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森岡孝二の連続エッセイ - 森岡孝二の連続エッセイカテゴリのエントリ

 前回、厚労省の「就労条件総合調査」から、年休(年次有給休暇)の取得率は1980年には6割を超えていたが、最近は5割を切っていると言いました。しかし、これは労働者の4人1人を占めるパート・アルバイトなどの短時間労働者を除いた数字です。また。労働者の3人に1人を占める規模30人未満の零細企業も調査対象から除かれています。

 パート・アルバイトの多くは年休をほとんど取っていません。零細企業労働者の年休取得率が著しく低いことは統計がなくともよく知られています。こうした事情を含めれば、日本の労働者の年休取得率は、4割台どころか3割台に落ちるのではないかと考えられます。

 労働基準法では、アルバイトでも雇い入れの日から6か月間継続して勤務し、所定労働日の8割以上出勤している場合は、時間と日数と継続期間に比例して年休を取得できることになっています。例えば、1日4時間で、週4日、6か月の場合は7日年休がとれます。2004年に私の指導するゼミナールで、関西大学経済学部の学生を対象にアルバイトの実態調査を行い、年休の法律知識と取得状況を調べました。その結果、85%がアルバイトでも年休が取れることを「知らない」と答え、90%は「取得したことがない」と答えました。回答者の67%がアルバイトを「継続的に行っている」状況からみると、年休を「知らない」「取れない」人が非常に多いことがわかります。、

「知らない」のは使用者が知らさないからですが、制度がきわめて分かりにくいことも「知らない」状況を生んでいます。フルタイム(週30時間以上)の場合の付与日数は、6か月の継続勤務で初年度は10日、以後2年6か月までは1年ごとに1日追加、さらに以後1年ごとに2日追加で、勤めはじめて8年6か月すれば20日に達し、それ以降は毎年20日が付与されることになっています。パート・アルバイトの場合は、これよりずっとややこしくなっています。週30時間未満でも所定労働日数が週5日、または年間217日以上の場合は、30時間以上と同一です。しかし、それ以外の短時間労働者は、週の所定労働日数が4日から1日まで4つに区分され、年の所定労働日数にもまた4つの区分があって、さらにそれぞれ0.5年から6.5年まで7つの異なる継続勤務期間によって、年休の付与日数が区分されています。参考までにリンクした大阪労働局富山労働局のパズルのような図表をご覧ください。

これではあまりに複雑です。所定労働日数が週1日または年48日から72日までの労働者は、6か月の継続勤務で初年度は1日、4年6か月で3日の有給を取ることができます。上記の労働局の図表を見て、これがすぐに理解できる人は、数独のような数字パズルにとても強い人です。年休を普及するには、こうしたわずらわしい制度をもっとシンプルにする必要があります。私見を言えば。1か月以上同一雇用主のもとに継続勤務していれば、最初の年でも1か月当たり2日、年間では12倍の24日を有給の休みにする、その後1年に1日ずつ増やし、6年以降は国際水準の年30日を付与するという制度に改善するべきです。

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2003年7月25日の読売新聞「論点」欄に「日本人にもバカンス必要」という拙文を寄稿しました。残念ながら、この間に日本人の休暇事情にみるべき改善はありませんでした。そこで旧稿の主張を繰り返すことをお許しください。

夏だ、バカンスだ、といえないのは悲しいことです。ヨーロッパでは、年間約1か月の休暇のうち、夏は2、3週間、たいてい家族連れで1、2か所にゆっくり滞在します。けれど、日本では長い休みがあるのは学校の生徒や学生だけで、一般の社会人には長期休暇はほとんどありません。あるとしたらたいていは1泊2日、よくて2泊3日の小旅行か、数日の帰省休暇くらいです。海外旅行も有給休暇をまとめて取るというほどではありません。

