論説−私論・公論 - NPO法人官製ワーキングプア研究会「北九州市非常勤職員自死事件福岡高裁不当判決に関する声明」 (1/6)

NPO法人官製ワーキングプア研究会「北九州市非常勤職員自死事件福岡高裁不当判決に関する声明」 (1/6)

2020/1/10 15:29

北九州市非常勤職員自死事件福岡高裁不当判決に関する声明
2020年1月6日
NPO法人官製ワーキングプア研究会

1.北九州市の非常勤職員だった森下佳奈さん(当時27)が自死後、公務災害(労災)申請に市長が応答しなかったのは違法だとして、両親が市に約160万円の損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決が2019年12月23日、福岡高裁であった。矢尾渉裁判長は一審・福岡地裁判決を支持し、遺族の訴えを退ける判決を言い渡した。
2.森下佳奈さんは、大学院で臨床心理士の専門課程修了後、困難を有する子どもたちの支えになりたいと北九州市戸畑区の家庭児童相談センターに非常勤相談員として就職した(2012年4月)。入職して間もない時期から上司による執拗なパワハラに遭い、2013年1月に重度のうつ病と診断され、同年3月31日に退職した。その後、同市教育員会の特別支援教育相談センターに嘱託職員として勤務しながら治療を続けていたものの、2015年5月21日、自死するに至った。
3.森下佳奈さんの両親は、自死は上司によるパワハラ等による強い心理的負荷が原因だと考え、市に対し公務災害補償の申請について問い合わせしたが、市は「公務災害条例・規則では非常勤職員本人ないしは遺族からの申請は認められていない」として、申請そのものを門前払いした。このため両親は、2017年8月29日、提訴することとなった。
4.1審福岡地裁は、2019年4月19日、「当時の条例に違法性はなく、市の職員の対応も誤りはない」として原告らの請求を棄却した。提訴後、両親の働きかけに応じた野田総務大臣(当時)が、市の条例・規則が倣っていた「議員・非常勤職員の公務災害補償条例施行規則(案)」という条例規則のひな型の改正を指示、総務省は2018年7月、非常勤でも遺族や本人が労災認定を請求できるよう同ひな型を改正するとともに自治体に通知し、同市を含む多くの自治体が条例を改正していた。しかし、1審判決は、このような経過を顧みることとなく、条例規則を改正せず放置してきたこと、申請を門前払いしたことなどに違法性はないとしていたものであったことから、両親は控訴した。
5.2019年12月23日の控訴審判決で、福岡高等裁判所の矢尾渉裁判長は、‐鯲磴諒篏内容が、法律で定める補償と均衡を欠くことは立証されておらず、申出や通知に関する規定を置いていないことは理由にならない、∋圓凌Πが両親の申請を門前払いしたことは、両親の通知内容に対応した回答であり違法ではない、市の職員が両親に対して誤った手続を教示したとはいえないなどとして、1審に続き両親の訴えを退けた。しかし同判決は、以下の点で、不当なものといわざるを得ない。
 第一に、行政の作為義務違反を正当化するものである。当時の市の条例が、被災職員ならびに遺族からの申請を認める地方公務員災害補償制度との均衡を失したもので,遺族の権利利益を侵害するものであった。このような認識にあったからこそ、国(総務省)は条例ひな型を改正し、自治体に通知し、均衡を失する条例・規則のまま放置していた多くの自治体で、同条例・規則を改正するに至った。北九州市も同様の認識に立ったからこそ、条例規則を改正し、森下佳奈さんの事件に遡及適用するという第2次改正まで実施した。また私ども官製ワーキングプア研究会の調査でも、旧ひな型の条例・規則のままであっても、運用上、被災本人並びに遺族からの公務災害の申し出を受け付ける自治体が多数であることが明らかであった。
 このような経過を十分に認識しながら、本件について違法性を認めないのは、行政の作為義務違反を正当化するに過ぎないものである。
 近時,権限を有する主体がその権限を行使しなかったという不作為を違法とする判例や裁判例が見られる。たとえば水俣病関西訴訟最高裁判決(最判平16・10・15)は、「水俣病による深刻な健康被害の拡大防止のために、公共用水域の水質の保全に関する法律及び工場排水等の規制に関する法律に基づいて、(中略)必要な措置を執ることを命ずるなどの規制権限を行使しなかったことは、国家賠償法1条1項の適用上違法」と厳しく行政の不作為を糾弾している。また、福島第一原発事故避難者集団訴訟(東京地判平30・3・16)でも、国や東電は津波の襲来を予見でき、対策を講じて事故を回避できたとし、国は、東電に対策に取らせなかったことは違法との判決を言い渡している。
 このような判例・裁判例の傾向に高裁判決は逆行するものであり、著しく行政の作為義務違反を正当化するものといわざるを得ない。
 第二に、ワーキングプア水準の処遇で働く非正規公務員に依存して公共サービスを展開する自治体の使用者責任を免責してしまっていることである。
北九州市を例にとると、2016年4月1日現在、正規職員9,562に対し、臨時・非常勤職員といわれる非正規公務員は3,179人で、非正規率は25%、実に4人に1人は非正規である。給与水準も、非常勤職員の場合、月額16.5万円程度で、平均月額給与が45.2万円の一般行政職の正規職員の3分の1でしかない。また、森下佳奈さんと同様に、公務災害に係る条例・規則の適用者であった非正規公務員は、全国64万人の非正規公務員のうち約21万人で3分の1を占め、北九州市では、全非正規公務員3,179人中1617人(55.6%)で、過半を占めていた。
 北九州市は、官製ワーキングプアの非正規公務員に依存しながら何ら改善の手立てを講じず、公務災害上も、長年、非正規公務員を無権利状態に放置してきた。そして、本件では、自死に至らしめられた職員の両親が必死の思いで行った申出などにつき、無責任かつ冷酷な対応を繰り返して、請求をする機会を失わしめ、亡くなった後まで非正規公務員への差別取扱いを続けたのである。今回の高裁判決は、市及び市職員の対応を様々な解釈を行使して救済し、このような自治体の使用者責任を黙認するものであり、断じて、許容できるものではない。
6.人に寄り添い、困難の解決のために共に悩み、自立を支援する相談支援という仕事は、もっとレスペクトされなければならない。公務の中心に置かれなくてはならない。
 森下佳奈さんは、この相談支援業務の未来をつくろうとした。
その夢を叶えることは、私たちの社会の崩壊を防ぐための核となる課題であることを、最後に指摘しておきたい。


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