森岡孝二の連続エッセイ - 最新エントリー

 私の父は明治32年(1899年)9月生まれで、1991年10月に満92歳で亡くなりました。私は昭和19年(1944年)年3月生まれですから、父が44歳の時にこの世に生を享けたことになります。7人きょうだい(兄1人、姉5人)の末っ子で、一番上の姉とは19歳離れています。子どもの頃、家業の百姓仕事を手伝っていたときに、父に徴兵について質問し、「軍隊では塹壕を掘っていた」と聞いたことがありました。その記憶があって、70歳になって退職した2014年の6月に、もし父が戦死していたら、この世に私はいないという思いを込めて、下手な短歌を作りました。

百姓が塹壕堀りの兵となり病気除隊でわが父となる 

その後、父はいつ召集されたのか疑問になり、兄や姉たちに尋ねましたが、だれも分からないということでした。田舎の役場にも問い合わせてみましたが、手掛かりはありませんでした。

ところが、昨年の11月、実家に帰省した折りに兄から、偶然に見つかったという父の「軍隊手帳」をもらいました。その兵歴には次のように記されています。

大正8年(1919年)12月1日召集、歩兵として第72聯隊第9中隊へ入隊
大正9年(1920年)3月29日、第20師団に転属、門司港出発、30日釜山港上陸
同年4月1日 歩兵第77聯隊第11中隊に編入
同年8月25日、左湿性胸膜炎で入院
同年11月 除隊

召集されたのは20歳のときでした。当初の服役期間は大正8年12月から11年11月までの3年間でしたから、兵役に服すべき期間を2年残しての病気除隊だったようです。

子どものころ、父の母、つまり私の祖母から「父が朝鮮で病気になったので自分が迎えに行った」と聞きました。そのとき祖母は父の回復を祈願して肉断ちをしたとかで、死ぬまで肉を食べませんでした。なお病名の湿性胸膜炎は、ネットでみると結核や肺炎から胸部に浸出液がたまり炎症が生じる病気で、かつては肋膜炎(ろくまくえん)とも呼ばれていたようです。

父が所持していた「軍隊手帳」はパスポートとほぼ同じ大きさです。開くとまず(軍人)勅諭と(軍人)勅語および(軍人)讀法が載っています。そこには戦いにおいては「死は鴻毛より軽し」「上官の命令は絶対である」などと書かれています。そのあとに、本人の所属師団、聯隊、兵卒の階級などが印字で、生年月日、現住所、兵歴などが毛筆で記入されています。

「軍隊手帳」は除隊後も必携だったようで、父の手帳には、大正10年、大正13年、大正15年、昭和3年、昭和5年に「簡閲点呼」――陸海軍で予備役・兵役後の下士官兵や補充兵を召集して行った点呼――があったと記録されています。さらに「昭和4年7月18日より同月31日まで第47聯隊第7中隊に於いて勤務演習」という記載もあります。簡閲点呼の最後は昭和5年(1930年)となっていますから、除隊しても10年間は帰休兵および予備役として軍隊に縛られていたことになります。

妻の父(義父)も戦争にかり出されました。入隊のはっきりした日にちはわかりませんが、昭和18年(1943年)3月生まれの妻がまだ母親のお腹の中にいるときに出征したと聞いています。昭和20年に戦争が終わってもソ連領のシベリアに抑留され強制労働に従事させられて、敗戦から3年後の昭和23年にようやく帰還することができました。

義父が出征した頃は日中戦争(1937年〜45年)と太平洋戦争(1941〜45年)の戦火が広がった最中でした。二つの戦争では控えめな政府発表によっても日本人の軍人と軍属だけで230万人が死んでいます。日本本土と日本が侵略したアジアの国々で戦禍によって命を落とした人は2000万人を超えると言われています。

壺井栄の『二十四の瞳』で、大石先生が分教場で最初に教えた12人は男子が5人、女子が7人でした。戦争が終わり、分教場に戻ることになった先生を囲んでクラス会が開かれます。しかし、森岡正、竹下竹一、相沢仁太の姿はありませんでした。戦死したのです。岡田磯吉は失明除隊でかろうじて生き残りました。男子で無事だったのは漁師の徳田吉次だけだったのです。船乗りだった先生の夫さんも戦死していました。

兵士の戦死者の多くは食糧不足による餓死だったとも言われています。捕虜収容所で亡くなった人も大勢います。また数え切れないほど多くの一般市民や子どもが戦争の犠牲になっています。そんなことにも胸を痛めずにはおられない父の「軍隊手帳」の発見でした。(1月14日、一部修正)

 

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2017年は日本企業の「コンプライアンス」が問われた年であった。

この言葉は企業が法やルールに従って事業活動を行うことを意味する。「法令遵守」という訳語が用いられることもあるが、たいていはカタカナで表記される。それはこの言葉が表す実体が日本企業にほとんどないか、乏しいからである。

