森岡孝二の連続エッセイ - 最新エントリー

 <3本の毒矢>

9月8日の労働政策審議会(労働条件分科会)に働かせ方改悪法案の要綱が示されました。当日の議題では「働き方改革を推進するための関係法案の整備に関する法律案要綱」となっています。法案は9月下旬に召集予定の臨時国会に提出し、来年4月の施行を目指すと報じられています。例によっていろいろ化粧が施されていますが、労働時間制度の改革は、^貭蠅力働者を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ制)」の創設。∀使で定めた一定時間以上は労働時間と見なされず、残業代も支払われない裁量労働制の営業職への拡大、2疣死するほどの長時間労働を法律で認める時間外労働(残業)の上限設定の三つ――「3本の毒矢」――からなっています。

<一本化で一括改定>

´△呂垢任法2015年3月の労政審で取りまとめられたあと、同年4月に国会に上程されて、もう2年余り審議入りができないままになっています。は本年3月の政労使合意を受けて、6月5日の労政審で議決されています。今回の労政審では上程済みの´△鬚い辰燭鷦茲蟆爾欧董△△蕕燭豊´△鉢を一本化し、他の働き方改革の関連項目と合わせて計8本の法案として上程し、一括改定する方向が打ち出されました。

<連合のちぐはぐな対応>

連合はの残業の上限設定にはすでに合意しています。´△旅皀廛蹇∈枸模働制についても、一時は条件付きで合意する動きがありましたが、組織内外の反対の声が大きく、以前の反対姿勢に戻りました。そこで現時点では、´△砲枠紳个垢襪垢襪、は反対しない、したがって一本化は受け入れられないという立場をとっています。しかし、もともと政府の狙いは三つの毒矢をセットにした労働時間制度改革でしたから、は賛成だが´△枠紳个箸いΔ里鰐詰筋の感があります。労働界だけでなく、法律家やマスメディアの一部にも、´△鮖超箸燭斉き助長案、を残業規制案とみなして、両案は相容れないものなので一本化すべきではないという意見もあります。しかし、これは政府・厚労省のいう残業の上限設定の危険性をみない謬論です。

<上限規制は高プロ制から派生>

振り返ると、過労死弁護団全国連絡会議や全国過労死を考える家族の会の運動が実って、2014年6月20日、過労死防止法が成立しました。政府はその4日後に閣議決定した「日本再生戦略 改訂2014」において、過労死防止の流れに逆行して、過労死を助長する恐れのある「新たな労働時間制度」の創設を打ち出しました。それが2015年3月の労政審に諮られ、柱の一つが「高プロ制」と名付けられました。また、その創設によって、労働時間規制から外される労働者に対する措置として、労働時間に代わる「健康管理時間」の範囲設定、前日の終業から翌日の始業までの一定の休息時間の確保、年間104日以上の休日確保などが示されました。こういう経過に照らすと、昨年急に浮かび上がった「時間外労働規制」の上限設定は、「高プロ制」で想定されていた健康管理時間の範囲設定から派生したものと言えます。

<月100時間未満の残業でも過労死が多発>

今回の働かせ方改悪法案は、残業の上限設定にいわゆる過労死の労災認定基準――おおむね単月100時間、2〜6ヵ月の月平均80時間の残業――を持ち出しています。これは発想からして間違っています。この数字は、これだけの残業をしていたことが証明されれば、過労死が労災と認められやすいということを意味しています。しかし、厚労省の労災補償データで見ると、近年の脳心臓疾患の労災認定(支給決定)件数の約半数は月100時間未満の残業で起きています(死亡事案では2015年度は57%、2016年度は56%が100時間未満)。ストレスやパワハラなどの心理的負荷が大きな要因となる精神疾患の場合は、全体の3割強が月60時間未満の残業でも労災として認定されています。

<過労死の労災認定と企業補償が困難に>

これまでは、たとえ月70時間の残業であっても、過労とストレスによる健康障害の事実が明らかであれば、労災として認められています。しかし、働かせ方改悪法案が通れば、企業側は、残業は単月100時間未満、月平均80時間以内であり、法定基準を守っていたと主張するでしょう。そうなると、労災認定の壁が高くなり、たとえ労災として認定されたとしても、企業責任を問う損害賠償請求訴訟は困難になる恐れがあります。

<労働時間の直接規制を緩和する>

労働時間の規制には上限を定めて制限する直接規制と、割り増し付き残業代の負担で制限する間接規制があります。ここであらためてはっきりさせるべきは、政府・厚労省がいう「時間外労働規制」は、規制強化を装ってはいるものの、労働時間の直接規制の緩和にほかならないということです。法案要綱の「時間外労働規制」は、1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超える残業の限度については棚上げして、残業の上限を原則として月45時間、年360時間とすることを法律で定めるといいます。問題はこの場合も従来の36協定(時間外・休日労働協定)の特別条項が温存され、「臨時的な特別の事情がある場合」は、単月100時間未満、2〜6ヵ月の月平均80時間以内、年720時間以内(休日労働を含めれば960時間)の残業は認める制度設計になっていることです。これは法定労働時間を掘り崩し、労働時間の直接規制に大穴を開けることを意味します。

