情報資料室 - ずさんデータ、政府使い回し 「働き方改革」の対立激化

ずさんデータ、政府使い回し 「働き方改革」の対立激化

2018/2/20 21:20
 ずさんデータ、政府使い回し 「働き方改革」の対立激化


写真・図版(省略)

不適切なデータに基づく答弁が繰り返されてきた

働き方改革関連法案をめぐる与野党の対立が激化している。安倍晋三首相が撤回した「裁量労働制」についての答弁の根拠が19日、厚生労働省から国会に報告され、政府が3年近く前からずさんなデータを使い回していたことが浮き彫りになった。加藤勝信厚生労働相はデータの扱いを「不適切だった」と謝罪したものの野党は攻勢を強め、最重要法案の雲行きが怪しくなってきた。

 「答弁の撤回で大変ご迷惑をおかけしています。深くおわび申し上げます」

 厚労省労働基準局の土屋喜久審議官は19日、省内で記者会見を開き、裁量労働制に関するデータの利用が不適切だったことを認めて陳謝した。一方で、「意図的に数字を作ったものではないと考えている」と強調し、データの捏造(ねつぞう)については強く否定した。

 問題のデータが国会答弁に使われたのは、実は初めてではない。

 2015年7月の衆院厚労委員会。野党議員から「裁量労働は長時間労働になりがちだ」と指摘された塩崎恭久厚労相(当時)は「むしろ一般労働者の方が平均でいくと長い」と答弁した。17年2月の衆院予算委でも、裁量労働制で働く人の労働時間が「一般労働者より短いデータもございます」と答弁している。いずれも今回と同じデータを根拠にした答弁だった。

 厚労省の説明によると、問題のデータが初めて対外的に示されたのは15年3月。旧民主党が開いた厚生労働部会の場だった。当時も、安倍政権が裁量労働制の対象拡大を盛り込んだ労働基準法改正案を国会に提出する直前の時期だった。

 旧民主党は当時、裁量労働制が「長時間労働を助長する」と批判し、裁量労働制で働く人の労働時間が一般労働者より長いかに関心を持っていた。「その議論を踏まえて、私どもで判断して(初めてデータを)出した」(土屋氏)という。

 厚労省は当時、一般労働者については残業時間のデータしか持ち合わせていなかった。手元にあるデータの中で可能な限り比較をしようと、当時の担当者が法定労働時間(8時間)と残業時間足し合わせる加工を施して「労働時間」を算出した。この数字は上司の課長と局長が決済したうえで部会に示されたという。土屋氏、当時の担当者は比較可能なデータと思っていたと釈明した。

 この時示されたデータは裁量労働制の方が労働時間が短いことだけを示すものではなかった。むしろ1日の平均労働時間が12時間を超える働き手の割合が、裁量労働制で働く人の方が一般労働者より多いことを強調する内容だった。土屋氏は「(労働時間の長さの)比較を意識した資料ではなかった」とも話した。

 15年に国会に提出された労基法改正案は2年以上たなざらしされ、昨年廃案になった。このため、問題のデータが大きな注目を集めることはなかった。

 安倍首相が「働き方改革国会」と名づけた今国会で自ら答弁に使ったことでにわかに注目され、データへの疑義も強まった形。答弁自体は目新しいものではなく、野党の批判に反論する答弁で不適切な利用が繰り返された。(千葉卓朗、贄川俊)

 「調査がおかしいと知っていたではないか。どうして答えなかったのか。隠蔽(いんぺい)していたのか」。19日の衆院予算委員会。衆院野党会派「無所属の会」の黒岩宇洋氏はこう訴えた。

 批判の矛先は加藤勝信厚労相。首相答弁のデータに不備があることを認識していたにもかかわらず、撤回するまでの対応を問題視し、政府の対応のまずさを追及したのだ。

 裁量労働制の労働時間は一般労働者より短いというデータもある、と首相が答弁したのが1月29日だった。2月19日にあった衆院予算委での加藤氏の説明によると、厚労省の担当局長が問題を把握したのは4日後の2月2日。さらに省内で加藤氏に報告があがったのは7日で、加藤氏が首相官邸に伝えたのは14日朝。そして同日午前、首相は答弁を撤回し、おわびした。最初の答弁から2週間以上過ぎている。

 加藤氏は19日の衆院予算委で、「隠匿しているわけではない」と理解を求めたが、野党側は強く反発した。審議は中断し、同日夕には無所属の会や立憲民主党、希望の党が退席し、審議をボイコットした。

 さらに野党は安倍政権の「自責点」をきっかけに攻勢を強める。

 データの問題を認識してからも国会で「精査している」と答弁していた加藤氏について、衆院予算委の野党筆頭理事を務める立憲の逢坂誠二氏は「なぜ虚偽答弁をしたのか明らかにしてほしい」と訴えた。野党6党の国会対策委員長は今国会への法案提出をとりやめるよう政府に求める方針で一致。立憲の辻元清美国会対策委員長は「根幹のデータがごまかしであったら、この法案は没だ」と述べた。

 これに対し、菅義偉官房長官は19日の記者会見で今国会で成立させる方針に変更はないことを強調した。自民党国対幹部は審議拒否に踏み込んだ野党を「(欠席する)タイミングを間違っている。隠蔽(いんぺい)とか虚偽答弁とか言うのもいい加減にしろ、という話だ」と批判した。

 そもそも、なぜ首相が不適切なデータを元に答弁したのかも問われ続けている。20日には衆院予算委には首相が出席した集中審議が予定されている。野党は19日、政府・与党側に首相答弁の撤回に至る経緯を改めて20日朝の予算委理事会で説明するよう要求。内容次第で審議復帰するか判断する構えを示した。

 政権幹部は19日、「塩崎厚労相時代の答弁をそのまま厚労省が官邸に持ってきた」と明かし、あくまでも厚労省側のミスだとの立場を強調。集中審議を前に、今回のデータ問題と首相の責任を切り離したい考えをにじませた。ただ同日、国会内であった政府・与党連絡協議会では、公明党の井上義久幹事長が政府の対応にこうクギを刺した。「答弁の中身は政府が責任を持ってやるべきことだ。緊張感を持って対応してほしい」(山岸一生、岡村夏樹、別宮潤一)
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