森岡孝二の連続エッセイ - 最新エントリー

働き方改革の行方が注目されているなかで、去る2月14日に第7回「働き方改革実現会議」が開催され、残業の上限規制についての政府案の骨子が「事務局案」として示されました。

事務局案は、「3 6 協定により、週4 0 時間を超えて労働可能となる時間外労働(残業)時間の限度を、月4 5時間、かつ、年3 6 0 時間とする」としています。これを「法律に明記」し、この上限を上回る残業をさせた場合は「罰則を課す」というのです。

一見、厳しい線を打ち出しているような印象を受けます。しかし、これには「特例の場合を除いて」という条件が付されています。従来もあったように、特例条項付き協定を結べば、月45時間あるいは年360時間を上回る時間外労働をさせてもよいことになっています。従来との違いは、1週15時間という限度がなくなり、1年は720時間(360時間の2倍)を上回ってはならないとされている点です。

1年720時間という上限は、毎月80時間の残業を9ヵ月続けることを許容する時間です。月90時間の残業でも8ヵ月は続けることができます。これは過労自殺を含む過労死のリスクが高い働き方/働かせ方です。80時間あるは90時間の残業が続けば、1〜2ヵ月でも脳・心臓疾患や鬱病などの精神疾患を発症する心配があります。たとえ過労死しなくても、健康に極めて有害な労働時間であると言わなければなりません。

事務局案には月の上限は示されていません。1月28日のNHKニュースは政府の動きを「罰則つきの時間外労働上限 月最大100時間で調整」と伝えていました。1月29日の朝日新聞には「残業上限は月(平均)60時間、繁忙期100時間 政府が改革案」という見出しの記事が出ていました。それに対して各方面から強い批判と反発があったことから、このたびは上限を明示するのを避けたようです。

けれども、「改正の方向性」に関する注に書かれていることから推し量ると、今後出てくる最終案では、繁忙期などの特別な場合は、1ヵ月100時間か、2〜6ヵ月の平均で80時間といういわゆる過労死ラインを基準として、単月では100時間、複数月では80時間を上回ってはならないとするのではないかと予想されます。

2月24日付けの朝日新聞は、連合が「とくに忙しい時期の残業時間」を「月最大100時間」とする(政府・経団連)案の受け入れを検討していることが分かった」と報じています。これは2月27日に予定されている経団連の榊原会長と連合の神津会長とのトップ会談を前にしての内情記事だと思われます。つい先頃まで、残業の上限規制をめぐっては経済界と労働界とあいだに大きな隔たりがあると言われていました。それから見れば大きな変化です。

仮にこれで手打ちがされるなると、いままでの抵抗は何だったのでしょうか。連合が政府・経団連の案を丸呑みにするいうことはないだろうと思いたいのですが、週労働時間の上限規制や勤務間インターバル休息規制もないまま、単月100時間、複数月の平均80時間が公認の上限とされたら、過労死の認定はかえって従来以上に困難になるとも言えます。

先の朝日の記事では、連合は「一定期間後に上限の時間を見直すことなどを容認の条件にし、連合の主張を反映させることを求める構えだ」そうです。しかし、特例条項を認めず、「月45時間、年360時間」を、災害などのよほどの事情がある場合を除いて、例外なき原則とするのでなければ、まともな残業規制は20年経っても、30年経っても実現することはないでしょう。

事務局案は、年720時間を12ヵ月で割った「月平均60時間」を示して、それが規制の何かの基準であるかのように見せようとしています。しかし、上限規制を言うときに、規制力をもたない月平均を持ち出しても何の意味もありません。仮に「月60時間」に意味を持たせるなら、それを上限にしなければなりません。私は残業月60時間の上限は甘すぎると考えますが、月60時間の残業が法定の最大限度とされるなら、まだしも現行の青天井状態よりはましだと思われます。

いまは真の働き方改革のための、残業のまともな上限規制に踏み出すか、名ばかり規制に終わるかの正念場です。連合が間違っても経団連に押されて、年間720時間、単月100時間、複数月80時間の残業上限案を呑むことのないよう要望します。 

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政府が鳴り物入りで検討を進めていた時間外労働(残業)の上限規制の骨子案がようやく見えてきたようです。1月28日のNHKニュースは「罰則つきの時間外労働上限 月最大100時間で調整」と報じています。
 
これが期待を持たせた議論の結論であるとするならば、あまりにもお粗末で悲しいといえます。しかし、冷静にこの間の経過を振り返れば、これははじめから見え隠れしていて、予想されたことで、案の定、やっぱり、という感じがしないでもありません。
 
労基法が制定されて70年になりますが、この間政府は労働時間の決定を、36協定の締結と届け出を条件に労使自治にまかせ、法的規制を一貫して回避してきました。この点は週48時間制から40時間制に移行した1987年の労基法改正でも変わりませんでした。労働界も労働時間の法的規制のために積極的にたたかってきたとはいえません。
 