<労働時間の間接規制も緩和する>

もちろん、労働時間の直接規制が緩和された場合も、残業代の支払い義務という労働時間の間接規制は残ります。しかし、この間接規制にも大きな問題があります。現状でも賃銀不払残業(サービス残業)の横行や、名ばかり管理職の乱用や、裁量労働制の適用拡大や変形労働時間制の運用によって、残業代の支払い義務の対象労働者が狭められています。各種の調査によれば正社員の3割は残業代の一部または全部が支払われていません。そのうえ、残業代の計算には賞与や諸手当が入らないので、現行の残業代の割り増率(通常25%)では、企業は残業を満額払っても、仕事量が増加した場合、新規に人を雇うより、現在いる労働者に残業をさせた方が安くつくという問題もあります。そこへもってきて、今度は高プロ制で一定の労働者を労働時間規制の対象から外し、使用者の労働者に対する残業代の支払い義務を免除しようとしています。これは労働時間の間接規制に大穴を開けるものです。対象となるのはとりあえず賃銀の高い専門的業務に従事する労働者に限られることになっていても、いったん通れば対象がどんどん拡大されていくことは、労働者派遣法の例を見ても明らかです。

<強行突破を許さないたたかいを>

結論から言えば、今回の働かせ方改悪法案は、労働時間の直接規制と間接規制をともども掘り崩す点で、労基法改悪の総仕上げを意図しています。それだけに、高プロ制の創設や裁量労働制の拡大の危険性だけでなく、過労死ラインの長時間労働を法律で認めることの危険性も明らかにして、反対世論を盛り上げ、支持率の下がった安倍内閣による強行突破を許さないたたかいを起こすべきときです。

<過労死防止の流れをさらに大きく>

過労死防止法が制定され、過労死防止大綱が策定されて、過労死の調査研究や啓発の取り組みが進んでいます。毎年11月には全国各地で啓発シンポジウムが開催され、年間を通じて弁護士や過労死遺家族による中学・高校・大学等での過労死防止とワークルールに関する啓発授業が実施されています。そういうなかで、昨年10月、第1回「過労死白書」の公表された日に、電通新入社員の高橋まつりさんの過労自殺事件が発表され、それを機に長時間過重労働と過労死に対する世論の関心が高まり、厚労省の監督指導が強化され、マスメディアの報道もよく目にするようになりました。この流れをさらに大きくするためにも、働かせ方改悪法案を阻止しなければなりません。

<労基法の原点に立ち返る>

蛇足ながら、最後に労基法について言い添えます。過労死防止は喫緊の課題ですが、労基法の原点に立ち返っていうなら、残業の上限規制は過労死の防止のみが目的であってはなりません。労働時間の規制は、憲法でいう「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障するもの、労基法でいう「人たるに値する生活を営むための必要」を充たし、「健康および福祉の確保」を旨とするものでなければなりません。本年4月16日の東京新聞社説は、今年が労基法公布から70周年に当たることに触れて、公布から一年後に出版された『労働基準法解説』における、当時の労働省労働基準局課長、寺本廣作氏の一文を引用しています。労基法の労働時間規制にはザル法といわれる欠陥がありますが、この文章は制定時の労基法の高い志を語ったものとして、今でも傾聴に値します。

「民主主義を支えるものは究極において国民一人一人の教養である。国民の大多数を占める労働者に余暇を保障し、必要な物質生活の基礎を保障することは、その教養を高めるための前提要件である。労働基準法は労働者に最低限度の文化生活を営むために必要な労働条件を保障することによってこうした要件を充たし、我が国における民主主義の根底を培わんとするところにその政治的な制定理由を持つ」。
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 今野晴貴『君たちはどう働くか』 皓星社、1200円+税

POSSE Vol.31 2016年6月号

本誌の読者にはいうまでもないが、著者は若者を中心に多数の労働相談を受けるNPO法人POSSEの代表である。まだ大学院に在籍する若手研究者でありながら、大佛次郎論壇賞を受賞した『ブラック企業――日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)のほかに、『ブラック企業ビジネス』(朝日新書)、『求人詐欺――内定後の落とし穴』(幻冬舎)、『ブラックバイト――学生が危ない』(岩波新書)など、多数の本を著している。

著者がいうように、文部科学省によると今日では高校進学率が九七%に達し、中学校卒業と同時に社会で働く人は三%にすぎない。本書はそういう中学生だけでなく、これから高校に進んで、あるいはやがて大学を出て、アルバイト(バイト)をするか就職をするだろう中学生に向けて、働くとはどういうことか、またどう働けばいいのかを助言するために書かれた。すでに働いている若者や親や教師が読んでも役に立つ働き方の手引き書である。

著者は、第1章で人々の働き方に関心を持つにいたったきっかけを自ら語っている。はじめは、中学生のころに男女雇用機会均等法が改正されたニュースに接し、日本の会社では男女が平等ではないことに疑問を持つようになった。高校では、経済や政治の本をよく読み、テレビのドキュメンタリー番組をやたらと観ていた。大学では、法学部の三年生のときに「働くすべての人々にかかわる」労働法のゼミナールを選択することで、「労働」と出会った。そしてまだ大学生だったときにPOSSEを立ち上げ、いまはその活動を続けながら大学院で「労働社会学」を研究しているという。

