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森岡孝二の連続エッセイ - 森岡孝二の連続エッセイカテゴリのエントリ

 レーバーネットは、本年9月12日の記事で、韓国で民主労組、過労死予防センター、健康権実現のための保健医療団体連合など30団体が集まり「過労死・過労自殺共同対策委員会」が発足したことを伝えています。

このなかの過労死予防センターは、弁護士、社労士、職業環境医学などの専門家、労働組合関係者などの活動家、過労死家族などで構成され、過労死・過労自殺の相談、予防、救済などに取り組む市民団体です。11月8日午後3時から、ソウルで同センターの開所式とシンポジウムがありました。

シンポでは、昨年、過労死防止学会第2回大会で報告されたイム・サンヒョク先生(労働環境健康研究所医師)の司会のもとに、はじめに私が「日本の過労死問題の現状と過労死防止法」について通訳付きの講演をしました。そのあとガン・スドル高麗大教授が「過労を奨励する韓国社会の問題点」を報告し、つづいて現場からの以下の4報告がありました。

ドラマ産業労働者の労働実態 ―― 青年ユニオン

ゲーム開発の労働者の過労死 ―― 対策委

集配労働者の過労死 ―― 対策委

馬管理士の過労自殺 ―― 公共運輸労組

最初のドラマ産業労働者の過労自殺事件は、韓国で大きなニュースになりました。韓国ドラマのケーブルテレビtvNの制作現場で働いていた新人アシスタント・ディレクターのハンさんは、2016年10月26日、過労自殺しました。遺書には、1日20時間を超える労働でくたくたになっている。これは私が最も軽蔑していた生活だという主旨のことが書かれていたといいます。

2番目のゲーム開発部門では、この1年余りの間に青年労働者(20〜30代)3人が亡くなっています。

2016. 7.13 マイヤーズ「ギルド・オブ・オナー」ゲーム開発労働者(37歳) 急性心停止で過労死。

2016.10.21 ネットマーブルゲームズ労働者投身自殺(36歳) 過労自殺。

2016.11.21 ネットマーブルネオのゲーム開発労働者(28歳) 心臓動脈硬化で過労死

最後のネットマーブルの青年は,死亡1ヶ月前の10月の第1週は95時間55分、第4週は83時間4分の時間外労働を行い、10月1〜2週は無休で12日、10月4週〜11月1週は連続13日働いていました。

3番目の集配労働者と4番目の馬管理士を含め、四つの事例報告に共通しているのは、日本と同様に、韓国でも若者のあいだで相次いで過労死・過労自殺が起きていることです。いまひとつは日本と違って、韓国では青年ユニオンをはじめとして労働組合が真相究明と再発防止に取り組み、労組の活動家を中心に対策委員会が作られて関係企業や政府に改善を求めて働きかけていることです。

韓国の文在寅(ムン・ジェイン)新大統領は労働時間の短縮に積極的に取り組む政策を打ち出していることもあり、韓国における過重労働と過労死に対する運動の盛り上がりから目が離せません。

詳しい情報は以下のサイトに出ています。

http://safedu.org/pds1/114426 과로사예방센터 토론회_웹용.pdf


 
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『週刊エコノミスト』2017年10月31日号 緊急特集「神鋼の絶体絶命」コメント 

 神戸製鋼所の長期にわたるデータ改ざん問題は1990年代初めのバブル崩壊以降、日本企業で断続的に進められてきた人減らし、正規社員から非正規社員への置き換えといった一連のリストラが背景にある。根深い問題だ。これは神鋼に限った話ではない。

一般的に製造業の現場で人員削減や賃下げ、非正規化が進むと、必然的に技術と経験の豊富な熟練工が減っていく。そうなると、生産現場での教育、技能継承もままならず、技術と人の両面から生産性の低下を生じさせやすい。だが、コスト削減のためには、少ない人員で高い生産計画をこなさなければならないので、品質や安全の確保がおろそかになり、取引先から要求された水準に達していなくても出荷せざるを得ない。そのために神鋼のようなデータ改ざんという不正が発生する。

改ざんは、現場の末端の労働者ではなく、その上の管理者が行うことが多い。改ざんには、生産システム全般にかかわるケースも少なくなく、それは職務権限上も管理職にしかできないからだ。不正を繰り返してきた企業にはデータ改ざんを行うための裏マニュアルがあるという話も聞いた。

グローバル化の影響も大きい。製造業は人件費の安い新興国での現地生産を進めてきた。これによって、日本の労働者は新興国の低賃金労働者との競争を余儀なくされ、これも賃下げや非正規雇用の増大につながった。

また、近年強まってきた株主の経営者に対する圧力も生産現場の疲弊させる一因となっている。高い配当を要求し、性急に結果を追い求める株主に迫られて、企業経営者は、安易な人件費削減で利益を拡大させた。私はこれを「レース・トゥ・ザ・ボトム(底辺への競争)」と呼んでいる。

つまり、労働者を低賃金・長時間労働・残業代未払いという劣悪な労働環境に追い込んでいく底辺への競争だ。これは日本だけではなく、欧米主要国でも似た状況だろう。

神鋼のデータ改ざん発覚後、フランスの通信社AFPや英フィナンシャル・タイムズといった海外メディアからすぐに取材を受けた。その背景には記者たちが抱く「日本の製造業への不信」だけでなく、近年「欧米主要国の有力製造業でも神鋼のような不正が繰り返されているという問題意識」があるように思われた。

