森岡孝二の連続エッセイ - 最新エントリー

4月27、8日の各紙は、学校法人関西大学(以下、法人または関大)が時間外労働をめぐる労働基準法違反で労働基準監督署に実態を申告した高槻ミューズキャンパス付属校中等部のK教諭を解雇した事件を一斉に報じています。

労基法は第104条で、事業場にこの法律に違反する事実がある場合、労働者は、その事実を労基署に申告(告発)することができる。使用者は、申告をしたことを理由として、「労働者に対して解雇その他不利益な取扱をしてはならない」と定めています。関大当局は、就業規則にある「その職に必要な適格性を欠くと認められるとき」という規定を解雇の理由にしていますが、何がこれに該当するのかは示していません。解雇された教諭も支援する組合も、何の根拠もない暴挙だと断言しています。そうである以上、今回の法人の処分は、労基法違反申告者に対する報復と弾圧を意図したあきれた不当解雇であると言わなければなりません。これは労基法が禁止する、申告したことを理由とする「解雇」にあたります。

また労基法によれば、使用者は労働者に1日8時間、1週間40時間を超えて労働させてはなりません。この法定労働時間を超えて時間外労働をさせる場合は、使用者は同法の36条にもとづいて、従業員の過半数を代表する労働組合またはそれに代わる者とのあいだで36協定と呼ばれる時間外・休日労働協定を結び、労基署に届け出る必要があります。

ところが、今年4月3日の「毎日新聞」によれば、関大は開校8年目の付属小中高校の教員について、36協定を結ばずに時間外労働をさせ、茨木労基署から昨年4月と今年3月に2度の是正勧告を受けていました。36協定を結ばずに時間外労働をさせることや、労働時間を把握せず賃金台帳に記載しないことは、疑う余地のない労基法違反です。そのうえ、時間外労働に対する賃金(残業代)の支払も行われていませんでした。違法な未払金額は2016 年度だけで9800 万円、時効が来ていない2015年度も含めると約2億円に上ります。にもかかわらず、法人は未払残業代として総額約3400万円の支払だけですませようとしています。 

ちなみに、昨年4月以降に法人が教員61人の残業時間をパソコンの使用時間を基に調査したところ、52人が法定の8時間を超えていました。最長で年間2042時間に達し、国が定める過労死ライン(月80時間以上の時間外労働)を大幅に超えていた教員もいました。 

このような明白な労基法違反を是認することができずに、労基署に申告した労働者が今回解雇されたK教諭でした。教諭は団体交渉で理事長に対して労基法を守るように強く求めましたが、受け入れられなかったために、やむを得ず申告に及んだものです。

私は、「大阪過労死問題連絡会」と「NPO法人働き方ASU-NET」の一員として、雇用・労働問題、とりわけ長時間労働と過労死問題に関心をもってきました。4年前に退職するまでは関西大学に勤めていました。今回の事件は、私が住む高槻市にある学舎で起きたという事情もあります。昨年は同学舎の高等部の生徒を対象に、厚生労働省が過労死防止の一環として取り組むワークルールの啓発授業も行いました。そこでは残業代を支払わない会社は「ブラック企業」と呼ばれてもいたしかたないという話もしました。 

こうした諸々の関わりからも、今回の関大の暴挙は見過ごすことはできません。ASU-NETでは、近くK教諭の解雇撤回闘争を支援し、合わせて全国の職場に蔓延する違法残業申告者に対する不利益取扱を告発する集会を開き、まともな働き方を実現するたたかいを広げていきたいと考えています。 

最後に参考までに27日に高槻ミューズキャンパス正門前で配布された「関西大学初等部・中等部・高等部教員組合」のビラを貼り付けておきます(名前はイニシャルにしています)。 


 

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裁量労働制の調査データをめぐって国会が揺れています

立憲民主党の長妻昭氏や希望の党の山井和則氏らの追及から、企画業務型裁量労働制の営業職への拡大案の検討のために政府・厚労省が示したデータが、比較できない数値を比較していたことが明らかになりました。