本論ではまず、人はおとなになったらどうして働かなければならないのかを考える。「お金を稼ぐため」とか「家族のため」とかいうこともあるが、社会は労働で成り立っていることからいえば、結局、昔から人は「生きるため」に働いてきたのである。しかし、少し読み進むと、今のように会社に雇われて賃金を得るという働き方は、多くの人が自分の労働力を労働市場で商品として売るよりほかには生きる術がなくなった資本主義の時代に広まったもので、人類の歴史のうえでは比較的新しいということも分かる。

どのスポーツも最低限のルールを知らなければ、参加することはおろか、観戦することさえおぼつかない。働くことにも学んでおくべき「ルール」があって、そのために一連の労働法が国によって定められている。それらをすべて覚える必要はないが、最低限のルールを知っていないと、不当に長く働かされたり、ただ働き残業をさせられたりして、ひどい場合には「過労死」させられることもある。会社の求人には、ウソが交じっていることが多く、賃金が高いと書かれていたので就職したら、基本給に長時間の残業代を組み入れていたという会社もある。

雇われなくては生きていけない労働者は、労働時間や賃金に不満があっても、個人では立場が弱く、会社のいうなりに働かされやすい。もともと弱い立場の労働者を守るために、国は労働契約法、労働基準法(労基法)、労働組合法、労災保険法(労働者災害補償保険法)などの労働法で、「働くルール」を定めている。労働契約法は雇う側と雇われる側との守るべき「約束」について取り決めている法律である。労基法は、使用者(会社)が守るべき労働条件の「最低基準」を定めている。労基法では、1日8時間、1週40時間を超えて働かせてはならず、それを超えて時間外労働(残業)をさせる場合は、通常の賃金の二五%以上の率で計算された割増賃金を支払わなければならない。こういう義務を使用者に守らせるための「警察」の役割を持った機関が労働基準監督署(労基署)である。労基署が監督指導をしても、事業所の数に比べて監督官が不足しているという事情もあって、違法な労働条件が改善されないことも多い。ことに労働者がバラバラでは会社側が圧倒的に強く、労働者の権利は守られにくい。しかし、労働者が集まって団結すれば、使用者と「対等」に交渉できるようになる。このように労働者が使用者との交渉において対等の立場に立って労働条件を自ら改善することを可能にするために制定された法律が労働組合法である。

法律の専門家である弁護士も、働く人のトラブルの解決には関わるが、経営側の弁護士と労働側の弁護士とでは自ずと立場が異なる。それゆえに、「弁護士に相談するときは、労働側の弁護士に」が第一原則である。労働法でたとえ労働者の権利がうたわれていても、労働者が労基署に申告するとか、組合に入って交渉するとか、裁判を起こすとかして実際に権利を行使しなければ、権利は守られない。組合には労働者であれば誰でも、たとえ一人でも入れる。

原則として、会社は児童・生徒を満一五歳に達して中学校を卒業するときまでは労働させてはならない。しかし、中学を出たあとは、雇って働かせることができる。中卒ですぐに働く人も少数ながらいるが、多くの人は高校のバイトではじめて労働を体験する。大学ではバイトをしない人のほうが少ない。ところが最近ではパートやバイトなどの非正規労働者が全労働者の四割を占めるまでになり、大学生や高校生のバイトでも、契約の内容を無視したり、無理な働かせ方をしたりするブラックバイトが増えて、社会問題になっている。なかには辞めたいと言っても辞めさせてもらえず、結局、辞めるまで何ヵ月も連続で休みなく働かされたというケースもある。仕事のマニュアル化が進み、以前なら正社員がやっていた仕事を最近ではバイトがやらされるようになるなかで、コンビニや飲食サービスなどのバイト先で嫌がらせやパワハラを受ける事例も増えている。バイト先で不当に低い時給で過剰な残業やただ働きをさせられたり、いやな目にあったりしたときにはどう対処すればいいのか。これはバイトに限らず、正規に就職した場合にも言えることであるが、本書によれば次の三つのことを知っていて実行すれば、なんとか身を守ることができる。

その1 「自分が悪い」と思わないこと。

その2 記録をとること。

その3 労働側の専門家に早く相談すること。

辞めて再スタートを切ることもわが身を守る一つの選択肢である。本書の最後には、働く前に覚えておきたい25の重要なルールも示されている。そのなかには、「働く人を解雇するときには、誰が見ても納得できるような理由がなくてはならない」というルールや、「同じ会社で、半年間働いた人には、基本的に(パートやバイトであっても)有給休暇を与えなくてはならない」というルールもある。

近年では、小中学校から大学にいたるすべての教育段階で学校教育と職業社会を結ぶ「キャリア教育」の必要性が唱えられている。しかし、文部科学省のホームページや発行物を見るかぎり、現在推奨されているキャリア教育は、子どもたちに「自分らしい生き方を実現するための力」を身につけることを求めてはいても、子どもたちが社会に出て求められる労働や健康や安全に関する知識をおろそかにしている。この点でブラック企業やブラックバイトを見きわめる力を身につけることに主眼をおいた本書の教材としての利用価値は大きい。

