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河合薫 「また違法残業」の電通 過労死のリアルを理解しないトップに問う“責任”
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191213-00000023-zdn_mkt-bus_all&p=1
2019/12/13(金) 8:00配信 ITmedia ビジネスオンライン

「また違法残業」の電通 過労死のリアルを理解しないトップに問う“責任”

電通の本社ビル。長時間労働は是正されているのか(写真:ロイター)

 「社長として重大な責任を感じている。当社の最大の誤りは、『仕事に時間をかけることがサービス品質の向上につながる』という思い込みを前提にしたまま、業務時間の管理に取り組んでいたことにあると考えております」――。

 2017年9月22日。東京簡易裁判所に出廷した電通の山本敏博社長は、こう謝罪しました。

 罪状は「労働基準法違反」です。検察側の冒頭陳述によれば、「36協定」の上限を超える残業をした社員は毎月1400人前後(14年度)。東京五輪・パラリンピック関連業務を担当する機会を失わないために、36協定の上限時間を最大100時間に引き上げ、形式的に違反の解消を図るなど、極めて悪質でした。

 法人としての電通と当時の上司の部長が書類送検され、上司らは不起訴処分に。一方で、法人としては労働基準法違反罪で略式起訴となりました。

 しかしながら、東京簡裁には電通社員の出退記録など大量の証拠が押収されており、書面の審理だけでは不十分と判断。“法人”という無責任な集合体に責任を科すだけではなく、法人の顔=山本社長が出廷する異例の公開裁判となったのです。

 それからというもの、電通に勤める知人たちも「残業できないからさっさと帰りま〜す」だの、「休日出勤できないので週明けに仕切り直しま〜す」だのと働き方を変えるそぶりを見せていたので、私は電通の変化を肌で感じていました。

 ところが、です。

 なんと、またもや電通が社員に違法残業をさせていたことが発覚。裁判で山本社長が頭を下げた翌年の2018年、営業関連の部署に所属する4人に36協定で決めた上限時間を超える残業をさせていました。最長は156時間54分で過労死ライン(月80時間)の2倍です。事前申請をせずに上限を延長した事例も6件あったといいます。

 まったくこの会社のトップは何を考えているんでしょうか。深々と高橋まつりさんの遺族に頭を下げたのは何だったのか? そもそも企業の責任をなんだと考えているんだ?

 まさか「50万払えばいいんだから」(17年の有罪判決時の罰金)と軽く見た? あるいは「見つかったら『労働環境改革に注力していきます』と言えばいい」と考えた? あれだけ日本中から注目された裁判だったのに。怒りしか湧いてきません。

残業規制に不満を言う人たち
電通はこれまでも労基法違反を繰り返し、大切な命を奪ってきました。

・1991年、入社2年目の男性社員(当時24歳)が自宅で自殺。男性社員の1カ月あたりの残業時間は147時間を超え、上司からのパワハラもあり、遺族が会社に損害賠償請求を起こした。裁判は遺族に1億6800万円の賠償金を支払うことで結審

・2013年、当時30歳で病死した男性社員についても、長時間労働が原因の過労死として労災が認定された

 そして、15年の高橋まつりさん事件です。労働基準法が何のためにあるのか? 法律違反の責任は誰にあるのか? 分かっているのでしょうか。

 違法を繰り返すマインドの根っこには、人をコストとしてしか見ない非人格化思想がある。「別に死ななきゃいいだろ?」くらいにしか思っていない。そうとしか私には思えません。

 ただその一方で、残業規制が厳しくなったことに不満を言う人たちを、これまで何度も見てきました。

「夜中まで働きたい人もいるんだから、残業規制っておかしいよ」
「多様性っていいながら、国に残業時間を一律に決められるって納得できない」
「残業減らされると給料減る。やめてほしい」
などなど。

 私はその度に「どんなにやる気があっても、仕事が好きでも、長時間労働をして睡眠時間が削られると、脳疾患や心疾患を引き起こす。『月80時間以上残業しています』と胸を張る人は、たまたま生き残っているだけ。いつ死んでもおかしくない。明日死ぬかもしれませんよ!」と脅してきました。

 ……が、長時間労働推奨者たちには届きません。彼らは、仕事好き=かっこいい、忙しい人=仕事ができる人、と考えているので、脳とか心臓とか自分でも見たことのない自分の臓器が壊れるとか、全くイメージできない。

 過労死はヤバイと知覚できても、過労死とは突然死で、あるとき突然心臓や脳が壊れることだと知覚できないのです。

 そしておそらく……、電通のお偉い人たちも同様に、長時間労働が死に直結するというリアリティーが持てないのでしょう。本来、そういう人たちには従業員や部下のマネジメントを絶対させてはいけないのに、今回の「また違反」案件はトップの認識の甘さと言わざるを得ません。

 “再発”について山本社長はどう思っているのか? ぜひともご意見を伺いたいところです。

「過労死」という言葉が生まれた背景にある“悲しみ”
そもそも「過労死=KAROSHI」という言葉の裏には、不慮の死で大切な人を失った家族たちの心に鬱積(うっせき)する、悲しみが存在します。

 さかのぼること今から半世紀前の1970年代後半。中小企業の管理職層で心筋梗塞発症が急増しました。

 73年の第1次オイルショックで景気が冷え込み、国が助成金を出して雇用を守ろうとした政策が裏目に出た結果です。不景気の間は国からの助成金で社員を解雇しなかった企業が、景気回復で需要が急激に拡大した際、人を増やすのではなく、人数を変えず長時間労働させることで生産性を向上させようとしたのです。

 このときに生まれたのが「残業」という発想です。増え続ける残業に、心臓や脳が悲鳴を上げ、過労死する人を量産。医学の現場では同じころ、「過重労働による死」がいくつも報告されました。

 そこで、医師で旧国立公衆衛生院名誉教授の上畑鉄之丞氏(2017年11月9日没)が、遺族の無念の思いをなんとか研究課題として体系付けたいと考え、1978年に日本産業衛生学会で「過労死に関する研究 第1報 職種の異なる17ケースでの検討」を発表。過重な働き方による結末を「過労死」と呼んではどうかと提案したのです。

 新しい言葉は常に「解決すべき問題」が存在するときに生まれます。その言葉がよく当てはまる問題があちこちで起こり、何らかの共通ワードが求められるからです。そして、言葉が生まれることで、それまで放置されてきた問題が注目されるようになり、悲鳴を上げることができなかった人たちを救う大きなきっかけになります。

 「過労死」も例外ではありませんでした。

 上畑氏が学会発表した翌年から事例報告が相次ぎ、「過労死」という言葉は医師の世界から弁護士の世界に広まり、1988年6月、全国の弁護士・医師など職業病に詳しい専門家が中心となって「過労死110番」を設置。すると、電話が殺到したのです。ダイヤルを回した相談者の多くは、夫を突然亡くした妻。それをメディアが取り上げ「過労死」という言葉は、一般社会に広まりました。

 遺族たちはその後も連携を強め、日本社会から過労死を根絶するための活動を推進。その活動がやっと実を結んだのが、2014年に制定された「過労死等防止対策推進法」です。

「また違反」なんてありえない
くしくも、同法で報告が義務付けられた「過労死白書」が発表された2016年10月7日、大手広告代理店に勤務していた24歳(当時)の女性(高橋まつりさん)が15年12月に投身自殺したのは「直前に残業時間が大幅に増えたのが原因」とし、労災認定されたと報じられました。