このことはこの秋に相次いで発覚した神戸製鋼所、日産、三菱マテリアル、東レといったメーカーの品質・検査不正についても言いうる。神鋼では自動車や航空機や新幹線にも使われるアルミ製品や銅製品をはじめとする多数の金属部材の検査データが多年にわたって改ざんされてきたことが明らかになった。

この事件では、日本の製造業の現場で何が起きているかに関心が集まり、私自身、熟練労働者の不足や非正規労働者の増加や労働条件の悪化に関連して、内外の多くのメディアから似たような取材を受けた。

NHKテレビのニュースウォッチ9では「バブルが崩壊した1990年代半ば以降、日本企業は海外との競争にさらされ、人件費を抑えようと非正規従業員を増やしたり、外部に業務を委託する動きを強めた。その結果、熟練技術者が少なくなり、現場力が崩れた」という私のコメントが顔写真入りのフリップで流れた(10月28日)。

これに要約されているように、事柄が雇用・労働問題に係わることは確かである。しかし、ことはそれにとどまるものではない。問題の検査データの改ざんは、顧客との契約や内規で定めた製品の品質や安全に関する基準を守っていないという点で、コンプライアンスの欠如を示す不正行為である。

年の瀬がせまって表面化した大手ゼネコン4社のリニア談合疑惑も日本企業のコンプライアンスの欠如を示している。リニア中央新幹線は、建設費9兆円、公的資金3兆円の国家的な巨大プロジェクトであるが、疑惑解明の行方によっては、国家的な巨大談合事件に発展する可能性も否定できない。

ゼネコンの談合体質は根深い。大林組は、株主オンブズマンの行った株主提案を受け入れて、07年6月の株主総会で、定款に談合をなくすことをうたった第3条(法令遵守及び良識ある行動の実践)を新設した。にもかかわらず、その後も同社の談合体質は改まらなかった。そのために、08年6月に役員の責任を追及する株主代表訴訟が提起され、その和解を受けて、09年6月には「談合防止コンプライアンス検証・提言委員会」が設置され、10年3月には再発防止のための提言書が発表された。このたびのリニア談合疑惑は、残念ながら、さきに述べたような談合決別の定款変更や再発防止の検証・提言だけでは談合はなくならないことを物語っている。

コンプライアンスの欠如は宅配便でも問われた。朝日新聞は、今年3月4日、「ヤマト、サービス残業常態化 パンク寸前、疲弊する現場」という見出しのもとに、ネット通販を支える宅配の現場がサービス残業で支えられている実態を報じた。翌日の続報では、ヤマト運輸が約7万6千人の社員を対象に未払いの残業代の有無を調べ、未払い分を支払う方針を固めたことや、必要な原資は数百億円規模にのぼる可能性があることを伝えている。類似の賃銀不払残業は佐川急便やその他の宅配会社にもある。

ワークルールが遵守されず、違法な長時間労働や賃金不払残業が蔓延するもとでは、企業のどんなコンプライアンスも形骸化してしまう。

白昼に衆目のなかで堂々と不正行為が行われるとは考えにくい、改ざんやねつ造などの悪質な行為は夜陰にまぎれてこっそり行われるのが常である。それゆえに私は労働時間が異常に長く、深夜残業が常態化していることが、日本企業の不祥事の温床になっていると思ってきた。この点で、川人博弁護士が電通事件の被災者の母親である高橋幸美さんとの共著『過労死ゼロの社会を――高橋まつりさんはなぜ亡くなったのか』連合出版、二〇一七年)で、東芝の会計不正事件にも触れて、「違法な長時間労働を続ける会社では、業務不正が発生することが多いというのも、私の過去の経験知であります」と述べているのは傾聴に値する。

(「輸送経済新聞」2017年12月26日号からの転載)

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エコノミスト 2017年9月26日号

服部茂幸『偽りの経済政策――格差と停滞のアベノミクス』岩波新書、820円+税

失敗を成功と見せかけるアベノミクスのからくり

本書によれば、破綻した経済政策の誤りをなにやかやと言いつくろっているのがアベノミクスである。

評者の理解では、金融、財政、民間投資の「3本の矢」からなるアベノミクスの全体像が示されたのは、13年6月に発表された「日本再興戦略」である。それより3ヵ月余り前、安倍首相は、政権復帰後の最初の国会演説で、「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指すと公言した。

結果はどうなったか。最近、財務省が発表した法人企業統計によれば、16年度末で企業の内部留保(利益剰余金)は過去最高の406兆円に達した。この額はGDP(国内総生産)の約7割に当たる。第2次安倍内閣が発足した12年度末は304兆円だったので、この間に100兆円以上も積み上がったことになる。企業の業績を利益で測るなら、アベノミクスの目標は達成されたかに見える。

しかし、著者はこのような見方を退けるところから出発する。そして、アベノミクスの4年を、目標を達成したかどうかだけでなく、富裕層をいっそうリッチにしたか、貧困層の所得を改善したかで評価する。

