• カテゴリ 論説−私論・公論 の最新配信
  • RSS
  • RDF
  • ATOM

論説−私論・公論 - 論説−私論・公論カテゴリのエントリ

経済・雇用 世界一企業が活躍しやすい国のリアル
[46]「ロスジェネ支援策」、二次被害の懸念
雇用劣化に疲れた人々を待つ劣化雇用?
 
竹信三恵子 ジャーナリスト、和光大学名誉教授
論座 2019年06月24日
 
〔写真〕2000年代、インターネットで求人を検索する若者たち
 
 6月11日に政府が公表した経済財政諮問会議の「骨太方針(経済財政運営と改革の基本方針)2019」原案に、「ロスジェネ」とも呼ばれる就職氷河期世代の就業支援策が盛り込まれた。人手不足業種などのニーズなどを踏まえた人材育成プログラムや民間ノウハウを活用した職業訓練受講給付金の整備、人材派遣会社など民間への成果に連動した職業訓練の委託などが主な内容だ。正規雇用を希望する「ロスジェネ」には朗報とも見える政策だ。だが、これらは、不安定で劣悪な働かせ方に悩んできた「ロスジェネ」を次の劣悪雇用という二次被害に落とし込む危うさもをはらんでいる。
 
「人手不足業界への誘導」で大丈夫か
 まず気になるのは、人手不足業種等の企業のニーズを踏まえた人材育成プログラムについてだ。
 
 人手不足の業界を焦点に転職支援をすること自体は、就職に結びつきやすく、合理的な政策だ。デンマークでも、2008年のリーマンショック後の大量解雇の際、労組とハローワークが連携し、人手不足の業界の仕事から希望のものを選ばせ、転職につなげている。当時、私が取材した同国の大手メーカーでは、解雇対象となった工員たちの多くが、人手不足のトラック運転手を希望した。そこで、会社の構内で大型車の免許を取るための訓練を無料で行い、解雇の日までにほぼ全員を転職させて仕事に空白ができない工夫をしていた。職歴に空白ができると、再び仕事に戻ることが難しくなるという配慮からだ。
 
 ただ、デンマークの場合は、派遣などの不安定な短期雇用の非正社員の比率がきわめて低く、正社員の労働条件も安定しており、転職すればそれなりの安心した生活が送れる条件があった。だが、今の日本社会で「人手不足」とされる業界には、経済的自立が難しい低賃金や、パワハラの横行などで働き手が定着できない構造を持っていることが少なくない。人が集まらないような待遇にこそ問題があるということだ。
 
 たとえば、介護や保育は社会のニーズが大きく、高いスキルが必要な仕事でやりがいも大きい業界だ。にもかかわらず、低待遇がなかなか改善されず、働き手が定着しにくいことが問題になっている。
 
 運輸業界や建設業界でも、人手不足への反省から働き方を改善の試みがさまざまに報じられてはいるものの、過酷な労働による過労死などがしばしば報道されてきた。「日本流通新聞」(2018年10月15日付)も、「一般論」としつつ、トラック運送事業での労働時間が全職業平均より約2割長いにも関わらず、年間賃金は約1〜2割低く、それが人手不足の深刻化を招いたと指摘している。
 
政府の政策が招いた劣化
 その背景にあるのは、政府の政策だ。
 
 介護や保育について言えば、「夫に養われる女性」などを前提に低待遇を維持する政府の制度設計が続いてきた。最近では、政府が人件費アップのための助成金を出しているが、同時に、株式会社化路線の中でそれらが利益や投資に回されがちな事態が起きている。たとえば、2016年10月22日付「毎日新聞」は同社の調査から、社会福祉法人の経営する保育所の運営費全体に占める人件費の割合が平均69.2%なのに対し、株式会社の保育所は平均49.2%だったと報じている。
 
また、運輸業界では、1990年の物流2法による規制緩和以降、トラック運送事業者が過当競争状態に置かれ、ドライバーの長時間労働・低賃金が続いた結果、若手が集まらない業界になったといわれている。
 
建設業界では、東日本大震災の復興という課題が解決しきっていない中で東京五輪が誘致され、五輪までに間に合わせるという厳しい日程の下での建設現場での過酷労働が問題化している。以前からの多重下請け構造の中で危険な作業に監視が行き届かないこともあり、今年2月の国際建設林業労働組合連盟(BWI)の調査がまとめた報告書「東京オリンピック“闇の側面”」では、「頭上をコンクリートが揺れている状態で危険を感じた」「月に28日間連続で働いている例がある」など、極端な長時間労働や危険事例が明るみに出されている。
 
 こうした状態を放置したままの「就職支援」では、粗悪な雇用を渡り歩いて苦しんできた「ロスジェネ」にさらなる苦痛を与えかねない。
 
 「民間ノウハウを活用した職業訓練受講給付金の整備」「人材派遣会社など民間への成果に連動した職業訓練の委託」も危うい。
 
 非正社員の不安定さが知れ渡るにつれ、「正社員」でないと若者は集まらなくなった。今回の支援策が「正規雇用希望者の正規化」を掲げているのも、そうした状況を配慮してのことだろう。だが、そんな中で、劣悪な労働条件でも「正社員」を標榜して人集めを行う企業が目立っている。非正規並みの低待遇と正規並みの長時間労働・高拘束を兼ね備えた「名ばかり正社員」だ。人材派遣会社などの民間人材業者に委託し、就職に成功したら助成補助金を支給するなどの手法は、現政権がこれまでも推進してきたものだが、「成果」を上げるため、こうした「名ばかり正社員」でも、とにかく就職させるという事例はしばしば聞く。
 
 また、派遣会社などの民間の職業訓練は、まとまった設備投資がさほど必要ない初歩的なパソコン教育なども多い。これでは通常の正社員就職の決め手にはなりにくいが、そんな中で就職先が見つからないと、「派遣の仕事はどうか」と誘い、「派遣会社の正社員」社員として派遣の形で就職させることで「成果」にカウントする例もある。やっと正社員になれたと思ったら不安定な自立できない待遇の仕事で心が折れ、「もう就職活動などしたくない」という当事者の声も聞く。
 
「名ばかり正社員」のアリ地獄
 そんな懸念を抱くのは、就職氷河期と言われた2000年前後から、記者として多くの「ロスジェネ」の体験を聞いてきたからだ。その最近の例として、今年2月に取材した40代の男性の例を紹介しよう。
 
 男性は2000年代の初めに大学を卒業したが、就職氷河期のど真ん中で正社員の仕事はみつからず、派遣として働き始めた。働きながら、正社員の仕事を求めて120社以上の採用試験を受けたが、派遣での経験はキャリアにならないと言われ門前払いとなった。職業訓練も受けたが簡単なパソコン技能だけで、これも就職の決め手にはならなかった。
 
 唯一、「正社員に」と誘われたのが派遣会社だった。だが、働いてみると雇用期限がない派遣社員で、有期雇用の派遣社員が急に休んだときなどの手近な穴埋め要員として利用された。労働条件も、「派遣だから」と交通費が自己負担とされ、遠い職場に派遣されると交通費がかさんで手取りはほとんど残らないこともあった。貯蓄はできず、とりあえずの暮らしを立てるため派遣にしがみつくしかなかった。典型的な「名ばかり正社員」だ。
 
 十分な生活費を稼げないため親の家に同居を続けた末、昨年、「年齢が高いから」と派遣の仕事も打ち切られた。20年働き続けて退職金も厚生年金もない。「一度入ったら抜け出せないアリ地獄のようだった」と、男性は振り返る。
 
 男性が大学を卒業する数年前の1999年、その不安定さから一部の専門的な仕事などに限定されていた派遣が原則自由化され、正社員は派遣に置き換えられていった。バブル崩壊後の不況の中での失業率の高まりを抑えるため ・・・ログインして読む
(残り:約914文字/本文:約3995文字)
 
筆者
竹信三恵子(たけのぶ・みえこ) ジャーナリスト、和光大学名誉教授

和光大学名誉教授。東京生まれ。1976年、朝日新聞社に入社。水戸支局、東京本社経済部、シンガポール特派員、学芸部次長、編集委員兼論説委員(労働担当)などを経て2011年から和光大学現代人間学部教授・ジャーナリスト。2019年4月から現職。著書に「ルポ雇用劣化不況」(岩波新書 日本労働ペンクラブ賞)、「女性を活用する国、しない国」(岩波ブックレット)、「ミボージン日記」(岩波書店)、「ルポ賃金差別」(ちくま新書)、「しあわせに働ける社会へ」(岩波ジュニア新書)、「家事労働ハラスメント〜生きづらさの根にあるもの」(岩波新書)など。共著として「『全身○活時代〜就活・婚活・保活の社会論』など。2009年貧困ジャーナリズム大賞受賞。
 
  • トラックバック (0)
  • 閲覧 (63)

 (社説)コンビニ本部 時代に即した改革を

朝日新聞 2019年6月24日05時00分
 
 コンビニエンスストアが、これまで業界の成長を支えてきた「24時間営業」と「定価販売」を見直そうとしている。
 
 セブン―イレブンとファミリーマートは一部の店で、時短営業の実験を始めた。深夜から早朝の4〜8時間は店を閉め、加盟店の収入に影響があるかなどを見極める。人手不足が深刻になり、加盟店主や従業員の長時間労働も見過ごせなくなったためだ。
 
