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 日本の教員は世界一の長時間労働なのに、そのうち授業時間は半分以下

Newsweek 2019年7月17日(水)17時10分
 
舞田敏彦(教育社会学者)
 
日本のように教員の授業時間が勤務時間の半分にもならない国は先進国では他にない svetkd/iStock.
 
<先進国の国際比較で、日本の教員の勤務時間は最も長いが、授業時間は国際平均より短い>
 
OECD(経済協力開発機構)の国際教員調査「TALIS 2018」の結果が公表された。教員の労働実態を調べた調査だが、注目されるのは教員の労働時間だ。
 
日本の中学校教員(フルタイム勤務者)の勤務時間を見ると、全体の56.7%が週60時間以上働いている。イギリス28.9%、アメリカ22.0%、韓国7.8%、スウェーデン2.9%、フランス2.6%にくらべて著しく高い。平均値にすると週59.3時間で、こちらも先進国では最も高い。
 
横軸に週間の平均勤務時間、縦軸に週60時間以上勤務している者の割合をとった座標上に、調査対象の47カ国を配置すると<図1>のようになる。
 
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日本のドットは右上にぶっ飛んでいる。横軸、縦軸とも群を抜いて高いからだ。2013年調査でも同じようなグラフになったが、2018年でも変わっていない。教員の過重労働が世界一の国だ。
 
外国から見れば、「熱心に授業をしているから、国際学力調査でいつも上位なのか」と思われるかもしれない。しかし授業時間(準備含む)の週平均は27.4時間で、対象国の中では28位だ。
 
週の勤務時間は59.3時間で、うち授業時間は27.4時間。授業の割合は46.2%となる。日本の中学校教員では、授業の比重は半分にもならない。教員の本務が授業であることを思うと疑問符がつく。
 
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<図2>を見ると、日本は総勤務時間(横軸)が最も長いにもかかわらず、授業時間(縦軸)は国際平均より短い。授業時間の割合が半分にも満たないが、こういう国は他にない。斜線は授業時間の割合だが、イギリスやスウェーデンでは勤務時間の6割、韓国とフランスでは7割、アメリカでは8割が授業となっている。南米のチリやブラジルでは9割を超える。教員の仕事は授業という割り切りが強いようだ。
 
日本の教員の勤務時間は世界一長いが、その半分は授業以外の業務に食われている。会議、事務作業、生徒指導、部活指導......。思い当たる業務は数多くあるが、部活指導を教員が担当するのは日本の特徴だ。
 
部活は教育課程外の課外活動で、他国にも似たような活動はあるが、教員が指導にあたることはあまりない。授業ではない課外活動のため、外部スタッフ等に委ねられる。<図3>は、主要国の中学校教員に週の課外活動指導時間を尋ねた結果だ。瑞はスウェーデン、芬はフィンランドを指す。
 
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日本では41.7%が週10時間以上と答えているが、教員がこれだけの長時間を課外活動に割く国は他にない。0時間(ほぼノータッチ)の割合がかなり高く、スウェーデンやフィンランドでは8割の教員が「ゼロ」と回答している。北欧では、学校での部活という概念がない。日本の運動部のような活動は、地域のスポーツクラブ等に委ねられている。学校外と連携し、社会全体で子どもを育てる気風がある。
 
日本の教員は、様々な業務を担う「何でも屋」であるかのようだが、それが本務の授業に影響している可能性もある。日本では、生徒に考えさせる授業の実施頻度が低い。「明瞭な答えのない課題を出す」「批判的思考力が要る課題を出す」という項目に、「いつもする」「しばしばする」と答えた中学校教員の割合は2割にも満たない。
 
型にはめた後は、型を破らせることが必要になる。後者は、既存のものとは違う新しいものを生み出す力を育むことにつながる。こういう授業をするには入念な準備が要るが、日本の教員はあまりに忙しく、そのための時間を取るのも難しい。授業を「練る」余裕がない。新学習指導要領の目玉は「アクティブ・ラーニング」だが、教員が授業に注力できる環境を作る必要がある。
 
教育行政も手をこまねいているわけではない。2017年頃から教員の働き方改革の必要が言われ、具体的な動きも出ている。中学校教員の過重労働の原因となっている部活動については、部活動指導員というスタッフが法的に位置付けられた。単独で指導や大会引率を行える人材だ。
 
昨年3月にはスポーツ庁が「部活動ガイドライン」を出し、適切な休養日・休養期間を設けること、レクレーション的な部活も認めること、学校外のスポーツ団体や民間事業者等も活用することを提言している。学校が一手に担っている状況は大きく変わりそうだ。
 
さらに、これまで教員が担ってきた業務を仕分けし、教員が担う必要のない業務、教員の業務だが軽減可能な業務を洗い出している(2019年1月、中央教育審議会答申)。部活指導は前者、学習評価や成績処理は後者に該当する。AIにテストの採点をさせる実践も見られる。学校のICT化を進め、紙を大量に配る日常を脱したいものだ。
 
日本は、優秀な人材を教員に引き寄せることに成功している。しかし近年、教員採用試験の競争率は低下傾向にあり、小学校では3倍を下回る自治体が多い。民間が好景気だからと思われているが、「教員離れ」が起きている可能性もある。教員の働き方改革は、職務の専門性を明瞭にし、教員を高度専門職に昇華させる契機となる。これを進めない限り、他国と同様、優秀な人材は他の専門職に流れてしまうだろう。
 
<資料:OECD「TALIS 2018」>
 
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 2019.07.18 福祉国家構想研究会blog http://welfare.fem.jp/?p=352

(W) 伍賀一道名誉教授の貴重なアベノミクスの雇用関連の分析です。テキストだけを複写しましたが、貴重な図表が原文には含まれています。そちらは、元の福祉国家構想研究会blogをご覧ください。
 
伍賀一道(金沢大学名誉教授)
〈 #アベノミクス 雇用改善の不都合な真実〉若者就職内定率と有効求人倍率が最高の原因=若年人口減+労働者使い捨て+高齢化で介護福祉労働増+名ばかり正社員増+生活苦で勤労学生増+低年金で高齢ワーキングプア増
 
1 アベノミクスの6年間は低成長経済だった
自民党の参院選向けのHP(「データで見る!アベノミクス6年の実績」)にはアベノミクスの経済政策の実績をいくつかあげているが、この間の経済成長率については触れていない。胸を張って自慢できる水準ではないようだ。内閣府のデータによれば、2012年度から18年度までの6年間で名目GDPの伸び率は年平均1.8%、実質ではわずか1.1%にすぎない。つまりアベノミクスの6年間は低成長時代にほかならない。
 
それにもかかわらず、有効求人倍率が上昇し、「人手不足」が生じているのはなぜだろうか? 結論を先取りすれば、このような現象は「雇用と働き方・働かせ方の劣化」を示すシグナルであるということだ。
 
2 低成長にもかかわらず「人手不足」が生じているナゾ
これまでの日本経済をふり返ると「人手不足」が叫ばれた時期は2回ある。ひとつは1960年代後半から70年代初めにかけての高度成長期である。いま一つは80年代末から90年代初めのバブル期である。前者の経済成長率(実質GDPの伸び率)は年率10%を超えた。バブル期の場合、87年から90年にかけて実質GDPの伸びは年率4%から6%であった。
 
これに対してアベノミクスの場合はどうか。上記のとおり、安倍政権の誕生以来、実質GDPの伸び率は年率1%程度にとどまっている。明らかに低成長である。これまでの好況局面では(バブル期はやや異なるが)、企業の設備投資が活発化するにともなって雇用も拡大、賃金も上昇する。これにより消費財部門の投資も活性化、さらに雇用が拡大するサイクルを描いてきた。投資意欲の拡大にともなって人手不足が顕在化した。
 
だが今回の「人手不足」はまったく別の要因で生じている。そこには雇用と働き方・働かせ方の問題、端的に言えば「雇用の劣化と働き方の貧困」がひそんでいる。
 
今日の「人手不足」は主に2つの要因から生じている。第1は若年人口の減少である。第2の要因は、今日の雇用と労働が持続可能な働き方とは真逆の労働力使い捨て的性格を強めていることである。順に見ていこう。
 
(1)「人手不足」の原因その1 若年人口の減少で新規学卒者が「売り手市場」に
まず少子化による若年人口の減少である。15〜24歳人口は2002年から18年までの16年間に1521万人から1218万人へ、実に300万人余り減少した(図表1)。今日、新規学卒者の労働市場を売り手市場にしている主たる要因は若年人口の減少にある。大学進学率は上昇したものの、人口減によって、15〜24歳層の大学・大学院在学者および同卒業者の人数は02年から18年にかけて3万人減少している(376万人→373万人)。若者の多くは大手企業への就職を希望するため、新卒者を採用できない中小企業からは経営へのマイナスを訴える声が相次いでいる。若者の多くは就職状況の好調さをアベノミクスの成果と受け取っているようだが、その主因はもっぱら若年人口の減少にある。
 
(図表1)15〜24歳人口の推移
 
もちろん、高卒・大卒労働市場の好転自体は歓迎すべきことではあるが、この中には「名ばかり正社員」が含まれている。後述のとおり、20代の正社員の1割は「名ばかり」である(図表4参照)。学生が警戒を強めているブラック企業の問題とも関連している。
 
学卒市場の好調さが喧伝される一方で、大卒労働市場に参入できない若者が少なからず存在していることにも留意する必要がある。18〜21歳層で主に仕事に従事している若者は117万人になるが(「労働力調査(基本集計)」2018年平均)、この中には家庭の経済的事情で大学・短大や専門学校への進学を断念した者も含まれる。
 
若年人口減少をもたらした少子化の背景には、非正規雇用の拡大も関わっている。周知のとおり、正規雇用に比べ非正規労働者の未婚率は高く、少子化を加速している。とりわけ、90年代後半から2000年代前半にかけて「就職氷河期世代」をつくり出したことが今日の日本の経済と社会にダメージを与え続けている。第3次ベビーブームが訪れなかったことと「就職氷河期」とは無関係ではない。
 
非正規雇用を拡大する資本の雇用管理や、規制緩和によってこれを支援した自公政権の雇用政策の責任は大きい。子育てを社会全体で支えるための体制(保育、医療、教育、住宅など)が整備されているならば、たとえ非正規雇用であっても結婚や出産は可能である。子育てを自己責任に委ねる新自由主義政策の転換が求められる。このように若年人口や新規学卒者の減少はけっして自然現象ではなく、過去数十年間の政治と経済の基本的あり方が問われている。
 