問題のデータでは、1日の労働時間は裁量制が9時間16分、一般が9時間37分となっています。これでは労働時間の規制が弱くサービス残業(賃銀不払残業)を誘発しやすい裁量労働制の労働者のほうが一般労働者より労働時間が短いことになります。この比較は、一般労働者については1ヶ月のうち「残業が最長の1週間」の数値、裁量制の人については通常の平均的な1週間の数値を元にしている点で、まったくでたらめです。

厚労省は2013年10月に同年4〜6月に同省が実施したこれとまったく同じ調査データを、「今後の労働時間法制のあり方」を検討する労働政策審議会(労働条件分科会)に提出していました。一方、厚労省の外郭シンクタンクである「労働政策研究・研修機構」(JILPT)が2013年11〜12月に実施した調査では、1ヶ月の労働時間は裁量労働制(194.4時間)のほうが一般労働者(186.7時間)より長いことが明らかになっています。

この間の国会論戦を通じて裁量労働制拡大の国会審議の前提となる根拠が崩れた以上、政府は裁量労働制の拡大案の再上程を断念すべきです。なお同案は高プロ制の創設案とともに2015年4月に国会上程されて、審議入りしないまま昨年9月の国会解散でいったん廃案になっています。

今回の裁量労働制をめぐる議論から上に述べたことのほかに見えてきたことがあります。その一つは責任の所在です。

2012年12月の総選挙で返り咲いた安倍首相は、2013年 1月に財界人を集めて「産業競争力会議」を設置し、厚労大臣も労働代表も労働分野の有識者も入っていないところで、労働時間制度の改革をアベノミクスの成長戦略の柱の一つに位置づけました。そのうえで同年6月に閣議決定した「日本再興戦略」において、企画業務型裁量労働制をはじめとする労働時間法制について、早急に実態把握のための調査・分析を実施し同年秋から労働政策審議会で検討を開始することを決めました。今回の国会論戦では誤ったデータを提出した厚労省の責任が問われていますが、上の経過から見て、裁量労働制の拡大をめぐるお粗末の責任が第一に問われるべきは安倍首相であると言わなければなりません。

いまひとつは政府・厚生労働省の労働時間政策のお粗末です。
厚労省の労働時間統計として知られているのは『毎月勤労統計調査』(「毎勤」)ですが、これは事業所の賃銀支払台帳に記載された労働時間を集計した企業調査であるために、サービス残業を含んでいません。早出・居残りを含む実労働時間を知るには、労働者調査である総務省『労働力調査』(「労調」)を利用する必要があります。「労調」と「毎勤」の労働時間の差から推定すると、労働者1人当たりで年間300間以上のサービス残業があることが知られています。

過重労働や過労死等に関する厚労省の最近の資料では、「毎勤」だけでなく「労調」も参照されるようになりました。しかし、労働行政のあり方からいうと、厚労省としても独自にサービス残業を含む実労働時間を調査するべきです。その場合、性別、フルタイム・パートタイムおよび正規・非正規の就業形態別、裁量労働制や管理監督者等の時間管理の類型別の集計が可能なるように調査票を設計することが望まれます。

専門業務型裁量労働制は1987年、企画業務型裁量労働制は1998年に導入されましたが、それぞれの実労働時間については今日まで調査らしい調査はほとんど行われていません。それだけに先の2013年調査はめずらしい調査といえます。しかし、それは企業調査にとどまり、労働者調査をしていない点で実労働時間が過小に把握されているという重大な欠陥があります。

ついでに言えば、日本には国際比較に耐えるフルタイム労働者の実労働時間の継続的な統計はありません。そのために、OECDやILOの国際統計では日本のフルタイム労働者の労働時間が主要先進国では例外的に欠けています。これも政府・厚労省が労働時間の調査を踏まえずに労働行政や労働時間改革を進めていることの証拠ともいえます。