 ポイント還元の形で、実質的な値引きも始まった。ローソンは沖縄と愛媛で、消費期限が迫ったおにぎりなどを対象に、5%分のポイント還元を実験している。セブンも秋に、同じようなやり方を採り入れる。
 
 まだ食べられるのに捨てる「食品ロス」を減らし、廃棄費用の多くをもつ加盟店の負担を減らすねらいもある。
 
 夜型の生活をする人が増えて市場が急拡大していたときは、24時間営業はコンビニ本部と加盟店の双方の利益につながり、食品廃棄の費用も大きな問題にならなかった。ところが店舗数が増えて競争が激しくなり、人手不足が目立ってくると、便利さの裏で加盟店に負担が偏っている構図が顕在化した。
 
 時短営業や実質値引きは、問題解決へ一歩前進ではある。しかし、対応は限定的で、あまりに遅い。セブンが大阪の加盟店主と時短営業をめぐって対立したのをきっかけに、コンビニの現場のひずみが注目され、国の介入もあって、本部はようやく改善へ踏み出した。
 
 経済産業省の調査では、人手が足りないと考える加盟店主は、2014年度の22%から18年度は61%まで上昇した。本部の対応が後手に回り、加盟店の運営はより厳しくなっている。
 
 09年には、値引きの自由が加盟店主にないとして、公正取引委員会がセブンに排除措置命令を出した。しかし、定価販売にこだわる各社の姿勢は、変わらないままだった。
 
 経済産業相の要請を受けて4月下旬に各社が公表した行動計画には、時短営業への対応などに加え、セルフレジの導入や加盟店とのコミュニケーション強化も盛り込まれた。
 
 にもかかわらず、公取委は近く、加盟店主からの営業時間の見直し要求を本部が一方的に拒んでいないかなど、実態を調査するという。問題の根底にある本部と加盟店主の関係に、厳しい目が向けられている。
 
 本部が優越的な地位を背景に自らに有利な契約を結び、加盟店主に負担を強いるようなやり方は、持続可能ではない。
 
 加盟店主の声に徹底して耳を傾け、時代に即した健全な関係づくりを急ぐべきだ。
 
  • トラックバック (0)
  • 閲覧 (9)

「国として、どうなの?」と思わされた統計不正問題。 いったい何が行われたのか? なおも残る課題とは?

あなたは統計不正問題を理解していますか?
imidas 2019/06/21
 
伊藤圭一(全労連常任幹事、雇用・労働法制局長)
 
統計不正によって公的統計がわからなくなった!
 
 平成とはどういう時代であったのかを振り返る企画が流行っていますが、「平成経済」の検証には難題が立ちふさがっています。統計法に基づく基幹統計の一つ、「毎月勤労統計調査」が2004年から15年間にわたり不正な手法で行われ、しかも2011年までの8年分の資料が廃棄されたため、この期間の賃金の実態を公的な統計によって把握することができなくなっているからです。
 厚生労働省所管のこの統計の不正は、2018年12月に発覚しました。その後、政治による統計への介入が疑われる事態も判明し、国会で重大な問題として取り上げられてきました。しかし、野党の追及に対し、閣僚や政府参考人は誠実に答弁せず、真相究明のために必要な資料提出も不十分なまま、この問題の審議は2019年5月21日の参議院厚生労働委員会をもって幕切れとなっています。
 
 厚生労働省は過去の検証は終わったとの姿勢で、5月22日の第43回労働政策審議会で再発防止策を報告しています。/Πに対する統計研修や他府省・民間との人事交流、統計業務の改善、調査内容の正確な公開、ガバナンス強化と外部有識者による審議の仕組み強化の3点がその内容です。また、総務省統計委員会も点検検証部会を立ち上げ、5月23日に「公的統計の総合的品質管理を目指して(素案)(第1次再発防止策)」を発表しています。「事後的な検査、外部からの監察・評価には限界がある」として、再発防止の第一に「品質はプロセスで作り込む」と標語のようなものを掲げ、「分析審査担当官」設置や職員研修強化を提案しています。
 専門職の配置や研修強化の必要性には筆者も賛同しますが、不正の動機も虚偽を公表し続けてきた組織の内情も明らかにされず、平均給与額の対前年比率の上振れ(実態より良い数値を示している)の要因分析も徹底されず、政治介入の疑惑も晴れないままの状況で、「これからは調査内容を正確に公開します」「品質を保証しうる調査プロセスを確立します」といわれても、鵜呑みにするわけにはいかないのではないでしょうか。18年から新たに採用された調査手法の妥当性や結果の示し方も、決定プロセスにおいて政権に都合よく改定されたのではないかとの疑惑が晴らされていないため、どうも納得できません。
 本稿では、この間の事実究明の経過を振り返りつつ、残された疑問と課題を挙げてみたいと思います。
 
毎月勤労統計と15年前の不正
 
 そもそもの確認から入りますが、毎月勤労統計調査は、月々の賃金(所定内と所定外給与、特別に支払われた給与)、労働時間(所定内・所定外労働時間、出勤日数)、雇用(常用労働者数)の変動を把握するための公的統計です。所管は厚生労働省で、常用労働者を5人以上雇用する約190万事業所を母集団とし、そこから抽出した約3万3000事業所を調査するものとされています。
 ただし、この統計の「調査計画」によれば、規模500人以上の企業については「抽出」ではなく、「全数」を調査しなければならないとされています。事業所規模で500人以上の大企業ともなれば、数はある程度限られるうえ、企業ごとの賃金水準の差が大きく、抽出調査にしてしまうと誤差が大きくなり、母集団の特性を反映できなくなるためです。
 
  ところが、厚生労働省は、2004年以降、東京都の大企業について全数調査ではなく抽出調査に切り替えていました。しかも調査対象事業所(18年であれば1464)を約3分の1(同年10月分把握で491)しか調査しないばかりか、そのデータを約3倍(3分の1の数しか調査していないので)にする「復元」作業もしていませんでした。つまり、賃金が高い東京の大企業のデータが3分の2欠けたまま集計され、長い間、平均給与額や名目・実質賃金指数が低めに集計されていたのです。
 
不正の隠蔽と発覚
 
 こうして2004年から始まった不正調査を、厚生労働省は2018年1月から、ひそかに部分的に修正しました。東京都の大企業について、本来あるべき全数調査としないまま、3分の1調査したデータを3倍に「復元」することだけを行ったのです。これにより、18年1月から12月までの毎月勤労統計調査の賃金の対前年比率は、不正調査で低めだった前年同月との対比ですから、当然のことながら実態より上振れした数値となりました。賞与を含む現金給与総額で見た上昇率は1月で1.2%、6月では3.3%を示し、これらは「アベノミクスの成果」などとうたわれました。
 この結果に違和感を持ったのは労働者だけではありません。経済や財政、統計の専門家たちからも疑問の声が上がり、総務省も18年8月の統計委員会で議題として取り上げました。しかしその際、厚生労働省は、不正や部分的修正をしたことを隠したまま説明をしていました。賃金の対前年比率が高めに出ていることは認めたうえで、それは統計委員会の確認に沿って行った、中規模事業所の調査対象の入れ替え(サンプル入れ替え)と、平均賃金を算出する際に使う業種別・事業所規模別の労働者数のデータの更新(ベンチマーク更新)作業の影響であり、結果に問題はないという報告でした。
 
 30〜499人の中規模事業所については500人以上の企業とは違い、もともと調査対象を抽出する方法で実施されることになっており、18年1月はこの中規模事業所の2分の1を入れ替えるタイミングでした。
 
 同時に、事業所の回答から得られた賃金データ(調査票記載の賃金のデータのこと)の合計から平均値を出すために必要な労働者数のデータ(「ベンチマーク」といいます)を、最新の「経済センサス」の結果を反映したものに切り替えるタイミングでもありました。「経済センサス」とは国全体の企業の活動や産業構造を明確にし、各種の経済統計調査の事業所母集団情報を提供することを目的とした基幹統計調査です。筆者の推測ですが、これらの切り替え時には、データの継続性に断絶が発生しますから、このタイミングに「復元」を行えば、数字のブレに気づかれないと考えたのではないかと思われます。
 
 その後も、厚生労働省の説明では納得できないとの統計ユーザーの疑問の声は強く、18年9月14日の閣議後の記者会見では当時の加藤勝信厚生労働大臣に質問がぶつけられています。 加藤大臣は、「統計委員会の議論に則ってやっている。我々が操作しているわけではない」としつつも、「逆の言い方をすると、旧統計の時に低かった。そこをどう考えるかということもあるかもしれない」などと語り、あとから振り返ると、この段階で不正を知っていたのでは?とも疑われる答弁をしています。
 後を継いだ根本匠厚労大臣にも10月の記者会見で質問がなされ、根本大臣は「経済財政諮問会議の指摘を受けた上で、政府の統計委員会でこの方式でやるべきだということの提言・指摘を受けて今取り組んでおりますから、これ自体はやり方は適切な方式」と答えています。
  • トラックバック (0)
  • 閲覧 (35)

