論説−私論・公論 - 裁量労働制 「連合」修正案のまやかし

裁量労働制 「連合」修正案のまやかし

2017/7/17 1:01
                     兵庫県立大学客員研究員 松浦 章

連合が従来の方針を転換し、「高度プロフェッショナル制度」の導入と、「企画業務型裁量労働制」の営業職などへの拡大を容認したことに波紋が広がっています。

連合の神津里季生会長は、「高度プロフェッショナル制度」について、新たな健康確保措置を義務づけることで「大幅に改善できる」と胸を張ったと報道されています。しかしこれまで連合自身が「残業代ゼロ制度」であると一貫して批判してきたこと、制度の骨格には何ら変更がないことなどから、連合傘下の労働組合ですら異論が続出していると言われています。一方「企画業務型裁量労働制」についても、「一般の営業職」を対象外にすることで、政府提案を受け入れようとしています。神津会長は、裁量労働制が営業職全般に拡大されないために、「対象業務については、商品販売のみを事業内容とする営業所等で働く労働者は対象となり得ないことなどを明確化する」と述べています。しかしこれで歯止めをかけたと言えるのでしょうか。

本稿では、今回の連合修正提案を受け、日本経団連のこれまでの主張と、現実に営業職にまで「企画業務型裁量労働制」が導入されている損害保険業界の実態から、「企画業務型裁量労働制」拡大の問題点についてあらためて明らかにしたいと思います。

連合修正案は日本経団連にとって「痛くもかゆくもない」

まず日本経団連ですが、これまで企画業務型裁量労働制の拡大について、「複合化する仕事の実態に対応し、裁量性のあるPDCA*型業務と課題解決型法人営業を対象業務に追加する」(『2016年版経営労働政策特別委員会報告』)という言い方をしてきました。ここでは、連合神津会長の言う「商品販売のみを事業内容とする営業所等で働く労働者」などは、表面上はもともと対象とされていないのです。ここに「一般営業職」を対象外とするから大丈夫だといくら力説しても、日本経団連にとっては痛くもかゆくもありません。

*PDCA=Plan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)

なお、「高度プロフェッショナル制度」についても付け加えれば、上記の経団連経労委報告は「この制度に対して、過重労働を助長するとの見方もあるが、法律要件に健康確保措置の実施が盛り込まれているほか、対象者はとりわけ高い付加価値の創出が期待される社員であることから、能力発揮への期待と人材の引き留めのため、企業は健康確保に最大限配慮した対応をとると考えられる」(同上)と述べています。修正案の目玉である「健康確保措置」について、建前上ここまで言及しているのです。このように日本経団連にとって何の影響もない修正案にどれだけの意味があるのでしょうか。

損保ジャパン日本興亜の違法な「裁量労働制」

次に損保業界の実態との関係ですが、筆者はこれまでも本コラムで、損保各社の違法な「企画業務型裁量労働制」導入を指摘してきました。とりわけ損保ジャパン日本興亜の「企画業務型裁量労働制」については、本来対象外であるはずの営業や保険金サービス(自動車保険などの損害調査・保険金支払業務)の職員に対してもこの制度が適用されていること、職員18,000のうち、「企画業務型裁量労働制」が6,000人強の社員に導入され、そこに「事業場外労働制」と名ばかり「管理監督者」を加えると、実に60%以上の社員が労働時間管理の対象外となっていることを問題視してきました。

6月26日に開催された、同社の金融持ち株会社SOMPOホールディングスの株主総会では、違法性を追及した株主に対して、笠井聡執行役員(人事部特命部長)が次のように回答しました。

「損保の営業社員につきましては、直接お客さまに保険を売る営業をしているわけではございません。代理店の皆さまに対する企画、それから販売のプランニングというか、そういうような業務を中心にやっております。ですので、私どもはこれはいわゆる純粋な営業職員ということではなく、企画型の裁量労働制が適用される職種であるというふうに考えております。ここは、労働組合とも充分に話し合いをしておりまして、それを本当に労働基準監督署にも届出をして適法に運用しているというふうに考えております」