本書では触れられていないが、二〇一四年六月に、超党派の議員立法で「過労死等防止対策推進法」(略称・過労死防止法)が成立した。同法の第九条は「国及び地方公共団体は、教育活動、広報活動等を通じて、過労死等を防止することの重要性について国民の自覚を促し、これに対する国民の関心と理解を深めるよう必要な施策を講ずるものとする」と定めている。またこの法律にもとづいて閣議決定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」は、「過労死等にも至る若者の『使い捨て』が疑われる企業等の問題など、劣悪な雇用管理を行う企業の存在と対策の必要性」を強調し、「特に若年者を対象とする教育活動を通じた啓発が必要である」として、「中学校、高等学校等において、勤労の権利と義務、労働問題、労働条件の改善、仕事と生活の調和(ワークライフバランス)について理解を深める指導がしっかりと行われるよう、学習指導要領の趣旨の徹底を図る」とも述べている。これに照らしても、中学生という早い段階から「君たちはどう働くか」を説く本書は、いま書かれるべくして書かれた働き方の手引きと言えよう。(転載が1年以上遅れてすみません)

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『劣化する雇用 ビジネス化する労働市場政策』旬報社、1,600円

伍賀一道ほか編著 執筆者=脇田 滋、森 巌、後藤道夫ほか

「しんぶん赤旗」 2016年8月7日

この本は雇用問題の専門家と、厚労省の本庁や労基署や職安で働く職員で組織された労働組合の活動家によって書かれた。そのために近年の労働市場の急激な変貌が手に取るように描かれている。

「劣化」という言葉は「低下」と「悪化」を合わせた意味を持つ。タイトルには、労働市場が人材ビジネスの草刈り場になり、労働基準の底が抜けるほど雇用の質が低下し、労働者階級の状態が悪化したという認識が示されている。

第犠呂蓮▲僉璽函▲▲襯丱ぅ函派遣、その他の非正規労働者が全労働者の約四割、女性では約六割を占めるまで増えた背景を、「雇用維持」から「労働移動」に舵を切り替えた「労働市場政策」に焦点を合わせて考察している。

第蕎呂蓮雇用形態の多様化と労働市場の流動化につれて、人材ビジネス業が繁盛し、労働移動支援の助成金を食い物にした「リストラ指南」まで現れ、求人・求職情報の人材ビジネスへのオンライン提供や、職業紹介業務のオンライン化が進んでいることを明らかにしている。

第珪呂蓮安倍内閣のいう「失業なき労働移動」の実像を抉り、労働者派遣法の再三の改定による派遣利用の拡大・固定化と、ジョブ・カード」「キャリア・コンサルタント」などの職業能力評価の新手の手法を暴いている。

最後の第絃呂蓮⇔票舛文柩僂鯀禄个垢襪燭瓩力働市場政策のあり方を説いている。

読み終わり、新自由主義的規制緩和で雇用も雇用政策も劣化して、使用者には働かせやすいが、労働者には働きづらい世の中になったものだと痛感した。この現状を変えるためにもぜひ一読されたい。(1年遅れの転載ですみません)

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 竹信三恵子著『正社員消滅』朝日新書、760円+税

2017年4月23日 「しんぶん赤旗」

安心・安定が消える働き方の実相

著者は労働現場を取材してきた元朝日新聞記者。今は大学で現代社会を教えている。

書名の「正社員消滅」には二つの意味がある。ひとつは非正社員化による文字通りの消滅。もうひとつは正社員の「安心・安定」の消滅。

第一の意味の消滅なんてありえないと思うかもしれないが、今では正社員が消えた職場が多い。パートが基幹労働力になって、スーパーやコンビニでは、店長もパートという店舗が増えている。

雇用形態が多様化して、➀中核正社員、⊆辺正社員、2鮓曚靴笋垢じ堕蠕擬勸(職務、勤務地、労働時間の限定)、ぅ僉璽肇織ぅ猩働者、ゥ▲襯丱ぅ範働者、Ψ戚麩働者、派遣労働者、┯朕誉蘇蚣働者などの雇用身分に分化している。

読み進んでいくうちに、日本の雇用が酷い状態になっていることに驚かされる。30年前に雇用の行方について考えたとしても、ここまで劣化するとは誰も予想しえなかったのではないだろうか。

正社員の追い出しや転職も今ではビジネスである。労働移動支援助成金をもうけのタネにした「リストラ指南」が繁盛し、公共職業安定所(ハローワーク)の情報の人材会社への提供も、政府の胆入りで始まっている。派遣会社の転職支援で辞めた会社に「派遣で戻る」という例もある。

これが「非正規という言葉をこの国から一掃する」と豪語した安倍首相の「働き方改革」の実相である。

政府は残業規制の名の下に過労死ラインの残業を法認ししようとしている。それが長時間残業とパート就労に及ぼす影響を考えるうえでも一読に値する本である。

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 エコノミスト 2017年2月28日号

北健一『電通事件――なぜ死ぬまで働かなければならないのか』旬報社、1,000円+税 

なぜ死ぬまで働かなければならないのか

昨年10月に電通新入社員、高橋まつりさん(当時24歳)の過労自殺事件が公表された。その衝撃はいまだに収まらない。若者の過労自殺が続発しているなかで、この事件が大きな関心を呼んだのはなぜか。本書にはその答えがある。