(2)「人手不足」の原因その2 労働力使い捨て社会
低成長経済にもかかわらず「人手不足」が生じている第2の要因は、今日の雇用と労働が持続可能な働き方とは真逆の労働力使い捨て的性格(雇用の劣化と働き方の貧困)を強めていることである。
 
図表2は有効求人数が10万人を超える主な職業について、有効求人倍率の高い順に並べたものであるが、接客・給仕、飲食物調理、商品販売の職業は消費サービス産業を代表する職業である。また、自動車運転も物流部門を担う中心的職業であり、消費サービス産業と深く関わっている。これらの部門に共通するのは働く人々の労働移動がきわめて激しいことである。賃金水準が特に低く、深夜労働が一般的で、交替制も珍しくないことなどの悪条件が重なれば、そこで腰を据えて技能をみがき、自立した生活を展望する意欲を維持することは容易ではない。
 
(図表2)主な職業の職業紹介状況
 
厚生労働省「雇用動向調査」(2017年)によれば、宿泊業・飲食サービス業は入職率(33.5%)、離職率(30.0%)ともに高く、生活関連サービス業・娯楽業(それぞれ21.4%、22.1%)がこれに続いている。このため、雇い主は求職者が見つかってもいつ辞めるかわからないため、求人を出し続ける傾向が見られる。有効求人倍率が高い職種は離職率が高い職種でもある。
 
これらの産業に小売業や物流関係(運輸業)を加えた消費サービス関連部門は長時間就業者の多い部門である。過労死の多発とも深い関連がある。非正規雇用比率が高いことも正社員の過重労働に拍車をかけている。頻繁な労働移動とも密接に関係している。「長時間労働者の比率、非正規雇用比率、労働移動率(入職率、離職率)」の関わりについて詳細に検討する必要がある。過労死や精神障害の多発は言うまでもなく「労働力使い捨て社会」を象徴するものである。
 
職業紹介について言えば、消費サービス関連産業に関わる職種と対極にあるのが一般事務職である。図表2のとおり「一般事務」は有効求職者が特に多い職業であるが、求人数の方はそれを満たすのに十分ではない。このため有効求人倍率は0.4台にとどまっている。希望しても事務職につくことは難しい。今日の「人手不足」は全般的な労働力不足状態とは異なる。
 
(3)「人手不足」の原因その3 高齢社会と介護・福祉労働の需要増加
有効求人倍率が最も高く「人手不足」が深刻な職種は介護サービスである(図表2)。高齢者の増加に伴う介護労働者やケアマネジャーの需要は今後も増加することは明らかである。これらの職業に対する需要は経済成長の度合いに大きく左右されることはない。したがって安定した雇用になりうる可能性があるが、2000年に介護保険法を施行、介護保険制度を導入し、介護報酬の抑制・引き下げに象徴されるように、新自由主義的構造改革政策に依拠して対応したことで、その労働条件は、仕事の専門性に見合わない水準に切り下げられた。図表2のとおり、介護サービス職は人手不足が最も深刻化しているが、その主因は高齢者の増加という人口構成の問題というよりも、政策の誤りにある。
 
介護保険制度の実施にともなって介護労働者への需要は急増し、介護部門に参入する民間業者も増えた。介護という特性上、サービスの提供は年中無休、24時間体制を求められるため、深夜労働、交替制勤務が不可避で、工場労働のように無人ロボットを活用するわけにはいかず、基本的に人力によるサービスが大半である。
 
このような心身ともに負荷の大きい介護労働に対しては、他の職種以上に高い賃金を支払い、処遇を引き上げることが求められるが、実態は逆である。介護保険制度が発足して20年近くになるが、介護労働者の賃金水準は全産業平均に比べ数段階低い状態が抜本的に改善されないままである。その背景には介護サービスの専門性を正当に評価しない介護報酬の低水準がある。公的責任で介護体制を構築することを放棄し、介護報酬の抑制・引き下げに固執した結果、介護職もまた消費サービス職と同様に、持続不可能な働き方となっている。労働力使い捨て的性格がここにもあらわれている。
 
このため、高齢者人口の増加による介護需要の高まりとは逆に、介護職に従事することを希望する若者は介護保険制度の発足時と比べ、著しく減っている*1。介護福祉士を養成する専門学校の定員は充足されず、閉校に追い込まれる事例も生じている。結婚や子育てができないほどの低賃金水準のため、意欲を持って入職した若者が短期間で離職するケースがあとをたたず、慢性的人手不足状態にある。
 
低成長下の「人手不足」、有効求人倍率の上昇は、「アベノミクスの成果」というよりも、働き方・働かせ方と雇用の劣化を示すシグナルと捉えるべきである。
 
3 正社員の有効求人倍率も大幅に改善したというが…
(1)「正社員」の内実は?
正社員の有効求人倍率(季節調整値)が2017年7月より1倍を超えた。職業紹介統計で正社員の有効求人倍率の集計をするようになった2004年11月以来、初めてのことである。冒頭で触れた自民党の選挙向けHPはアベノミクスの成果と誇っているが、その実態については多角的に見ておかなければならない。
 
まず、「正社員」の内実がかなり変わってきていることに注意したい。正社員と言えば、日本型雇用のイメージ、つまり年齢とともに賃金が上昇し、夏冬のボーナスは当然あるし、定年時には退職金も支給されるという姿を描く人も少なくないであろう(ただし、以前から女性正社員は男性のような賃金上昇カーブは描いていないのだが)。最近のハローワークには、そうした常識とは異なる「正社員」求人が出されるようになっている。
 
たとえば、「月給20万円(固定残業代を含む)、定期昇給なし、ボーナスなし」という正社員求人もある。また、請負労働者として、事実上、別の会社に派遣されて働くケースでも、求人企業(請負会社)がハローワークに提出する求人申込書には「正社員」と記入している。このためハローワークやインターネットで公開されている求人票には「雇用形態は正社員、就業形態は請負」という事例が少なくない。
 
(2)増えている「名ばかり正社員」
正社員(正規雇用)の変容を象徴するのが「名ばかり正社員」の増加である。総務省統計局が5年ごとに実施している「就業構造基本調査」では2012年の調査より、雇用契約期間に定めがあるか否かを尋ねる項目が設けられた。これと、雇用形態(正規雇用か、非正規雇用か)をクロスしてみると、「正規雇用」と回答した人のなかにも、有期雇用であったり、自分の雇用契約が無期なのか、それとも有期雇用なのか、わからないと答えた人が含まれている。これらを「名ばかり正規雇用」(名ばかり正社員)と呼ぼう。
 
これまで正規雇用というのは、なによりも雇用契約期間に定めがないこと、つまり無期雇用と考えられてきたけれども、今ではこの常識が必ずしも通用しなくなった。2012年から17年までの5年間に「名ばかり正規雇用」は男女合計で60.6万人増えたが(図表3−1)、特に、注目されるのは男性の変化である。この5年間の正規雇用の増加数(49万人)の大半(43万人、87.8%)を「名ばかり正規雇用」が占めている(図表3−2)。ブラック企業に象徴されるように、増加した正規雇用の質に問題があることを示している。
 
(図表3-1)名ばかり正規雇用、実質的正規雇用、実質的非正規雇用
(図表3-2)名ばかり正規雇用、実質的正規雇用、実質的非正規雇用
 
女性については男性とやや異なる傾向にある。「実質的正規雇用」の伸び率は「実質的非正規労働」の伸び率を若干上回り、女性の実質的非正規率は微減した(図表3−3)。この5年間に限れば、男性とは対照的に女性の正規化がすすんでいるようだ。それはもっぱら、医療・福祉・介護分野で生じている。これは高齢社会を反映したもので、安倍政権の政策効果というものではない。
 
(図表3-3)名ばかり雇用、実質的正規雇用、実質的非正規雇用
 
ただし、正規雇用とはいえ、男女間の賃金格差は依然として大きい。女性正規の半数弱が年間収入300万円未満である(男性は2割強)。うち16%はワーキングプアの目安とされている年収200万円に満たない。いわば「正社員ワーキングプア」である。
 
(3)正社員という名前を利用しつつ使いつぶす「ハードワーキングプア」
図表4が示すように、2012年から17年にかけて20代、30代男性の名ばかり正規の増加数が大きい。新規学卒者の就職状況が好調ななかで、なぜこのようなことが生じているのだろうか。企業の若手社員に対する姿勢が変わってきていることを示唆している。自社で技能を育成して、雇用の安定を図るのではなく、正社員という名前を利用しつつ使いつぶす雇用手法の反映ではないか。今野晴貴氏は、このような長時間労働+低賃金の働き方・働かせ方をワーキングプアより一段深刻なハードワーキングプアと名づけている(後藤道夫ほか福祉国家構想研究会編『最低賃金1500円がつくる仕事と暮らし――「雇用崩壊」を乗り超える』大月書店、2018年、第2章)。
 
(図表4)名ばかり正規雇用の増加
 
40代男性でも「名ばかり正規雇用」が際だって増えている(図表4)。「就業構造基本調査」2012年調査時、就職氷河期世代は30代だったが、17年調査では40代に移行している。氷河期世代は正規雇用であっても、必ずしも安定した職についていない人が少なくない。いま雇用流動化の波が40代男性正規を襲っている(早期退職化)。
 
4 非正規雇用の諸相
安倍首相は2018年の通常国会の施政方針演説のなかで、「雇用形態による不合理な待遇差を禁止し、『非正規』という言葉を、この国から一掃」すると大見得を切ったが、果たしてどのようになったか。最新の動向を見るために、「労働力調査(詳細集計)」をもとに2018年1月〜3月期と同19年1月〜3月期を比較してみよう(図表5)。非正規雇用者数および非正規比率ともに、この1年間で増加している。非正規化に歯止めがかかるきざしは見えない。所得格差も開いたままである。
 
(図表5)直近の雇用形態の変化
 
図表3では2012年から17年にかけて女性の非正規比率および実質的非正規比率ともに微減したが、直近1年間に限ってみればまたもや女性の非正規化が進行している(56.8%→57.1%)。
 
今回の参院選向けの自民党HP(「アベノミクス6年の実績」)では非正規雇用の現状について触れていない。自公政権にとっては「不都合な真実」が多々あるが、以下では要点のみ示すことにしよう。
 
