論説−私論・公論 - ウーバーイーツユニオンが提起した社会的課題とは?  プラットフォーム型労働の法的問題を考える (10/7)

ウーバーイーツユニオンが提起した社会的課題とは?  プラットフォーム型労働の法的問題を考える (10/7)

2019/10/8 17:07

ウーバーイーツユニオンが提起した社会的課題とは?  プラットフォーム型労働の法的問題を考える
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20191007-00145651/
今野晴貴 | NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
2019/10/07(月) 12:00

(写真:アフロ)

 10月3日、ウーバーイーツユニオンの設立総会が行われた。同ユニオンは、ウーバーイーツの配達員たちが結成した労働組合である。

 今年6月から準備会を開き、参加した配達員たちの間で設立に向けた話し合いが行われてきたが、遂に正式な結成に至った。この日、17人の配達員がユニオンに加入し、規約案などが承認された(内容は同ユニオンのホームページに公開されている)。

 ウーバーイーツユニオンのホームページ https://www.ubereatsunion.org/

 彼らの働き方は、シェアリングエコノミーが広がるなかで広がりつつある新しい働き方として注目されている。インターネット上のプラットフォーマーを介して仕事を請け負う「プラットフォーム型労働」という労働形態だ。

 配達員たちは、働きたい時にスマホのアプリをオンラインにして仕事の依頼を受ける。あらかじめ就業時間が決まっておらず、自分の都合に合わせて働くことができるのだ。会社に縛られない「自由な働き方」として肯定的に捉えられることも多い。

 では、なぜ彼らは労働組合を作ったのだろうか。

 実は、このような動きは、私たちの働き方が今後どのように変容していくかという話と無関係ではない。ウーバーイーツユニオンの取り組みは、広がりつつある新しい形態の働き方あるべき姿という、重要な問いを投げかけている。

 今回の記事では、ユニオン結成の背景を探ることで、プラットフォーム型労働と呼ばれる新しい働き方の問題点と働き手に対する保護のあり方について考えていきたい。

プラットフォーム型労働の働き方

 ウーバーイーツが展開するフードデリバリーサービスの仕組みはこうだ。

 消費者はウーバーイーツのアプリを使って飲食店の商品を注文する。ウーバーイーツは店舗の近くにいる配達員に依頼をし、依頼を受けた配達員は自転車やバイクで店舗まで商品を取りに行き、受け取った商品を消費者のところまで配達する。

配達員は、自分の都合に合わせて好きな時にアプリを起動させて依頼を受ける。柔軟で自由度の高い働き方であり、また、職場の人間関係や上司によるハラスメントに悩むこともない。こうした点を好み、配達員として登録する若者が増加している。

このウーバーイーツを例にとり、プラットフォーム型労働の仕組みを以下の図で説明していこう。

 飲食店(企業)と配達員(働き手)との関係では、飲食店の商品を配達員が消費者の元へ配達するという関係が成り立っている。このような取引は通常であれば業務委託契約などに基づいて行われるが、ウーバーイーツでは両者間では契約を交わしたり報酬を授受したりはしていない。

 飲食店側と配達員の間の関係を成り立たせているのがウーバーイーツ(プラットフォーマー)だ。下記の経済産業省の図を参照するとわかりやすい。

出所:経済産業省「『雇用関係によらない働き方』に関する研究会報告書」(2017年3月)

 消費者がウーバーイーツのアプリで注文をすると、ウーバーイーツは飲食店に商品を発注すると同時に、店舗の近くにいる配達員に配達リクエストを行う。こうして三者間の関係が成立する。

消費者から代金を受け取るのはウーバーイーツだ。ウーバーイーツは、消費者から定額の配送手数料を受け取るとともに、飲食店に商品の代金を支払う際に一定割合の手数料を差し引いている。配達員に対しては、ウーバーイーツから配達先までの距離に応じた報酬が支払われる。

 このように、プラットフォーマーであるウーバーイーツは、飲食店と配達員をマッチングする機能を果たしている。そして、この関係において、配達員はウーバーイーツと雇用関係になく、個人事業主とされている。