著者は、電通の歴史や世評を跡付け、元社員、現社員、弁護士、医師、研究者、監督官、過労死家族などに取材し、事件の全容をジャーナリストの目で丁寧にまとめている。

この会社では1991年にも大嶋一郎さん(当時24歳)がひどい長時間労働とパワハラで過労自殺した事件があった。その裁判では、2000年3月24日、最高裁が使用者の労働者に対する健康配慮義務を厳しく問う画期的判決を出した。

にもかかわらず、電通の長時間労働体質は改められなかった。そのことは、1951年に四代目社長によって定められた、「殺されても放すな」という文言の入った「鬼十則」を、最高裁判決後も、2016年まで社員手帳に載せてきたことからもわかる。

高橋さんは2015年3月に東京大学文学部を卒業。4月に電通に入社し、インターネット広告部門に配属される。10月に本採用になってからは、担当部署の人員が大幅に減らされたこともあって、猛烈な長時間労働になり、うつ病を発症した。

その月の残業は1ヵ月100時間を超えた。パワハラ、セクハラもひどかった。ツイッターやLINEに残された言葉によれば、高橋さんは男性上司から、「君の残業時間……は会社にとって無駄」「女子力がない」「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」などと言われた。

広告業界に君臨してきた電通の経営も、デジタル領域のネット広告部門はうまくいかず、広告料の不正請求も発覚して、火を噴いていた。それが高橋さんの過重労働の負荷をいっそう大きくした。

この事件は過労死防止法が制定され、「過労死ゼロ」に向けた国の取り組みが始まったなかで起き、最初の「過労死白書」が出た日に公表された。この事件では厚労省の監督責任も問われた。そのため強制捜査から書類送検に至る厚労省の動きも早かった。安倍首相も「働き方改革」の会合で、高橋さんの名を挙げ、「悲しい出来事」として、電通事件に触れざるをえなかった。

しかし、働き方改革では、「残業代ゼロ」を拡大し、過重労働を助長する法案も出されている。安倍内閣が本当に残業規制に踏み出そうとしているのかを考えるうえでも、本書は一押しの本である。

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 エコノミスト 2016年12月6日

濱田武士『魚と日本人――食と職の経済学』岩波新書、820円 + 税

水産物流通の現場訪ね「魚職不朽」を説く

著者は各地の漁港や魚市場を歩き、おいしい魚を求めて近所の鮮魚店にも足を運ぶ漁業経済学者である。 

昔は魚屋さんに行けば、いまは何が旬か、この魚はどう食べたらおいしいかを対面で教えてくれたものだが、消費者が顔のないセルフ形式の買い物を好むようになって、街から魚屋が消えてきた。それに追い打ちをかけるように「魚離れ」が進み、魚を探し求めて料理して食べる「魚食」は日常生活から消えつつある。

切り身は買われても丸魚は敬遠され、包丁で魚を処理できる人は少なくなっている。消費者が魚と出会うのは、最近ではスーパーの魚コーナーであるが、なかには魚(おそらくは切り身)に骨があるからと言って、店にクレームをつける顧客がいるらしい。市場にはレトルトや冷凍食品やファストフードが溢れていることも、食べるのに時間と手間がかかる魚食が廃れていくことの一因となっている。

魚食とつながる魚職についていうと、鮮魚店も大きく減少している。スーパーの魚コーナーにはアラスカ産のサケ、モーリタニア産のタコ、ベトナム産のブラックタイガーといった輸入水産物が増えている。これも国内漁業との関係では魚職の減少である。それだけに最大の中央卸売市場である築地市場の集荷範囲は世界に拡がっている。

簡単ではあるが、本書には小池都知事の誕生にともなう築地市場の豊洲移転計画の延期や土壌汚染の話も出ていて、時事問題を考えるうえで勉強になる。

漁業経済学者である著者の真骨頂は魚食と魚職を結ぶ、消費地卸売市場と生産地卸売市場の役割の考察にある。

魚を含む水産物は、漁業者から産地卸売市場の卸業者(荷受)、仲卸業者(仲買人または買受人)を経て、消費地卸売市場の卸業者、仲卸業者を介し、小売業者や外食事業者に渡り、消費者に届けられる。漁業者から消費者までの間には、流通6段階と呼ばれる取引がある。

この取引の担い手を、著者は食べる人たち(第1章)、生活者に売る人たち(第2章)、消費地で卸す人たち(第3章)、産地でさばく人たち(第4章)、漁る人たち(第5章)に分け、順に訪ねていく。

なかでも漁師や漁業者の話と重ねて読むと、「食は職が支えている」ことがわかる。だから魚食も魚職も朽ちさせてはならない。各地で「魚食普及」の取り組みがされているが、それを「魚職不朽」につなげて欲しい。そのことが著者の提言であり、願いである。評者もそう思う