13年3月に、日銀の黒田総裁・岩田副総裁体制がスタートした。彼らは2年を目処に、消費者物価上昇率を2%まで引き上げ、デフレから脱却し、GDP名目3%、実質2%の経済成長を達成すると公約した。しかし、その後の消費者物価上昇率はゼロかマイナスで、実質成長率は1%そこそこにとどまっている。これでは成功したとは言えない。

政府・日銀は、目標達成に繰り返し失敗するなかで、その原因を、消費税増税後の需要の弱さ、原油価格の急落、新興国の経済の減速などの外的要因のせいにしてきた。

その一方で、就業者の増加をもってアベノミクスの成果と言う。しかし、増えたのは短時間就業者である。そのうえ労働生産性はほとんど上昇していない。なのに企業は空前の利益をあげた。そのうえ増加した利益を従業員の賃銀や設備投資のために使わずに、内部留保に回した。その結果、アベノミクスの開始以来、実質賃銀はほぼ一貫して下がり続け、格差が広がっている。

本書が説得的に述べているように、アベノミクスの失敗は誰の目にも明かである。にもかかわらず安倍内閣は、最近になって二つの学園問題の紛糾で支持率が下がるまで、なぜ長らく高い支持率を得てきたのか。この疑問を掘り下げて、経済の裏にある政治の問題を考える上でも、鋭い切れ味の政策批判が売りの本書が参考になるだろう。

 

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 エコノミスト 2017年7月4日号

小林由美著『超一極集中社会アメリカの暴走』新潮社書、1500円+税)

 制御不能の先に見える絶望の近未来

読み終えて戦慄を覚えた。人間が作り出したものが暴走し、制御不能の巨大な怪物と化して社会を脅かす。その印象は昔観たスピルバーグ監督の映画「ジュラシックパーク」第一作の衝撃に似ている。

著者はアメリカ在住の日本人女性証券アナリストの草分け的存在。前著に『超・格差社会アメリカの真実』(日経BP社、2006年)がある。

まず驚かされるのは富の極端な集中である。2014年現在、全世帯の所得分布を見ると、上位10%の世帯が下位90%の世帯とほぼ同じシェアを占めている。牽引したのは最上位0.01%の世帯である。最上位1万6500世帯の平均年収は2,900万ドル(29億円)に達する。

富裕層の仲間入りをするための教育の梯子を上るのは容易でない。エリート校のスタンフォール大学の授業料は年間4万7000ドル(470万円)。大学進学者の6割以上が学生ローンを借りている。学生ローンの15年末の総残高は、住宅ローンに次いで大きく、1.2超ドル(120兆円)に上る。

富の超一極集中の暴走は、とどまるところを知らない経済活動の金融化と情報化によってもたらされた。

衰退が言われて久しい製造業も盛り返しているが、08年のリーマンショックで崩壊したはずの金融は過去最高の利益をあげている。14年現在、金融業は従事者数では総就業人口の4.4%に過ぎないが、全産業の企業利益の19.2%を占める。

情報の世界の変化も凄まじい。20年あまり前に設立されたアマゾンの売り上げは今やウォルマートを超える。グーグル、フェイスブックも瞬く間に巨大企業に成長した。

おぞましいことに、人々の通信・消費情報は、すべて情報企業に把握されている。Eメールを送れば、内容、日時、送信者、受信者、配達経路も記録される。アマゾンやグーグルは利用者の趣味や関心や欲望を世界中の誰よりもよく知っている。

情報産業は業務の注文がオンデマンドであるだけでない。労働力も「究極の臨時雇い」のオンデマンドで調達され、そうなれは、労働者の生活が精神的にも経済的にも悲惨なものになることは目に見えている。

本書は、強欲資本主義アメリカの知られざる断層を明るみに出しているだけではない。何がヒットラー張りのトランプ大統領を誕生させたのか、社会主義者を自称するバーニー・サンダースが予備選でなぜあれほどの支持を受けたのかも見えてくる。

アメリカの絶望の近未来を考えるうえでも一読に値する労作である。
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 毎日新聞2017年11月30日

https://mainichi.jp/articles/20171201/k00/00m/040/062000c

超党派の国会議員が30日、労働法規やその活用法に関する教育を進めるための議員立法「ワークルール教育推進法案」をまとめた。各党から意見を募った上で、来年の通常国会に提出する予定。若者を使いつぶす「ブラック企業」が社会問題化する中、国民に労働に関するルールを理解してもらい働く人を守ることを目指す。

 法案をまとめたのは非正規雇用対策議員連盟(会長・尾辻秀久元参院副議長)。ワークルールを知ることが労働トラブルから身を守ることにつながるとして、法案作りを進めてきた。

 法案では、国に教育を進めるための基本方針の作成や、予算の確保を義務づける。自治体と協力し、学校の授業や公民館での講座など、子どもから高齢者まで幅広い年代が教育を受けられるように環境を整備する。

