が22.7%、22時以降の夜間保育を10.6%が、日曜開所を29.4%が実施している。本来は、認可保育所が柔軟な運営をすべきだ。

 内閣府は、「公定価格に関する検討事項について」(2019年11月12日)という資料のなかで、総務省の「社会生活基本調査」では、平日や土日に何をしているか尋ねており、同調査から土曜日に仕事をする人の割合を2016年度で32.0%としている。

 しかし、この調査を年齢階級別に細かく見ると、子育て世代に当たる30〜40代の男性が土曜に仕事をしている率は他の年齢層より高く約5割となる。女性の場合は30〜40代で仕事の率が減少し、育児をしている率が高くなる。ここに、男女の性役割分担の慣習が現れており、女性が土曜も“ワンオペ育児”状態である可能性が窺える。

 保育所に2人子どもを預けている、ある共働き夫婦は「平日は子どもを預けてお迎えにいき、夕食、風呂、寝貸し付けだけで精いっぱい。延長保育を頼んでも終わらない仕事は持ち帰って夜中にこなし、常に睡眠不足。土日は溜まった洗濯や買い出しで、ゆっくり子どもと遊んであげるような状況ではない。疲れ切った状態できょうだい喧嘩が始まると、もう、にっちもさっちもいかない。土日にどちらかが仕事だと、子どもにテレビやDVDを見せておとなしくさせて家事をこなすしかない」と嘆く。

 毎日が必死。子どもに「早く、早く」と急かして怒ってしまい、手が出てしまうこともあった。

 そうした姿を目にして心配した園長から、「休みの日でも土曜に預けたっていいんだから、用事を済ませてリフレッシュして子どもと向き合ったほうがいい」と提案されて救われたという。

 夫婦は「虐待は他人事でないと思った。頼れる保育園があってよかった」と心境を語る。

■保育所の重要な役割

 土曜保育で見落としていけないのは、保育所には虐待の早期発見と予防という役割が位置付けられていることだ。ただ子どもを預かるだけ、ただ保育を実施するだけが保育所ではない。

 2018年4月から施行された改訂「保育所保育指針」では、保護者支援を強くうたっている。指針には、以下のようなことが盛り込まれている。

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「保護者の気持ちを受け止め、相互の信頼関係を基本に、保護者の自己決定を尊重すること」
「保護者の就労と子育ての両立等を支援するため、保護者の多様化した保育の需要に応じ、病児保育事業など多様な事業を実施する場合には、保護者の状況に配慮するとともに、子どもの福祉が尊重されるよう努め、子どもの生活の連続性を考慮すること」
「保護者に育児不安等が見られる場合には、保護者の希望に応じて個別の支援を行うよう努めること」
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 総務省の行政評価局が2012年1月に「児童虐待の防止等に関する政策評価」を公表しており、土日の体制作りの重要性を指摘している。

 児童虐待防止法により、児童相談所と市町村は児童虐待について通告を受けた時は、児童の安全確認を行わなければならず、通告をうけてから48時間以内に実施することが望ましいとされている。

 総務省が2007年度から2009年度の間の通告受付日から安全確認までに要した日数について、40児童相談所と39市町村を抽出調査した結果、9割は2日以内に安全確認が実施されていた。

 しかし、安全確認に3日以上かかったのは、受付日が月曜から木曜までは10%未満であるのに対して、金曜で13.9%、土曜で18.1%、日曜で11.8%と高くなっていたことから、土日の体制確保が必要だとしている。これは、保育所にも通じるものがあるのではないか。

■土曜に働きたい人もいる

 子育て真っ最中や介護中の保育士であれば、土曜勤務は避けたいところだろうが、保育士が必ずしも全員が土曜勤務を嫌っているわけではない。

 保育士に取材をしていくと、「土曜のほうがゆったりとした保育ができる」「土曜は異年齢保育になるので面白い」「土曜は子どもの数が少ないため、普段できない書類業務を片付けることができる」という声もある。

 20代で独身の保育士は「土日はどこも混むから平日に代休をもらって遊びにでかけたほうが得する」、60代の保育士にいたっては「定年退職した夫といつも一緒にいるのも息が詰まるから土曜に働いているほうがいい」と話した。

 幅広い年齢層、家庭状況の保育士が勤められるよう、むしろ、土曜保育に加算をつけるなどして、土曜出勤のインセンティブがつけ人手を確保することが求められるのではないか。

 経験の浅い保育士からすると、社会全体を見る余裕がなく、保護者が休みの日に子どもを預かることを単純に「ズルい」と思えてしまうケースもあるかもしれない。しかし、長く親子を支援してきたような60〜70代の園長や親子関係や社会問題に敏感な保育者は気づく。

 「その子にとって何が最善かを考えた時、必ずしも親と一緒にいることではない。せめて保育園で楽しく過ごし、生活リズムを整えてあげるのが私たちの役割。親が遊んでいるように見えたとしても、保育園に子どもを預けること自体がSOSのサイン。それを受け止めて、一緒に何ができるか考えていくのが保育者だ」

 そもそも保育は、2015年度に子ども子育て新制度になってから「保育の必要性」によって預けることができるようになった。そして、新たに「虐待やDVのおそれがあること」も「保育を必要とする事由」に加えられたのだ。

 具体的な運営・利用の優先順位・制限を付ける権限は市町村に権限があるものの、例えば東京都では、「保育は1年を通じて提供するもの。土曜だけ、あるいは保護者の休みの日だけ切り取って、その日は預からないというものではない」としている。

 土曜保育の公定価格の変更は、財源が違うとはいえ無償化にかかる予算の帳尻合わせの一つになってはいないか。保育所側が安易に土曜保育から親子を締め出さすことが起こらないよう、公定価格の変更や運用には配慮が必要だ。
小林 美希(ジャーナリスト)

 

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[37]年越し大人食堂に見る2020年の貧困 ワーキングプア型の貧困への対応策は?
https://webronza.asahi.com/national/articles/2020012100001.html?page=1
稲葉剛 立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科特任准教授 2020年01月23日

 2020年、オリンピックイヤーが幕を開けた。

 だが、この年末年始、経済的な不安を抱えたまま、年を越した人は少なくない。そうした大人たちを支えるため、東京では初めての試みとして「年越し大人食堂」が開催された。

 「年越し大人食堂」は、2019年12月31日と2020年1月4日の2回、東京・新宿で開催された。「年越し大人食堂」開催に至る経緯や、この企画のコンセプトについては、先月書いた記事をご一読いただきたい。