実際15年には、独フォルクスワーゲンで排ガス不正問題が発生している。名門ドイツ企業の背任行為の背景にも、神鋼同様に利益至上主義の行過ぎた経営があったのではないかと、海外メディアも考えているのだ。神鋼の不正は氷山の一角に過ぎない。

*この事件ではロイター通信社からも取材を受け、次のような記事が出ている。

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このところ過労死防止法にもとづく厚生労働省の委託事業として行われている高校・大学への啓発授業で、兵庫過労死を考える家族の会代表の西垣迪世(みちよ)さんとご一緒することが多い。

西垣さんの一人息子、西垣和哉さんは、2002年4月に大手電子機器メーカー子会社の富士通SSLに入社。システムエンジニアとして働いていて、過労とストレスでうつ病を発症し、休職と復職を繰り返すなかで、治療薬の過量服用により、2006年1月に死亡した(当時27歳)。

和哉さんの発症前1ヵ月(2003年6月13日〜7月12日)の労働時間は296時間57分、時間外労働(残業)は128時間57分に及んだ。これは1日平均11時間52分の長時間労働が1ヵ月続いた勘定になる。朝9時から翌晩10時前までの連続37時間勤務もあった。

この会社の当時の36協定を見ると、「延長することができる時間」は、1日13時間、3ヵ月300時間、1年840時間(「ソフトウェアの研究・開発」の場合は960時間)となっていた。1日最長13時間の残業をさせることができるということは、法定8時間+時間外13時間で、1日21時間労働を許す協定が結ばれていたからである。これは翌朝までつづく残業中のあるかないかの細切れ「休憩」を加えると、1日24時間労働もありうることを意味する。和哉さんの37時間の連続勤務もこうした異常な勤務形態のなかで起きたことである。

当時この会社の所定労働時間は9時始業・17時40分終業の7時間50分で、所定内の休憩は12時10分から13時までの50分となっていた。会社が作成した勤務形態の図表では、残業の場合は、17時40分から18時10分までの30分、22時時から22時30分までの30分、翌3時から3時40分までの40分、翌8時30分から9時までの30分がそれぞれ「休憩」とされていて、時間内と時間外を合わせた「休憩」の合計は180分=3時間。前述の21時間労働にこの3時間を加えると、ちょうどまる1日、24時間拘束で働くこともありうる。

ただし、仕事が終わったあとの翌8時30分から9時の30分を名目だけの休憩として度外視すると、この会社の1日の最長労働時間(=拘束時間)は23時間半とみなすこともできる。それと符合するかのように、この会社の36協定中の休日労働協定には「始業午前9時00分 終業翌朝8時30分」とあって、1日の最長拘束時間は23時間30分とされている。

この協定の期間は、2006年7月1日から2007年6月30日までとなっているが、それから10年経った現在でも、富士通SSLのような会社は少なくない。大阪過労死問題連絡会が情報公開請求を通して入手した、2016年4月から2017年3月31日を期間とする36協定から例を取ると、日立製作所では休日の「始業及び終業時刻」を「8:50〜翌朝8:50」としている。また日本電信電話(NTT)は、「0時から24時」としている。午前0時始業というのもおかしな時刻であるが、1日24時間をまるまる働かせることができることを意味するとすれば、露骨なほど正直な書き方であるともいえる。ちなみに日立製作所とNTTの36協定は連合加盟の労働組合とのあいだで結ばれている。

これらの例が示すように、休日労働は、たとえ目安的な指導基準にせよ、時間外労働に設けられているような限度時間(1ヵ月45時間、1年360時間など)にあたるものがなく、制度的にはまったくの青天井で、労基署への届け出も完全にノーチェックである。

ところで政府・厚労省が進めようとしている「働き方改革」の残業規制は、残業を原則として1ヵ月45時間・1年360時間として、臨時的な特別の事情がある場合は、特別条項入りの36協定を締結することを条件に、単月100時間未満、複数月平均80時間以内、年720時間までの残業を認めるという制度設計になっている。

この場合、原則の1ヵ月45時間・1年360時間は休日労働を別枠としている。したがって、休日を除く残業が1ヵ月45時間であっても、月4回(週1回)の法定休日に毎回9時間働かせるだけで、45時間+36時間=81時間となり、複数月の上限である80時間を超えてしまうことになる。

臨時的な特別の事情がある場合の残業の上限とされる「単月100時間未満、複数月平均80時間以内は休日労働を含んでいる。だがやっかいなことに「年720時間以内」は、休日労働が別枠扱いである。したがって、他の制限がなく、すべての法定休日にフルに働かせることができるとすれば、年間1000時間を遙かに超える残業もありうることになる。しかし、この場合、複数月平均80時間以内という制限があるので、年間の総残業時間は960時間(80時間×12ヵ月)を超えることはできない。こういう計算から、年間の残業の上限とされる720時間は、休日労働を含めれば960時間まで可能と読み替えなければならない。

