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森岡孝二の連続エッセイ - 第347回 裁量労働制の調査データをめぐる国会論議は何を物語るか

第347回 裁量労働制の調査データをめぐる国会論議は何を物語るか

2018/2/21 20:46

裁量労働制の調査データをめぐって国会が揺れています

立憲民主党の長妻昭氏や希望の党の山井和則氏らの追及から、企画業務型裁量労働制の営業職への拡大案の検討のために政府・厚労省が示したデータが、比較できない数値を比較していたことが明らかになりました。

問題のデータでは、1日の労働時間は裁量制が9時間16分、一般が9時間37分となっています。これでは労働時間の規制が弱くサービス残業(賃銀不払残業)を誘発しやすい裁量労働制の労働者のほうが一般労働者より労働時間が短いことになります。この比較は、一般労働者については1ヶ月のうち「残業が最長の1週間」の数値、裁量制の人については通常の平均的な1週間の数値を元にしている点で、まったくでたらめです。

厚労省は2013年10月に同年4〜6月に同省が実施したこれとまったく同じ調査データを、「今後の労働時間法制のあり方」を検討する労働政策審議会(労働条件分科会)に提出していました。一方、厚労省の外郭シンクタンクである「労働政策研究・研修機構」(JILPT)が2013年11〜12月に実施した調査では、1ヶ月の労働時間は裁量労働制(194.4時間)のほうが一般労働者(186.7時間)より長いことが明らかになっています。

この間の国会論戦を通じて裁量労働制拡大の国会審議の前提となる根拠が崩れた以上、政府は裁量労働制の拡大案の再上程を断念すべきです。なお同案は高プロ制の創設案とともに2015年4月に国会上程されて、審議入りしないまま昨年9月の国会解散でいったん廃案になっています。

今回の裁量労働制をめぐる議論から上に述べたことのほかに見えてきたことがあります。その一つは責任の所在です。

2012年12月の総選挙で返り咲いた安倍首相は、2013年 1月に財界人を集めて「産業競争力会議」を設置し、厚労大臣も労働代表も労働分野の有識者も入っていないところで、労働時間制度の改革をアベノミクスの成長戦略の柱の一つに位置づけました。そのうえで同年6月に閣議決定した「日本再興戦略」において、企画業務型裁量労働制をはじめとする労働時間法制について、早急に実態把握のための調査・分析を実施し同年秋から労働政策審議会で検討を開始することを決めました。今回の国会論戦では誤ったデータを提出した厚労省の責任が問われていますが、上の経過から見て、裁量労働制の拡大をめぐるお粗末の責任が第一に問われるべきは安倍首相であると言わなければなりません。

いまひとつは政府・厚生労働省の労働時間政策のお粗末です。
厚労省の労働時間統計として知られているのは『毎月勤労統計調査』(「毎勤」)ですが、これは事業所の賃銀支払台帳に記載された労働時間を集計した企業調査であるために、サービス残業を含んでいません。早出・居残りを含む実労働時間を知るには、労働者調査である総務省『労働力調査』(「労調」)を利用する必要があります。「労調」と「毎勤」の労働時間の差から推定すると、労働者1人当たりで年間300間以上のサービス残業があることが知られています。

過重労働や過労死等に関する厚労省の最近の資料では、「毎勤」だけでなく「労調」も参照されるようになりました。しかし、労働行政のあり方からいうと、厚労省としても独自にサービス残業を含む実労働時間を調査するべきです。その場合、性別、フルタイム・パートタイムおよび正規・非正規の就業形態別、裁量労働制や管理監督者等の時間管理の類型別の集計が可能なるように調査票を設計することが望まれます。

専門業務型裁量労働制は1987年、企画業務型裁量労働制は1998年に導入されましたが、それぞれの実労働時間については今日まで調査らしい調査はほとんど行われていません。それだけに先の2013年調査はめずらしい調査といえます。しかし、それは企業調査にとどまり、労働者調査をしていない点で実労働時間が過小に把握されているという重大な欠陥があります。

ついでに言えば、日本には国際比較に耐えるフルタイム労働者の実労働時間の継続的な統計はありません。そのために、OECDやILOの国際統計では日本のフルタイム労働者の労働時間が主要先進国では例外的に欠けています。これも政府・厚労省が労働時間の調査を踏まえずに労働行政や労働時間改革を進めていることの証拠ともいえます。

2014年6月20日には全会一致の議員立法で過労死防止法が成立しました。ところがその4日後に政府は「日本再生戦略 改訂2014」を閣議決定し、労政審を通して裁量労働制の拡大と高プロ制の創設案を2015年の通常国会に上程したのです。過労死防止法は過労死等の実態の調査研究を国の責務としています。それにしたがえば、労働時間制度改革に当たっても調査研究を踏まえるべきですが、それもしないまま、泥縄式に裁量労働制の拡大案と高プロ制の創設案をまとめたのです。

毛沢東を持ち上げる気はさらさらありませんが、彼は「調査なくして発言権なし」という名言を残しています。これは今回の国会論議に当てはまれば「調査なくして審議なし」と言い換えることができます。以上、いろいろ述べてきましたが、要するに、政府は労働時間制度改革を性急に強行することなく調査研究の段階からやり直すべきです。


追記:2018年2月19日の衆議院予算委員会に厚生労働省労働基準局が提出した裁量労働制の労働時間に関する調査データの説明資料を以下に掲載しました。http://hatarakikata.net/modules/data/details.php?bid=2183

私の前掲の説明は、執筆時点で見ていなかったこの資料に照らすと一部不正確な点があります。詳しくは次回に書きます。


 

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