自由時間デザイン協会(現在は社会経済生産性本部・余暇創研に引き継がれている)が2002年に実施した「休暇に関する国民の意識・ニーズに関する調査」によれば、有職者のうち、1年間に2週間以上の連続休暇を取得した者はわずか3.5%にすぎません。全体の7割の者は1週間未満しか取れず、3割の者は4日以上の連続休暇は一度もありませんでした。

休暇の貧しさを端的に示すのは、年次有給休暇(年休)の取得状況です。1980年に61%であった取得率は、1988年に50%まで低下し、2004年度には過去最低の46.6%まで落ち込みました。この年に企業が付与した年次有給休暇日数(繰越日数は除く)は、1人平均18日、そのうち実際に取得した日数は8.4日でした。この状況は最近においても変わっていません(厚労省「就労条件総合調査結果」)。

取得すべくして失われた年休の総日数は年間約4.5億日にも達します。わずかに取得された年休も、実際は余暇目的の連続休暇のためではなく、ほとんどは病欠や育児、介護、その他の個人的用務のためです。夏期休暇のために年休を何日取っているかを厚生労働省に問い合わせたところ、現在はそういう調査はしていないとのことでした。しかし、データがないわけではありません。

旧労働省の1981年の調査によると、同年の夏期連続休暇は4.4日。その内訳は、各事業所が指定する休日3.7日、振替休日0.3日、年休0.4日でした。1人平均わずか1日の年休さえ取得していないことになります。この貧しい休暇実態は、その後の年休取得率の低下からみて、その後改善されたとは考えられません。

休暇目的の年休取得を妨げている要因としては、病欠は年休で取る、忌引以外の個人的所用のための休みがない、代替要員がいない、企業が100%に近い異常に高い出勤率を推奨している、年休を取ると賞与や昇進に不利になる、会社が決めた時期以外には休みにくい、半日や1時間の細切れ取得が認められている等々の事情を指摘できます。

30年以上前に発効したILO(国際労働機関)132号条約では、病欠は年休に含めてはなりません。また、休暇は最低3週以上、うち最低2週は連続休暇でなければなりません。日本で今求められているのは、国内法を整備して、この条約を批准し、せめて2週間程度の連続休暇を労使双方に義務づけることす。

総務省の「労働力調査」によれば、30代男性の4人に1人は、週60時間以上働いています。これは1日4時間以上、1週20時間以上、1月80時間以上の残業を意味します。働きすぎは男性だけでなく、女性も家事労働を含めれば、先進国でもっとも長時間働いています。1988年に過労死110番の全国ネットがスタートして今年で20年になりますが、過労死・過労自殺がいっこうに減らないのも、こういう異常な長時間労働が改善されていないからです。

ジル・フレイザーの『窒息するオフィス』(岩波書店、2003年)を監訳して知ったことですが、状況はアメリカでも悪化しています。人員削減が続き、仕事量が増えるなかで、長期の休暇旅行は減って、短い週末旅行が主流になっているといいます。また最近では近くのホテルやスパに泊まる日本型の一泊旅行が増えているといいます。こうした日米の働きすぎ競争を考えると、休暇の拡大はけっして容易ではありません。

とはいえ、働く人々は、強まる過重労働と仕事のストレスで今や極限まで消耗しています。休暇の拡大は消費を拡大し経済を活性化する、といわれることがあります。そういう面ももちろんありますが、今何より必要なのは、疲れた身体を回復させるためのまとまった自由時間です。またそのための連続休暇の拡大です。働く意欲の失せる盛夏の到来をまえに、そのことを強く言いたいと思います。

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厚生労働省の「今後の仕事と家庭の両立支援に関する研究会」(座長佐藤博樹東大教授)は、6月26日、育児・介護休業法の改正を提起して、報告書「子育てしながら働くことが普通にできる社会の実現に向けて」をまとめました。