 「過労死」という言葉が生まれてから40年。お嬢さんを「仕事に奪われた」遺族の無念が社会に知らされたのです。

 大切な命が奪われ、その理不尽な死に悲しむ遺族の思いを考えれば、「また違反」なんて事態はありえません。前述した通り、「長時間働きたくて仕方がない」社員を守るためにも、長時間労働は淘汰(とうた)しなきゃだし、それができない会社は、会社として存在させてはいけないのです。

 仕事を「人生を豊かにする最高の手段」にするためにも、「長時間労働は命を削る悪しき働き方」「休息をとったほうが効率が上がる」という常識をもっともっと社会に浸透させなきゃです。微力ですけど、私も地道に訴え続けていきますので、どうかお付き合いのほどを……。

(河合薫)

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昇進目前でキャリア断絶…男性育休はやっぱり難しい。人事が明かすホンネ
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191213-00000002-binsiderl-bus_all
2019/12/13(金) 8:10配信BUSINESS INSIDER JAPAN

昇進目前でキャリア断絶…男性育休はやっぱり難しい。人事が明かすホンネ

男性の育児休業取得率はいまだに低い。

政府は2020年から国家公務員の男性職員に原則1カ月以上の育児休業の取得を促す方針を打ち出した。もちろん狙いは公務員を皮切りに民間企業にも波及させることにある。 

【全画像をみる】昇進目前でキャリア断絶…男性育休はやっぱり難しい。人事が明かすホンネ

その目的は女性に偏っている家事・育児を少しでも解消し、就労の促進や少子化に歯止めをかけることにあるが、しかし現実は1カ月の育休取得とはほど遠いのが実態だ。2018年度の男性の国家公務員の育児休業取得率は21.6%だが、民間企業の男性は6.16%にとどまる(厚生労働省「雇用均等基本調査」)。政府は2020年までに13%の目標を掲げるが、達成のハードルは高い。

男性育休に50代管理職はキョトン
とあるサービス業の人事部長は、管理職研修で2年前に「育児・介護休業法の改正」の説明をしたときの光景が忘れられない。

「人事としては新しい改正内容を事務的に淡々と説明しました。男女に関係なく取得できることは周知のはずですから、あえて女性や男性という言葉を使わなかったのですが、最後に『男性の部下が育休取得を申請してきても遅滞なく人事部に連絡してください』と言ったら、会場の一部がどよめいたのです」

よく見ると、50代管理職が集まる一角だけがキョトンとした顔をしていた。

「実は育児休業は女性社員だけの規定だと思っていたのです。育休といえば女性が取るものだと考えている50代社員が多いのには驚きました」 

そういう管理職がたとえ男性が取得できるとわかったとしても、快く取得を認めるとは思えない。

労働組合の中央組織である連合が、同居している子どもがいる25〜49歳の男性有職者の調査をしている(「男性の家事・育児参加に関する実態調査2019」、2019年10月8日発表)。それによると、「取得したかったが、取得できなかった人」の理由の中には

「取得すると昇進・昇給に悪影響が出る」(12.1%)

「取得すると異動になる」(5.7%)

「上司に取得したら不利益を被ると言われた」(5 .4%)

「上司に取得しない方がいいと言われた」(4.6%)

といったパタハラ行為に該当する行為で取得をあきらめている様子が浮き彫りになっている。

復帰したら嫌み、昇進・昇級できなかった
パタハラとはパタニティハラスメントのことで「男性はこうあるべきだという先入観により、上司・同僚が男性の育児休業など子育てを疎外する言動などの嫌がらせのことだ。マタニティハラスメントと同様に事業主はパタハラを防止する措置を義務づけられている。 

しかし、実際にはパタハラは横行している。育児休業取得後のパタハラとして、

「復帰したら嫌みを言われた」(15.3%)

「責任ある仕事を任せられなくなった」(8.3%)

「昇進・昇給できなかった」(6.9%)

「低い人事評価を受けた」「復帰したら新人のような扱いをされた」など

と、答えている。

男性の育休取得に無理解な職場が多く、パタハラも少なくない中で「1カ月以上の取得」は可能なのか。

連合の調査では対策として「男性の育休取得の義務化(対象者に取得を義務づける)」が57.5%と最も多い。 エン・ジャパンの「男性育休実態調査」(35歳以上、2019年9月10日発表) でも「男性の育休義務化」に53%が賛成している。

8割が男性育休「取得したい」を希望
とはいえ、育休を取りたい男性が少ないわけではない。

エン・ジャパンの調査によると、「もしこれから子どもが生まれるとしたら、育休を取得したいと思うか」の質問に対し、「積極的に取得したい」が41%、「できれば取得したい」は45%で、取得希望が多いことがわかる。

取得希望期間でも「1カ月〜3カ月」が22%と最も多い。政府調べでは男性の取得日数は「5日未満」が36.3%と最も多く、次いで「5日〜2週間未満」が35.1%。2週間未満が7割を超えている。希望と現実のギャップが大きいことが分かる。

では、男性の育休取得を阻んでいるのは何か。 連合の調査によると、育児休業を取得しなかった理由として、

「仕事の代替要員がいない」(47.3%)

「収入が減る(所得保障が少ない)」(36.6%)

「男性が取得できる雰囲気が職場にない」(32.2%)

「仕事にブランクができる」(13.9%)

「男性が取得するものではないと思う」(11.3%、複数回答)

実は、この調査では「取得したかったが、取得できなかった」人が30.2%もいた。その理由は「仕事の代替要員がいない」(63.6%)が最も多く、「男性が取得できる雰囲気が職場にない」(46.4%)が2番目に多かった。

要するに、男性の育休取得に無理解な職場が多いということだ。法律では男女に関係なく育児休業を取得できるが、依然として男性の取得に無理解な管理職が存在することも事実だ。

一律義務化に違和感覚える人事部長
しかし、人事担当者の中には一律の義務化には疑問の声もある。

前出のサービス業の人事部長はこう指摘する。

「社員の家庭環境によっても事情が違います。共働きの男性もいれば、専業主婦世帯もある。共働きの場合は奥さんが少しでも早く職場に復帰するために、育児休業を取るのは良いことだと思います。

でも共働きの中には親と同居している、あるいは近くに親が住んでいて、子どもの面倒を見てもらえる環境にある人もいます。一律に1カ月以上の育休取得を義務づけるのはいかがなものかという気がします」 

義務化するのではなく、子育ての環境によって選べるようにするべきだという意見だ。

また「1カ月以上の取得」についても難しいとの声もある。建設関連会社の人事部長はこう語る。

「会社にもよりますが、1カ月程度であれば何とかなるでしょう。仕事の締めや月次決算の伝票処理など細かい作業は上司が他のメンバーに仕事を割り振ることでカバーできると思います。当社でも男性で育休を取ったのは最高でも1カ月ですが、それが2〜3カ月になると、さすがに抜けた穴を埋めるのは難しい。頭を抱える上司も出てくるかもしれません」

前出の調査でも、取得したくても取得できない理由のトップに「仕事の代替要員がいない」が挙がっていたが、他のメンバーから援助を得られても、やり繰りできるのは1カ月が限度という。

昇進の評価に影響を気にするから
そんなことを気にすることなく、もちろん本来は女性と同じように法定の1年間、会社によってはそれ以上の期間の育休を取得できる。 

しかし、長期の育休の最大のネックとなるのが、連合の調査にもあった「取得すると昇進・昇給に悪影響が出る」可能性があることだ。取得したことで昇進・昇給させないのはパタハラに当たる。ただし、取得期間中の人事評価は行わないにしても、昇進・昇格に微妙な影響を与える。

「当社でも本当は取得したいけど、取らない理由の半数は昇進の評価に影響を与えることを気にしているからです。当社では40歳までに課長にならないと、その後の昇進が難しいのが実状です」

