論説−私論・公論 - 山田陽子さん「過労死ラインを超える「共働き育児」のリアル」 (11/12)

山田陽子さん「過労死ラインを超える「共働き育児」のリアル」 (11/12)

2019/11/12 11:16

過労死ラインを超える「共働き育児」のリアル
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191112-00313404-toyo-bus_all&p=4
2019/11/12(火) 7:43 配信 東洋経済オンライン

〔写真〕とある共働き家庭の「慌ただしい1日」をお届けします(写真:monzenmachi/iStock)

働く女性、働きながら家事育児を担う女性が増え、共働き世帯は全体の6割を超える日本。ただ、女性が家事をする時間量は平日・土日ともに4時間を超えるのに対し、成人男性の家事時間量は平日が54分、土日が約1時間半。今なお家事育児における女性の負荷は高い。
『働く人のための感情資本論ーパワハラ・メンタルヘルス・ライフハックの社会学ー』から抜粋・再構成し、共働き家庭の日常を切り取ってみた。めまぐるしい子育ての情景が浮かび上がってくる。

 とある共働き家庭のワーキングマザーであるAさん。総合職で責任もやりがいもある仕事についており、小学生と保育園児の2人の子どもがいる。上場企業に勤める夫は、家事も育児もわが事として引き受ける男性。出産にも立ち会い、1人目のときも2人目のときも育児休業を取得した。妻の2人目の育児休業が明ける際には、時短勤務まで取得している。

■保育園の「お迎え当番」の日を再現してみた

 お迎えの時間は動かせないデッドラインゆえ、その日も1日集中して仕事をして終業時間を迎えたが、やり残した仕事が気になりつつ、下の子を保育園でピックアップ。

 帰宅すると、そろそろ上の子も習い事から帰ってくる時間。上の子は学童には通っていないから、下校時刻から習い事までの時間は近くに住む母にみてもらっている。

 Aさんが適当に子どもたちの相手をしながら夕食を作っていると、恒例の兄弟げんかのゴングが鳴る。「あぁ、またか」と嘆息しつつ、火加減も気になりながら双方の言い分を聞いてなだめていると、案の定鍋が吹きこぼれ、慌ててキッチンに戻って後始末。

 さて、食事となったはいいけれど、「そういえば、ノートがなくなった。明日までの宿題ができない」と言い出す小学生。事前に言ってくれたなら、帰りにいくらでも立ち寄れるお店はあったのに。

 この時間からだと開いている店が限られるうえ、その店に指定のノートがあるか定かでない。でも、行くしかないのだ、下の子を連れて。下の子はまだ小さくて留守番はさせられない。とはいえ、連れて行くと、「おやつを買ってほしい」などと言い出すことが予想される。

 1日の仕事と夕食づくりを終えた身には、保育園児が駄々をこねるのをやり過ごすための体力と気力が残っていない。それに、今から出かけると入浴時間も就寝時間も後ろ倒しになる。やはり、夫に帰り道に買ってきてもらうことにしよう。

 夫に連絡をし、子どもたちの明日の予定を考えながらキッチンに戻ってヤカンを確認すると、今朝沸かしたはずの麦茶は真水だった。注ぎ口から出てくる透明な液体を見て一瞬固まりながら、そういえば今朝夫がお茶を沸かそうとしているときに、トイレット・トレーニング中の下の子が手洗いから彼を呼び、彼はその対応に追われていたことを思い出す。

 そうか、だから夫はティーバッグを入れないまま、入れたつもりで沸騰だけさせてしまったのだろう。気持ちはわかる。わかるし、仕方ない。だが、明日は子どもたち2人ともに必ず水筒を持たせねばならない日。冷蔵庫に冷えた麦茶は、残り少ない。

 軽いいら立ちと落胆を覚えつつ、麦茶を沸かし直す。今から沸かしても明朝までに冷えないかもしれないから、念のため、冷たいお茶のペットボトルも買ってきてもらおう。再び夫に連絡する。