ネットに出ている報告(素案)を読んで、現状の日本はなるほど「子育てが普通にできない異常な社会」だなと思いました。しかし、なぜそんな普通のことが普通にできないのかは、報告では明らかにされていません。報告は「長時間労働の解消や年次有給休暇の取得促進等の働き方の見直しを進める必要」に字面では言及しています。しかし、長時間労働がなぜいっこうに改善されないのか、有給休暇の所得率がなぜ下がり続けてきたのかは、まったく検討していません。

昨年の『国民生活白書』は、人々が家族と過ごす時間が取れないのは、自明のことながら、仕事が忙しいからだと述べています。その白書に示されている内閣府の調査では、同居家族と過ごす時間が取れない理由について、回答者の4人に3人強(77.5%)が「自分又は相手の仕事が忙しいから」と答えています。また同じ白書に示されている働く父母を対象とした平日の帰宅時間の調査では、父親の7割が午後7時以降に、3割が午後9時以降に帰宅しています。男性の共働き既婚者の約5割(49.2%)は午後9時以降に帰宅しているという調査もあります(労働調査協議会、2004年)。学齢前の子どもはたいてい午後9時台には寝ているので、父親の多くは、平日は夜子どもと接する時間がなく、育児にはノータッチだと考えられます。

ところが、報告は、こうした労働環境には、まったく踏み込んではいません。それでいながら、報告は、昨年12月に「ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議」で決定された「仕事と生活の調和推進のための行動指針」にしたがって、現在わずか0.5%にとどまっている男性の育児休業取得率を、10年後に10%に引き上げるという数値目標を示しています。しかし、労働者が家族と過ごす時間をほとんどもてず、父親が子育てにほとんど関われない現実には目をつぶっています。これでは労働者の子育ての時間的支援に関するいかなる施策もお題目に終わるでしょう。

現行の育児・介護休業法では、3歳未満の子どもをもつ労働者のために、企業に、|算間勤務、▲侫譽奪スタイム、始業終業時刻の繰り上げ又は繰り下げ、そ蠶螻囲働の免除、セ業所内託児施設の設置等の措置を義務づけていますが、6割近くの企業はいずれの措置も設けていません。報告はこれを「どの企業においても労働者が選択できるように(整備)することが必要である」としていますが、たとえ制度が整っても、労働者の申請による選択では、労働者は、よほどの事情がない限り、配置や査定や昇進における不利益な取扱いを恐れて申請しようとはしないと思われます。

報告は、妻が専業主婦の夫の育休取得や、生後8週間の「父親の産休」取得を提唱しています。この場合も、報告書が特効薬のように持ち出しているのは「柔軟な働き方」あるいは「柔軟な働き方を選べる雇用環境の整備」です。しかし、男性正社員の大多数が仕事人間のような働き方を強いられているもとで、子どもをもつ労働者だけがどうして「柔軟な働き方」を選べるのでしょうか。

「柔軟な働き方」で思い浮かぶのは、政府・財界が持ち出して昨年1月に見送りになった「ホワイトカラー・エグゼンプション」です。「残業ただ働き法案」と労働者の猛反発を買ったこの法案のキーワードは「自律的な働き方」でした。それを化粧直ししたのが今回の報告にいう「柔軟な働き方」です。

近年、経済界は政府の後押しを受けて、「雇用形態の多様化」の名の下に、正社員・正職員を減らし、パート・アルバイト、派遣、請負、契約社員、嘱託などの非正規労働者を増やしてきました。この流れからみれば、「働き方の柔軟化」とは、正社員として働きにくい人は、自分のライフスタイルに合わせて多様な非正規労働者のいずれかを選んで働いてくださってけっこうです、ということを意味しています。

それから推し量れば、今回の報告は、正社員・正職員について、子育てや介護で事情のある人は、短時間勤務や残業免除を選択していただいてもけっこうですが、そうでない人はこれまで通り働いてください、という「働き方メニュー」を提示したものと言うことができます。こうしたメニューでは、日本はこれからも「子育てしながら働くことが普通にできる社会」にはならないでしょう。