プラットフォーム型労働の問題点

 プラットフォーム型労働の問題点は、就業者が個人事業主として扱われ、労働法による保護や社会保険が適用されないことである。

 個人事業主として働く場合、雇用された労働者として働く場合とどのような点が異なるのだろうか。一般的には次のデメリットが挙げられる。

・労災保険の対象にならず、事故による損害を全て負わなければならない
・雇用保険に入れない
・被用者を対象とする健康保険や厚生年金保険に入れない
・契約内容が一方的に変更されるリスクが高い
・解雇規制がない
・有給休暇がない
・仕事の量が変動し、収入が不安定になる
・最低賃金法が適用されない
・経費が自己負担となる
働き手が本当に純然たる個人事業主である場合には問題はないだろう。しかし、実際には「労働者」と同じような働き方をしているのにもかかわらず、個人事業主扱いされ、保護が受けられないということであれば問題だ。

 実際、古くから、労働法上の規制を免れようとする経営者が、働き手を請負契約で働かせ、個人事業主扱いするケースは後を立たない。

 労働者ではなく請負として扱うことにより、その「請負代金」を消費税の仕入控除の対象として消費税負担を軽減することができるし、社会保険料の負担を減らすこともできる。こうしたことも、経営者がこのような扱いをする動機となっている。

 働き手を個人事業主化することは、会社にとって大きなメリットのあることなのだ。

 参考:葬祭大手ベルコの「異様」な組織 副業時代のブラック企業戦略とは? https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20190114-00109903/

ウーバーイーツの配達員に労働基準法は適用されないのか?

 ただし、形式が請負契約だからといって直ちに労働法の適用対象から外れるというわけではない。「業務委託」や「請負」という名称で働いていても、具体的な実態に基づいて「労働者」であるかどうかが判断される。

 簡単にいえば、労働基準法上の労働者性を判断する際には、(1)仕事の依頼を断ることができるか、(2)業務の内容や進め方について指示を受けているか、(3)勤務時間及び勤務時間を指定・管理されているか、(4)業務を他の人に代わりにやらせることができるかといった点を勘案して、総合的に判断するということになっている。

つまり、依頼主との間にどれだけ使用従属関係があるか、どれだけ自律性の高い働き方をしているかという一定の基準に従って、労働基準法が適用されるかどうかが判断されるのだ。

 では、この基準に照らすと、ウーバーイーツの配達員についてはどのような判断になるのだろうか。

 ウーバーイーツの配達員の場合、古くからある「偽装個人事業主」とは少し様相が異なる。

 というのも、彼らの働き方には実際に一定の自律性がある。勤務時間は決まっておらず、好きな時に働けるし、組織の中で指示や指導を受けながら働いているわけではない。このような点を重視すれば、「労働者」ではないと判断されるだろう。

 一方で、彼らの働き方には一定の使用従属性が見られるため、実際に裁判で争われたときにどのように判断されるかは分からない。

 ただ、現実の問題として、彼らが個人事業主とされ、労働法の保護が適用されていないのは紛れもない事実だ。

配達員たちは何を求めているのか

 ウーバーイーツユニオンのホームページウーバーイーツユニオンのホームページウーバーイーツユニオンのホームページには、「私たちの主張・要求」として、「事故や怪我の補償」、「運営の透明性」、「適切な報酬」の三点が挙げられている。

上述したように、配達員たちは個人事業主とされていることから、労災保険が適用されていない。また、ウーバーイーツが提供している保険は対人・対物賠償であったため、配達員自身が負傷した場合の治療費の補償や休業時の所得補償がなかった(ウーバージャパンは10月1日から配達員が事故に遭った場合に見舞金を支払う傷害補償制度を導入している)。

 事故に遭って働けなくなってしまった場合、収入が途絶えるだけでなく、高額な医療費を負担しなければならなくなる可能性がある。配達員たちはこのことに不安を感じており、会社に対しては保険の提供を、国に対しては労災保険が適用されるよう法制度の整備を求めている。

「運営の透明性」についても、労働法の適用が認められないことと関連している。配達員たちは、評価が悪いとアカウントを一方的に停止されたり、仕事の依頼を止められたりすることがある。そうなると、収入が途絶えてしまい、生活に支障が出る。

 労働法が適用される「労働者」の場合、解雇や労働条件の不利益変更に制限がかかっているため、使用者が法律を守っている限り、このようなことは起こらない。

 これについて、ユニオンは、アカウントの一方的な停止をやめることや、配達員の評価や、アカウントの停止手続などについて説明し、運営の透明性を確保することを求めている。