 また、企業が従業員に対してワークルールの理解を深められるように努めることも明記。教育の広まりが健全な事業活動の促進につながるとしている。

 違法な時間外労働など労働トラブルについて相談を受け付ける厚生労働省の「労働条件相談ほっとライン」には、2016年度に3万929件の相談が寄せられた。内容は「休日・休暇」に関するものが3334件、「解雇・雇い止め」が2734件などだった。【古関俊樹】
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このところ日本と同様に、韓国でも若者の過労死・過労自殺が続発し、大きな議論を巻き起こしています。それを実感させられたのは、本年11月8日、同国の「過労死予防センター」の開所式に招かれて、報告と討論に参加する機会があったからです。

これより2ヵ月前、長時間労働による「死の行進」を止めようと、ソウル市で30もの労働・市民団体が集まって、「過労死OUT共同対策委員会」が発足しました。過労死予防センターは、その有力な構成団体として、弁護士、社会保険労務士、産業医、組合活動家、過労死家族が連携し、過労死などの相談、予防、救済に取り組むことを目的にしています。

開所式では、労働環境健康研究所の任蝶辧イム・サンヒョク)医師の司会のもとで、私が日本の過労死問題の現状と過労死防止法について、また姜守乭(ガン・スドル)高麗大学校経営学部教授が労働と消費から見た韓国社会の問題点について講演しました。そのあと過重労働の現場から、ドラマ産業、ゲーム開発、郵便集配、競走馬厩務などで起きた事案が報告されました。

韓国ドラマの制作現場では、昨年10月26日、新人のアシスタント・ディレクターが過労自殺した。日本の電通事件の公表直後に起きたこの事件は、韓国のマスメディアで大きく報道されました。彼の遺書には、「1日20時間働かされ、2、3時間後にまた出勤させられる。これは私が最も軽蔑していた生活だ」という主旨のことが書かれていたそうです。

ゲーム開発部門では、昨年7月から11月の間に、3人の若者が(2人は過労死で1人は過労自殺で)亡くなっています。3人目の28歳の労働者の場合は、過労死する前の10月第1週は95時間55分、第4週は83時間4分の時間外労働を行い、10月前半は無休で12日、10月第4週から11月第1週にかけては連続13日働いて倒れました。

3番目の集配労働者と4番目の競走馬管理士を含め、四つの事例報告に共通しているのは、日本と同様に、韓国でも若者のあいだで相次いで過労死・過労自殺が起きていることです。いまひとつは日本と違って、韓国では青年ユニオンをはじめとして労働組合が真相究明と再発防止に取り組み、労組の活動家を中心に対策委員会が作られて関係企業や政府に改善を求めて働きかけていることです。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)新大統領は労働時間の短縮に積極的に取り組む政策を打ち出しています。それだけに韓国における過重労働と過労死に対する運動の盛り上がりから目が離せません(2018年1月7日修正)。


詳しい情報は以下のサイトに出ています。

http://safedu.org/pds1/114426 과로사예방센터 토론회_웹용.pdf


 
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『週刊エコノミスト』2017年10月31日号 緊急特集「神鋼の絶体絶命」コメント 

 神戸製鋼所の長期にわたるデータ改ざん問題は1990年代初めのバブル崩壊以降、日本企業で断続的に進められてきた人減らし、正規社員から非正規社員への置き換えといった一連のリストラが背景にある。根深い問題だ。これは神鋼に限った話ではない。

一般的に製造業の現場で人員削減や賃下げ、非正規化が進むと、必然的に技術と経験の豊富な熟練工が減っていく。そうなると、生産現場での教育、技能継承もままならず、技術と人の両面から生産性の低下を生じさせやすい。だが、コスト削減のためには、少ない人員で高い生産計画をこなさなければならないので、品質や安全の確保がおろそかになり、取引先から要求された水準に達していなくても出荷せざるを得ない。そのために神鋼のようなデータ改ざんという不正が発生する。

改ざんは、現場の末端の労働者ではなく、その上の管理者が行うことが多い。改ざんには、生産システム全般にかかわるケースも少なくなく、それは職務権限上も管理職にしかできないからだ。不正を繰り返してきた企業にはデータ改ざんを行うための裏マニュアルがあるという話も聞いた。

グローバル化の影響も大きい。製造業は人件費の安い新興国での現地生産を進めてきた。これによって、日本の労働者は新興国の低賃金労働者との競争を余儀なくされ、これも賃下げや非正規雇用の増大につながった。

また、近年強まってきた株主の経営者に対する圧力も生産現場の疲弊させる一因となっている。高い配当を要求し、性急に結果を追い求める株主に迫られて、企業経営者は、安易な人件費削減で利益を拡大させた。私はこれを「レース・トゥ・ザ・ボトム(底辺への競争)」と呼んでいる。

