森岡孝二の連続エッセイ - 第339回 労働者を底辺に追い詰める利益至上主義経営の破綻

第339回 労働者を底辺に追い詰める利益至上主義経営の破綻

2017/10/30 10:39
『週刊エコノミスト』2017年10月31日号 緊急特集「神鋼の絶体絶命」コメント 

 神戸製鋼所の長期にわたるデータ改ざん問題は1990年代初めのバブル崩壊以降、日本企業で断続的に進められてきた人減らし、正規社員から非正規社員への置き換えといった一連のリストラが背景にある。根深い問題だ。これは神鋼に限った話ではない。

一般的に製造業の現場で人員削減や賃下げ、非正規化が進むと、必然的に技術と経験の豊富な熟練工が減っていく。そうなると、生産現場での教育、技能継承もままならず、技術と人の両面から生産性の低下を生じさせやすい。だが、コスト削減のためには、少ない人員で高い生産計画をこなさなければならないので、品質や安全の確保がおろそかになり、取引先から要求された水準に達していなくても出荷せざるを得ない。そのために神鋼のようなデータ改ざんという不正が発生する。

改ざんは、現場の末端の労働者ではなく、その上の管理者が行うことが多い。改ざんには、生産システム全般にかかわるケースも少なくなく、それは職務権限上も管理職にしかできないからだ。不正を繰り返してきた企業にはデータ改ざんを行うための裏マニュアルがあるという話も聞いた。

グローバル化の影響も大きい。製造業は人件費の安い新興国での現地生産を進めてきた。これによって、日本の労働者は新興国の低賃金労働者との競争を余儀なくされ、これも賃下げや非正規雇用の増大につながった。

また、近年強まってきた株主の経営者に対する圧力も生産現場の疲弊させる一因となっている。高い配当を要求し、性急に結果を追い求める株主に迫られて、企業経営者は、安易な人件費削減で利益を拡大させた。私はこれを「レース・トゥ・ザ・ボトム(底辺への競争)」と呼んでいる。

つまり、労働者を低賃金・長時間労働・残業代未払いという劣悪な労働環境に追い込んでいく底辺への競争だ。これは日本だけではなく、欧米主要国でも似た状況だろう。

神鋼のデータ改ざん発覚後、フランスの通信社AFPや英フィナンシャル・タイムズといった海外メディアからすぐに取材を受けた。その背景には記者たちが抱く「日本の製造業への不信」だけでなく、近年「欧米主要国の有力製造業でも神鋼のような不正が繰り返されているという問題意識」があるように思われた。

実際15年には、独フォルクスワーゲンで排ガス不正問題が発生している。名門ドイツ企業の背任行為の背景にも、神鋼同様に利益至上主義の行過ぎた経営があったのではないかと、海外メディアも考えているのだ。神鋼の不正は氷山の一角に過ぎない。

*この事件ではロイター通信社からも取材を受け、次のような記事が出ている。

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