森岡孝二の連続エッセイ - 第311回 過労死防止法施行後の労災補償状況は何を語るか

第311回 過労死防止法施行後の労災補償状況は何を語るか

2016/6/26 10:37

厚生労働省は6月24日、2015年度の「過労死等の労災補償状況」を公表しました。過労死等防止対策推進法(過労死防止法)が成立したのは2014年6月、施行されたのはその年の11月でしたから、2015年度は施行後最初の年度でした。それだけに過労死・過労自殺がどういう状況になっているか注目されていました。

図1に示したように2015年度の労災請求件数は、過労死(脳・心臓疾患)が795 件で前年度比32 件の増(うち死亡事案は283件で41件の増)となっています。また過労自殺(精神障害)は1,515 件で前年度比59 件の増(うち死亡事案は199件で14件の減)となっています。

過去数年を見ると、労災請求件数は、過労死では高止まりで推移していますが、過労自殺では13年度、14年度、15年度と3年度連続で過去最高を更新しています。過労自殺は全年齢層で増えているとはいえ、過労死と比べると、比較的若い世代で多発している点で特別に深刻な問題をはらんでいます。

いずれにせよ防止法の施行によって過労死・過労自殺への関心が高まり請求件数が増えた可能性はあるかもしれませんが、施行後の取り組みによって過労死・過労自殺(死亡事案以外を含む)が減少に転じたと言えるような兆候は見出せません。

労災認定率(年度内に「業務上」か「業務外」かの決定が出た件数に占める労災支給件数の割合)は、前年度比で過労死が43.5%から37.4%(うち死亡は49.4%から39.0%)に、過労自殺が38.0%から36.1%(うち死亡は47.1%から45.4%)になっており、それぞれ少なからず下がっています。この事実は、もともと「高い壁」と評されてきた過労死・過労自殺の労災認定が、防止法施行後、前より容易になったどころか、むしろ困難になっていることを示唆していると解釈することもできます。

業種別には2015年度の過労死の労災請求件数で最も多いの道路貨物運送業です。図2に見るように、2011年度から2015年度の5年間の累計をとっても、過労死の最も多いのはやはり道路貨物運送業です。道路旅客運送業も第4位で過労死多発業種であることがわかります。運送業は図2で2位と6位に挙がっている建設業とともに36協定における時間外労働の延長の限度時間が適用除外になっている業界です。便宜的に設けられている拘束時間、休息時間、運転時間などに関する「改善基準」は、過労死ラインを超える時間外労働を容認しており、まやかしでしかありません。

過労自殺で2015年度の労災請求件数が最も多い業種は「社会福祉・介護事業」*です。図3で過去5年間の累計を見ても、社会福祉・介護事業が突出しています。安倍内閣は親や家族の介護のためにやむをえず仕事を辞める「介護離職」をなくすと言っています。しかし、介護職場が長時間過重労働と低賃金を絵に描いたような酷い状況にあり、介護労働者の離職率が著しく高いために、介護施設は深刻な人員不足に陥っています。緊急に改善措置を講じなければ、介護労働者も介護施設利用者も救われません。

運送業や介護事業にかぎらず異常な長時間労働がはびこっている現状を変えないかぎり過労死・過労自殺をなくすことはできません。そのためにも時間外労働(残業)の上限規制や、仕事と仕事の間に最低の必要休息時間(EUでは11時間)を確保するインターバル規制を導入するための法改正が求められています。

*厚労省の資料では「日本標準産業分類」の「社会保険・社会福祉・介護事業」とされています。ここの分類は社会福祉・介護事業に関連する社会保険関連事業も含んでいますが、ここではわかりやすく「社会福祉・介護事業」と表記しました。なお、福祉・介護分野にかぎらず「公務災害」として取り扱われる公務労働者の過労死・過労自殺は厚労省の労災関連資料の対象になっていません。

 

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