それでもここ数年、過労死ゼロを求める運動が進み、2014年6月20日に過労死防止法が成立しました。しかしその4日後には、政府から高収入の労働者を対象に残業代ゼロの労働時間制度改革案が提起されました。その後の経過を見ると、実は、月80時間あるいは100時間をもって時間外労働の延長の上限とする案は、残業代ゼロ制度の創設案との交換条件に持ち出されたものだということがわかります。
 
政府の「働き方改革実現会議」は昨年6月にスタートしました。その有識者メンバーである水町勇一郎氏(東京大学社会科学研究所教授)は、2014年7月2日付けの西日本新聞で、規制改革会議の雇用ワーキング・グループの専門委員としてインタビューに応じ、「労働時間の上限とは具体的にどれくらいか」という質問に答えて、「労働安全衛生法で、時間外労働が月100時間になれば産業医による面談指導を受けるようになっている。規制改革会議では議論の停滞を避けるため、数字は明示しなかったが、月80時間とか100時間を念頭に置いていた」と話しています。
 
こういう議論が残業代ゼロ法案と評される「高度プロフェッショナル制度」をめぐる議論のなかで出ていたこと見逃せません。水町氏の発言の真意を善意に推し量って言えば、高プロ制の対象労働者には労働時間の概念に代えて「健康管理時間」が適用されるが、それには1ヵ月(4週)あたり法定160時間+80時間あるいは100時間くらいの上限を省令で設けるので、無制限の長時間労働になる心配はないというのです。
 
月80時間あるいは100時間をもって時間外労働の延長の上限とするという案は、昨年6月に閣議決定された政府の「ニッポン一億総活躍プラン」でも言われていたことです。このプランは、「36協定において、健康確保に適さない長い労働時間、月80時間超を設定した事業者などに対して指導を強化する」、あるいは「月100時間超の時間外労働を把握した事業者などに指導を強化する」としています。こうした表現からみても、政府は、残業の限度について「月80時間まで」もしくは「月100時間まで」を許容する基準を早くから想定していたと考えられます。
 
長時間労働の削減や過労死の防止のためにいま急がれるのは、労働基準法を改正して、36協定における時間外労働の延長の限度に関する現行の指導基準−−週15時間、月45時間、年360時間など−−に法的強制力を持たせ、業務の繁忙や納期の切迫を理由に青天井の延長を許す特別条項を廃止することです。しかし、政府は特別条項付きの36協定は今後もかたくなに残そうとしています。違反した場合の罰則の強化も言われていません。
 
前出のNHKニュースは、 政府は「罰則つきの時間外労働の上限について、---特別条項つきの『36協定』を締結すれば、年間最大で720時間とする方向で調整に入りました」、「また、企業の繁忙期については、いわゆる『過労死ライン』が『月100時間または2か月から6か月にわたって月80時間』に設定されていることを踏まえ、年間720時間を超えないことを前提に、月最大100時間、2か月の平均が月80時間とする方針です」と伝えています。
 
この問題を報じた1月29日の朝日新聞の一面トップ記事には、「残業上限 月平均60時間、政府調整 繁忙期100時間まで」という見出しが付されています。しかし、月平均60時間というのは年間720時間を12ヵ月で割った数字にすぎず、月最大60時間を義務づけるのでないかぎり、規制としては特別の意味はありません。それより1週間の上限はどうなっているのか、あるいは1日の上限規制はどうするのかを問題にしてほしいものです。
 
朝日の記事がそうだというわけではありませんが、メディアの報道のなかには今回の政府案が時間外労働規制の前進的改革であるかのように評価している向きもあります。しかし、今回明らかになった骨子案は極めて後ろ向きの名ばかり規制案と言わなければなりません。
 
もともと日本の労働基準法における労働時間規制は、36協定による規制解除を許している点で化石的な制度ですが、今回の骨子案も、化石的な労働時間制度の枠内で構想された化石的な改革案の域を出るものではありません。少しでもいいところがあれば、今後に期待をつなぐこともできるのですが、そういう見方もできそうにありません。騒ぎが大きかった割に結果はあまりに貧相だという意味で、「大山鳴動して鼠一匹」というのが、政府が法案化に向けて調整中という時間外労働の上限規制案についての私の評価です。
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 厚労省に設置された「仕事と生活の調和のための時間外労働規制に関する検討会」の第6回会合が1月23日に開催され、これまでの検討の「論点の整理案」が示されました。

その内容は、長時間労働の規制としては、経済界寄りのきわめて腰の引けたものになっています。

…校間労働の削減を「不本意な時間外労働」に絞り、「仕事をやりきりたい」人がすすんで働くことを是認していること。

◆崢校間労働を前提とする企業文化」を変えることを優先し、三六協定における時間外労働の上限規制に関する「法改正」を後回しにしていること。

より短時間で効率的に働いた人が評価されるよう、「労働生産性」を人事評価の指標として盛り込み、労働時間短縮を個人の働き方の問題にしようとしていること。

ざ侈慨屮ぅ鵐拭璽丱覽拌制度についても法規制を回避し、企業による自発的導入を促すことにとどめていること。

セ間外労働の一律規制を避け、「長時間労働が避けられない」業種・職種について広く適用除外の特例を設けようとしていること。

本日(1月25日)の毎日新聞は、長時間労働の是正策として検討している残業時間の上限規制について、政府は「月80時間」を軸に調整に入ったと伝えています。記事には半年や1年などの期間を単位として規制を設ける場合は、「月平均45時間」などとする案が出ているとありますが、現行の1週15時間、1か月45時間、1年360時間を延長の限度とする指導基準に強制力を持たせる(上限規制を義務づける)案は退けられています。1日についてはもちろん、1週間についても時間外労働の上限を示すことは考えられていないようです。