(1)中年非正規雇用の苦難
男性で不本意型非正規雇用、つまり正規雇用(正社員)を希望したにもかかわらずかなわなかった人々の比率が高い(図表6)。特に45〜54歳層で著しい。世紀転換期の大リストラに遭遇し非正規雇用に移動した人たちや、氷河期世代がこの年代に該当する。さらに25〜34歳の若年層でも不本意型非正規雇用の比率が高い。自分の意志に反して非正規の職についた人々に対して正規雇用への転換を図る政策が急がれる。「人手不足」が本当ならば、これを実現する条件は広がっているはずだ。
 
(図表6)男性・中年非正規雇用に多い不本意型
 
(2)家の生活費にバイト代入れる働く高校生の増加
いま若年人口減によって高校生も減少しているにもかかわらず、家計を支えるためにアルバイトをする生徒が増えている(図表7)。コンビニや飲食サービス業などを中心に需要側の要因もあるが、主要には働かざるを得ない生徒の増加を反映している。彼らの親は就職氷河期世代や、90年代末から今世紀初頭に大量リストラにあった世代に該当する。
 
(図表7)アルバイトをする高校生
 
千葉県の公立高校で2016年の秋から冬にかけてアルバイトをしている生徒の調査をした。アンケートに回答した2515人のうち4割はアルバイトをしている。平日のバイト時間が4時間以上という生徒が46%。自分の小遣いを得るために働いているとは限らない。調査に回答した2515人のうち、51%は家の生活費にバイト代を入れているという(NHKスペシャル取材班『高校生ワーキングプア』2018年)。「働かなければ学べない」という現状は教育を受ける権利の剥奪にほかならない。
 
貧困世帯の生徒のなかには大学や専門学校への進学をあきらめたり、高校中退する事例も少なくない。新卒労働市場の活況ぶりがさかんに報じられているが、そうした売り手市場に初めから参入できない若者が存在していることにも目を向けるべきである。卒業後に初めて就く職が正規雇用か否かが、その後の職業生活を左右し、生涯所得や結婚の成否にも影響している。非正規化がもたらす貧困の世代間連鎖は日本社会の将来にかかわる大問題である。
 
(3)年金制度の貧弱さゆえの「高齢ワーキングプア」増加
高校生の祖父母の年代の高齢者のなかでも、働かなくては生活が立ちゆかない人々が増えている。収入の確保を主たる目的に働く高齢者は、若年期、壮年期をとおして非正規で働いてきたため、年金保険料を払えず無年金となった人や、現役時代の賃金水準に連動して年金受給額も少ない人、夫または妻を介護施設に入れたため、年金ではその費用をまかなえない人などさまざまである。
 
とりわけ注目すべきは正規雇用並みに週40時間以上就労する高齢者が増加し、しかも年収200万円未満のワーキングプア層が増えていることである(図表8)。加えて、15〜64歳に比べ、65歳以上の方がワーキングプア比率が高いことに注目したい。女性の高齢非正規では6割が200万円に満たない。ここから浮かび上がってくるのは、年金制度の貧弱さゆえに、しかも非正規賃金が低水準のために高齢にもかかわらずフルタイムで働かざるをえない姿である。
 
(図表8)週40時間以上働く非正規労働者
 
人生の終着点を控え、仕事よりも休息を望む高齢者にはその権利を保障しなければならない。無理をおして働かなければならない状態は休息する権利の剥奪を意味する。
 
安倍政権が「アベノミクス6年の実績」を謳うのであれば、ここで指摘したような「不都合な真実」から目をそらすことなく、正面から向き合い、その対策を示すべきである。こうした真摯な対応を安倍政権に期待することは「ないものねだり」というべきだろうか。
 
[付記]小論の2は拙稿「『労働力不足』と外国人労働者導入問題」(『労働総研クォータリー』2019年春号)の一部を引用しました。その他の箇所でも、これまでに執筆した拙稿の一部や図表を再利用したことをお断りします。
 
*1 井口克郎氏が2007年1月〜2月に介護福祉士養成施設(専門学校、短大、4年生大学)の在学生340名を対象に実施した調査によれば、273名(80.3%)が卒業後、介護職として就職することを希望していた。このうち「一生の仕事としてできるだけ長く」と答えた学生が45.1%を占め、とくに男性にその割合が高かった(井口「介護現場の『人手不足』と若者の介護への就職意識」金沢大学大学院人間社会環境研究科『人間社会環境研究』第15号、2008年、75頁)。
 

伍賀一道(金沢大学名誉教授) 

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ブラック労働、生活苦に悩む人々はどの党に投票?政策比較 参院選2019

志葉玲  | フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
Yahoo News 7/16(火) 11:49
 
労働政策への各党アンケート わたしの仕事8時間プロジェクトより
 
 今月21日に投開票される第25回参議院選挙。多くの人々の関心は年金や消費税であろうが、重要な争点はそれらにとどまらない。働き方や格差・貧困、子育て支援、欧州議会選挙では大きな争点となった温暖化対策などの環境問題など、NGOや有志の市民らが各政党や候補者にアンケートを行い、有権者の判断の材料としている。そこで、本稿では、労働問題や、格差・貧困対策についての各党政策アンケートの結果を紹介する。
 
○労働時間や最低賃金、ハラスメント防止など
 過労死防止や最低賃金の引き上げ等に取り組む、労働組合やNGOによる「わたしの仕事8時間プロジェクト」は、各党に公開質問状を送付。10項目の質問の回答を求めた(関連情報)。
 
「わたしの仕事8時間プロジェクト」のアンケートより ざっと賛否を観て、詳細も読んでもらいたいとのこと
わたしの仕事8時間プロジェクト http://union.fem.jp/
 
 その一部を紹介しよう。昨年10月、安倍政権により改められた労働基準法では、月の残業などの時間外労働や休日労働の合計した上限を単月で100時間、2〜6ヶ月の平均で80時間と定めている。だが、厚生労働省の定める過労死ラインは「月80時間以上の残業」であり、現在の労基法自体がこの過労死ライン以上の時間外労働を認めてしまっている。
 
 これに対し、「わたしの仕事8時間プロジェクト」はそのアンケート問1で、残業の労働時間を短くすることを提案。これに寄せられた各党の回答を○、△、Xで表している。○は、立憲民主党、共産党、社民党。Xだったのは自民党、国民民主党。期限までに回答がなかったのは公明党、日本維新の会、れいわ新選組だ。
 
 問4では、最低賃金を今すぐ1000円、早期に1500円へ引き上げることを提案。各党からの返答には、自民党、国民民主党が△、立憲民主党、共産党、社民党は○。公明党、日本維新の会、れいわ新選組は期限までに回答はなかった。なお、れいわ新選組は、そのウェブ上の政策集で、最低賃金を1500円に引き上げ、「中小零細企業に影響がない様に、不足分は国が補填」としている(関連情報)。
 
 問10は、ハラスメント禁止条約(「仕事の世界における暴力とハラスメントに関する条約」)を日本が批准することについての是非。同条約は、今年6月にILO(国際労働機関)の総会で圧倒的賛成多数で採択されたもので、加盟国に仕事での暴力・ハラスメントを禁止し防止措置のための法整備や、被害者の救済を義務づけるとしている。同条約を日本が批准することを「わたしの仕事8時間プロジェクト」は提案。各党の回答評価で自民党のみがXだった。
 
*7月16日 12:18追記
 
上記アンケートとは別に、AEQUITAS /エキタス も最低賃金の政策比較を行っている。
 
Twitterで画像を見るTwitterで画像を見る
 
AEQUITAS /エキタス
@aequitas1500
 💰拡散希望💰[#参院選2019 政党別 #最低賃金 公約一覧表]をリリースしました。
 
各政党の最賃政策が一目でわかるようになっています。今度の #参院選 の投票の参考にしていただけると幸いです💴
 
投票日は7/21です。みなさん忘れずに投票しましょう🗳#最低賃金を1500円に #全国一律最低賃金制度
 
491
18:24 - 2019年7月7日
707人がこの話題について話しています
Twitter広告の情報とプライバシー
○住まいへの支援
住まいの貧困に取り組むネットワーク ブログ より
 非正規労働者やシングルマザーなど低所得者層にとって重い負担となっているのが家賃の支払いだ。東京都など地価の高い都市部だと、収入の大半が家賃に消えてしまう。安価な公営住宅も少ない。他方、フランスやイギリス、スウェーデンなどでは低所得者用の住宅手当がある。住まいがあるということが基本的人権だとみなされているからだ。日本でも今回の参院選で、住まいへの公的支援を掲げている政党がある。住まいの貧困に取り組むネットワーク、国民の住まいを守る全国連絡会等の住宅運動団体は、今年5月、参議院選に向けて各党の住宅政策に関するアンケートを行った。その中で、回答があったのは、共産党、社民党、日本維新の会、立憲民主党の各党だという(回答順)。
 
 
 順に抜粋していくと、共産党は「住まいに対する権利の規定、公共住宅の質量ともの改善の明確化などを内容とする『住生活基本法』の抜本改正」を目指すという。また「民間住宅借上げなど多様な供給方式を活用し公営住宅を大幅に増やす」「民間賃貸住宅に居住する低所得者(概ね公営住宅入居資格者)への家賃補助制度の創設」などもあげている。
 
 社民党は、「『住宅支援制度』を創設し、「住まいの貧困」に対するセーフティネットを強化する」ことを重視するという。その他、「各地における『居住支援協議会』の設置を進めるとともに、『公的な保証人制度』や『公的家賃債権保証制度』の創設を検討する」「空き家データベースを整備するとともに、古い空き家や集合住宅に手を入れて、家賃負担が軽い住宅を再供給し、既存の住宅ストックの有効活用と住宅困難者対策の一石二鳥を実現する」などの政策をあげている。
 
 日本維新の会は、「都市計画事業が施行されることなく長期間経過する場合、建築制限を受けることによる経済上の不利益を受ける者への必要な措置を講ずる」「ゴミ屋敷対策」などを主張。
 
 立憲民主党は「空き家が1000万戸を超えると言われる中、持ち家重視から賃貸重視へと変換するべきである」「賃貸住宅への支援制度の創設が必要である」と回答。また、「中古住宅・マンションのリフォーム(耐震化、ゼロエネルギー化)の推進」「すべての建築物の断熱を義務化」など、省エネ・温暖化対策を意識した政策も掲げる。
 
