森岡孝二の連続エッセイ - 第338回 これはひどい! 休日労働協定にみる青天井の36協定

第338回 これはひどい! 休日労働協定にみる青天井の36協定

2017/10/25 13:30
このところ過労死防止法にもとづく厚生労働省の委託事業として行われている高校・大学への啓発授業で、兵庫過労死を考える家族の会代表の西垣迪世(みちよ)さんとご一緒することが多い。

西垣さんの一人息子、西垣和哉さんは、2002年4月に大手電子機器メーカー子会社の富士通SSLに入社。システムエンジニアとして働いていて、過労とストレスでうつ病を発症し、休職と復職を繰り返すなかで、治療薬の過量服用により、2006年1月に死亡した(当時27歳)。

和哉さんの発症前1ヵ月(2003年6月13日〜7月12日)の労働時間は296時間57分、時間外労働(残業)は128時間57分に及んだ。これは1日平均11時間52分の長時間労働が1ヵ月続いた勘定になる。朝9時から翌晩10時前までの連続37時間勤務もあった。

この会社の当時の36協定を見ると、「延長することができる時間」は、1日13時間、3ヵ月300時間、1年840時間(「ソフトウェアの研究・開発」の場合は960時間)となっていた。1日最長13時間の残業をさせることができるということは、法定8時間+時間外13時間で、1日21時間労働を許す協定が結ばれていたからである。これは翌朝までつづく残業中のあるかないかの細切れ「休憩」を加えると、1日24時間労働もありうることを意味する。和哉さんの37時間の連続勤務もこうした異常な勤務形態のなかで起きたことである。

当時この会社の所定労働時間は9時始業・17時40分終業の7時間50分で、所定内の休憩は12時10分から13時までの50分となっていた。会社が作成した勤務形態の図表では、残業の場合は、17時40分から18時10分までの30分、22時時から22時30分までの30分、翌3時から3時40分までの40分、翌8時30分から9時までの30分がそれぞれ「休憩」とされていて、時間内と時間外を合わせた「休憩」の合計は180分=3時間。前述の21時間労働にこの3時間を加えると、ちょうどまる1日、24時間拘束で働くこともありうる。

ただし、仕事が終わったあとの翌8時30分から9時の30分を名目だけの休憩として度外視すると、この会社の1日の最長労働時間(=拘束時間)は23時間半とみなすこともできる。それと符合するかのように、この会社の36協定中の休日労働協定には「始業午前9時00分 終業翌朝8時30分」とあって、1日の最長拘束時間は23時間30分とされている。

この協定の期間は、2006年7月1日から2007年6月30日までとなっているが、それから10年経った現在でも、富士通SSLのような会社は少なくない。大阪過労死問題連絡会が情報公開請求を通して入手した、2016年4月から2017年3月31日を期間とする36協定から例を取ると、日立製作所では休日の「始業及び終業時刻」を「8:50〜翌朝8:50」としている。また日本電信電話(NTT)は、「0時から24時」としている。午前0時始業というのもおかしな時刻であるが、1日24時間をまるまる働かせることができることを意味するとすれば、露骨なほど正直な書き方であるともいえる。ちなみに日立製作所とNTTの36協定は連合加盟の労働組合とのあいだで結ばれている。

これらの例が示すように、休日労働は、たとえ目安的な指導基準にせよ、時間外労働に設けられているような限度時間(1ヵ月45時間、1年360時間など)にあたるものがなく、制度的にはまったくの青天井で、労基署への届け出も完全にノーチェックである。

ところで政府・厚労省が進めようとしている「働き方改革」の残業規制は、残業を原則として1ヵ月45時間・1年360時間として、臨時的な特別の事情がある場合は、特別条項入りの36協定を締結することを条件に、単月100時間未満、複数月平均80時間以内、年720時間までの残業を認めるという制度設計になっている。

この場合、原則の1ヵ月45時間・1年360時間は休日労働を別枠としている。したがって、休日を除く残業が1ヵ月45時間であっても、月4回(週1回)の法定休日に毎回9時間働かせるだけで、45時間+36時間=81時間となり、複数月の上限である80時間を超えてしまうことになる。

臨時的な特別の事情がある場合の残業の上限とされる「単月100時間未満、複数月平均80時間以内は休日労働を含んでいる。だがやっかいなことに「年720時間以内」は、休日労働が別枠扱いである。したがって、他の制限がなく、すべての法定休日にフルに働かせることができるとすれば、年間1000時間を遙かに超える残業もありうることになる。しかし、この場合、複数月平均80時間以内という制限があるので、年間の総残業時間は960時間(80時間×12ヵ月)を超えることはできない。こういう計算から、年間の残業の上限とされる720時間は、休日労働を含めれば960時間まで可能と読み替えなければならない。

今回の「働き方改革」の「時間外労働の規制」をめぐる厚労省労政審(労働条件分科会)の議論では、休日労働の問題はほとんど取り上げられなかった。そうなった前提には、月4回の法定休日にすべて労働をさせるような酷い会社はほとんどない、ましてや休日に24日労働をさせる非常識な会社などあるはずはない、という現実無視の認識があると考えられる。その意味では労政審の有識者たちは過労死職場の過重労働の実態をご存じないのではなかろうか。そういう場でまとまった「働き方改革法案要綱」はまともな審議の結果といえるかどうか疑問である。

*今回はいつもの「です・ます調」ではなく「である調」になってしまいました。ご了解ください。
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