論説−私論・公論 - 自由法曹団「教員の長時間労働の解消を求め、これに逆行する一年単位の変形労働時間制の導入に反対する」(10/4)

自由法曹団「教員の長時間労働の解消を求め、これに逆行する一年単位の変形労働時間制の導入に反対する」(10/4)

2019/10/18 9:46

2019年10月4日付、「教員の長時間労働の解消を求め、これに逆行する一年単位の変形労働時間制の導入に反対する」意見書を発表しました!
https://www.jlaf.jp/04iken/2019/1004_346.html

カテゴリ:労働,子ども・教育,意見書


教員の長時間労働の解消を求め、これに逆行する一年単位の変形労働時間制の導入に反対する

第1教員の長時間労働の実情とあるべき改善の方向性

1 教員の長時間労働の現状と中教審答申

(1)教員の長時間労働の現状
文部科学省(以下「文科省」という)が実施した2016年度の勤務実態調査によると、教員の1日当たりの学内勤務時間の平均は、小学校で11時間15分、中学校で11時間32分となっており、所定労働時間である7時間45分を大幅に上回っている。自宅などに持ち帰って行う業務を除いても、小学校教員の約3割、中学校教員の約6割が、いわゆる過労死ライン(月80時間以上の時間外勤務)を超えて勤務をしている。
また、厚生労働省が2017年に実施した全国の5,600校の学校と56,456名の教員を対象としたアンケート調査によると、所定時間を超えて業務を行う理由は「自身が行わなければならない業務量が多いため」(69.6%)が最も多く、次いで「予定外の業務が突発的に発生するため」(53.7%)、「業務の特性上、その時間帯でないと行えない業務があるため」(48.9%)であった。また、教員の業務に関連するストレスや悩みのトップは「長時間勤務の多さ」(43.4%)であり、78.5%もの教員が、過重勤務防止に向けて必要だと感じる取り組みとして「教員(専科教員を含む)の増員」を挙げた(2018年度版過労死等防止対策白)。
日本の教員の長時間労働は国際的にも突出しており、OECD(経済協力開発機構)が2019年6月19日に発表した教員の労働や学習環境に関する国際調査では、中学校教員の勤務時間が調査参加国平均で週38.3時間であったのに対し、日本は56.0時間(調査参加国中最長)、小学校教員の勤務時間も調査参加国中最長の週54.4時間であった。
長時間労働の結果、精神疾患に罹患する教員も多く、公立学校の教員に占める精神疾患による病気休職者数はここ数年5,000人前後(全教職員数の0.5%強)で推移している(後述する文科省の答申23頁)。
このような、教員の長時間労働の現状が、教員の心と身体を危険に晒す人権侵害であることは明らかである。
また、教員が多忙であることにより、教員が、児童・生徒とコミュニケーションを取ったり、相談に乗ったり、様子を確認するなどという、児童・生徒と向き合う時間を確保することができない状態が生まれている。教育とは、児童・生徒の学習権を充足させるための責務として行われるべきものであり、本来教員と児童・生徒との直接の人格的接触により行われるという本質的要請があると、最高裁判決でも指摘されている(1976年旭川学力テスト事件最高裁判決)。教員が児童・生徒と向き合う時間を持つことができなければ、児童・生徒との直接の人格的接触の機会を確保することできず、児童・生徒の学習権や成長・発達権を十分に保障することができなくなってしまう。政府には、児童・生徒の学習権や成長発達権を保障する責務に照らしても、教員の長時間労働を解消すべきことが求められる。

(2)中教審答申
中央教育審議会の「学校における働き方改革特別部会」は、2019年1月、「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」(以下「答申」という)及び「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という)を発表した。
ガイドラインでは「勤務時間」の上限の目安を、原則として、1ヶ月の超過勤務を45時間以内、1年間の超過勤務を360時間以内と設定し、答申では「勤務時間」管理の徹底を求めている。さらに、答申では、労働安全性管理の徹底や教員一人ひとりの意識改革、「学校以外が担うべき業務」や「必ずしも教員が担う必要のない業務」などを例示し、学校及び教員の業務の「適正化」を求め、勤務制度として新たに一年単位の変形労働時間制の導入を提言した。
しかし、この答申及びガイドラインには、教員の長時間労働解消に逆行する極めて大きな問題があると言わざるを得ない。以下詳論する。

