論説−私論・公論 - 窪田順生さん「「日本経済が成長しないのは、中小企業が多いから」は本当か」(10/8)

窪田順生さん「「日本経済が成長しないのは、中小企業が多いから」は本当か」(10/8)

2019/10/9 6:03

「日本経済が成長しないのは、中小企業が多いから」は本当か
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191008-00000031-zdn_mkt-bus_all&p=4
2019/10/8(火) 8:19配信 ITmedia ビジネスオンライン

「日本経済が成長しないのは、中小企業が多いから」は本当か

生産性向上のために、何をすればいいのか

 昨日、日本のシビアな現実を思い知らされるようなニュースがあった。出生数が90万人割れすることが確実となっていて、これは推計よりも早いペースだというのだ。

【画像】日本経済がちっとも成長しない原因

 いろいろ文句はあるだろうが、この十数年、日本が官民をあげて少子化対策に取り組んできたのはまぎれもない事実だ。行政も企業も、働くママを応援だ、子育て支援だなどという施策を行っており、十数年前に比べれば格段に充実をしている。

 しかし、それをやり続けた結果がこれだ。多くの税金を投入して、マスコミがどんなに「夫も育児参加せよ」「子どもはかわいいぞ」とあおっても、出生数急減にブレーキをかけられない。焼け石に水的な「対症療法」に過ぎなかったというわけだ。

 これまでのやり方だけを続けていても事態は悪化する一方だということは、環境整備だけではなく、若い人たちの所得をガツンと上げて、出産や育児へのハードルを下げていくしかない。要するに、先進国の中でダントツに賃金が低く、唯一経済成長もしておらず、デフレが続く日本経済をどうにかして活性化させるという「根治治療」に切り替えるしかないのだ。

 「それができりゃ苦労ないよ」とあきらめムードに包まれる人も多いかもしれないが、実は今、そんな「日本病」に対して有効なのではないかと期待されている「治療法」がある。

 「中小企業改革」だ。

 これは、政府の観光戦略のキーマンとして知られる、デービッド・アトキンソン氏が、新著『国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか』(講談社α新書)の中で提言している改革で、具体的な手法というのは、この10月に引き上げになった最低賃金をさらに年5%ずつあげていく、というものだ。

生産性向上とは「数字」の戦い
なぜこの人は、そんな”弱い者イジメ”を呼びかけるのだ、と怒りに震える中小企業経営者も多いかもしれないが、そこにはちゃんとした科学的根拠がある。

 「伝説のアナリスト」として知られるアトキンソン氏は、これまで日本経済を30年にわたって分析してきた。そこで、低成長、低賃金、低生産性、人口減少など、日本のさまざまな問題をつきつめていくと、結局いつも「非効率な産業構造」に突き当たったという。それを同書の中ではこう指摘している。

 『それは「中小企業が多い」ということです。正確に言うと、中小企業の中でも非常に小さい企業で働く人の割合が高いのです。(中略)この比率が日本では異常なほど高いのです』(P.67)

 と耳にしても、「何が異常だ、小さな会社が頑張っているのが日本の強みだ!」とキレる人たちのお気持ちはよく分かる。ご存じの方も多いだろうが、日本の中小企業は、全企業の99.7%を占めて357万社もある。こういう圧倒的多数がゆえ、「日本の技術力を支えているのは小さな町工場だ!」「中小企業が元気になれば日本経済は復活!」なんて話が長らく「日本人の常識」となってきたのだ。

 ただ、アトキンソン氏の分析を聞くと、それが必ずしも科学的な裏付けの話ではないことが分かる。例えば、同書の中にはOECDのデータを基にして、主要先進国の「従業員20人未満の企業で働く人の割合と生産性」と「従業員250人以上の企業で働く人の割合と生産性」が比較されている。

 まず、「従業員20人未満の企業で働く人の割合」が高い国の面々を見てみると、日本(20.5%)、スペイン(27.3%)、イタリア(30.9%)、ポルトガル(32.1%)、ギリシャ(35.3%)という感じで、そろいもそろって生産性の低い国が並んでいる。

 次に、「従業員250人以上の企業で働く人の割合」が50%から30%という水準の国を見てみると、アメリカ、ベルギー、ドイツ、オーストラリア、デンマーク、フィンランドと日本よりもはるかに生産性が高い国が並ぶ。ちなみに、日本、ギリシャ、ポルトガルは「従業員250人以上の企業で働く人の割合」は20%以下となっている。