そう明かすのは前出の建設関連会社人事部長だ。

「重要なプロジェクトのメンバーを降りて『育休を取ります』と言えば、ダメだとは言えませんが、『あ、そう。それでいいのね』となって、結果的に課長のポストをライバルに奪われてしまうことになりかねない。

これは差別ではなく、あくまでも昇進候補者の実績を踏まえたもの、と言われれば人事部も文句は言えません」 

実際に自動車メーカーなど大手企業の中には課長職に昇進する上限年齢を40歳前後に定めているところもある。仕事も波に乗り、昇進が目の前に迫っている30代にとっては「キャリア断絶」を心配し、育休を取ることを躊躇せざるをえないかもしれない。 

もちろんこれは女性社員にとっても同じだ。女性の管理職が増えない原因の一つは昇進適齢期の出産・育休という同じ構造が影響しているかもしれない。

男性の育休義務化によって昇進・昇給の人事評価制度を変えることになると期待する声もある。しかし、男性の育休取得が順調に機能するには、企業の風土改革はもちろん、働き方など改革すべき課題も多い。

(文・溝上憲文)

溝上憲文

 

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映画の境界線『わたしは、ダニエル・ブレイク』監督の新作、英国社会の底辺の現実

https://www.newsweekjapan.jp/ooba/2019/12/post-75_3.php

大場正明 2019年12月12日(木)15時30分 Newsweek Japan


『わたしは、ダニエル・ブレイク』監督の新作、英国社会の底辺の現実

イギリス社会の底辺の現実が掘り下げる.....『家族を想うとき』 photo: Joss Barratt, Sixteen Films 2019
<『わたしは、ダニエル・ブレイク』のケン・ローチ監督が、前作と同じニューカッスルを舞台に、異なる視点からイギリス社会の底辺の現実を掘り下げる......>

以前コラムで取り上げた『わたしは、ダニエル・ブレイク』につづくケン・ローチ監督の新作『家族を想うとき』では、前作と同じニューカッスルを舞台に、異なる視点からイギリス社会の底辺の現実が掘り下げられる。

個人事業の宅配ドライバーとパートタイム訪問介護士の妻
その物語は、宅配ドライバーとして独立することを決意したリッキーが、本部の責任者マロニーからオーナー制度の説明を受け、フランチャイズ契約を結ぶところから始まる。彼は、本部の車を借りるより買った方が得だと判断するが、借金を抱えているため、パートタイムの訪問介護士として働く妻アビーが使っている車を手放して手付金を調達するしかなかった。

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リッキーは、1日14時間週6日で、2年も働けばマイホームが手に入ると考えている。だが、夫婦が、16歳の息子セブと12歳の娘ライザと顔を合わせる時間は激減し、家庭内にトラブルが起こり、家族は次第に追い詰められていく。

政府の緊縮財政政策と"ギグ・エコノミー"という働き方
本作を観ながら筆者がすぐに思い出したのは、イギリスのジャーナリスト、ジェームズ・ブラッドワースが書いた『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した 潜入・最低賃金労働の現場』のことだった。本書では、著者がアマゾンの倉庫、訪問介護、コールセンター、ウーバーのタクシーで実際に働いた経験が綴られると同時に、イギリス社会の性質の変化も掘り下げられる。

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『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂した 潜入・最低賃金労働の現場』ジェームズ・ブラッドワース 濱野大道訳(光文社、2019年)
2008年の世界金融危機以後の変化は、大きくふたつに分けられる。ひとつは、政府の緊縮財政政策だ。政府は公共サービスのための予算を大幅に削減し、業務の一部を民間企業に委託するようになった。『わたしは、ダニエル・ブレイク』には、その現実が浮き彫りにされていた。

そして、もうひとつの変化が、以下のように表現されている。


「世界金融危機のあと、自営業者が100万人以上も増えた。その多くが、インターネットなどを通じて単発の仕事を請け負う"ギグ・エコノミー"という働き方を選んだが、彼らに労働者の基本的な権利はほとんど与えられていない」

ローチが本作で掘り下げているのは、このもうひとつの変化だ。リッキーは、追跡機能を備えた集配用端末に管理され、時間に追われまくる。運転台を2分離れると電子音が鳴り響く。仲間からは、尿瓶として使う容器が手渡される。そして、彼に重くのしかかるのが、代わりのドライバーを見つけられずに仕事を休めば、100ポンドのペナルティが課せられることだ。

そんなリッキーの状況は、2018年にイギリスで実際に起こった事件を思い出させる。糖尿病を患っていた大手運送業者DPD社の53歳のドライバーが、150ポンドのペナルティを恐れて、治療の予約をしても通院できずに働きつづけ、仕事中に倒れて病院で死亡した。彼は19年間もDPD社と契約して働いていたという。

一方、妻のアビーも追い詰められる。彼女の状況は、緊縮財政と深く関わっている。地方自治体への予算削減や社会福祉介護事業の民営化によって、介護スタッフは不安定なゼロ時間契約を強いられる。彼女の場合も、支払いは訪問ごと、交通費は自腹で、朝7時半から夜9時まで働く。車が使えなくなり、バス移動になったことで、彼女の負担はさらに大きくなっていく。

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そんな状況で、息子のセブが学校をさぼり、トラブルを起こすようになったとき、家族は負のスパイラルに引きずり込まれていく。

しかし、ローチやブラッドワースが描こうとしているのは、労働の過酷さだけではない。ここで重要なキーワードになるのが、「個別化」だ。リッキーやアビーが従事しているのは、他者との接点を排除していくような個別化された仕事であり、そこではこれまでの産業にあったような連帯感や尊厳を得ることができない。

リッキーは、疲れ切り、壊れかけた家族を立て直すために、本部の責任者に一週間の休みを申し出るが、「なぜ俺に尋ねる。自営だから代わりを探せばすむことだ」と冷たく突き放される。他のドライバーたちも、同様の問題を抱え、助け合うことができない。

アビーは、「自分の母親と思って世話すること」という介護の指針に共鳴し、心を込めて高齢者や障害者の世話をしているが、時間の超過が支払いに反映されるわけではないし、担当者は彼女の報告に真剣に耳を傾けようともしていない。バス停で打ちのめされたように佇む彼女の姿は、個別化がもたらす苦悩を表現している。

そして、大卒者が直面する現実......
さらに、もうひとつ見逃せないのが、セブがトラブルを引き起こす原因だ。それは社会の変化と無関係ではない。印象に残るのは、セブと両親が将来について語り合う場面だ。アビーが、成績優秀だったセブに「大学に行っていいのよ」と語りかけると、彼は友人であるハープーンの家庭の事情をこのように話す。「ハープーンの兄貴は進学で5万7000も借金、コールセンターで働いて週末ごとに飲んだくれ、上等だよ」

ブラッドワースの前掲書には、大卒者が直面する現実について、以下のような記述がある。


「しかし政治家はもはや、これ以上多くの仕事を創出する経済状況を作ることができなくなった。結果、借金を背負った何千人もの大卒者たちが、流れ作業の現場の片隅にむっつりと座り、段ボールにセロテープを貼ったり、電話の向こうの怒りっぽい消費者にマニュアルどおりの言葉を読み上げたりすることになった」

聡明なセブはそんな現実を理解し、両親が気づかないところで絶望感に苛まれている。そして、彼には、「だが、いい仕事もある、真剣に探せば」と諭すリッキーの言葉が虚しく響く。両親が直面している現実が、それを明確に否定しているからだ。彼らはそれぞれに個別化という檻に閉じ込められ、どうすることもできずに苦しんでいる。

