森岡孝二の連続エッセイ - 第321回 残業の上限時間設定を過労死ライン容認の茶番に終わらせてはならない 

第321回 残業の上限時間設定を過労死ライン容認の茶番に終わらせてはならない 

2017/3/14 15:38
 3月13日のNHKニュースは、時間外労働(残業)の上限時間について、経団連と連合のトップ会談を受けて、安部首相の胆入りで、「1か月上限100時間未満で決着へ」と報じています。政府が強行しようとしている「高プロ制の創設」や「裁量労働制の拡大」とあわせて考えるなら、これは労働時間法制の前進ではなく、改悪です。しかし、これで決まったわけではありません。高プロ・裁量制の労働基準法関連法案は、2015年4月に国会上程されたまま、審議入りができずにいます。上限時間関連法案が労政審(労働政策審議会)を経て法案になるのはこれからです。今ならまだ押し返せます。それを踏まえて、以下いくつか思うところを述べます。
 
第1に、これは底の見え透いた下手な政治的お芝居という意味で、こっけいな茶番劇です。今回の「決着」までに、すでに、「働き方改革実現会議」の「事務局案」として、月45時間、年360時間を限度時間とすることを法律に書き入れ、繁忙期などの特別な場合は上限を、1ヶ月100時間、2ヵ月平均80時間、年720時間とするという骨子案が示されいて、その後の経団連と連合のトップ会談でも、この線にそって大筋の合意ができていました。というより、政府と財界のあいだで財界寄りの土俵が作られていて、その土俵に連合が上がらされて、押し切られたというべきでしょう。
 
第2に、残業の上限を「100時間以下」(経団連)とするか「100時間未満」(連合)とするかで「攻防」があり、安倍首相の裁定により「未満」で合意され、軍配は連合に挙がったかのような報道もありますが、その見方は当たりません。残業は1分単位で計算することになっているので、上限を100時間とするか99時間59分とするかの微調整は、真面目にされたとしても、連合の面目を保つための駆け引きではあっても、攻防といえるものではありません。もし、本当に「未満」にこだわるのなら、45時間、360時間、80時間、720時間という他の上限時間も、すべて「以下」ではなく「未満」とすべきでしょう。
 
第3に、どのように繕ってみても、上限とされる月100時間、2ヵ月平均80時間、年720時間は、過労死ラインの残業時間です。今回「決着」した残業の上限時間からは、これまでの限度時間とされた1週15時間は除かれています。1週間がないのですから1日もありません。毎日10時間の残業(18時間労働)を8日続けたら80時間になりますが、そんな働かされ方をされたら、人は脳・心臓疾患か精神障害で死ぬか、倒れるかします。今回の上限時間案は、そういう働かせ方を許容するだけでなく、法律で公認する点で、過労死の防止を困難にする危険をはらんでいます。
 
第4に、今回示された上限時間が法律になるなら、残業規制どころか、労働時間法制のいっそうの規制緩和に結果します。週40時間制を定めた1987年の労基法改定では、それまで1日8時間、1週48時間とでされていた規定が、1週40時間、1日8時間に変更されました。40時間制への移行は残業代の支払い基準としては前進でしたが、1日8時間の基準が週労働時間の後に置かれたことは、その後の一連の変形労働時間制の拡大に道をひらく規制緩和でした。今回の改定案では、1週40時間、1日8時間の法定労働時間のうえに、延長の限度時間として月45時間、年360時間の上限を規定し、さらにそのうえに特例を設け、1ヶ月100時間、2ヵ月平均80時間、年720時間まで認めるという制度設計になっています。こういうトリプル・スタンダートの制度になれば、ベースの法定労働時間はますます規制緩和され、フルタイム労働者にとっての8時間労働制の実質化はますます遠のくことになります。
 
過重労働の解消と過労死の防止のためには、残業の上限規制が急務です。しかし、政府が導入しようとしている上限時間は規制にはつながりません。今急ぐべきは日本弁護士連合会が提案しているように、1日8時間、1週40時間の労働時間規制の原則を維持したうえで、現行の36協定による延長の限度に関する基準−−週15時間、月45時間、年間360時間−−を労基法に明記し、特別条項による追加的延長に関する例外扱いを廃止することです。

うっかり99時間99分と書いていたことに気づいて、99時間59分に訂正しました。

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