情報資料室 - 父・夫・部長、全部やらなきゃ… 心病むイクメン増加中

父・夫・部長、全部やらなきゃ… 心病むイクメン増加中

2017/9/4 10:07

30代の男性は、徐々に飲まない期間を延ばしてはいるが、精神安定剤を今も持ち歩いている=名古屋市(画像省略) 

男性の育児参加が進むなか、疲弊する「イクメン」が増加中だ。「パタニティーブルー」と呼ばれ、母親が出産後などに情緒不安定になる「マタニティーブルー」のパパ版と言われるが、母親はホルモンバランスの変化も関係しているのに対し、父親は環境変化などの影響が大きい。女性とはまた違った苦しみがあるようだ。

パパも育児ストレス どうすれば?専門家に聞く

「なんか、おかしいな」

 名古屋市の30代の男性は昨夏、自身の異変に気づき始めた。大きな音が耳に付くようになり、吐き気が止まらない。寝られない夜も増えていた。このころ、次女が誕生し、人材サービスの仕事では部長に昇進したばかり。公私ともに順風満帆のはずだった。

 1歳上の長女が生まれた時から、育児には積極的だった。家事、食事、おむつ交換、子どもと2人での外出など、一通り何でもできる自信がある。当時は課長職。午後6時には帰宅し、寝かしつけなども手伝った。同年代の妻は仕事をバリバリこなして給料も自分と同じだけ稼ぎ、対等な夫婦関係を求めた。家事・育児の分担も平等と決め、実際にそうしていた。

 だが、2人目が生まれて状況は一変した。部長になって四つの課を束ねるようになり、責任が一気に増した。目の前の成果に加え、中長期的な戦略や人材育成まで、考えることは尽きない。会社は育児に理解があったが、「自分がいないと会社が止まる」と、強いプレッシャーを感じた。

 帰宅は午後10時が普通になり、妻には「全然手伝えなくて、ごめん」と頭を下げ続けた。申し訳なさから、息抜きだった飲みに行くこともやめ、家事・育児に時間を割いた。

 妻も、2人の育児でいっぱいいっぱい。1人目のときの「実績」から、男性への期待値も上がっていたのかもしれない。ささいな会話でけんかが増え、「離婚」という言葉も飛び交うように。体が徐々にSOSを発するようになったのはこのころだ。「父、夫、部長と役割が増えてきて、全部やりきらなきゃと思うほど、本来の自分を押し潰し、ないがしろにさせざるを得なかった。自分をいたわる時間が全くなくて、ついに体が悲鳴を上げた」

 病院で告げられた病名は、うつ病。軽めの薬をもらい、症状が出そうになると飲んで落ち着かせる。妻は初め、薬を飲むことを嫌がったという。「薬を飲んでまで頑張る必要あるの?」と何度も言われたが、頑張らない選択肢なんてなかった。「仕事も家庭も壊したくないけど、自分も壊れるわけにはいかない。だから薬で落ち着かせている」。妻には、仕事でうまくいった話や薬を飲まずに済んだ日を伝え、安心させるようにしている。

 仕事を投げ出し、毎晩飲み歩けたらどんなに楽だろう。でも、それはできない。「キャパオーバーでも逃げ場がない。そんな状態なんです」

 独身だった10年前にも、うつ気味になったことがある。営業で全く成績が出せず、虚無感と無能感に襲われた。でも、その時は飲みに行くことで息抜きをし、「そんな頑張らなくていいから、とりあえず会社に来るのを目指そう」と言ってくれる上司がいて、救われた。逃げ場があった。「労働時間の問題より、役割や責任という精神面の負担の方が大きい。自分ひとりで抱え込まなくていいと思える職場環境が大事かもしれない」。

 頑張りすぎない。意外と周りに甘えても大丈夫――。そう思えるようになって体調が戻りつつある。妻とも会話の時間を増やし、互いに「自分時間」を確保できるようにしている。

■「男が大黒柱」の考えで板挟みに

 京都市の弁護士、渡辺輝人さん(39)は妻と4歳、2歳の子どもと4人家族だ。妻も専門職で、家事・育児はなるべく2人で分担している。渡辺さんは朝の保育園への送りと、帰宅後のお風呂や寝かしつけを担当。妻は残業のない勤務に制限し、帰宅後は2人の相手をしながら夕飯を用意する。渡辺さんが帰る頃にはヘトヘトになっている。

 「自分は仕事人間で、家事・育児は喜んでやっているわけではない。でも完璧主義なのか、家事・育児でも手は抜けない」。日曜はなるべく休んで、妻を助ける。

 体調に異変が現れ出したのは4年前の冬のこと。何十件もの案件を同時に抱えながら、原発訴訟や集団訴訟の事務局長などを務め、多忙な時期だったが、「妻の方が引き受けていることが多いので、家事・育児の割合を減らそうとは思えなかった」。仕事がどうしても終わらない。でも、育児の時間も確保しなければ――。仕事と家庭の板挟みで、両面からプレッシャーを感じた。気分が落ち込み、怒りっぽくなった。そして、とにかく眠れなかった。

 労働事件を多く扱っている。半年ほど経ち、過労自殺の事件を担当していた時、「兆候が似ている」と病院へ駆け込んだ。うつ病という診断には至らなかったが、不眠症の薬を処方された。「事件が自分の写し鏡になって、体の訴えを理解できたのがましだった。もう一歩進めば、うつ病になっていたと思う」

 渡辺さんによると、過労自殺は働き過ぎだけでなく、業務での責任過多、上司のハラスメント、家事・育児の責任など、プラスアルファのストレスが複雑に絡み合っているケースが多いという。

 渡辺さんの場合、母の死も追い打ちをかけた。よく育児を手伝いに来てくれていた母。亡くなった悲しみと、子どものことを気軽に頼める人がいなくなり、追い詰められた。

 不眠は今も続くが、ほかの症状は落ち着いてきた。仕事のやり方を見直したからだ。大きな案件は必ず手を挙げていたが、後輩に譲るようになった。職場の人にも不眠で薬を飲んでいることを伝え、仕事の取り方も考えるように。子どもが成長して、手がかからなくなってきたことも大きい。

 なぜ男たちは板挟みになるのか。「男も家事・育児をするべきだという風潮が強まっている。一方で、男が大黒柱という考えは根強く、女性も稼ぎを求める傾向がある。ここが苦しさの原因では」。渡辺さんはそう分析する。(植松佳香)
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