森岡孝二の連続エッセイ - 第332回 書評 北健一『電通事件――なぜ死ぬまで働かなければならないのか』旬報社

第332回 書評 北健一『電通事件――なぜ死ぬまで働かなければならないのか』旬報社

2017/9/2 22:19

 エコノミスト 2017年2月28日号

北健一『電通事件――なぜ死ぬまで働かなければならないのか』旬報社、1,000円+税 

なぜ死ぬまで働かなければならないのか

昨年10月に電通新入社員、高橋まつりさん(当時24歳)の過労自殺事件が公表された。その衝撃はいまだに収まらない。若者の過労自殺が続発しているなかで、この事件が大きな関心を呼んだのはなぜか。本書にはその答えがある。

著者は、電通の歴史や世評を跡付け、元社員、現社員、弁護士、医師、研究者、監督官、過労死家族などに取材し、事件の全容をジャーナリストの目で丁寧にまとめている。

この会社では1991年にも大嶋一郎さん(当時24歳)がひどい長時間労働とパワハラで過労自殺した事件があった。その裁判では、2000年3月24日、最高裁が使用者の労働者に対する健康配慮義務を厳しく問う画期的判決を出した。

にもかかわらず、電通の長時間労働体質は改められなかった。そのことは、1951年に四代目社長によって定められた、「殺されても放すな」という文言の入った「鬼十則」を、最高裁判決後も、2016年まで社員手帳に載せてきたことからもわかる。

高橋さんは2015年3月に東京大学文学部を卒業。4月に電通に入社し、インターネット広告部門に配属される。10月に本採用になってからは、担当部署の人員が大幅に減らされたこともあって、猛烈な長時間労働になり、うつ病を発症した。

その月の残業は1ヵ月100時間を超えた。パワハラ、セクハラもひどかった。ツイッターやLINEに残された言葉によれば、高橋さんは男性上司から、「君の残業時間……は会社にとって無駄」「女子力がない」「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」などと言われた。

広告業界に君臨してきた電通の経営も、デジタル領域のネット広告部門はうまくいかず、広告料の不正請求も発覚して、火を噴いていた。それが高橋さんの過重労働の負荷をいっそう大きくした。

この事件は過労死防止法が制定され、「過労死ゼロ」に向けた国の取り組みが始まったなかで起き、最初の「過労死白書」が出た日に公表された。この事件では厚労省の監督責任も問われた。そのため強制捜査から書類送検に至る厚労省の動きも早かった。安倍首相も「働き方改革」の会合で、高橋さんの名を挙げ、「悲しい出来事」として、電通事件に触れざるをえなかった。

しかし、働き方改革では、「残業代ゼロ」を拡大し、過重労働を助長する法案も出されている。安倍内閣が本当に残業規制に踏み出そうとしているのかを考えるうえでも、本書は一押しの本である。

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