[36]「無事に年が越せる」安心をすべての人に〜「年越し大人食堂」開催へ(稲葉剛)
https://webronza.asahi.com/national/articles/2019122200002.html

■約80人が利用、29人に緊急宿泊費を提供

〔写真〕調理をする枝元なほみさん

 大みそかに開催された1回目の食堂では38人、年明け4日に開催された2回目には64人が来場した。2回とも来た人を除くと、実数で約80人が利用したことになる。

 2日とも、調理は料理研究家の枝元なほみさんが担当し、来場者に昼食と夕食が提供された。

 31日には、おこわおむすび、白菜と豚肉のスープ、黒豆、かぼちゃプリンなどがふるまわれ、4日は、鹿肉や猪肉を使ったカレー、お雑煮、かぼちゃプリンなどが提供された。食材の多くは、枝元さんの知り合いの農家や、協力団体のパルシステム連合会、有限会社生活アートクラブなどから無償提供され、寄付で集まったみかんやりんご等の果物やお菓子も提供された。

〔写真〕「年越し大人食堂」で出されたカレー

 希望者には、一般社団法人つくろい東京ファンドやNPO法人POSSEのスタッフによる生活や労働に関する相談もおこなった。2日間で相談を受けた人は計40人(重複を除く)。そのうち、「今晩から寝泊まりする場所がない」という状況にある29人に「東京アンブレラ基金」から1泊あたり3000円の緊急宿泊費が提供された。

 大みそかに緊急宿泊支援を受けた人の中には、普段は働きながらネットカフェに寝泊まりをしているものの、年末に仕事が切れたことにより、所持金が尽き、「今夜からのネットカフェ代が払えない」という若年の男性もいた。

 私は長年、路上生活者の支援を続けてきたが、毎年、年末年始になると炊き出しの現場で、彼のような状況の若者に出会うのが年中行事のようになっていた。今回の取り組みの一つの目的は、こうした人たちが路上生活になる前の段階で、支援の手を届けることであったので、一定の役割を果たすことができたのではないかと考えている。

■来場者の半数が安定した住まいがない状態

 「年越し大人食堂」では、来場者全員に簡単なアンケートを実施した。そのアンケート結果をもとに、どのような人たちが来ていたのか、見てみたい。

 12月31日に来場してアンケートに回答した38人。これに、1月4日に来場してアンケートに答えた人(64人)のうち、「初参加」と回答した40人を加えると、2日間の来場者の実数は少なくとも78人いたことになる(4日に「初参加」か「2回目」か、回答しなかった人が5人いる)。

 この78人の内訳は以下の通りである。

 性別は、男性は61人(78.2%)、女性は17人(21.8%)であった。

 年齢は、20代5人(6.4%)、30代15人(19.2%)、40代18人(23.1%)、50代22人(28.2%)、60代17人(21.8%)、70代1人(1.3%)と多様であった。

 路上生活者支援の炊き出しに集まる人は、ほとんど全員が男性なので、それに比べると、女性の割合は多いと言える。また、年齢層も幅広いと言えよう。

 「年越し大人食堂」の情報を得たルートとしては、「ネット・SNS」が最も多く37人(47.4%)、次いで「新聞」が20人(25.6%)と続いた。前者は幅広い世代にわたっており、後者は50代以上が多かった。会場で見たところ、スマートフォンを持っている人も少なくなかったようである。生活困窮者支援の団体や家族・知人から情報を得たという人も11人ずつ(14.1%)いた。

 住まいの状況に関する質問にはさまざまな回答があったが、ネットカフェや路上、カプセルホテル、簡易宿泊所など、安定した住まいがない状態にあると見られる人が39人(50.0%)いた。民間の賃貸住宅に住んでいると答えた人は27人(34.6%)だった。

 月収についての質問には44人が回答した。その内訳は、0〜5万円が15人(34.1%)、5〜10万円が7人(15.9%)、10〜15万円が11人(25.0%)、15〜20万円が6人(13.6%)で、20万円以上は5人(11.4%)しかいなかった。

 仕事については、失業中という人が約半数を占めた。残りの多くは非正規雇用に就いている様子だった。

■「初めてお雑煮を食べました」、「部屋の中で食事が出来る事が嬉しい」

 「年越し大人食堂」に参加した感想には、以下のような声が寄せられた。

・参加者もボランティアの方も含めてやさしい雰囲気のいい人が多くてとても居心地が良かった。(20代男性)

・頑張らなければと感じました。心温まりました。料理の一つ一つがとても手が込んでいて美味しいです。(50代男性)

・美味しかったです。特にお雑煮が美味しかった。初めてお雑煮を食べました。フルーツも沢山(ぶどう、みかん、りんご、梨)あって嬉しかったです。(30代女性)

・カレーは大変おいしく頂きました。その他煮物類も美味しくて何度かおかわりして頂きました 雑煮が美味しく何度もおかわりしました。(60代男性)

・美味しかった。やっぱり部屋の中で食事が出来る事が嬉しい。(50代男性)

・役所ではよく教えてもらえなかった事を、長い時間かけて丁寧にお話聞いていただけました。安心しました。ありがとうございます。(40代女性)

 料理が美味しかったという感想が多い一方、参加人数に比べて会場が狭かったので、広い会場にしてほしいという声も散見された。これは今後の課題としたい。

 アンケートの自由記述欄には、以下のような切実な声が多数書き込まれた。

・週一日で良いからゆっくり長時間眠るのが夢です。(50代男性)

・今は、住居を確保して、仕事を見つけて普通の生活をしたいアパートに入りたいたいです。(30代男性)

・一応、年金受給者ですが、年金だけでは生活が苦しい。住居がないので仕事や生活保護の申請すら出来ない現況。今は住居を何とか可能に例えば厚生施設等などに入れたならばうれしく思います。(60代男性)

・上京した際、住居(アパート探し、緊急連絡人、連帯保証人)探しが一番ハードルが高いと感じています。(40代男性)

・住居が借りられない。お金のことでこまっている。むし歯ができたが、歯医者に行けない。くつがボロボロになったが買えない。(60代男性)

・派遣事務で有期雇用業務を転々としているので、まぁギリギリです。今すぐ住まいにも生活にも困っているという状態ではないですが、定職には就いていない。そういう存在でも恐らく大人食堂を利用しようとはしない人達でも、茶飲み話の中で相談できればいいのかと。(50代女性)