2014年6月20日には全会一致の議員立法で過労死防止法が成立しました。ところがその4日後に政府は「日本再生戦略 改訂2014」を閣議決定し、労政審を通して裁量労働制の拡大と高プロ制の創設案を2015年の通常国会に上程したのです。過労死防止法は過労死等の実態の調査研究を国の責務としています。それにしたがえば、労働時間制度改革に当たっても調査研究を踏まえるべきですが、それもしないまま、泥縄式に裁量労働制の拡大案と高プロ制の創設案をまとめたのです。

毛沢東を持ち上げる気はさらさらありませんが、彼は「調査なくして発言権なし」という名言を残しています。これは今回の国会論議に当てはまれば「調査なくして審議なし」と言い換えることができます。以上、いろいろ述べてきましたが、要するに、政府は労働時間制度改革を性急に強行することなく調査研究の段階からやり直すべきです。


追記:2018年2月19日の衆議院予算委員会に厚生労働省労働基準局が提出した裁量労働制の労働時間に関する調査データの説明資料を以下に掲載しました。http://hatarakikata.net/modules/data/details.php?bid=2183

私の前掲の説明は、執筆時点で見ていなかったこの資料に照らすと一部不正確な点があります。詳しくは次回に書きます。


 

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「しんぶん赤旗「」 2018年2月18日

                  年の4割は休日、背景に闘う労組

日独の働き方を比較する上で欠かせない一書である。

著者は28年間ドイツで働いている。その前はNHK記者として8年間日本で働いていた。両国での体験に裏打ちされた考察であるだけに具体的で説得力に富む。

ドイツでは、1日10時間超えて働くことは法律で禁止されている。6ヵ月間の平均では1日8時間を超えてはならない。国による監督も罰則も日本よりはるかに厳しい。その結果、管理職でなければ残業はほとんどない。

またドイツでは、大半の労働者が年間30日の有給休暇を100%消化している。これに12日の祝日と土日を加えると、1年の4割、約150日は休んでいることになる。

ドイツには日本語の「頑張る」に当たる言葉がない。日本でいう「お客様は神様」の過剰なサービスもない。

にもかかわらず、ドイツの経済は好調で、労働者1人当たりの労働生産性は日本を5割近く上回っている。

片や日本の政府は、電通の高橋まつりさんの過労自殺事件が公表された頃から、声高に「時間外労働の上限規制」を言い始めた。しかし、1日や1週の上限はなく、特別な事情があれば月100時間未満の残業なら認めるという。甘すぎて過労死防止にもならない。労働組合でありながらこの案に合意した連合の姿勢もまた甘い。この背景にはストライキが増えるドイツと激減する日本の違いがある。この違いは脱原発を法制化したドイツと原発再稼働に走る日本との違いにも通じている。

この国で過労死をなくし、8時間働けば普通に暮らせる社会を実現するためにも、本書をお勧めする。

 

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第345回 書評 高橋幸美・川人博『過労死ゼロの社会を−−高橋まつりさんはなぜ亡くなったのか』連合出版

エコノミスト 2017年12月26日号

「電通過労死」の母が語る事件の真相と再発防止策

2016年10月7日、電通新入社員、高橋まつりさん(当時24歳)の過労死(自殺)が公表された。本書は彼女の母親の高橋幸美さんと代理人の川人博弁護士がこの事件についての発言と思いをまとめている。

過労死が現代日本の深刻な社会問題として知られるようになって30年近くたつが、今回ほど大きな衝撃を生んだ過労死事件はない。その理由は、川人氏が言うように、多くの人々が人ごとではないと感じる状況があるからにほかならない。

それだけではない。最初の「過労死防止白書」が発表された日に明らかになった電通事件には、過酷な長時間残業、労働時間の改ざん、サービス残業、パワハラ、弱い監督行政、労働組合の力不足など、日本の大企業における過労死問題のエッセンスが詰まっている。