日本労働弁護団「医師の働き方改革に関する検討会」報告書に対する意見書

 
「医師の働き方改革に関する検討会」報告書に対する意見書
               2019年6月10日
                日本労働弁護団
                会長 徳住堅治
 
 1 本意見書の骨子
 
 2018年6月の労働基準法改正によって、法定時間外労働に対する新たな上限規制が定められたが、医師は2024年まで適用猶予とされ、その後も特別の規制に服するものとされている。その特別の規制について、厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」(以下「検討会」という)は、2019年3月28日、報告書(以下「報告書」という)を公表した。
 しかし、その内容は、一般の労働者に比して年間を通じた長時間労働を可能とするものであった。さらに、年間1860時間の時間外労働(休日労働込み)を可能とする極めて危険な例外も定めており、到底認められるものではない。
 絶対的な医師不足等を原因として、医師の長時間労働は異常な状況にある。しかし、医師(勤務医)も労働者である。医師も、その長時間労働によって心身等に負荷がかかることは他の労働者と同様である。医師についても、この当然の事実を直視したうえで、通常の労働者と同様の時間外労働等の上限規制を適用されなければならない。
 
 2 医師の働き方改革に関する検討会報告書の概要
 
 (1)働き方改革関連法における時間外労働の上限規制の適用猶予等
 
 2018年6月に成立した「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」は、労働基準法を改正し、時間外労働等に対する上限規制を新たに設け、2019年4月1日より施行されている(中小事業主については2020年4月1日施行)。しかし、「医業に従事する医師」については、その規制は、2024年3月31日までの間、適用されない(労基法附則141条4項)。同期間経過後も、]基法36条3項の「通常予見される時間外労働」の「限度時間」を、「限度時間並びに労働者の健康及び福祉を勘案して厚生労働省令で定める時間」と読み替えたうえで適用し、同条5項が定める特別条項の上限及び同条6項2号3号が定める刑事罰は適用されない(労基法附則141条1項)。そのうえで、通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に労基法36条3項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合について、上限として「同条5項〔労基法36条5項〕に定める時間及び月数並びに労働者の健康及び福祉を勘案して厚生労働省令で定める時間」とし(労基法附則141条2項)、36協定によっても超えられない時間外労働の罰則付上限についても、「同条6項〔労基法36条6項〕に定める要件並びに労働者の健康及び福祉を勘案して厚生労働令で定める時間」としている(労基法附則141条3項5項)。
 
 (2)検討会報告書の概要
 
 検討会は、以上の「厚生労働省令」について議論するものであったが、報告書では、以下のとおりその内容を示している。
 
 ア A水準
 報告書は、「医療機関で患者に対する診療に従事する勤務医」(診療従事勤務医)について、2024年4月1日以降適用される時間外労働の上限水準(A水準)を以下のとおりとする。
  通常予見される時間外労働につき延長することができる時間数として36協定で協定する時間数の上限(医師限度時間)を月45時間・年360時間とする。
  通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に医師限度時間を超えて労働させる必要がある場合につき、延長することができる時間数として36協定で協定する時間数の上限について、(顱1か月あたり原則100時間未満(休日労働込み)、(髻1年960時間(休日労働込み)とする。
  36協定によっても超えられない時間外労働の時間数の罰則付上限について、△汎瑛佑凌綵
とする。
 
 イ 地域医療確保暫定特例水準(B水準)
 報告書は、以上のA水準に例外を二つ設けている。その一つが、地域医療確保暫定特例水準(B水準)である。これは、地域医療体制を確保するための経過措置として暫定的な特例水準であるが、以下のとおり定められている。
  医師限度時間は、労基法36条4項とA水準と同様、月45時間・年360時間とする
  臨時的な必要がある場合の単月の時間数の上限を100時間未満(休日労働込み)としつつ、「追加的健康確保措置」を実施した場合に例外を認める。また、1年あたりの延長することができる時間数の上限は、1860時間(休日労働込み)とする。その適用はA水準と同じく年6カ月に限らない。
  36協定によっても超えられない時間外労働の罰則付上限について、△汎瑛佑凌綵爐箸垢襦
 A水準と同じく複数月平均による規制はない。
 
 ウ 集中的技能向上水準(C水準)
 A水準のもう一つの例外が、集中的技能向上水準(C水準)である。これは、一定の期間集中的に技能向上のための診療を必要とする医師向けとして定められたものであり、その水準は、B水準と同様のものとされている。
 このC水準は、(C-1)初期研修医など、医師等としての基礎的な技能や能力の習得に必要不可欠である場合、(C-2)高度特定技能の育成に関連する診療業務を行う場合の2つの類型に適用される。
 
 3 医師の長時間労働の実態
 
 (1)異常な長時間労働
 
 報告書も「他職種と比較しても抜きん出た長時間労働の実態」と表現するとおり、医師の労働時間は長時間化している。検討会にも提出された厚労省「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」(2017年4月6日発表)によれば、週当たり勤務時間(診療時間、診療外時間、待機時間の合計)が60時間以上の病院常勤医師は38%にもなる。しかも、この時間には、オンコールの待機時間(院外に待機して応急患者の診療等の対応を行うこと)は含まれていない。厚労省「脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」(平成13年12月12日付基発第1063号)は、「発症前1ヶ月間におおむね100時間又は発症前2カ月間ないし6カ月間にわたって、1ヵ月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合が業務と発症との関連性が強いと評価」しているが(過労死ライン)、勤務時間週60時間は1カ月80時間越えの時間外労働に従事しているとも解され、以上の約40%の医師は過労死ラインを超えて就労していることになる。
 
 (2)宿直・宅直勤務の実態
 
 医師の労働実態の1つの特徴に宿直勤務、宅直勤務がある。医療法第16条は、「医業を行う病院の管理者は、病院に医師を宿直させなければならない」と定めており、多くの病院勤務医は宿直に従事している(「医師の勤務実態及び働き方の意向等に関する調査」によれば、病院常勤医師のうち宿直回数が月1〜4回の医師は42%、5〜8回の医師は10%である)。さらに、夜間宿直を担当する医師の多くは、宿直明けに通常勤務を担当しており、連続で30時間以上の拘束となる。
 この宿直勤務については、労基法第41条に基づき、監視又は断続的労働(同条3号)として許可を受け、労基法上の労働時間、休憩、休日に関する規定の適用を免れている例も多い。厚労省は、労基法第41条3号の一般的許可基準として、「殆ど労働する必要のない勤務」という勤務実態を要求し(昭和22年9月13日発基17号)、医療機関については「夜間に従事する業務は、一般の宿直業務以外には、病室の定時巡回、異常患者の医師への報告あるいは少数の要注意患者の定時検脈、検温等特殊の措置を要しない軽度の、又は短時間の業務に限ること」等の要件を定め、「昼間と同態様の労働に従事することが常態であるようなものについては、宿直の許可を与える限りではない」としている(平成14年3月19日付基発0319007 12月28日基発1228号第16号)。そもそも「労働時間を管理していない」も16.2%となっている。さらに「時間外労働時間数の申告状況」は、「申告している」が56.1%、「申告していない」が43.9%となっており、半数近くは時間外労働の申告さえされていない。
 勤務医については、労働基準法第41条第2号の「監督若しくは管理の地位にある者」として扱われ、労働時間管理を行わず、時間外労働手当等が支払われていない例も多いという。
 
 (4)医療安全への影響
 
 以上のような杜撰な労働時間規制の適用状況のもと、多くの医師が過労死ラインを超える長時間労働に就くことを余儀なくされている。しかも、その職務である医療行為は、緊張度の高いものであり、その精神的負荷は計り知れない。
 医師の長時間労働は、医師の問題だけではない。長時間労働と医療ミスは関連すると指摘されており、患者の安全にも重大な影響をもたらしているのである(日本学術会議「提言 病院勤務医師の長時間過重労働の改善に向けて」(2011年)、JILPT「勤務医の就労実態と意識に関する調査」(2012年)など)。勤務時間を減らすことによって、医療ミスが軽減されたとの分析もある(江原朗「医師の長時間労働は医療安全に有害ではないのか」)。
 
 (5)家事責任等を負う医師が排除される仕組み
 
 報告書も指摘するように、以上のような過酷な長時間労働が標準化されることによって、妊娠・出産する女性医師や育児等の家事責任を負う医師が就業を継続することは困難となっている。そのような医師たちは、アルバイト医師等のように非正規化される例も多いという。昨年から問題となっている医学部医学科入試における女性差別についても、妊娠・出産等を負担する女性が敬遠された結果であるとの指摘もある。
 