今回の「働き方改革」の「時間外労働の規制」をめぐる厚労省労政審(労働条件分科会)の議論では、休日労働の問題はほとんど取り上げられなかった。そうなった前提には、月4回の法定休日にすべて労働をさせるような酷い会社はほとんどない、ましてや休日に24日労働をさせる非常識な会社などあるはずはない、という現実無視の認識があると考えられる。その意味では労政審の有識者たちは過労死職場の過重労働の実態をご存じないのではなかろうか。そういう場でまとまった「働き方改革法案要綱」はまともな審議の結果といえるかどうか疑問である。

*今回はいつもの「です・ます調」ではなく「である調」になってしまいました。ご了解ください。
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 9月15日、労働政策審議会労働条件分科会(以下、労政審)は、厚労相から諮問のあった労働時間制度改革にかかわる「働き方改革法案要綱」について、「おおむね妥当」と答申しました。それを受けて、政府は、他の分科会ですでに答申されていた「同一労働同一賃金」などの関連法案と合わせて、働き方改革関連法案を9月下旬に召集される臨時国会に一括提出し、来年4月の施行する方針を打ち出しました。

 しかし、臨時国会冒頭での突然の国会解散と、総選挙を目前にした政界再編で、法案の上程と審議入りは来年1月以降にずれ込むものと予想されます。こまかく言うと、法案は、前回述べたように、^貭蠅力働者を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ制)」の創設。∀使で定めた一定時間以上は労働時間と見なされず、残業代も支払われない裁量労働制の営業職への拡大、2疣死するほどの長時間労働を法律で認める時間外労働(残業)の上限設定の三つ――「3本の毒矢」――からなっています。さきの労政審では、2015年4月に上程されながら審議入りができずにいた,鉢△鬚い辰燭鷦茲蟆爾欧董↓と一緒にしてあらためて上程する予定になっていました。詳細はわかりませんが、もし、´△亮茲蟆爾欧鬚靴討い覆い泙涓鮖兇砲覆辰燭里覆蕁↓´△惑儖討砲覆辰董⊇伉召靴箸いΔ海箸砲覆蠅泙后しかし、´△取り下げられていたのなら、´↓はいずれも、まだ上程されていないことになります。いずれにせよ、「働き方改革法案」は「御破算で願いましては」の状態になっています。

今回の国会解散は「党利党略解散」とか、「モリカケ隠し解散」とか言われています。安倍首相は北朝鮮のミサイルと核の脅威に乗じて、昔の中国侵略を鼓舞する歌の題名を援用し「“国難突破”解散」といきり立ってみせています。ネットで調べると、すでに使われていて私のオリジナルではありませんが、私は今回の解散を「ちゃぶ台返し解散」と呼びたいと思います。ちゃぶ台返しは、映画「若者たち」(1966年テレビ、67年映画)で長男役の田中邦衛がよくやりました。アニメ「巨人の星」の父親の星一徹の得意芸でもあります。

この「ちゃぶ台返し」は、安倍内閣の支持率の低下を招いたモリカケ疑惑を一掃はできないまでも場面転換するうえで有効かもしれません。しかし、激高して見せて冷却を図るこの手法は、政府サイドにとって大きなリスクもあります。それは審議入りしていた法案や準備されていた法案をいったん御破算にしてしまうからです。これを再び動かすには相当のエネルギーを要します。反対が強い法案であれば、世論工作のやり直しも必要です。

報道によると、自民党は選挙公約の柱として「人づくり革命」、「憲法改正」、「アベノミクスの加速」、「働き方改革」、「北朝鮮への対応」などを掲げるようです。「働き方改革」では、長時間労働の是正や非正規雇用の処遇改善などを唱えるのでしょうが、批判の強い高プロ制(残業代ゼロ法案)を争点にすることは避けるのではないかと思います。公明党も与党としては自民党と大きくは違わないでしょう。

希望の党は、「寛容な改革保守政党」を目指すと言いながら、「安保法制(戦争法)容認」「憲法改正」では自民党と変わりません。雇用・労働政策については公約に掲げていないようですが、自民補完勢力として、安倍内閣の進める「働き方改革」のあと押しをするものと考えられます。維新は閣外与党としてアベノミクスの「働き方改革」を推進する立場にあります。

希望の党に移らなかった前民進党議員が結集する「立憲民主党」は、連合の支持を取り付けるためにも、働き方改革の高プロ制には反対するものと期待されます。共産党や社民党が働き方改革法案に反対している点はこれまでと変わりません。

選挙は蓋を開けてみないとわかりませんが、自民党が過半数を割るか大きく議席を減らす可能性もあります。そうなると、与党の公明党はもちろん、補完勢力の維新や希望の党の出番です。たとえ自暴自棄ならぬ自公維希の大連立が成立しても、選挙後すぐに「働き方改革法案」が上程され審議入りするという運びにはならないでしょう。しかし、自民党が圧勝すると、いったん御破算になった法案がたちまち息を吹き返して強行されることもありえます。

