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                                  兵庫県立大学  客員研究員
                                大阪損保革新懇  世話人   松浦 章
 
 損保大手の三井住友海上が、「三六協定」年間限度時間をそれまでの350時間から540時間に引き上げました(いずれも特別条項適用の場合)。

これは、現在国会で審議されている「働き方改革」法案で、過労死ラインを超える「上限規制」が設けられることを前提に、早くもその先取りが行われたものと考えられます。

社会的使命を果たすため?

同社は、「36協定と目標限度時間」と題した通達(2018年4月)において、限度時間まで引き上げられる〈特別な事由〉として、「広域災害(台風、地震等)の対応、大規模クレームの対応、決算など」を挙げています。また実施に先立っての労働組合への提案でも「近年、自然災害が年に複数回発生することも多く、この場合、現行の特別条項の年間限度時間に到達し、被災されたお客さまに迅速に保険金をお支払いするという当社の社会的使命が果たせなくなる懸念がある」などと述べています。

「社会的使命を果たすため」と言えば聞こえがよいのですが、なぜこの時期なのでしょうか。同社の「働き方改革」方針を見る限り、とてもそれを真に受けることはできません。

「働き方改革」の目的は「生産性向上」

三井住友海上は、働き方改革の実践課題として、2017年4月から退社時間を遅くとも原則19時とすることをルール化していますが、同社大阪の労使協議では以下のやり取りがなされています(アンダーライン等原文のまま)。

〈労組〉
「一部の職場では『19時退社』のみのイメージが先行して認識されており、『働き方改革』の先にある『目的』や『ビジョン』を理解しないまま取組が進められています」「『働き方改革』を全ての組合員・社員が前向きに取組むためには、マネジメント層の意識改革と適切な旗振りが極めて重要であり、『働き方改革』の趣旨・目的の正しい理解と適切な職場運営に向けたマネジメント層の継続的な教育・指導をお願いします」

〈会社〉
「『19時退社』ではなく、生産性を高めることが『働き方改革』の目的であることをまず理解してほしい。効率的に働き、品質を向上させ、お客さま対応をしっかり行い、予算達成し、19時退社を実現させることが目標である。マネジメントの意識改革が重要であり、しっかりと指導していく」 (三井住友海上労働組合「大阪分会ニュース」)

「働き方改革」の目的は、早く帰ることではなく「生産性向上」だ、それをもっと職場に徹底し理解させなければならない、と労使で確認し合っているのです。なお、同社は19時までの退社を働き方改革の目玉としており、19時以降残業を行う場合は課長を飛び越して部長の承認を必要とするほどの徹底ぶりです。マスメディアもこの政策には注目していますが、一方で早朝6時台の出勤が相次いでいることは全く報じられていません。仕事量は減っていないのですから、そのしわ寄せがどこに行くかは当然予想されることです。

まず「生産性向上」という同社の考え方からすれば、「働き方改革」法案で過労死ラインを超える上限規制が設定されることは、渡りに船となったに違いありません。
 
東京新聞、参議院厚生労働委員会で取り上げ

現に、「三六協定」上限引き上げの会社提案について、三井住友海上労組は「会社提案は現在審議中の労働基準法改正案(時間外労働の上限規制720時間)よりも短く、組合員・社員の健康に一定配慮した水準であることから、理解できなくはありません」と述べています(『Message』職場会資料版、2018-2)。

「三六協定」上限引き上げの恐れは、今回の月100時間、年間720時間未満という上限規制が法案に盛り込まれたときから危惧されていたことです。

この問題は、東京新聞が6月19日付夕刊で「働き方改革 引き上げ懸念」と大きく取り上げ、「むしろ、法の範囲内で上限残業時間を引き上げる企業が増えないか懸念されている」と述べています。同紙面で、森岡孝二・関西大学名誉教授も「懸念が現実となった。法改正に呼応して、三井住友海上のように残業の上限規制を引き上げる企業が出てくる可能性がある。今後、危惧される先例だ」ときびしく指摘しています(東京新聞の記事はこのホームページの「トピックス」覧に掲載)。

また同日の参議院厚生労働委員会では、共産党の倉林明子議員が「法改正前からすでに引き上げが始まっている。きわめて危険だ」と厚労省を追及しました。

本来、長時間労働をなくすはずの法案が、逆に過労死を助長しかねない。それがすでに大企業で現実のものになっている。その典型といえるのではないでしょうか。「働き方改革」の目的が「生産性向上」である以上、労働条件の改善どころか、さらなる長時間労働・サービス残業と過労死の「法認」に道を開くものと言わざるをえません。
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 Yahoo! ニュース 2018年5月29日 (The PAGEの竹信三恵子氏の論説より)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180529-00000005-wordleaf-pol&p=1

[写真]高プロ制を含む「働き方改革」を今国会の最重要法案と位置づける安倍晋三首相(代表撮影/ロイター/アフロ)写真省略

安倍晋三内閣が今国会の最重要法案と位置づける「働き方改革」関連法案が今月内にも衆院本会議で採決される見通しです。この関連法案は今国会で成立する公算が高くなってきましたが、一体どんな内容でどんな課題があるのでしょうか。労働社会学が専門の和光大学教授、竹信三恵子氏に寄稿してもらいました。

【写真】“退社8分後に出勤”で考える過労社会の処方箋「インターバル休息」制度



「働き方改革」の中の「高度プロフェッショナル制度」が論議を呼んでいます。政府や企業側を中心とした「成果を出せば早く帰れる」「柔軟に働ける」といった言説に対し、過労死の遺族や労働側から「『働かせ放題』が可能になり過労死が激増する」といった懸念が高まっているからです。その中身を丹念に点検してみると、確かに、この制度の「異次元」ともいえる労働者保護外しの横顔が見えてきます。

残業代・休憩・休みがなくなる?