分断された世界が描かれる
ローチとブラッドワースは、そんな社会の底辺の現実を踏まえたうえで、似たような言葉で階級の関係を表現している。

ローチはインタビューで以下のように発言している。


「中産階級は仕事と生活のバランスについて語り、労働者階級は困窮し、立ち往生しています」(プレスより)

ブラッドワースは以下のように書いている。

「中流階級の生活を特徴づける『迅速さと効率』という概念は、多くの労働者階級の家庭には存在しない。貧困はあの手この手で労働者から時間を奪いとろうとする」

ふたりは、このように分断された世界が果たして持続可能なのかどうかを、観客や読者に問うている。

『家族を想うとき』
12/13(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開
(C)Sixteen SWMY Limited, Why Not Productions, Les Films du Fleuve, British Broadcasting Corporation, France 2 Cinema and The British Film Institute 2019 

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【社説】残業代未払い セブンは経営の刷新を
https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019121202000168.html
東京新聞 2019年12月12日

 セブン−イレブン・ジャパンが残業代未払いを放置していた。二十四時間営業問題やスマホ決済廃止に続く不祥事だ。企業統治が大きく揺らぐ中、解体的出直しを図るしか生き残る道はないだろう。
今回、労働基準監督署の指摘で発覚した残業代未払いは、遅延損害金を含め約三万人分の四億九千万円。ただこれはデータの残る二〇一二年三月以降の数字だ。
そもそも未払いについては〇一年に労基署から指摘を受けていた。セブンの説明だと、その際に計算式を間違え労働基準法に合わないままの状態が続いていた。さらに〇一年以前の未払いについても対応していなかった。
未払いは一九七四年に第一号店が開店してから続いていた恐れもある。未払いの総額については永松文彦社長は「現時点では分からない」としている。四十五年にわたり正当な賃金を払わないまま労働者を雇用していた可能性があり、もはやあきれるしかない。
この間、歴代の経営陣は残業代の支払いに問題があるとの指摘を受けながら修正できなかった。従業員への賃金の支払いは企業社会の基本だ。問題への取り組みが極めて甘く、経営者としての資格に疑問を持たざるを得ない。
セブンは今年二月、時短営業をめぐり店主と対立。長時間労働への視線が厳しくなる中で多くの批判を受け、前社長が辞任に追い込まれた。七月にはスマホ決済「7Pay」で不正利用が発覚してサービス自体をやめた。先月には本部が店主の権限を無視しておでんを発注する問題も発覚した。
今後、過去に働いていた人から未払い分の請求が相次ぐ展開も否定できない。セブンはグループ企業(セブン&アイ・ホールディングス)の稼ぎ頭だ。だが経営が困難に直面することも覚悟すべきだろう。
セブンなどコンビニは、東日本大震災の際に被災地へ率先して物資を運ぶなど消費者の信頼を築いてきた。だがセブンの相次ぐ不祥事は、その信頼さえ傷つけかねない深刻な事態を招いている。
永松社長は月額報酬の10%を返上すると発表した。その期間は三カ月である。これで消費者の信頼を取り戻せると考えているのなら、判断を見誤っているとしか言いようがない。
コンビニはさまざまな料金支払いにも利用され公共性も高い。外部からの人材登用も視野に入れた経営体制の抜本的改革を早急に求めたい。
 

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【緊急】労基法上の消滅時効改正に向けた12.11緊急集会
https://note.com/yohei_tsushima/n/n94e66eadecbc
つしまようへい 2019/12/11 23:39

連合の労基法上の消滅時効改正に向けた12.11緊急集会が12月11日、連合会館で開かれました。非常に重要な問題なので、集会で勉強したことをまとめました(集会で登壇した連合・仁平総合政策推進局長および古川景一弁護士の話を参考にいたしました)。この問題について拡散していただけますと幸いです。

■何が問題か?
2017年に民法(債権法)が改正されました。改正された民法では、債権の時効期間が5年と10年に統一されました。施行は来年2020年4月から。それは目前に迫っています。
しかし、まだ解決していない問題があります。賃金などの労働債権の消滅時効の扱いです。
現行の民法(2020年3月まで)では、給料にかかわる債権の消滅時効は1年間。旅館や料理店のいわゆる「ツケ」の債権の消滅時効と同じ期間です。
ただ、未払い賃金などを請求できる期間が1年間では短すぎます。そのため、労働基準法は第115条で、労働者の保護を図るために労働債権の消滅時効を2年間としています(退職金は5年)。
さて、その上で、2017年の民法(債権法)改正で、債権の消滅時効期間は次の通り変わりました。

この民法(債権法)改正に伴って、労働基準法第115条の労働債権の扱いをどうするかが大問題となっているのです。

■労使の意見の対立
労働債権の消滅時効に関する問題は現在、厚生労働省の労働条件分科会で議論されています。ここで、労働者側と使用者側の意見が対立しています。
労使の意見対立のポイントは大きく二つ。
一つ目は、消滅時効期間の扱い。未払い賃金などを請求できる期間をどうするかです。労働者側は民法と同様に5年とすべきと主張。使用者側は現行の2年を維持すべきと主張しています。
二つ目は、どの債権を対象にすべきかという問題。いつの時点で生じた債権を対象にするかという問題です。労働者側は、改正後(2020年4月以降)の賃金支払日(賃金請求権発生日)から新たな消滅時効期間を適用するよう訴えています。一方の使用者側は、改正法の施行日以降に締結した労働契約から新たな消滅時効期間を適用するよう訴えています。これに関しては後から見ていきます。

■2年のままか5年にするか
一つ目の消滅時効期間に関して、どこに問題があるのでしょうか。先ほど見たように、民法(債権法)の債権の時効期間は5年もしくは10年に改正されました。一方、労働基準法第115条の規定は現行では2年です。

では、労働基準法を改正せず、消滅時効期間を2年のままにしておいたらどうなるでしょう。労働者保護を図るはずの労働基準法が、一般法である民法の保護を下回るという逆転現象が起きてしまうのです。

使用者側は現行の2年のままでいいと主張しています。その理由は、「賃金債権の特殊性を考えれば民法が改正されたからといっても同じにする必要はない」「データの保存が困難」「業務負担が増える」といったことです。
一方、労働者側は、労働基準法の基準が民法を下回ることは許されないと主張しています。

民法改正後も労働基準法の消滅時効が2年のままだと、例えば、こんなことも起こります。請負契約・委任契約等に基づく就労者の債権の時効は5年になるのに、労働契約に基づき働く労働者の労働債権だけは2年。つまり、労働契約で働く労働者だけが特別に不利な条件で働くことになってしまうのです。労働基準法第115条の消滅時効を2年のまま現行維持することは、労働基準法の基本的性質を根本から覆すような大きな事案です。決して許すことはできません。

■どの債権を対象にするか
二つ目の問題は、どの債権を改正後の対象にするか、ということです。
改正民法の新しい時効制度の適用対象は、法施行日以降に締結された契約によって生じる債権です。法施行日前に締結された契約によって生じる債権については、現行法が適用されます。

建物賃貸借契約に関する家主の賃借人に対する未払い家賃の請求権を例に見てみましょう。家主と貸借人の最初の契約締結日が2020年3月31日以前の場合です。この場合、家主の債権の時効消滅期間は現行法に従って、支払い期日から10年間です。
そして、ここがポイントなのですが、この方法は2020年4月1日以降に契約更新をしても変わりません。最初の契約が2020年3月31日以前だと、契約更新を重ねても債権の時効消滅期間は現行法に従って支払い期日から10年間となるのです。それは、改正民法の新しい時効制度の適用対象は、法施行日以降に締結された契約によって生じる債権だからです。

