情報資料室 - 業務時間外の「つながらない権利」は日本では浸透しない? 「希望者なし」の現実〈AERA〉 (12/24)

業務時間外の「つながらない権利」は日本では浸透しない? 「希望者なし」の現実〈AERA〉 (12/24)

2019/12/24 9:43

業務時間外の「つながらない権利」は日本では浸透しない? 「希望者なし」の現実〈AERA〉
https://dot.asahi.com/aera/2019122000007.html?page=1
2019/12/24(火) 8:00配信 AERA

〔写真〕イルグルム 加嶋美穂さん(34)/引き継ぎ書の作成は仕事の棚卸しになる。無駄な業務に気づき、仕事の属人化を防ぐ効果もある。写真は、「山ごもり休暇」で訪れたパリで(写真:本人提供)

 パソコンとスマホさえあればいつでもつながれる、つながってしまう時代。時にそれはプライベートな時間を侵食し、ストレスの原因になることも。フランスでは業務時間以外は「つながらない権利」を法制化しているが、そうした取り組みは日本ではあまり進んでいない。浸透させるにはどうしたらいいのか、AERA 2019年12月23日号で取材した。

*  *  *
パソコンやスマートフォンがあれば、いつでもどこでも仕事ができる時代だ。便利な半面、「休み」と「仕事」の境界線は曖昧になり、夜中でも休日でも、仕事の電話やメールが私生活に割り込んでくる。

 業務時間外のメールが多いほど睡眠の質の低下につながるという研究もある。独立行政法人「労働安全衛生総合研究所」の久保智英上席研究員らのグループが15年に、都内のIT企業で働く55人を対象に1カ月間、毎日連続して調査を行った。その結果、業務時間外のメールが多い日は、少ない日に比べ2倍近く睡眠中の覚醒時間が増えた。業務時間外でも仕事に心理的拘束を受けているのが原因という。

 業務連絡に常に「つながっている」ことは、心身にも影響がある。だが日本では、「つながらない」取り組みは進みづらい。

 ある大手メーカーは、希望者につながらない権利の申請を認めたが、「希望者がいない」(広報部)と打ち明ける。この会社では、勤務時間外や休日にメールを送った人に、「メールは削除されたので勤務時間内に送り直してほしい」などのメッセージが自動返信される機能を取り入れた。海外の親会社に合わせた措置だが、日本では、一方的に送り直しを求めるのは失礼だと、利用しないようだという。

 労働法が専門の青山学院大学の細川良教授(法学部)は、日本で浸透させるには、法律化で一律に決めるより、各企業が社員の働き方に合わせて考えるほうが実効性は高いと話す。

「その際に大切なのは、単につながらない状態にすればいいというのではないこと。顧客や取引先の理解を得ることも必要。また、つながっていない時に仕事のことが気になったり、休み明けに大量の仕事を処理することになれば本末転倒。つながらない状態をつくり、かつ仕事も回るようにするためのマネジメントに上層部が取り組まなければいけない」

「義務化」によって、つながらない権利を実現したのは、大阪市に本社があるソフトウェア開発の「イルグルム」。11年、年に1度、土日を含む9日間の連続休暇の取得を、役員を含む全社員の義務にし、その間は一切、メールや電話などでの仕事関係の連絡は禁止とした。名づけて「山ごもり休暇」だ。人事部の廣遥馬(ひろ・ようま)さん(26)は言う。

「労働環境の整備は会社にとって重要な課題。しかし、制度をつくっても運用されないと意味がない。そこで強制的に、心置きなく休んでもらうことにした。義務化は、会社としての本気度の表明です」

 取得率はスタート当初から100%。約120人いる全社員が、現在も利用している。成功のカギは、徹底した「引き継ぎ」だ。社内には独自の「業務引き継ぎ書」があり、提出しなければ休めないことになっている。

 携わっているプロジェクト、懸案事項、緊急連絡先、エラーが起きた際の対応手順……。こうしたことをすべて書き込み、「山ごもり」前に社内ネットで共有する。結果として、誰が休んでも円滑に業務が進む柔軟な組織を作り上げた。

 同社プロモーション部長の加嶋美穂さん(34)は笑顔で言う。

「休み中は、仕事の連絡は絶対に来ないとわかっているので、心からリフレッシュでき、気持ちを切り替えまた1年頑張ろうと思えます」

 08年の入社。制度スタート時は、「みんな忙しいのに休むと迷惑をかける」と抵抗感があったが、いざ休んでも何の支障もなかった。例年6月に山ごもり休暇を取得し、これまでニューヨーク、バリ、香港などで休暇を楽しんだ。今年は同僚と2人でフランス、ポルトガルなどヨーロッパ4カ国を巡った。

「普段は上司が行う業務を、上司が『山ごもり』中は部下が行うことになるので、部下の成長を促す結果にもなっています」(加嶋さん)

 同社によると、山ごもり休暇で休みを取りやすい職場環境も生まれた。有給休暇の取得率は「山ごもり」導入前には2割程度だったが、18年は約7割に。男性社員の育児休業の取得率も上がっているという。

 今から来年の「山ごもり」が待ち遠しいと話す加嶋さん。今度はどこへ?