・仕事始めが1月8日となり、それまではネットカフェ生活となります。年末年始も支援して頂いてサバイバルできました。(60代男性)

■生活保護基準以下の生活をしている人が7割

 収入や仕事の状況を踏まえると、「年越し大人食堂」に集まった人のうち、7割程度の人が生活保護基準以下の生活をしていると見られる。

 特に生活相談を経て、「東京アンブレラ基金」から緊急宿泊のための支援金を渡した29人は、ほぼ全員が生活保護に該当する経済状況にあると考えられる。

 私たち支援スタッフは、生活相談の場において、生活に困ったら誰でも使える制度として生活保護制度があることを説明している。しかし、このうち年明けに生活保護の申請に至った人は、たった7人しかいなかった。

 「ホームレス自立支援センター」等、生活保護以外の行政施策につながった人を加えても、公的支援につながった人は9人にとどまった。

 残りの20人は、「年明けに寮付きの仕事が決まっている」、「年末年始さえしのげれば、自分でまた日雇いの仕事を探すから大丈夫」等と言って、私たちが公的な支援策の利用を勧めても、首を縦に振らなかったのである。

 このことは、2020年現在の生活困窮者をめぐる状況を象徴していると私は考えている。
「派遣切り」型の貧困から「ワーキングプア」型貧困へ

 リーマンショックが発生した2008年から数年間、働ける世代の労働者が失業をして、生活保護を申請するケースが増えた時期があった。しかし、近年は人手不足が叫ばれる中、失業率は低下傾向にある。

 ここ数年は、かつての「派遣切り」のように、これまで安定した仕事をしていた労働者が、仕事も住まいも一気に失って、生活に困窮するというパターンは少なくなっている。だが、「年越し大人食堂」に来た人たちのように、不安定で細切れの仕事を断続的に続けざるをえず、安定した住まいを確保できない状況にある人は逆に増えていると見られる。

 「派遣切り」型の貧困から「ワーキングプア」型の貧困へと、貧困のかたちが変わってきているのだ。

 この違いは社会保障制度の利用にも影響を与えている。

 「派遣切り」型の貧困により収入がゼロになった場合、次の仕事を見つけるまでの間、生活保護を一時的に利用しようという動機は働きやすくなる。一般に生活保護を申請することに対する心理的ハードルは高いものがあるが、他に選択肢がないなら仕方がないと、申請に踏み切った人を私は多数知っている。

 しかし、「ワーキングプア」型の貧困では、仕事が一時的に切れても、「すぐに次が見つかるだろう」と思ってしまうので、心理的なハードルを乗り越えてまで生活保護を申請しようという動機はあまり働かなくなる。

 もちろん、仕事をしていても、その収入が生活保護水準を下回り、資産もほとんどない状況にあれば、生活保護を利用することは可能である。私たちはそうした制度の使い方についても説明をしているが、病気やケガ等で全く働けないという状況にならない限り、生活保護は避けたいと語る人は少なくない。

■求められる住宅政策の転換

 では、どういう制度なら使いやすいのだろうか。「年越し大人食堂」の場でも数人に意見を聴いてみたが、「生活費は自分で工面するので、住宅費だけ援助してほしい」、「若者も入れる公営住宅があれば」という声があった。

 「ワーキングプア」型の貧困に対応するためには、生活保護制度を使いやすくすると同時に、家賃補助制度の創設や公営住宅の拡充など、住宅政策の転換が求められる。

 また、労働相談では飲食店で働いたのにほとんど給与をもらえなかったという人もいた。最低賃金を上げると同時に、こうした劣悪な労働条件を改善することも進める必要がある。

 この年末年始に開催された「年越し大人食堂」は、2020年の日本の貧困の実像を映し出した。今年は東京オリンピック・パラリンピックの開催に伴うお祭りムードにより、国内の貧困問題への関心は薄まる可能性が高いが、決して「大人の貧困」はなくなっていない、ということを粘り強くアピールしていきたい。

 

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(社説)今年の春闘 着実な賃上げが前提だ
https://www.asahi.com/articles/DA3S14338541.html?iref=pc_ss_date
朝日新聞 2020年1月24日 5時00分

 今年の春闘が本格化する。足元の景気は不透明さが増しているが、過去数年の賃上げの流れを断ち切ることなく、着実に積み重ねていく必要がある。

 労働組合の中央組織である連合は先月の中央委員会で2020年春闘に臨む方針を決めた。

 (1)月例賃金のベースアップ2%程度の「底上げ」(2)企業規模や雇用形態を問わず一定の賃金水準を目指す「格差是正」(3)企業内で最低賃金協定を結び水準を引き上げる「底支え」――といった要求を掲げている。

 対する経団連は今週発表した報告書で、「賃金引き上げのモメンタム(勢い)の維持」に向け、各社の実情に応じて前向きに検討するとの基本姿勢を表明。賃上げへの「社会的期待を考慮」とする一方で、世界経済の減速を背景に「企業収益が下押しされる懸念がある」と指摘した。昨年の会長名の序文にあった「賃金引き上げのモメンタムの維持・強化」が、今年は「モメンタムの継続」になるなど、慎重姿勢もにじむ。

 確かに、米中貿易摩擦の長期化や、消費税率引き上げ、相次ぐ自然災害などで昨年後半来、景気は明らかに弱含んでいる。現時点では先行きどの程度回復するかも、はっきりしない。

 とはいえ、平均的にみれば企業の売上高や利益は高い水準にある。ここ数年の好業績で手元の現預金も手厚くなり、財務内容はおおむね健全だ。設備投資も底堅く推移している。

 過去数年、賃上げ傾向が続いたが、物価も上昇基調だ。実質賃金は伸び悩み、労働生産性の上昇に追いついていないとの分析もある。景気回復の成果が、働き手に十分に還元されたとはいえない。

 着実な賃上げは消費を支え、内需が安定すれば景気後退への歯止めになる。企業にとっても人への投資は今後の成長に欠かせないはずだ。

 経済界首脳は年始の記者会見で、五輪後の景気については政府の経済対策もあり「反動減の心配はない」と口をそろえた。一方で、賃上げを渋るようなことがあれば、経済界の言動への信頼は損なわれるだろう。

 経団連の今回の報告書は、新卒一括採用や長期・終身雇用、年功賃金などを特徴とする「日本型雇用システム」が転換期を迎えていることを強調した。経済環境や技術の変化が、雇用のあり方にも影響するのは否めない。個別の企業はこれまでも試行錯誤を続けている。