電通では高橋まつりさんが生まれた1991年にも、若手社員の大嶋一郎さん(当時24歳)が、過労とストレスで自殺した事件があった。酒席で上司から靴にビールを注がれて飲まされるというパワハラもあったこの事件では、2000年3月24日に最高裁が使用者の労働者に対する健康配慮義務を怠った責任を問う判決を出している。

川人弁護士が代理人を務めたこの裁判では、「取り組んだら……殺されても放すな」という文言を含む電通「鬼十則」が問題になった。まつりさんの持っていた社員手帳にもこれと同じ訓示が載せられていた。削除されたのは17年版からである。

まつりさんは、入社6カ月後の15年10月から本採用になるや、「眠らせない拷問」のような残業が続くようになる。その頃から12月25日の死亡直前までのSNSには、上司から「君の残業時間の20時間は会社にとって無駄」とか「女子力がない」とか言われた記録が残っている。

すでにうつ病を発症していた11月初旬には、お母さんに大嶋事件の最高裁判決要旨をSNSで送り、「こうなりそう」と告げる。それにお母さんは「死ぬくらいなら辞めるべし!電通は激務ランキング一位だよ」と返事した。しかし幸せに生きてほしいという願いも空しく、会社に殺されたことに「がんばらない人生だったら良かったのに」と悔やむ。

本書には適正な人員配置、パワハラ根絶、健康経営などの過労死防止に関する改革提言がある。過重労働致死罪の立法化提案も目を引いた。「過労死ライン(月80時間)」の残業を認める「働き方改革」への批判など、本書は過労死ゼロの社会を願うすべての人々の必読の書である。
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 私の父は明治32年(1899年)9月生まれで、1991年10月に満92歳で亡くなりました。私は昭和19年(1944年)年3月生まれですから、父が44歳の時にこの世に生を享けたことになります。7人きょうだい(兄1人、姉5人)の末っ子で、一番上の姉とは19歳離れています。子どもの頃、家業の百姓仕事を手伝っていたときに、父に徴兵について質問し、「軍隊では塹壕を掘っていた」と聞いたことがありました。その記憶があって、70歳になって退職した2014年の6月に、もし父が戦死していたら、この世に私はいないという思いを込めて、下手な短歌を作りました。

百姓が塹壕堀りの兵となり病気除隊でわが父となる 

その後、父はいつ召集されたのか疑問になり、兄や姉たちに尋ねましたが、だれも分からないということでした。田舎の役場にも問い合わせてみましたが、手掛かりはありませんでした。

ところが、昨年の11月、実家に帰省した折りに兄から、偶然に見つかったという父の「軍隊手帳」をもらいました。その兵歴には次のように記されています。

大正8年(1919年)12月1日召集、歩兵として第72聯隊第9中隊へ入隊
大正9年(1920年)3月29日、第20師団に転属、門司港出発、30日釜山港上陸
同年4月1日 歩兵第77聯隊第11中隊に編入
同年8月25日、左湿性胸膜炎で入院
同年11月 除隊

召集されたのは20歳のときでした。当初の服役期間は大正8年12月から11年11月までの3年間でしたから、兵役に服すべき期間を2年残しての病気除隊だったようです。

子どものころ、父の母、つまり私の祖母から「父が朝鮮で病気になったので自分が迎えに行った」と聞きました。そのとき祖母は父の回復を祈願して肉断ちをしたとかで、死ぬまで肉を食べませんでした。なお病名の湿性胸膜炎は、ネットでみると結核や肺炎から胸部に浸出液がたまり炎症が生じる病気で、かつては肋膜炎(ろくまくえん)とも呼ばれていたようです。