一方、最初の契約締結日が2020年4月1日以降の場合、家主の債権の消滅時効期間は5年間となります。つまり、最初の契約がいつだったのかによって、適用対象が異なってくるのです。

これをそのまま労働債権に当てはめて見ましょう。すると、2020年3月31日以前に最初の労働契約を締結すると、労働債権の消滅時効期間はいつまでたっても2年間という事態が生じます。例えば、今年新卒採用された新入社員は、無期雇用契約で定年まで働いたとしたら、今後40年にわたって消滅時効期間が2年間のままということになってしまいます。有期雇用契約を更新する場合も同じです。最初の契約が2020年3月31日以前だと、契約更新を繰り返しても消滅時効期間が2年間のままになってしまうのです。

となると、職場には消滅時効期間が2年間の労働者と、5年間の労働者が今後何十年にもわたって混在することになります。これでは職場に大混乱が生じます。
労働側はこの問題の解決策も提起しています。それは、労働契約の締結日とは無関係に、2020年4月1日以降の賃金支払日を新しい基準の適用対象にする考え方です。そうすれば、2020年4月1日以降に賃金支払日が到来した賃金債権には、新しい消滅時効制度を適用することができます。そのために特例法を設けることを提起しています。
職場の中で、新しい消滅時効制度が適用される人とされない人との分断をつくるわけにはいきません。すべての労働者が新しい基準の対象となるべきです。

■いまがヤマ場!世論換気を!
このように民法(債権法)改正に伴う労働基準法第115条の労働債権の扱いには、大きく二つの問題があります(このほか、賃金請求権以外(例・有給休暇)の消滅時効の問題などがあります)が、どちらも働くすべての人にかかわる大事な問題です。
改正民法の施行は目前に迫っています。今が労働基準法改正に向けた大きなヤマ場です。ぜひ労働者のためになる改正を実現していきましょう!

参考:連合「知っていますか?消滅時効」
https://www.jtuc-rengo.or.jp/shoumetsujikou2019/
 

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声明文
組合活動に対する信じがたい刑事弾圧を見過ごすことはできない

-関西生コン事件についての労働法学会有志声明

 昨年から今年にかけ大阪・滋賀・京都等の関西地区で、労働組合の委員長を筆頭に、副委員長、書記長、一般組合員などが相次いで逮捕、起訴される事件が発生しています。本年 12 月 9 日現在で、組合員の逮捕者数は延べ 81 名、起訴者数は延べ 69 名にのぼっています。委員長は 6 度、副委員長は 8 度逮捕され、両者とも勾留期間は 1 年 3 ヶ月(460 日)を超えています。一般メディアではほとんど報じられていませんが、本件は、連帯労組(全日本建設運輸連帯労働組合)の関生支部(関西地区生コン支部)の組合活動をめぐる事件であり、労働組合運動を理由とする刑事事件としては、戦後最大規模といえます。

 本件で威力業務妨害と恐喝未遂の公訴事実とされているのは、1 年以上前の日常的な組合活動です。運転手等の組合員が建設現場で法令の遵守を求める「コンプライアンス活動」も、産業別労働組合や職業別労働組合に見られる一般的な組合活動です。連帯労組は、労働組合法上の労働組合として認められている適格組合ですから、何よりも労働組合の組合活動の正当性の有無の観点から、関生支部の組合活動を判断して対応すべきものです。

*

 現在の警察や検察は、組合活動としての正当性の有無を具体的に検証することなく、連帯労組の活動を「軽微な違反に因縁をつける」反社会的集団による妨害行為と捉えて対応しているとしか思えません。県によっては、「組織犯罪対策課」が捜査主体となり、一部の裁判所が傍聴人席に遮蔽板まで設置するあり様です。労働者の労働条件の改善を求める行為や、法令無視による不公正な競争を防止しようとする組合活動が、当該組合活動の正当性を判断されることもなく、違法行為とされ刑事処罰されるならば、憲法 28 条の労働基本権保障も、労働組合法による組合活動保障も絵にかいた餅になってしまいます。

 また、公訴理由では組合役員や組合員の共謀が強調され、当該組合活動に参加していない者も逮捕、起訴されています。19 世紀初頭、コンスピラシー(共謀)を理由に、労働組合運動を弾圧した労働基本権成立史の一コマをみるようでもあります。組織犯罪対策課が捜査主体となって、共謀立証を理由に長期にわたり身柄を拘束するという手法からみると、先に成立した共謀罪法(組織犯罪処罰法)が直接間接に影響を与えているのではないかとも危惧しています。

*

 私たちは、労働法を研究する者として、今回の事件において、警察・検察当局の憲法を無視した恣意的な法執行に強く抗議するとともに、戦後積み上げられてきた組合活動保障を意図的に無視するものとして重大な懸念を表明するものです。警察官や検察官には、憲法遵守義務を負っている公務員として、憲法 28 条の団結権・団体行動権の保障、その確認としての労組法 1 条 2 項の組合活動の刑事免責を踏まえて、適正な法執行に努めることを強く求めるとともに、裁判官には、労組法上の適格組合に対して、「反社会的集団」との予断をもつことなく、組合活動の正当性の有無を真摯に判断することを求めます。

関西生コン支部事件に関する声明文呼びかけ人一同

青野 覚(明治大学教授)    浅倉むつ子(早稲田大学名誉教授) 有田謙司(西南学院大学教授)
石井保雄(獨協大学教授)    石田 眞(早稲田大学名誉教授)  緒方桂子(南山大学教授)
唐津 博(中央大学教授)    毛塚勝利(労働法学研究者)    島田陽一(早稲田大学教授)
武井 寛(龍谷大学教授)    土田道夫(同志社大学教授)    角田邦重(中央大学名誉教授)
道幸哲也(北海道大学名誉教授) 名古道功(金沢大学名誉教授)   西谷 敏(大阪市立大学名誉教授)
浜村 彰(法政大学教授)    深谷信夫(茨城大学名誉教授)   藤本 茂(法政大学教授)
三井正信(広島大学教授)    山田省三(中央大学名誉教授)   吉田美喜夫(立命館大学名誉教授)
米津孝司(中央大学教授)    脇田 滋(龍谷大学名誉教授)   和田 肇(名古屋大学名誉教授)

 

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教員に1年単位の変形労働時間制を導入する法の成立に抗議し、長時間労働の是正への真に実効ある対策を求める声明

1 公立学校の教員に1年単位の変形労働時間制を適用できるようにする「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」の「改正」案(給特法「改正」案)が本日成立した。
給特法「改正」案は、教員の業務の性質からみても、あらかじめ業務の繁閑を見込むことができず、1年単位の変形労働時間制になじまないにもかかわらず、これを教員に導入するという本質的な欠陥があるものであり、いっそうの長時間労働を教員に強いることにもなりかねない。のみならず、労使協定を結ぶことなく、条例等により学校に変形労働時間制を導入するものであって、一年単位の変形労働時間制の導入に労使協定を手続要件とした労働基準法をないがしろにするものである。

2 国会の審議においても、現場の教員、労働事件に取り組む弁護士、過労死遺族をはじめ多くの参考人から反対の声が上がった。また、国会審議の中で、そもそも時間外勤務を「自主的勤務」として残業代を支払っていない現状の給特法体制に問題があること、1年単位の変形労働時間制を条例で導入しても、学校現場の教員の声を無視して制度の運用ができないこと、恒常的に時間外労働が発生している事業所には本制度の適用の前提を欠くとの厚労省通達からすると、時間外勤務が発生している学校では本制度を導入すべき前提を欠くこと等、野党議員から重要な指摘がなされた。にもかかわらず、政府与党は、教育現場の声を十分に聴かず、本制度を導入する必要性やこれら指摘された重要な問題点について十分な審議をしないまま、法案を採決し成立させてしまった。