そうさせない情勢を切り開くことができるかどうかは、共産・社民・立憲民主・無所属リベラルの野党共闘がどれだけ議席を伸ばせるかにかかっています。咋日(10月1日)、「市民連合高槻・島本」は、全体会議を開き、今回の総選挙では、大阪10区で立候補される辻元清美さんを推薦することを決めました。私も呼びかけ人のひとりとして出席していましたが、市民連合と辻元候補の間で合意された政策のなかには、残業代ゼロなどの「働き方改革」に反対することも盛り込まれています。維新と自民党を相手に当選を勝ち取ることは容易ではありません。しかし、市民連合+野党共闘の力をもってすれば、勝機は十分にあります。全国で短期間にこういうかたちが広がれば、働かせ方改悪法案を潰す展望も生まれてくるでしょう。
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 <3本の毒矢>

9月8日の労働政策審議会(労働条件分科会)に働かせ方改悪法案の要綱が示されました。当日の議題では「働き方改革を推進するための関係法案の整備に関する法律案要綱」となっています。法案は9月下旬に召集予定の臨時国会に提出し、来年4月の施行を目指すと報じられています。例によっていろいろ化粧が施されていますが、労働時間制度の改革は、^貭蠅力働者を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ制)」の創設。∀使で定めた一定時間以上は労働時間と見なされず、残業代も支払われない裁量労働制の営業職への拡大、2疣死するほどの長時間労働を法律で認める時間外労働(残業)の上限設定の三つ――「3本の毒矢」――からなっています。

<一本化で一括改定>

´△呂垢任法2015年3月の労政審で取りまとめられたあと、同年4月に国会に上程されて、もう2年余り審議入りができないままになっています。は本年3月の政労使合意を受けて、6月5日の労政審で議決されています。今回の労政審では上程済みの´△鬚い辰燭鷦茲蟆爾欧董△△蕕燭豊´△鉢を一本化し、他の働き方改革の関連項目と合わせて計8本の法案として上程し、一括改定する方向が打ち出されました。

<連合のちぐはぐな対応>

連合はの残業の上限設定にはすでに合意しています。´△旅皀廛蹇∈枸模働制についても、一時は条件付きで合意する動きがありましたが、組織内外の反対の声が大きく、以前の反対姿勢に戻りました。そこで現時点では、´△砲枠紳个垢襪垢襪、は反対しない、したがって一本化は受け入れられないという立場をとっています。しかし、もともと政府の狙いは三つの毒矢をセットにした労働時間制度改革でしたから、は賛成だが´△枠紳个箸いΔ里鰐詰筋の感があります。労働界だけでなく、法律家やマスメディアの一部にも、´△鮖超箸燭斉き助長案、を残業規制案とみなして、両案は相容れないものなので一本化すべきではないという意見もあります。しかし、これは政府・厚労省のいう残業の上限設定の危険性をみない謬論です。

<上限規制は高プロ制から派生>

振り返ると、過労死弁護団全国連絡会議や全国過労死を考える家族の会の運動が実って、2014年6月20日、過労死防止法が成立しました。政府はその4日後に閣議決定した「日本再生戦略 改訂2014」において、過労死防止の流れに逆行して、過労死を助長する恐れのある「新たな労働時間制度」の創設を打ち出しました。それが2015年3月の労政審に諮られ、柱の一つが「高プロ制」と名付けられました。また、その創設によって、労働時間規制から外される労働者に対する措置として、労働時間に代わる「健康管理時間」の範囲設定、前日の終業から翌日の始業までの一定の休息時間の確保、年間104日以上の休日確保などが示されました。こういう経過に照らすと、昨年急に浮かび上がった「時間外労働規制」の上限設定は、「高プロ制」で想定されていた健康管理時間の範囲設定から派生したものと言えます。

<月100時間未満の残業でも過労死が多発>

今回の働かせ方改悪法案は、残業の上限設定にいわゆる過労死の労災認定基準――おおむね単月100時間、2〜6ヵ月の月平均80時間の残業――を持ち出しています。これは発想からして間違っています。この数字は、これだけの残業をしていたことが証明されれば、過労死が労災と認められやすいということを意味しています。しかし、厚労省の労災補償データで見ると、近年の脳心臓疾患の労災認定(支給決定)件数の約半数は月100時間未満の残業で起きています(死亡事案では2015年度は57%、2016年度は56%が100時間未満)。ストレスやパワハラなどの心理的負荷が大きな要因となる精神疾患の場合は、全体の3割強が月60時間未満の残業でも労災として認定されています。

<過労死の労災認定と企業補償が困難に>

これまでは、たとえ月70時間の残業であっても、過労とストレスによる健康障害の事実が明らかであれば、労災として認められています。しかし、働かせ方改悪法案が通れば、企業側は、残業は単月100時間未満、月平均80時間以内であり、法定基準を守っていたと主張するでしょう。そうなると、労災認定の壁が高くなり、たとえ労災として認定されたとしても、企業責任を問う損害賠償請求訴訟は困難になる恐れがあります。

<労働時間の直接規制を緩和する>

労働時間の規制には上限を定めて制限する直接規制と、割り増し付き残業代の負担で制限する間接規制があります。ここであらためてはっきりさせるべきは、政府・厚労省がいう「時間外労働規制」は、規制強化を装ってはいるものの、労働時間の直接規制の緩和にほかならないということです。法案要綱の「時間外労働規制」は、1日8時間、1週40時間の法定労働時間を超える残業の限度については棚上げして、残業の上限を原則として月45時間、年360時間とすることを法律で定めるといいます。問題はこの場合も従来の36協定(時間外・休日労働協定)の特別条項が温存され、「臨時的な特別の事情がある場合」は、単月100時間未満、2〜6ヵ月の月平均80時間以内、年720時間以内(休日労働を含めれば960時間)の残業は認める制度設計になっていることです。これは法定労働時間を掘り崩し、労働時間の直接規制に大穴を開けることを意味します。