 4 報告書の問題点
 
 (1)異常な長時間労働の現状追認
 
 報告書が、医師の長時間労働の現状を認識しつつ、「医師は、医師である前に一人の人間であり、健康への影響や過労死さえ懸念される現状」を変えるべきであると指摘し、医師の長時間労働の1つの要因とされることの多い「応召義務」(医師法第19条)については「公法上の義務」に過ぎず、応召義務があるからといって際限のない長時間労働が求められることはないとしていることなどは正当である。
 しかし、その具体的な規制の枠組みについては、後述のとおり問題がある。特にB水準、C水準は、いわゆる過労死ラインを大きく超えるものであって、容認できるものではない。病院勤務医が労働者であることは自明のことであり、医師であることによってそのような過労死ラインを超える労働が許容されることはありえない。通常の労働者と同様の水準による労働時間規制を適用されなければならず、そのための方策を早期に検討すべきである。その検討にあたっては、当事者である病院勤務医はもちろんのこと、当該勤務医を組織する労働組合の意見等を十分に聴取することが必要である。
 
 ア A水準の問題点
 まず、A水準については、⇔彁的な必要がある場合について、単月の上限100時間未満は、一般の労働者と同水準であるが、そもそも当該水準が過労死ラインを超えるもので危険である。
 年間上限時間960時間(休日込み)は、一般の労働者についても制度上可能とされる危険なものであるが、医師についてそれを正面から認め、月平均80時間の時間外労働(休日労働込み)を可能とする点でやはり問題である。また、⇔彁的な必要がある場合の適用を6カ月に限定しないこと、36協定によっても超えられない罰則付上限時間についても複数月平均による規制を外したことは、年間を通じた恒常的な長時間労働を可能とするもので医師の生命・健康の保護として不十分なものと言わざるを得ない。
 
 イ B水準及びC水準の問題点
 報告書の大きな問題は、A水準の例外として設けられたB水準とC水準である。いずれも⇔彁的な必要がある場合について、単月の時間外労働の上限を100時間未満(休日労働込み)としつつ、それを超える例外を認めている。しかもその例外の上限さえ定められていない。単月・複数月の上限が存在しないことになり、極めて危険である。また、年間上限時間を1860時間とするが、A水準の2倍近い水準であり、月に換算すると155時間となり、到底認められるものではない。
 単月・複数月の上限が存在しないことは、勤務病院の変更が行われる勤務医にとっては重大な問題である。すなわち、病院勤務医は、大学医局の人事によって年度等に関係なく勤務病院の変更が行われることがあるという(使用者が変更される「転職」にあたる場合もある)。この点、使用者が変更されない「転勤」の場合、当該労働者が事業場を跨ったとしても、労働時間を通算して適用されることは当然である。他方、使用者が変更される「転職」の場合、転職後の病院において、転職前の病院における時間外労働の実績が通算されない取扱いが許されれば極めて危険である。B水準・C水準の△砲話鰻遏κ数月の上限がなく、転職前の病院、転職後の病院のそれぞれにおいて青天井の長時間労働に従事させられることになり、もはや上限が存在しないことになるからである。刑事罰の対象となる△砲弔い董◆崚梢Α廚靴討睿働時間が通算されると法律上明記すべきである。
 報告書は、年間の時間外勤務時間が1860時間を超えると推定される医師がいる医療機関は、病院全体の約27%、大学病院の約88%、救命救急機能を有する病院の約84%、救急機能を有する病院の約34%と「広く存在している」と指摘し、当該水準をやむを得ないものと位置づけている。しかし、そのような常軌を逸する長時間労働に従事する医師を基準にして、生命・健康等を保護するための労働時間規制の水準を定めることは議論が転倒している。
 
 ウ C水準は不要であること
 C水準については、そもそも特別の上限を設定する必要性があるのか疑問である。技能向上(C水準)のために特別の上限を設定する必要性は高くない。報告書は、臨床研修医・専門研修中の医師等の「医師養成の遅れにつながるおそれ」、高度技能を有する医師の育成の遅れなどを指摘するが、それらに年間1860時間もの時間外労働が必要であるか大いに疑問である。報告書自体が、「我が国において時間外労働と(C)-1、2の業務の関連性を検証したエビデンスは現在のところ存在しない」と指摘している。このC水準は、現実の研修医等の長時間労働の実態を基準に、その必要性等を検証しないまま、上限時間の特例を認めた点で不当である。
 
 エ 過労死を引き起こす危険性のある水準であり、使用者は安全配慮義務を免れるものではないこと
 
 以上のとおり、報告書が示す水準は、例外であるB水準・C水準だけでなく、原則であるA水準も恒常的な長時間労働を可能とする危険な内容である。医師も、その長時間労働によって心身等に負荷がかかることは他の労働者と同様であり、上述したいわゆる過労死ラインは当然医師にも妥当する。これらの水準が過労死ラインを超える危険な内容であることは十分に認識されるべきである。
 また、医師についてこれらの水準が設けられたからといって、使用者たる病院経営者の労働者である医師に対する安全配慮義務に例外が生じるわけではない。この点については、「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項等に関する指針」(厚生労働省告示第323号)が、「使用者は、時間外・休日労働協定において定めた労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間の範囲内で労働させた場合であっても、労働契約法…第5条の規定に基づく安全配慮義務を負うことに留意しなければならない」(第3条第1項)と定められているとおりである。
 
 (2)労働時間性の問題、労働時間管理の問題が曖昧であること
 
 上述したとおり、勤務医は、その当直について、実際には通常業務と同様の業務に従事しているにもかかわらず労働時間に算定していなかったり、宅直(オンコール)や自己研鑽時間についても同様に労働時間に算定していないことが多い。報告書では、それらの取扱いを明確化していない。それらの負荷を考えれば、それら宿直・宅直・自己研鑽時間等の時間も確実に包摂した形での規制を考える必要がある(少なくとも、それらの時間が労働時間に該当するかを厳密に検討したうえで、労働時間の上限規制を及ぼす必要がある)。
 また、宿直勤務の違法な労基法40条3号の適用、36協定の未締結などの労基法違反の実態を厳しく取り締まることも必要不可欠である。さらに、タイムカード等の客観的記録に基づき労働時間を適正に管理することも当然に実施しなければならない。報告書にはこれらの観点が抜け落ちている。
 
 5 最後に
 
 報告書も認めるとおり、医師の長時間労働は極めて危険な水準にある。36協定が締結されていなかったり、労働時間管理も杜撰、時間外労働の申告さえ正確に行われていないなど、前近代的な実態にある。結果として、医師の生命身体が脅かされているだけでなく、妊娠・出産を負担する女性医師等が継続して就労することが困難な状況におかれ、さらには医療安全にも重大な影響を及ぼしている。
 このような状況の大きな原因に医師数の絶対的不足がある。この医師の絶対的不足の状況は、日本政府による医師数抑制政策によるものであるが、その負担を労働者たる医師に押し付けることはあってはならない。
 医師の労働時間規制についても、医師(勤務医)も労働者であるという当然の事実を直視し、その生命健康等を保護するため、通常の労働者と同様の水準の時間外労働等の上限規制を適用するべきであり、そのための方策を早期に検討することを求める。そして、その検討にあたっては、当事者たる勤務医は当然のこと、勤務医を組織する労働組合の意見等を十分に聴取しなければならない。
                              以上
 
  • トラックバック (0)
  • 閲覧 (68)

本業の充実化や副業・兼業労働者に対する適切な保護を実施しないまま副業・兼業を推進することに反対する緊急声明

2019/6/12
 
本業の充実化や副業・兼業労働者に対する適切な保護を実施しないまま
副業・兼業を推進することに反対する緊急声明
 
2019年6月12日
日本労働弁護団
幹事長 棗 一郎
 
 1 厚生労働省は、現在、労働政策審議会(労働条件分科会労災保険部会)(部会長:荒木尚志東京大学教授)において、複数就業者への労災保険給付の在り方について現行制度の見直しを進めるとともに、副業・兼業の場合の労働時間管理の在り方に関する検討会(座長:守島基博学習院大学教授)において、副業・兼業労働者の労働時間管理の具体的方法に関する検討を進めている。
 2018年1月に厚生労働省が発表した「副業・兼業の促進に関するガイドライン」においては、副業・兼業のメリットとして「労働者が主体的にキャリアを形成することができる」「自己実現を追求することができる」といった点が挙げられ、これにより国家的政策として副業・兼業が推進されようとしている。
 
 2 しかし、「新たな産業構造に対応する働き方改革に向けた実態調査」(平成28年度経産省委託事業)によれば、労働者が副業・兼業に従事する理由として最も多く選ばれた理由は、十分な収入を得るため(約45%)であり、事実、雇用者全体の平均年収と比べ、年収額が低い者が副業・兼業に従事する傾向が見られる。総務省の平成29年度「就業構造基本調査」によれば、正規職員の副業者比率は2.0%であるのに対し、非正規職員の副業者比率は5.9%と多い傾向が見られ、追加就業希望者比率も前者は5.4%である一方で、後者は8.5%と、非正規雇用者の方が数多く副業への従事を希望している傾向が見られる。日本全体を見れば、本業(非兼業者をも含む)の形態は非雇用型が18.8%、非正規雇用(パート、アルバイト、派遣、契約社員、嘱託、その他)が32.2%を占め(平成29年度「就業構造基本調査」)、雇用者全体における年収299万円以下の者の割合は、約半数を占めるに至っている(「新たな産業構造に対応する働き方改革に向けた実態調査」(平成28年度経産省委託事業))。
 ここから浮かび上がるのは、もはや日本社会においては、本業だけでは生活をしていくのに十分な収入を得ることができないため、やむなく副業・兼業を余儀なくされている労働者の実態である。
 