「高度プロフェッショナル制度(高プロ制)」とは、どんな制度なのでしょうか。

 「働き方改革関連法案」などを見ると、正式名称は「特定高度専門業務・成果型労働制」。厚生労働省の省令で、高専門かつ高収入、と決められた労働者を対象に、「労働基準法第4章で定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定」は適用しない、とあります。つまり、厚労省が決めた一定の働き手について、雇う側が、残業代を支払う義務(労基法37条)、休憩(6時間労働を超える労働は45分、8時間を超えれば1時間)を与える義務(同34条)、週1回の休みを与える義務(同35条)などを免れることが出来る制度です。

 労働時間規制は、19世紀の産業革命以来、生命と健康と生活時間を守るため、働く側が企業による働かせすぎに対する防壁として勝ち取ってきた労働者保護の原点と言われています。働き方の国際基準を決めているILO条約が、1号で「1日8時間」労働を掲げているのもそのためです。日本は労働時間の歯止めが緩い社会で、この1号さえも批准していません。こうした状況が、過労死を招いてきたと言われています。

 ところが「働き方改革」法案には、高プロ、「裁量労働制」の拡大というさらなる規制緩和が盛り込まれました。

 このうち裁量労働制の拡大は、データ改ざんが問題になっていったん削除されました。ただ、裁量労働は、一定の残業時間と残業代を見込んで賃金が払われ、この契約時間を超えれば残業代が払われます。緩いとはいえ、一応、労働時間による規制がある働き方で、しかも働き手は自分の裁量で労働時間を決められることになっています。高プロは、自分で労働時間を決める権限のない働き手について大幅に労働時間規制を外すという点では初の制度なので、雇う側が歯止めなく始業時間も終業時間も決められるつくりです。

 高プロの導入は、その意味で、アベノミクスの「異次元の量的緩和」ならぬ異次元の労働時間規制緩和へ歴史的な一歩を踏み出したといえるでしょう。

 にもかかわらず、なぜ、一般の国民の反応は鈍いのでしょうか。それはまず、労基法の原則があまりにも当たり前になっていて、「週休1日が保障されない世界」や「1日の休憩時間がない世界」の過酷さが実感できなくなっていることがあるでしょう。同時に、「高専門」と「高収入」という対象者の要件が、一般の働き手とは無縁と錯覚させてしまったことが大きかったと思います。

国会の議決なしに対象職拡大も

しかし、本当に高プロは、一般の働き手とは無縁の制度なのでしょうか。

 「高収入」の基準については現段階では年1075万円以上と報じられています。確かに、1000万円以上の働き手は2016年度の国税庁民間給与実態調査でも4%程度にすぎません。ただ、この額は法案に書いてあるわけではなく、厚労省が統計をもとに省令で決める「基準年間平均給与額」の3倍をかなり上回る額、とされているだけです。省令ですから、国会の議決を経ずに下げることは可能です。

 10年ほど前、ほぼ同様の仕組みであるホワイトカラーエグゼンプションの導入が話題になり、日本経団連が「400万円以上の働き手を対象に」と提言したことから、今回も、やがてはそこまで適用基準が下げられていくのではと心配する声は少なくありません。

 また、「実際に払われた額」ではなく、「支払われると“見込まれる”賃金の額を1年間あたりの額に換算」したもの、という点も要注意です。ブラック企業問題に詳しい弁護士は、休憩や週末休みを取らせる義務がないことを利用して、1075万円と設定した年収から、働き手が疲れて休憩したり週末休みを取ったりするたびに、「欠勤」分として時給換算で差し引いていく方式を取れば、労働基準法の労働時間規制による労働時間で再計算して年収357万円程度になるという試算を出しています。

 そんな会社はない、と言いたくなるでしょうが、理論的に可能ならブラック企業に抜け穴を与えることになり、法律として欠陥ということです。正規・非正規の指定もありませんから、非正規労働者にも適用可能です。

 「高専門」という要件も、現在は金融ディーラーやアナリストなどの職種が上がっていますが、客観的な基準ではなく、また、厚生労働省の省令で範囲を決められますので、国会の議決なしで範囲を広げていくことができます。実際、1985(昭和60)年に制定された労働者派遣法は、派遣の不安定性から考えて「専門業務」しか認めないとして13業務から始まりましたが、1999(平成11)年には原則自由化されてしまいました。

 そもそも「高度な専門職は会社に対して交渉力が高い」という前提も疑問です。日本の専門職は「プロなのに」と、権利よりむしろ、無際限な奉仕を求められることが多いからです。しかも、専門職でも仕事の量は会社が決め、自分に決定権がないことは一般の職種と同じです。「専門」という言葉を利用したイメージ戦略といっていいでしょう。

過労死増えて認定は困難に

このような危険性を指摘する声に対し、政府も労基法に代わるさまざまな保護措置を盛り込んではいます。週休1日の規定がなくなる代わりに、保護措置として、年104日、4週間に4日以上の休日を義務付けたのはその一つです。

 いまの労基法では休日は年間最低52日以上とされているので、ネット上では「現行より倍増」と持ち上げる声も流れています。ただ、注意すべきは、従来のような1週単位ではなく4週単位ということです。これだと、月の28日のうちの初めの4日だけ休ませ、後は24日間、毎日24時間ぶっ通しで働かせることも理論的には可能です。翌25日目に1日休ませれば、月末までまた毎日24時間働かせることができ、計月600時間を超える労働時間も合法化されるとの指摘もあります。

 これでは過労死が増える、という批判に対して設けられたのが、「在社時間」と「社外で働いた時間」を合わせた「健康管理時間」の把握義務です。この時間をもとに、残業代は払わなくていいから企業には4つの「健康確保措置」をとってほしいというのです。

 ここでは、1日の労働時間規制である「インターバル規制」の導入や、年に連続2週間の休日確保、などの結構なメニューが並んでいます。ただ問題は、そこから「一つだけ選べばいい」という点です。4つの措置のうちには「省令による一定の時間を超えた働き手には健康診断を受けさせる」という選択肢があるので、これを選べば、健康診断だけ受けさせればOKになってしまうわけです。

 残業代という経済的な歯止めがなくなり、健康診断を受けさせれば極端な長時間労働もお構いなしとなれば、過労死は増える恐れが強まります。会社の把握した「健康管理時間」と実労働時間が異なる場合、労災は今以上に認定しにくくなるでしょう。過労死の遺族たちが訴える「過労死が増えて過労死が見えなくなる」事態が起こりうるということです。

 「日本維新の会」など一部野党の要求で高プロ制適用への同意を働き手が後で撤回できるよう修正もされましたが、会社との力関係でどこまで活用できるか難しく、指針でも対応できる程度の修正に過ぎません。

労働時間の記録が必須アイテムに

これだけの疑問点が再三指摘されながら、国会の答弁の中ではほとんどまともに応えられてきませんでした。働き手への影響について、野党から実態調査を求める質問も出ましたが、政府側は「高プロは新しい制度なので実態を把握することは困難」(山越敬一・厚労省労働基準局長)と答えるにとどまりました。つまり、前人未踏の領域なのでよく分からないが、とにかく始める、ということです。

 となれば、政府がすべきことは、施行後に働き手への影響について、データを改ざんしたり誤記したりすることなく、定期的にきちんとした実態調査を行い、問題があれば手直しすることでしょう。場合によっては制度そのものを撤回することも視野に入れるべきです。

 また、会社の労働時間への責任がこれほど弱められた今、働く側は最低限、自分の労働実態を把握し、記録する習慣をつけていく必要があります。始業と終業時間を手帳に毎日記録したり日報をつけたりして、労災や賃金不払いに備えた資料づくりを日々やっておくことは、これからの働き手の必須アイテムになったといっていいでしょう。