父が所持していた「軍隊手帳」はパスポートとほぼ同じ大きさです。開くとまず(軍人)勅諭と(軍人)勅語および(軍人)讀法が載っています。そこには戦いにおいては「死は鴻毛より軽し」「上官の命令は絶対である」などと書かれています。そのあとに、本人の所属師団、聯隊、兵卒の階級などが印字で、生年月日、現住所、兵歴などが毛筆で記入されています。

「軍隊手帳」は除隊後も必携だったようで、父の手帳には、大正10年、大正13年、大正15年、昭和3年、昭和5年に「簡閲点呼」――陸海軍で予備役・兵役後の下士官兵や補充兵を召集して行った点呼――があったと記録されています。さらに「昭和4年7月18日より同月31日まで第47聯隊第7中隊に於いて勤務演習」という記載もあります。簡閲点呼の最後は昭和5年(1930年)となっていますから、除隊しても10年間は帰休兵および予備役として軍隊に縛られていたことになります。

妻の父(義父)も戦争にかり出されました。入隊のはっきりした日にちはわかりませんが、昭和18年(1943年)3月生まれの妻がまだ母親のお腹の中にいるときに出征したと聞いています。昭和20年に戦争が終わってもソ連領のシベリアに抑留され強制労働に従事させられて、敗戦から3年後の昭和23年にようやく帰還することができました。

義父が出征した頃は日中戦争(1937年〜45年)と太平洋戦争(1941〜45年)の戦火が広がった最中でした。二つの戦争では控えめな政府発表によっても日本人の軍人と軍属だけで230万人が死んでいます。日本本土と日本が侵略したアジアの国々で戦禍によって命を落とした人は2000万人を超えると言われています。

壺井栄の『二十四の瞳』で、大石先生が分教場で最初に教えた12人は男子が5人、女子が7人でした。戦争が終わり、分教場に戻ることになった先生を囲んでクラス会が開かれます。しかし、森岡正、竹下竹一、相沢仁太の姿はありませんでした。戦死したのです。岡田磯吉は失明除隊でかろうじて生き残りました。男子で無事だったのは漁師の徳田吉次だけだったのです。船乗りだった先生の夫さんも戦死していました。

兵士の戦死者の多くは食糧不足による餓死だったとも言われています。捕虜収容所で亡くなった人も大勢います。また数え切れないほど多くの一般市民や子どもが戦争の犠牲になっています。そんなことにも胸を痛めずにはおられない父の「軍隊手帳」の発見でした。(1月14日、一部修正)

 

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2017年は日本企業の「コンプライアンス」が問われた年であった。

この言葉は企業が法やルールに従って事業活動を行うことを意味する。「法令遵守」という訳語が用いられることもあるが、たいていはカタカナで表記される。それはこの言葉が表す実体が日本企業にほとんどないか、乏しいからである。

このことはこの秋に相次いで発覚した神戸製鋼所、日産、三菱マテリアル、東レといったメーカーの品質・検査不正についても言いうる。神鋼では自動車や航空機や新幹線にも使われるアルミ製品や銅製品をはじめとする多数の金属部材の検査データが多年にわたって改ざんされてきたことが明らかになった。

この事件では、日本の製造業の現場で何が起きているかに関心が集まり、私自身、熟練労働者の不足や非正規労働者の増加や労働条件の悪化に関連して、内外の多くのメディアから似たような取材を受けた。

NHKテレビのニュースウォッチ9では「バブルが崩壊した1990年代半ば以降、日本企業は海外との競争にさらされ、人件費を抑えようと非正規従業員を増やしたり、外部に業務を委託する動きを強めた。その結果、熟練技術者が少なくなり、現場力が崩れた」という私のコメントが顔写真入りのフリップで流れた(10月28日)。

これに要約されているように、事柄が雇用・労働問題に係わることは確かである。しかし、ことはそれにとどまるものではない。問題の検査データの改ざんは、顧客との契約や内規で定めた製品の品質や安全に関する基準を守っていないという点で、コンプライアンスの欠如を示す不正行為である。

