森岡孝二の連続エッセイ - 第295回 朝日の「いちからわかる!」の労働時間解説に疑問あり

第295回 朝日の「いちからわかる!」の労働時間解説に疑問あり

2015/10/12 15:16

しばらくこの欄の更新を怠けていました。理由は今月の20日に出る小著『雇用身分社会』(岩波新書)の執筆と校正に追われたためです。5月から8月にかけては「神戸新聞」の夕刊に月2回「随想」を書いてきました。本欄にも転載させていただきましたが、それを言訳にはしたくありません。ともあれ今日から初心にもどって本欄の更新を再開します。

今日の「朝日新聞」の「男が生きる 女が生きる」というシリーズ名で、労働時間について1面から2面にまたがる長文の記事が出ています。また2面の「いちからわかる!」欄に「日本人って働き過ぎてるの?」という問答形式の解説記事があります。

一読して長時間労働を問題にする特集企画に関連した解説記事がこれでいいのか疑問になりました。

見出しは「昨年は2020時間。主要国トップクラスの長さだよ」となっています。データは厚生労働省の「毎月勤労統計調査」(「毎勤」)の一般労働者(フルタイム)の労働時間からとられています。これも重要な統計資料ではありますが、企業が賃金台帳に記載した支払労働時間を集計しているために、賃金が支払われていない時間外労働(サービス残業)が含まれていない点で注意を要します。

朝日の解説は、日本の2020時間という労働時間をもって「主要国で最長の水準」といいます。そうでしょうか。年間2020時間は、週当たりに換算すると40時間弱になります。OECD(経済協力開発機構)のデータによると、実は米英独仏のフルタイム労働者の1人当たり週平均労働時間はほぼ40時間です。米英は独仏よりやや長く、男性は女性より少し長いということはありますが、ならせば40時間といって差し支えありません。この数字からいえば、日本の労働時間は「他の主要国並み」ではあっても、「主要国で最長」とはいえません。

間違いのもとは、サービス残業を含まない「毎勤」のデータだけを用いたことにあります。残業代の有無に関係なく実際に就業した時間を集計している総務省「労働力調査」(「労調」)では、2014年の正規労働者の年間労働時間は男女計で2340(男性2434、女性2137)時間でした。朝日の記事は「長時間労働者の割合(13年)は主要7カ国(G7)では、最も高い」とも書いていますが、これは「労調」をもとにしていえることで、「毎勤」からはいえません。

5年ごとに実施される総務省「社会生活基本調査」によれば、正規労働者の「通常の1週間」の労働時間は、男女計で50.5(男性53.1、女性44.1)時間です(2011年最新結果)。年間にすれば2600時間(男性では2700時間)を超えます。現実は「週50時間制」であって、「週40時間制」にはほど遠いといわなければなりません。

日本の労働者の働きすぎを語るには、少なくとも長時間のサービス残業の存在と、性別・雇用形態別の労働時間の大きな違いに留意する必要があります。付け加えれば、平均を問題にするだけでなく、週60時間以上働き、残業だけでも月80時間を超すような労働者が数百万人にのぼることにも注意を払うべきです。そうでないと、過労死(過労自殺を含む)が依然として多発している現状は説明できません。ところがここで取り上げた朝日の解説記事はなぜか過労死の存在にも触れていないのです。

そのことを思うと、「日本人って働き過ぎぎてるの?」いうタイトルからして、どこかずれているような感じします。

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