 また、ブラック企業による法の悪用を考えると、入社前によく調べ、こうした企業には入らない、もし入ってから危ないと感じたらすぐに労働相談窓口などに相談し、体を壊す前に辞める――という対応も必要になるでしょう。

 今回、裁量労働制や高プロの問題点が浮上する中で、「そうはいっても自由に働ける仕組みは必要だ」とニーズを主張する上層ホワイトカラーや医師・教員などにも出会いました。ただ、よく聞いてみると、それらはフレックスタイム制や従来の裁量労働制でも対応できるものがほとんどで、人員削減による人手不足こそ問うべきではないかというケースも少なくないように感じました。日本の労働時間はすでに相当に規制緩和されており、だからこそ過労死が相次いでいるということを、働き手自身がよく知らないのです。

 また、労働者派遣法のように、対象が本来の趣旨を離れて無際限に拡大されていくことがないよう、働く側からしっかり監視していく必要もあるでしょう。

 そのために、労働弁護士や地域労組、労働NPOなどの専門家の相談電話で助言を仰ぐなど、自分なりの法律顧問をつくること、働き手同士がネットワークをつくって働くルールについて情報交換し、問題点を発見し、指摘していく力を身に着けていくことが問われています。

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■竹信三恵子(たけのぶ・みえこ) ジャーナリスト、和光大学教授(労働社会学)。1976年、朝日新聞社に入社。編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から和光大学現代人間学部教授。2009年、貧困ジャーナリズム大賞。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書、日本労働ペンクラブ賞)、「ピケティ入門〜『21世紀の資本』の読み方」(金曜日)など
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 しんぶん赤旗 2018年4月17日

https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-04-17/2018041701_05_1.html

裁量労働制のデータねつ造に続き、裁量労働制を違法に適用していた野村不動産での男性社員の過労自殺をめぐって厚生労働省の情報隠ぺいが大問題になっています。同省は先週ようやく過労死と認定した事実を認めました。安倍晋三政権が、過労自殺を隠したまま、野村不動産に「特別指導」をした“成果”だけを発表し、“裁量制を拡大しても指導するから大丈夫”と宣伝材料に使ってきたことはいよいよ明らかです。データのねつ造や情報隠ぺいで国民を欺き続ける安倍政権に「働き方改革」一括法案をうんぬんする資格はありません。

裁量制の不都合な真実

野村不動産の問題をめぐる厚労省の対応は、都合の悪い事実はひたすら隠し、法案を通すためには事実をゆがめる安倍政権の姿勢を浮き彫りにするものです。

野村不動産の裁量労働制の違法適用が表面化したのは昨年12月、東京労働局の発表でした。同社が裁量労働制を禁じられている営業職に広く適用していたとして、特別指導を行ったと明らかにしたのです。東京労働局長が社長を呼んで直接指導するというのは異例の対応です。

安倍政権は当時、いくら働いても「みなし労働時間」分しか賃金を支払わない裁量労働制の拡大を「働き方」法案に盛り込む方針で、これに対し「過労死を増やす」と国民の反対の声が相次いでいました。しかし安倍政権は国会答弁で、野村不動産への特別指導の例を持ち出し、裁量制を拡大しても取り締まれると強弁し続けました。

ところが3月初め一部報道で、野村不動産で裁量制を違法適用された社員が過労自殺し、労災認定されていたことが判明します。安倍政権が拡大を狙う裁量労働制によって過労自殺する人が生まれたとなれば、これまでの政府の主張は成り立たたなくなります。

その後1カ月以上にわたって国会で、過労自殺を知っていたのではないかと野党に厳しく追及された加藤勝信厚労相は、ようやく今月10日になって、野村不動産で過労死があり、労災認定をした事実を初めて認めました。しかし、あくまで「過労死」であって過労自殺とは認めず、裁量制の違法適用との関係も明らかにしません。

東京労働局が野村不動産に行った特別指導についての経過を示す文書を先月末国会に提出しましたが、それはほとんど黒塗りでした。厚労相が過労死を認めた後になっても、黒塗り部分を解除しようともしません。記者会見で記者をどう喝し、不適切な発言をした東京労働局長は更迭されましたが、それではすみません。隠ぺい姿勢を一向に改めようとせず、国民に説明責任を果たそうとしない厚労相、安倍政権の責任は重大です。

命を脅かす法案は廃案に

裁量制のデータねつ造で批判を浴びた安倍政権は、「働き方」法案に裁量制拡大を盛り込むことは断念したものの、法案はあくまで今国会で成立させる構えです。法案の柱である「残業代ゼロ制度(高度プロフェッショナル制度)」は、裁量制以上に長時間労働と過労死の温床になる危険な制度です。働く者の命と健康にかかわる問題でもデータねつ造や隠ぺいを平然と行う政権の下で、「働き方」法案を議論する前提はありません。法案成立を断念し廃案にすべきです。

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                         2018年4月11日

                                      過労死防止全国センター

                                      代表幹事 川人 博、寺西笑子、森岡孝二

1  安倍政権は、4月6日、「働き方改革」関連法案を閣議決定し、国会に提出しました。政府・与党はこれを今国会の最重要課題と位置づけ、早期の成立を目指すと言われています。法案は、労働基準法など八つの労働法規の改定を一つに束ねた形になっていますが、その柱となっているのは労働時間制度改革です。私たちはこれに対して、過労死(過労自殺を含む。)の防止に取り組む民間団体の立場から、これまで再三にわたって過労死防止の流れに逆行するものとして批判してきましたが、今般、あらためて以下のような理由で法案の審議入りと強行採決に反対を表明します。

第1は、法案の上程と審議入りの前提に関する疑問です。労働時間制度改革は、当初は企画業務型裁量労働制(以下「裁量労働制」)の営業職への拡大、「高度プロフェッショナル制度」(以下「高プロ制」)の創設、時間外労働の上限規制の三つがセットで上程されるものと考えられていました。しかし、裁量労働制の拡大案は、政府が労働時間は一般の労働者より裁量労働制の労働者のほうが短いという、虚偽のデータを前提に提案したことが明らかになり、野党と過労死家族の会などの強い反対で法案から削除されました。

しかし、問題はデータをめぐる疑義だけにとどまりません。報道によれば、裁量労働制をめぐっては昨年1年間で、272事業所が是正勧告や指導を受けています。また、野村不動産で裁量労働制を違法適用されていた男性社員が過労自殺し、労災認定されたと報じられている件では、東京労働局長の不遜で不適切な発言も問題になっています。労働行政をめぐってこうした状況があるもとでは、労働時間制度改革は拙速に事を運ぶことなく、正確な実態把握にもとづいて、働く者の命と健康を守る立場から慎重に進めるべきです。