私は、これまで政府のいう36協定における時間外労働規制は、月80時間ないし100時間を上限として、それの以上の延長を認めない方向での法改正か、監督指導の強化にとどまるのではないかと考えてきました。また、労働時間制度の実現のためには規制の名に値しない過労死ラインすれすれの時間外労働を許容する大甘な改革を認めてはならないと言ってきました。残念ながら、政府の示す是正策はいまのところそうした悲観的見方が当たるようなものになっています。

政府が「働き方改革」を言い出し、その柱として「時間外労働規制」を言い出したいまは、長時間労働の規制と削減のチャンスではありますが、まともな労働時間制度を実現するためには、政府任せ、企業任せにせず、労働組合と、野党と、すべての働く人びとがもっと大きく声を上げていかなければなりません。
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電通の新入社員高橋まつりさん(当時24歳)の過労自殺事件と、それめぐる一連の動きが大きく報道されています。12月28日には電通と高橋さんの上司であった男性幹部1人の書類送検と、同社社長の引責辞任が伝えられました。

書類送検は、業務による過労とストレスで高橋さんを死に追いやった電通の責任を直接に問うものではありません。直接の容疑は、電通が社員に三六協定(時間外労働の延長に関する労使協定)で定めた限度時間を超えて残業させ、それが常態化していることの違法性を問うものでした。例えば、NTT(日本電信電話)は、1ヵ月最長150時間の残業を可能にする三六協定を結んでいます(本欄の第316回に掲げた別表を参照)。このNTTで過労死(以下、過労自殺を含む)が起きたとしても、今回のような書類送検にはいたらなかったでしょう。

前回も言いましたが、労働基準法には、三六協定の締結と届け出を条件に1週40時間、1日8時間を上限とする労働時間の規制を解除し、実上無制限の残業を容認する仕組みがあります。政府は、過労死が続発するなかで、1998年、労働省告示によって、時間外労働(残業)の延長について、1週15時間、1ヵ月45時間、年間360時間などの限度に関する基準を設けました。

しかし、これは行政上の指導基準にすぎず、強制力はありません。協定のなかに業務の繁忙や納期の切迫やトラブルへの対応などを事由に、例えば月100時間までの残業を認める特別条項を盛り込めば、100時間までの範囲ならいくらでも残業させることができるという抜け道があるのです。この場合、100時間を超える残業をさせることは違法ですが、99.9時間までの残業なら合法だということになります。

こうした方式の延長は大手を振ってまかり通るというわけではありません。残業の延長時間があまり長いと労基署から指導を受ける心配があるうえに、情報公開請求によって過労死ラインを超えるような三六協定の内容が明るみに出ると、社会の批判を浴びる恐れもあります。そこでありうる一つの対応が、今回明らかになった電通のように、三六協定の1ヵ月の特別延長時間の限度を、過労死ラインの80時間より短い70時間(かその前後)に抑えることです。これが実際の限度として守られていればまだしもましですが、許せないことに電通は、従業員による労働時間の「自主申告」を悪用して、高橋さんの場合は、うつ病発症前1ヵ月に労基署の認定でも100時間超の残業をさせておきながら、会社の記録上は2015年10月 69.9時間、11月 69.5時間、12月 69.8時間というように、いずれも70時間すれすれの残業時間に改ざんしていたのです。

12月28日の共同通信の配信記事は、電通に関して、ここ数年、社員が終業を申告した後に会社に残り、事実上の「残業」をしているケースが増えていると伝えています。同社の長時間労働の実態に関する調査の結果では、「終業申告の後、1時間以上会社に残っていたケースは、2013年は5626件だったが、14年に6716件、15年に8222件と、年々増加」してきたそうです。これは、先の改ざんと相まって、電通では三六協定違反を免れるための残業かくし、筆者のいう「もぐり残業」が常態化していたことを物語っています。

今回の電通の事件は、長時間残業の削減と過労死の防止のためには、労基法を改正して残業の上限を法的に規制するだけでは十分ではないことを示唆しています。規制逃れの「もぐり残業」をなくすためには、労働時間の適正把握に関する指導監督の強化と、違反企業に対する罰金と懲役の両面にわたる罰則強化とが必要です。現行の6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金ではあまりに軽すぎます。ペナルティとしては、過労死を発生させた企業の実名公表制度を実効性のあるものに拡大することも有効です。

