情報資料室 - 産婦人科医の過労自殺、行政訴訟で労災認定◆Vol.1 (9/24)

産婦人科医の過労自殺、行政訴訟で労災認定◆Vol.1 (9/24)

2019/9/24 21:10

産婦人科医の過労自殺、行政訴訟で労災認定◆Vol.1
https://www.m3.com/open/iryoIshin/article/697197/?category=report
2019年5月広島地裁判決で原告勝訴、国は控訴せず
2019年9月24日 橋本佳子(m3.com編集長)

 広島地裁(高島義行裁判長)は5月29日、中国地方の僻地にある約300床の病院に勤務していた、50代の男性産婦人科医が2009年に自殺したのは、労災であると認定し、労災を認めなかった国の決定を取り消した。医師の妻が2011年に労災申請をしたが、不支給とされ、その後、審査請求が棄却、再審査請求も難しいと判断し、2013年11月に行政訴訟を提起していた。国は控訴せず、広島地裁判決は確定した。
行政訴訟の代理人を務めた弁護士の岩城穣氏に、裁判の経緯、行政訴訟で勝訴したポイントのほか、最近の過労死の労災認定等をめぐる動向などについてお聞きした(2019年8月5日にインタビュー。全5回の連載)。

 Vol.1では、岩城氏がまとめた「事案の概要」等と、計105ページに上る広島地裁判決の中から「まとめ」部分の抜粋を紹介する。

岩城穣弁護士のまとめ
◆事案の概要
・被災者は、医師として約25年の経験を有する50代の男性産婦人科医。
・死亡する約10年前から僻地にある産婦人科医が2人しかいない病床数約300床程度の総合病院で、産婦人科部長を務めていた。
・未明に病院内にある医師住宅のガレージにて縊死したもの。

◆これまでの経過
2011年(平成23年)3月 労災申請
2012年(平成24年)5月 不支給決定
2012年(平成24年)6月 審査請求
2012年(平成24年)10月 棄却決定
2012年(平成24年)11月 再審査請求
2013年(平成25年)11月 提訴
2013年(平成25年)12月 棄却決定

◆産婦人科医の労働環境
・約10年前から僻地にある産婦人科医が2人しかいない病床数約300床程度の総合病院で、産婦人科部長を務めていた。
・本来であれば産婦人科には少なくとも3人の常勤医が必要である。産婦人科における手術には少なくとも2人の産婦人科医が必要であり、産婦人科の常勤医が2人しかいないということは、もし、緊急に手術が必要になった場合には2人ともが病院に駆けつける必要が生じるということである。そのため、医師は、毎日のように待機を余儀なくされる。常勤医が3人いる状態とでは、医師の負担は全く異なる。しかしながら、当該病院では、全国的な傾向としての産婦人科医の不足、特に地方、さらには僻地における産婦人科医の不足の影響で、2人しか配置することができない状況であった。関連病院への医師派遣の人事権を握っている教授自身が法廷に証人として出廷し、その過酷さについて証言している。
・同地区で産婦人科と小児科を揃えた医療機関は当該病院のみであり、周辺地区からも広く患者を受け入れていた。産婦人科の医師1人当たりの分娩・開腹手術件数は年間約200件であった。なお、一般に1人の産婦人科医が扱う適切な分娩数というのは、年間約100人とされている。
・当該病院で緊急事態が発生した場合、近隣の大都市にある基幹病院まで搬送することになるが、その場合、救急車でも1時間以上を要する。そのため、搬送を判断するに際しては、通常の場合と比較して少しでも早く判断する必要がある。そのような環境下で医療に従事することは大きなストレスが伴う。
・また、当該病院には、新生児集中治療室(NICU)がなく、新生児に問題があれば、直ちに対応し、早期にNICUのある基幹病院への搬送を判断する必要がある。
・当該病院には麻酔科がなかった。産婦人科における手術には、少なくとも2人の産婦人科医が必要であるほか、1人の麻酔医が必要であるが、当該病院には麻酔科がないため、麻酔科の協力を得ることができず、産婦人科の医師が麻酔も担当する必要があった。そのため、手術時の心理的な負担は、麻酔科がある場合と比較して、著しく大きかった。
・当該病院では、夜間および休日は当番制が敷かれており、緊急事態が生じた場合には、原則として、当番医が対応することになっていた。被災者は、週に2回から3回の頻度で当番に当たっていた。
・当番日は自宅待機が基本必要となり、自由に行動することはできない。また、当番日以外の夜間・休日も、緊急手術になれば常勤医師が2人しかおらず交代要員がいないため手術に入らなければならない。さらに、当番制とはいっても、当番医ではなく当該入院患者等の主治医に連絡が入ることが稀ではなく、深夜の時間帯だったとしても、電話で対応を指示したり、実際に病院に出むいたりしなければならなかった。
・被災者は産婦人科医であるとともに、産婦人科の部長であり、他の1人の産婦人科医のみならず、看護師その他の全ての医療関係スタッフを監督する立場であり、産婦人科で起こるあらゆる出来事の最終責任は産婦人科部長である被災者が負わなければならなかった。
・被災者は、産婦人科部長として、自身が主治医や当番医として関わった患者だけでなく、直接は携わっていない患者についても、分娩や手術の状況を常に把握し、管理していた。そのため、他の常勤医以上に、気の休まる暇がなく、常時、緊張を強いられていた。
・当番日のみを拘束時間とし、当番日以外の日は拘束時間から除外したとしても、被災者の拘束時間は以下の通り著しい長時間に及んでいた。
拘束時間
死亡前1月   338時間51分
死亡前2月   392時間20分
死亡前3月   408時間06分
死亡前4月   402時間01分
死亡前5月   431時間45分
死亡前6月   204時間52分
死亡前7月   432時間28分