第2は、高プロ制の危険性です。この制度は、年収1075万円以上の高度な専門業務に従事する労働者を労働時間の規制から外し、無制限に働かせることを可能にするもので、「定額働かせ放題」法案、あるいは「スーパー裁量労働制」法案とも言われています。第一次安倍内閣のときに「残業ただ働き法案」「過労死促進法案」として世論の総反発を受け、2007年1月に国会提出が見送られたホワイトカラー・エグゼンプション法案の焼き直しにほかなりません。現在示されている案では対象は年収の高い労働者に限られていますが、労働者派遣法の例から見て、いったん通ればたちまち対象が広げられることは必定です。厚生労働省の労災補償状況に関する資料によると、専門的・技術的職業従事者と管理的職業従事者を合わせた高度専門業務従事者では、過労死が多発しています。年収が1000万円以上の高賃金労働者は40歳代に多いと考えられますが、この階層は過労死の多い年齢層とぴったり重なっています。

第3は、政府案における時間外労働の上限規制の欺瞞性です。政府案は、36協定による残業の上限を原則として月45時間・年360時間としたうえで、臨時的な特別の事情がある場合は、特別条項付き36協定を締結することによって、単月100時間未満、複数月80時間以内、1年720(別枠の休日労働を含めれば960)時間以内の残業を法律で認めるものとなっています。しかし、厚労省の労災補償データを見ると、近年の脳・心臓疾患の労災認定件数の半数強は月100時間未満の残業で起きています。また、厚労省の調査によれば、特別条項付き36協定の9割は延長の上限を月100時間未満にしており、月平均の延長時間は78時間になっています。それだけに、「100時間未満」の上限設定は、特別条項付き36協定を締結している企業の大部分において、延長時間の引き上げを誘発する恐れが大きいと考えられます。そのために、この法案が成立すると、過労死をかえって多発させることが危惧されます。

第4に、法定労働時間をいっそう形骸化します。政府のいう上限規制は、1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超える残業の限度については棚上げしています。政府案によれば、1日15時間の残業も、1週99時間の残業も、合計の残業時間が月100時間未満の範囲内であれば違法ではないということになります。月100時間の残業は、週5日×月4週で換算すると、1日平均5時間の残業を意味します。こういう制度を法律で定めることは、大本の法定労働時間をいっそう掘り崩し、労働時間の直接規制に大穴を開けることに通じています。

労基法による労働時間の規制を強化するには、1日8時間、1週40時間の法定労働時間を基本として、現行の36協定による時間外労働の限度に関する基準(週15時間、月45時間、年360時間)を労基法に明記して、強制力を持たせることが求められています。その場合、臨時的な特別の事情を理由とする36協定の特別条項は廃止するべきです。

2 2014年6月、「過労死を考える全国家族の会」や「過労死弁護団全国連絡会議」などの熱心な運動が実って、議員立法により過労死等防止対策推進法(略称・過労死防止法)が全会一致で成立し、同年11月に施行されました。同時に、過労死等防止対策推進協議会がスタートし、そこでの意見が取り入れられた過労死防止対策に関する「大綱」が2015年7月に閣議決定され、過労死等の実態の調査研究、過労死防止の啓発、相談体制の整備、民間団体への支援などが行われてきました。

施行から3年経ち、法と大綱の見直し作業が始まっています。当センターから協議会に入っている7人の委員は、同法を過重労働対策法へ拡充すること、パワハラ防止を盛り込むこと、使用者および労働組合の責務を明確化にすること、EU(欧州連合)並みの最低連続11時間以上のインターバル休息規制を導入すること、企業に労働時間の厳格な把握を義務づけることなどを盛り込んだ法と大綱の改定を求めています。私たちはこうした改革こそが「過労死のないまともな働き方」を実現する道だと考え、現在国会に提出されている「働き方改革」関連法案の審議入りと強行採決に強く反対します。    以上                                                                  
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 朝日DIGITAL 2018年4月7日

https://digital.asahi.com/articles/DA3S13440186.html?ref=editorial_backnumber

安倍政権が今国会の最重要法案と位置付ける働き方改革関連法案が国会に提出された。

長時間労働是正のための残業時間の罰則付き上限規制と、非正社員の待遇改善に向けた同一労働同一賃金が柱だ。いずれも喫緊の課題である。

だが法案には、専門職で年収の高い人を労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」の新設も盛り込まれた。

長時間労働を助長しかねないと、多くの懸念や不安の声がある制度だ。緊急性の高い政策と抱き合わせで拙速に進めることは許されない。切り離して、働き過ぎを防ぐ手立てや制度の悪用を防ぐ方策を、しっかりと議論するべきである。政府・与党に再考を求める。

関連法案は、当初、2月中の閣議決定をめざしていた。大幅に遅れたのは、あらかじめ決められた時間を働いたとみなす裁量労働制をめぐり、首相の答弁撤回や、法案づくりの参考にされた調査データの不備など、問題が相次いだためだ。

その結果、政府は今回の法案から裁量労働制の対象拡大を削除した。だが、問われているのは、残業代や割増賃金の規制を緩めて、長時間労働や過労死が増える心配はないのか、という点だ。裁量労働制以上に規制を緩和する高プロを、そのまま法案に残す判断は理解しがたい。

与党との調整で、法案には管理職を含め、働く人たちの労働時間の状況を把握するよう、会社に義務付けることが新たに加えられた。だが、これはもともと法律の成立後に省令でやることになっていたものだ。

一方、裁量労働制の拡大を削除するのに伴い、企画業務型の裁量労働制の対象者を「勤続3年以上」とする要件を新たに設けることや、健康確保措置の強化策まで見送りになった。

裁量労働制をめぐっては昨年1年間で、272事業所が是正勧告や指導を受けている。野村不動産の違法適用は、問題が表に出た、まれな例に過ぎない。

対象拡大を見送ったからといって、裁量労働制がはらむ問題は放置できない。現状を改め、指導・監督の実効性を高めるために何をすべきか。議論を進めるべきだ。

野党は、働く人々を守る規制の強化に重点を置いた、働き方改革の対案を準備している。高プロを関連法案から切り離せば、与野党が歩み寄り、話し合う余地は生まれるはずである。

だれのための働き方改革か。政府・与党はそのことを考えるべきだ。

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         兵庫県立大学客員研究員 大阪損保革新懇世話人  松浦 章

 

はじめに

 

「企画業務型裁量労働制」の対象拡大をめぐっての国会質疑で、安倍首相は労働時間ねつ造データを示し“裁量労働制は一般労働者より労働時間が短い”という答弁を行った。その後首相は撤回はしたものの、厚労省から提出されたデータを使用しただけだと居直りに終始している。しかし、虚偽のデータに基づいて法案が作成されたとすれば、白紙に戻すのは当然のことであろう。