つまり、労働者を低賃金・長時間労働・残業代未払いという劣悪な労働環境に追い込んでいく底辺への競争だ。これは日本だけではなく、欧米主要国でも似た状況だろう。

神鋼のデータ改ざん発覚後、フランスの通信社AFPや英フィナンシャル・タイムズといった海外メディアからすぐに取材を受けた。その背景には記者たちが抱く「日本の製造業への不信」だけでなく、近年「欧米主要国の有力製造業でも神鋼のような不正が繰り返されているという問題意識」があるように思われた。

実際15年には、独フォルクスワーゲンで排ガス不正問題が発生している。名門ドイツ企業の背任行為の背景にも、神鋼同様に利益至上主義の行過ぎた経営があったのではないかと、海外メディアも考えているのだ。神鋼の不正は氷山の一角に過ぎない。

*この事件ではロイター通信社からも取材を受け、次のような記事が出ている。

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このところ過労死防止法にもとづく厚生労働省の委託事業として行われている高校・大学への啓発授業で、兵庫過労死を考える家族の会代表の西垣迪世(みちよ)さんとご一緒することが多い。

西垣さんの一人息子、西垣和哉さんは、2002年4月に大手電子機器メーカー子会社の富士通SSLに入社。システムエンジニアとして働いていて、過労とストレスでうつ病を発症し、休職と復職を繰り返すなかで、治療薬の過量服用により、2006年1月に死亡した(当時27歳)。

和哉さんの発症前1ヵ月(2003年6月13日〜7月12日)の労働時間は296時間57分、時間外労働(残業)は128時間57分に及んだ。これは1日平均11時間52分の長時間労働が1ヵ月続いた勘定になる。朝9時から翌晩10時前までの連続37時間勤務もあった。

この会社の当時の36協定を見ると、「延長することができる時間」は、1日13時間、3ヵ月300時間、1年840時間(「ソフトウェアの研究・開発」の場合は960時間)となっていた。1日最長13時間の残業をさせることができるということは、法定8時間+時間外13時間で、1日21時間労働を許す協定が結ばれていたからである。これは翌朝までつづく残業中のあるかないかの細切れ「休憩」を加えると、1日24時間労働もありうることを意味する。和哉さんの37時間の連続勤務もこうした異常な勤務形態のなかで起きたことである。

当時この会社の所定労働時間は9時始業・17時40分終業の7時間50分で、所定内の休憩は12時10分から13時までの50分となっていた。会社が作成した勤務形態の図表では、残業の場合は、17時40分から18時10分までの30分、22時時から22時30分までの30分、翌3時から3時40分までの40分、翌8時30分から9時までの30分がそれぞれ「休憩」とされていて、時間内と時間外を合わせた「休憩」の合計は180分=3時間。前述の21時間労働にこの3時間を加えると、ちょうどまる1日、24時間拘束で働くこともありうる。

ただし、仕事が終わったあとの翌8時30分から9時の30分を名目だけの休憩として度外視すると、この会社の1日の最長労働時間(=拘束時間)は23時間半とみなすこともできる。それと符合するかのように、この会社の36協定中の休日労働協定には「始業午前9時00分 終業翌朝8時30分」とあって、1日の最長拘束時間は23時間30分とされている。

この協定の期間は、2006年7月1日から2007年6月30日までとなっているが、それから10年経った現在でも、富士通SSLのような会社は少なくない。大阪過労死問題連絡会が情報公開請求を通して入手した、2016年4月から2017年3月31日を期間とする36協定から例を取ると、日立製作所では休日の「始業及び終業時刻」を「8:50〜翌朝8:50」としている。また日本電信電話(NTT)は、「0時から24時」としている。午前0時始業というのもおかしな時刻であるが、1日24時間をまるまる働かせることができることを意味するとすれば、露骨なほど正直な書き方であるともいえる。ちなみに日立製作所とNTTの36協定は連合加盟の労働組合とのあいだで結ばれている。

これらの例が示すように、休日労働は、たとえ目安的な指導基準にせよ、時間外労働に設けられているような限度時間(1ヵ月45時間、1年360時間など)にあたるものがなく、制度的にはまったくの青天井で、労基署への届け出も完全にノーチェックである。

ところで政府・厚労省が進めようとしている「働き方改革」の残業規制は、残業を原則として1ヵ月45時間・1年360時間として、臨時的な特別の事情がある場合は、特別条項入りの36協定を締結することを条件に、単月100時間未満、複数月平均80時間以内、年720時間までの残業を認めるという制度設計になっている。

この場合、原則の1ヵ月45時間・1年360時間は休日労働を別枠としている。したがって、休日を除く残業が1ヵ月45時間であっても、月4回(週1回)の法定休日に毎回9時間働かせるだけで、45時間+36時間=81時間となり、複数月の上限である80時間を超えてしまうことになる。

臨時的な特別の事情がある場合の残業の上限とされる「単月100時間未満、複数月平均80時間以内は休日労働を含んでいる。だがやっかいなことに「年720時間以内」は、休日労働が別枠扱いである。したがって、他の制限がなく、すべての法定休日にフルに働かせることができるとすれば、年間1000時間を遙かに超える残業もありうることになる。しかし、この場合、複数月平均80時間以内という制限があるので、年間の総残業時間は960時間(80時間×12ヵ月)を超えることはできない。こういう計算から、年間の残業の上限とされる720時間は、休日労働を含めれば960時間まで可能と読み替えなければならない。

