森岡孝二の連続エッセイ - 第173回 オリンパスの闇と闘い続けた浜田さん

第173回 オリンパスの闇と闘い続けた浜田さん

2012/4/22 0:24

  オリンパスという会社で多年にわたる巨額損失隠し事件が発覚し、菊川剛前会長ら関与役員が逮捕されたことはご存じでしょう。同社にはもう一つ闇に隠されてきた事件があります。それは社員の浜田正晴さん(現在51歳)が、顧客企業からの不正な引き抜き人事を内部通報して不当配転を受け、報復的ないじめに遭い、裁判を起こし、内部通報から4年後の2011年8月、東京高裁で逆転勝訴をした事件です。

このほどその浜田さんからご自分の闘いを綴ったご本をいただきました。題して『オリンパスの闇と闘い続けて』(光文社)。会社に批判的な労働組合の活動家が「座敷牢」同然の一人職場に閉じ込められ、草むしりや便所掃除をさせられたという話はこれまでも何例か聞いたことがあります。しかし、浜田さんは活動家ではありませんでした。彼はアメリカ・オリンパスにおいて売り上げ達成率ナンバーワンにもなったことがあるやり手の営業マンでした。

彼は、自分の営業先である顧客企業との取引を危うくするような乱暴な引き抜き人事に疑問を抱き、たまりかねてその実行者とその上の上司に相談したのです。しかし、いっこう埒が明かないだけでなく、かえって叱責や恫喝を受けるにいたったので、やむをえず意を決して、社内のコンプライアンス室に内部通報をしました。

コンプライアンス室は、通報した時点でには引き抜きが事実であるなら問題であることを認め、きちんと調査し連絡すること明言しておきながら、まともな社内調査もせず、通報から20日以上経ってEメールで形ばかりの回答をしてきました。しかも呆れたことに、そのEメールは、カバーコピー(CC)で通報事実の実行者や人事部長にも同時配信されていました。そこには通報者の個人情報の保護に対する配慮はまったくありませんでした。

会社がその後にやったことは、3次にわたる不当配転です。最初は約6000名の組合員社員のなかでただ一人だけの部長付のポスト。名づけて「新規事業創世技術探索」。これは営業畑の浜田さんに嫌がらせをするだけの無意味な仕事でした。次の配転は品質保証部の部長付ポストで、顕微鏡の勉強をさせられました。三度目の配転先では、新入社員向けの初歩的テキストを独習し、毎月、確認テストを受けるというものでした。これは「浜田君教育計画」の名の下に、浜田さんの尊厳を傷つけ、勤め続ける意欲をくじくものでしかありませんでした。これが、内視鏡でハイテクとクリーンを売りにしてきたオリンパスの、会社に楯突いた社員に対する仕打ちなのです。

この事件では労働組合は最初こそ浜田さんの相談に応じましたが、すぐに手のひらを返したように、冷たい態度にでました。2007年12月、浜田さんは、当時の菊川社長にも報復人事の撤回など職場環境の改善を求める要望書を送りましたが、彼に返ってきたのは針のむしろの報復でした。オリンパスの内部通報制度に重大な不備があったことは、浜田さんの「人権救済申し立て」に対する東京弁護士会の警告書や、損失隠し事件に対する第三者委員会の指摘にも明らかです。

しかし、問題はオリンパス一社にとどまるものではありません。2004年の公益通報者保護法の成立(06年施行)によって、内部告発は会社の違法・不正の発見や再発防止、さらには消費者の安全・安心に有益だという理解は拡がりました。しかし、内部告発をしたために報復的な解雇や不当配転を受ける例は後を絶ちません。公益通報者保護法の仕組みもたいへんわかりにくく、保護される通報の対象も狭い範囲にとどまっています。オリンパスの内部告発不当配転事件に対する浜田さんの闘いと高裁判決は、公益通報者保護法を見直すうえでも大きな意義をもっています。


オリンパス内部通報報復事件に関する森岡の意見書(2009年3月16日)もご参照ください。

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