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連合執行部が2年以上前から国会にかかっている「残業代ゼロ法案」(「高度プロフェッショナル制度」)を容認する姿勢に転じたと報じられています。これが先般固まった「時間外労働の上限規制案」と一体化されて、あらたな政労使合意案として、秋の臨時国会に上程されるとも言われています。

私は、この春以来、「働き方改革」をめぐる講演の結びでつぎのように語ってきました。すなわち、政府のいう「時間外労働規制」は、労働基準法の原則からも過労死防止の見地からも容認できるものではない。しかし、連合が合意したことによって、労働界の力でこれを阻止することは難しくなった。とはいえ、政局は「一寸先は闇」と言われ。安倍内閣の支持率がいつどんなことで大きく下がるかわからない。自民党が総選挙で負けそうな状況になれば、労働時間制度の改悪は見送られる可能性もある、と。

実際、今月に入って、森友学園問題、加計学園問題、大臣発言、都議選の結果などによって、安倍内閣の支持率が大きく下がってきました。「安倍内閣はもはや死に体」とも評されています。このままいけば、労働時間制度の改悪も頓挫しそうな状況になってきたと言えます。

そういう情勢のなかで、にわかに浮上したのが安倍内閣による連合執行部の取り込みです。あるいは連合執行部の安倍内閣への擦り寄りと言い換えることもできます。いずれにしても、連合はなぜ溺れる安倍内閣に救いの手を差し伸べるのでしょうか。わけがわかりませんが、近く発表される第2次合意によって、安倍内閣が民進党の反対を封じ込めようとしているのであろうことは、容易に推察できます。

安倍内閣と連合の接近、というより抱擁は、今に始まったことではありません。今日の朝日新聞が書いているように、連合は安倍内閣と経団連が設けた土俵に上がって時間外労働の上限に「合意」した時点で「ルビコン川を渡った」と考えられます。同じ土俵で一体的に議論されてたA案とB案のうち後者は受け入れるが、前者は拒否するというのはそもそもできない相談というか、筋の通らない話です。

連合は「残業代ゼロ制度」に対する「修正要望」として、年間104日以上の休日の確保を義務づけるほか、労働時間の上限設定、勤務間インターバル休息の付与、2週間連続の休暇取得などの複数の選択肢から、各社の労使がいずれかの健康確保措置を選べるようすることを求めています。

しかし、これは、2015年1月にまとまった労働政策審議会の「今後の労働時間法制等の在り方について」という報告骨子に示されていた健康確保措置と大きく異なるものではありません。そこでは「労使委員会における5分の4以上の多数の決議で定める」ものとされていましたが、その点もほとんど違いません。

そもそも一定の収入(賃金)以上の労働者を対象に、時間外労働に対する割増賃金の基礎としての労働時間の概念をなくし、かわりに「健康管理時間」を置くという制度設計に無理があります。労働時間がないのに、どのようにして「労働時間の上限」を設定するというのでしょうか。例の「実行計画」では「時間外労働の上限規制」が言われていますが、「残業代ゼロ制度」の修正要望で「時間外労働」と言わないのはもともと、「時間外労働」の概念をなくすことが、この制度の眼目であるからです。そういうややこしい問題を抜きにして言えば、これまでの経過から見て、ここでいう「労働時間の上限」とは、単月では272時間未満、週平均63時間未満を意味すると推察されます。なんとも複雑怪奇な制度設計です。

最後に、年間104日以上の休日の確保が義務づけられたらどうなるでしょうか。その場合は年365日から104日を引いた261日は、何時間働かせても違法ではないことになります。仮に261日を毎日12時間働くと「労働時間」は年3132時間に達します。実際にはそんなことはほとんど不可能です。それは死ぬほど働くことを意味します。追加的な健康確保措置(過重労働防止策)から何か選択されたとしても、過重労働が大幅に削減される保障はありません。

こういう恐ろしい制度に労働組合が合意してはなりません。連合傘下の主要産別の幹部からも異論が出ていると言います。長時間過重労働に歯止めをかける労働組合の役割を投げ捨てるに等しい「合意」の見直しを強く求めます。(7月13日朝、後半を一部修正しました)
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厚生労働省は本年6月30日、2016(平成28)年度の「過労死等の労災補償状況」を公表しました。

過労死(過労自殺を含む)の労災請求は、実際に起きた事案の「氷山の一角」に過ぎません。過労死事件は、災害性の労災事件に比べて、労災認定率がいちじるしく低いうえに、夫や子どもが過労やストレスで死するか健康を害しても、遺家族は、労災補償についての無理解、会社への遠慮、労働組合の無支援、労働基準監督署の消極的対応などから、泣き寝入りをしてしまうことが多いことが知られています。そのうえ国と地方の公務員の過労死(公務災害)は、労災とは別制度になっているために、厚労省のデータには含まれていません。

今回取りまとめられたのは、2014年11月に過労死防止法が施行され、「過労死ゼロ」に向けての政府・厚労省の取り組みが始まって2年度が過ぎた時点での集計結果です。この間は企業のレベルでも残業の削減や年次有給休暇の取得促進の取り組みが大きく報道されてきました。にもかかわらず、この2年度間の経緯を見ると、過労死・過労自殺が減少に転じたと言えるような兆しは見出せません。