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第1回目の講座で、1日24時間の生活時間は、労働時間、生活必需時間、家事時間、自由時間に分けることができると言いました。この区分で言えば自由時間に当たる行動の一つにカップルのセックスライフがあります。しかし、それはきわめて人間的な営みでありながら、自由時間の行動としてはほとんど語られることがありません。

日本社会では、カップルの会話や家族の団らんの時間が短いことはよく知られています。もうお馴染みの2005年NHK「国民生活時間調査」によると、勤め人の平日の「会話・交際」時間は、男性が11分、女性が20分です。指定された2日間の調査対象日にもしセックスのために何らかの時間を費やしたとすれば、この「会話・交際」時間に記入されるのでしょうか。関連する行動別の時間区分としてはこれしかありません。もしかすると調査設計者にも回答者にもセックスライフの時間意識が欠けているということも考えられます。

いや意識されていても、日本人の平均的生活から言えば、2日間ではセックスの時間はゼロという可能性が大です。デュレックス(コンドーム)で知られるSSLインターナショナル社が世界41か国、35万人以上を対象におこなった調査では、1年を通して最もセックスをしているのはフランス人(137回)、最もしていないのは日本人(46回)でした。世界平均(103回)からも大きく隔たっています。

昨年の3月から4月にかけて各紙に報じられたように、日本人のセックスレス夫婦の割合は3組に1組以上に達していることが、厚生労働省研究班(主任研究者=武谷雄二・東京大医学部教授)の調査でわかりました。結婚している男女が、病気や単身赴任といった特別な事情がないのに1か月以上性交渉をしない「セックスレス」の割合は35%(45歳以上では46%)で、2年前の調査より3ポイント増えたそうです。

ネット検索をしていたら、静岡労働研究所副理事長(県評議長)の大橋定夫氏が書いた<世界標準並の「愛し合う時間」保障を!> という文章がありました。大橋氏は、昨年6月9日付けの朝日新聞に載った産婦人科医の堀口雅子先生の「過重労働で帰宅したら眠るだけだから、という人たちも多い。ところが政府も企業もこの点についての危機感が低すぎる。……私たちは、働き方の見直しは非常に重要だと考えている」という指摘を引用しています。

過重労働で疲れて帰宅したら眠るだけではセックスレスもさもありなんです。その意味でこれは働き方の見直しを迫る大問題です。

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今回は本題に戻って、女性の睡眠時間について考えてみます。

前々回と同じくNHK「国民生活時間調査」の2005年調査結果で労働者(「勤め人」)のデータをみると、女性は平日で6時間56分、土曜で7時間33分、日曜で8時間6分の睡眠を取っています。20代から50代で、睡眠時間がもっとも短いのは、男性では30代、女性では40代です。40代の女性の睡眠時間は、平日で6時間40分、土曜で7時間26分、日曜で7時間48分です。同じ40代の男性と比べると、女性の睡眠時間は、男性より平日で25分、土曜で4分、日曜で36分短いことがわかります。

総務省の2006年「社会生活基本調査」でみると、40代の女性有業者の22%は平日の睡眠時間がなんと6時間を切っています。40代の男性有業者で6時間を切っている者の割合は14〜15%であることと比較しても、女性の睡眠時間が男性よりかなり短いのは明白です。

実は、日本の女性は、国際的にも睡眠時間が短いことできわだっています。上記の2006年「社会生活基本調査」に出ている生活時間配分の国際比較(週全体、有業者)でみると、日本、ベルギー、ドイツ、フランス、ハンガリー、フィンランド、スウェーデン、イギリス、ノルウェ−の9か国のうちで、日本だけが男性より女性の睡眠時間が短いのです。日本は女性が男性より16分短く、他の国々は、女性が男性より10分から15分長くなっています。日本の女性は他の8か国の平均より1日あたり50分も睡眠時間が短いということも驚きです。そればかりか、日本の女性は世界では例外的に男性より早く起き、男性より遅く寝るというデータもあります。