<労働時間の間接規制も緩和する>

もちろん、労働時間の直接規制が緩和された場合も、残業代の支払い義務という労働時間の間接規制は残ります。しかし、この間接規制にも大きな問題があります。現状でも賃銀不払残業(サービス残業)の横行や、名ばかり管理職の乱用や、裁量労働制の適用拡大や変形労働時間制の運用によって、残業代の支払い義務の対象労働者が狭められています。各種の調査によれば正社員の3割は残業代の一部または全部が支払われていません。そのうえ、残業代の計算には賞与や諸手当が入らないので、現行の残業代の割り増率(通常25%)では、企業は残業を満額払っても、仕事量が増加した場合、新規に人を雇うより、現在いる労働者に残業をさせた方が安くつくという問題もあります。そこへもってきて、今度は高プロ制で一定の労働者を労働時間規制の対象から外し、使用者の労働者に対する残業代の支払い義務を免除しようとしています。これは労働時間の間接規制に大穴を開けるものです。対象となるのはとりあえず賃銀の高い専門的業務に従事する労働者に限られることになっていても、いったん通れば対象がどんどん拡大されていくことは、労働者派遣法の例を見ても明らかです。

<強行突破を許さないたたかいを>

結論から言えば、今回の働かせ方改悪法案は、労働時間の直接規制と間接規制をともども掘り崩す点で、労基法改悪の総仕上げを意図しています。それだけに、高プロ制の創設や裁量労働制の拡大の危険性だけでなく、過労死ラインの長時間労働を法律で認めることの危険性も明らかにして、反対世論を盛り上げ、支持率の下がった安倍内閣による強行突破を許さないたたかいを起こすべきときです。

<過労死防止の流れをさらに大きく>

過労死防止法が制定され、過労死防止大綱が策定されて、過労死の調査研究や啓発の取り組みが進んでいます。毎年11月には全国各地で啓発シンポジウムが開催され、年間を通じて弁護士や過労死遺家族による中学・高校・大学等での過労死防止とワークルールに関する啓発授業が実施されています。そういうなかで、昨年10月、第1回「過労死白書」の公表された日に、電通新入社員の高橋まつりさんの過労自殺事件が発表され、それを機に長時間過重労働と過労死に対する世論の関心が高まり、厚労省の監督指導が強化され、マスメディアの報道もよく目にするようになりました。この流れをさらに大きくするためにも、働かせ方改悪法案を阻止しなければなりません。

<労基法の原点に立ち返る>

蛇足ながら、最後に労基法について言い添えます。過労死防止は喫緊の課題ですが、労基法の原点に立ち返っていうなら、残業の上限規制は過労死の防止のみが目的であってはなりません。労働時間の規制は、憲法でいう「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障するもの、労基法でいう「人たるに値する生活を営むための必要」を充たし、「健康および福祉の確保」を旨とするものでなければなりません。本年4月16日の東京新聞社説は、今年が労基法公布から70周年に当たることに触れて、公布から一年後に出版された『労働基準法解説』における、当時の労働省労働基準局課長、寺本廣作氏の一文を引用しています。労基法の労働時間規制にはザル法といわれる欠陥がありますが、この文章は制定時の労基法の高い志を語ったものとして、今でも傾聴に値します。

「民主主義を支えるものは究極において国民一人一人の教養である。国民の大多数を占める労働者に余暇を保障し、必要な物質生活の基礎を保障することは、その教養を高めるための前提要件である。労働基準法は労働者に最低限度の文化生活を営むために必要な労働条件を保障することによってこうした要件を充たし、我が国における民主主義の根底を培わんとするところにその政治的な制定理由を持つ」。
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 今野晴貴『君たちはどう働くか』 皓星社、1200円+税

POSSE Vol.31 2016年6月号

本誌の読者にはいうまでもないが、著者は若者を中心に多数の労働相談を受けるNPO法人POSSEの代表である。まだ大学院に在籍する若手研究者でありながら、大佛次郎論壇賞を受賞した『ブラック企業――日本を食いつぶす妖怪』(文春新書)のほかに、『ブラック企業ビジネス』(朝日新書)、『求人詐欺――内定後の落とし穴』(幻冬舎)、『ブラックバイト――学生が危ない』(岩波新書)など、多数の本を著している。

著者がいうように、文部科学省によると今日では高校進学率が九七%に達し、中学校卒業と同時に社会で働く人は三%にすぎない。本書はそういう中学生だけでなく、これから高校に進んで、あるいはやがて大学を出て、アルバイト(バイト)をするか就職をするだろう中学生に向けて、働くとはどういうことか、またどう働けばいいのかを助言するために書かれた。すでに働いている若者や親や教師が読んでも役に立つ働き方の手引き書である。