3 自由法曹団は給特法「改正」案の成立に断固抗議し、各地方自治体に対して1年単位の変形労働時間制導入のための条例の制定を行わないよう求めるとともに、教員の増員や持ち時間数の削減、十分な予算措置を講じる等の真に教員の長時間労働の是正となる実効ある対策を求めるものである。

 

2019年12月4日

自由法曹団

団長 吉田 健一
 

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日本の出生数減少を防ぐ、方策と盲点とは
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191205-00031024-forbes-bus_all&p=1
https://forbesjapan.com/articles/detail/31024
2019/12/5(木) 8:30配信 Forbes JAPAN

日本の出生数減少を防ぐ、方策と盲点とは
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厚生労働省の人口動態統計の速報によると、2019年1〜7月の出生数は、51万8590人と、前年同期比5.9%の大幅な減少となった。19年は90万人割れとなりそうだ。110万人割れが05年、100万人割れが16年なので、驚異的なスピードで少子化が進行中だ。対策を講じない限り、日本人の人口は限りなくゼロに近づいていく。

出生数の減少は、1病院当たりの出産数が減ることを意味しているので、必要とされる産科医の数も減る。地方の病院が産婦人科を閉鎖する(あるいは婦人科が維持しても分娩を受け入れない)というニュースをよく聞くようになって久しい。最新の事例では、尼崎医療生協病院による19年8月1日付のお知らせで、「20年2月末日をもって分娩の取り扱いを中止することとなりました」としている。

もちろん、近くの病院の産婦人科が閉鎖されると、さらに子どもを産もうという意欲をそぐ結果となり、さらに出生数は減少する。分娩を担当する産科医を増やすためには、地理的に近いところにある地域の総合病院の統合、地域の総合病院と(個人)開業の産科医との連携などが考えられる。総合病院で働く産科医の収入が増えるような方策がぜひとも求められる。

産婦人科医は、診療数の割には訴訟リスクがほかの専門医よりも高い。17年の医事関係訴訟事件(地裁)を診療科目別で見ると、内科181件、外科112件、整形外科100件、歯科88件に次いで、産婦人科が54件である。しかし、これを医師1人当たり、あるいは診察1回当たりなど基準化すると産婦人科の訴訟割合は突出して大きい。出産時における不幸な結果が、医師の過失なのか、医師が最善を尽くしたにもかかわらず起きた事故なのかを、法廷で争うと、時間も弁護士費用などもかかり、個人的にも社会的にも非常にコストが高くなる。

このようなことから、医師の無過失保険(責任の所在を争わない)、「産科医療補償制度」が09年に創設された。しかし、その範囲は分娩に関連して発症した重度脳性麻痺児に限定されている。産科医になるのを躊躇させるようなリスクの軽減は必要で、無過失保険の適用範囲の検討は急務である。

幼児教育無償化よりも待機児童の解消を

夫婦の希望する子ども数(だいたい1.8人といわれている)をはるかに下回る合計特殊出生率しかない(第二次ベビーブームのピークでは1973年に2.14を記録したがその後低下が続き、89年に1.26で底を打ち、16年には1.44まで回復したが、近年は再び低下傾向にある)。子供は欲しいけれど、さまざまな理由で実現していない。これが何十年も続いている。最大の要因のひとつは、働く女性のキャリア形成が、出産、子育てによって中断されることである。

男女雇用機会均等法が施行されたのが、86年。それからおおよそ10年後に第二次ベビーブームで生まれた世代が子どもを持つ年齢になっている。この10年間の間に、出産、子育てをしてもキャリアの中断にならない制度(保育園、幼稚園の数の劇的増加)を考えて実行すべきだった。

女性の社会進出は、いろいろな意味で大変に意味のあることである。しかし、それが出生率の必要以上の低減につながったのは、国の将来を考えるうえで禍根が残った。現在の安倍政権での女性の労働参加率の上昇と、幼児教育無償化などの努力は、30年遅い。

また、19年10月に始まった幼児教育無償化も、共働き夫婦の子供を持とうとする決断の後押しとしては、弱い。彼らが第一に求めているのは、待機児童の解消の保証であり、無償化ではない。公的な認可保育所などの費用は共働き夫婦にとっては払えない金額ではない。問題は入所の確約が得られないことだ。1人目の保育所の確保に苦労すると、2人目は二の足を踏むという夫婦も多い。

待機児童解消が出生率の上昇のためには必要なのであり、そのための政府や企業の努力はまったく足りない。1人でも待機児童がいたら、保育所を増設するくらいの政府の保証が必要だ。保育士が足りなければ、保育士の給与を引き上げる。また、保育士の補助をする職種を新設することも考えればよい。これも、早急に手を打たないと、無償化はしたけれど、出生率はさらに減り続けるだろう。

伊藤 隆敏
 

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賃金が上がらない国になった、日本を待ち受ける「修羅場」
https://diamond.jp/articles/-/222495?display=b
野口悠紀雄:早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問

政策・マーケット 野口悠紀雄 新しい経済成長の経路を探る
2019.12.5 5:00

日本紙幣 Photo:PIXTA

 アベノミクスが始まった2013年以降、法人企業の従業員1人当たり付加価値は順調に増加した。とりわけ規模の大きな企業で、この傾向は顕著だった。

 しかし、この間に賃金はほとんど上がっておらず、増加した付加価値はほとんど企業の利益に回された。

 なぜこのような現象が起きているのだろうか?

 それは、大企業で非正規従業者が増えているからだ。

「1人当たり付加価値が増えても賃金が上がらない」というこのメカニズムが、いまの日本経済で最大の問題だ。

従業員当たりの付加価値は増えるのに、
賃金は上がらない

 前回の本コラム「日本経済は『長期的な縮小過程』に入った可能性が高い理由」(2019年11月28日付)で、「就業者1人当たりの実質GDPが2018年に低下した」と指摘した。

 法人企業統計で見ると、どうだろうか?

従業員1人当たり付加価値の長期的な推移は、図表1のとおりだ。

 全規模で見ると、00年代に徐々に落ち込み、リーマンショックでかなり落ち込んだ。その後、徐々に取り戻して、17年に1996年頃の水準まで戻った。

 このように、2012年以降の期間では、従業員1人当たりの付加価値は顕著に増加した。

〔図表1〕従業員1人当たり付加価値(全規模)
https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/e/f/670m/img_efd95c2a83f482419a915a96bdb474b386384.jpg

 ところが、後で見るように、この期間に、従業員1人当たりの給与(賃金)は増えていないのだ。

 付加価値が増えたのに、なぜ、賃金が上昇しないのか?