脳・心臓疾患では、労災請求件数は825件で前年度比30件の増、うち支給決定件数は260件で前年度比9件の増となています。

精神障害では、労災請求件数は1,586件で前年度比71件の増、うち支給決定件数は498件で前年度比26件の増となっています。

脳心・精神とも、請求件数も支給決定件数も前年度よりかなり増加していることがわかります。なかでもとくに注目されるのは、過労自殺に係わる精神障害による労災請求が4年連続で過去最高を更新していることです。図に示したように1999年度は155件でしたから、この間になんと10倍以上に増加したことになります。

労災認定件数でみると、昨年度の精神障害の支給決定件数は、若者に過労自殺やうつ病が多発していることを示しています。その証拠に、精神障害の支給決定件、総数498件のうちわけは、39歳未満が252件(50.6%)、うち30代が138件(27.7%)、20代が107件(21.5%)、10代が9件(1.8%)となっています。

近年では非正規労働者が全労働者の4割を占めるまで増加した結果、若者の労働環境が悪化し、入社早々から少数精鋭主義が強まって、人員は減っているのに仕事は増えるいっぽうという状況があります。仕事のスタイルも変化してきました。情報化で納期や開発をめぐって時間ベースの競争が強まってきました。携帯電話やメールやスマホの普及で仕事がどこまでも追いかけてきます。グローバル化やビジネスの24時間化で深夜労働も増えています。スピードや利便性求める競争も増加。仕事のオンとオフの境界があいまいになり、精神的疲労やストレスが増大しています。

こういう事情が若者のあいだでの過労自殺の増加を招いていると考えられますが、今回の労災認定状況の数字が示すように、過労自殺やうつ病が若者を中心に依然として増え続けていることは、過労死防止法施行後の政府・厚生労働省の過重労働対策が若者対策としては成果を上げるまでになっていないことを物語っている点で見逃せません。2011〜12年と比べ、内定率がずいぶんよくなり、有効求人倍率も高まり、人手不足感が広がっていることを考えると、問題は深刻です。

この点については次回に職場のパワハラやいじめと合わせて考えましょう。

               図 脳・心臓疾患および精神障害の労災請求の推移 

        (2016年度 厚労省、過労死等の労災補償状況から)

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 時間外労働の上限規制をめぐる「政労使合意」や「働き方改革実行計画」を追いかけているあるジャーナリストから、先日、つぎのような話を聞きました。

「連合は、時間外労働規制の導入だけでなく、高度プロフェッショナル制度の創設や企画業務型裁量労働制の拡大についても、事実上、抱き合わせの一体改革として合意しており、今後の国会審議に際しても両方とも基本的に受け入れる方向で動くらしいですよ」。

これまでの経過から見て、やっぱりそうか、さもありなんと思いました。上限規制をめぐる政労使合意の場で高プロ制や裁量労働制の議論が出たかどうかは不確かですが、政府が設定した土俵での政治折衝において、上限規制は受け入れるが、高プロ制と裁量労働制は拒否するというのはできない相談です。連合の神津会長の意向は別としても、安倍首相と榊原経団連会長が最初から上限規制と高プロ制の一体改革を意図してきたことは明らかです。

上限規制というといかにも規制緩和路線の見直しという印象を受けますが、それは見せかけの印象操作にほかならず、政府・財界の狙いは一貫して労働時間の規制緩和にありました。2014年4月22日、産業競争力会議と経済財政諮問会議の合同会議が開かれました。そこでは「戦略的課題」は「働き方」であることが確認され、「一律の労働時間管理にとらわれない柔軟な働き方」として 「新たな労働時間制度」の創設が提案されました。これは一定の年収の正社員を対象に労働時間規制を外し、したがって法定内労働と時間外労働の区別をなくして、使用者の労働者に対する残業手当の支払義務を免除するホワイトカラー・エグゼンプション(「ホワエグ制」、後の命名では「高プロ制」)にほかなりません。

これを受けて、安倍内閣は、過労死防止法が全会一致で可決成立した2014年6月20日の4日後、「日本再興戦略 改訂2014」で、「成果で評価する労働時間制度の創設」と「裁量労働制の新たな枠組の構築」を閣議決定しました。

このような動きがあるなかで、内閣府規制改革会議の雇用ワーキング・グループでもホワエグ制が検討されました。どういう議論があったのでしょうか。いまから振り返って参考になるのは、同グループの専門委員であった水町勇一郎東大教授の説明です。

水町氏は、2014年7月4日付けの「西日本新聞」のインタビューのなかで、労働時間の規制見直しをどう見るかという質問に答えて、「目的は大きく二つある。一つは、ホワイトカラーの働き方を変えて生産性を高め、国を活性化させることだ」、「もう一つは労働者の命と身体を守るためだ。長時間労働によるメンタルヘルス(心の健康)の問題や過労死、過労自殺が頻発している。メンタルヘルス問題で従業員が休業すれば、生産性の低下にもつながる。長時間労働をなくし、労働者の権利や利益を守らなければ、日本社会の持続的な成長と発展は望めない」と述べています。