これは何を意味するのでしょうか。少し古い資料ですが、NHK放送文化研究所編『生活時間の国際比較』(1995年)によれば、日本人の女性は、仕事も家事が長い分だけ、睡眠時間が短く、「性による時間の不平等は日本が最も大きい」とされています。それを確かめるには労働時間や家事時間もみなければなりませんが、日本の女性が男性以上に睡眠不足であることは否定できない事実のようです。女性は美容や美肌のために男性よりも長い睡眠を必要とすると考えれば、日本の女性の睡眠不足は深刻な社会問題だといわなければなりません。

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2008年6月4日、テレビ大阪「ニュースBIZ」(毎週月〜金 17:13〜30)の特集「働クライシス」に、夫の大橋均さんを過労自殺で亡くし、勤め先だった日本通運の責任を追及して息子たちと裁判を起こしている大橋錦美さんが登場しました。一瞬でしたが私のコメントも流れました。今回は、連続講座の割り込みで、この事件の概要を紹介します。

ネットに出ている訴状を見ると、均さんは1969年4月1日、日通に入社し、1995年までは主に国内および海外旅行の添乗業務に従事し、37年間勤め続けて2006年11月5日、亡くなられました。健康状態を無視した会社の働かせ方と度重なる退職強要によって肉体的・精神的打撃を受けたあげくの自殺でした。

均さんは1995年9月に羽田タートルサービス株式会社に出向させられて在勤中、同社社長から「君は49歳だからもう行くところがない。どこも雇ってくれない。君にはその危機感がない」と暗に退職を迫られました。

その後も関空や成田への転勤や出向がありました。1995年の羽田への出向の前には、均さんは会社での健康診断でC型肝炎にかかっていると指摘され、健康管理台帳にもその旨の記載がありました。しかし、会社の人事担当部署はそのことを把握していませんでした。均さんは、医師から入院治療を勧められても、会社に迷惑をかけまいと入院治療を断念し、頑張ってきました。

ところが、関西空港支店に配属された2004年4月、突然降格・降給され、基準内賃金が月額5万7000円も下げられました。均さんはC型肝炎治療のため入院せざるをえなくなりましたが、日記によれば、退院後に主治医の所見を会社に持参して職場復帰をお願いすると、「会社に迷惑を掛けていると思うなら、この際自分から身を引いたらどうや」と厳しい言葉をあびせられました。

これまでも会社から何度も退職の圧力を受けていた均さんは、この日、帰宅するなり、ソファーに倒れ込み、「身を引けと言われた。解雇される」「解雇されたら生活できない」と妻の錦美さんにに訴えたそうです。医師の所見によると、その頃から均さんはうつ病になったものと推定されています。

この直後に、均さんは家族と管理職ユニオン関西を訪れ、組合への加入手続きをしました。均さんはそれまで労働運動や組合活動とは無縁でしたが、家族のためにも解雇は何としてでも避けなければならないという切羽詰まった気持が組合加入に踏み切らせたものと思われます。その後、同ユニオンが日通に対し、均さんが組合に加入していることを通知すると、上司3人から呼び出され、「どうして管理職組合に入ったのか」と厳しく非難・糾問されました。また、同年9月には会社から社宅を出るよう言われ、12月には退居せざるをえなくなりました。

均さんはうつ病治療のため、2005年3半ばから5週間余り入院しましたが、その後、 これ以上休めないと大阪旅行支店に復職しました。2006年3月以降は、土曜日もよく出勤し、残業も多く帰宅時間も遅くなっていました。ところが、2006年10月後半にいたって、会社で前任者のホテル手配に関する引き継ぎミスの責任を転嫁され、その件に関して、退場を迫る「イエローカード」と題した社内メールが2通送られてきました。携帯電話でも1日5回にわたって詰問されたとのことです。こういうなかで追いつめられて11月5日、均さんは自ら命を絶ちました。