 3 政府が、副業・兼業のかかる実態を無視し、キャリア形成や自己実現追求という明るい側面のみを強調して副業・兼業を積極的に推進することは許されない。政府がまず行うべきは、本業に1日8時間従事すればきちんと生活できるだけの収入が得られるようにするための労働政策(最低賃金の大幅な引き上げ等)を検討、実施していくことである。
 その上で、副業・兼業を認めるにしても、副業・兼業労働者の長時間労働を抑制し、副業・兼業労働者の生命・健康を保護するべく、本業先・副業先には客観的な方法でそれぞれの就業先における労働時間を把握させ、長時間労働が認められる場合には労安法所定の健康管理措置を実施することを義務付けるとともに、労基法38条の遵守を厳格に義務付けるべきである。政府内では、割増賃金の算定の場面において、異なる使用者で就労する場合に人単位の労働時間の通算を否定し、使用者単位で通算すればよいとする向きの議論があるようだが、現状でも、副業・兼業労働者の長時間労働抑制は野放し状態にある。割増賃金制度の趣旨は長時間労働の抑制にあるという原則論に立ち返り、長時間労働抑制に相反するような法解釈を行うことは決して許されない。
 また、現状の労災実務では、副業・兼業をしていたとしても、本業先と副業先との労働時間の通算が認められていない上、労災の支給額の算定は、労災に遭った勤務先から得ている賃金のみを基に行われている。そのため、本業と副業とを合わせて過労死ラインを超える長時間労働をしていたとしても、労災としては認められない上、仮に労災認定がされたとしても、労災に遭う前の賃金保障はされないため、被災者は生活の困窮に直面することになる。これでは、安心して副業・兼業に従事することなどできない。国家的な方針として副業・兼業を推進していくのであれば、これまでの実務運用を改め、万が一労災に遭ってしまった場合の補償をきちんと行うための法整備を進めていく必要がある。
 加えて、副業・兼業が社会に浸透し、就労時間の短い雇用が乱立すれば、現状の雇用保険や社会保険の加入要件を満たさない労働者が増えていくことが予想される。副業・兼業を推進するのであれば、雇用保険及び社会保険が全ての労働者にとっての生活保障として機能するものとなるよう、直ちに制度的な手当てを行うべきである。
 
 4 日本労働弁護団は、本業の充実化や、副業・兼業労働者の保護を適切に実施しないまま、国家的方針として副業・兼業を漫然と推進していくことには断固反対である。政府は、労働者が副業・兼業に従事しなければならない実態や現行制度の問題点を直視し、早急に適切な労働政策を実施するべきである。
 
                               以 上
 
  • トラックバック (0)
  • 閲覧 (14)

毎日新聞 社説 就職氷河期世代の支援 息の長い取り組みが必要

毎日新聞2019年6月17日 東京朝刊
 
 バブル崩壊後の1993〜2004年ごろ大学や高校を卒業した人々を「就職氷河期世代」という。
 
 政府は今年の「骨太の方針」に就職氷河期世代を集中的に支援し、今後3年間で正規雇用を30万人増やす数値目標を掲げた。
 
 たまたま景気の悪い時期に当たったばかりに良い仕事に就けず、低賃金の非正規雇用で働いてきた。景気が回復しても企業は「新卒一括採用」の慣行を変えず、氷河期世代は見捨てられたままだった。今は30代半ばから40代半ばになった。
 
 本人のせいではないのに、理不尽な状況に置かれている人々を政治は放置してはならない。
 
 この世代は結婚していない人が多い。無年金のままだと親の遺産でもなければ老後は困窮状態に陥るのは明らかだ。早急に支援策を講じなければならない。 
 
 支援の対象は非正規雇用や定職を持たない状態にある約100万人だ。就職相談や人材育成策を充実させ、雇用を引き受けた企業への助成も強化する。特に、人手不足の運輸業や建設業などの団体と連携し、短期間で資格が取得できるような支援に重点を置くという。
 
 これまでも氷河期世代の支援はなかったわけではない。06年以降、フリーターやニートを対象とした「再チャレンジ施策」を行い、この10年で氷河期世代のフリーターは88万人から52万人へと減っている。逆に、仕事をしていない「無業者」は38万人から40万人へと増えている。
 
 今回の政府の支援策は、こうした対策をしても正規雇用に結びつかなかった人々が対象とも言える。効果を上げるのは容易ではないだろう。
 
 10〜20年もの長期間にわたってひきこもっている中高年も珍しくはない。社会から遠ざかる期間が長いほど社会復帰にも時間がかかる。
 
 人手不足の業界の労働力として安易に適応させようとしてもうまくいくだろうか。正社員にこだわらず、柔軟な働き方を認めながら職場への定着を図ることも必要だ。
 
 新卒一括採用や終身雇用という雇用慣行は変わりつつある。企業が必要なときに人材を採用し、労働者もいつでも再チャレンジできるようにすることが、第二の氷河期世代を生まない社会へとつながる。
 
【関連情報】
論説−私論・公論 - リテラ編集部 安倍政権「就職氷河期世代」支援が酷い!「人生再設計世代」と言い換え (6/1)

 

  • トラックバック (0)
  • 閲覧 (142)

フランス在住、“父親休暇”の体験者が見た「男性育休『義務化』」とは

 
男性育休義務化は、子を持たない人も含め「休むことが許されない」日本の働き方を問い直す機会になるはずです。大いに盛り上がり、賛成反対入り混じっての侃々諤々の議論となることを願っています。
Huffingtonpost 2019年06月13日 10時21分 JST | 更新 2019年06月13日 10時21分 JST
 
〇盧蟒膸 フランス在住ライター
 
 自民党の有志議連が提唱する「男性育休義務化」が話題になっています。
 私の住むフランスでは、子どもの誕生時に11日間取得できる「父親休暇」を、サラリーマン男性の7割が取得しています。私の夫も二人の子どもの誕生時にその休暇を取得し、大変な時期を夫婦揃って乗り越えるため、とても大きな恩恵を受けました。
 その経験とフランスでの実例から見て、今回の育休義務化について考えるところをまとめたいと思います。
 
□義務化「議論」は政治主導で
 
 まず私は、男性育休義務化を「議論すること」に賛成です。
 「義務化」という強い言葉での議論喚起は、男性の育児参加が日本社会の重要議題であると世間に広く知らせる効果があります。
 議連の方々の狙いも、男性育休義務化を実現することに加え、この「男性の育児参加の必要性を知らしめること」にあるようです。
 現代の日本社会は、女性の労働力を前提とした経済システムが確立し、出産適齢年齢の世帯の多くが共働きとなっています。『お父さんは外で仕事・お母さんは内で家事育児』という昭和的な性別分業のあり方は、社会一般モデルとして通用しなくなっています。
 その一方、保育園など家庭外保育手段は不足し続け、実家を頼れない孤立した子育てが常態化しています。祖父祖母も現役でフルタイム勤務をしていたり、互いに遠くに住んでいたりで、年に数回しか会わない、というケースも多いです。
 この状況で子どもを育み守る大人の数を確保するために、父親が育児に関わることは、もはや必要不可欠の流れです。
 
〇育児は誰が担うもの?
 
 それなのに、労働現場ではいまだに性別分業社会の固定観念が強く残っています。
 長時間労働の悪弊はなかなか改善されず、育休取得を望む男性を「使えない男だ」と批判する声も聞こえ続けます。
 とても残念な現実です。
 男性が自主的に育児に関わっていくための、時間も環境も社会的認識も、全く足りていないのです。
 その時間・環境・社会的認識を迅速に作って行くために、政治主導でできることの一つが、この男性育休義務化の政策論議だと思います。
 
□義務化すべきは「育休」か、それとも「産休」か?
 