さらに重要なことに、水町氏は「労働時間の規制がなくなれば、長時間労働を助長するのではないか」「労働時間の上限とは具体的にどれくらいか」という記者の質問に対して、「労働安全衛生法で、時間外労働が月100時間になれば産業医による面談指導を受けるようになっている。規制改革会議では議論の停滞を避けるため、数字は明示しなかったが、月80時間とか100時間を念頭に置いていた」と答えています。

時間外労働の上限を2〜6か月平均80時間以内、単月100時間未満にするという今回の「政労使合意」とそれにもとづく「実行計画」は、水町氏がいう上限とぴったり符合します。過労死、過労自殺が頻発していることを問題にして、「労働者の命と身体を守るため」という理由を持ち出している点も、政労使合意にそっくり当てはまります。

高プロ制と裁量労働制については、2015年1月15日の第122回労働政策審議会労働条件分科会で 「今後の労働時間法制等の在り方について」という報告骨子がまとまり、2年前から国会に上程されています。

その骨子には「本制度の適用労働者については、割増賃金支払の基礎としての労働時間を把握する必要はないが、その健康確保の観点から、使用者は、健康管理時間(「事業場内に 所在していた時間」と「事業場外で業務に従事した場合における労働時間」との合計)を把握した上で、これに基づく長時間労働防止措置や健康・福祉確保措置を講じることとすることが適当」であるという文言があり、「健康管理時間が1か月について一定の時間を超えないこと」を条件としていました。

労働時間に代えて持ち出された「健康管理時間」には時間外労働の概念はありません。そのために「1か月について一定の時間を超えないこと」という曖昧な言い方をしていますが、健康管理時間においても、要は1か月の法定労働時間(月30日の場合171時間、31日の場合177時間)に準じた時間を基準に、80時間あるいは100時間を超えない範囲までは超過労働を認めるというのです。さきの水町発言と重ね合わせるとそのように解釈できます。

時間外労働の上限規制案は、高プロ制の導入案をめぐる議論から出てきました。途中の賑やかしで女性活躍戦略やニッポン一億総活躍プランの花火も打ち上げられましたが、結局、政府・財界の労働時間制度改革の議論に徹頭徹尾、首尾一貫しているのは、時間外労働の規制に見せかけた労働時間の規制緩和だと言えます。そうした規制緩和に労働組合まで手を貸すことはありません。

これが私の杞憂に過ぎないことを願っています。
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エコノミスト 2016年8月2日号

バーニー・サンダース『バーニー・サンダース自伝』萩原伸次郎監訳、大月書店、2,300円+税

「はぐれ者」の軌跡に見る米国経済・社会の問題点

これは昨年来のアメリカ大統領民主党予備選挙で若者の熱狂的な支持を受け、ヒラリー・クリントンを相手に大接戦を演じたあの「社会主義者」サンダースが自らについて縦横に語った。

タイトルに「自伝」とあっても普通の意味の自伝ではない。ニューヨーク市の下町の労働者家庭に育ったことや、シカゴ大学でベトナム反戦運動や公民権運動に参加したことなどにも触れているが、ほとんどのページは、バーリントン市長(81〜89年)とバーモント州選出下院議員(91〜07年)であった時期の政治活動とメディア批判に割かれている。

かといって狭い政治の本ではない。目に入るのは、彼が長年変えようとしてきた富の不平等な分配構造と働く人びとの報われない経済生活である。こうした視点の背景には、政治の民主主義がまともに機能するには経済に民主主義がなければならないという思想がある。

彼の選挙への挑戦は、地域小政党の自由連合党に推されて、1971年、30歳で上院議員に立候補したときから始まるが、30代は州知事選挙も含め惨敗続きであった。しかし、81年に地域の進歩的運動のリーダーとして、無所属でバーモント州バーリントン市の市長選に出馬し、わずか14票差で当選したときから潮目が変わった。彼はその後3期市長を務め、無所属のまま91年には同州選出の下院議員に当選した。07年に上院議員に当選したときの得票率は65%であった。アメリカの二大政党制の歴史のなかで、サンダースほど長く24年も無所属で議員を務めた者はいない。

この本には、今回の大統領予備選におけるサンダースの公約――全国最低賃金(時給)15ドルへの引き上げ、公立大学の授業料無料化、全国一律の公的医療保険制度の創設、TPP交渉からの撤退、金融業界規制の強化、政治資金規制の厳格化、地球温暖化対策――のもとがぎっしり詰まっている。貧困解消のための最賃の大幅引き上げは、国民皆保険制度の創設と並んで、下院と上院を通じた彼の一貫した主張であった。彼は金持優遇税制の改革や金権政治の打破を説き続け、ブッシュのイラク戦争にも議会演説で一人敢然と反対した。

サンダースは本書で自らをアメリカ議会の「はぐれ者(アウトサイダー)」と称している。評者は勇ましく大胆にふるまう人という意味で、アメリカ政治に波風を起こす社会主義者の「あばれ者」と言いたい。本書を読まずして今日のアメリカ政治は語れない。

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