 ただ、そうした「転換」を名目に、働き手への分配や処遇を軽んじることは許されない。組合側が掲げる「底上げ」や「格差是正」と誠実に向き合うことが、企業側に求められている。
 

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2020年01月22日
経団連「2020年版 経営労働政策特別委員会報告」に対する連合見解
日本労働組合総連合会

 経団連は1月21日、「2020年版 経営労働政策特別委員会報告 −Society 5.0時代を切り拓くエンゲージメントと価値創造力の向上」(以下「報告」)を発表した。
「報告」に対する連合見解を以下のとおり表明する。

1.全般に対する見解
(1)日本全体の問題に関わる危機感が感じられない
「報告」からは、残念ながら日本全体の問題に関わる危機感が感じられない。わが国は全ての問題において、持てる力を発揮するどころか、どんどんと「しぼんでいく国」になってしまっているのではないだろうか。深刻なのは少子・高齢化の問題だけではない。わが国における約20年間にもわたる格差拡大は、社会全体の貧困化をもたらし、世界の流れとの隔絶とも相まって抜き差しならない状況になっている。賃金水準も先進諸国に比して圧倒的に劣後している。大企業と中小企業の格差を拡げ続け、低処遇で不安定な雇用の姿を増大させ続けてきた20年でもある。一方で、雇用の世界からはじき出された無業者や引きこもりが増加し、他方で、深刻な人手不足に慌てて外国人労働者に門戸を開いたものの、日本を「選んでもらえない」実態も露わになっている。
税財政の問題も同様である。根本的なところにフタをしたままで、目先の支出削減策が毎年繰り返されるばかりである。雇用や生活保障のセーフティネット等、欧州先進国の状況や先進事例とは無縁のままに行き詰っているのがわが国の実態ではないか。「報告」では、こうした問題意識にあまり触れられておらず、日本全体の課題がどこまで視野に入っているのか、疑問を持たざるを得ない。

(2)大企業の立場に偏った問題意識が大半を占めている
20年間にわたるわが国の格差拡大のなかで、中小企業やいわゆる非正規と言われる雇用形態に関わる諸課題は置き去りにされたままである。「報告」では、それらの課題克服に対する問題意識が決定的に弱く、大企業の立場に偏った問題意識が大半を占めている。財界総本山ともいわれる経団連としての務めは、これらの問題に対して注力をし、世に発信をすることなのではないのだろうか。
そもそも中小企業や非正規と言われる雇用形態は、賃金が上がらない仕組みに埋没させられているのであり、そのことがどれだけ負の状況をもたらし続けてきたと認識しているのか。一人ひとりの働き甲斐を阻害し、生活力をそぎ落とし、ひいては日本経済にダメージを与えてきたことへの振り返りが全く見られない。
「報告」は、労働組合の組織率の減少と同一業種の企業の間で経営環境や収益の動向に大きな差が生じている事を背景に、「いわゆる『春闘』が主導してきた業種横並びによる集団的賃金交渉は、実態に合わなくなっている」としているが、そもそも横並びを崩してこれらの問題を招来してきたのは経営側ではないのか。それらに目を覆ったままでは、格差是正に向けた中小企業の10,500円以上の要求水準に対する評価を語る資格はないと言わざるを得ない。

(3)「転換期を迎えている日本型雇用システム」とはどこに向かっての言辞か
「報告」には「転換期を迎えている日本型雇用システム」とあるが、建設的な労使関係のある企業では、いわゆる正社員の採用・育成については、すでに労使の知恵と工夫でかなりの改善が積み重ねられてきている。一方で、中小・零細企業や正社員以外の様々な雇用形態で働く労働者においては、そもそも議論の対象となるような雇用システムが確立していないケースがほとんどである。日本の企業の99%は中小企業であり、いわゆる正社員以外で働く労働者が雇用労働者の4割を占める中、「転換期を迎えている日本型雇用システム」という文言自体がミスリーディングと言わざるを得ない。
一方で大企業においても、外国人労働者を含めた高度人材の起用が不十分に思われるが、それは単に経営側の対応に踏み込みが足りないからであって、労使関係に責任を押し付けられるような事柄とは次元が異なると考える。
「報告」は、日本全体の雇用のセーフティネット構築に意を払うことなく、経営サイドの都合のみが優先されていると言わざるを得ない。わが国が「しぼんでいく国」であるとの危機意識のもとに、内向き志向を脱却することが不可欠である。業種によって雇用情勢にかなりばらつきがあるなかで、今後の外国人労働者の受け入れ対応や、AIの導入見込みやその影響等を見通しながら、分野ごと・業種ごとに雇用の将来像を描いておくことが不可欠である。多くの労働者を雇用する責任ある立場として、そのことこそ強調すべきである。

2.連合「2020春季生活闘争方針」への見解について
(1)企業内最低賃金協定の締結は「個別労使の自主性に委ねるべき」としていることについて
「報告」では、連合の基本的な認識については「共有しているといえる」とし、「様々な賃金要求指標を示した上で、具体的な要求水準の決定を産業別労働組合などの構成組織に委ねることは、実態に適った現実的な交渉の実現に寄与すると考える」としている。一方で、「底支え」の要求指標である「企業内最低賃金協定の締結」については、「協定締結の是非とその内容は、個別労使の自主性に委ねるべきである」としている。労使自治の原則においては、すべての要求項目の交渉が個別労使の自主性に委ねられているが、企業内最低賃金協定だけを特筆しているのは、第2章の5.(2)特定最低賃金にある「企業内最低賃金協定の影響は、締結した企業にとどまらない可能性があることに留意が必要」との考え方が背景にあるものと考える。まさに、企業内最低賃金協定の締結には、企業内で働くすべての労働者の生活の安心・安定および産業の公正基準を担保する役割があることを今一度認識した上で、真摯な交渉に臨むべきである。

3.2020年春季労使交渉・協議における経営側の基本スタンスに対する見解
(1)「多様な方法による賃金引上げ」だけでは、分配構造の転換にはつながらない
「報告」は、「『賃金引上げ』と・・『総合的な処遇改善』を車の両輪として位置付け、多様な選択肢の中から自社に適した方法・施策を検討・実施していくことが重要」とし、「その際、正社員と同様に、パートタイム・有期雇用社員についても、適正な利益配分とエンゲージメント向上の観点から検討していく必要がある」としている。具体的な方策としては、「『基本給』『諸手当』『賞与・一時金』の3つを柱に据えながら、各企業において、多種多様な方法による組み合わせを含めて議論」としているが、そもそもこうした手法がとれるのは大企業だけである。賞与・一時金は「大手を中心に」とあるとおり、中小企業やパートタイム・有期雇用社員には支給されないケースも多く、基本給において職務給や役割給などへの賃金項目の配分を厚くしても、賃金制度のないパートタイム・有期社員の賃金は引き上がらない。デジタル革新への対応やサプライチェーン全体の生産性向上を経営上の大きな課題とするならば、生み出した付加価値を大企業の中だけでなく、中小企業や様々な雇用形態で働く人も含めどのように分配すべきか、その手法についてこそ、経団連が示すべきである。