 男性育休を義務化することそのものに関しては、「誰に」「何を」「どう」義務化するか、によって実現可能性が変わるので、私の賛成・反対もその内容に寄ります。
 そしてその内容は、「なんのために男性を休業させ家庭に返すのか」の目的によって変わります。
 義務化を論じる際には、この「なんのために」の共通認識を社会全体で固めることが大切で、制度の詳細はその後、目的への最短距離として考えていくべきものでしょう。
 議連の活動に関する報道を見ると、その目的は「企業や社会の男性の育児参加に対する意識改革を行なっていくこと」(6月5日ハフポスト記事より)とあります。
 これは言い換えると、「男性にもっと育児に参画して欲しい」「企業や社会はそれを後押しして欲しい」ということで良いかと思います。
 
〔写真〕男性の育休「義務化」を目指す議員連盟の設立総会で決意を語る松野博一元文科相 KASANE NAKAMURA/HUFFPOST JAPAN
 
 参考までに男性の育児参画が日本より盛んな国の制度を見ると、父親用の休業として、「産休」と「育休」の二種類を提示しています。
 この二つの違いはなんでしょうか?
 「産休」は母親産休に時期を合わせたもので、子の誕生直後の育児のスタートアップを父母同時に行うとともに、男性が「家庭運営のできる成人」として家にいることで、出産でダメージを受けた母親をサポートする狙いがあります。
 「育休」は、就業親が保育園など家庭外保育手段ではなく、自宅保育を望む・選ぶ場合の、保育者として子と共に過ごすめの長期休業です。
 並べて見ると「産休」と「育休」は、目的の違う休業であると分かります。
 勤労女性には産む性である身体的必要上と、性別分業社会で育児担当者とみなされてきた経緯から、この二つの休業制度が整えられてきました。
 一方、自ら出産せず、性別分業社会で育児担当者とみなされてこなかった男性には、長年「親の義務を果たすために仕事を休むこと」が想定されませんでした。
 父親として仕事を休む必要性が認められた際も、産む性ではないことから「産休」は当然スルーされ、母親に代わる保育者としての「育休」のみが整えられた、という経緯です。
 
〇男性も女性も、パパとママになるのは同じタイミング。
 
 しかし実際には産休は、産後の身体の回復の時間だけでなく、乳幼児との新生活を整備していく「育児のスタートアップの時間」という側面があります。そしてこれは親であれば、男女の性別問わず必要な時間です。
 この観点で考えると、今の日本で父親たちに義務化すべきはどちらでしょう?
 「産休」でしょうか、「育休」でしょうか、その両方でしょうか?
 
□国家戦略だったフランス版「男性産休」
 
 私の在住するフランスでは、男性に11日間与えられる「父親休暇」がある、と冒頭で書きました。これはまさに、女性の「産休」に相当するものとされています。
 目的は前述の通り、父親としての育児のスタートアップと、出産でダメージを受けた母親のサポートです。
 休業中の父親の収入補填も女性の産休と同じく、医療保険から支給されます。
 なぜフランスでこの制度がスタートしたかというと、それは現在の日本とまさに同じく、「父親が育児をする」ための時間・環境・社会認識が整っていなかったから。
 男女ともに取得できる育休制度があっても、その取得は日本同様母親に偏り、父親の方は全く伸びない状態が続きました。
 それを変え、父親の育児参画を可及的速やかに促進するために考えられたのが、父親にも「産休」相当の時間を与える策でした。「育児のスタートアップ時間を父親に与えよう」と、国家戦略として導入されたのです。
 その際の制度設計は、取得可能性を最優先して考えられたそうです。
 
〇11日間の「父親休暇」があるフランスでは、取得期間延長の議論が進められています
 
 例えば取得期間は、職場が一時欠員を許容できる長さ(11日間)で設定。企業への負担を可能な限り減らすよう、休業中の給与補填は国が支払い、企業側負担はありません。
 また産休中の父親が実際に育児実務をこなせるよう、母親の産後入院中、助産師から父親・母親揃って育児指導をする仕組みも整えられました。
 この「男の産休」制度は2002年の施行直後から好調なスタートを切り、休業した男性の育児実績がデータで確認されていると、高評価を得ています。17年後の現在では、期間を3〜4週間に延長する議論が進められています。
 
□「父親研修」とセットの「産休」義務化
 
 フランスのこの例を見るにつけ、日本で男性育休を義務化するなら、私はまず「産休」に相当する数週間の休業とするのが良いと思います。
 最もハードな新生活立ち上げの時期に父母が揃って家庭にいられて、かつ労働現場での欠員の影響も長期育休ほど大きくない。
 加えて、現状の「育休」を取得したい人にはその権利を保障する、二階建ての制度が望ましいと考えます。
 その際には、この男性産休が女性の産休と同じくらい必要不可欠なものと銘打ち、福利厚生の一環として、企業側に従業員の取得を義務とさせることが必要でしょう。
 女性が産休を取ることに意を唱えることがナンセンスなように、男性の産休も考えてもらう。
 またこの休業期間中、男性が育児当事者としての自覚とスキルを養えるような対策も欠かせません。
 保健所などの公的機関で父親研修を開催し、育休手当の給付にはその研修に参加することを必須とする、手当申請そのものを父親研修で行うようにする、といった関連付けも考えられます。
 
□意識の低い男性に育休は無意味? → 育児意識を高めるために義務化が意味を持つ
 
 男性育休義務化の話では必ず、「育児意識の低い男性に育休を与えても意味がない」との指摘が上がります。
 私はこれは逆だな、と思います。
 育児意識の低い男性にこそ、それを醸成するための時間と手段を与える必要がある。育児意識の高い男性は、義務化されなくとも自主的に育休を取得するでしょう。
 
〇男性と女性がともに子育てできる社会に
 
 低い育児参画意識をより高くするために、義務化は意味があるのです。
 現在育休取得者は有権利者の約6%、育休でない短期有給休暇制度でこの誕生時に休業する父親たちは4割強と言われています。父親の半数以上は、子の誕生という人生の一大事にも通常通りに仕事を続け、休業してもほんの短期間という人がまだまだ多い。
 義務化が働きかけるのは、この「子が生まれても育児時間を取らない父親たち」。そうして「育児する父親」の絶対数が増えれば、もともと育児意識の高い父親たちには、より育児のしやすい社会になっていきます。
 人手不足が常態化する社会で、企業側の反対は当然のことと思います。
 ですが、この人手不足は、過去30年、未来の労働力となる子どもが生まれやすい・育ちやすい社会を整えてこれなかった官民の行動の結果です。
 育児しにくい労働環境を維持しながら、「自己責任で産めよ増やせよ」と、労働者側にばかり負担を求めてはこなかったでしょうか。
 明日の日本をより良い形で継続するには、官も民もそれぞれに荷を背負い、全員一致で「子どもが生まれやすい・育ちやすい」社会を作っていく必要があります。
 そしてそれは、可及的迅速に向き合うべき課題です。
 男性育休義務化は、その認識を日本全体で共有するための、大きなきっかけになる。そしてそれは、子を持たない人も含め「休むことが許されない」日本の働き方を問い直す機会になるはずです。
 大いに盛り上がり、賛成反対入り混じっての侃々諤々の議論となることを願っています。
 
  • トラックバック (0)
  • 閲覧 (102)

社説:副業推進 働く人のための制度に

2019/6/12 13:42 (JST)
©株式会社京都新聞社
 
 政府の規制改革推進会議が働き方改革を促す答申を出した。副業・兼業の普及に向け、複数の企業で働いた場合の労働時間の管理ルールを見直すといった内容だ。
 
 人手不足が深刻化する中、働き方の選択肢を増やし、離職などを防ぐのが改革の目的という。
 
 副業は、第二の人生の準備として中高年が経験を広げる機会となったり、企業の成長促進につながったりすると期待されている。
 
 だが、本業との両立に伴う長時間労働をどう抑制するかといった課題がある。多様な働き方の実現が長時間労働や非正規社員の増加を招くようでは本末転倒だ。
 
 本当に働く人のための制度になることが大前提である。丁寧な条件整備が欠かせない。
 
 厚生労働省が副業の容認を打ち出したのは2017年12月のことだ。国の「モデル就業規則」では、それまで副業や兼業は原則禁止とされてきた。
 
 一つの仕事にとらわれず、多様な働き方を求める人が増えている現状を踏まえて方針転換した。モデル規則を改定したが、企業の導入は一部にとどまっている。
 
 労働者の長時間労働を助長し、体調不良やパフォーマンスの低下につながりかねないためで、経団連も現状では慎重な立場だ。
 
 答申は、労働時間の管理ルールの見直しを提言している。
 
 現行の労働基準法では、労働時間は合算して算定し、時間外労働が発生すれば、副業先が残業代を支払う義務を負うことになっている。企業がこれらの負担を嫌い、副業や兼業に消極的になっている恐れがあると指摘する。
 
 しかし、現行制度を変えるのは容易ではない。労働時間の管理方法について厚労省は有識者会議で検討を進めているが、社員の健康管理の実効性が問われる。
 
 副業を求める労働者側の事情はいろいろであり、下手に緩和すると際限がなくなる恐れもある。政府は実態を把握した上で、明確な指針を示す必要がある。
 
 答申はほかにも、介護休暇の柔軟化などの提言が盛り込まれた。安倍晋三首相は「スピードこそ最も重要な要素」との認識で改革を進めるとしている。
 
 月内にも規制改革実施計画を閣議決定する方針というが、拙速は避けるべきだ。
 
 副業の容認は働く人のキャリア形成や自己実現はもちろん、企業文化や風土も大きく変えることになる。現場の声を十分踏まえた議論が欠かせない。
  • トラックバック (0)
  • 閲覧 (58)

 「宿日直の許可基準、現状より改悪は許されず」、全医連

第12回シンポジウムで公表、「働き方改革に背く」
2019年6月9日 橋本佳子(m3.com編集長)
 
 全国医師連盟は6月9日、都内で開催した第12回シンポジウム「医師の働き方〜先行事例の紹介と、これからの展望」で、「宿日直の許可基準、現状より改悪することは許されない」という声明を公表した。近く厚生労働省が公表予定とされる、宿日直に関する通知をけん制することが狙い。
 