ただただ誠実・勤勉に勤務し、病気の治療で会社に迷惑をかけてはいけないと常に気遣ってきた従業員にたいして、「自分から身を引け」と執拗に退職を迫る会社の言動は、訴状にあるように「まさに病者に鞭打つ、あまりにも冷酷無残なもの」というほかはありません。そこには従業員の健康維持に対する配慮はまったくみられません。

最高裁は、2000年3月24日、電通青年社員過労自殺訴訟の判決で、「疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると、労働者の心身の健康を損なう危険のあることは、周知のところである」「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負う」という判断を示しています。均さんがこうむった会社からの仕打ちによる心理的負荷とこの最高裁の判決を重ね合わせると、日通の安全配慮義務違反は明らかです。

裁判書に提出された証拠資料の一つに、2006年の1年間に死亡した日通健保被保険者に関する産業医の調査結果が載っています。それによれば、同年の死亡者76人中、自殺者は10人を数え、全国統計の2.8%に対して13.2%と、約5倍も高くなっています。50歳代の自殺者が多いことも、均さんのケースと符合します。これは日通のメンタルヘルス・クライシスが、均さん一人の問題ではなく、日通の全従業員の問題であることを示しています。

先頃、厚生労働省から2007年度の過労死・過労自殺に関するデータが発表されました。それによれば、過労や仕事のストレスで自殺したり、うつ病になったりして労災申請した人は952人、認定された人は268人と、いずれも過去最悪となっています。このような危機的な事態を改善するためにも、私は大橋錦美さん一家の訴えを支援したいと思います。

なお、6月5日午前11時からから8日午後3時まで大阪駅前第二ビル5階ギャラリーで、「私の中で今、生きているあなた」写真展が開かれ、大橋均さんなどうつ病で自殺した被災者50人とその家族を紹介しています。

 

 

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睡眠時間について参考になる統計の一つに、5年ごとに実施されるNHK「国民生活時間調査」があります。女性は次回に取り上げるとして、最近の2005年調査結果で、まず男性をみれば、労働者(「勤め人」)は平日7時間7分、土曜7時間28分、日曜8時間14分の睡眠を取っています。30代に限れば、平日の平均睡眠時間は6時間58分です。

5年ごとに実施される総務省「社会生活基本調査」にも睡眠時間の統計があります。結果の概要がネットに発表されている2006年調査によれば、男性労働者の1日当たりの平均睡眠時間は7時間23分です。これは土日を含むので、平日に限れば7時間そこそこでしょう。けっこう睡眠を取っているという感じがしますが、30〜40代の年齢層の14%から15%は平日、6時間未満しか睡眠をとっていません。

こちらのサンプルは20代、30代、40代の男女各100人、計600人と少ないのですが、2007年1月に発表されたオリコンモニターのネット調査によれば、男性は3時間未満0.3%、3時間〜5時間未満18%、5時間〜6時間未満38%、6時間〜7時間未満32.7%となっており、全体の9割近く(89%)が7時間未満に集中しています。日経BPネットには、20代、30代のビジネス・パーソン200人の調査結果として、「平日睡眠5時間57分」という数字が出ています。これでは睡眠不足でないはずがありません。

出所は不明ですが、日刊アメーバニュースによれば、35歳から55歳のイギリスの公務員およそ1万人を対象に17年間にわたって、睡眠時間と健康状態を調査した結果、平均睡眠時間が5時間以下の勤労者は、それ以上の睡眠時間を確保している勤労者と比較して死亡率が1.7倍以上高いことが判明したそうです。同調査によると、睡眠時間は毎日7時間は確保する必要があるとか

こういうもっともらしい数字を引かずとも、昔から「寝不足の死に急ぎ」と言われれてきました。え! そんなことわざは聞いたことがない、ですって? そのはずです。「寝惜しみの起き急ぎ」から、いま思いついたんですから。


 

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藤子・F・不二雄の漫画作品『キテレツ大百科』のオープニングに「スイミン不足」という歌があります。曲の最後の調子のいい「すいみんすいみんすいみんすいみん すいみん不足」というところを覚えている人が多いでしょう。