2 教員の長時間労働を悪化させてきた安倍教育再生

 2012年の第2次安倍政権発足後、「教育再生」と称し矢継ぎ早に教育制度「改革」を推し進めてきた。
その内容は、以下のように、公教育への競争原理の導入と、児童・生徒及び教員への管理強化である。
全国悉皆の学力テストを復活させ、小中一貫校の設置を法制化し、テスト成績や学校の複線化で競争主義的な教育を進め、道徳の教科化によって「愛国心」等の徳目を児童・生徒に押し付けて心の中まで管理しようとしている。また政府の意向を教育現場に徹底するために、教員の身に付けるべき資質を文科省が示したり、「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)を推奨して教員の教え方まで政府が介入し、教科書検定基準を変えて政府見解を教科書に記載させ、教育委員会に首長の影響力を強めるなどの制度改定を行ってきた。
一連の「教育再生」により、小学校からの英語の必修化やプログラミング教育の導入、道徳の教科化などにより、授業時数が増加し、さらに政府が推奨する教え方を行うための研究・研修等の授業準備に多大な労力を要求され、教員の管理強化のため、授業計画書や各種報告書作成などの書類作成が教員に要求され事務作業も増加した。
現在の教員の長時間労働の深刻な状況は、安倍政権の「教育再生」によって悪化し続けてきたものであって、教員の長時間労働解消のためには、この競争主義的教育と管理強化を推し進める「教育再生」政策こそが見直されなければならない。

3 答申及びガイドラインの問題点

 ガイドラインでは、前述のとおり「勤務時間」の上限の目安を定め、答申では「勤務時間」管理の徹底を求めている。しかし、上限違反に対する使用者たる自治体への罰則が設けられておらず、実効性に疑問が残る。
また、公立学校の教員については、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(給特法)により、「超勤4項目」に該当する場合を除く超過勤務の禁止と時間外割増手当の不支給が一体のものとして規定されている。この点、答申は、「教員勤務実態調査の結果によると、所定の勤務時間外に行っている業務としては超勤4項目に関する業務以外のものがほとんどであることが明らかになっている。」(答申44頁)と給特法の超勤禁止原則が形骸化していることを認めながら、時間外割増手当は支給しないとする給特法の基本的枠組みを維持し、超勤4項目以外の勤務時間を時間外割増手当の支給対象とすることを否定していることも問題である(答申46頁)。
さらに、答申では業務の役割分担及び適正化として、「学校以外が担うべき業務」や「必ずしも教員が担う必要のない業務」などを例示し、学校や教員が担う業務の見直しの方向性が示されている。この点、見直しの対象とされている業務には、「学習評価や成績処理」など、教員が本来行うべき業務も含まれており、学校現場の教員の意見を踏まえずに見直しが行われれば、教員と児童・生徒との関わりが希薄化し、教員の専門性や子どもの学習権に応えるべき教育の質を下げることにつながることも危惧される。業務の改善を行う場合、学校現場の教員の意見を十分に反映して行われるべきである。
加えて、答申では一年単位の変形労働時間制の導入が提言されているが、これはかえって教員の長時間労働を悪化させる恐れのある問題の大きい制度であり、これについては項を改め詳しく論じる。

4 正規教員の増員を行うべき

 文科省が公表した2016年度勤務実態調査では、「授業」や「授業準備」、「学年・学級経営」等、教員の本来業務と言うべき業務に必要な時間が10年前の調査よりも軒並み増加している。これらの業務は、教員以外が行うことは考えられず、学校業務の「適正化」や教員の「意識改革」では長時間勤務の解消はできないことを示している。このような教員の本来業務について業務時間が増加し、これが教員の多忙化につながっている以上、その本来業務を担う教員の増員を行う以外に解決策はない。前述のとおり2017年に実施された教員に対するアンケート調査において約8割もの教員が過重勤務防止のために教員の増員が必要だと回答したのも、教員の人数が不足している現場の実感を表したものである。
中教審の答申でも、小・中学校ともに「授業」に従事する時間が増加していることから、総授業時数を増加させた2008年の学習指導要領改訂以降、定数改善が図られてきているが、これらはよりきめ細かな指導等を行うことを目的としたものであり、「教師一人一人の業務負担の軽減という観点から十分な効果が生じているとは言えない」(答申13頁)として、現在の教員定数が業務負担の軽減には不十分であることを認めている。
また、非正規(臨時的任用や非常勤講師、期限付任用等)の教員については、労働条件が不安定なため、児童・生徒に対する継続的な指導や他の教員との協働の点でも問題が指摘されており、非正規教員の正規化も不可欠である。
これまで、多くの教員が自己の生活を犠牲にして、児童・生徒の教育のために力を尽くしてきた。しかし、答申も指摘する通り、このような教員の使命感や自己犠牲に依存した教育制度は「持続可能であるとは言えない」(答申5頁)し、その中で教員が疲弊していくのであれば、それは「‘子供のため’にはならないものである」(答申2頁)。
教員の人間らしく働く権利を保障し、教員が児童・生徒と向き合い、児童・生徒の学習権・成長発達権を保障するためには、正規教員の増員を行うべきである。

第2 一年単位の変形労働時間制を教員に導入することは反対である

1 はじめに

 答申は、「第6章教職の勤務の在り方を踏まえた勤務時間制度の改革」において、「児童生徒が学校に登校して授業をはじめとする教育活動を行う期間と、児童生徒が登校しない長期休業期間とでは、その繁閑の差が実際に存在している。」として、「地方公務員のうち教師については、地方公共団体の条例やそれに基づく規則等に基づき、一年単位の変形労働時間制を適用することができるよう法制度上措置すべきである。」と提言している。