 声明では、現状では宿日直体制で時間外診療を行っている“違法状態”の病院が少なくないと指摘。宿日直基準の見直しが文言や医療行為の現代化に留まるのであれば問題ないが、宿日直中に容認される「通常業務の頻度」と「労働時間の上限」の設定次第では、現状の“違法状態”を合法化することになると問題視している。宿日直基準の緩和は、医師の働き方改革の方向性に真っ向から背くことになる上、これまでの裁判所の判決とも整合性が取れなくなると指摘する。
 
 全医連代表理事の中島恒夫氏は、「介護老人保健施設や介護医療院などは宿日直で対応できるだろうが、2次救急の告示病院だったら、宿日直で対応できるわけはない」と指摘した。「勤務医が過重労働で心身を壊され、過労死したら、誰がその病院に、その地域に後任として赴くのか。だからこそ、仲間を失いたくはない」と述べ、真の医師の働き方改革を進める必要性を訴えた。
 
全国医師連盟代表理事の中島恒夫氏
 宿日直に関する厚労省通知では、宿日直許可を取り消さない宿日直の通常業務の日数や労働時間の上限が示されている。声明が言及した「裁判所の判決」とは、奈良県立奈良病院の2人の産婦人科医が、未払いだった「時間外・休日労働に対する割増賃金」の支払いを求めた裁判での大阪高裁の判決で、通知の基準が大きく影響していると考えられるとした(『「宿直扱い」違法、最高裁不受理で確定』を参照)。
 
 声明では、夜間診療・休祝日診療を宿日直扱いすることで、以下の3つの大きな問題が生じると指摘している。
1.手薄な人員による医療提供体制
2.宿日直業務時間を労働時間にカウントしないことによる長時間労働の隠蔽
3.正当な時間外労働手当を支払わず、些少な宿日直手当で誤魔化している労働基準法違反
 
 シンポジウムでは、「先行事例」として、淀川キリスト教病院(大阪市)産婦人科の柴田綾子氏と、仙台厚生病院(仙台市)の医学教育支援室室長の遠藤希之氏が講演。産業医の林恭弘氏が労基法の基礎知識について解説した(記事は、別途掲載)。
 
 「医師の働き方改革は、病院管理者の働かせ方改革」
 「先行事例」の紹介に先立ち、中島氏は「医師の働き方改革について、勤務医の立場からの議論が少ない」とシンポジウムの企画趣旨を説明。その上で、「医師の働き方改革は、病院管理者の働かせ方改革」として、管理者に改革を呼びかけるとともに、勤務医に対しては自己防衛する必要性を訴えた。
 
 中島氏は、「過労死隠しも犯罪」、「賃金不払いも犯罪」と指摘。「時間外労働や休日および深夜労働に対する割増賃金の未払い」は、「6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑」、ひいては医道審議会で処分の対象になり得ると警鐘を鳴らし、病院管理者の自覚を促した。
 
 この3月に報告書をまとめた厚労省の「医師の働き方改革に関する検討会」について、中島氏は「現状は働き方改革的に問題なので、現状を合法化する」といった議論が展開されたと見る。病院管理者の代表は、(1)「労基法違反を前提にしなければ病院を経営できない」ことをはっきりと発言する、(2)そのツケを自分の病院の勤務医にではなく、行政に対してぶつけるべきだった、(3)法律違反を前提とした労務体制でしか医療を提供できないのであれば、厚労省にこれまでの失政を認めさせ、国民に謝罪させる――という対応をすべきだったと問題視した。
 
 医師が過重労働になる要因は複数あるとし、主治医制からグループ制(複数主治医制)など運営体制を見直すとともに、勤務医自身も労働契約書の内容を確認するなど「自己防衛策」が必要だとした。研修医、研修修了後に分け、注意点も提示した。
 
(提供:中島氏)

 

  • トラックバック (0)
  • 閲覧 (103)

 境真良さん「好況アニメ産業が抱える「ブラック労働」 クオリティ劣化でブーム終了に繋がる懸念も」

弁護士ドットコム 2019年06月08日 09時44分
 
〔写真〕好況アニメ産業が抱える「ブラック労働」 クオリティ劣化でブーム終了に繋がる懸念も
GLOCOM客員研究員の境真良氏(2019年4月/弁護士ドットコム撮影/東京)
 
『サマーウォーズ』や『時をかける少女』などで知られるアニメ制作会社「マッドハウス」がこのほど、労働基準監督署から是正勧告を受けた。制作スケジュールやスタッフィングなどを管理する制作進行の担当者について、労使協定で定められた上限を超える違法な時間外労働と割増し賃金の未払いがあったというものだった。
 
これまでも、アニメーターの労働環境について過酷だという指摘がされていた。ここにきて、多くのヒット作を世に出してきたマッドハウスの労働問題が浮上したことから、インターネット上では、「日本のアニメ業界やばい」という声が再燃している。はたして、問題の本質をどう捉えるべきなのだろうか。
 
コンテンツ産業にくわしい国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)客員研究員の境真良氏は「アニメ市場は好況にあるが、現場の負担を減らす仕組みを整えないと、品質劣化でブーム崩壊につながる恐れもある」と話す。境氏に語ってもらった。
 
●アニメーターは労働集約性が高い
今年のNHK朝ドラ「なつぞら」にも取り上げられているアニメーターですが、日本のアニメの国際競争力に注目が集まる一方で、その労働環境については長年、懸念されてきました。
 
アニメの制作工程を一言で説明するのは困難ですが、ザックリ言うと、私たちが目にする動画は無数の静止画の連続表示で作られていて、その静止画を描いているのが、アニメーター(原画、動画担当全般)です。
 
アナログ時代には、一度描いた絵を部品的に使い回したり、目で見て問題ない程度まで静止画の量を省いたりして、省力化を図ってきました。制作工程がデジタル化され、静止画の自動生成技術を補完的に用いるなどして、省力化がさらにすすめられてきました。
 
それでもこの部分に大きな労働集約性(人間の手による仕事が多いこと)がみられることは事実です。ですから、アニメ産業の中で人数的に多数を占めるのは、アニメーターということになります。
 
●アニメ産業は景気がいい時期にある
たしかに、アニメーターは、「給料が安い」とか「生活が不安定」とか「拘束時間が長い」とかいう話が語られてきました。
 
これについて一つずつ考えてみましょう。
 
昨年、文化庁メディア芸術連携促進事業として、大日本印刷(DNP)と日本アニメーター・演出協会(JAniCA)が、「アニメーター実態調査2019」(2019年調査)を実施しました。
 
(参考)調査概要の報告(JAniCA)
 
2019年調査によると、まず、「給料が安い」については、アニメ産業の全体値ではありますが、35歳以上に限ってみれば、全産業平均値を超える収入があります。そういう意味では、「給料が安い」とまでは(基準次第ながら)いえません。
 
ただ、その原因ですが、アニメ産業全体の成長が現在、極めて順調だという理由によります。
 
日本動画協会が2017年におこなった調査「アニメ産業レポート2018」によれば、関連したライブなども含む広義のアニメ産業市場全体でみれば、2009年からずっと市場は成長基調にあります。特に、2014年からは海外事業が大きく成長するかたちでこれを押し上げています。つまり、こうした産業全体の成長による底上げがあっての現状だということです。
 
つまりは、現時点でアニメーターは「給料が安い」は、幸いにして正しくないようです(一部例外がありますが、それについては後ほど触れます)。しかし、それは今がアニメ産業にとって景気がいい時期だから、ということが言えると思います。
 
●業務委託ではたらく人が多い
ここで、収入の額だけでなく、「生活が不安定」「拘束時間が長い」という働き方の部分について、雇用形態から説明してみたいと思います。
 
一般に、雇用形態と聞くと、企業と雇用契約を結んで一定時間、一定の場所で、一定の範囲で企業の指示に従って労働する、というものを考えます。
 
この点においては、コンビニでアルバイトする人も、銀行員も同じです。しかし、アニメ産業の場合、そうではない人が少なくありません。それが業務委託契約に基づく請負業(業務委託)です。
 
2019年調査によると、就業場所は約68%が制作会社なのに、契約形態でみると企業の役職員(役員、正社員、バイト・パート含む)になっている人は約23%に過ぎず、約50%がフリーランス、約19%が自営業となっています。
 
企業の役職員は、当然その企業で就業していると仮定すると、全体の約45%はフリーランスまたは自営業であるにもかかわらず、制作会社に行って仕事をしているわけです。
 
●業務委託と雇用契約とのちがい
ある人がフリーランスや自営業として業務委託で働くか、役職員として雇用契約によって働くかで立場はどう変わるのか、あるいは企業側はどうちがうのかというと、大きく3つあげることができます。
 
まず、雇用契約で働く場合に受けられる社会保険は、業務委託だとありません。一番問題になる健康保険については、JAniCAを通じて文芸美術国民健康保険に加入することができます。加入しなくても、地域での国民健康保険がありますので、問題はありませんが、雇用保険はありません。
 