4.個別項目についての見解
(1)第1章 1.(2)Society 5.0時代にふさわしい労働時間制度
「報告」は、「企画業務型裁量労働制の対象業務を拡大する法改正を早期に実現するよう強く求めたい」「高度プロフェッショナル制度は、・・イノベーションの担い手である高度専門職の能力を最大限発揮させる上で有効であり、導入する企業の増加が期待される」としているが、企画業務型裁量労働制は、手段や時間配分など業務の遂行方法について労働者の裁量が真に認められる業務のみ対象とされるべきであり、対象業務の拡大は、長時間労働・過重労働につながるおそれがあり、行うべきではない。また、高度プロフェッショナル制度は、長時間労働を助長しかねずワーク・ライフ・バランスの実現も困難にする恐れがあり、本制度の導入には慎重を期すべきである。

(2)第1章 4.地域の中小企業の新たな取組み
「報告」は、中小企業について「日本経済や社会の牽引役として発展し、中小企業の充実こそが日本の強みとして競争力向上に大きく貢献してきた」「地域創生の担い手としての大きな役割が期待されている」と述べた上で、今後については「業界の枠を超えた地域の企業共通のプラットフォームの形成・活用などの様々な取組みが必要」「地域では新たな価値創造に向けて、工夫を凝らした様々な取組みが進められている。・・こうした事例は、他地域で応用できるものが多く、今後、行政機関や経済団体等が連携し横展開を進める必要がある」としている。連合としても中小企業の経営基盤の強化と地域の活性化に向けたつなぎ役として「連合プラットフォーム」を立ち上げ、様々な関係者との対話の場づくりを進めており、経団連にも積極的な参加を期待したい。

(3)第2章 1.働き方改革関連法への対応
「報告」は、2020年4月より適用が開始される中小企業への時間外労働の上限規制に対する早急な対応および、「同一労働同一賃金」の法施行に対応した体制整備の必要性を指摘しており、法令遵守のための取り組みの徹底を求める連合の考え方と認識は同じである。働き方改革が真に職場に定着したものとなるよう、職場慣行や商慣行の見直しを含め、労使やサプライチェーンが一体となって取り組むことが必要である。

(4)第2章 2.ハラスメントをめぐる法改正と企業の対応
「報告」は、多様性の尊重を掲げつつも、性的指向・性自認に関するハラスメントおよび望まぬ暴露であるいわゆるアウティングもパワーハラスメントになり得ることについて全く触れておらず、その姿勢に疑問を呈さざるを得ない。加えて、職場のパワーハラスメント防止に向けて、「『雇用管理上講ずべき措置』を実施することがまず基本」としているが、すでに法制化されているセクシュアル・ハラスメント等の措置でさえ不十分な企業が多い中、その方針は消極的な対応と言わざるを得ない。ハラスメント対策の実効性を高めるためには、指針を踏まえ、衛生委員会の活用など、労働組合や労働者の参画を通じて、労使の取り組みを強化することが重要である。
また「報告」は、女性活躍推進を「ダイバーシティ経営の中でも・・最も重要なテーマの1つ」としているが、日本のジェンダーギャップ指数が153カ国中121位と過去最低を記録し、世界から大きく後れを取っている中、その取り組みは改正女性活躍推進法にもとづく対応に留まっている感が否めない。
今後、「報告」が掲げる「様々な属性、キャリア、価値観を有する多様な働き手の一人ひとりが、互いに刺激し合いながら、能力や特性を最大限に発揮し、活躍できる組織づくり」を推進するためには、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を払拭し、ハラスメントの根絶、男女間賃金格差の是正を含めた積極的な取り組みを行っていく必要がある。

(5)第2章 3.70歳までの就業機会の確保に向けて
「報告」は、「仝柩儖奮阿料蔀屬里澆鮑陵僂垢訃豺隋∀使合意を得るための努力が求められること、対象者を限定する基準の設定が可能であること、J数の措置の組み合わせが可能であることなどに留意する必要がある」としているが、70歳までの就業を考えるうえで、雇用形態に関わりなく希望者全員が65歳まで働くことのできる環境整備を行うことが先決であり、「同一労働同一賃金」に関する法律への確実な対応が前提となる。
その上で、雇用以外の措置のみを採用する場合には、集団的労使関係による労使合意がその要件とされることから、労使合意がなされていない場合には改正高齢法の努力義務を完全に履行したとは言えないことを労使双方が認識しておくべきである。加えて、労働組合がない職場などにおいても労使合意の実効性を担保していく必要がある。

(6)第2章 4.障害者雇用の現状と今後の課題
「報告」は、「障害者の受入れに当たっては、障害特性に配慮したきめ細かな支援を行い、持てる能力を最大限発揮できる職場づくりを行うことが重要である」としているが、2020年度末までに法定雇用率の引き上げが予定される中、現状においても未達成企業が半数近くあり、より一層の努力が必要である。また、法定雇用率の達成だけでなく、そこで働く障がい者のディーセント・ワークの確保が重要である。さらに、雇用政策と福祉施策の一体的展開の推進に向けて、就業中や社会活動参加の際にも、収入を得つつ生活支援を受けることのできる制度の整備について検討する必要がある。

(7)第2章 5.最低賃金制度に関する考え方
地域別最低賃金について「報告」は、近年の決定プロセスと結審から発効までの期間、中小零細企業への実効性ある支援が課題である等指摘しているが、現行水準が適正であるかどうかについては言及がない。連合は今後とも、最低賃金法の主旨に鑑み、セーフティネットとして実効性ある水準をめざしていく。
一方、特定(産業別)最低賃金については、引き続き、地域別最低賃金を下回ったものは「廃止すべき」としているとおり、自らの産業に対する矜持が全く感じられない。日本の多くの産業がもはや世界に伍していくことが難しくなっていることと二重写しになっており、遺憾を通り越して情けないと言わざるを得ない。
廃止することを目的化するのではなく、産業における公正競争を確保し、公正な賃金決定に資するという特定(産業別)最低賃金の意義と目的を今一度認識し、その役割を発揮できる環境を整えるという経営者としてあるべき態度に立ち返り、各審議会に臨むことを強く求める。