 その他、上記アンケートとは別に、れいわ新選組はそのウェブの政策集で「空き家、中古マンション、団地を活用し、全ての世代が初期費用なし、安い家賃で住める公的住宅を拡充します」としている(関連情報)。
 
○大胆な財政出動
 
 近年、日本では、財政規律を優先するあまり、社会保障が削減され続けている。これに対し、大胆な財政出動で雇用を創出し、人々の生活を底上げしようと呼びかけているのが、立命館大学経済学部の松尾匡教授が代表を務める「薔薇マークキャンペーン」だ。
 
薔薇マークキャンペーンのサイトより
薔薇マークキャンペーン https://rosemark.jp/
 
 同キャンペーンには、経済評論家の森永卓郎さん、ベーシック・インカム関連の著述で知られる井上智洋・駒沢大学経済学部准教授らも呼びかけ人に加わっている。同キャンペーンは、
 
「消費税増税反対」「社会保障・医療・介護・保育・教育・防災への大胆な財政出動による雇用創出」「最低賃金の引き上げ」「大企業・富裕層の課税強化」「公共インフラのいっそうの充実」
 
等の経済政策を要求。これらの「反緊縮の経済政策」に一定程度合致する候補者を政党を問わず「薔薇マーク認定候補者」として認定し、生活の改善や生活不安の解消を切望する多くの人々の投票の参考にしてもらうとしている。薔薇マーク認定候補者は、今月13日集計の時点で、49名。そのリストや候補者のコメント等、薔薇マーク候補者の選定基準等が同キャンペーンのウェブ上で確認できる。
 
(了)
 
志葉玲
フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
パレスチナやイラクなどの紛争地での現地取材、脱原発・自然エネルギー取材の他、米軍基地問題や貧困・格差etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに寄稿、テレビ局に映像を提供。著書に『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共編著に『原発依存国家』(扶桑社新書)、『イラク戦争を検証するための20の論点』(合同ブックレット)など。イラク戦争の検証を求めるネットワークの事務局長。
 
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 老後2000万円不足で"副業過労死"する日

7/12(金) 9:15配信 プレジデントオンライン
 
老後2000万円不足で
 
※写真はイメージです(写真=iStock.com/roberuto)
「老後に備えるには副業をするしかない」。今年4月から労働基準法が改正され、生活費目当ての残業が禁止になった。ジャーナリストの溝上憲文氏は「収入減を補填するためコンビニなどで副業する人が増えている。本業と合わせた残業時間が1カ月100時間を超えるケースもあるようで、過労死が心配される」という――。
 
■闇営業で「消えた残業代」を稼ぐサラリーマンが増加中
 
 芸能界の“闇営業”問題が大きな話題になっている。
 
 闇営業という言葉は刺激的だが、事務所を介さずに得た仕事のことであり、サラリーマンにとっての副業と何ら変わらない。
 
 芸能人の中には困窮している人も多く、一部の事務所は闇営業を黙認しているようだ。サラリーマンの世界でも、副業を黙認している企業は多い。しかも近年の働き方改革によって残業時間が減り、収入減にあえぐサラリーマンは増えている。
 
 今年4月には労働基準法が改正され、「時間外労働の罰則付き上限規制」が施行(中小企業は2020年4月)された。不要な残業が強いられにくくなったわけだが、反対に残業代目当ての“生活残業”が許されなくなり、以前よりも生活が苦しくなった人も多いだろう。
 
■老後2000万円不足問題に備えるには「副業しかない」
 
 加えて、最近では金融庁報告書の「老後2000万円不足問題」が取り沙汰されている。老後に不安を感じているサラリーマンもいるだろう。残業代の減少をカバーし、老後に備えるには「副業しかない」と考えても不思議ではない。
 
 政府が成長戦略実行計画(6月21日発表)で「兼業・副業の拡大」を掲げたことで、今後、副業容認に転じる企業も増え、環境整備も進んでいくと思われる。
 
 もっとも政府の狙いは経済の活性化にある。
 
 優秀な人材が持つ技能が他社でも活用されることで新事業の創出や副業をきっかけに起業する人が増えることを期待しているのだ。
 
老後2000万円不足で
※写真はイメージです(写真=iStock.com/filadendron)
 
■副業は「収入補塡目的」で「パート・アルバイト」が最も多い
 
 実際に副業者、副業志向の人が徐々に増えている。
 
 パーソル総合研究所の調査によると、正社員で「現在副業している」人は10.9%、「過去に副業経験あり」の人の含めると20.8%。副業未経験者のうち今後副業したい人は41.0%に上る。とくに20代の男女がともに55%を超えるなど副業志向が強い。
 
 また「現在副業している」人のうち41.3%が1年以内に副業を開始している「副業の実態・意識調査」(2019年2月12日公表)。
 
 副業の目的のトップは「収入補填目的」であり、就業形態は「パート・アルバイト」が36%と最も多く、次いで「フリーランス・個人事業主」29.4%、「正社員」15%となっている。就業先は飲食店や接客・サービス業が比較的多い。
 
 また、リクルートワークス研究所の調査でも、2018年1年間に副業したことのある正社員は10.4%。就業形態は「パート・アルバイト」が30.4%を占め、副業の目的は「生計を維持するため」が47.4%と約半分を占めるなど、同じような傾向になっている(「全国就業実態パネル調査2019」2019年6月24日)。
 
 本業の収入が少ない、あるいは減ったために生計費を補塡するために、飲食店やコンビニなどで働いているサラリーマン像が浮かび上がる。
 
■年収ベースでは残業代収入は約120万円だが、副業は約82万円
 
 1週間当たりの副業の平均労働時間はパーソル総研の調査では10.32時間。リクルートワークス研の調査では9.9時間。これもほぼ10時間程度と同じ結果になっている。月に換算すると40時間程度働いていることになる。
 
 ではいったい副業でいくら稼いでいるのか。パーソル総研が分析した平均月収は6万8200円。副業の平均時給は約1652円となっている。この金額は減った残業代に見合う金額なのか。
 
 厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」の2018年の大学・大学院卒の30〜34歳の残業代を含まない平均月給は約31万円。この数字を基に25%割り増しの1時間当たりの残業代を試算すると約2500円になる。副業している人よりも高く、副業している人と同じ月40時間だと、10万円になる。
 
 つまり残業するよりも副業だと月に3万円も低い収入しか得られないということだ。年収ベースでは残業代の収入は120万円だが、副業は約82万円にしかならない。副業だけで従来の年収をカバーすることは非常に難しい。
 
■年収をカバーのため過労死基準を超える過重労働の副業をする人も
 
 逆に、年収をカバーしようとすると過重労働になりやすい。パーソル総研の調査では本業と合計した1週間の総労働時間が60時間以上の人が27.7%も存在し、70時間以上の人が11.1%もいる。法定労働時間は週40時間だから、週30時間以上の時間外労働となり、月に換算すると120時間超。1カ月の残業時間100時間の過労死基準をはるかに超えている。
 
 ちなみに転職サイト「Vorkers」(現OpenWork)が調査した年代別の月間平均残業時間は20代・30代は2015年に40〜41時間だったが、2018年には28〜29時間に減少している。副業している人の中には本業で残業もしつつ、働いている人もいるだろう。
 
 パーソル総研の調査では副業によるデメリットを感じた人が24.8%もいる。最も多いのは「過重労働となり、体調を崩した」が13.5%、次いで「過重労働となり、本業に支障をきたした」13.0%、「本業をおろそかにするようになった」11.3%の順になっている。
 
■副業する人が体を壊しても現行の制度では救済されない可能性大
 
 じつは副業している人が体を壊しても現行の制度では救済されない可能性が高いのだ。たとえば過重労働で過労死した場合、現行の労災保険の補償が受けられる過労死認定基準は、時間外労働が2〜6カ月間平均80時間、1カ月100時間を超えて働いていた事実が要件になる。
 
 しかし現状では1つの会社の労働時間でしか判断されず、2社で働き、100時間を満たしていても労災認定されない。また副業先で事故に遭った場合も不利になる。
 
 労災事故が発生し、社員が入院し、休職を余儀なくされた場合、病院にかかる療養補償給付や休職中の休業補償給付が受けられる。
 
 だが、副業先で災害が発生した場合、休業補償給付の給付基礎日額の算定は副業先の給与のみで算定し、本業の給与は加味されない。副業先の給与が低いと少ない金額しか給付されないことになる。
 
 実際に、先のパーソル研究所の調査でも、週の法定労働時間40時間を超える60時間以上働いている副業者が約30%もいれば、いつ労災事故が発生しないとも限らない。兼業・副業の拡大を推進する政府は「所得の増加に加え、スキルや経験の獲得を通じた、本業へのフィードバックや、人生100年時代の中で将来的に職業上、別の選択肢への移行・準備も可能とする」(成長戦略実行計画)と、メリットだけを強調している。
 
 副業している人の労災補償などの法整備を早急に進めるべきだ。そうでなければ残業代の減少で副業を余儀なくされている人は浮かばれない。
 
ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com
 
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 4割超の人が最低賃金水準で働く現実。最賃はもはや家計補助賃金ではない

HARBOR BUSINESS 2019.07.08
 
栗原耕平
  
最低賃金をめぐる従来の「常識」
   この間、最低賃金をめぐる議論が活発化している。政府は全国平均で時給1000円を早期に達成することを目指すとしており、また今年に入ると自民党内部で最低賃金の全国一律化を検討する議員連盟が発足した。さらに労働運動のなかでも、数年前から最低賃金1500円を目指す動きが出てきている。   そんな中、2019年6月13日の日本経済新聞「最低賃金『早期に1000円』の是非」と題する記事中で日本商工会議所会頭・三村明夫氏のインタビューが掲載された。三村氏はそこで、最低賃金の全国平均時給1000円の早期達成という政府方針のためには年5%の引き上げが必要だろうとしながら、2018年度の名目GDPの成長率や物価上昇率が1%未満であること、ここ数年の中小企業の賃上げ率は1〜1.4%であることをあげながら、政府方針の引き上げ幅は大きすぎるとして批判している。   また、その中で最低賃金は一部の労働者にしか影響せず労働者生活に大きな影響を与えないといった趣旨の発言もしている。  「最低賃金で生計の全てを賄っている家庭はあまりいないだろう。例えば一家で主婦がパートで働くときに最低賃金の対象になることがある」   本記事で問題にしたいのは三村氏のこの発言である。これは、最低賃金の従来の「常識」を見事に反映している。   ところで、筆者は2000年に結成された首都圏青年ユニオン(以下青年ユニオンという)という労働組合の事務局次長として不安定な労働者の労働問題の改善に取り組んでいるが、三村氏の発言が表現するような「常識」的な最低賃金観は、筆者が青年ユニオンのなかで出会う労働者の日常と著しく乖離している。本記事では、三村氏の上記の発言を切り口として、従来の「常識」的最低賃金観と現実とのズレを明らかにしたい。  
 