・当該病院では、医師の労働時間が正確に管理されておらず、カルテも電子化されていないため、被災者の労働時間を客観的に裏付ける資料は乏しい。しかしながら、被災者が担当していた入院患者のカルテから被災者の勤務状況を再現し、それらを集計すると、被災者の時間外労働時間は、下記のように長時間に及ぶ。なお、この時間は、上述の通り入院患者のカルテのみから再現したものであり、これに加えて、被災者は、外来患者を担当するほか、小児科、内科、救急科などの他科から症例のうち女性に関する症状を訴える患者について応援を求められることも稀ではなく、実際の時間外労働時間はより長時間に及ぶ。
時間外労働時間
死亡前1月    83時間41分
死亡前2月    106時間25分
死亡前3月    79時間26分
死亡前4月    96時間13分
死亡前5月    122時間20分
死亡前6月    50時間25分
死亡前7月    93時間21分

広島地裁判決から「まとめ」部分の抜粋
ア 以上の通り、認定基準によれば、被災者について、全体評価は「強」と判断される。

イ また、認定基準を離れてみても、上記(2)カに認定説示したとおり、被災者の精神障害の発病に近接した時点に、相当期間の連続勤務や長時間労働、部下との明らかな対立等の一般に相当程度の心理的負荷をもたらすと思料される複数の事情が生じており、特に平成20年(2008年)12月末から 平成21年(2009年)1月末にかけて、被災者が相当程度の連続勤務を行い、これに符合して、その頃に被災者の心身の状態悪化が顕著になったとの相関関係を指摘することができる。その一方で、上記(3)に認定説示した通り、被災者が精神障害を発病した主要な要因として、業務以外の出来事による心理的負荷等を挙げることはできない。
その他、本件病院の産婦人科に勤務する常勤医師は2人のみであったところ、過去に勤務した医師の多くが、四六時中拘束されているとの感があったと述べていること(甲1の127、132頁、甲8)、上記3 (5)に認定した被災者作成の文書等においても、当番の負担感を含め、繰り返し同旨の指摘があること、本件病院を含む県内の病院に医師を派遣すべき立場にあるD教授が、常勤医師2人の態勢の場合、手術や分娩の際は両名とも関与を余儀なくされる可能性が高く、そのような常勤医師は、仮に当番に当たらない休日等であれ、緊急手術等の事態が生じて呼び出しを受ける場合に備えた行動を取らざるを得ず、常勤医師3人以上の場合とでは心の余裕が全く異なると述べていること(甲4、証人D) を考慮すると、被災者の業務と精神障害の間に相当因果関係を肯定して良いというべきである。

ウ したがって、被災者が発病した精神障害について、業務起因性を肯定するのが相当である。
 

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