ついでに公表制度について言い添えておくと、厚労省がこのほどまとめた対策では、月80時間を超える「違法」な時間外労働によって社員が過労死した大企業について、別の事業場でも‘瑛佑硫疣死が起きて労災認定された、月100時間超の「違法」残業も見つかった――場合などに公表できるよう基準を見直すことになっています(朝日DIGITAL、2016年12月26日)。

例によって非常にわかりにくい基準ですが、要は同一企業において、1年で複数の過労死が発生したか、過労死が1件であっても、その企業で月100時間超の「違法」残業が見つかった場合は企業名を公表するようにするというのです。人の命はかぎりなく重いのですから、たとえ1件でも過労死が起きれば、「違法」残業があろうとなかろうと、労災認定された時点で、公表して社会の批判をあおぐべきです。これまで知られている例では、数年間に複数の過労死が起きた企業はありますが、1年で複数起きたケースはほとんどないのではないでしょうか。

また、月100時間超の「違法」残業といいますが、今後は100時間超の三六協定は認めない、つまり労基署が受理しないように労基法を改正するというのでしょうか。それとも、100時間超えの三六協定を結んでいないのに、100時間超えの残業をさせた場合を「違法」と言っているのでしょうか。前者も過労死ラインを超える長時間残業を100時間までなら認めている点で大問題ですが、後者であれば話になりません。

いずれにせよ、厚労省が打ち出した過労死発生企業の公表に関する対策はあまりに及び腰で腰砕けです。これでは「もぐり残業」の是正策としても実効性は期待できません。、

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日本経団連の榊原会長(東レ)は、2016年10月24日の記者会見で、安倍内閣の「働き方改革」に触れて、次のように述べました。

「過労自殺は誠に遺憾なことであり、絶対にあってはならないことである。経営トップが先頭に立って、過労死防止対策に取り組まなければならない。経団連では、今年を働き方・休み方改革に向けた集中取り組み年に位置づけて活動している。とりわけ過重労働と長時間労働の是正が重要課題であり、この取り組みを企業社会に浸透させていきたい。/長時間労働の是正に向けて、法的な対応が検討されているが、経団連としてもしっかり議論に参加して対応していく。同時に経済界の自主的な取り組みを推進していく。政府の取り組みと相俟って、長時間労働の撲滅につなげていきたい」。

これが電通の女性新入社員、高橋まつりさん(当時24歳)の過労自殺事件に対するコメントであることは明らかです。榊原会長は「過労自殺は……絶対にあってはならないこと」と言い、また「過重労働と長時間労働の是正」に取り組んでいきたいと言います。これが真意ならまことにけっこうなことです。しかし、経団連はいつから悔い改めたのでしょうか。東レをはじめとする経団連会長・副会長企業の労働時間管理の実態はいうと、残念ながら、従業員のあいだでいつ過労死・過労自殺が起きても不思議でないほど酷いものです。

そのことは下の別表をみれば一目瞭然です。この表は過労死問題連絡会が松丸正弁護士の手を煩わせて入手した、経団連役員企業17社の36協定の情報公開結果から作成しました(日本生命保険は未入手)。表の数字は、17社の36協定に盛り込まれている時間外労働(残業)の最大延長時間を示しています。

労働基準法は、36協定の締結と届け出を条件に、1週40時間(当初は48時間)、1日8時間の法的規制を解除し、事実上無制限の残業を許してきました。1998年の労働省告示によって残業の延長に関して1週15時間、1ヵ月45時間、年間360時間などの限度が設けられたものの、行政上の指導基準にすぎず、法的な強制力をもつものではありませんでした。「業務の繁忙」「納期の逼迫」「機械のトラブルへの対応」などの事由を付して、特別条項付き協定を結べば、上記の限度を超えて無制限に労働時間を延長できるのです。

表に出ている住友化学、東京ガス、三菱商事、三越伊勢丹の4社は、1日15時間となっています。法定8時間、休憩1時間のうえにさらに延長15時間がOKということは、使用者は労働者をまる1日24時間働かせも罰せられない、ということを意味します。しかし、これは驚くにあたりません。1日15時間もさきの限度の1週15時間のうちに含まれているのですから、特別延長の手続きをとるまでもなく許容された時間なのです。

さて会長企業の東レですが、なぜか1日は中央労働基準監督署で情報公開されたときに黒塗りになっていました。次の欄は1ヵ月100時間となっています。これは過労死ラインとされる月80時間の残業を超えています。年間900時間まで残業させることができるというのも猛烈です。なにしろ1日平均4時間は残業をしてもらいますよ、というわけですから(厚労省「毎月勤労統計調査」の2015年平均出勤日数224日で計算)。

これでも、2009年に株主オンブズマンが行った36協定の情報公開の結果と比べるとまだましになっています。そのときの東レの残業延長最大時間は、1ヵ月160時間、1年1600時間となっていました。これはアバウツに月4週、年間50週で計算すると、最大月320時間、年間3600時間の実働もありうるという協定です。

株主オンブズマンの情報公開で批判を浴びたからか、経団連の会長企業になったからか、今回公開された東レの36協定は2009年時点のそれに比べると、多少抑えられてはいます。それでも、過労死ラインの時間をもってよしとしている点では、あまりにもBAU(business-as-usual、旧態依然のビジネス)であると言わなければなりません。