この回答には大きなごまかしがあります。厚生労働省労働基準局監督課の通達(厚労省ホームページ「裁量労働制の概要」)によると、「企画業務型裁量労働制」とは次の3要件をすべて満たす業務とされています。

会社運営の企画、立案、調査分析の業務

仕事の進め方を大幅に従業員に任せる業務

時間配分について上司が具体的な指示をしない業務

したがって、会社をあげて行う企画の内容を考える主体となったり、新しく参入する事業を検討したりするなど、会社の「舵取り」にかかわる仕事がこれに該当します。直接保険を売るとか売らないとかではないのです。たしかに損保の営業は代理店に対して行うものですが、だからと言って「企画業務型裁量労働制」の対象になるとは到底考えられません。もしそうであれば、多くの企業の「営業職」はほとんど対象になってしまいます。そもそも労働基準法「改正」など必要ないということになります。

裁量労働制「修正案」は何の歯止めにもならない

「直接お客さまに保険を売る営業をしているわけではございません」という回答は、連合神津会長の言う「対象業務については、商品販売のみを事業内容とする営業所等で働く労働者は対象となり得ない」という修正案が何の歯止めにもなりえないことをも明らかにしています。多くの企業の「営業」業務は、いまや大半が、企画・立案を中心とした「提案型営業」です。御用聞き(訪問販売)のような単純な商品販売など現実にはないということです。またあったとしてもその境界線はきわめてあいまいであることを認識しない空論だと言わなければなりません。この点、現在明らかにに「違法」である損保ジャパン日本興亜の「企画業務型裁量労働制」は、連合の言う修正案では晴れて「合法」になります。そして、すべての業務が「勤務時間を自分でコントロールできる仕事」だとされ、「成果達成に向けて自己の裁量で自由に勤務」できることになってしまいます。しかしいま同社で導入されているのは入社4年目からです。26〜27歳の若い社員が自由な時間に出退勤できるものかどうか、少し考えただけでわかることではないでしょうか。

 また、連合神津会長はこうも言っています。

「そもそも、現在の裁量労働制にも問題点があります。裁量労働制で働く者は、仕事の進め方や時間配分に関して主体性を持ちたいと思いつつも、実際には、労働時間(在社時間)が長かったり、取引関係における短納期などの要因により業務に対する裁量性が小さかったりするなど、本来の制度趣旨に沿わない実態にあります。対象業務拡大の前に、裁量労働制の適正な運用がなされるようにすべ きです」

 これだけを見ればもっともな指摘です。そうであるならば、まず連合傘下の労働組合が、現実の裁量労働制の実施・運用を適正に行っているのかどうか、検証すべきではないでしょうか。損保ジャパン日本興亜の多数派労働組合は連合です。同社は、この連合傘下の「労働組合とも充分に話し合い」を行い、認めてもらっているから何の問題もないと抗弁しているのです。

同社の「企画業務型裁量労働制」については、3月22日、参議院・厚生労働委員会で共産党の小池晃議員が取り上げ「損保ジャパン日本興亜の人事部資料を見ますと、企画業務型裁量労働制の対象として『営業』とはっきり書かれております。これは明らかに対象外だと思います。実際、労働者へ聞いたところ、支店とか、20人から30人程度の支社の一般の営業職にまで企画業務型が導入されている。これ直ちに調査すべきじゃないですか」と追及しました。これに対して塩崎恭久・厚生労働大臣は、「労働基準法違反ということを確認された場合には当然厳しく指導していかなきゃいけないというふうに思います」と回答しています。

 すでに国会マターとなっているこうした問題を検証し、労働基準法違反がまかり通っている現状を明らかにすることが連合の当面行うべき仕事ではないでしょうか。

 連合の軽率な行動は多くの労働者の生活と、場合によっては命までしばってしまいます。もし連合が労働者の代表と言うのであれば、代表にふさわしい、労働者に堂々と顔向けのできる行動をとるべきでしょう。そうでなければ「代表」などと考えないでほしい、少なくとも労働者の労働条件改善のじゃまだけはしないでほしい、というのが多くの声ではないでしょうか。
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