 ただ、これは冷静に考えてみれば当たり前で、大企業で働く人は、20人未満で働く人と比べて、高賃金であるケースが多い。人材育成やスキル教育も行われるので、より賃金の高い職場へとステップアップもできる。このような人の割合が増えれば増えるほど、国としての賃金も上がり、生産性も向上していくというわけだ。

 つまり、昨今騒がれているような「社員のモチベーションをあげて生産性向上だ!」「働き方改革で生産性アップ!」みたいな話はB29に竹槍で突っ込むような根性論に過ぎず、生産性向上とはとどのつまり、「企業の規模を大きくして、賃金を上げていく」という「数字」の戦いなのである。

しわ寄せは、弱い立場の下請けに
という話をすると、「規模拡大が目的なら、改革すべきは大企業だ! 最低賃金で人を雇うような小さな事業者をイジメるな!」とどうにかして、自分たちと関係ない方向へ持っていきたい中小企業経営者も多いかもしれないが、先ほども申し上げたように、大企業は日本企業の0.3%に過ぎない。0.3%がどんなに規模を大きくして、どんなに賃金をあげても、日本経済全体への影響は限定的なのだ。

 しかも、もっと言ってしまうと、中小企業改革なくして、大企業改革などをやっても意味がない。有給消化率100%、時間外労働ゼロみたいなホワイトぶりが売りの大企業が実はその裏で、業務効率化の名目で、それまでの時間外労働を下請けに丸投げしていることからも分かるように、大企業に対してどんなに生産性向上を迫ったところで、その無理を「下」に押し付けて、真の改革にはならないからだ。

 例えば、先日もこんな氷山の一角が露呈した。

 LIXILグループ傘下で、「スーパービバホーム」などのホームセンターを展開するLIXILビバが、日用品や大工用品の製造を委託した下請け43社の従業員のべ812人を6100時間以上タダで、売り場の改装や商品の陳列を手伝わせていたことが明らかになったのだ。しかも、宿泊費や交通費も全て自前である。

 これを公正取引委員会は下請法違反に当たるとして再発防止を勧告したが、世間の反応は「こんなのどこもやっているでしょ」「氷山の一角に過ぎない」とシラけていた。そう、大企業が効率化やコスト削減を目指すと、下請けの中小企業にそのしわ寄せがいくのは、この国で働く人間にとっては「常識」なのだ。

 事実、中小企業庁が2019年2月に公表したアンケートでは、中小企業の6割以上が「納期の短縮」を求められ、7割が「繁忙期が発生している」と回答し、こんな生々しい被害の声も寄せられている。

 「取引先の大企業が残業を減らすため、納期が厳しくなった」

 「取引先が時短対応のため丸投げが増え、工程の遅れを下請けが取り戻している」

 関西電力が、原発立地で反対派を黙らせるなどの汚れ仕事を、森山栄治元助役(故人)に丸投げすることによって、表向きは”身綺麗な大企業”でいられたように、「外」をうまく使えば、「改革」というめんどくさい話を避けて現状維持ができてしまうのが大企業なのだ。


日本の「非効率な産業構造」
一方で、このように大企業から無茶振りをされる辛い立場なんだから、最低賃金引き上げなどで余計に苦しめるなという人もいるが、それはまったく逆で、「こういう構造だからこそ最低賃金を引き上げなくてはいけない」のである。

 暴力やハラスメントは水と同じで「上」から「下」へと流れる。親にはいい子を演じるイジメっ子や、上司にヘコヘコするパワハラ中間管理職をイメージしていただければ分かりやすいが、弱者をマウントする者は、その上にいる者からマウントされているケースが圧倒的に多い。実は「労働力搾取」の構造もこれと全く同じだ。

 例えば、大企業がコスト削減のために、これまでよりも大幅に発注額を抑えた仕事を下請けに迫ってきたとしよう。下請けはなかなか断ることができないので、仕方なく首を縦にふる。もし競合がいれば、「ウチはもっと安くできます」「いや、ウチはサービスさせてもらいます」というダンピング競争も始まってしまうだろう。

