森岡孝二の連続エッセイ - 第315回 大学教授が電通新入社員の過労自殺事件に非常識なコメント

第315回 大学教授が電通新入社員の過労自殺事件に非常識なコメント

2016/10/9 20:02

10月8日の新聞は昨年のクリスマスに過労自殺した電通新入社員の高橋まつりさん(当時24)の労働実態を詳しく報じています。労災認定された彼女の昨年10月9日から1ヵ月間の時間外労働は、105時間におよび、睡眠が1日2時間というときもありました。上司から「君の残業時間は会社にとって無駄」「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」「女子力がない」などの言辞でパワハラも受けていました。

こうした悲惨な事件に武蔵野大学・長谷川秀夫教授が、Facebookで「月当たり残業時間が100時間を越えたくらいで過労死するのは情けない。会社の業務をこなすというより、自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、残業時間など関係ない」とコメントをしたことが大きな批判を招いています。

“ぎるすた”というハンドルネームの女子学生がツイッターでこの冷酷なコメントに「この国は本当にどうしようもないとつくづく思う」と嘆いています。今夜7時50分現在、このツィートに対する「リツイート」は2万3674件、「いいね」は1万2048件に達しています。長谷川氏のFacebookは炎上して、上記の書き込みは削除されたようです。

それにしても酷い言い方です。電通では1991年に大嶋一郎さん(24歳)が過労自殺した事件がありました。死亡前の月平均残業時間は147時間にも上りました。電通青年過労自殺として知られるこの事件では、2000年3月24日に最高裁が使用者の労働者に対する健康配慮義務を厳しく問う以下のような判決を出しています。

「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。/使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである」。

長谷川氏はこの判決をご存じなのでしょうか。武蔵野大学の教員情報によると。彼は1989年には東芝アメリカ情報システム社の財務部長となり、2001〜2002年には東芝アメリカ医用システム社の取締役になっています。その後、2002〜2005年は株式会社コーエー執行役員、2006〜2007年はニトリ取締役も務めています。いまはグローバル学部グローバルビジネス学科の教授のようですが、根っ子はプロの経営者です。同じことを弁護士や社会保険労務士が言ったら懲戒処分を受ける恐れがありますが、学者や経営者なら何を言っても許されるわけではありません。

まつりさんの過労死事件が報じられた今月8日の朝刊には、過労死防止法にもとづく最初の「過労死白書」が発表されたという記事が出ています。防止法には、過労死は「本人はもとより、その遺族又は家族のみならず社会にとっても大きな損失である」と書いています。法にもとづいて策定された「過労死防止大綱」には、「法が成立した原動力には、過労死に至った多くの尊い生命と深い悲しみ、喪失感を持つ遺族による四半世紀にも及ぶ活動があった」と述べられています。長谷川氏がこの法律や大綱を知っていたなら、たとえそれに不同意でも、上記のような非常識で恥知らずのコメントはしなかったのでないでしょうか。

長谷川氏が払った代価は本人が考える以上に大きいと思われます。今後、彼を役員として登用する大企業はないでしょう。政府の諮問会議や審議会などの重要機関に声がかかることもないでしょう。今年のブラック企業大賞は電通で、ブラック教授大賞は長谷川秀夫氏で決まりでしょう。
 

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