 ここで明確にしておきたいのは、配達員たちは、不安定な立場にあるからといって、雇用関係を結ぶことは求めていないということだ。彼らは、自由度の高い労働形態自体は維持したいと考えており、例えば正社員化などを求めているわけではない。

 彼らが不満に感じているのは、仕事をする上での条件や環境が一方的に決められており、改善を求めても会社側が聞く耳を持たないことである。

 労働形態そのものは維持しつつ、より働きやすい環境を実現するために会社と話し合いの場をもち、配達員の声を運営に反映することを求めているのだ。

ウーバーイーツユニオンの画期性

 ウーバーイーツユニオンが投げかけているのは、単に一企業の問題ではない。

 彼らが問題提起しているのは、新たな労働形態が広がっているにもかかわらず、それに対応する法制度が整備されておらず、現場の働き手たちが不安定な状況に置かれているという問題だ。同ユニオンのホームページには次の文章が掲載されている。

 今後、インターネット上のプラットフォームで仕事を得る働き方はもっと増えていくだろうと思います。だからこそ、そこで働く私たちがもっと安全に、安心して働けるよう、労働条件の改善や、法制度の整備が必要と考えています。そのために、まずはウーバーイーツ配達員の仲間たちで、労働条件の改善につなげたいと考えています。

 私たちは、彼らの声に耳を傾け、プラットフォームワーカーに対する保護のあり方を考えるべきではないか。

 海外では、プラットフォームワーカーによる社会運動も盛んだ。今年の5月には、ニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドンなど、世界の複数の都市で、ライドシェアサービスを担う運転手たちが報酬の引き上げなどを求めて同時ストライキを呼びかけた。

 海外では、こうした運動の影響力もあり、プラットフォームワーカーに対する法的保護が実現している。日本でも法的保護に向けた議論が始まっているが、海外と比べるとかなり遅れてしまっている。

 このような社会的文脈のなかで位置づけるならば、ウーバーイーツユニオンの取り組みは、プラットフォーム型労働という新しい労働形態に対して法制度の整備を求める、国内ではじめての労働運動だと評価することができ、極めて画期的なものだといえるだろう。

団体交渉の行方に注目が集まる

 上述したように、先日、ウーバージャパンによって新たな傷害補償制度が作られたが、これは配達員たちがユニオンの準備会を立ち上げ、声を上げ始めたことと無関係ではないだろう。

 働き手が集まって声を上げることによって労働条件を改善させていくことができるということを早くも現実に示したといえる。

 執行委員長に就任した前葉さんは、「まだ組合に加入した時のメリットを具体的に示せていない。地道に取り組み、結果を出すことで組合員を増やしていきたい。地方の配達員の方ともインターネット上でつながり、一緒に取り組んでいきたい」と述べている。

 ユニオンの活動は、日本労働弁護団所属の弁護士がサポートしており、配達員からの法的な相談にも応じているということだ。配達中に怪我をした方など、困っている方は一度ユニオンに連絡してみるとよいだろう。

 今後、ウーバーイーツユニオンは会社に対して団体交渉を申し入れるという。

 「個人事業主なのに団体交渉ができるのか」と疑問を持つ方もいるかもしれないが、労働組合法における「労働者」は労働基準法におけるそれよりも広いものと解釈されている。ウーバーイーツの配達員は、その働き方の実態から考えて労働者性が認められる可能性が高い。

 労組法上の労働者性が認められれば労働三権が保障され、労働組合を作ることができるし、団体交渉やストライキもできる。この場合、会社には団交応諾義務があるため、正当な理由なく団体交渉を拒否すると不当労働行為になる。

 それゆえ、会社側が団体交渉の申し入れにどのように対応するかが注目される。

 以上のように、広がりつつあるプラットフォーム型労働の世界に日本で初めて切り込んでいったウーバーイーツユニオンの取り組みは非常に画期的なものだ。これからも同ユニオンの動きから目が離せない。


今野晴貴
NPO法人POSSE代表。雇用・労働政策研究者。
労働・福祉運動家/社会学者。NPO法人POSSE代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。年間2500件以上の若年労働相談に関わる。著書に『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)、『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』(星海社新書)など多数。2013年に「ブラック企業」で流行語大賞トップ10、大佛次郎論壇賞などを受賞。共同通信社・「現論」連載中。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。無料労働相談受付:soudan@npoposse.jp、03−6699−9359。 

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