現代人、とりわけ日本人は睡眠不足です。NHK「国民生活時間調査」によると、1970年に7時間51分だった有職者の平日の睡眠時間は、2000年には7時間07分に減少しています。30代の男性労働者(NHK調査では「勤め人」)の睡眠時間は7時間を切っています。睡眠時間は、何百万年という人類の歴史のなかのわずか一瞬のあいだに、なんと40〜50分も短くなったのです。

この背景には、ビジネスの24時間化や、テレビ視聴時間の増大のインパクトがあるでしょう。しかし、この間に労働時間がまともに短縮されておれば、睡眠時間にこれほどしわ寄せされることはなかったかもしれません。

睡眠不足がとりわけ深刻なのは、週60時間以上働き、したがって少なくとも月80時間以上の残業をさせられている過労死予備軍の人びとです。いまから20年前の大阪で、「過労死110番」がはじめて実施され、相談者約70名にアンケートを送り、44名から回答を得ました。その多くは睡眠の悲惨な実態を訴えています。犠牲者の遺族の回答のなかから二つのケースを紹介します。

「朝が早く、夜も遅い。帰宅後も夜中まで電話、休日も出かけていくやり手の人でした。いつも仕事には夢中でしたが、少し疲れたよと言っていました。大きな原因はストレスと睡眠不足ではないかと思います(建設、営業・監督)」。

「主人は会社の机の上にマットを敷いて睡眠をとり、帰宅する時間や出勤時間を睡眠時間にあてた。仕事の足取りは妻の私には分からない。出社すれば100%仕事、私は主人の着替えを1週間に2回ぐらいビルに持参し、また、子どもたちのことはその折に相談していた。昼食する時間もない様子だった(中小企業役員)」。

20年後のいまは情報化が進み、ネット接続時間やメール処理時間があらたに生活時間を浸食するようになってきました。それだけに睡眠をめぐる事態はいっそう悪くなっています。カナダの心理学者、スタンレー・コレンによって著された Sleep Thieves(『睡眠泥棒』)という本があります。邦訳は『睡眠不足は危険がいっぱい』(木村博江訳、文藝春秋、1996年)というタイトルになっています。実際、睡眠不足が深刻になれば、人は健康を害し、極まれば死んでしまいます。

医療従事者や交通労働者の働きすぎ/働かされすぎによる睡眠不足は、医療事故や交通事故の原因ともなります。また、特定の職業に限らず、働く人びとの睡眠不足は、集中力や注意力を低下させることによって、工場災害や欠陥品が発生する恐れを大きくします。この点でもまさに睡眠不足は危険がいっぱいです。

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森岡孝二の連続講座「働き方を考える」

第2回 人間と時間――シェークスピア、マルクス、マイグランマ

前回は、1日の生活時間を取り上げ、ライフスタイルは働き方で決まる、自由時間は労働時間に規定されるという話をしました。では、そもそも、人間にとって時間とは何なのでしょうか。

突然ですが、ここでシェークスピアとマルクスに登場してもらいましょう。シェークスピアは、17世紀の初めに初演された『ハムレット』のなかで、デンマークの王子である主人公に、Waht is a man ?と自問させて、こう語らせています。

「人間とは何だ。もし、人間が時間をほとんどただ寝て食べるためだけに費やすとれば、けだものに過ぎない」(愛用の訳本が見あたらず英文から拙訳)。

後に続く台詞を読めば分かることですが、ハムレットは、ただ食事と睡眠を取るだけなら動物だってできる。人間なら考えて行動するべきだ、自らの尊厳のために命をかけて闘うべきだ、と自分に言い聞かせているのです。

このハムレットの言葉をおそらく念頭において、マルクスは『資本論』の草稿がほぼ出来上がった1865年に、国際労働者協会で行なった講演「賃金・価格・利潤」で次のように述べています。

