論説−私論・公論 - 伊勢本ゆかりさん「技術的失業への懸念を払拭するはずの世界銀行レポートに批判が殺到した理由」(10/1)

伊勢本ゆかりさん「技術的失業への懸念を払拭するはずの世界銀行レポートに批判が殺到した理由」(10/1)

2019/10/1 9:06

技術的失業への懸念を払拭するはずの世界銀行レポートに批判が殺到した理由
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191001-00010000-ampreview-bus_all&p=1
2019/10/1(火) 6:00配信AMP[アンプ]

技術的失業への懸念を払拭するはずの世界銀行レポートに批判が殺到した理由

ロボットやAI・人工知能の進化が止まらないなかで、世界中に懸念が広がっているのが、自分の仕事が近い将来、ロボットや人工知能に取って代わられるかもしれない、という脅威だ。

昨年発表された世界銀行の世界開発報告2019年度版(WDR2019)は、そんなロボットや人工知能の普及による失業懸念を払拭する内容の報告書であった。

ところが・・・ その見解に批判が殺到し、世界中で議論が白熱する羽目になった。いったい何が書かれていたのだろうか。

第四次産業革命は雇用の増加、とする世界銀行
注目の世界銀行報告書(レポート)は「変わりゆく労働の本質」と題して、次のようにまとめている。

「インダストリー4.0(第四次産業革命)」と称される、IoT、ビッグデータ、ロボット、人工知能(AI)などによる技術革新は、コンピューターが登場し自動化が進んだ第三次産業革命と何ら変わりがない。

過去の例を見てもわかる通り、このような「機械化」は労働者にとって、全くの脅威ではない。むしろ、新しい仕事が増える、雇用機会の拡大に一役買うと予測してよい。

もちろん、仕事を完全に奪われる単純労働従事者の存在は否定しない。その代わりに、今までになかった新しい仕事が間違いなく生みだされ、その数は失職の数を上回る。また、技術の革新は失職に代表されるような負の面よりも、人々に多くの繁栄をもたらす」。

イギリスでの紡績機の発明に代表される、18世紀の産業革命以来、人々は常に機械制工業化による失職の脅威にさらされてきた。

1880年代に中国の清王朝は、荷物運搬員の仕事が奪われ国内騒乱が起きるとして鉄道建設に猛反対した。イギリスの機械化反対運動家たちは、当時蒸気動力によって経済全体が上向きになっていたにもかかわらず、機械化を妨害した。どれも、新しい技術革新への恐れから出た行動だ。

先進国と発展途上国の産業労働
過去20年の傾向を見ても、国民所得が12,056ドル以上のいわゆる高収入国では、産業労働者の減少傾向が続いている。

特に下げ幅が大きいのは韓国、シンガポール、スペイン、イギリス。それぞれ10%ポイント以上の減少だ。しかしながらこの減少は、国の発展に伴い、人々が製造業からそれ以外の雇用へと移行したからに過ぎない。

というのも、対照的にベトナムやカンボジアを代表する発展途上国では、1980年代以来、何百万もの新しい雇用が生み出されているという結果もあるからだ。

技術革新によって仕事を失うと言われながらも、発展途上国においては平均的に製造業の雇用は安定していると世界銀行の報告書は主張する。

2016年にアメリカのファストフードチェーン、ハーディーズの役員が従業員の代わりとなるであろうをロボットを称して「常に礼儀正しく、常に売り上げを伸ばそうとし、決して遅刻しない。転んでけがをすることもない、年齢も関係なく、セクハラや人種差別もしない」と発言し、従業員に不安感が広まった。

このような発言を耳にすると、ロボット化は、雇用主にのみ利益があって、従業員は完全なる負け組だという説も成り立ちそうだ。それに、こうした単純労働がロボットによって完全にやり遂げられるようになると、真っ先に仕事を失うのは高度の技術を持たない産業労働従事者、低収入の労働者だ。

世界銀行の提案
世界銀行のレポートでは、近い将来必ずやって来る新時代に向けて、各国政府が取り組むべき、考慮すべきいくつかの提案をしている。

一つは人的資本への政府の投資。新しいスキルの教育への投資が、最もシンプルで規範的な解決法だとしている。現在、そして近未来において、テクノロジーの知識と、問題解決能力、鑑識眼のある思考の組み合わせといった、特別なスキルが必要とされている。