今回の「働き方改革」の「時間外労働の規制」をめぐる厚労省労政審(労働条件分科会)の議論では、休日労働の問題はほとんど取り上げられなかった。そうなった前提には、月4回の法定休日にすべて労働をさせるような酷い会社はほとんどない、ましてや休日に24日労働をさせる非常識な会社などあるはずはない、という現実無視の認識があると考えられる。その意味では労政審の有識者たちは過労死職場の過重労働の実態をご存じないのではなかろうか。そういう場でまとまった「働き方改革法案要綱」はまともな審議の結果といえるかどうか疑問である。

*今回はいつもの「です・ます調」ではなく「である調」になってしまいました。ご了解ください。
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 9月15日、労働政策審議会労働条件分科会(以下、労政審)は、厚労相から諮問のあった労働時間制度改革にかかわる「働き方改革法案要綱」について、「おおむね妥当」と答申しました。それを受けて、政府は、他の分科会ですでに答申されていた「同一労働同一賃金」などの関連法案と合わせて、働き方改革関連法案を9月下旬に召集される臨時国会に一括提出し、来年4月の施行する方針を打ち出しました。

 しかし、臨時国会冒頭での突然の国会解散と、総選挙を目前にした政界再編で、法案の上程と審議入りは来年1月以降にずれ込むものと予想されます。こまかく言うと、法案は、前回述べたように、^貭蠅力働者を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ制)」の創設。∀使で定めた一定時間以上は労働時間と見なされず、残業代も支払われない裁量労働制の営業職への拡大、2疣死するほどの長時間労働を法律で認める時間外労働(残業)の上限設定の三つ――「3本の毒矢」――からなっています。さきの労政審では、2015年4月に上程されながら審議入りができずにいた,鉢△鬚い辰燭鷦茲蟆爾欧董↓と一緒にしてあらためて上程する予定になっていました。詳細はわかりませんが、もし、´△亮茲蟆爾欧鬚靴討い覆い泙涓鮖兇砲覆辰燭里覆蕁↓´△惑儖討砲覆辰董⊇伉召靴箸いΔ海箸砲覆蠅泙后しかし、´△取り下げられていたのなら、´↓はいずれも、まだ上程されていないことになります。いずれにせよ、「働き方改革法案」は「御破算で願いましては」の状態になっています。

今回の国会解散は「党利党略解散」とか、「モリカケ隠し解散」とか言われています。安倍首相は北朝鮮のミサイルと核の脅威に乗じて、昔の中国侵略を鼓舞する歌の題名を援用し「“国難突破”解散」といきり立ってみせています。ネットで調べると、すでに使われていて私のオリジナルではありませんが、私は今回の解散を「ちゃぶ台返し解散」と呼びたいと思います。ちゃぶ台返しは、映画「若者たち」(1966年テレビ、67年映画)で長男役の田中邦衛がよくやりました。アニメ「巨人の星」の父親の星一徹の得意芸でもあります。

この「ちゃぶ台返し」は、安倍内閣の支持率の低下を招いたモリカケ疑惑を一掃はできないまでも場面転換するうえで有効かもしれません。しかし、激高して見せて冷却を図るこの手法は、政府サイドにとって大きなリスクもあります。それは審議入りしていた法案や準備されていた法案をいったん御破算にしてしまうからです。これを再び動かすには相当のエネルギーを要します。反対が強い法案であれば、世論工作のやり直しも必要です。

報道によると、自民党は選挙公約の柱として「人づくり革命」、「憲法改正」、「アベノミクスの加速」、「働き方改革」、「北朝鮮への対応」などを掲げるようです。「働き方改革」では、長時間労働の是正や非正規雇用の処遇改善などを唱えるのでしょうが、批判の強い高プロ制(残業代ゼロ法案)を争点にすることは避けるのではないかと思います。公明党も与党としては自民党と大きくは違わないでしょう。

希望の党は、「寛容な改革保守政党」を目指すと言いながら、「安保法制(戦争法)容認」「憲法改正」では自民党と変わりません。雇用・労働政策については公約に掲げていないようですが、自民補完勢力として、安倍内閣の進める「働き方改革」のあと押しをするものと考えられます。維新は閣外与党としてアベノミクスの「働き方改革」を推進する立場にあります。

希望の党に移らなかった前民進党議員が結集する「立憲民主党」は、連合の支持を取り付けるためにも、働き方改革の高プロ制には反対するものと期待されます。共産党や社民党が働き方改革法案に反対している点はこれまでと変わりません。