  別表 日本経団連会長・副会長企業17社の36協定

出所)過労死問題連絡会の情報公開請求結果。
(注)協定期間は2016年4月1日からの1年間。三越伊勢丹のみ2015年4月1日からの1年間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            

 

 

 

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10月8日の新聞は昨年のクリスマスに過労自殺した電通新入社員の高橋まつりさん(当時24)の労働実態を詳しく報じています。労災認定された彼女の昨年10月9日から1ヵ月間の時間外労働は、105時間におよび、睡眠が1日2時間というときもありました。上司から「君の残業時間は会社にとって無駄」「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」「女子力がない」などの言辞でパワハラも受けていました。

こうした悲惨な事件に武蔵野大学・長谷川秀夫教授が、Facebookで「月当たり残業時間が100時間を越えたくらいで過労死するのは情けない。会社の業務をこなすというより、自分が請け負った仕事をプロとして完遂するという強い意識があれば、残業時間など関係ない」とコメントをしたことが大きな批判を招いています。

“ぎるすた”というハンドルネームの女子学生がツイッターでこの冷酷なコメントに「この国は本当にどうしようもないとつくづく思う」と嘆いています。今夜7時50分現在、このツィートに対する「リツイート」は2万3674件、「いいね」は1万2048件に達しています。長谷川氏のFacebookは炎上して、上記の書き込みは削除されたようです。

それにしても酷い言い方です。電通では1991年に大嶋一郎さん(24歳)が過労自殺した事件がありました。死亡前の月平均残業時間は147時間にも上りました。電通青年過労自殺として知られるこの事件では、2000年3月24日に最高裁が使用者の労働者に対する健康配慮義務を厳しく問う以下のような判決を出しています。

「労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして、疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである。/使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり、使用者に代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は、使用者の右注意義務の内容に従って、その権限を行使すべきである」。

長谷川氏はこの判決をご存じなのでしょうか。武蔵野大学の教員情報によると。彼は1989年には東芝アメリカ情報システム社の財務部長となり、2001〜2002年には東芝アメリカ医用システム社の取締役になっています。その後、2002〜2005年は株式会社コーエー執行役員、2006〜2007年はニトリ取締役も務めています。いまはグローバル学部グローバルビジネス学科の教授のようですが、根っ子はプロの経営者です。同じことを弁護士や社会保険労務士が言ったら懲戒処分を受ける恐れがありますが、学者や経営者なら何を言っても許されるわけではありません。

まつりさんの過労死事件が報じられた今月8日の朝刊には、過労死防止法にもとづく最初の「過労死白書」が発表されたという記事が出ています。防止法には、過労死は「本人はもとより、その遺族又は家族のみならず社会にとっても大きな損失である」と書いています。法にもとづいて策定された「過労死防止大綱」には、「法が成立した原動力には、過労死に至った多くの尊い生命と深い悲しみ、喪失感を持つ遺族による四半世紀にも及ぶ活動があった」と述べられています。長谷川氏がこの法律や大綱を知っていたなら、たとえそれに不同意でも、上記のような非常識で恥知らずのコメントはしなかったのでないでしょうか。

長谷川氏が払った代価は本人が考える以上に大きいと思われます。今後、彼を役員として登用する大企業はないでしょう。政府の諮問会議や審議会などの重要機関に声がかかることもないでしょう。今年のブラック企業大賞は電通で、ブラック教授大賞は長谷川秀夫氏で決まりでしょう。
 

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政府は、本年6月2日に「ニッポン一億総活躍プラン」を、また8月2日に「未来への投資を実現する経済対策」をそれぞれ閣議決定しました。いずれにおいても「最大のチャレンジ」と位置づけられているのは「働き方改革」です。

この働き方改革構想に掲げられている、「同一労働同一賃金の実現」についてはこの連続エッセイの第312回で、「最低賃金の引き上げ」については第313回で、「勤務間インターバルの導入」については第309回で取り上げました。

そこで今回は、政府のいう働き方改革で最も注目される「長時間労働の是正」のための「36(サブロク)協定の再検討」について、真偽のほどを見てみたいと思います。すでに取り上げた「勤務間インターバル」についても関連する範囲で触れます。

労働基準法では、法定労働時間(使用者が労働者に命ずることのできる最長時間)を、1週40時間、1日8時間と定めています。しかし、同じ法律の36条で、労使協定を結んで労働基準監督に届け出れば、法の定めにかかわらず時間外および休日に働かせても罰せられないことになっています。労基法が「ザル法」と言われる所以です。そのために青天井と言われる無制限の残業(時間外労働)がはびこってきました。

これではあまりにひどいというので、労働省(現厚生労働省)は1998年に残業の限度に1週間15時間、1ヵ月45時間、1年360時間などの基準を設けました。しかし、これは強制力のない目安で、協定の特別条項の但し書きに「業務の繁忙」「納期の切迫」などの事由を付記しさえすれば、いくらでも延長できるという抜け道が認められています。そのために過労死ラインを優に超える月100時間超あるいは年1000時間超の36協定を結んでいる企業も少なくありません。