 

同時に、この問題の背景には、国民の生命や健康をまったく顧みない日本政府の根本姿勢がある。

 

1 「裁量労働制」適用者の長時間労働は自明であった

 

「裁量労働制」で働く労働者の労働時間が長いというのは、報道されている2014年の「労働政策研研究・研修機構」による調査のみならず、それ以前の調査でもすでに明らかになっていたことである。筆者の知る限りでも、2005年の同機構「日本の長時間労働・不払い労働時間の実態と実証分析」、2008年、同機構研究員・小倉一哉氏による「日本の長時間労働―国際比較と研究課題」などでの指摘が存在していた。労働時間問題にかかわる研究者にとっては、裁量労働制が長時間労働の温床であることはいわば常識であったと言えよう。ましてや厚労省が、その所管である「独立行政法人労働政策研究・研修機構」のこうしたデータの存在を知らなかったとは考えられない。

 

安倍首相にしても同様である。日本経団連がなぜここまで「企画業務型裁量労働制」の適用拡大にこだわってきたのか、その理由が長時間労働の改善などではなく「時間にとらわれることなく『自由』に働いてもらう」というものであることは、首相自身もよくわかっていたはずである。裁量労働制の拡大がさらなる長時間労働をもたらすものであることを(おそらく)知りながら、それを隠蔽するために、これは使えるとばかりに捏造データを国会に持ち出してきたのであろう。とにかく国民をだまそうとする。ばれたら居直って恥じない。こうした感覚が今の政府の異常さを物語っている。

 

2 「裁量労働制」拡大の狙いは「労働時間概念」の破壊

 

「企画業務型裁量労働制」拡大の影響は、労働時間が少し長くなるといった程度の問題にとどまらない。今回の「法改正」の背景には「労働時間概念」を捨て去ろうとする財界の強い要望がある。労働者は「オフィスにいても、いつも仕事をしているとは限らない」という日本経団連の言葉がその狙いを的確に示している。労働者に対して失礼な話であるが、この考え方はすでに現実のものになっている。

 

*「労働時間概念」の議論は、労働基準法第32条「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」の解釈問題として行われてきた。行政解釈や通説は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間を労働時間と解する。

 

損保業界の最大手、損保ジャパン日本興亜の社内文書「2016年度下期労働時間対策」には下記のとおり「法定外残業時間」が「在社時間」と書かれている(網掛けは筆者)。

 

【みなし労働時間適用者】

 ◆1カ月あたりの在社時間の平均

従業員区分

職員(総合系・専門系・技術調査系)

20164月〜8月実績

 

40.38時間

 (−1.92時間)

( )内は前年度同期間(20154月〜20158月)との比較

在社時間=終業時間−始業時間−休憩時間(1時間)−8時間

 

これによると、「みなし労働時間」適用者の法定外「在社時間」は平均1か月40.38時間となっている。同社の「みなし労働時間」は、「企画業務型裁量労働制」が19時間(法定外11時間、1か月約20時間)、「事業場外労働制」は8時間(法定外0時間)である。実際の在社時間はもっと長いと思われるが、会社の示した数値で見てもはるかにオーバーしていることになる。明らかに賃金不払い労働であるが、同社では社員が長時間働いていても、あくまでも「在社時間」であって「残業時間」ではないと言うのであろう。安倍首相は、国会にデータを持ち出すのであれば、こうした実態をこそまず確認すべきであろう。

 

労働基準法違反で有罪判決をうけた電通も同様である。電通でインターネット広告を担当していた高橋まつりさんは、常軌を逸した長時間労働を余儀なくされていた。しかし勤務管理のデータ上では「三六協定」を遵守していたことになっていた。上司からの指示で、時間外労働時間が、「三六協定」上限の70時間を超えないように、「勤務状況報告書」を修正させられていたからである。長時間会社にいながらも、「中抜け時間」があるとされた。日本経団連の言う「会社にいても仕事をしているとは限らない。だから労働時間とはみなさない」という考え方で、過労自死するまでの長時間労働を強いられてきたのである。

 

3 「企画業務型裁量労働制」拡大の危険性

 

しかしその電通でさえ、営業職への「企画業務型裁量労働制」適用については、現行の労働基準法の規定ではハードルが高いと、これまで制度導入を断念してきた。それが、営業職にまで拡大されたときに何が起こるのか。高橋まつりさんのような働き方が、「合法」化されることになるのである。

 

さらに問題は、「裁量労働制」の適用要件に、「高度プロフェッショナル制度」のような収入のしばりがないことである。現に政府は26日の閣議で「契約社員や最低賃金で働く労働者にも適用が可能」とする答弁書を決定した。しかし考えてもみてほしい。自分の裁量で自由に仕事ができ、自由に出勤・退勤ができる非正規雇用者がいるであろうか。非正規雇用者どころか、現在「裁量労働制」が適用されている正規雇用者ですら、そんな働き方ができている労働者はいないであろう。しかし、「あなたは今日から裁量労働だ」と言われたら、大半の労働者は、従わざるをえない。結果、際限のない長時間労働が、すべてのホワイトカラー労働者に広がることになる。

 

4 ドイツと日本の根本的な違い

 

安倍政権の「働き方改革」には、過労死や長時間労働で疲弊する労働者に思いをはせるといった姿勢が見られない。しかし、この姿勢は「働き方改革」にとどまらない。自公政権には、国民の生命や健康に配慮するという考え方がまったく欠如しているということである

 

熊谷徹氏というジャーナリスト(元NHK記者)が、昨年『5時に帰るドイツ人、5時から働く日本人』という本を出版した。今はフリーで、ドイツに27年間住み日本とドイツ社会の定点観測を行っている。保険毎日新聞という保険業界の専門紙に「ヨーロッパ通信」というコラムも書かれており、私たち損保関係者には以前からなじみのある方である。同著では、6か月平均で8時間以上働いてはならないドイツが、労働生産性では46%も上回っている事実を明らかにしている。同氏はその背景にきびしい労働時間規制があると述べている。このこと自体、安倍政権の「働き方改革」と真逆と言えるが、「真逆」の政策はそれにとどまらない。

 

熊谷氏はドイツの原発政策にも言及している。

 

「ドイツ政府は、2022年末までに原発を全廃し、2050年までに電力消費量の中に再生可能エネルギーが占める比率を、80%までに引き上げることを決めた。再生可能エネルギーは、国民を危険にさらす可能性が原子力よりも低いからだ。しかも、福島原発事故からわずか4か月で脱原発を法制化した」

 