5.結びに
「報告」は、「働き方改革」における中心的な課題の1つは、「働き手一人ひとりの自発性と主体性を高める『エンゲージメント』の向上である」と位置づけている。
まさに労働者は、単なるコストではなく、新たな付加価値を創造する源泉である。日本の産業・企業は、一人ひとりの懸命な働きによって成り立っており、成長の原動力は「人財」に他ならない。労使を取り巻く環境が大きく変化する今こそ、「人」を大事にしてきた日本的経営の意義を再認識する必要があるのではないか。
「人を活かし、人が活きる」社会、企業、職場としていくためには、すべての働く者の「働くことの尊厳」を守り、「豊かに働く」ことのできる環境が不可欠である。
一人ひとりの働きがいを高め、持てる能力を最大限に引き出すための環境整備は、労使の責務と考える。
これらの認識を踏まえ、私たちは、日本の将来を切り拓く、意義ある2020春季生活闘争を展開していく。

【PDFファイル】
https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/shuntou/2020/hoka/20200122kenkai.pdf?5130
 

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【全労連事務局長談話】

労働者を分断しながら「意識改革」と企業への従属を強い、賃金引上げに応えず、企業の責任を免罪 2020年版 経団連経営労働政策特別委員会報告について

2020年1月22日
全労連事務局長 野 村 幸 裕

 1月21日、経団連は20春闘の経営側の指針となる「経営労働政策特別委員会」の報告を発表した。報告は一貫して「経済の先行き不透明」「経済や企業の大きな構造変化」をあげ、ソサエティ5.0による経済構造の変化の中にあっても競争力を強化し「生産性の向上」を図るとともに「事業再編」時代を強調している。

 そのため「働き方改革」では、長時間労働を強いる「高度プロフェッショナル制度」の活用や「裁量労働制」適用拡大を求めると同時に、「働き方改革」を労働時間短縮の段階から「成果の質・量の増大」の段階への変化が必要としている。成果増による生産性の向上のために「様々な属性、キャリア、価値観を有する多様な働き手」による企業組織をつくるとした。この組織を実現するために「新卒一括採用」や「終身雇用」「年功序列賃金」に加えて仕事や勤務地、報酬を限定した「ジョブ型雇用」の導入と相互の入れ替え、労働市場の流動化の促進を求めている。これは雇用を更に細分化し、労働者を分断させ、「経営環境の変化に応じて」業種の変更や撤退を前提に雇用を一層不安定化させるものであり、日本の雇用制度の特性をさらに発揮するための検討をすべきである。

 さらに労働市場の流動化に対応できるように、労働者に自らの時間と費用によるキャリアアップを求めている。これは経営者としての責任を放棄し、特定の企業のために労働者の実質的な生活費を減少させ、無防備で競争市場に放り出すものである。また、会社と自らの成長の方向性の一致=「ともに成長する」心と組織や仕事に主体的に貢献すること(エンゲージメント)を求めている。しかし賃金は「生産性向上に伴って安定的に増大した付加価値を原資」とし、「成果や業績」で決定するとしている。この矛盾は企業への従属性をさらに強めようとしている姿勢の表れである。そもそも賃金は労働の対価であり、労働に心の従属はなく、賃金額は生計費を基本として決定すべきだ。

 「業種変更や撤退」を前提に経営者の責任を免責し、労働者や地域・関連企業を使い捨てにする報告に貫かれている考え方に強く抗議し、労働者の働く権利の保障と企業の経営者や企業の責任の明確化、今報告では触れられなかった内部留保の労働者・中小企業への還元を求める。

 「労使交渉協議における経営側の基本的スタンス」では、経済状況について世界経済の不安定や消費税増税の影響、東京オリンピック・パラリンピック後の需要反動減など「企業収益の下押しされる懸念」「不透明感」を表明した。さらに労働時間短縮や均等待遇によるコスト増への配慮を総額人件費の管理を強調している。「賃金引上げ」の勢いの維持に向けた前向きな検討を基本とするとしたものの、「多様な方法による賃上げ」と「総合的な処遇の改善」での対応を求めている。「多様な方法による賃上げ」では、「全体的なベースアップ」を「一律的な賃金要求は適さない」として「選択肢」にとどめ「重点的なベースアップ」として年齢や査定結果による配分を「現実的」としている。さらに「賞与・一時金」でも成果・査定結果の支給増が可能とし、企業の業績による増減も可能なことから積極的な活用を求めている。

 総人件費抑制を前提に、経済悪化の中での労働者の実態を反映したベースアップによる賃金引上げではなく、企業論理を優先させ、賃金を「企業の収益の配分」に止める姿勢は看過できない。景気の先行きが不透明であれば、これまでため込んだ内部留保を労働者の大幅賃金引上げや均等待遇の実現、中小企業に還元し、経済の好循環を図るべきである。

 「総合的な処遇改善」でもエンゲージメントの向上を通じて新機軸の創出力を高め、ソサエティ5.0の実現につなげる視点からの改善となっている。そのため労働時間や働き方の施策、福利厚生もエンゲージメントの観点からの見直しをも求めている。労働者の健康や職場環境の整備、社会的役割などを、企業の利益と「柔軟な」業務変更等に従属させるものである。

 最低賃金の引き上げに対して「生産性向上から乖離した改定」であり、「中小零細企業において、雇用期間の減少や雇用の削減、ひいては事業の継続不能につながることが懸念される」とし、「経済や雇用環境への影響や効果」の検証を求め、「生産性向上」範囲内での改定を求めている。しかし、最低生計費資産調査の結果は、今の最低賃金の水準では「人間らしい生活ができない」こと「標準生計費は全国どこでも変わらず、1500円程度必要なこと」が明らかになった。最低賃金の引き上げは経営問題だけではなく総合的な政策課題である。大企業は重層的産業構造において、下請け単価を切り上げるなど内部留保を活用した政策実現への努力が可能である。

 全労連は経団連に対して、自らの役割を明確にした最低賃金の引き上げに向けた取り組みの強化を求めると共に、政策課題として2020国民春闘において全国一律最低賃金制度の確立を求める運動を強化する。

