森岡孝二の連続エッセイ - 第317回 電通事件の根深さを示す「もぐり残業」の是正措置と公表制度

第317回 電通事件の根深さを示す「もぐり残業」の是正措置と公表制度

2016/12/31 0:44

電通の新入社員高橋まつりさん(当時24歳)の過労自殺事件と、それめぐる一連の動きが大きく報道されています。12月28日には電通と高橋さんの上司であった男性幹部1人の書類送検と、同社社長の引責辞任が伝えられました。

書類送検は、業務による過労とストレスで高橋さんを死に追いやった電通の責任を直接に問うものではありません。直接の容疑は、電通が社員に三六協定(時間外労働の延長に関する労使協定)で定めた限度時間を超えて残業させ、それが常態化していることの違法性を問うものでした。例えば、NTT(日本電信電話)は、1ヵ月最長150時間の残業を可能にする三六協定を結んでいます(本欄の第316回に掲げた別表を参照)。このNTTで過労死(以下、過労自殺を含む)が起きたとしても、今回のような書類送検にはいたらなかったでしょう。

前回も言いましたが、労働基準法には、三六協定の締結と届け出を条件に1週40時間、1日8時間を上限とする労働時間の規制を解除し、実上無制限の残業を容認する仕組みがあります。政府は、過労死が続発するなかで、1998年、労働省告示によって、時間外労働(残業)の延長について、1週15時間、1ヵ月45時間、年間360時間などの限度に関する基準を設けました。

しかし、これは行政上の指導基準にすぎず、強制力はありません。協定のなかに業務の繁忙や納期の切迫やトラブルへの対応などを事由に、例えば月100時間までの残業を認める特別条項を盛り込めば、100時間までの範囲ならいくらでも残業させることができるという抜け道があるのです。この場合、100時間を超える残業をさせることは違法ですが、99.9時間までの残業なら合法だということになります。

こうした方式の延長は大手を振ってまかり通るというわけではありません。残業の延長時間があまり長いと労基署から指導を受ける心配があるうえに、情報公開請求によって過労死ラインを超えるような三六協定の内容が明るみに出ると、社会の批判を浴びる恐れもあります。そこでありうる一つの対応が、今回明らかになった電通のように、三六協定の1ヵ月の特別延長時間の限度を、過労死ラインの80時間より短い70時間(かその前後)に抑えることです。これが実際の限度として守られていればまだしもましですが、許せないことに電通は、従業員による労働時間の「自主申告」を悪用して、高橋さんの場合は、うつ病発症前1ヵ月に労基署の認定でも100時間超の残業をさせておきながら、会社の記録上は2015年10月 69.9時間、11月 69.5時間、12月 69.8時間というように、いずれも70時間すれすれの残業時間に改ざんしていたのです。

12月28日の共同通信の配信記事は、電通に関して、ここ数年、社員が終業を申告した後に会社に残り、事実上の「残業」をしているケースが増えていると伝えています。同社の長時間労働の実態に関する調査の結果では、「終業申告の後、1時間以上会社に残っていたケースは、2013年は5626件だったが、14年に6716件、15年に8222件と、年々増加」してきたそうです。これは、先の改ざんと相まって、電通では三六協定違反を免れるための残業かくし、筆者のいう「もぐり残業」が常態化していたことを物語っています。

今回の電通の事件は、長時間残業の削減と過労死の防止のためには、労基法を改正して残業の上限を法的に規制するだけでは十分ではないことを示唆しています。規制逃れの「もぐり残業」をなくすためには、労働時間の適正把握に関する指導監督の強化と、違反企業に対する罰金と懲役の両面にわたる罰則強化とが必要です。現行の6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金ではあまりに軽すぎます。ペナルティとしては、過労死を発生させた企業の実名公表制度を実効性のあるものに拡大することも有効です。

ついでに公表制度について言い添えておくと、厚労省がこのほどまとめた対策では、月80時間を超える「違法」な時間外労働によって社員が過労死した大企業について、別の事業場でも‘瑛佑硫疣死が起きて労災認定された、月100時間超の「違法」残業も見つかった――場合などに公表できるよう基準を見直すことになっています(朝日DIGITAL、2016年12月26日)。

例によって非常にわかりにくい基準ですが、要は同一企業において、1年で複数の過労死が発生したか、過労死が1件であっても、その企業で月100時間超の「違法」残業が見つかった場合は企業名を公表するようにするというのです。人の命はかぎりなく重いのですから、たとえ1件でも過労死が起きれば、「違法」残業があろうとなかろうと、労災認定された時点で、公表して社会の批判をあおぐべきです。これまで知られている例では、数年間に複数の過労死が起きた企業はありますが、1年で複数起きたケースはほとんどないのではないでしょうか。

また、月100時間超の「違法」残業といいますが、今後は100時間超の三六協定は認めない、つまり労基署が受理しないように労基法を改正するというのでしょうか。それとも、100時間超えの三六協定を結んでいないのに、100時間超えの残業をさせた場合を「違法」と言っているのでしょうか。前者も過労死ラインを超える長時間残業を100時間までなら認めている点で大問題ですが、後者であれば話になりません。

いずれにせよ、厚労省が打ち出した過労死発生企業の公表に関する対策はあまりに及び腰で腰砕けです。これでは「もぐり残業」の是正策としても実効性は期待できません。、

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