「ハワイかな。リゾートが大好きなので(笑)」

(編集部・野村昌二)

※AERA 2019年12月23日号より抜粋

【関連記事】
□“気持ちが休まる暇がない” つながらない権利を!(11/28) http://hatarakikata.net/modules/data/details.php?bid=2445

□ 産業疲労研究会 第89回定例研究会
日時 :2018年12月8日(土)13時から17時
場所 :大原記念労働科学研究所 【JR 中央線・総武線 千駄ヶ谷駅より徒歩6分】
http://www.isl.or.jp/information/guidemap.html
(東京都渋谷区千駄ヶ谷1-1-12 桜美林大学内3F)

○シンポジウム「フレキシブルな時間と場所で働けることの是非
­つながらない権利について考える」(15時から17時まで)
http://square.umin.ac.jp/of/program89.pdf

「フランスにおける『つながらない権利』をめぐる動向と、労働時間法に投げかけられた課題について」

(独)労働政策研究・研修機構 労使関係部門 副主任研究員 細川 良

「つながらない権利(droit à la déconnexion)」という概念は、2002年にフランスの労働法学者Jean-Emmanuel Rayにより提起されたものであり、とりわけ近年の欧州において注目を集めている。フランスでは、2016年の「Loi Travail」と呼ばれる労働法改革の中で、「つながらない権利」を実現するための方策を労使が協議することが義務付けられた。この「つながらない権利」が注目を集める背景、およびその意義については、情報通信技術の発展が進む中で、労働者の健康、あるいはワーク・ライフ・バランスの実現を図ることにあると受け止められがちである。このような理解も誤りではないが、従来の長時間労働問題とその抑制策の文脈とは異なる新たな問題提起が存在することに留意すべきである。それは、第一に、情報通信技術の発展とあいまった働き方の「個別化」(労働者の「『個人事業主』化」)、第二に、労働時間概念における「場所的拘束」の意義の希薄化、そして第三に、労働の連続性と断続性や、労働密度の濃淡の変動を踏まえた上での、賃金支払の根拠としての「労働時間」概念と、健康管理のための「労働時間」概念の再構成である。これらの課題にどう対処していくかが、今後の労働時間法に向けられた課題である。

「労働者の疲労研究の視点から『つながらない権利』について考える」
産業ストレス研究グループ 上席研究員 久保智英

 2017年1月よりフランスにおいて、勤務時間外での電子メールや電話でのやり取りを規制する「つながらない権利」が施行された。同様の法案はニューヨーク市等の他国においても広がりをみせていることから、情報通信技術(以下、ICT)の発展による何時でも何処でも無制限に仕事に繋がれることへの対応を社会が求めていることの現れとして、この動向を見てとることができる。産業疲労研究では、これまで休息、休憩、休日といった活動(仕事)から離れる場において疲労は回復に向かうものだと考えられてきた。しかし、物理的に仕事から離れるだけではなく(つまり、退社)、心理的にも仕事から離れることが重要であること(Sonnentag et al. 2012)を考慮すれば、スマートフォンに代表されるICTは労働者から疲労回復の機会を阻害する方向で進化しているとも言えよう。とりわけ、就寝前における仕事関連のメールのやり取りは、使用するパソコンやスマートフォンから発せられるブルーライト等の光曝露や、メール内容によっては疲労回復に重要な睡眠の質を低下せしめることが指摘できる。一方、仕事と私生活の境界線を明確に保ちたい者に対して、仕事と私生活を一体化させて働きたい者も存在していることも確かである。先行研究でも、オフでの仕事関連のスマートフォン使用は、仕事と私生活の境界線に対する嗜好性(Segmentation preference)の違いで、私生活に異なる影響として現れることが示唆されている(Derks et al. 2016)。産業疲労研究の視点からICTによる勤務時間外での仕事を考える際、仕事と個人の特性を検討することと共に、過重労働に陥らないように、仕事量や労働負担の見える化が、この新しい労働衛生上の問題を検討するための1つのポイントになり得るだろう。当日は、関連する先行研究の紹介とともに演者の私見を展開することとする。

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