 報告では「業種や企業ごとにばらつきがある」こと、また「労使自治」を強調し、春闘の「業種横並びによる集団的賃金交渉は実態に合わなくなってきている」「個々人の処遇の違いが明確化」していくにつれ、「全社員を対象とした一律的な賃金要求は適さなくなってきている」として春闘を否定している。賃金要求は生計費に基づく要求である。個々の労働者では対抗できないため、集団で労働組合をつくり、同業種間の企業競争などを理由とした賃金抑制を許さないため産業別の統一闘争をつくってきた。企業の利益のおこぼれが賃金ではない。

 全労連は2020国民春闘において産業別統一闘争、全国統一闘争をさらに強化し、大幅賃上げ・底上げを実現する決意である。

以 上 

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職を転々としてきた就職氷河期世代が「ウーバーイーツユニオン」で自己肯定感を回復するまで
https://hbol.jp/211289
2020.01.22 Harbor Business Online

北守(藤崎剛人)

■「1人じゃない」ウーバーイーツユニオンの組合員、記者会見で声を震わせる

〔写真〕土屋俊明さん(43)取材後は趣味のランニングで帰宅するという。

 土屋俊明氏は、ウーバーイーツの配達員だ。そして、ウーバーイーツユニオンの組合員でもある。

 2019年1月7日、配達員たちのための労働組合ウーバーイーツユニオンは、配達員の事故状況の実態を明らかにする調査プロジェクトを始めることを記者会見で発表した。目的は、ウーバーイーツに対して、配達員の事故などへの労災適用を求めるためだ。

 2019年の10月に、ウーバーイーツジャパンは事故についての「補償制度」をつくったが、対象となる「配達中」の時間が労災保険と比べて限定されているうえ、支給される「見舞金」が一時金のみであるなど、きわめて不十分であり、問題があるものであった。

 記者会見の席では、記者たちからそうした労災保険の現実性を問う質問もあった。たとえば会社が社会保険料を負担するかわりに、配達員に支払う報酬を下げる可能性もあるというのだ。

 この質問に対して、土屋氏は発言の機会を求め、声を震わせながら以下のように述べた。

「このような会見をしたときに、企業側の都合というものをしきりに問う声が聞かれるのですが、私たちは実際にこの避けがたい事故に遭われた方の気持ちを聞きたいと思っております。まず、一番困っているのはウーバーではなく、実際にけがに遭った方なんですね。そういう方の声を聞かないでどうするんだと思うんですよ。そういう、そこら辺にちょっと想像していただきたいんです、皆さんにも。(中略)なので、今、ここで発表していることはそういう方々に1人じゃないよって、われわれがいるよと、話を聞くよということの表明なんです」

 1時間以上に及ぶ記者会見の中で、彼の発言はひとつのハイライトとして、様々なメディアで取り上げられている。

 インターネットに繋がってさえすれば、様々な飲食店の料理を自宅に届けてくれる便利なサービス、ウーバーイーツ。しかし、プラットフォームビジネスという新しい事業モデルは、様々な矛盾やトラブルを抱えている。そしてそのしわ寄せが一番に来ているのは、現場の労働者たちである。

 2019年10月、ウーバーイーツの配達員たちによって、ウーバーイーツユニオンが結成された。土屋氏は組合の立ち上げから関わり、執行役員の一人として先述の事故調査プロジェクトなど、積極的な活動を行っている。しかし、彼はこれまで、労働運動に深く関わってきた人物ではない。

 土屋氏は43歳。いわゆる就職氷河期ど真ん中の世代だ。ここ数年、筆者は彼とは親しい間柄で、世代的には就職氷河期の最後尾に属する。なぜ彼は、今にして労働組合に関わりだしたのか。また、あの発言に込められた思いはなんだったのか。この記事では本人に対するインタビューをもとに、明らかにしていきたい。

■就職氷河期ど真ん中。土屋俊明氏の半生

 土屋氏は、東京生まれ。バブル崩壊直後に高校を卒業する。進学の積極的な意志はなかったが、家族に諭され、美術系の大学に滑り止めで進学する。卒業時は氷河期真っ盛りで、同期の学生も職に就くのに大苦戦していた。彼自身は、就職をあきらめアルバイト生活に至る。

 「当時はまだフリーターという言葉が、『ライフスタイル』として認知されていた時代でした」と土屋氏は振り返る。卒業後は倉庫業務や警備員などを経験するが、警備員時代に健康を害し入院。退院後に、ある広告代理店に雇われる。もちろん社員ではなくアルバイトとして。

 正社員ではないことに、不安はなかったのか。当時の心境を、土屋氏は「自分自身に対して諦めがあった」と語る。中学時代にいじめられていた経験などから、そもそも自己肯定感が低かった。明日死んでも仕方がないと思っていた、と。

 彼はその広告代理店で10年近く勤める。しかし新聞広告業界の不況のあおりを受け、事業縮小にともない解雇される。東日本大震災の翌年のことであった。当然ながら新たに正社員としてどこかに雇われることは難しく、資格を取って介護の仕事につく。

 しかし、その仕事も長くは続かない。1秒たりとも気の抜けない仕事にも関わらず、労働環境は劣悪。誰もが「必要な仕事だ、誰かがやらなければいけない仕事だ」と言うのに、公的なサポートは一切ない。制度がコロコロ変わり、現場はそれに振り回される。そうした状況に幻滅した彼は、数か月でその職をやめてしまう。

 次に就職したのはオークション会社だった。そこで美術品の検品の仕事をするが、美術品の状態のチェックの現場には馴染めたものの業務そのものは厳しく、健康を損ねてしまう。また正社員登用制度にも引っかからなかったこともあって自信を喪失し、仕事を辞める。

 ここで彼は、次の仕事を見つけるまでのつなぎとして、ウーバーイーツに登録する。始めてみると、対人ストレスがない働き方の魅力に気づいたという。

 配達員として働きながらも就職活動自体は続けており、知人の紹介でホテルのフロントの仕事につく。契約社員だった。だが、ここもまた長くは続かなかった。原因はパワハラだ。フロント業務で応対を誤ると後ろから先輩の足が飛ぶ、配置転換後も上司からその日の失敗を箇条書きにするように要求される、などの被害にあう。そして心身ともに病んでしまい、退職してしまった。これが2019年の春であり、これ以降、彼はウーバーイーツの配達員として主な収入を獲得している。