「時間は人間の発達の場である。思うままに使える自由時間をもたない人間、睡眠や食事などをとる純然たる中断時間は別として、その全生涯が資本家のための労働に吸い取られている人間は、けだものにも劣る」(『マルクス・エンゲルス全集』第16巻145ページ)。

ここでマルクスが言いたいのは、資本(企業)は、法律によって労働時間が制限・短縮されないかぎり、人間から発達のための時間を奪い取って、人間をけだもの以下の存在におとしめるということです。

1986年の国際労働者大会に宛てた文書では、マルクスは1日の労働時間の制限は、労働条件の改善のための先決条件であると書いています。なぜなら、それは、労働者が健康と体力を回復するためにも、また労働者が知的発達をとげ、社交や社会活動や政治活動に携わる可能性を保障するためにも、あらかじめ確保されていなければならないからです。

労働基準法は、第1条で「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」と謳っています。また、第32条で「使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない」「1日について8時間を超えて、労働させてはならない」と定めています。労基法がこうなっているのは、マルクスが言うように、時間は人間の発達の場であり、労働時間が制限されなければ労働条件の改善は望めないからです。

話は飛びますが、マイグランマ、つまり私の祖母は、父や母がまだ夜なべをしている時間に添い寝をしてくれて、よく「寝るより楽はこの世にない。起きて働くバカもある」と言っていました。昔の年寄りは労働の大切さと尊さを百も承知で、このようにな諺にたくして、人間にとっての睡眠の必要性を言いたかったのでしょう。

最後にイギリスの諺をひとつ。All work and no play makes Jack a dull boy. 勉強ばかりで遊ばないと子どもはダメになる。仕事ばかりしていて休まないと大人もバカになりますよ。

 

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森岡孝二の連続講座「働き方を考える」

第1回 働き方はライフスタイル

これから何回になるかわかりませんが、連続講座「働き方を考える」を始めようと思います。第1回目のテーマは「働き方はライフスタイル」としました。

ライフスタイル(lifestyle)を英語辞典で引くと、「個人や集団の生き方や働き方」(the way in which a person or a group of people lives and works)とあります。これを引き合いに出すまでもなく、人の生き方はなによりも働き方で決まります。あるいは働き方は生き方にほかならないともいえます。

 
人間の生活は1日24時間を単位に営まれています。働く人々の24時間の生活時間は、労働時間、生活必需時間、家事時間、自由時間に分けることができます。

生活必需時間というのは、睡眠、食事、排泄、入浴、身繕いなどで、生理的時間といわれることもあります。大人の場合、睡眠を平日1日平均7時間とすれば、1日の生活必需時間は10時間くらいは必要でしょう。

労働時間については後に詳しくみますが、日本人の男性は、週5日労働(週休2日)とすれば、1日平均約10時間働いています。昼の休憩が1時間あり、通勤に往復2時間かかる人であれば、1日当たり13時間が仕事関連に費やされることになります。

上の男性の例だと、13時間の仕事関連時間と10時間の生活必需時間を合わせて、23時間が消え、家事時間と自由時間のためには、わずか1時間しか残りません。家事は妻や母親に押しつけて、自分ではまったくしないとしても、これでは家族と語り合ったり、新聞を読んだり、テレビを見たりする時間はほとんどありません。

自由時間を増やすには、]働時間を減らす、家事時間を人に押しつける、睡眠時間を減らす、た事時間を減らすという選択肢があります。日本人の男性の大半は、,呂任ないものと諦めて、◆↓、い鯀択しているのではないでしょうか。またそのために家事を押しつけられた女性は、正社員には家事をしない男並みの働き方が求められる日本では、正社員としては働きにくい状態におかれているのではないでしょうか。

しかし、上の例からも明らかなように、生活時間を規定しているのはなによりも労働時間です。質の高い生活を左右する自由時間は労働時間で決まるとも言えます。にもかかわらず、自由時間を増やすために労働時間を減らすという選択肢を諦めるのは本末転倒もはなはだしい。心得違いもいいところです。

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