同時に忍耐力、協力、共感といったソフト面でのスキル習得も必要であるとしている。これを初等教育から始める必要があり、政府が率先して行わなければならないと提案しているのだ。

先進国各国では終身雇用や正規雇用が衰退の一方をたどる時代、短期雇用や非正規雇用が大多数を占めるようになってきた。それにともない、仕事(と収入)を確保していくために、人は仕事をしながらも生涯学び続けなければならないとしている。

学校で学んだ知識だけでは、事足らない時代になりつつあるというわけだ。

一方、発展途上国においては、大多数がテクノロジーと無関係な、低生産性労働の非正規雇用が主流。このような場合には、ただ正規雇用を増やすことが単純かつ有用とされている。

実際、中東と北アフリカでの失業者の実に30%が高度のスキルを持つ大学卒。テクノロジーの時代は発展途上国にも確実にやって来るのだから、早急に手を打つことが国際競争に参加するカギだとしている。

社会保障制度の改変
次に社会保障制度の改変。レポートでは、非正規雇用が主流となる中、これまでの社会保障制度をやめ、ユニバーサル・ベーシックインカムへの転換も一つの解決策としている。

ユニバーサル・ベーシックインカムとは、年齢や職業、年収に一切関係なく国民一人一人に最低限の生活保障が現金で給付される、という仕組み。例えば一人当たり8万円が渡される。

働きたくない人はこの8万円で最低限の生活をすればよいが、低所得で残業や兼業を強いられていた人たちは、この8万円で時間や生活そのものに余裕が出てくるので、スキルアップのための学習に充てたり、余暇を楽しみ消費活動をするとされている。

また、もとから給付を必要としていない富裕層にとって、最低限の生活保障分が所得税率のアップで徴収されるため、プラスマイナスゼロ、というシナリオも。

なお財源確保は、ユニバーサル・ベーシックインカムの導入により廃止される生活保護や失業保険、年金、医療費などの拠出が無くなるため、あるいは所得税のわずかな税率アップをするだけで十分まかなえるという試算がある。

もちろん、これまで労働の対価として給料を得てきた社会で、この制度への転換は様々な問題に直面することは火を見るより明らか。それでも、オランダやフィンランドで限定的に実験が行われ、日本でユニバーサル・ベーシックインカムを擁護する識者も多い。

世界的にも、この第四次産業革命と、ユニバーサル・ベーシックインカムをリンクづける議論は多くみられるが、どれも確固たる結論には至っていないのが現状だ。

世界銀行は同レポートで、ユニバーサル・ベーシックインカムのための財源として、資産税や所得税、法人税の厳格な取り立てと、新しい税制の構築を奨励。

例えば、世界的に展開している会社において、往々にして低税率の国での売り上げ計上が見受けられており、納税回避の疑いがある。政府は取りこぼしている多額の税金を厳しく徴収すべきとしている。

世銀を批判も、不透明な未来
今回の世界銀行のレポートは、あたかも非正規雇用を奨励し、社会保障制度を根底から覆し、単純労働従事者を切り捨てるかのような内容として批判が高まっている。

また、進化する技術にアクセスできない発展途上国や、貧困層を置き去りにしているとして非難する団体も多い。世界銀行が一度は脱却したはずの、かつての悪習である「包括的見解」へと逆戻りした、時代に逆行したレポートという声さえ上がっている。

コンサルティング会社マッキンゼーの研究では、この技術的失業は免れられない事実であり、たとえ高度なスキルを要する仕事においても、60%が影響を受け、その仕事の30%を機械まかせにするようになると予測している。

また、世界45カ国(世界の労働者の80%をカバー)で実施した調査によると、技術的失業の影響を最も受けるのがインドと中国。この世界で最も人口の多い2カ国の、6億人もの労働者(アメリカの人口の実に2倍以上)が失業ないし部分的役割をロボットなどの技術により奪われると試算している。

日本の経済産業省も、第四次産業革命への戦略的取組をホームページ上に公開している。教育システムの構築や規制改革も盛り込まれた内容で、「世界に後れをとらないように」「予見が困難」の文言が躍り、切迫感にあふれている。

人間が作り上げたロボット技術や人工知能によって、自らの存在を脅かされるという事態。ほんの50年前には誰も想像しなかったことだ。

またこれから50年後にはどんな試練が待ち受けているのか、今日も白熱した議論が世界中で交わされている。

文:伊勢本ゆかり/ 編集:岡徳之(Livit)
 

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