著者は、第1章で人々の働き方に関心を持つにいたったきっかけを自ら語っている。はじめは、中学生のころに男女雇用機会均等法が改正されたニュースに接し、日本の会社では男女が平等ではないことに疑問を持つようになった。高校では、経済や政治の本をよく読み、テレビのドキュメンタリー番組をやたらと観ていた。大学では、法学部の三年生のときに「働くすべての人々にかかわる」労働法のゼミナールを選択することで、「労働」と出会った。そしてまだ大学生だったときにPOSSEを立ち上げ、いまはその活動を続けながら大学院で「労働社会学」を研究しているという。

本論ではまず、人はおとなになったらどうして働かなければならないのかを考える。「お金を稼ぐため」とか「家族のため」とかいうこともあるが、社会は労働で成り立っていることからいえば、結局、昔から人は「生きるため」に働いてきたのである。しかし、少し読み進むと、今のように会社に雇われて賃金を得るという働き方は、多くの人が自分の労働力を労働市場で商品として売るよりほかには生きる術がなくなった資本主義の時代に広まったもので、人類の歴史のうえでは比較的新しいということも分かる。

どのスポーツも最低限のルールを知らなければ、参加することはおろか、観戦することさえおぼつかない。働くことにも学んでおくべき「ルール」があって、そのために一連の労働法が国によって定められている。それらをすべて覚える必要はないが、最低限のルールを知っていないと、不当に長く働かされたり、ただ働き残業をさせられたりして、ひどい場合には「過労死」させられることもある。会社の求人には、ウソが交じっていることが多く、賃金が高いと書かれていたので就職したら、基本給に長時間の残業代を組み入れていたという会社もある。

雇われなくては生きていけない労働者は、労働時間や賃金に不満があっても、個人では立場が弱く、会社のいうなりに働かされやすい。もともと弱い立場の労働者を守るために、国は労働契約法、労働基準法(労基法)、労働組合法、労災保険法(労働者災害補償保険法)などの労働法で、「働くルール」を定めている。労働契約法は雇う側と雇われる側との守るべき「約束」について取り決めている法律である。労基法は、使用者(会社)が守るべき労働条件の「最低基準」を定めている。労基法では、1日8時間、1週40時間を超えて働かせてはならず、それを超えて時間外労働(残業)をさせる場合は、通常の賃金の二五%以上の率で計算された割増賃金を支払わなければならない。こういう義務を使用者に守らせるための「警察」の役割を持った機関が労働基準監督署(労基署)である。労基署が監督指導をしても、事業所の数に比べて監督官が不足しているという事情もあって、違法な労働条件が改善されないことも多い。ことに労働者がバラバラでは会社側が圧倒的に強く、労働者の権利は守られにくい。しかし、労働者が集まって団結すれば、使用者と「対等」に交渉できるようになる。このように労働者が使用者との交渉において対等の立場に立って労働条件を自ら改善することを可能にするために制定された法律が労働組合法である。

法律の専門家である弁護士も、働く人のトラブルの解決には関わるが、経営側の弁護士と労働側の弁護士とでは自ずと立場が異なる。それゆえに、「弁護士に相談するときは、労働側の弁護士に」が第一原則である。労働法でたとえ労働者の権利がうたわれていても、労働者が労基署に申告するとか、組合に入って交渉するとか、裁判を起こすとかして実際に権利を行使しなければ、権利は守られない。組合には労働者であれば誰でも、たとえ一人でも入れる。

原則として、会社は児童・生徒を満一五歳に達して中学校を卒業するときまでは労働させてはならない。しかし、中学を出たあとは、雇って働かせることができる。中卒ですぐに働く人も少数ながらいるが、多くの人は高校のバイトではじめて労働を体験する。大学ではバイトをしない人のほうが少ない。ところが最近ではパートやバイトなどの非正規労働者が全労働者の四割を占めるまでになり、大学生や高校生のバイトでも、契約の内容を無視したり、無理な働かせ方をしたりするブラックバイトが増えて、社会問題になっている。なかには辞めたいと言っても辞めさせてもらえず、結局、辞めるまで何ヵ月も連続で休みなく働かされたというケースもある。仕事のマニュアル化が進み、以前なら正社員がやっていた仕事を最近ではバイトがやらされるようになるなかで、コンビニや飲食サービスなどのバイト先で嫌がらせやパワハラを受ける事例も増えている。バイト先で不当に低い時給で過剰な残業やただ働きをさせられたり、いやな目にあったりしたときにはどう対処すればいいのか。これはバイトに限らず、正規に就職した場合にも言えることであるが、本書によれば次の三つのことを知っていて実行すれば、なんとか身を守ることができる。

その1 「自分が悪い」と思わないこと。

その2 記録をとること。

その3 労働側の専門家に早く相談すること。

辞めて再スタートを切ることもわが身を守る一つの選択肢である。本書の最後には、働く前に覚えておきたい25の重要なルールも示されている。そのなかには、「働く人を解雇するときには、誰が見ても納得できるような理由がなくてはならない」というルールや、「同じ会社で、半年間働いた人には、基本的に(パートやバイトであっても)有給休暇を与えなくてはならない」というルールもある。

近年では、小中学校から大学にいたるすべての教育段階で学校教育と職業社会を結ぶ「キャリア教育」の必要性が唱えられている。しかし、文部科学省のホームページや発行物を見るかぎり、現在推奨されているキャリア教育は、子どもたちに「自分らしい生き方を実現するための力」を身につけることを求めてはいても、子どもたちが社会に出て求められる労働や健康や安全に関する知識をおろそかにしている。この点でブラック企業やブラックバイトを見きわめる力を身につけることに主眼をおいた本書の教材としての利用価値は大きい。