次に、収入の額ですが、職員であれば適用される最低賃金制度の適用が業務委託にはありません。これについては後で説明します。
 
最後に、これが本質的なところでしょうが、役職員であれば作品制作や業務がないときでも、往々にして、時間拘束と引き換えに一定の収入が発生しますが、業務委託は作品や各話毎の担当する一定の仕事が終わればそれで収入が入るあてがなくなり、次の仕事が決まるまで収入の保証はありません。アニメーターについて言われる「生活が不安定」というのは、ここのことだと思います。
 
このちがいは、企業側にとっては逆になります。
 
つまり、制作業務のためにスタッフを確保しても、雇用契約によれば負うことになる社会保険の企業負担部分を負担しなくてよいことになり、支払額も最低賃金制度の適用を免れ、さらに仕事がなければそのスタッフをリリースすればいいだけで、社員を食べさせるために仕事を探さなきゃと必死になる必要はない、ということになるのです。
 
●業務委託が広がっているわけ
なぜこういうことになったのかというと、「作品市場」と「労働市場」の相関です。「作品市場」というのは私の造語ですが、「作品の需給関係」と考えてください。
 
アニメ産業が成長しているときには、「作品市場」は作れば儲かる需要過多な状況ですから、労働市場は需要過多となり、スタッフを安定的に確保すべく、雇用型の形態が主流となります。
 
しかし、いったんアニメブームが過ぎて仕事がなくなると、スタッフの確保は企業にとって負担になりますので、スタッフには社員ではなくフリーランス、あるいは自営業になってもらい、アニメ制作のプロジェクトが立ち上がれば、そのとき招集されて仕事をする、という形態が合理的になります。
 
これはアニメを映画と読み替えれば、日本の映画産業で先行して起きていた動きと同じですから、その影響もあったのかもしれません。
 
一度こういう流れになると、「作品市場」の業況後退の波をスタッフは個人としてもろにかぶることになります。制作企業側の品格によっては、その不安定さだけでなく、支払額を最低賃金より低く絞り込んでくることも、契約以上の要求をしてくることもあるでしょう。
 
日本のアニメ産業は幾度かブームを経験して、そのたびに、ブーム後の冷え込みを経験しています。アニメーターの労働環境にかかる問題は、その波の中で次第に形成されてきたものと言えます。
 
●海外市場が収益源となってきている
ところが今、そこに1つの波が来ているように思います。最大の変化は、海外市場が収益源になってきたことです。
 
日本のアニメ作品そのものは、1960年代から海外に輸出され、人気作品も早くから出ていました。しかし、その多くがかなり安い価格で取引されており、文化的評価もけして高くなかった。ジブリ作品が米国アカデミー賞長編アニメ部門の最優秀作品賞をとるような高い評価を表立って与えられるようになったのは、日本のアニメで育った世代が社会の中心に食い込んできた1990年代以降のものです。
 
それ以降も日本のアニメの人気は根強く、すでに触れたように2014年以降の大きな成長の結果、海外事業収益は市場全体の半分近くにまで迫ってきています。これまでの日本アニメ産業は、メディアが、映画、テレビ放送、DVDと変遷・多様化しても、結局は日本のファンの財布、つまり日本経済の総規模の一定量が成長の限界となっていました。
 
しかし、海外市場はこれと異なり、一度収益のチャンネルができれば、大きな成長が期待できる領域です。しかも、海外では日本のような全方位的なメディアミックス型のビジネス展開ができているわけではないので、これはアニメ作品そのものの収益増とみてよい数値でしょう。
 
これを支えるのが、NetflixやAmazonといったネット配信業者による主力商品としているような、日本製アニメへの高評価です。こうしたメディアの追い風は海外で日本のアニメの人気を再生産していきますし、さらに、海外での好評価は国内市場の再評価・再拡大にもつながっています。今のスタッフの収入状況は、これらが相乗効果的にアニメ産業の好調に結びついた結果と言えると思います。
 
●現場は「労働力過少状態」にある
しかし、好事魔多しと言いますか、好調なときほど、次の問題が潜んでいるともいえるのではないでしょうか。
 
ここまで説明してきた通り、アニメ産業の労働環境はさまざまな問題を孕んではいますが、「作品市場」の拡大で大きく改善されてきた。つまり、アニメ産業全体としての業況維持こそが、労働環境改善のカギです。
 
ですが、日本アニメ産業は幾度ものブーム崩壊を経験しています。もちろんエンターテインメントですから、「飽き」というのはあるものですが、多くの場合「飽き」の引き金になるのは過剰生産、そして品質劣化です。品質劣化の象徴が「作画崩壊」などにみられる見た目の劣化なのですが、「粗製濫造」という言葉があるように、その背後にあるのは、やはり過剰生産、そして事業計画・計画進行の軽視などによる制作現場の混乱や疲弊です。
 
マッドハウスのケースからも、今のアニメ産業の現場は労働力過少状態にあり、現場に大きな負担を強いている現状がうかがえます。とはいえ、熟練スタッフの供給がすぐ増えるわけではありません。人手があればいいだろうとばかりに、技能が未熟な人材を動員したり、他作品に専念中のスタッフを突然かき集めたりしても、いい結果につながるわけはありません。
 
クリエイティブの現場は、工場のように整然としたものではありえません。それゆえ、「拘束時間が長い」というのも肯けますし、そもそも生活と仕事の区別がつきにくく、非効率な過程も中にはあることを認めざるをえません。しかし、それらを呑み込める潤沢な時間的余裕を生むためにも、十分な人的資源が重要なのです。
 
●他の産業に人材流出させないためにも
さらに、2019年調査で気になるのは、この好況下にあっても、20代までの経験が浅い人材の収入は、産業全体の収入と比べて大きく見劣りするということです。
 
アニメの品質維持を長期に見込めば、人材のエコシステムは最大の重要事です。そのためには、有意な技能者が適切に経験を積み、あるいは選別されて、優れた技能者として成長していく仕組みである必要があります。
 
その最初のステージで収入が過少であるという理由で、たとえば地方出身で東京に移住したら生活が成り立たないとか、生活を維持するには実家の支援が必要だがそれば望めないとかで、将来の日本アニメ産業を支える存在になるかもしれない人材が、ほかの産業に流れてしまうことになれば、日本アニメ産業、あるいは日本文化における大きな損失です。
 
この点では最低賃金制度の問題も気になります。そもそも、賃金は労働市場で決まるべきものなのですが、一般的に雇用する側のほうが労働者よりも立場が強いため、雇用者が過度に賃金を絞る可能性が想定されています。これを防止するために、あえて設けられたのが最低賃金制度です。
 
ですから、単純に契約形態だけでみる限り、フリーランスや自営業への支払額は、法律上の「賃金」ではないので、この制度の対象外ではあります。この点について、だからアニメ制作企業が雇用契約に移行すべきだという意見もあるでしょう。
 
しかし、私は、契約上は業務委託型が維持されても全然かまわないと思うのです。ただし、もし賃金水準が問題なのであれば、その業務形態が実質的に短期雇用とみなしうるものについては、最低賃金制度の射程に入るとして、規制の運用をしていく。このほうが、「作品市場」の動向による作品数の増減も想定される中での制作企業と制作スタッフの間の負担バランスのとり方としては、より妥当だと思います。
 
ただ、それを言うなら、本来、業務委託型、あるいはフリーランスや自営業の制作スタッフは、その仕事の不安定さゆえに、雇用型のスタッフより高い報酬を得ていいわけです。そういう意味では、業務委託型が大きな部分を占めるのであれば、今は雇用型が多い他産業と同じかやや上回るレベルである制作スタッフ人材の収入も統計的にもっと伸びていいようにも思います。
 
●「人材の質量両面における充実に尽きる」
現状をみる限り、日本アニメ産業の最大の重要事は、海外市場をいかに強く、安定的な収益源にするかというところにあります。
 
本論と外れますので、ここではその手法論について触れませんが、いずれにせよ、その核心は品質の維持、つまり常に世界中のファンを飽きさせない名作を生みつづけることにあります。そのために一番重要なのは、人材の質量両面における充実に尽きます。
 
ここで説明した重点や問題点は、解決法に異論はあろうと思いますが、アニメ産業にたずさわる方々にとってわかりきっていることだと思います。今、国の関係機関もそれぞれの問題意識でアニメ産業に向かい合っており、マッドハウスの事案に見るように、それぞれが問題点の指摘や問題改善の支援に乗り出しています。
 
ただし、アニメ産業にはアニメ産業に特徴的な事情もあり、これまであまりアニメ産業に関わりがなかった、あるいは表面的な関わり方だった機関にとって、対応の仕方には他産業へのそれとは異なる工夫が必要でしょう。
 
労働環境をみる厚労省や公正取引委員会、アニメが世界で売れることを支持する経産省、総務省、そしてさらなる名作の誕生に向けて支援する文化庁などには、それぞれの視点や問題意識は大切にしながら、あくまで、それぞれの関与が総合的に作用することでアニメ業界の課題解決をどう後押しできるかという視座に立って、アニメ産業に向き合っていただければと思います。
 
  • トラックバック (0)
  • 閲覧 (87)
コンテンツ
サイドメニュー1
サイドメニュー2

> ご入会申込フォーム

> わかもの労働相談

訪問者記録
今日 : 262
今月 : 17516
総計 : 2625656

ページトップ