ドイツは、地震が非常に少ない国として知られている。地震を1度も経験したことがないという方も多いという。したがって原発のコストははるかに低い。それが原発廃止政策によって、再生可能エネルギー拡大のためのコストが「賦課金」として国民や企業の肩に重くのしかかっているという。さらに、保険毎日新聞のコラムでは、CO2削減目標を後退させざるをえなかったとも書かれている。しかしドイツ政府の脱原発政策に躊躇はない。国民の生命と健康が第一と考えているからである。

 

一方、日本の政府・財界の判断基準はどうか。安倍政権、日本経団連の姿勢は、「コストがかかっても躊躇はない」というのは一緒であるが、その政策は真逆である。国民の生命が脅かされようと関係ない、企業の利潤が第一だというわけである。シビアアクシデントによって、周辺住民の健康等に被害を与えること自体をリスクとして捉えるという姿勢は見られない。彼らにとってリスクとは、利潤という経営上のリスクでしかないのである。

 

おわりに

 

「働き方改革」や原発の再稼働に見られる政府のこの姿勢をこそ、私たちは問い続けなければならない。

 

財界が「労働時間概念」を捨て去ることを強く求め、そのとおりに労働基準法が改正されたとしたら、長時間労働とサービス残業、ならびに、過労死まで「法認」されることになってしまう。雇用・労働の規制緩和と決別し、労働基準法「改正」を何としても阻止しなければならない。

 

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                        2018年2月23日

                                            過労死防止全国センター

                                            代表幹事 川人 博、寺西 笑子、森岡 孝二

当センターは、2014年6月に過労死等防止対策推進法(過労死防止法)が成立したことを受けて、全国過労死を考える家族の会や過労死弁護団全国連絡会議と連携し、過労死(過労自殺を含む)の防止に取り組んでいる民間団体です。2015年3月には、過労死と過重労働を助長するという懸念から、 峭眦戰廛蹈侫Д奪轡腑淵訐度の創設」と◆峇覯莇般碍榛枸模働制の拡大」に反対する声明を発表し、同年4月に,鉢△国会上程されて以降は、関連法案の審議の行方を見守ってきました。

昨年9月、「時間外労働の上限規制」の法案骨子がまとまりました。当センターはこれについても、過労死に関わる脳・心臓疾患の過半が100時間未満の時間外労働で起きているという現実に照らして規制の名に値しないこと、および36協定の特別条項における時間外労働の限度を引き上げる恐れが大きいことから反対してきました。昨年10月の衆議院の解散・総選挙により,鉢△惑儖討箸覆蠅泙靴燭、現在開会中の通常国会で、あらたに Ν△鉢が他の「働き方改革」の関連項目と一括されて国会審議に付されようとしています。当センターはこれについて、上記の経緯から深く憂慮してきました。

くわえて、ここ数日の国会論議において、企画業務型裁量労働制の営業職への拡大案の検討のために政府・厚労省が示したデータが、本来比較できない数値を比較していたことが明らかになりました。問題のデータでは、1日の労働時間は裁量制が9時間16分、一般が9時間37分となっており、これではあたかも労働時間の規制が弱く賃金不払残業を誘発しやすい裁量労働制の労働者のほうが一般労働者より労働時間が短いかのように見えます。この比較は、一般労働者については1ヶ月のうち「残業が最長の1週間」の数値、裁量制の人については通常の平均的な1週間の数値を元にしている点で、まったくでたらめです。さらに、咋日の報道では、新たに調査データの中から87事業場で計117件の異常値が見つかったと伝えられています。当センターは、このように裁量労働制拡大の国会審議の前提となる根拠が崩れた以上、政府は裁量労働制の拡大案の再上程を断念すべきだと考えます。

2014年6月に全会一致で成立した過労死防止法は、過労死等の実態の調査研究を国の責務としています。これにしたがえば、労働時間制度改革に当たっても調査研究を踏まえるべきですが、この間の経緯をみると、過労死等の実態の調査研究を脇に置いたまま泥縄式に高プロ制の創設、裁量労働制の拡大、および時間外労働の上限規制をまとめたと言わざるをえません。

裁量労働制の対象者の多くは、実際には業務にほとんど裁量性がなく、過大な仕事量を与えられて、みなし労働時間を大きく超える長時間の拘束的勤務を余儀なくされています。これについて政府・厚生労働省が十分な調査をしないまま法案をまとめ、立法化を強行することは、過労死防止法にも反し、許されるものではありません。

報道によれば政府は、裁量労働制のデータ問題をめぐる今回の紛糾を受けて、対象拡大の施行を1年延期しようとしているようですが、法案の審議のための重要データが間違っていたとして撤回された以上、裁量労働制の拡大を含む労働時間制度改革の関連法案の国会上程を取り止め、十分な調査研究を行ったうえで最初からやり直すべきです。         以上

 

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 東京新聞 2017年9月9日 朝刊

http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201709/CK2017090902000146.html

厚生労働省は8日の労働政策審議会に、収入が高い一部専門職を労働時間規制から外す「残業代ゼロ」制度(高度プロフェッショナル制度)創設を柱とする労働基準法改正案などを一つにした「働き方改革」関連の一括法案要綱を示した。来週にも了承を得て、今月下旬に召集見通しの臨時国会に提出したい考え。労働組合や過労死遺族らが「過労死促進法」「定額働かせ放題」などと批判してきた見直しが多く盛り込まれた。野党の反発も必至だ。 (編集委員・上坂修子)

労政審で、労働側が最も抵抗してきたのが「残業代ゼロ」制度創設と裁量労働制の拡大。厚労省は要綱に盛り込み、二〇一九年四月の施行を目指す。

労基法は労働時間を「一日八時間」「週四十時間」と規定。労使協定を結べばこれを超えて働かせられるが、割増賃金を払わなければならない。「残業代ゼロ」制度は、高収入の一部専門職を規制の枠外とする。企業は残業代支払い義務を免除され、働く人は成果を出すまで過重労働を強いられかねないと懸念される。

厚労省は年収千七十五万円以上の金融ディーラーなどが対象と説明するが、具体的には法成立後に省令で定める。なし崩しに将来、対象が拡大しかねない。

働く人の健康を守る対策を強化するとして連合が求めた年百四日以上の休日確保義務は盛り込まれたが、日本労働弁護団の棗(なつめ)一郎幹事長は「この程度では過労死は防げない」と言う。

裁量労働制も同じ問題点が指摘される。

仕事の進め方や出退勤を労働者の裁量に委ね、労使で定めた「みなし労働時間」分だけ賃金を支払う制度で、深夜や休日の労働以外、追加の残業代は払われない。

職種や業務内容によって対象が限定されているが、法案要綱は、企画や立案、調査を担う営業職などにも拡大するとした。総務省の労働力調査(今年七月時点)によると、営業職に就く人は約三百六十万人。