長時間労働を是正するには36協定の見直しを避けて通ることはできません。野党共同提案(本年4月19日)の「長時間労働規制法案」は、36協定による労働時間の延長に上限を規定し、具体的な時間については、「労働者の健康の保持及び仕事と生活の調和を勘案し、厚生労働省令で決定する」としています。すぐにも実行可能な限度時間としては、現行の残業の限度に関する指導基準を強制力のある基準にするという選択肢もあります。政府がいうように「欧州諸国に遜色のない水準を目指す」なら、週労働時間は残業を含めて48時間まで、1日の残業は2時間までとすることが望ましいでしょう。

先に政府の働き方改革プランは「36(サブロク)協定の再検討」を謳っているかのように書きました。しかし、これは不正確です。正確には「長時間労働の是正については、労使で合意すれば上限なく時間外労働が認められる、いわゆる36(サブロク)協定における時間外労働規制の在り方について、再検討を開始する」と述べています。

これは現行の36協定の認識からして誤っています。36協定は時間外労働の規制を定めたものではなく、1週40時間、1日8時間の労働時間規制の抜け道、したがって時間外労働の無規制を定めたものです。そこにはこだわらず、36協定のあり方について、再検討を開始するとしても、肝心の再検討の方向性は示されていません。

長時間労働の是正で挙がっている「勤務間インターバルの導入」については、その方向性はすでに見えています。それは、法的規制によらずに、助成金方式で企業による自発的導入を促進するというものです。

これから推し量れば、36協定の再検討においても、政府・厚生労働省は、法的強制力をともなう残業規制ではなく、労働時間の決定をあくまで労使自治に委ね、残業時間に関して多少ともましな36協定を結んだ企業に対して助成金などで優遇する方式でお茶を濁そうとしているのではないでしょうか。障害者雇用制度においては、法定雇用率(常用労働者数の2%)を達成していない企業から納付金を徴収し、それを元に、法定雇用率を達成している企業に対して、調整金、報奨金などを支給することになっています。この例からいうと金銭的誘導を併用する余地はありますが、それが有効な奨励策となるには、法定雇用率のように法律で規制の基準が定められている必要があります。

厚生労働省は、これまで要綱や指針のかたちで過重労働対策を次々と打ち出してきながら、残業の上限規制については一貫して慎重に回避してきました。36協定の見直しや勤務間インターバル休息制度についても、それが長時間労働の解消において実効性をもつかどうかは、法的規制に踏み出すかどうかにいつにかかっています。

この点では私たちは残業時間の法的規制に踏み込む改革にイエス!、踏み込まない改革にノー!の声を上げるべきです。
 

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最低賃金は法律にもとづいて決定される賃金の最低額(1時間の賃金=時給)です。略して「最賃」といいます。最低賃金制度の下では使用者は労働者に国が定めた最低賃金以上の賃金を支払わなければなりません。最賃を下回る賃金しか支払わなかった場合には、それが労使の合意に基づくものであっても無効とされ、最賃との差額を支払わなくてはなりません。使用者が最賃より低い賃金で労働者を働かせると違法となり、罰則(50万以下の罰金)が科せられます。あなたの賃金をチェックし、時給(月給なら月々決まって支払われる賃金÷1ヵ月の所定労働時間)が最賃を下回る場合は、労基署にその事実を申告(通報)してください。

最低賃金法は、「賃金の低廉な労働者について、賃金の最低額を保障することにより、労働条件の改善を図り、もつて、労働者の生活の安定、労働力の質的向上及び事業の公正な競争の確保に資するとともに、国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする」(同法第一条)と規定しています。最賃制は、生活保護制度とともに、憲法25条に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と謳われている生存権を保障する制度です。

最賃制が機能するには、賃金の最低額を定めるだけでは不十分です。最賃の基準となる最低生活費は、生活様式の変化や物価の動向によって上昇する傾向があります。それゆえに最賃制は、最低生活費の変化を考慮して賃金の最低額を年々引き上げる措置をともなって、はじめて有効に機能します。

日本では、厚生労働相の諮問機関である「中央最低賃金審議会」が、政府の政治的判断を受けて、地域最低賃金(時給)の全国平均(過重平均)をどれほど引き上げるかを答申します。これを受けて、都道府県の最低賃金審議会が各地域の最低賃金を、たとえば東京907円、大阪858円、愛知820円、北海道764円、沖縄693円(16年8月現在)などと決めます。

最賃は、労働組合と経営者の交渉によって決まる賃金ではありません。最賃はパートタイム労働者の時給相場に左右される面がありますが、労働市場の需給関係によって自然に決まるというものでもありません。最賃は、資本主義経済においてはめずらしく、政治的に決まる賃金なのです。