年の瀬がせまって表面化した大手ゼネコン4社のリニア談合疑惑も日本企業のコンプライアンスの欠如を示している。リニア中央新幹線は、建設費9兆円、公的資金3兆円の国家的な巨大プロジェクトであるが、疑惑解明の行方によっては、国家的な巨大談合事件に発展する可能性も否定できない。

ゼネコンの談合体質は根深い。大林組は、株主オンブズマンの行った株主提案を受け入れて、07年6月の株主総会で、定款に談合をなくすことをうたった第3条(法令遵守及び良識ある行動の実践)を新設した。にもかかわらず、その後も同社の談合体質は改まらなかった。そのために、08年6月に役員の責任を追及する株主代表訴訟が提起され、その和解を受けて、09年6月には「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」が設置され、10年3月には再発防止のための提言書が発表された。このたびのリニア談合疑惑は、残念ながら、さきに述べたような談合決別の定款変更や再発防止の検証・提言だけでは談合はなくならないことを物語っている。

コンプライアンスの欠如は宅配便でも問われた。朝日新聞は、今年3月4日、「ヤマト、サービス残業常態化 パンク寸前、疲弊する現場」という見出しのもとに、ネット通販を支える宅配の現場がサービス残業で支えられている実態を報じた。翌日の続報では、ヤマト運輸が約7万6千人の社員を対象に未払いの残業代の有無を調べ、未払い分を支払う方針を固めたことや、必要な原資は数百億円規模にのぼる可能性があることを伝えている。類似の賃銀不払残業は佐川急便やその他の宅配会社にもある。

ワークルールが遵守されず、違法な長時間労働や賃金不払残業が蔓延するもとでは、企業のどんなコンプライアンスも形骸化してしまう。

白昼に衆目のなかで堂々と不正行為が行われるとは考えにくい、改ざんやねつ造などの悪質な行為は夜陰にまぎれてこっそり行われるのが常である。それゆえに私は労働時間が異常に長く、深夜残業が常態化していることが、日本企業の不祥事の温床になっていると思ってきた。この点で、川人博弁護士が電通事件の被災者の母親である高橋幸美さんとの共著『過労死ゼロの社会を――高橋まつりさんはなぜ亡くなったのか』連合出版、二〇一七年)で、東芝の会計不正事件にも触れて、「違法な長時間労働を続ける会社では、業務不正が発生することが多いというのも、私の過去の経験知であります」と述べているのは傾聴に値する。

(「輸送経済新聞」2017年12月26日号からの転載)

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エコノミスト 2017年9月26日号

服部茂幸『偽りの経済政策――格差と停滞のアベノミクス』岩波新書、820円+税

失敗を成功と見せかけるアベノミクスのからくり

本書によれば、破綻した経済政策の誤りをなにやかやと言いつくろっているのがアベノミクスである。

評者の理解では、金融、財政、民間投資の「3本の矢」からなるアベノミクスの全体像が示されたのは、13年6月に発表された「日本再興戦略」である。それより3ヵ月余り前、安倍首相は、政権復帰後の最初の国会演説で、「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指すと公言した。

結果はどうなったか。最近、財務省が発表した法人企業統計によれば、16年度末で企業の内部留保(利益剰余金)は過去最高の406兆円に達した。この額はGDP(国内総生産)の約7割に当たる。第2次安倍内閣が発足した12年度末は304兆円だったので、この間に100兆円以上も積み上がったことになる。企業の業績を利益で測るなら、アベノミクスの目標は達成されたかに見える。

しかし、著者はこのような見方を退けるところから出発する。そして、アベノミクスの4年を、目標を達成したかどうかだけでなく、富裕層をいっそうリッチにしたか、貧困層の所得を改善したかで評価する。