本書では触れられていないが、二〇一四年六月に、超党派の議員立法で「過労死等防止対策推進法」(略称・過労死防止法)が成立した。同法の第九条は「国及び地方公共団体は、教育活動、広報活動等を通じて、過労死等を防止することの重要性について国民の自覚を促し、これに対する国民の関心と理解を深めるよう必要な施策を講ずるものとする」と定めている。またこの法律にもとづいて閣議決定された「過労死等の防止のための対策に関する大綱」は、「過労死等にも至る若者の『使い捨て』が疑われる企業等の問題など、劣悪な雇用管理を行う企業の存在と対策の必要性」を強調し、「特に若年者を対象とする教育活動を通じた啓発が必要である」として、「中学校、高等学校等において、勤労の権利と義務、労働問題、労働条件の改善、仕事と生活の調和(ワークライフバランス)について理解を深める指導がしっかりと行われるよう、学習指導要領の趣旨の徹底を図る」とも述べている。これに照らしても、中学生という早い段階から「君たちはどう働くか」を説く本書は、いま書かれるべくして書かれた働き方の手引きと言えよう。(転載が1年以上遅れてすみません)

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『劣化する雇用 ビジネス化する労働市場政策』旬報社、1,600円

伍賀一道ほか編著 執筆者=脇田 滋、森 巌、後藤道夫ほか

「しんぶん赤旗」 2016年8月7日

この本は雇用問題の専門家と、厚労省の本庁や労基署や職安で働く職員で組織された労働組合の活動家によって書かれた。そのために近年の労働市場の急激な変貌が手に取るように描かれている。

「劣化」という言葉は「低下」と「悪化」を合わせた意味を持つ。タイトルには、労働市場が人材ビジネスの草刈り場になり、労働基準の底が抜けるほど雇用の質が低下し、労働者階級の状態が悪化したという認識が示されている。

第犠呂蓮▲僉璽函▲▲襯丱ぅ函派遣、その他の非正規労働者が全労働者の約四割、女性では約六割を占めるまで増えた背景を、「雇用維持」から「労働移動」に舵を切り替えた「労働市場政策」に焦点を合わせて考察している。

第蕎呂蓮雇用形態の多様化と労働市場の流動化につれて、人材ビジネス業が繁盛し、労働移動支援の助成金を食い物にした「リストラ指南」まで現れ、求人・求職情報の人材ビジネスへのオンライン提供や、職業紹介業務のオンライン化が進んでいることを明らかにしている。

第珪呂蓮安倍内閣のいう「失業なき労働移動」の実像を抉り、労働者派遣法の再三の改定による派遣利用の拡大・固定化と、ジョブ・カード」「キャリア・コンサルタント」などの職業能力評価の新手の手法を暴いている。

最後の第絃呂蓮⇔票舛文柩僂鯀禄个垢襪燭瓩力働市場政策のあり方を説いている。

読み終わり、新自由主義的規制緩和で雇用も雇用政策も劣化して、使用者には働かせやすいが、労働者には働きづらい世の中になったものだと痛感した。この現状を変えるためにもぜひ一読されたい。(1年遅れの転載ですみません)

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 竹信三恵子著『正社員消滅』朝日新書、760円+税

2017年4月23日 「しんぶん赤旗」

安心・安定が消える働き方の実相

著者は労働現場を取材してきた元朝日新聞記者。今は大学で現代社会を教えている。

書名の「正社員消滅」には二つの意味がある。ひとつは非正社員化による文字通りの消滅。もうひとつは正社員の「安心・安定」の消滅。

第一の意味の消滅なんてありえないと思うかもしれないが、今では正社員が消えた職場が多い。パートが基幹労働力になって、スーパーやコンビニでは、店長もパートという店舗が増えている。

雇用形態が多様化して、➀中核正社員、⊆辺正社員、2鮓曚靴笋垢じ堕蠕擬勸(職務、勤務地、労働時間の限定)、ぅ僉璽肇織ぅ猩働者、ゥ▲襯丱ぅ範働者、Ψ戚麩働者、派遣労働者、┯朕誉蘇蚣働者などの雇用身分に分化している。

読み進んでいくうちに、日本の雇用が酷い状態になっていることに驚かされる。30年前に雇用の行方について考えたとしても、ここまで劣化するとは誰も予想しえなかったのではないだろうか。

正社員の追い出しや転職も今ではビジネスである。労働移動支援助成金をもうけのタネにした「リストラ指南」が繁盛し、公共職業安定所(ハローワーク)の情報の人材会社への提供も、政府の胆入りで始まっている。派遣会社の転職支援で辞めた会社に「派遣で戻る」という例もある。