政府が現在約800円(細かくいうと798円)の全国平均を50円(6.3%)上げると言いさえすれば、850円になるのが最賃です。毎年、これと同じ比率で上げれば、4年後には全国平均は1000円になります。しかし、安倍内閣は「一億総活躍プラン」にそって最賃を年率3%引き上るように指示し、それを受けて、7月28日、中央最低賃金審議会は全国平均を24円(昨年は18円)引き上げることを決めました。来年度以降も同様に引き上げるかは不確かですが、たとえ実行されても年率3%の引き上げでは、全国平均が1000円になるのは8年先です。アメリカの15ドル運動の影響を受けて、日本でも時給1500円の要求が広がっています。3%ではその実現は22年先ですが、安倍内閣は1000円から先のことは何も言っていません。

最賃制があり、賃金の最低額が引き上げられると、いくぶんなりとも貧困と格差を改善し、生活水準の底上げを可能にします。また全体の賃金水準を引き上げて個人消費を拡大する効果もあります。

しかし、企業は賃金をそれを下回れば違法となる最賃レベルまで引き下げようとします。そのためにパートタイム労働者だけでなく、初任給レベルの若年正社員についても、時給はぴったり最賃か、最賃に限りなく近いレベルに貼り付けられる傾向があります。

また、たいていの国では最低賃金は全国一律ですが、日本では地域別最低賃金になっていることも問題です。たとえば、2016年8月1日現在、ワタミ(飲食)の「清掃・仕込みスタッフ」の時給は大阪では858円、京都では807円となっています。これはそれぞれの地域最賃と同額です。

最賃は国が定める賃金でありながら、地域間で格差があることも問題です。東京と沖縄の差は、2005年度から2015年度のあいだ106円から214円に拡がっています。最賃が貧困と格差を是正する役割があるとするなら、最賃は全国一律に引き上げられるべきです。これには法改正を要しますが、全国一律最賃制の実現を粘り強く要求していくべきです。

「維新の会」は、12年12月の総選挙に際し、最賃制の「廃止」を打ち出したことがあります。最賃制をなくせば雇用が増えるというのです。たとえば、最賃が850円なら10人しか雇えない企業でも、最賃制が廃止され時給が600円に下がれば、14人雇えるようになると言おうとしたのでしょう。しかし、600円では最低生活さえできないことは無視されています。最賃制がなくなれば、時給が500円、さらには400円に引き下げられる恐れがあることも考慮されていません。あまりの暴論で有権者の不評を買ったためにすぐに引っ込められましたが、こういう乱暴な最賃無用論は労働経済学者のあいだにもあります。

日本では非正規労働者が全労働者の4割を占めるまでなり、低賃金労働者の貧困がかつてなく深刻な問題になっています。それだけに最低賃金の大幅な引き上げが差し迫った重要な課題になっています。

*最低賃金の仕組みや、時給計算の仕方については厚生労働省のネットパンフ「必ずチェック 最低賃金(http://pc.saiteichingin.info/)を見てください。

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政府は本年6月2日、「ニッポン一億総活躍プラン」を閣議決定しました。このプランが目新しいのは、これまで安倍内閣の金看板になってきた「働き方改革」のなかに、「同一労働同一賃金の実現」という宣伝文句が入っていることです。

これについては労働界も政府の雇用改革に批判的な人々も、実効性は疑わしいと留保しながら、おおむね「原則賛成」「一歩前進」と評価しています。「同一賃金の実現」が、現在の性別・雇用形態別の賃金格差の是正・解消を意味するとすれば、何も異を唱える必要はありません。しかし、私はそうした評価はあまりにあますぎると思います。

まず確認しておく必要があるのは、雇用労働の規制緩和論からの「同一労働同一賃金」論は、けっして新しいものではないことです。政府・財界寄りの労働経済学者で雇用改革の旗振りをしてきた八代尚宏氏は、ずっと以前から経済成長のための「年功賃金の解体」と「雇用の流動化」の切り札として「同一労働同一賃金の実現」を提唱してきました。彼の定年制不要論も「同一労働同一賃金」を前提としています。この場合の「同一労働同一賃金」は、労働市場をもっと流動化して、正規労働者の賃金を非正規労働者の賃金水準に引き下げろという主張にほかなりません。今回の「一億総活躍プラン」における「同一労働同一賃金の実現」も、この間の働き方改革における「究極の成長戦略」として出てきたものです。

非正規労働者の多くはパートタイム労働者です。アルバイトも低時給の細切れ雇用である点でパートタイム労働者に含まれます。正社員とパートの「均等待遇」をもって「同一労働同一賃金の実現」というなら、それがいかにまやかしかはすでに明白になっています。

パートと正社員の差別的待遇を禁じた改正パート労働法が昨年4月に施行されました。しかし、、この法律は職務内容、仕事の責任、転勤、配置転換、異動範囲などが同程度のパートと正社員のあいだの「均等待遇」を求めるにすぎず、この法律によって正社員との同一賃金が実現するのは、940万人のパートのうち32万人(3%)にとどまると見積もられています(「毎日新聞」本年2月12日)。