2 一年単位の変形労働時間制の問題点

(1)一年単位の変形労働時間制とは
一年単位の変形労働時間制は、一年間の平均週労働時間が40時間を超えなければ、各日、各週の8時間あるいは40時間を超える時間についても時間外労働時間と見なさない制度であり(労基法32条の4)、「労使が労働時間の短縮を自ら工夫しすすめていくことが容易になるような柔軟な枠組みを設けることにより、……労働時間の短縮を目的とする」(1988年1月1日基発第1号)ものとして、導入されたものである。
一年間の変形労働時間制を導入するためには、書面による労使協定で法律が定める一定の事項(‖仂櫃箸覆誅働者の範囲、対象期間、F団蟯間(対象期間中の繁忙となる期間)、ぢ仂欖間における労働日及び当該労働日ごとの労働時間、ネ効期間)を定めたうえで、当該労使協定を所轄労働基準監督署に届けなければならない。
また、労働日数は対象期間について1年当たり280日、1日及び1週間の労働時間はそれぞれ10時間、52時間が限度とされている。連続労働日数の限度は6日であるが、特定期間中は12日(1週間に1日の休日が確保できる日数)である。

(2)一年単位の変形労働時間制の問題点
人間は、一日の始業・終業時間が一定であり、毎日の労働時間が一定していることにより人間の生活サイクルが安定し、健康で文化的な生活を送ることができる。しかし、変形労働時間制のもとでは時期によって始業・終業時間が異なることで生活サイクルが狂い、また、閑散期には休日が多くなる一方、繁忙期には1日の労働時間が伸張され、休日が少なくなるため、疲労やストレスが蓄積し、憲法が保障する「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」が奪われることになる。
また、労働日数の上限が1年当たり280日とされており、週休2日制を採用する場合(年間労働日数261日)と比べると、年間総労働時間を短縮するものとなっていない。閑散期に休日を割り当てられても、業務量が減らないのであれば、結局出勤せざるをえなくなる。
さらに、変形労働時間制の方が、通常の勤務時間制度よりも平均して月間15時間も労働時間が長くなるという調査結果もある(「仕事特性・個人特性と労働時間」(労働政策研究報告書No.128、2011年)。
このように、変形労働時間制は労働時間の短縮を図るという立法趣旨に反して、長時間労働を招いている。

3 一年単位の変形労働時間制を教員に導入することの問題点

(1)教員の業務の性質上、一年間の変形労働時間制はなじまない
そもそも、変形労働時間制は、変形期間を通じて計画的な時間管理をすることで週40時間労働制を実現するものであり、あらかじめ業務の繁閑を見込んで、それに合わせて労働時間を配分でき、突発的なものを除き、恒常的な時間外労働がないことを前提とした制度である。
 しかし、教員の業務は、夏季休業期間などの時期も、研修、プール指導、補習、部活動指導等の業務があり、業務量全体が減少するわけではなく、あらかじめ業務の繁閑を見込めるものではない。
また、教員の業務は、児童生徒間のトラブルへの対応など、予測できない業務が生じることが多く、また、児童生徒の家庭との連絡等も業務時間外に行わざるをえないなど、時間外労働が恒常化している。
このように、教員の業務の性質からみても、あらかじめ業務の繁閑を見込むことができず、また、恒常的な時間外労働がないことを前提とした一年単位の変形労働時間制はなじまない。

(2)労使協定等が排除されるおそれがある
また、答申は、地方公共団体の条例やそれにもとづく規則等に基づき、一年単位の変形労働時間制を導入できるよう法制度上の措置をとることを提言しているところ(48頁)、これが職員団体に労働協約締結権がないことを前提に、労使協定を結ぶことなく、条例等により一律に学校に変形労働時間制を導入できるとするのであれば、労働基準法が変形労働時間制の導入に労使協定を手続要件とした趣旨を没却するものである。
労基法は、労働条件の最低基準を定めるとともに、とくに労働者にとって不利益な労働条件を実施する場合には、過半数労働組合又は過半数労働者代表者との労使協定を要件とすることで、労働者の保護を図るものである。
答申が、仮に、教員への一年単位の変形労働時間制の導入に際し、労使協約を必要としないということを前提としているのであれば、労働者保護を目的とする労働法の体系を全く理解していないものと言わざるをえない。

4 小括

 以上のとおり、教員の業務の性質上、一年単位の変形労働時間制はなじまない。また、労使協定を手続要件からはずすのであれば、教員を無権利状態に貶めるものである。このような問題がある教員への一年単位の変形労働時間制の導入には反対である。

第3 まとめ

 以上の述べてきた通り、教員の深刻な多忙化を解消するために、正規教員の増員が行われるべきである。また、文科省の答申が導入を提言した一年単位の変形労働時間制は、教員の長時間労働の解消に逆行するものであり、その導入に反対する。

                               以上

  2019年10月4日
自 由 法 曹 団
団 長 船 尾  徹

 

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