13年3月に、日銀の黒田総裁・岩田副総裁体制がスタートした。彼らは2年を目処に、消費者物価上昇率を2%まで引き上げ、デフレから脱却し、GDP名目3%、実質2%の経済成長を達成すると公約した。しかし、その後の消費者物価上昇率はゼロかマイナスで、実質成長率は1%そこそこにとどまっている。これでは成功したとは言えない。

政府・日銀は、目標達成に繰り返し失敗するなかで、その原因を、消費税増税後の需要の弱さ、原油価格の急落、新興国の経済の減速などの外的要因のせいにしてきた。

その一方で、就業者の増加をもってアベノミクスの成果と言う。しかし、増えたのは短時間就業者である。そのうえ労働生産性はほとんど上昇していない。なのに企業は空前の利益をあげた。そのうえ増加した利益を従業員の賃銀や設備投資のために使わずに、内部留保に回した。その結果、アベノミクスの開始以来、実質賃銀はほぼ一貫して下がり続け、格差が広がっている。

本書が説得的に述べているように、アベノミクスの失敗は誰の目にも明かである。にもかかわらず安倍内閣は、最近になって二つの学園問題の紛糾で支持率が下がるまで、なぜ長らく高い支持率を得てきたのか。この疑問を掘り下げて、経済の裏にある政治の問題を考える上でも、鋭い切れ味の政策批判が売りの本書が参考になるだろう。

 

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 エコノミスト 2017年7月4日号

小林由美著『超一極集中社会アメリカの暴走』新潮社書、1500円+税)

 制御不能の先に見える絶望の近未来

読み終えて戦慄を覚えた。人間が作り出したものが暴走し、制御不能の巨大な怪物と化して社会を脅かす。その印象は昔観たスピルバーグ監督の映画「ジュラシックパーク」第一作の衝撃に似ている。

著者はアメリカ在住の日本人女性証券アナリストの草分け的存在。前著に『超・格差社会アメリカの真実』(日経BP社、2006年)がある。

まず驚かされるのは富の極端な集中である。2014年現在、全世帯の所得分布を見ると、上位10%の世帯が下位90%の世帯とほぼ同じシェアを占めている。牽引したのは最上位0.01%の世帯である。最上位1万6500世帯の平均年収は2,900万ドル(29億円)に達する。

富裕層の仲間入りをするための教育の梯子を上るのは容易でない。エリート校のスタンフォール大学の授業料は年間4万7000ドル(470万円)。大学進学者の6割以上が学生ローンを借りている。学生ローンの15年末の総残高は、住宅ローンに次いで大きく、1.2超ドル(120兆円)に上る。

富の超一極集中の暴走は、とどまるところを知らない経済活動の金融化と情報化によってもたらされた。

衰退が言われて久しい製造業も盛り返しているが、08年のリーマンショックで崩壊したはずの金融は過去最高の利益をあげている。14年現在、金融業は従事者数では総就業人口の4.4%に過ぎないが、全産業の企業利益の19.2%を占める。

情報の世界の変化も凄まじい。20年あまり前に設立されたアマゾンの売り上げは今やウォルマートを超える。グーグル、フェイスブックも瞬く間に巨大企業に成長した。

おぞましいことに、人々の通信・消費情報は、すべて情報企業に把握されている。Eメールを送れば、内容、日時、送信者、受信者、配達経路も記録される。アマゾンやグーグルは利用者の趣味や関心や欲望を世界中の誰よりもよく知っている。

情報産業は業務の注文がオンデマンドであるだけでない。労働力も「究極の臨時雇い」のオンデマンドで調達され、そうなれは、労働者の生活が精神的にも経済的にも悲惨なものになることは目に見えている。

本書は、強欲資本主義アメリカの知られざる断層を明るみに出しているだけではない。何がヒットラー張りのトランプ大統領を誕生させたのか、社会主義者を自称するバーニー・サンダースが予備選でなぜあれほどの支持を受けたのかも見えてくる。