選挙は蓋を開けてみないとわかりませんが、自民党が過半数を割るか大きく議席を減らす可能性もあります。そうなると、与党の公明党はもちろん、補完勢力の維新や希望の党の出番です。たとえ自暴自棄ならぬ自公維希の大連立が成立しても、選挙後すぐに「働き方改革法案」が上程され審議入りするという運びにはならないでしょう。しかし、自民党が圧勝すると、いったん御破算になった法案がたちまち息を吹き返して強行されることもありえます。

そうさせない情勢を切り開くことができるかどうかは、共産・社民・立憲民主・無所属リベラルの野党共闘がどれだけ議席を伸ばせるかにかかっています。咋日(10月1日)、「市民連合高槻・島本」は、全体会議を開き、今回の総選挙では、大阪10区で立候補される辻元清美さんを推薦することを決めました。私も呼びかけ人のひとりとして出席していましたが、市民連合と辻元候補の間で合意された政策のなかには、残業代ゼロなどの「働き方改革」に反対することも盛り込まれています。維新と自民党を相手に当選を勝ち取ることは容易ではありません。しかし、市民連合+野党共闘の力をもってすれば、勝機は十分にあります。全国で短期間にこういうかたちが広がれば、働かせ方改悪法案を潰す展望も生まれてくるでしょう。
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 <3本の毒矢>

9月8日の労働政策審議会(労働条件分科会)に働かせ方改悪法案の要綱が示されました。当日の議題では「働き方改革を推進するための関係法案の整備に関する法律案要綱」となっています。法案は9月下旬に召集予定の臨時国会に提出し、来年4月の施行を目指すと報じられています。例によっていろいろ化粧が施されていますが、労働時間制度の改革は、^貭蠅力働者を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ制)」の創設。∀使で定めた一定時間以上は労働時間と見なされず、残業代も支払われない裁量労働制の営業職への拡大、2疣死するほどの長時間労働を法律で認める時間外労働(残業)の上限設定の三つ――「3本の毒矢」――からなっています。

<一本化で一括改定>

´△呂垢任法2015年3月の労政審で取りまとめられたあと、同年4月に国会に上程されて、もう2年余り審議入りができないままになっています。は本年3月の政労使合意を受けて、6月5日の労政審で議決されています。今回の労政審では上程済みの´△鬚い辰燭鷦茲蟆爾欧董△△蕕燭豊´△鉢を一本化し、他の働き方改革の関連項目と合わせて計8本の法案として上程し、一括改定する方向が打ち出されました。

<連合のちぐはぐな対応>

連合はの残業の上限設定にはすでに合意しています。´△旅皀廛蹇∈枸模働制についても、一時は条件付きで合意する動きがありましたが、組織内外の反対の声が大きく、以前の反対姿勢に戻りました。そこで現時点では、´△砲枠紳个垢襪垢襪、は反対しない、したがって一本化は受け入れられないという立場をとっています。しかし、もともと政府の狙いは三つの毒矢をセットにした労働時間制度改革でしたから、は賛成だが´△枠紳个箸いΔ里鰐詰筋の感があります。労働界だけでなく、法律家やマスメディアの一部にも、´△鮖超箸燭斉き助長案、を残業規制案とみなして、両案は相容れないものなので一本化すべきではないという意見もあります。しかし、これは政府・厚労省のいう残業の上限設定の危険性をみない謬論です。

<上限規制は高プロ制から派生>

振り返ると、過労死弁護団全国連絡会議や全国過労死を考える家族の会の運動が実って、2014年6月20日、過労死防止法が成立しました。政府はその4日後に閣議決定した「日本再生戦略 改訂2014」において、過労死防止の流れに逆行して、過労死を助長する恐れのある「新たな労働時間制度」の創設を打ち出しました。それが2015年3月の労政審に諮られ、柱の一つが「高プロ制」と名付けられました。また、その創設によって、労働時間規制から外される労働者に対する措置として、労働時間に代わる「健康管理時間」の範囲設定、前日の終業から翌日の始業までの一定の休息時間の確保、年間104日以上の休日確保などが示されました。こういう経過に照らすと、昨年急に浮かび上がった「時間外労働規制」の上限設定は、「高プロ制」で想定されていた健康管理時間の範囲設定から派生したものと言えます。

<月100時間未満の残業でも過労死が多発>

今回の働かせ方改悪法案は、残業の上限設定にいわゆる過労死の労災認定基準――おおむね単月100時間、2〜6ヵ月の月平均80時間の残業――を持ち出しています。これは発想からして間違っています。この数字は、これだけの残業をしていたことが証明されれば、過労死が労災と認められやすいということを意味しています。しかし、厚労省の労災補償データで見ると、近年の脳心臓疾患の労災認定(支給決定)件数の約半数は月100時間未満の残業で起きています(死亡事案では2015年度は57%、2016年度は56%が100時間未満)。ストレスやパワハラなどの心理的負荷が大きな要因となる精神疾患の場合は、全体の3割強が月60時間未満の残業でも労災として認定されています。