同一賃金の比較基準となるのは時間賃金(月給制の場合は月々決まって支給される賃金を1ヵ月当たりの所定労働時間で除して求められる時給)です。この時給には、諸手当や社会保険料の事業主負担分などの付加給付と賞与(ボーナス)は含まれません。仮にパートも正社員も1000円の時給で同一賃金だとしても、実際には正社員はそれに加えて付加給付や賞与でふつう1時間当たり400円〜600円の追加支払いを受けていると考えられます。かりにその追加分を500円とすると、年収ベースでは年間1200時間働くパートは120万円ですが、年間2000時間(残業は度外視)働く正社員は300万円となります。これが同一賃金の実例です。実際には正社員にはサービス残業(賃金不払残業)がついてまわる一方、初給・昇進の可能性がある、また勤続年数に応じて退職金も支払われるなど、複雑な事情があります。だとしても、同一労働同一賃金は、格差解消の万能薬でも切り札でもありません。

同一賃金や格差解消をいうなら、現行の地域別最低賃金(東京907円、沖縄693円)を全国一律最低賃金に改めることが先決です。賃金は労働市場の需給関係に左右されますから、地域によって格差があるのは当然です。しかし、この格差を是認するのではなく、すくなくともこれ以下では働かせてはいけないという最低基準だけは全国共通にして、賃金格差をなるべく小さくするのが最低賃金制の役割の一つです。先進国では国の最低賃金制度は全国一律になっているのもそのためです。

同一労働同一賃金が実効性のある有効な格差是正策となるためには不本意な長時間労働と不本意な短時間労働がともども解消されることが先決条件です。これについては「一億総活躍プラン」における「長時間労働の是正」を検討する際に取り上げましょう。

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厚生労働省は6月24日、2015年度の「過労死等の労災補償状況」を公表しました。過労死等防止対策推進法(過労死防止法)が成立したのは2014年6月、施行されたのはその年の11月でしたから、2015年度は施行後最初の年度でした。それだけに過労死・過労自殺がどういう状況になっているか注目されていました。

図1に示したように2015年度の労災請求件数は、過労死(脳・心臓疾患)が795 件で前年度比32 件の増(うち死亡事案は283件で41件の増)となっています。また過労自殺(精神障害)は1,515 件で前年度比59 件の増(うち死亡事案は199件で14件の減)となっています。

過去数年を見ると、労災請求件数は、過労死では高止まりで推移していますが、過労自殺では13年度、14年度、15年度と3年度連続で過去最高を更新しています。過労自殺は全年齢層で増えているとはいえ、過労死と比べると、比較的若い世代で多発している点で特別に深刻な問題をはらんでいます。

いずれにせよ防止法の施行によって過労死・過労自殺への関心が高まり請求件数が増えた可能性はあるかもしれませんが、施行後の取り組みによって過労死・過労自殺(死亡事案以外を含む)が減少に転じたと言えるような兆候は見出せません。

労災認定率(年度内に「業務上」か「業務外」かの決定が出た件数に占める労災支給件数の割合)は、前年度比で過労死が43.5%から37.4%(うち死亡は49.4%から39.0%)に、過労自殺が38.0%から36.1%(うち死亡は47.1%から45.4%)になっており、それぞれ少なからず下がっています。この事実は、もともと「高い壁」と評されてきた過労死・過労自殺の労災認定が、防止法施行後、前より容易になったどころか、むしろ困難になっていることを示唆していると解釈することもできます。

業種別には2015年度の過労死の労災請求件数で最も多いの道路貨物運送業です。図2に見るように、2011年度から2015年度の5年間の累計をとっても、過労死の最も多いのはやはり道路貨物運送業です。道路旅客運送業も第4位で過労死多発業種であることがわかります。運送業は図2で2位と6位に挙がっている建設業とともに36協定における時間外労働の延長の限度時間が適用除外になっている業界です。便宜的に設けられている拘束時間、休息時間、運転時間などに関する「改善基準」は、過労死ラインを超える時間外労働を容認しており、まやかしでしかありません。

過労自殺で2015年度の労災請求件数が最も多い業種は「社会福祉・介護事業」*です。図3で過去5年間の累計を見ても、社会福祉・介護事業が突出しています。安倍内閣は親や家族の介護のためにやむをえず仕事を辞める「介護離職」をなくすと言っています。しかし、介護職場が長時間過重労働と低賃金を絵に描いたような酷い状況にあり、介護労働者の離職率が著しく高いために、介護施設は深刻な人員不足に陥っています。緊急に改善措置を講じなければ、介護労働者も介護施設利用者も救われません。

運送業や介護事業にかぎらず異常な長時間労働がはびこっている現状を変えないかぎり過労死・過労自殺をなくすことはできません。そのためにも時間外労働(残業)の上限規制や、仕事と仕事の間に最低の必要休息時間(EUでは11時間)を確保するインターバル規制を導入するための法改正が求められています。

*厚労省の資料では「日本標準産業分類」の「社会保険・社会福祉・介護事業」とされています。ここの分類は社会福祉・介護事業に関連する社会保険関連事業も含んでいますが、ここではわかりやすく「社会福祉・介護事業」と表記しました。なお、福祉・介護分野にかぎらず「公務災害」として取り扱われる公務労働者の過労死・過労自殺は厚労省の労災関連資料の対象になっていません。

 

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