「常識」的最低賃金と最低賃金付近労働者の激増
   三村氏の発言では以下のことが前提されている。  (1)男性正社員である夫とその夫に養われる主婦パートという家族構成は標準的である (2)男性正社員は最低賃金に影響されない高い賃金をもらっている (3)最低賃金に影響を受ける労働者は、男性正社員の高賃金を補助するために、すなわち「家計補助」のために働いているに過ぎない。   まとめれば、最低賃金の影響は、男性正社員に養われており家計補助として働く主婦パートなどに限定されるというものである。これは従来の「常識」的な最低賃金観であった。この「家計補助賃金としての最低賃金」という「常識」的な最低賃金の位置づけは、最低賃金を生計費(人並みの生活を送るための費用)以下の水準に抑制し続けている。   しかし、「最低賃金=家計補助賃金」という図式は何重にも実態と不適合なものとなっている。その不適合を最も明白に示すものは、最近の最低賃金付近労働者の激増である。  
 
出典:後藤道夫「最低賃金1500円は社会をどう変える」、後藤道夫他編『最低賃金1500円がつくる仕事と暮らし』大月書店、2018年、17頁
 
 図表1は、5人以上の企業で働く労働者における最低賃金付近労働者の割合を見たものである。これを見ると、最低賃金5割増しの賃金水準未満で働く労働者の割合は、2001年には20.3%であったが、2017年には40.5%に激増している。   また、図表2は最低賃金の改定額の目安を審議する中央最低賃金審議会「目安に関する小委員会」に提出された資料である。東京で働く労働者の賃金分布と最低賃金額との関係が分かるようになっているが、2006年から2017年にかけて最低賃金額が多数の労働者の賃金に影響する位置に移動していることが明白である。  
 
出典:「中央最低賃金審議会目安に関する小委員会資料」2018年、2007年
 
 三村氏は「例えば一家で主婦がパートで働くときに最低賃金の対象になることがある」など一部の労働者にしか最低賃金が影響しないかのように言うが、いまや最低賃金付近で働く労働者は「標準」となったと言ってよく、多くの労働者の賃金水準に影響を与える制度となっているのである。   このような最低賃金付近労働者の激増は、最近の最低賃金額の引き上げに加えて、(1)最低賃金付近正社員の増加と、(2)非正規労働者の増加によって引き起こされている。これによって、労働者の家計と最低賃金との関係も大きく変わっている。以下では、その実態をやや詳しく見てみよう。 
 
 
「正社員は最低賃金と無関係」は誤り
   青年ユニオンの組合員であり埼玉県で美容師として働く金島さん(仮名)は勤続4年目の男性正社員だが、給与は額面で月22〜23万円程度。月23万円だとしても、その中には24時間分の残業と2日の休日出勤が含まれており、月給を時給換算すると950円未満となる。埼玉県の現在の最低賃金は898円であり、最低賃金付近労働者であるといえる。   金島さんは現在パートナーと同居中だが、パートナーも同様の給与水準の正社員であり、最低賃金が彼ら彼女らの生計を支えているのは明白だ。   最低賃金制度自体はもちろん月給制の正社員にも適用される。月給を実労働時間で割って時給換算したものが最低賃金を下回っていれば最低賃金法違反となる。しかし従来、「常識」的には、正社員は年功賃金と長期雇用が保障され、最低賃金には影響されないほど高水準の賃金をもらっていると考えられてきた。しかしこの間、金島さんのように最低賃金付近で働く正社員は増加している。  
 
出所:就業構造基本調査より作成
 
 図表3は、30代前半の男性正社員の所得分布であるが、1997年の段階では400-499万円のところに最も多くの労働者が集中しているのに対して、2012年には300-399万円にピークが移動しており、また200-249万円にも小さな山ができている。全体として左側に分布が大きく移動していることが分かる。   その結果、最低賃金付近の正社員が増加している。正社員の中で、東京の最低賃金3割増し水準以下の賃金で働いている労働者の割合は、2007年には5.7%であったが、2017年には17.8%と3倍以上となっている(後藤、同上、18頁)。正社員のうち6人に1人以上が最低賃金付近の賃金で働いているのである。こうした最低賃金付近正社員は、最低賃金の大幅な引き上げに応じて賃金が引きあがる可能性が高い。最低賃金は正社員と無関係であるとは到底言えない状況が広がっているのだ。  
「非正規労働者=家計補助的労働者」は誤り
   青年ユニオンの組合員である黒田さん(仮名)は、一人暮らしの30代女性だ。契約社員として最低賃金水準の時給をもらいながらフルタイムで働くが、それだけで生活を送ることは困難であり、他に2つの仕事を掛け持ちしていた。トリプルワークをしていたことになる。   結果として超長時間労働となり、ある日突然布団から起き上がることができなくなった。病院にかかると精神疾患にかかっていると診断された。   黒田さんは非正規労働者であるが、誰かに養われながら家計の補助のためだけに働く「家計補助非正規労働者」ではなく、生計の主たる担い手である「世帯主非正規労働者」だ。しかし、最低賃金が「家計補助賃金」として生計費以下に抑制されているため、黒島さんはトリプルワークをしないと生活費を捻出できず、その結果としての超長時間労働が黒島さんの身体・精神に大きな負担を強いたのである。  
 
出典:後藤、前掲書、22頁より
 
 その多くが最低賃金付近で働いていると思われる非正規労働者は90年代後半から激増しており、現在では4割弱の労働者が非正規労働者である。それに伴い、非正規労働者のなかで「主婦パート」はもはや少数派となっている。   図表4は、学生アルバイトを除いた非正規労働者のうち、有配偶女性(「主婦パート」と考えられてきた労働者層)とそれ以外(無配偶女性+男性)の推移を見たものである。1997年には有配偶女性非正規が636万人でありそれ以外の非正規が596万人であったが、2017年には有配偶女性は940万人であるのに対し、それ以外の非正規は1012万人と有配偶女性の非正規労働者とそれ以外の非正規労働者の数が逆転している。非正規労働者の多くが最低賃金付近で働いていると考えられるが、その非正規労働者の多数派はもはや「夫に養われている主婦パート」ではないのである。   さらに付言すれば、正社員の低賃金化と非正規労働者の激増は、いわゆる「主婦パート」や学生アルバイトなど従来の「家計補助労働」の家計における位置づけを著しく高め、家計にとって欠かせない収入源となっているケースは増えている。もはや「家計補助労働」ではなく、労働者の家計の大きな部分を支えるものであると認識すべきだろう。   したがって、(1)最低賃金付近正社員の増加、(2)家計補助型でない非正規労働者の増加によって、「最低賃金=家計補助賃金」という位置づけは何重にも現実と合致しなくなっているのである。 
 
「正社員男性に養われる主婦パート」家族モデルの危険
   三村氏は「正社員男性に養われる女性」という家族モデルを標準的なものとみなしているように思われる。これは、女性労働者を「男性に養われている/養われるであろう労働者」としてその雇用を不安定にし、また賃金を抑制してきた。その結果、シングル女性をワーキングプア状態にするとともに実質的に男性に養われることを女性に強制した。   例えば、AEQUITAS(エキタス:ギリシャ語で公正・正義という意味)という最低賃金1500円を目指す市民運動団体がツイッター上で「最低賃金1500円になったら」というキャンペーンを行った際には「最低賃金1500円になったら離婚する」という声が見られた。シングル女性として生きることが黒田さんのような低賃金過重労働の生活を意味するとすれば、男性に養われることを選択することへの強制力が働かざるを得ない。女性が自由になるには、また両性の平等のためには、「家計補助賃金としての最低賃金」という「常識」を打破し、「生活賃金としての最低賃金」を実現していく必要があるだろう。  
 
「生活賃金としての最低賃金」を
   これまで「最低賃金は主婦パートなど限定的な労働者にしか影響を与えない」「最低賃金=家計補助賃金」といった「常識」について検討してきた。明らかになったのは、正社員の低賃金化と非正規労働者の激増により、最低賃金が労働者生活にとって非常に重要な制度となってきているという実態である。にもかかわらず、最低賃金の金額はいまだ「家計補助賃金」の水準を出ておらず、労働者生活に様々な困難を生み出している。求められるのは、「生活賃金としての最低賃金」、すなわち、「最低賃金によって人並みに生きていく」ことを可能とするための最低賃金制度の改良である。   では「生活賃金としての最低賃金」の水準とはどの程度のものになるべきであろうか?   このような疑問に答えるため、現在労働組合によって生計費調査が行われている。都道府県ごとに単身者の生計費を明らかにしようというものである。そこでは、全国どこでも、単身者の労働者の生計費は公租公課など含めて月額22〜25万円となっており、月の労働時間を155時間とすると時給は1400〜1500円必要であるという結果が出ている。また、AEQUITASは「最低賃金1500円」を求めて路上での活動を行っている。筆者もこうした主張に賛成である。「全国一律最低賃金1500円」の実現を本気で目指すべきだろう。   また、賃金の引き上げの方法としては、最低賃金制度の引き上げなど法律に定められた制度によるものだけでなく、労働組合と使用者との「団体交渉」(使用者と労働組合・労働者との話し合い。労働組合には団体交渉権が保障されており、使用者は労働組合からの団体交渉の申し入れを原則として断ることができない)による引き上げという方法もある。最近、首都圏青年ユニオンの組合員から「いまの賃金は安すぎる」と言う不満が相次いでおり、使用者との団体交渉によって賃上げを実現した例もある。筆者としては、最低賃金制度と団体交渉による最低賃金付近労働者の賃上げが急務であり、またそれは不可能ではないのだということを強調したいと思う。  <文/栗原耕平>
 