<過労死の労災認定と企業補償が困難に>

これまでは、たとえ月70時間の残業であっても、過労とストレスによる健康障害の事実が明らかであれば、労災として認められています。しかし、働かせ方改悪法案が通れば、企業側は、残業は単月100時間未満、月平均80時間以内であり、法定基準を守っていたと主張するでしょう。そうなると、労災認定の壁が高くなり、たとえ労災として認定されたとしても、企業責任を問う損害賠償請求訴訟は困難になる恐れがあります。

<労働時間の直接規制を緩和する>

労働時間の規制には上限を定めて制限する直接規制と、割り増し付き残業代の負担で制限する間接規制があります。ここであらためてはっきりさせるべきは、政府・厚労省がいう「時間外労働規制」は、規制強化を装ってはいるものの、労働時間の直接規制の緩和にほかならないということです。法案要綱の「時間外労働規制」は、1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超える残業の限度については棚上げして、残業の上限を原則として月45時間、年360時間とすることを法律で定めるといいます。問題はこの場合も従来の36協定(時間外・休日労働協定)の特別条項が温存され、「臨時的な特別の事情がある場合」は、単月100時間未満、2〜6ヵ月の月平均80時間以内、年720時間以内(休日労働を含めれば960時間)の残業は認める制度設計になっていることです。これは法定労働時間を掘り崩し、労働時間の直接規制に大穴を開けることを意味します。

<労働時間の間接規制も緩和する>

もちろん、労働時間の直接規制が緩和された場合も、残業代の支払い義務という労働時間の間接規制は残ります。しかし、この間接規制にも大きな問題があります。現状でも賃銀不払残業(サービス残業)の横行や、名ばかり管理職の乱用や、裁量労働制の適用拡大や変形労働時間制の運用によって、残業代の支払い義務の対象労働者が狭められています。各種の調査によれば正社員の3割は残業代の一部または全部が支払われていません。そのうえ、残業代の計算には賞与や諸手当が入らないので、現行の残業代の割り増率(通常25%)では、企業は残業を満額払っても、仕事量が増加した場合、新規に人を雇うより、現在いる労働者に残業をさせた方が安くつくという問題もあります。そこへもってきて、今度は高プロ制で一定の労働者を労働時間規制の対象から外し、使用者の労働者に対する残業代の支払い義務を免除しようとしています。これは労働時間の間接規制に大穴を開けるものです。対象となるのはとりあえず賃銀の高い専門的業務に従事する労働者に限られることになっていても、いったん通れば対象がどんどん拡大されていくことは、労働者派遣法の例を見ても明らかです。

<強行突破を許さないたたかいを>

結論から言えば、今回の働かせ方改悪法案は、労働時間の直接規制と間接規制をともども掘り崩す点で、労基法改悪の総仕上げを意図しています。それだけに、高プロ制の創設や裁量労働制の拡大の危険性だけでなく、過労死ラインの長時間労働を法律で認めることの危険性も明らかにして、反対世論を盛り上げ、支持率の下がった安倍内閣による強行突破を許さないたたかいを起こすべきときです。

<過労死防止の流れをさらに大きく>

過労死防止法が制定され、過労死防止大綱が策定されて、過労死の調査研究や啓発の取り組みが進んでいます。毎年11月には全国各地で啓発シンポジウムが開催され、年間を通じて弁護士や過労死遺家族による中学・高校・大学等での過労死防止とワークルールに関する啓発授業が実施されています。そういうなかで、昨年10月、第1回「過労死白書」の公表された日に、電通新入社員の高橋まつりさんの過労自殺事件が発表され、それを機に長時間過重労働と過労死に対する世論の関心が高まり、厚労省の監督指導が強化され、マスメディアの報道もよく目にするようになりました。この流れをさらに大きくするためにも、働かせ方改悪法案を阻止しなければなりません。

<労基法の原点に立ち返る>

蛇足ながら、最後に労基法について言い添えます。過労死防止は喫緊の課題ですが、労基法の原点に立ち返っていうなら、残業の上限規制は過労死の防止のみが目的であってはなりません。労働時間の規制は、憲法でいう「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障するもの、労基法でいう「人たるに値する生活を営むための必要」を充たし、「健康および福祉の確保」を旨とするものでなければなりません。本年4月16日の東京新聞社説は、今年が労基法公布から70周年に当たることに触れて、公布から一年後に出版された『労働基準法解説』における、当時の労働省労働基準局課長、寺本廣作氏の一文を引用しています。労基法の労働時間規制にはザル法といわれる欠陥がありますが、この文章は制定時の労基法の高い志を語ったものとして、今でも傾聴に値します。

「民主主義を支えるものは究極において国民一人一人の教養である。国民の大多数を占める労働者に余暇を保障し、必要な物質生活の基礎を保障することは、その教養を高めるための前提要件である。労働基準法は労働者に最低限度の文化生活を営むために必要な労働条件を保障することによってこうした要件を充たし、我が国における民主主義の根底を培わんとするところにその政治的な制定理由を持つ」。
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