■職場でも家庭でも、働き続ける

 帰宅した夫と子どもたちが入浴している間に、Aさんは食器洗浄機をセットし、洗濯物を仕分け、保育園の行事予定表を確認する。夕食までの時間に子どもたちが引っ張り出してきたおもちゃを軽く片付け、ホッとしようかと思ったそのとき、入浴を済ませた子どもたちが出てきたので、体にローションを塗ったり髪を乾かしたりする作業に移る。

 その作業だが、下の子が「これじゃない、あっちがいい」と言って、Aさんがあらかじめ用意したパジャマを着るのを拒み、仕方がないので希望のパジャマを取りに行っている隙に、今しがた片付けたばかりのおもちゃをまた引っ張り出そうとするのをいさめたり制止したりしながら進めなくてはならない。

 そして、そうやって着せたパジャマも、就寝前の歯磨きで前面が濡れてしまい、結局もとのパジャマを着せるほかなくなり、そのことが気に入らない小さな人は大泣きする。「泣きたいのは母です」と思っていると、夫がうまい具合に気をそらせて機嫌を直してくれた。

 平日、Aさんは持ち帰った仕事の資料とスキルアップのための専門書が気になり、それらに目を通したい思いを抱えつつ、結局その夜読んだのは上の子の宿題に関わる参考書や保護者向けの解説書と、下の子が読んでとせがんだ数冊の絵本であった。

 セカンド・シフトに疲れて能率が上がらないため、Aさんは目覚ましを明朝4時にセットして眠りについた。明け方、家族が起きてくるまでの2、3時間が、彼女の「残業」タイムである。全自動洗濯機とお掃除ロボットのスイッチを入れ、目覚めのコーヒーを淹れて、昨晩持ち帰った仕事をする。この「残業」はタイムカードには表示されない。

 このようにワーキング・マザーは、自らの職業上の仕事(ファースト・シフト)が終わった後に、家庭でこまごまとした仕事(セカンド・シフト)を同時並行で多数こなす。予定どおりにいかないことを織り込み済みで一応の予定を立て、臨機応変のリスケジュールを繰り返している。そのさまは千手観音がすべての手を使ってジャグリングを回し続けるイメージに近い。

 働く母親たちはジャグリングを回し続けられるように細心の注意を払っているが、子どもたちは天真爛漫に、たやすくそれを落としに来る。簡単な料理を作るにも、その都度作業の中断が入る。沸いていない麦茶の例でもみたように、作業を中断したことでうっかりミスや失敗につながる。

 ここには母親たちの嘆息やいら立ち、徒労感、諦め、泣きたい気分や投げ出したくなる気持ちなどがついて回る。育児しながらの家事・家事しながらの育児は、高度な感情労働である。

■昼夜問わず働くママたちに「過労死」の懸念も

 Aさんの1日の総「労働時間」をざっと算定してみる。午前9時から18時までの第1の勤務、そこから第2の勤務を経て子どもたちを寝かしつける22〜23時ごろまで、そして翌朝の4〜6時半頃までを「残業時間」とすると、計14〜16時間ほどになる。過労死の労災認定基準である「1日4時間の超過勤務・12時間労働」を優に超えている。

 Aさんの睡眠時間は平均して4〜5時間だという。最近どことなく体調がすぐれない日が多く、慢性的な頭痛や婦人科系の不調に悩むようになっている。ワークもライフもどちらも充実させたい、そのための努力も惜しまないワーキング・マザーは多いが、今後10年ほどの間に、ワーキング・マザーの「過労死」が顕在化するのではないかと考える。

 仕事と家事と子育ての3つが掛け合わさったとき、その負担は一つひとつを遂行する時の何倍にも膨れあがる。ワーク・ライフ・バランスや「女性活躍」を掲げるのであれば、家に帰った時にくつろげる時間と空間を、誰がいつどのようにして整えるのかについて議論を深める必要があるだろう。

 仕事も生活もバランスよくと言うのは易しいが、それを実現するにはいくつものハードルがある。ワーキング・マザーの「長時間労働」と心身の健康問題は、文化や社会、法、政策、すべての面から考えるべきテーマである。ワークもライフも充実させた結果、疲弊して心身の健康を害することのないような生き方と働き方について模索する時期にきている。

山田 陽子 :広島国際学院大学准教授

 

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