栗原耕平
1995年8月15日生まれ。2000年に結成された労働組合、首都圏青年ユニオンの事務局次長として労働問題に取り組んでいる。
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読売新聞 社説 「無給医」問題 不適切な労働慣行を改めよ
 
2019/07/05 05:00
 
 診療に携わりながら、働きに見合う給与を支給されない。不適切な「無給医」の慣行を改める必要がある。
 
 文部科学省が全国108の大学病院を調査したところ、2191人の無給医が確認された。大学教員らを除いた約3万人の勤務医の約7%に当たる。
 
 「精査中」と回答した大学病院もあり、最終的な無給医の人数はさらに増える可能性がある。
 
 文科省が労務管理の改善を求めたのは当然だ。各大学病院は適切な支払いに努めてもらいたい。
 
 無給医の多くは、医師免許を持つ大学院生や、専門医を目指す専攻医らだ。大学病院は、こうした医師が自己研鑽けんさんや研究目的の一環で診療を行っている、という理由で給与を払っていなかった。
 
 ところが、実際は診療のローテーションに入るなど、通常の勤務医と変わらない仕事をしていた。労働者としての実態があるのは明らかである。労働者への給与支払い義務を定めた労働基準法に抵触する疑いが強い。
 
 大半の無給医は、他の病院でのアルバイトで生計を立てており、過剰労働に陥りやすい。疲れのたまった状態で診療を行えば、ミスの可能性が高まり、患者を危険にさらすことになりかねない。
 
 見過ごせないのは、雇用契約が結ばれていない医師と労災保険に未加入の医師が、全国の大学病院に6000人以上いたことだ。
 
 雇用契約がなければ、勤務時間や休暇の管理が行われない。労災保険に加入していないと、院内感染などの際に、労災認定を受けられなくなる。大学病院は、早急に是正しなければならない。
 
 無給医の慣行が大学病院で続いていた背景には、「医局」の仕組みがある。医局は、教授を頂点とするピラミッド構造で、大学院生や専攻医は底辺にいる。
 
 医局の教授は、博士号の取得や、専攻医らの就職先となる関連病院の人事に強い影響力を持つ。このため、不適切な処遇を受けても、大学院生らは改善を要求できなかった面もあるのだろう。
 
 大学病院では給与を払える医師の数は限られている一方で、業務量は多いため、無給医で業務を維持させているとの指摘がある。
 
 医師の少ない地方の病院に、大学病院から無給医がアルバイト医師として派遣され、地域医療を支えている実態もある。
 
 医師の人手不足を無給医で穴埋めするという、いびつな構造をどう改善していくのか。総合的な対策の検討も求められる。
 
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 2019年07月04日

教員「定額働かせ放題」、そもそもは「人事院の解釈」 学者に聞く
牧内昇平
 
〔写真〕給特法と先生の残業代について語る高橋哲・埼玉大准教授=2019年5月、さいたま市、牧内昇平撮影
 
記事INDEX
 ・残業代、仕事減らす動機に
 ・学校の先生も36協定を
 ・取材を終えて
 
小学校の現役の先生が残業代を求める裁判を起こしました。「定額働かせ放題」とも言われている先生の過酷な働き方を変えるためですが、学校の先生には「給料の4%にあたる『教職調整額』を支給し、それ以外の残業代を支払わない」という、文部科学省がつくったルールがあります。「正直言って勝算は低いかな」と思っていたら、教育法学者の高橋哲さん(埼玉大准教授)が「文科省の法律の解釈に問題がある。法律を正しく読めば残業代は当然支払われるべきだ」と話してくれました。高橋さんに詳しく聞いてみました。(朝日新聞記者・牧内昇平)
 
「定額働かせ放題」なぜ?
ーー先生たちの働き方は「定額働かせ放題」とも言われています。教職調整額が一律で支給される代わりに、いくら長く働いても残業代が支払われないからです。なぜこんな仕組みになっているのか、教えて下さい。
 
「給特法」(公立学校教育職員の給与等に関する特別措置法)という法律があるからです。給特法は先生の時間外勤務を4つの特殊な業務に限っています。生徒実習、学校行事、職員会議、災害時の対応の4つです。「限定4項目」と言われています。
 
実際には、この4項目以外にも様々な時間外勤務をしていますが、文科省はこれらを「先生の自発的行為」と位置づけています。そして賃金については、自発的行為も含めて教職調整額でカバーしている、というのが文科省の見解です。私が「包括解釈」と呼んでいる考え方です。
 
ーーテストの採点とかトラブル対応とか、先生たちはいろいろな仕事で夜遅くまで働いていますよね。そうした仕事が「自発的行為」とみなされるのは納得がいきません。
 
その通りです。本来ならば、4%の教職調整額がカバーしているのは「限定4項目」の仕事だけだと考えるべきです。そして、4項目以外の仕事についても正当な労働と評価し、この分については別に残業代を支払う。こうすべきです。お金の問題だけではありません。先生の長時間労働を防ぐのにも効果があります。
 
(図)教員の時間外勤務の考え方=2018年12月
出典: 朝日新聞
 
残業代、仕事減らす動機に
ーー残業代を支払うようにすれば、先生の働きすぎを防げますか?
 
効果は大きいです。残業代には通常の賃金より高い割増賃金を支払う義務がありますので、学校が先生の仕事を減らす動機付けになります。『高い残業代を払うより、もう1人雇った方が安上がりだ』ということで教員増にもつながるでしょう。さらに、なによりも大切なのは、残業をさせるためには「36協定」の締結が必要な点です。
 
ーー36協定とはなんですか?
 
労働者を合意のない残業、時間外勤務から守るためのものです。労働基準法(労基法)は1日8時間労働を基本としています。例外的に8時間以上働く場合は、会社と労働者の代表が協定を結び、役所に届け出る必要があります。労基法の36条で義務づけられているため、「36(サブロク)協定」と呼ばれています。
 
ーー先生は36協定を結んでいないのでしょうか?
 
公立学校の先生は36協定を結んでいません。文科省が「必要ない」という考えだからです。まず、限定4項目の仕事は、労基法33条3項の「公務のために臨時の必要がある場合」の時間外勤務と位置づけられていて、36協定を結ばなくてもよいとされています。次に、4項目以外の仕事ですが、これは文科省の考えで言えば「自発的行為」ですから、やはり36協定の対象ではない。したがって36協定は必要ない、というのが文科省の見解です。
 
〔写真〕教育法を研究している高橋さん。米国の先生の働き方などにも詳しい=2019年5月、さいたま市、牧内昇平撮影
 
学校の先生も36協定を
ーー限定4項目以外の時間外勤務を正当な労働と位置づければ、36協定を結ぶ必要が生じますか?
 
そう考えています。そして36協定を結ぶ際には、残業時間の上限を決めなければなりません。現在のような無定量の時間外勤務は許されなくなります。
 
なおかつ、いわゆる「働き方改革」法が成立し、民間企業は労使で36協定を結んだとしても残業できる時間に上限が設けられました。「1カ月で最長100時間、6カ月平均で80時間」という設定に批判もあると思いますが、私は一定の効果はあると思っています。
 
学校の先生も36協定を結べば、この上限規制が適用されます。現在は36協定がないため、民間企業に義務づけられた上限規制は、学校の先生に対してはガイドライン、努力目標として提示されているだけです。
 
(図)民間企業は労使で36協定を結んだとしても残業できる時間に上限が設けられた
 出典: 朝日新聞
 
人事院の「解釈」が今でも
ーー給特法の解釈が変われば、先生の働きすぎを防ぐ効果も期待できるわけですね。個人的には高橋さんの意見に賛同しますが、文科省が長年堅持してきた「包括解釈」が変わる余地はあるのでしょうか。
 
給特法の歴史を掘り起こしてみましょう。この法律ができた1971年、文部省は「施行通達」という文書を出しています。政府による給特法の公式な考え方をまとめた文書です。この文書の中には「包括解釈」の考え方が明記されていません。
 
ーーえっ、そうなんですか?
 
この考え方を最初に示したのは、人事院です。給特法案が国会で審議される際に、人事院はこの法律について「意見の申出に関する説明」という文書を作っています。その中で「包括解釈」の考え方が出てきます。
 
ところが、文部省は正式な施行通達にこの考え方を明記しませんでした。この事実は、当時の文部省が包括解釈をとることに慎重であったことを示していると、私は考えています。
 
一方で、施行通達には明記されなかったにもかかわらず、その後文部省筋が一般図書として発行した給特法の解説書の中には包括解釈が盛り込まれました。なぜそうなったのか、詳細については今後明らかにされる必要があります。
 
ーーつまり、どういうことですか?
 
いま定着している「包括解釈」という考え方は、教育の責任官庁である文部省ではなく、第三者的立場にあった人事院による見解の一つに過ぎないということです。それが十分な議論を経ないまま、教育現場に定着してしまったのです。
 
人事院は国家公務員の給与水準に意見する「人事院勧告」で有名ですが、「意見の申出に関する説明」は「勧告」のように法的根拠が明確でなく、人事院が書いた参考文書に過ぎません。必ずしも確定された行政解釈ではなかったわけです。
 
実際、1971年に給特法が制定された直後にも、「先生たちは限定4項目以外の業務について36協定を結び、残業代が支給されるべきだ」と主張する研究者はいました。
 
ーーなぜ、これまで議論が進まなかったのでしょうか?
 