これが「非正規という言葉をこの国から一掃する」と豪語した安倍首相の「働き方改革」の実相である。

政府は残業規制の名の下に過労死ラインの残業を法認ししようとしている。それが長時間残業とパート就労に及ぼす影響を考えるうえでも一読に値する本である。

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 エコノミスト 2017年2月28日号

北健一『電通事件――なぜ死ぬまで働かなければならないのか』旬報社、1,000円+税 

なぜ死ぬまで働かなければならないのか

昨年10月に電通新入社員、高橋まつりさん(当時24歳)の過労自殺事件が公表された。その衝撃はいまだに収まらない。若者の過労自殺が続発しているなかで、この事件が大きな関心を呼んだのはなぜか。本書にはその答えがある。

著者は、電通の歴史や世評を跡付け、元社員、現社員、弁護士、医師、研究者、監督官、過労死家族などに取材し、事件の全容をジャーナリストの目で丁寧にまとめている。

この会社では1991年にも大嶋一郎さん(当時24歳)がひどい長時間労働とパワハラで過労自殺した事件があった。その裁判では、2000年3月24日、最高裁が使用者の労働者に対する健康配慮義務を厳しく問う画期的判決を出した。

にもかかわらず、電通の長時間労働体質は改められなかった。そのことは、1951年に四代目社長によって定められた、「殺されても放すな」という文言の入った「鬼十則」を、最高裁判決後も、2016年まで社員手帳に載せてきたことからもわかる。

高橋さんは2015年3月に東京大学文学部を卒業。4月に電通に入社し、インターネット広告部門に配属される。10月に本採用になってからは、担当部署の人員が大幅に減らされたこともあって、猛烈な長時間労働になり、うつ病を発症した。

その月の残業は1ヵ月100時間を超えた。パワハラ、セクハラもひどかった。ツイッターやLINEに残された言葉によれば、高橋さんは男性上司から、「君の残業時間……は会社にとって無駄」「女子力がない」「髪がボサボサ、目が充血したまま出勤するな」などと言われた。

広告業界に君臨してきた電通の経営も、デジタル領域のネット広告部門はうまくいかず、広告料の不正請求も発覚して、火を噴いていた。それが高橋さんの過重労働の負荷をいっそう大きくした。

この事件は過労死防止法が制定され、「過労死ゼロ」に向けた国の取り組みが始まったなかで起き、最初の「過労死白書」が出た日に公表された。この事件では厚労省の監督責任も問われた。そのため強制捜査から書類送検に至る厚労省の動きも早かった。安倍首相も「働き方改革」の会合で、高橋さんの名を挙げ、「悲しい出来事」として、電通事件に触れざるをえなかった。

しかし、働き方改革では、「残業代ゼロ」を拡大し、過重労働を助長する法案も出されている。安倍内閣が本当に残業規制に踏み出そうとしているのかを考えるうえでも、本書は一押しの本である。

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 エコノミスト 2016年12月6日

濱田武士『魚と日本人――食と職の経済学』岩波新書、820円 + 税

水産物流通の現場訪ね「魚職不朽」を説く

著者は各地の漁港や魚市場を歩き、おいしい魚を求めて近所の鮮魚店にも足を運ぶ漁業経済学者である。 

昔は魚屋さんに行けば、いまは何が旬か、この魚はどう食べたらおいしいかを対面で教えてくれたものだが、消費者が顔のないセルフ形式の買い物を好むようになって、街から魚屋が消えてきた。それに追い打ちをかけるように「魚離れ」が進み、魚を探し求めて料理して食べる「魚食」は日常生活から消えつつある。

切り身は買われても丸魚は敬遠され、包丁で魚を処理できる人は少なくなっている。消費者が魚と出会うのは、最近ではスーパーの魚コーナーであるが、なかには魚(おそらくは切り身)に骨があるからと言って、店にクレームをつける顧客がいるらしい。市場にはレトルトや冷凍食品やファストフードが溢れていることも、食べるのに時間と手間がかかる魚食が廃れていくことの一因となっている。

魚食とつながる魚職についていうと、鮮魚店も大きく減少している。スーパーの魚コーナーにはアラスカ産のサケ、モーリタニア産のタコ、ベトナム産のブラックタイガーといった輸入水産物が増えている。これも国内漁業との関係では魚職の減少である。それだけに最大の中央卸売市場である築地市場の集荷範囲は世界に拡がっている。

簡単ではあるが、本書には小池都知事の誕生にともなう築地市場の豊洲移転計画の延期や土壌汚染の話も出ていて、時事問題を考えるうえで勉強になる。

漁業経済学者である著者の真骨頂は魚食と魚職を結ぶ、消費地卸売市場と生産地卸売市場の役割の考察にある。

魚を含む水産物は、漁業者から産地卸売市場の卸業者(荷受)、仲卸業者(仲買人または買受人)を経て、消費地卸売市場の卸業者、仲卸業者を介し、小売業者や外食事業者に渡り、消費者に届けられる。漁業者から消費者までの間には、流通6段階と呼ばれる取引がある。

この取引の担い手を、著者は食べる人たち(第1章)、生活者に売る人たち(第2章)、消費地で卸す人たち(第3章)、産地でさばく人たち(第4章)、漁る人たち(第5章)に分け、順に訪ねていく。

なかでも漁師や漁業者の話と重ねて読むと、「食は職が支えている」ことがわかる。だから魚食も魚職も朽ちさせてはならない。各地で「魚食普及」の取り組みがされているが、それを「魚職不朽」につなげて欲しい。そのことが著者の提言であり、願いである。評者もそう思う

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