大規模企業で顕著な
利益増と給与のギャップ

 従業員1人当たり付加価値の状況は、企業規模で違いがある。

 以下では、資本金5000万円以上の企業を「大中企業」、資本金5000万円未満の企業を「小企業」と呼ぶことにし、これらを比較する。

 大中企業の状況は、図表2に示すとおりだ。

 1990年代の半ば以降、ほとんど一定だったが、リーマンショックで2008、09年に減少した。

 その後、13年頃から増加し、最近までその傾向が続いている。

 ただし、水準からいうと、リーマンショックで落ち込んだ分を取り戻して、最近の年度でやっとリーマンショック前に戻ったにすぎない。

 他方で、小企業の状況は、図表3に示すとおりだ。

 1990年代の半ばから傾向的に減少した。リーマンショックの影響は、大中企業ほど顕著ではなかった。

 2008年以降、傾向的に増加していたが、18年には落ち込んでいる。

〔図表2〕従業員1人当たり付加価値(大中企業)
https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/8/6/670m/img_86fc4cb9d2857a7ec6b85299ebcdc4dd87220.jpg
〔図表3〕従業員1人当たり付加価値(小企業)
https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/5/8/670m/img_58c79ba2617d69729f6dee7c5cdd709a92208.jpg

つぎに、給与水準の動向を見よう。

 大中企業の状況は、図表4に示すとおりだ。2013年から最近に至るまで、ほとんど一定だ。

 上で見たように従業員1人当たり付加価値はこの期間に増加しているのだが、増加分は利益に取られてしまったわけだ。

 これは、後で見るように、非正規就業者を増やして、賃金を抑制しているからだ。

 賃金を抑制することによって利益が増えたのである。

 他方、小企業の状況は、図表5に示すとおりだ。給与水準は、若干、上昇している。とくに2017年頃まではそうだ。

〔図表4〕給与水準(大中企業)
https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/1/2/670m/img_12bc7140e2528818603ce13588f56cdf60842.jpg
〔図表5〕給与水準(小企業)
https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/7/0/670m/img_7064d84a9459b4544a3ba46a601556da67515.jpg

大中企業で非正規就業者が増えた
増加した従業員の8割を占める

 大中企業で従業員1人当たり付加価値が増えたのに、なぜ、賃金が上昇しないのか?

 それは、小企業から大中企業への就業者の移動があり、また、新しく非正規になった人が大中企業に雇われたからだ。

 この現象を、「『大企業の零細企業化』が賃金下落や経済停滞の“真の原因”」(2019年11月21日付)で、「大企業の零細企業化」と名付けた。

 その状況を詳しく見よう。

 まず、大中企業の人員の推移を見ると、図表6のとおりだ。顕著な増加傾向が見られる。2013年には1750万人程度だったものが、18年には2000万人を超えており、この間に250万人以上増加している。

 他方で、小企業の人員の推移を見ると、図表7のとおりだ。

 13年には1700万人を超えていたのが、18年には1600万人程度となっており、この間に100万〜150万人程度減っている。

 これらの人々は、大中企業の非正規従業員になったと推測される。

〔図表6〕人員(大中企業)
https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/2/b/670m/img_2b8fb9878c605077887640fa3644da83110580.jpg
〔図表7〕人員(小企業)
https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/f/6/670m/img_f652ce4aa50d9b392fa571c3322b3dcf108554.jpg

 他方で、13年から18年の間の日本全体の就業者の変化を労働力統計によって見ると、つぎのとおりだ。

 就業者は6318万人から6655万人へと337万人(5.3%)増加した。

 役員を除く雇用者は、5213万人から5596万人へと383万人(7.3%)増加した。

 このうち、正規従業員は3302万人から3476万人へと174万人(5.3%)増加した。また、非正規従業員は1910万人から2120万人へと210万人(11.0%)増えた。これは、役員を除く雇用者の増加のうちの55%を占める。

 この数字を参照すると、1つの可能性として、上で見た大中企業の人員増250万人のうち、非正規従業員がつぎの数だけいたと考えることができる。

(1)小企業から流入した150万人

(2)それ以外に増加した従業者(100万人)のうちの55%である55万人

 そうであれば、大中企業で増加した従業員250万人のうち、205万人が非正規従業員だったことになる。つまり、増加した従業員の約82%が非正規従業員だった。

 これが、「大企業の零細企業化」と言ったことの内容だ。

今後も賃金が上がらなければ、
どうなるか?

 今後、製造業の業績悪化で売り上げが減少すると、利益は大幅に落ち込むだろう。

 この結果、1人当たり付加価値は減少に転じる可能性が強い。
 他方で、小企業から大中企業への従業員の移動は、今後も続くだろう。とくに、消費税でインボイスが施行されると、この動きが加速されるだろう。つまり、「大企業の零細化」は、さらに進むだろう。

 働き方改革における「同一労働・同一賃金」によって正規職員の諸手当が減額されている。

 また残業規制によって残業手当がなくなる半面で、仕事量は変わらないので、就業時間外に会社の外で仕事をせざるを得なくなっているとも言われる。

 これらは、正規従業員の実質的な賃金切り下げと言うべきものだ。

 こうなると、「正規従業員の非正規化」と言える状況が進行するかもしれない。

 総じて、賃金が伸びない状況は、今後も続くだろう。

 今後、賃金が上がらないとすると、社会保険の保険料も増えない。

 公的年金の収支バランスを確認する「財政検証」のケース気任蓮¬礁楪其發年率2%上昇するとされている。しかし、このようなことは到底達成できないだろう。

 それに加えて被保険者(保険の負担者)数が減少するので、保険料の総額が減るだろう。

 こうして、公的年金制度が破綻することが予想される。

 同様の問題が、医療保険や介護保険でも発生し、社会保障制度の維持は極めて困難になるだろう。

 日本の賃金水準が国際的に見て低水準になってしまうことは、長期的な経済発展の観点からも由々しき問題だ。

 高度な技術者や研究者のジョブマーケットは国際的なので、海外から優秀な人材を呼び寄せられないのはもちろんのこと、日本からの人材流出が起きることになる。

 韓国の賃金水準はすでに日本の4分の3程度になっており、最低賃金は韓国のほうが高い。

 日本人非正規就業者のドルベースの賃金と新興国の平均賃金が接近してくると、「外国人労働者の枠を広げても、労働者が来ない」といったことが十分に考えられる。

(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄)

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2020年、日本人は「大転職時代」を迎えることになる
終身雇用、年功序列はもう終わり
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/68843
中原 圭介 経済アナリスト 2019.12.4 講談社ismedia

プロフィール
「終身雇用を守っていくのは難しい」――。今夏、トヨタ自動車の豊田章男社長が突然語ったこの発言は産業界に衝撃を走らせた。長年日本的雇用の象徴とされてきた終身雇用が「終わる」と言われて現実味がない人も少なくないだろうが、「この日本で終身雇用崩壊はもはや避けられない」と指摘するのは『定年消滅時代をどう生きるか』著者で経営アドバイザーの中原圭介氏である。しかも、2020年からはこれまでとはまったく違う形へと「雇用」が大激変していくというのだ。いったいこれから何が起きるのか――。中原氏が雇用の現場の知られざる最前線を徹底レポートする!

2020年、雇用の「大変革」が始まる!

2020年は日本の雇用が大変革を遂げる年になります。

その象徴的な動きがすでに始まっていることを皆さんはご存知でしょうか。

トヨタは2019年度に総合職の採用に占める中途採用の割合を2018年度の1割から3割に、中長期的には5割に引き上げるという決定をしました。トヨタが変われば日本の企業全体も変わるといわれているだけに、そのインパクトは計り知れません。

〔photo〕gettyimages

トヨタが中途採用を5割にする方針というのは、岩盤とされる日本型雇用の「大きな山」が動いたと捉えることができます。

遅かれ早かれ、日本における新卒一括採用の重要性は次第に薄れていき、大手企業を中心に中途採用の割合が5割を超えてくるのが一般的な情勢になってくるでしょう。若手を育てる時間とコストをかけるよりも、即戦力の人材を中途で採用しようとする考え方が、多くの企業で主流になってくるはずです。

トヨタに限らず、すでに多くの企業では、終身雇用や年功序列の終わりが近いと感じさせる動きが起きています。

少子化で絶対数が少ない優秀な若者を採用するため、若手の給与を大幅に引き上げる代わりに、中高年全体の給与を引き下げるというケースが増加しているのです。

それに加えて、今のところ業績が好調であるにもかかわらず、中高年の早期退職を募集する大手企業が相次いでいます。一方で専門性が高いデジタル人材の採用では、海外のグローバル企業との人材獲得競争が激しく、従来の給与体系を改めて初任給を1000万円に設定する企業が出始めています。