情報産業労連がITエンジニアを対象に実施した調査(一五年四〜五月時点)によると、繁忙期の労働時間が一日「十三時間以上」の割合は、裁量労働制の適用者が28%。そうでない人よりも10ポイント高かった。法案が成立すれば、長時間労働を強いられる労働者がさらに増える恐れがある。

これらの見直しは、企業の競争力を強化する成長戦略の目玉として、政府が一四年に打ち出した。安倍晋三首相が掲げた「世界で一番、企業が活躍しやすい国」は経営側の視点。労政審でも経営側は「企業の競争力、生産性向上の観点から見直しは必要」と訴えた。

労働問題に詳しい森岡孝二関西大名誉教授は「一番の問題は労基法の根幹の残業代支払い義務を免除すること。過労死をなくすという流れに逆行する。労基法の歴史で過去最大の改悪」と指摘している。


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               兵庫県立大学客員研究員
               大阪損保革新懇世話人  松浦 章
 
損保業界最大手の損保ジャパン日本興亜は、7月28日、社内文書「『働き方改革』の推進策(2017年10月ワークルール改定等)」において、営業課支社・保険金サービス課の職員に対して適用してきた「企画業務型裁量労働制」を2017年10月1日より「事業場外労働制」に変更することを明らかにしました。

同社は改定の背景について次のように述べています。
 
◆現在多くの社員に適用している企画業務型裁量労働制は、時間の使い方を個 
人の裁量に委ねる自由な制度である一方で、アウトプットと生産性の相関関  
係が把握しにくい側面があります。
◆生産性向上を実現するためには、各自の仕事に対する目的意識や優先順位付
け、仕事の進め方自体の変革が必要ですが、合わせて労働時間を客観的に把
握する仕組みも必要であり、「時間管理」と「多様な働き方」が両立するワー
クルールへの改定を検討してきました。
 
このように述べたうえで、営業や保険金サービス(自動車保険などの調査・支払業務)の職種に幅広く適用してきた「企画業務型裁量労働制」を見直すこととしたものです。
 
同社は現在、嘱託などを除く18,000人の職員のうち、入社4年目以上の総合系、専門系、技術調査系職員6,000人以上に「企画業務型裁量労働制」を導入しています。本来「企画業務型裁量労働制」の対象外であるはずの、営業や保険金サービスの職員に対しても、この制度が広く適用されているのが特徴です。

この問題については、3月22日の参議院・厚生労働委員会で、小池晃議員(日本共産党書記局長)が、「損保ジャパン日本興亜の人事部資料を見ますと、企画業務型裁量労働制の対象として『営業』とはっきり書かれております。これは明らかに対象外だと思います。実際、労働者へ聞いたところ、支店とか20人から30人程度の支社の一般の営業職にまで企画業務型が導入されている。これ直ちに調査すべきじゃないですか」と厚労省に調査・是正を求めていました。

また、2017年6月26日のSOMPOホールディングス(損保ジャパン日本興亜の金融持ち株会社)株主総会では、株主から「こんな問題で損保ジャパン日本興亜、SOMPOホールディングスの名前が国会で取り上げられるというのは、やっぱり企業イメージとしてマイナスではないかなと思います。ぜひ、法律違反というふうに見えるようなさまざまな制度はおやめになったほうが良いのではないか」との質問が出されました。

筆者自身もこれまで、さまざまな学会・研究会・集会等で損保業界の違法な労働時間制度を取り上げ、政府・日本経団連がすすめようとしている労働法制「改正」に警鐘を鳴らしてきました。働き方ASU-NETの本コラムにも2014/06/03、2017/01/17、20170402と3回にわたって掲載しています。
 
同社は、現行制度は違法ではない、改定するのは社内文書のとおりあくまでも「時間管理」と「多様な働き方」の両立のためだと言うのでしょうが、社会的な批判によって変更を余儀なくされたであろうことは想像に難くありません。同社の挙げる理由はともかく、違法な労働時間制度が改定されることに異論はありません。

ただ問題は、この改定によって違法性がなくなるわけではないということです。筆者は損保業界の「事業場外労働制」についても「企画業務型裁量労働制」同様、かねてより一貫してその違法性を問題視してきました。20170402の本コラムでは次のように指摘しています。
 
「問題にすべきは『企画業務型裁量労働制』だけではありません。同社では、裁量労働制の対象にならない入社4年未満などの営業・保険金サービス部門2,000人に「事業場外労働制」を適用しています。この制度は『事業場外で業務に従事した場合、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものと』(労基法第38条の2)みなすものです。しかし損保の営業や保険金サービスの仕事は、けっして労働時間の把握が困難なものではありません。営業であれば代理店を訪問することが中心業務です。行き先ははっきりしており連絡も簡単に取れる状況にあります。制度導入自体、労基法違反と言わなければなりません。この制度により、外出する日は、どれだけ働いても1日の労働時間は『みなし労働時間』の8時間しかカウントされないのです。結果、多くの労働者がサービス残業を余儀なくされています」
 
 
なお前述の株主総会でも、事業場外労働制について次のような株主の発言がありました。
 
「2014年1月24日の最高裁判決*で、海外の添乗員の人たちにやはり同じように事業場外労働制を適用していた旅行社に、それは違法だという判決が出ています。・・・・・・きちっと法律にそった労働時間管理、その中で長時間労働を縮小していく、なくしていく、そういうことが企業としても非常に求められているんではないでしょうか。ぜひ、本当に法律の趣旨にそった真摯な対応をお願いしたいと思います」
 
これに対して同社の笠井聡執行役員(人事部特命部長)は、「ご指摘のとおり法令に違反しないようにしていきたいと思っております」と回答しました。しかし、同社の今回の改定は、法令違反を解消するのではなく、別の「違法」な制度に乗り換え、法令違反を延命させるだけのものと言わざるをえません。
 
*阪急トラベルサポート事件
募集型の企画旅行の添乗業務に従事し、事業場外労働制が適用されていた労働者が、使用者に対して、時間外割増賃金等の支払い等を求めて提訴した事案。最高裁は、労働者が会社から貸与された携帯電話を携行していること、労働者の実際の行動については同人が記録する詳細な添乗日報によって把握することができること、などを理由に、「労働時間を算定し難いときに当たるとは言えない」として、使用者の主張を退けました。
 
株主総会の資料によれば、SOMPOホールディングスの櫻田謙吾CEOには1億2,200万円、損保ジャパン日本興亜の西澤敬二社長には1億400万円の役員報酬が支払われています。もちろん経営者としての苦労があることは否定しません。しかし現場の社員もやはり大変な苦労をして毎日の業務を遂行しているのです。「働き方改革」をこれだけ掲げるのであれば、何よりも社員の状況に思いをはせ、「生産性向上」の前に、まず労働基準法を遵守し適正な賃金を支払うことからスタートすべきではないでしょうか
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佐々木亮 弁護士・ブラック企業被害対策弁護団代表