平均的に言えば、先生がいまほど忙しくなかったからです。1966年から67年にかけて文部省が教員勤務状況調査を行っています。そのとき、小学校の先生の時間外労働は1週間で2時間30分、中学校の先生は4時間弱でした。4%という教職調整額の数字が実態とそれほど矛盾していなかったのです。
 
ところが今は、小学校教諭の3割、中学校教諭の6割が過労死ラインを超えている時代です。法の運用が実態に見合わなくなった現実が、給特法の解釈問題を再燃させていると思います。
 
ーー「包括解釈」という考え方が生まれた経緯を聞いてみると、必ずしも変更不可能なものとも思えなくなりました。
 
どちらが正しい解釈なのかは、最終的に裁判によって決定されることです。現在、さいたま地裁で現役の先生が残業代訴訟を起こしています。こうした裁判が全国で起き、どれか一つでも勝訴すれば、世の中が変わるきっかけになると思います。
 
〔写真〕残業代を求めて裁判を起こした田中まさおさん(仮名、画面左)。小学校で4年生の学級担任を務めている=2019年5月、さいたま市、牧内昇平撮影
 
ーー司法の場に解決を求める、ということですね。
 
もちろん、必要なのは裁判だけではありません。大切なのは、先生たちが団結して自分たちの働き方や職場環境の問題に声を上げることです。
 
たとえば、ニューヨーク市の先生の労働時間は1日6時間20分とされています。これは、先生たちが学校側と団体交渉し、つかみとってきた成果です。一方、日本では長らく、先生が自分たちの働き方に意見を反映できなかった時代が続きました。これを克服すべきです。
 
労働時間だけでなく業務内容やクラスの規模まで、先生たちが学校や教育委員会と話し合い、意見を反映させる仕組みが必要です。
 
取材を終えて
「先生は聖職だ」という人がいます。たしかに子どもを教え育てるのはとても大切な仕事ですが、一方で一人ひとりの先生が労働者であることも事実です。労働者として雇い主(学校)と36協定を結び、正当な残業代をもらう。先生の過労死が相次いでいる現状を考えると、こういった改革も必要ではないでしょうか。
 
埼玉大の高橋哲准教授へのインタビューで、先生の働き方のネックになっている給特法について、できた頃の経緯が少し分かりました。現役の先生の裁判を一つのきっかけにして、この法律の是非をめぐる議論がさらに活発になることを期待しています。
 
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寺西笑子さん 過労死ない社会のための「改革」を 「働き方改革」関連法成立から一年

 
「全国過労死を考える家族の会」代表世話人・寺西笑子さんに聞く
京都民報Web 2019-06-28T15:38:48+09:00ニュース, 労働, ピックアップ画像ニュース
 
長時間残業合法化を「改革」と呼ぶ違和感
 長時間労働に歯止めがない「高プロ制度」の創設を含む「働き方改革」関連法の成立から今月で1年。「過労死等防止対策推進法」(2014年)の成立から5年が経ちます。労働行政の課題や、過労死を生まない社会をつくる取り組みなどについて、「全国過労死を考える家族の会」の寺西笑子(えみこ)代表世話人(過労死等防止対策推進協議会委員)=京都市伏見区=に話を聞きました。
 
 6月は、弁護士らによる全国一斉電話相談「過労死110番」があり、例年だと厚労省が「過労死等の労災補償状況」を発表する時期です。
 
 厚労省の自殺統計では、勤務問題が原因とされるのは約2000人。その1割ほどが労災申請をし、国が認定するのは100人足らずですから、過労自死や過労死の労災認定は氷山の一角でしかありません。
 
 過労死防止法ができ、過労死をめぐる関心や世論は広がっていますが、過労死が減っているわけではなく、救済の面でもまだまだ遅れた現状があります。家族の会として、労災申請の相談に応じていますが、新入社員にベテランと同じような責任の重い仕事を命じるハラスメントも多いです。ダブルワークのように複数の職場で働く場合、労働時間が合算して認められない、低年金のため働かざるを得ない高齢者に通常の労働者と同じ労働時間規制をあてはめるなど、精神的緊張やストレスへの評価、時間外労働の過少申告などを改めないと、泣き寝入りする状況は変わりません。労働時間の適正把握を徹底することで申請をしやすくすること、労災認定基準の改定が課題だと考えています。
 
 過労死弁護団は、厚生労働省に「脳・心臓疾患、精神障害・自殺の労災認定基準の改定を求める意見書」を提出しています。脳・心臓疾患の認定基準は2001年、精神障害・自殺の認定基準は11年に改定されたきりで、過労死防止法が出来る以前のままなので、今日の実態にあった形での認定基準に変えるよう求めています。
 
 政府は、“多様で柔軟な働き方”などの実現といって、「働き方改革」関連法を成立させましたが、被災者の救済や補償は何ら変わってもいないし考えてもいません。救済制度の整備もなく「高プロ制度」を創設したのは本末転倒です。そもそも、過労死を心配するような働き方はあってはならないわけで、家族を過労死で失った私たちは、法案に反対したんです。
 
 関連法で、時間外労働の上限とされた、複数月で平均80時間、最大100時間未満という内容は、過労死ラインだということを認識してほしいです。残業ありきで働かせ、しかも長時間残業を法律で合法化する働き方を「改革」と名付けることに違和感があります。労働時間を規制し、睡眠と自由に使える時間の保障があって、ふつうに生活できる働き方を考えるのが、本当の「働き方改革」だと思います。
 
 過労死のない社会、健康で働き続けることのできる社会をご一緒にめざしましょう。
 
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給料の消滅時効延長に企業は反対?今日から労政審での議論スタート!
佐々木亮  | 弁護士・ブラック企業被害対策弁護団代表
2019/7/1(月) 5:00
 
〔写真〕時効が来ると発生した残業代は飛んで行ってしまいます。(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)
 
給料の消滅時効が延びる?
 さて、ちょっと前にこういうニュースがありました。
 ・未払い賃金の請求期間、延長へ さかのぼり「原則5年」
 ・未払い賃金請求期限延長へ 労働者の権利拡大
 
 これらのニュースは、いずれも給料(賃金)の消滅時効の期間が、現在の2年よりも延びるかも?!という記事です。
 
 実は、これはけっこう重要な問題です。
 
残業代請求に大きな影響がある
 たとえば、残業代を考えてみてください。
 
 「転職したけど、前の会社で残業代もらわなかったな。よし。残業代を請求しよう!」ということって、よくありますね?
 
 しかし、ここで遡って請求できるのは2年までです。
 
 具体的には、給料日が毎月25日の会社の場合、今日(2019年7月1日)の時点では、2017年6月25日までの給料(残業代を含む)は消滅時効にかかっています。そのため、たとえ残業代が未払いだからといってこれを請求しても、会社から「時効だよ」と返されてしまうと、払ってもらうのはとても難しくなります(*1)。
 
 そして、2019年7月25日が過ぎれば、2017年7月25日の給料が時効になり、毎月、毎月、時効が訪れることになります。
 
 これが2年より長くなるかも?!と言われているのです。
 
きっかけは民法改正
 だいぶ前のことですが、民法という法律が改正されました。
 
 そこでは、いろいろな改正があったのですが、消滅時効に関しても改正がありました。
 
 実は、先ほど当たり前のように給料の時効は2年だと書きましたが、現在の民法では給料の時効は1年とされており(民法174条1号)、もっと短いのです。
 
 これが労働者を保護するための法律である労働基準法によって2年に延長されているわけです。
 
 ところが、先の民法改正によって、民法の方の消滅時効が原則として5年に改正されたので(*2)、このままでは労働者を保護するための法律の方が時効が短いという逆転現象が起きる状況になったのです。
 
 ちなみに、改正民法の施行は、2020年4月からとなっています。
 
検討会を設置
 そこで、労働に関する法律を所管する厚労省は、民法の改正を受けて賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会を設置し、有識者を招集しこの点について検討させました。
 
 そこでの検討が終わったタイミングで、冒頭に紹介したニュースなど、いくつかの報道があったというわけです。
 
 まぁ、労働者保護のための法律の方が、一般法である民法よりも労働者の権利を早く消滅させてしまうというのは、さすがにあり得ないわけで、検討会でも当然にその方向にまとまるだろうと思っていました。
 
□ところが!
 
 この検討会では、消滅時効を5年とするの望ましい、などの結論は出ませんでした。
 
 それは使用者側の猛烈な反対意見があったからのようです。
 
 それは、次の記載からうかがわれます。
 
 なお、この検討会の議論の中では、例えば、改正民法の契約上の債権と同様に、賃金請求権の消滅時効期間を5年にしてはどうかとの意見も見られたが、この検討会でヒアリングを行った際の労使の意見に隔たりが大きい現状も踏まえ、(中略)具体的な消滅時効期間については速やかに労働政策審議会で検討し、労使の議論を踏まえて一定の結論を出すべきである。
出典:「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」論点の整理(案)
 
 結局、検討会では結論がでなかったので、労働政策審議会にお任せしますのでよろしく!  ということです。
 
使用者側はどんな理由で反対していたのか?
 使用者側と思われるヒアリングの結果が論点整理案に上がっているので、いくつかピックアップしてみましょう。
 
 まず、管理が大変という反対理由があります。これが一番有力な反対意見のようです。
 
・賃金等請求権の消滅時効期間が見直された場合、一定のシステム改修等の負担が発生するとともに、関係書類の保存期間も延長されることになれば、デジタルデータ、紙媒体の如何を問わず、保管コストの負担は相当なものになる。特に経営基盤の弱い小規模事業者にとっては過大な負担となる可能性がある。
出典:同前
 
・保存期間を3年から5年にするとデータ量が単純計算で約 1.6 倍になるが、それに伴う負担増については、保管の実態にもよるが、保存期間の延長を躊躇すべき理由として挙げられるほど大きいのか考える必要がある。
出典:同前
 
 まあね。たしかにそういう部分はあるでしょう。
 
 しかし、それほどですか?
 
 そもそも、民法改正によって消滅時効が延びるのは賃金などの労働債権だけではありません。
 
 論点整理案には労働者側と思われる次の意見もありました。
 
・記録が膨大になるという指摘に対しては、今回の民法改正では運送賃や宿泊料等の債権に係る1年間の短期消滅時効も廃止されており、当然それについて膨大な記録を取ることになるが、各事業者から負担を軽くするために短期消滅時効を残すべきという意見はない。労働に限って負担が重くなるというのはおかしい。
出典:同前
 
まったくもってその通り。
 
 他の分野では、こうした駄々をこねたという話はありませんので、結局、企業側の意見は、時効が短い方が残業代を払わないまま逃げ切れる可能性が高くなるからなんじゃないですかね?
 
 その他の意見としては、
 
・未払賃金に関して実際に争点になるのは、ある業務について指揮命令があったかどうか、労働時間かどうかという点であり、当該期間の業務指示の有無について、当時の上司に確認する必要があるが、人事異動・転勤・退職等で確認が困難である場合が多く、人の記憶が曖昧なこともあり、正確な記録確認は消滅時効期間が延びるほどに困難になる。
出典:同前
 
というのもありますが、「え? 5年程度で本気で言ってんの?」というほかないですね。
 
 たとえば、企業が労働者に払いすぎていた賃金は不当利得返還請求によって返せと言ってきます。
 
 例として挙げると、通勤手当を本来より多く払っていた場合などがありますが、この場合、現行民法では10年分まで遡って返還請求ができるんですが、企業は普通の顔して10年分請求してきますからね。記憶とかそんなの気にしてないです。
 
 他にも、解雇事件、懲戒事件、その他もろもろの労働事件がありますが、5年以上前のことを持ち出して労働者を処分してくることはザラにあり、裁判で証言する企業側の人の記憶は、異常なほどはっきりしていますよ。まさか、あれウソだったというわけじゃないですよね?
 