アメリカの絶望の近未来を考えるうえでも一読に値する労作である。
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 毎日新聞2017年11月30日

https://mainichi.jp/articles/20171201/k00/00m/040/062000c

超党派の国会議員が30日、労働法規やその活用法に関する教育を進めるための議員立法「ワークルール教育推進法案」をまとめた。各党から意見を募った上で、来年の通常国会に提出する予定。若者を使いつぶす「ブラック企業」が社会問題化する中、国民に労働に関するルールを理解してもらい働く人を守ることを目指す。

 法案をまとめたのは非正規雇用対策議員連盟(会長・尾辻秀久元参院副議長)。ワークルールを知ることが労働トラブルから身を守ることにつながるとして、法案作りを進めてきた。

 法案では、国に教育を進めるための基本方針の作成や、予算の確保を義務づける。自治体と協力し、学校の授業や公民館での講座など、子どもから高齢者まで幅広い年代が教育を受けられるように環境を整備する。

 また、企業が従業員に対してワークルールの理解を深められるように努めることも明記。教育の広まりが健全な事業活動の促進につながるとしている。

 違法な時間外労働など労働トラブルについて相談を受け付ける厚生労働省の「労働条件相談ほっとライン」には、2016年度に3万929件の相談が寄せられた。内容は「休日・休暇」に関するものが3334件、「解雇・雇い止め」が2734件などだった。【古関俊樹】
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このところ日本と同様に、韓国でも若者の過労死・過労自殺が続発し、大きな議論を巻き起こしています。それを実感させられたのは、本年11月8日、同国の「過労死予防センター」の開所式に招かれて、報告と討論に参加する機会があったからです。

これより2ヵ月前、長時間労働による「死の行進」を止めようと、ソウル市で30もの労働・市民団体が集まって、「過労死OUT共同対策委員会」が発足しました。過労死予防センターは、その有力な構成団体として、弁護士、社会保険労務士、産業医、組合活動家、過労死家族が連携し、過労死などの相談、予防、救済に取り組むことを目的にしています。

開所式では、労働環境健康研究所の任蝶辧イム・サンヒョク)医師の司会のもとで、私が日本の過労死問題の現状と過労死防止法について、また姜守乭(ガン・スドル)高麗大学校経営学部教授が労働と消費から見た韓国社会の問題点について講演しました。そのあと過重労働の現場から、ドラマ産業、ゲーム開発、郵便集配、競走馬厩務などで起きた事案が報告されました。

韓国ドラマの制作現場では、昨年10月26日、新人のアシスタント・ディレクターが過労自殺した。日本の電通事件の公表直後に起きたこの事件は、韓国のマスメディアで大きく報道されました。彼の遺書には、「1日20時間働かされ、2、3時間後にまた出勤させられる。これは私が最も軽蔑していた生活だ」という主旨のことが書かれていたそうです。

ゲーム開発部門では、昨年7月から11月の間に、3人の若者が(2人は過労死で1人は過労自殺で)亡くなっています。3人目の28歳の労働者の場合は、過労死する前の10月第1週は95時間55分、第4週は83時間4分の時間外労働を行い、10月前半は無休で12日、10月第4週から11月第1週にかけては連続13日働いて倒れました。

3番目の集配労働者と4番目の競走馬管理士を含め、四つの事例報告に共通しているのは、日本と同様に、韓国でも若者のあいだで相次いで過労死・過労自殺が起きていることです。いまひとつは日本と違って、韓国では青年ユニオンをはじめとして労働組合が真相究明と再発防止に取り組み、労組の活動家を中心に対策委員会が作られて関係企業や政府に改善を求めて働きかけていることです。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)新大統領は労働時間の短縮に積極的に取り組む政策を打ち出しています。それだけに韓国における過重労働と過労死に対する運動の盛り上がりから目が離せません(2018年1月7日修正)。


詳しい情報は以下のサイトに出ています。

http://safedu.org/pds1/114426 과로사예방센터 토론회_웹용.pdf


 
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