論説−私論・公論 - 損保ジャパン日本興亜 「裁量労働制」を10月から見直すというが、それで「違法性」は解消されるのか?

損保ジャパン日本興亜 「裁量労働制」を10月から見直すというが、それで「違法性」は解消されるのか?

2017/7/30 1:16
               兵庫県立大学客員研究員
               大阪損保革新懇世話人  松浦 章
 
損保業界最大手の損保ジャパン日本興亜は、7月28日、社内文書「『働き方改革』の推進策(2017年10月ワークルール改定等)」において、営業課支社・保険金サービス課の職員に対して適用してきた「企画業務型裁量労働制」を2017年10月1日より「事業場外労働制」に変更することを明らかにしました。

同社は改定の背景について次のように述べています。
 
◆現在多くの社員に適用している企画業務型裁量労働制は、時間の使い方を個 
人の裁量に委ねる自由な制度である一方で、アウトプットと生産性の相関関  
係が把握しにくい側面があります。
◆生産性向上を実現するためには、各自の仕事に対する目的意識や優先順位付
け、仕事の進め方自体の変革が必要ですが、合わせて労働時間を客観的に把
握する仕組みも必要であり、「時間管理」と「多様な働き方」が両立するワー
クルールへの改定を検討してきました。
 
このように述べたうえで、営業や保険金サービス(自動車保険などの調査・支払業務)の職種に幅広く適用してきた「企画業務型裁量労働制」を見直すこととしたものです。
 
同社は現在、嘱託などを除く18,000人の職員のうち、入社4年目以上の総合系、専門系、技術調査系職員6,000人以上に「企画業務型裁量労働制」を導入しています。本来「企画業務型裁量労働制」の対象外であるはずの、営業や保険金サービスの職員に対しても、この制度が広く適用されているのが特徴です。

この問題については、3月22日の参議院・厚生労働委員会で、小池晃議員(日本共産党書記局長)が、「損保ジャパン日本興亜の人事部資料を見ますと、企画業務型裁量労働制の対象として『営業』とはっきり書かれております。これは明らかに対象外だと思います。実際、労働者へ聞いたところ、支店とか20人から30人程度の支社の一般の営業職にまで企画業務型が導入されている。これ直ちに調査すべきじゃないですか」と厚労省に調査・是正を求めていました。

また、2017年6月26日のSOMPOホールディングス(損保ジャパン日本興亜の金融持ち株会社)株主総会では、株主から「こんな問題で損保ジャパン日本興亜、SOMPOホールディングスの名前が国会で取り上げられるというのは、やっぱり企業イメージとしてマイナスではないかなと思います。ぜひ、法律違反というふうに見えるようなさまざまな制度はおやめになったほうが良いのではないか」との質問が出されました。

筆者自身もこれまで、さまざまな学会・研究会・集会等で損保業界の違法な労働時間制度を取り上げ、政府・日本経団連がすすめようとしている労働法制「改正」に警鐘を鳴らしてきました。働き方ASU-NETの本コラムにも2014/06/03、2017/01/17、20170402と3回にわたって掲載しています。
 
同社は、現行制度は違法ではない、改定するのは社内文書のとおりあくまでも「時間管理」と「多様な働き方」の両立のためだと言うのでしょうが、社会的な批判によって変更を余儀なくされたであろうことは想像に難くありません。同社の挙げる理由はともかく、違法な労働時間制度が改定されることに異論はありません。

ただ問題は、この改定によって違法性がなくなるわけではないということです。筆者は損保業界の「事業場外労働制」についても「企画業務型裁量労働制」同様、かねてより一貫してその違法性を問題視してきました。20170402の本コラムでは次のように指摘しています。
 
「問題にすべきは『企画業務型裁量労働制』だけではありません。同社では、裁量労働制の対象にならない入社4年未満などの営業・保険金サービス部門2,000人に「事業場外労働制」を適用しています。この制度は『事業場外で業務に従事した場合、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものと』(労基法第38条の2)みなすものです。しかし損保の営業や保険金サービスの仕事は、けっして労働時間の把握が困難なものではありません。営業であれば代理店を訪問することが中心業務です。行き先ははっきりしており連絡も簡単に取れる状況にあります。制度導入自体、労基法違反と言わなければなりません。この制度により、外出する日は、どれだけ働いても1日の労働時間は『みなし労働時間』の8時間しかカウントされないのです。結果、多くの労働者がサービス残業を余儀なくされています」
 
 
なお前述の株主総会でも、事業場外労働制について次のような株主の発言がありました。
 
「2014年1月24日の最高裁判決*で、海外の添乗員の人たちにやはり同じように事業場外労働制を適用していた旅行社に、それは違法だという判決が出ています。・・・・・・きちっと法律にそった労働時間管理、その中で長時間労働を縮小していく、なくしていく、そういうことが企業としても非常に求められているんではないでしょうか。ぜひ、本当に法律の趣旨にそった真摯な対応をお願いしたいと思います」
 
これに対して同社の笠井聡執行役員(人事部特命部長)は、「ご指摘のとおり法令に違反しないようにしていきたいと思っております」と回答しました。しかし、同社の今回の改定は、法令違反を解消するのではなく、別の「違法」な制度に乗り換え、法令違反を延命させるだけのものと言わざるをえません。
 
*阪急トラベルサポート事件
募集型の企画旅行の添乗業務に従事し、事業場外労働制が適用されていた労働者が、使用者に対して、時間外割増賃金等の支払い等を求めて提訴した事案。最高裁は、労働者が会社から貸与された携帯電話を携行していること、労働者の実際の行動については同人が記録する詳細な添乗日報によって把握することができること、などを理由に、「労働時間を算定し難いときに当たるとは言えない」として、使用者の主張を退けました。
 
株主総会の資料によれば、SOMPOホールディングスの櫻田謙吾CEOには1億2,200万円、損保ジャパン日本興亜の西澤敬二社長には1億400万円の役員報酬が支払われています。もちろん経営者としての苦労があることは否定しません。しかし現場の社員もやはり大変な苦労をして毎日の業務を遂行しているのです。「働き方改革」をこれだけ掲げるのであれば、何よりも社員の状況に思いをはせ、「生産性向上」の前に、まず労働基準法を遵守し適正な賃金を支払うことからスタートすべきではないでしょうか
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