論説−私論・公論 - 井部正之さん「本当は怖いアスベスト規制 死者続出を止められないわけ」(1/10)

井部正之さん「本当は怖いアスベスト規制 死者続出を止められないわけ」(1/10)

2020/1/10 13:15

本当は怖いアスベスト規制 死者続出を止められないわけ〈週刊朝日〉
https://dot.asahi.com/wa/2020010700057.html
井部正之 2020/01/10(金) 10:08配信 週刊朝日

〔写真〕アスベストが付着した鉄骨を調べる様子

 年間1500人超もの命を奪っているアスベスト。海外に比べ対応が遅れていた日本でも、ここに来て改めて「規制強化」が検討されている。だが、国が経済界に配慮したこともあって、規制が不十分といった指摘が相次ぐ。このままでは、死者の続出を止められない恐れがある。

【写真】不適切な工事が行われていた解体工事現場など、記事の写真を全て見る

 まずはアスベスト(石綿)について、おさらいしておこう。太さが髪の毛の数千分の1程度の繊維状鉱物で、空気中を漂っていても目に見えない。耐久・耐熱性に優れ安価だったため、様々な製品に使用された。

 吸い込めば、がんの一種の中皮腫などにかかるリスクが高まる。病気になるのは吸い込んでから数十年たっているケースが多く、「静かな時限爆弾」とも言われる。

 日本では石綿を0.1%超含む製品の製造や輸入、使用などが2006年に原則禁止され、12年には全面禁止された。

 日本は世界第2位の「アスベスト消費大国」で、過去に約1千万トンを輸入し、その約8割を建築材料として使用してきた。国土交通省の調査によれば、危険性の高い吹き付け石綿が使用された建物は最大で約280万棟に上る。その解体ピークは約8年後の28年だとされている。

 さらに、木造や戸建て住宅など約3300万棟にも、石綿を含む建材が使用されている可能性がある。東京五輪や大阪・関西万博を控え、多くの建物が改修・解体されるなか、石綿が飛散する危険性は高まっている。

 私たちの命を守るためには飛散しないように工事をすべきだが、不適正な作業が後を絶たない。環境省によると、14年以降に、全国147カ所の改修・解体で事前調査が適切にされず、石綿を含む建材がきちんと把握されないまま工事が始まっていた。ずさんな作業により、都道府県などに指導される事例も目立っている。

 こうした状況を受けて、厚生労働省と環境省は規制の改正に向けた方針案をまとめた。問題はその中身である。両省は「規制強化」とアピールしているが、詳細に見ていくと疑問だらけだ。

 環境省が担当するのは、生活環境の保全を目的とする「大気汚染防止法(大防法)」の改正。目玉とされるのは、石綿を含む成形板など飛散性が低いとしていた「レベル3」の建材について、規制対象に加えることだ。

 ところが、レベル3の規制は、厚労省が担当する「労働安全衛生法石綿障害予防規則(石綿則)」では、05年からすでに導入されている。環境省でも同じように規制すべきだという意見が05年当時からあったのに、これまで“サボって”きたのだ。

 厚労省の石綿則の改正では、改修・解体工事の事前調査をする者に講習の受講・修了を義務づけるほか、調査手順の明確化などを予定しているという。事実上先送りしていたものをやっと導入するだけなのに、規制強化だとアピールしているようなものだ。

 改修・解体工事における石綿の調査自体は05年に義務づけられており、本来ならその時に、今回のような仕組みを整備しておく必要があった。整備が遅れたため、専門的な能力がない業者が目視で石綿の有無を判断する状況が、十数年間にわたって続いてきた。

 石綿則では、これまでビルや工場が主だった石綿の調査結果を届け出る義務について、一般住宅などにも拡大する。解体なら床面積80平方メートル以上、改修なら請負金額100万円以上の場合、調査結果を労働基準監督署などに届ける。この規制によって、届け出件数は18年に約1万3千件だったものが、200万件超に増えると見込まれている。

 届け出件数が増える方向なのは前進かもしれないが、実効性には疑問が残る。新たな届け出規制は建設業者などに配慮して、スマホで手続きできるような簡単なものになるとみられる。レベル3建材の場合、作業計画はおろか、使用場所すら報告しなくてよい。これでは調査結果や作業方法が適切なのか十分に把握できない。

 しかも、専門家が求める石綿の曝露・飛散防止対策の強化は、経済界の反対で今回も見送られる方針だ。

 NPO「東京労働安全衛生センター」の外山尚紀氏ら専門家は、「日本の石綿対策は調査・管理・分析・除去・最終処分まですべての工程に問題がある」などと指摘。抜本的な規制強化を求めてきたが、今回も先送りが目立つ内容になっている。

 海外では石綿を扱う業者についてライセンス制度を導入するなど、各工程について専門家が担う仕組みが当たり前になっている。第三者的な専門家が検査・測定することで、作業の安全性を確保することも行われている。

 日本では今回も、こうした制度は導入されそうにない。ちなみに除去作業時の測定は、日本よりはるかに石綿使用量の少ないフィリピンでも2000年から義務づけられている。アスベスト対策では先進国レベルにほど遠いのが実態だ。

 厚労省や環境省の担当者は、規制強化の意義を次のように強調している。

「残された論点もあるが、現在ある課題に対応するとりまとめになっている」(厚労省化学物質対策課の担当者)

「レベル3建材に法令上の義務や作業基準が掛かるなど、規制強化を図る内容となっている」(環境省大気環境課の担当者)

「中皮腫・じん肺・アスベストセンター」所長の名取雄司医師はこう警告する。

「今回の改正案は抜本的な対策になっていません。韓国も含めて諸外国は規制をどんどん強めているのに、日本はしていない。このままでは、改修・解体による石綿飛散で、40、50年後も人が死に続けることになります」

 日本では現在、石綿を外部に飛散させること自体には罰則がない。どのぐらい飛散させたのか測定する義務もなく、私たちは危険性を知ることすらできない。

 中皮腫の発症原因の大半が、石綿を吸ったことだとされる。中皮腫による死亡者は、統計を取り始めた1995年の500人から、20年間で3倍超まで増えた。累計では1万人を超えており、40年には計10万人を超えると予想されている。肺がんなど中皮腫以外の石綿関連疾患を含めると、すでに年間2万人近くが死亡しているとの推計もある。

 危険な発がん物質が、私たちの周りにあふれているのだ。にもかかわらず、工事期間が長引くなどとして、規制に反対する経済界に国は配慮している。抜本的な規制強化には及び腰だ。“命より経済優先”の考え方を国が改めない限り、犠牲者はなくならない。(ジャーナリスト・井部正之)

※週刊朝日オンライン限定記事

 

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