 それが賃金を請求される側になると、いきなり「いやぁ、記憶が曖昧でねぇ」とは、よく言えたものだと思います。
 
 最後に、一番見苦しい言い訳としては、
 
・現行の賃金請求権の消滅時効期間が2年間であることで特段の問題は起きておらず、早期の権利義務関係の明確化の観点から現行を維持するべき。
出典:同前
 
 いや、けっこうな数の労働者が2年までしか請求できないことに悔しい思いをしています。
 
 この消滅時効で労働者が悔しい思いをしている分、払わないで得してほくそ笑む企業があることになります。
 
 特段の問題が起きてないと思うのは、2年程度だったら逃げ切れてるからでしょうね。
 
 他にもたくさんありますが、長くなるので紹介はこの程度にしておきます。
 
ちゃんと払っていれば時効なんて恐くない!
 このように、手を変え品を変えて時効が2年より長くならないような主張を展開するのですが、そもそも、残業代も含めて賃金を全額払っておけば何の問題もありません。
 
 恐がる必要なんてないですよ。
 
 残業代とか、そういう賃金を払わないから、「時効にかかってくれ〜」という思いが生じるだけなのですが、ちゃんと払っている企業からすれば、「へー。時効延びるんだぁ」くらいなものでしょう(想像ですが)。
 
 残業代をどうにかして払わないで逃げ切ろうという強い思いが、ピックアップしたような言い訳につながっているのでしょう。
 
労政審での議論がスタート
 そして、ついに7月1日に、どのような時効制度にするのかを決める運命の労働政策審議会(労働条件分科会)が開かれることになりました。
 
 労働関係の法律は、労働政策審議会において、労働者代表と使用者代表の議論を経てから法案化されるので、ここでの議論が大変大事になります。
 
 7月1日の議論1回だけでは終わらないと思いますので、この議論がどう推移するのか注目していきたいと思います。
 
 また、後日になりますが、本稿とは別に、この時効に関する論点解説もしていこうと思います。
 
<注釈>
*1 ただケースによっては時効が中断されている場合もありますので、素人判断するよりは、一回は専門家に相談したほうが確実です。
*2 短期消滅時効と言われていた短い時効期間は廃止され、原則として、権利を行使できると知った時から5年、権利を行使できる時から10年と統一されました。
 
佐々木亮
弁護士・ブラック企業被害対策弁護団代表
弁護士(東京弁護士会)。旬報法律事務所所属。日本労働弁護団常任幹事。ブラック企業被害対策弁護団代表。ブラック企業大賞実行委員。首都圏青年ユニオン顧問弁護団。民事事件を中心に仕事をしています。労働事件は労働者側のみ。労働組合の顧問もやってますので、気軽にご相談ください! ここでは、労働問題に絡んだニュースや、一番身近な法律問題である「労働」について、できるだけ分かりやすく解説していきます!
 

 

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なぜタダで働くのか?「無給医」たちの現実 〜医師の視点〜

中山祐次郎  | 一介の外科医・もの書き

https://news.yahoo.co.jp/byline/nakayamayujiro/20181028-00102034/

yahoo news 2018/10/28(日) 10:30

 

無給医ー給料をもらわずに医者の仕事をする人々ー(写真:アフロ)

 

 先日、NHKのニュースウォッチ9で「無給医」(むきゅうい)についての放送があり、話題になりました。本記事では、実際にいる無給医の実態と、その実状を医師の立場から解説します。なお、筆者は外科医師で、部分的に無給だった勤務経験があります。

 

なぜ無給なのか?

 まず、「無給医」とは、無給で働く医者のことです。無給といっても意味が通じないかもしれませんが、色々な理由で本当に給料をもらわずに労働している医師が存在するのです。ほとんどは医師になって3〜12年目くらいの若手・中堅医師です。私の知人医師にも経験者は何人もいます。

 無給医は大きく3タイプに分かれ、それぞれによって無給である理由が微妙に異なります。

 

無給医には3タイプ

 ここで3タイプの無給医を紹介しましょう。順に説明します。

1. 「勉強したいから無給」医

2. 「大学院生で無給」医

3. 「医局の都合で無給」医

 

1. 「勉強したいから無給」医

 「勉強したいから無給」医は、言葉のとおり「この病院で働きつつ高度なスキルを勉強したいから、無給で働かせて下さい」というもの。実は私も若い頃、月15日の給料のみという契約でしたが勉強したかったので月22日勤務していたことがあります。事務方からは、「その7日は趣味で来ているということにして下さい」と言われていました。私の先輩医師には、完全フルタイムで働きつつ無給で勤務した医師も数人います。

 この「勉強したいから無給」というスタイルは、医師の世界ではそれほど特殊なことではありません。なぜなら後述するように、医師は超長時間労働さえ覚悟すればアルバイトで生計を立てられるからです。

 

2. 「大学院生で無給」医

 次に、大学院生で無給というスタイルがあります。医局に入局した医師の多くは、だいたい卒業まで最短で4年かかる大学院に入学します。そこで大学院生として講義に出たり研究をしたりしながら、その4年のうち1、2年は大学病院で給与は出ないまま医師の仕事をするパターンが非常に多いのです。

 調査したわけではありませんが、耳に入ってくる医師の大学院生は8割以上がこれに当たります。下手をすると、「人手が足りないから」という理由で大学院に進学したが研究をする時間を与えてもらえず、ずっとタダ働きをしていたなんてこともあるのです。その結果研究が進まず論文が完成しないため、大学院には行ったが卒業できなかった、又は博士号が取得できなかったというケースも存在します。

 

3. 「医局の都合で無給」医

 最後は医局の都合で無給医をやっている医師です。このタイプが人数としては一番多いかもしれません。こちらは、医局が「大学病院に有給職として雇えるのは○人」と決まっており、しかしそれでは人手が足りないため無給医として大学病院に勤務させるというもの。

 そんなひどい話があるのか、それなら医局を辞めればいいのでは、という声も聞こえてきそうです。が、やはりアルバイトで生計がある程度立ってしまうのと、医局をやめることは大学病院医師としてのキャリアを失うことになります。さらには医局の人間のつながりがあり、「人助け」が信条の医師はついその立場に甘んじてしまうこともあるでしょう。また、大学病院でしかできない病気の治療や高度な治療、そして稀な病気の治療や研究に携わりたい人もいます。

 また、女性医師は妊娠・出産・子育てに関連して有給→無給医と命じられることがあります。実際にそれを言われた女性医師がNHKのニュースウォッチ9(2018/10/26放送)で出演していました。さらにjoy.netというサイトでも無給医のリアルな声が多数寄せられています。

 

勤務証明がないので認可保育園に入れない

 無給医は、その勤務実態を証明する勤務証明がなく、従って社会保障がありません。また、認可保育園に入園することもできないのです。joy.netにはこのような声が寄せられています。

無給の場合は実際に働いていても勤務証明を出してもらえないので、認可保育園に入園することができない。

 

出典:joy.net

 若い医師がタダ働きをしたあげく、社会保障がなく、保育園でも苦戦する。これが今の大学病院の現状です。

 

なぜいま無給医が取り上げられるのか

 この無給医、なぜ今まで問題にならなかったのでしょうか。重要なポイントは2つあります。

 

 1点目は「医師はアルバイトで食っていける」という点です。医師には、アルバイトというシステムがあります。医師がするアルバイトは、普通のアルバイトと同じで時給か日給で一日〜数日間など病院で働いてアルバイト代をもらうもの。中には金曜日の朝から日曜日の夜までぶっ通しで働くものがあり、割がいいのです。これだけ毎週やっていれば、年収は800万円を超えます。詳しくは日経ビジネスオンラインの記事にも書きましたが、アルバイトだけで生計が立つのです。ですから、本業(フルタイムの仕事)は無給でもやっていけるという事情があります。もちろん、労働時間は超長時間にはなりますが。

 もちろん、「食っていけるからフルタイムは無給でいいだろう」という論理は誤りですが、場合によっては無給医みずからがそう考えていることもあります。

 

 2点目として、私は労働体制に文句が言えない業界体質を指摘します。医師の大多数は大学医学部の医局という組織に所属し、基本的にその医局の人事で動いています。医局とは教授をトップとするピラミッド型の構造で、多くの場合給与や階級(職位)はおおむね年功序列です。

 私は大学病院と無縁に働いているためこういった発言ができますが、大学病院勤務、あるいは医局に所属する医師にはまず不可能でしょう。大学病院を辞めても他の病院で働けばいい、という話はありますが、大学病院は多くの都道府県では1つしかなく、県内じゅうの大きな病院は医局が強い影響力を持っています。医局との関係が悪くなれば、そのエリアでは働きづらいという状況に陥る可能性もあるのです。

 

解決策は?

 では、この問題の解決策はあるのでしょうか。残念ながら現段階では、厚生労働省などから強い力で無給医問題に取り組んでもらうことくらいしかないと考えます。問題の根本には、大学病院にはそもそも多くの医師を有給で雇う経済的余裕がない点があります。大学病院は好き好んで無給医のシステムを取っているわけではありません。これが解決しないうちは、無給医はいなくならないでしょう。現在厚生労働省は「医師の働き方改革」を進めていますが、その中身であるタスクシフティングなどがすぐに解決に繋がるとは考えづらい状況です。

 

最後に

 無給医を取り上げたNHKの番組では、大学病院を所管する文部科学省が「無給医は存在しない」とコメントしたと紹介しています。しかし全国には、無給で、あるいは過酷な待遇で働く医師が存在しています。本問題の闇は深く、光を当てることさえままなりません。

 しかし、無給という待遇は当然ではありません。この記事では問題提起のため、無給医を取り上げました。

 

中山祐次郎

一介の外科医・もの書き

1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、同院大腸外科医師(非常勤)として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、現在福島県郡山市の総合南東北病院外科医長として、手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「幸せな死のために一刻も早くあなたにお伝えしたいこと」(幻冬舎)、「医者の本音」(SBクリエイティブ)、小説「泣くな研修医」(幻冬舎)。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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