 では、こういう中で仕事を請け負った下請けはどうするか。安いとはいえ仕事は仕事。少しでも利益を上げたいと思うのは当然だ。そこで出番となるのが、「最低賃金労働者」である。ここで人件費をキュッと圧縮できれば、大企業のムチャ振りもどうにか対応できるというわけだ。

 ここまで言えばもうお分かりだろう。大企業は効率化やコスト削減の無理を、弱い立場の下請けに押し付けて、下請けは利益を生まないブラック労働の無理を、さらに弱い立場である、最低賃金労働者へ押し付ける――。この流れこそが、アトキンソン氏が指摘している日本の「非効率な産業構造」なのだ。

「負の連鎖」を断ち切るには
この「負の連鎖」を断ち切っていくのは、弱い立場である最低賃金労働者の地位をあげていくしかない。最低賃金が一律で上がっていけば、全国の中小企業は、大企業からの無茶なリクエストを拒むしかなくなる。そうすると確かに、「時給800円で人を雇えないならもう利益は出ない!」なんていう中小企業は廃業か倒産に追い込まれる。経営者にとってはお気の毒だが、一方でこの経営者に最低賃金労働でコキ使われていた従業員は解放されるので、むしろ喜ばしい話だ。

 日本は地方も含めて深刻な「人手不足」なので、選り好みをしなければすぐに再就職はできる。最低賃金の継続的な引き上げで、自然淘汰が進めば、それなりの規模の中小企業が増えるので、生産性も向上するし、労働者の賃金もアップしていくというわけだ。

 一方、大企業もこれまでのように下請けに無茶振りができない。「最低賃金が決まっているので、そんな無茶はできません」とまともな中小企業には相手にされない。ブラック仕事を請け負うのは、アウトロー的な違法企業ということになるので、コソコソ裏でやっていれば、今回の関電のように痛いしっぺ返しにあう。

 中小企業経営者の団体である日本商工会議所などは、「事業者の自主性に任せるべきだ」と主張しているが、事業者の自主性に任せてきた結果が、「先進国で最低の賃金」と「ブラック労働」であることは動かしがたい事実だ。

 それはつまり、労働者という「下」に事業コストを押し付けるスタイルを続けてきた結果が、「失われた20年」をつくったということでもあるのだ。「外国人労働者の活用」や「女性活躍」という新たな「下」をつくろうとしている限りは、「失われた30年」になるのも近い。

生産性向上の道のりはまだまだ遠い
ここから脱却をするには、これまでのような「下」に押し付けるやり方は通用しないのは明白だが、一部の専門家の方はいまだにこれまでのやり方に固執している。経済とはコストを「下」に押し付けることで成り立つという考えにとらわれているのだ。

 先日も、ある評論家センセイが、「最低賃金を上げると、低賃金でしか働けない人たちが地方に溢れて日本はおしまいだ」みたいなノストラダムスの大予言みたいなことをおっしゃっていた。

 この方のお考えでは、最低賃金で働く労働者は、ロクにスキルがないので今働いている中小企業をクビになったら、金輪際仕事に就くこともなく永久失業者になるそうだ。だから、中小企業経営者を追いつめてはいけない。これまで通りスキルのない労働者を安い賃金でコキ使わせてやることが、長い目で見れば、日本経済や地方経済のためだという。

 要するに、我々がこれまで通りの生活をキープするには、先進国のなかでも際立って低い賃金でも文句を言わずに働く「低賃金奴隷」が必要ですよ、というのである。

 先日、ネット掲示板で都内のメーカーに12年勤めていて、手取り14万円だと嘆くアラフォーが注目を集めた。また、国税庁の調査では、非正規社員の昨年の平均給与は179万円。先ほどの評論家の方のロジックでは、このような方たちはその賃金に見合うだけのスキルしかないのが問題であって、こういう人たちの賃金を上げていくのは、日本経済をダメにする「愚策」ということになる。

 アトキンソン氏のデータに基づく分析と比べると、「欲しがりません、勝つまでは」に通じるド根性経済論のような気がするのは、筆者だけだろうか。

 いずれにせよ、この国にはかなりの割合で、「日本経済のためには能力ない奴は低い賃金で働け! 仕事があるだけでも幸せと思え」という人たちがいるということだ。

 日本の生産性向上の道のりはまだまだ遠い。

(窪田順生)

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