■「面白そうな」労働組合――土屋氏はなぜユニオンに参加したのか

 土屋氏がウーバーイーツユニオンに関わりだしたのは、2019年の7月、原付バイクでの配達中に転倒事故を起こしたことに端を発する。そのときに会社から届いたメールは、労働災害の補償を申し出るどころか、今後このような事故にあえばアカウントを停止すると示唆するものだった。「人間扱いされていないと感じた」と土屋氏は語った。怒りを感じた彼はそこで、ちょうど結成に向けて動き出していたウーバーイーツユニオンの設立準備会に参加。そのまま組合の一員として活動している。

 だが、事故と会社の非人道的なメールがあったとしても、なぜ彼は組合活動に参加したのだろうか。土屋氏はこれまでも、労働の現場で様々な被害を受けてきた。過酷な労働環境で身体を壊し、パワハラにもあってきた。しかし彼はその都度、環境を変えるのではなく環境から離れることを選択してきたのだ。リーマンショック前後は、「年越し派遣村」など、非正規雇用者の労働が問題として取り上げられ始めていたが、そのときも彼は運動に参加することはなかった。

 土屋氏がウーバーイーツユニオンの準備会に参加した直接の契機は、労働問題に詳しいパートナーに勧められたことだったという。パートナーは、事故にあい、自身も負傷したにも関わらず、仕事のほうを優先してしまった彼を諫めたという。したがって、ユニオンの会合に行ったことそれ自体は、すべてが彼の意志だったわけではない。だが、実際に会合に参加してみて、彼はこの集まりは「面白そうだ」と思った。

 何が面白そうだったのか。彼に尋ねると、まず第一に、委員長の前葉富雄氏や川上資人弁護士など、多様な個性に触れたことだという。労働組合運動についても、経験者からまったくの未経験者までさまざま。だからこそ、フットワークが軽い運動が可能だともいえる。土屋氏によれば、自分自身がこれまで活動をしてきてこなかった理由に、労働組合に対する古臭いイメージがあったという。集団主義的で、そうした場の一員となることは、土屋氏は苦手であった。

 それに対して、ウーバーイーツユニオンは個人主義的な人たちの集まりであるという。ただし、運動の理念はみなそれぞれに共有できているという信頼がある。だからこそ、運動の中では意見がぶつかり合うことを恐れない、活発な議論ができる。土屋氏は、自身が事故にあった直後は、メディアの取材に対しては匿名で、顔出しもしていなかった。しかし現在は、NHKをはじめとするメディアに対して、実名で、積極的に顔を出して発信している。そうした心境の変化は、ユニオンの結束力とそれに伴うエンパワーメントを象徴しているのかもしれない。

〔写真〕土屋さんが書いたプラカード

 2019年12月、前月の唐突な報酬体系改定への抗議および、団体交渉申し入れのためにウーバーイーツユニオンは本社への直接行動を行うが、そのときに土屋氏はプラカードを持って行進していた。メディアにも、彼が描いたプラカードの猫の絵が映っていた。美術系の大学を経て、その経歴を活かす仕事にはほとんど就けなかった彼だが、ここにきてその技能が役にたったわけである。

 土屋氏がウーバーイーツユニオンと接触したのは、偶然だったかもしれない。しかし、彼がウーバーイーツユニオンに加盟し、積極的に活動や発信をするようになったことは必然であった。筆者は、社会運動の意義を自己実現に矮小化する気は毛頭ない。しかし、社会運動を通して、自分自身を回復する者もいるのは事実だ。

 土屋氏はこれまでの人生で様々な職種についてきたが、そうした場所で自己肯定感を獲得できたことは一度もない。つまり、ここにきて初めて、プライベート以外で、信頼しあえる仲間、そして、自分自身を承認可能な場所と出会ったのだ。「1人じゃないよって、われわれがいるよと、話を聞くよということの表明なんです」。彼が記者会見で発した言葉は、彼自身の体験と、密接に繋がっている。

■「お前の代わりはいくらでもいる。だから休んでもいいんだよ」氷河期世代とプラットフォームビジネスの未来

 多くのマスメディアや評論家の理解に反して、ウーバーイーツユニオンは、基本的に現在の働き方それ自体は肯定的に捉えている、と土屋氏は語る。実際、ユニオンはけして労働基準法における労働者としての待遇、たとえば最低賃金や有給休暇等を会社に求めているわけではない。個人事業主である配達員を正社員として採用せよと求めているわけでもない。彼らが要求しているのは、かいつまんで言えば、人権を持った存在として自分たちが扱われることだ。当たり前の労災対応を行わなかったり、一方的に報酬を改定したりすることは、ビジネスモデル以前の問題として、本質的な人権に関わる問題なのだ。

 土屋氏が考える理想のモデルとしてのプラットフォームビジネスは、(現在の日本における)正社員としての働き方とも違うものだ。彼は以前アルバイトとして働いていた職場で、長時間労働を強いられる正社員の現実も目の当たりにしていた。

 氷河期世代の労働者にとって、よく耳にしてきた言葉が「お前の代わりはいくらでもいる」だ。だからこそ、ようやく正社員採用された者は、休めない。劣悪な雇用でも職にしがみつく。しかし、土屋氏は、プラットフォームビジネスのモデルは、その言葉を逆手にとることができるという。すなわち、「お前の代わりはいくらでもいる。だから、つらいとき、休みたいときは休んでいいんだよ」と。それは、うまく運用しさえすれば、正社員として採用されるよりも、魅力的な働き方なのだ。

 もちろん筆者は、プラットフォームビジネスの未来が、手放しで幸福なものになるとは考えてはいない。思想史的に考えるならば、人間の尊厳が保障される働き方と、資本主義の本質的な要素であるアンチ・ヒューマニズムの対立は決定的なものであり、容易に乗り越えがたく感じる。スラヴォイ・ジジェクが憂慮するように、プラットフォーマーたるグローバル企業が、個人の自由と多様性という美名のもと、匿名の専制体制を築く可能性もある。

 だが、その問題については、とりあえずここでは議論しない。筆者がここで述べたかったのは、「人生再設計第一世代」と政府によって名指しされた人々のうちの一人が、自分自身と再び邂逅するまでの物語だからだ。

 そうした個人のライフヒストリーこそが、グローバルな問題を理解するための、ローカルな出発点なのだ。

<取材・文/北守(藤崎剛人)>
北守(藤崎剛人)

ほくしゅ(ふじさきまさと) 非常勤講師&ブロガー。ドイツ思想史/公法学。ブログ:過ぎ去ろうとしない過去 note:hokusyu Twitter ID:@hokusyu82
 

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