森岡孝二の連続エッセイ - 第304回 書評 中澤誠『ルポ 過労社会――八時間労働は岩盤規制か』

第304回 書評 中澤誠『ルポ 過労社会――八時間労働は岩盤規制か』

2016/1/29 16:43

エコノミスト 2015年9月22日号

中澤誠『ルポ 過労社会――八時間労働は岩盤規制か』  ちくま新書、820円+税

歯止めがきかない過労
緻密な取材で原因追及
 
この書評はひょっとしたらルール違反かも知れない。著者は東京新聞社会部の記者で、評者も過労死問題と36協定(時間外労働協定)について取材を受けたことがある。本書には評者の短いコメントも載っている。その意味で著者は評者に関係のある人である。

しかし、評者は著者を特別に持ち上げるためにこの本を取り上げたのではない。いまこのときに出た読まれるべき本だと思うから、このレビューを書いているのである。

過労とは働きすぎて疲労がたまり健康を害することをいう。それは日本の雇用社会の「積年の問題」であるだけではなく、日本の将来を左右する「時局の問題」である。

第二次安倍内閣成立後の2013年2月28日、首相は最初の通常国会の施政方針演説において、「経済成長を成し遂げる意志と勇気」を語る文脈で、「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指します、と言明した。 そして、15年4月3日、閣議で労働時間制度改革のための労働基準法の改正案を決定し、国会に提出した。

その柱は、「高度プロフェッショナル制度」の創設と、「裁量労働制」の拡大にある。前者は高い年収の専門的職種の正社員を対象に、労働時間の規制を外し、いくら働いても残業代を支払わないことを合法化する制度である。後者は現存の企画業務型裁量労働制を、低年収の営業職などにも拡大して労働時間の規制を緩める狙いがある。いずれも新たな働きすぎを誘発して、過労死・過労自殺を増やす恐れが大きい。

近年、雇用・労働分野の規制緩和が進んだ結果、非正規労働者が全労働者の4割近くまで増加し、正社員のあいだでも、ブラック企業に象徴されるように、異常な長時間労働や違法な働かせ方がはびこり、パワハラが後を絶たず、過労性のうつ病が広がり、職場はすさんでいる。

そういうなかで、2014年6月、過労死家族の会と過労死弁護団を中心にした運動と、超党派議員連盟の努力によって、過労死等防止対策推進法(略称・過労死防止法)が成立し、11月に施行された。

にもかかわらず、政府と財界はなぜいま「もっと働け」というのか。抜け道だらけの8時間労働がなぜ「岩盤規制」なのか。さらなる規制緩和は本当に必要なのか。そもそも命と健康にかかわる労働時間制度の改革がなぜ経済成長戦略の柱なのか。新聞記者としての長期間にわたる緻密な取材をもとに、過労社会の働き方/働かせ方の実態を抉った本書には、これらの疑問の答えがある。

なかざわ・まこと 1975年香川県生まれ。名古屋大学卒業。99年中日新聞入社。東京新聞(中日新聞東京本社)社会部、横浜支局などを経て現職。共著に『検証ワタミ過労自殺』がある。

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