非常に興味深いのは、大手企業の早期退職を募集する人数が企業の想定を上回って集まっているということ。自らの新しいキャリアを形成するために、前向きに転職を考える人々が増えているからです。それは、高度なデジタル人材の採用も含めて雇用市場が流動化し、新卒採用と中途採用の間にある高い壁が崩れ去るということを意味しています。

「企業が短命、ひとが長寿」になる意味

AI(人工知能)などのデジタル技術の普及に伴って、若手にとっても、中堅にとっても、ベテランにとっても、高齢者にとっても、無縁ではいられない雇用の流動化が起ころうとしています。

これは、私たちにとって大きな危機であり、大きなチャンスでもあります。

1つの仕事や会社に落ち着いて一生を安泰に過ごせる人々は確実に減っていきます。私たちは自らの視野を広げて、持続可能な働き方を模索していかねばならないのですが、それができる人、できない人では経済水準は二極化していくのが必然となっていくでしょう。

経済のグローバル化やデジタル化によって、ビジネスの経営環境が短期間で変わっていく昨今、企業が成長を続けることができる期間も短くなっていく潮流にあります。

株主資本主義のアメリカを中心に企業間の競争は激しくなり、世界的に企業の寿命が短命化する傾向が明らかになっています。企業の寿命が長いといわれる日本でもその影響は免れず、国内企業の平均寿命は2018年の時点で24年にまで縮まってきているのです。

これから20 年のうちに、企業の平均寿命が 20 年を割り込むのは避けられないでしょう。 その一方で、私たちの寿命は確実に延び続けていきます。2018年の日本人男性の平均寿命は 81.25歳、女性は87.32歳と過去最高を更新し続けています。

日本人の三大疾患であるがん、心疾患、脳血管疾患の死亡率の低下傾向が、平均寿命を押し上げているとみられています。これからは遺伝子レベルの研究や、AIを取り入れた医療や戧薬が効果を上げる時期に入ってくるので、平均寿命が男性で 85 歳、女性で90 歳を超えるのは、今後 20 年以内の既定路線にあるといってもいいでしょう。

定年消滅時代に起こること

この2つの流れが意味しているのは、私たちの生きる時間が伸び続けていることで、 70歳を超えても働くのが当たり前の時代になっていくということです。

これからの日本では、大学を卒業後に就職して70〜75歳まで働くことになるので、個人の会社員生活は50年前後と、今の定年より10〜15 年程度も長くなります。将来的に企業の平均寿命が20年を切るようになったら、会社員生活は企業寿命の2・5倍を超える長さになってしまうというわけです。

平均的な働き方をする日本人であれば、計算の上では人生で3つの仕事や会社を経験しなければなりません。そこで充実感のある人生を歩み続けるためには、1つの仕事や会社に従事する期間を15〜20年に区切って自らのキャリアを見直し、必要に応じたスキルアップをはかっていくことが肝要です。

たとえば、30代後半を第一の定年、50代後半を第二の定年としてキャリアを3つに区分したうえで、リカレント教育(学び直し)に勤しみながら、新しいスキルを習得するという生き方が広まっていくでしょう。

世界で企業寿命とビジネスモデルの短期化が進んでいく時代には、たとえ著名な大手企業であったとしても、新卒社員を定期的な研修によって分け隔てなく育成するのは、極めて難しくなります。

企業が行う新卒一括採用が通年採用に少しずつ移行していく過程では、雇用契約が職務や勤務地が限定されない「メンバーシップ 型」から、限定される「ジョブ型」へと大きく変わっていくからです。「ジョブ型」での給与は年齢ではなく職務に対して支払われるので、日本型の「終身雇用」や「年功序列」の制度が崩れていくのは不可避な情勢なのです。

3年で1つのプロを目指す

よってこれからは会社が社員のキャリアをつくるのではなく、ひとりひとりの社員が自らの責任においてキャリア形成を考えなくてはならなくなります。

そして新しいスキルを身に付けようとする訓練は、若者だけではなく、中高年や高齢者にも求められるようになっていきます。

そんな生涯現役時代において日本人が納得できる職業人生を送るには、今の若者の仕事に対する価値観が大きなヒントになると思っています。若者にとって仕事というのは、自らがスキルを磨いて成長できる機会であるのに加えて、やりがいや楽しさを感じることができる対象でもあるからです。

中高年と高齢者も若者と同じような考え方に変えていくことが、人生をいっそう楽しく豊かなものにするポイントになるはずです。

〔photo〕iStock

数年後、私たちは今よりも個人の趣向に合わせて多彩な分野のスキルを学ぶ機会に恵まれているはずです。だから自分の価値をいっそう高めたいのであれば、現時点で有するスキルとは別に、その周辺の新しいスキルを会得することが効果的です。

たとえば、1つのスキルで専門家(プロ)の領域に3年で到達しようとすれば、トータル9年で3つの分野の専門家になることができます。

その結果として、私たちは元々持っているスキルを中心に、関連が深い専門性を高めることができるばかりか、かつてより多角的な視点を持った専門家になることができるでしょう。 無論、これまでのキャリアやスキルを捨て去って、心機一転、まったく別の分野の専門家になるのも一手です。

「掛け算」でスキルを磨く時代へ

その場合にはできる限り、自分が好きなことや関心がある分野を選ぶようにするのが良いでしょう。

人はどのような分野であっても、好きなことや関心があることについては熱意を持ち、労力を惜しまずに努力するため、上達が早くなる傾向が強いからです。好きなことを仕事にする幸運に恵まれれば、それだけでも人生は十分に楽しいものとなるのではないでしょうか。

多くの人々が誤解しているようですが、個人の価値を大いに高める方法というのは、1つの専門性やスキルを「達人」と呼ばれるほど極めるだけではありません。

達人といわれるレベルにまで達していなくとも、1000人に1人(=上位0.1%)、あるいは1万人に1人(=上位0.01%)の価値を有することは、みなさんが考えているほど難しいことではないのです。私たちが専門性やスキルを3つ持っていたとしたら、相乗効果が発揮されて、私たちの価値を格段に高めることができるはずです。

なぜなら私たちの価値というのは、専門性やスキルの習得数の「足し算」ではなく、「掛け算」で決まっていくからです。専門性やスキルの数が増えるほど、掛け算の回数も増えていくので、ネズミ算式に人材としての価値が高まっていく。その恩恵として、私たちの働き方や生き方の選択肢の幅が想像を超えて広がっていきます。

私たちが社外でも通用するスキル戦略を実行することができれば、何者にも縛られない立場で自由な働き方や生き方ができるようになるというわけです。

大転職時代の思考法

今の若い世代を見ていると、興味の範囲は狭いといわれるものの、中高年の世代と比べると仕事を楽しむ能力を獲得する適性を持っているように見受けられます。仕事で成長したいと考える人の割合はとりわけ 20 代で高く、転職することも意欲的に考えているようなのです。

逆に中高年の世代を中心に、転職する、あるいは仕事を変えることに抵抗を感じる人は未だ多いのが現実です。

しかし、人生のなかで異なる仕事を何回も経験できる機会が増えていくわけですから、その変化を楽しもうとする未来志向で臨んでほしいところです。企業が求める専門性やスキルを持っている人は、いくつになっても年齢に関係なく、雇いたいというオファーがひっきりなしに来ます。これからの社会では、考えようによっては、とても豊かで楽しい社会になるはずです。

「定年消滅時代」には、自らの興味や好奇心の幅を広げて学び直すことが、満足できる人生を送る秘訣になってくるのです。

 

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