連合の「容認」やら「撤回」やらで動きが激しかった2週間

残業代ゼロ法案をめぐって連合が「条件付賛成」に転じたと報道されたり、その後、その方針を「撤回」したと報道されたりと、この2週間ほど目まぐるしく動きがありました。

・連合、批判から一転容認 「残業代ゼロ」修正を条件に

・「残業代ゼロ」容認撤回、連合が決定 中執委で会長陳謝

連合の公式見解では、条件を出してはいるものの残業代ゼロ法案への反対は変わらないとの説明がなされていましたが、一般的に言って、条件を出した場合、相手がその条件を飲めば賛成するのが普通なため、ああした報道になるのは当然です。

むしろ、連合の態度が非常に分かりにくい態度だったことは、動かしようのない事実だと思います。

とはいえ、いろいろありましたが、最終的に、連合が「条件」に関して政労使合意をするという方針を撤回したことで、一連の「騒動」は一件落着となりました。

どうしても残業代ゼロ制度を通したい日本経済新聞

そんな中、日本経済新聞は、連合の残業代ゼロ法案の「容認」姿勢を後押ししようと必死でした。

・「脱時間給」で綱引き 生産性向上に期待、長時間労働には懸念

しかし、連合が方針を変えたので、逆ギレしたのか、水野裕司編集委員の署名記事で、次の記事が掲載されました。

・誰のための連合か 「脱時間給」容認撤回

これが、また、上から目線の記事の割には、法案への理解が不足しており、極めてトンチンカンな内容なので、解説しておこうと思います。

法案に書いてないことを前提に自論を展開

まず、同記事では 

連合は本当に働く人のための組織なのか。「脱時間給」制度の創設を一度は容認しながら撤回した連合の姿勢から抱くのは、そんな疑問だ。

と記載して、いきなり不満をぶちまけます。

まぁ、残業代ゼロ法案を成立させたい日経新聞の立場的に腹が立つのは仕方ないとしましょう。

問題は、次です。

労働時間ではなく成果に対して賃金を払う脱時間給は、働いた時間では成果が測れないホワイトカラーが増えてきた社会の変化に即したものだ。

 出ました。脱時間給。

日経新聞は、「脱時間給」という独特の表現で残業代ゼロ法案を表します。

ただ問題は「脱時間給」という用語ではなく、「労働時間ではなく成果に対して賃金を払う」としているところです。

何度も指摘していますが、今回、残業代ゼロ法案と呼ばれている労基法改正案は、賃金制度を決める法案ではありません。

法案の条文を一個一個見ても、そんな内容は入っていません。

くどいようですが、この法案には、賃金制度をああしろ、こうしろという内容は、一切含まれていません。

いいですか。何度でも言いますよ。日経新聞の中の人、聞こえていますか?

ところが、水野編集委員の署名記事では、この誤った認識を前提に、「誰のための連合か」とやるのだから、目も当てられません。

定時前に帰った労働者に賃金を満額払うことは今でもできる

さらに、同記事では、

工場労働が中心だった時代と違い、経済のソフト化・サービス化が進んだ現在は、労働時間で賃金を決められるよりも成果本位で評価してもらいたいと考える人も増えていよう。効率的に働けば労働時間を短くできるメリットも脱時間給にはある。そうしたホワイトカラーのことを連合は考えているのか。

との記載もあります。

この「成果本位で評価してもらいたいと考える人」とこの法案は無関係です。完全に無関係です。

何度も言いますが、この法案は賃金制度や評価制度を決める法案ではないからです。

そして、「効率的に働けば労働時間を短くできるメリットも脱時間給にはある」ともありますが、ないです。全くないです。

この法案と、効率的に働いた場合に労働時間を短くできることとは、何の関係もありません。

現在の労働法において、効率的に働いた労働者が仕事を終えて定時前に帰った場合に賃金を満額払ったらダメだという規制は一切ありません。

したがって、日経の言うところの「脱時間給」という制度を導入しなくても、これはできるのです。

ただ、企業がやっていないだけです。

ちなみに、現行法が企業に対し規制しているのは、定時より長く働いた労働者に残業代・割増賃金を支払わせることです。

ところが、日経の言うところの「脱時間給」はこの残業代を払わないでいいという制度です。

つまり「脱時間給」が導入されて初めて可能になるのは残業代を払わないでいいということだけです。

お金は一定でいくらでも働かせることができる、これが日経が導入したくて、したくてたまらない「脱時間給」の実態です。

同記事では、「そうしたホワイトカラーのことを連合は考えているのか。」と上から目線で連合に向けて述べていますが、そもそも前提が間違っているので、連合としては困ってしまうのではないでしょうか。

賃金制度とこの法案は無関係

さらに、記事は続きます。

単純に時間に比例して賃金を払うよりも、成果や実績に応じた処遇制度が強い企業をつくることは明らかだ。企業の競争力が落ちれば従業員全体も不幸になる。連合が時代の変化をつかめていないことの影響は大きいといえよう。

 まず、ここで「単純に時間に比例して賃金を払う」としているのは疑問です。

我が国のいわゆる正社員と言われる人たちは、単純に時間に比例して賃金が払われているわけではありません。そもそもほとんどの正社員は月給制です。

もし賃金が時間に対して単純比例だとすると、労働日が異なる月ごとに賃金額が変わるはずですが、そうはなっていませんし、基本給以外の各手当の趣旨も、単純に時間比例で賃金額が決まっているものは少ないでしょう。

単純に時間に比例して支払われるのは残業代くらいしかないと思います。

要するにこの記事のこの箇所は、残業代を払うこと自体を攻撃しているわけです。

加えて、「成果や実績に応じた処遇制度が強い企業をつくることは明らかだ」とあるのですが、これ、今でもできます・・。

というか、やっている企業もたくさんありますよね。

日経こそ、時代の変化をつかめていないのではないでしょうか。

そして、何度も言いますが、今回の法案は賃金制度とは無関係なので、この記載で連合を攻撃している意味が分かりません。

極めてトンチンカンな記事

このようにこの記事は、徹頭徹尾、法案に記載されていない制度があることを前提に書かれています。

この後の箇所もツッコミどころが満載なのですが、全文引用になりかねないのでこの辺でやめておきましょう。

日経新聞の水野編集委員は、まずは法案を読んでから記事をお書きになった方がよいと思います。

それって、記者にとっては当然のことだと思うのですが、日経では違うんですか?
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