脇田滋の連続エッセイ - 第11回 KBS労組「無期雇用化闘争パンフ」を読んで

第11回 KBS労組「無期雇用化闘争パンフ」を読んで

2019/6/22 19:27

非正規雇用労働をめぐる闘いの方向(1)

KBS労組「直用化構内スタッフの無期雇用化闘争」パンフを読んで
 
KBS労組の直用化闘争パンフ
 
 先日、民放労連京都放送労働組合(以下、KBS労組)が最近の活動成果をまとめた、以下のパンフレットを受け取り、早速、読んでみました。
 
 『直用化構内スタッフの無期雇用化闘争〜画期的!KBS京都の構内スタッフ一掃の一歩〜』パート宗2019年5月)
 
  KBS労組は、労働者派遣法が制定された1985年以前から、会社構内で働く下請労働者をはじめ有期雇用など多様な非正規雇用形態で働く労働者すべての雇用と権利を守るために、実に粘り強い闘いを継続してきました。
  KBS労組は、昨年、構内スタッフ(別会社所属の「派遣社員」)であった労働者を会社に直用化させることができました。ただ、直用化されたときは常勤アルバイトで、3年間の雇用期間に定めがある「有期雇用」の形式でした。KBS労組は、この直用スタッフを、さらに契約更新させ、そして労働契約法に基づいて、「期間を定めない契約(無期雇用)」に転換させることになったということです。
 その結果、
 「構内スタッフ(派遣社員)の直用化」
         ↓                   
 「直用スタッフ(有期雇用)の更新継続」
         ↓                    
    「無期雇用転換」
 という「流れ」が職場の中で定着したということです。画期的な成果です。
 
 パンフレットでは、次のようにまとめられています。
 組合は、あくまでも雇用の大原則は「直用かつ無期雇用である」との方針を堅持して、直用化になった派遣労働者との意見交換を通じさっそく1年前の春夏闘で無期雇用化の要求を会社に提出しました。
 そして1年間の交渉をふまえことしの春夏闘は不退転の決意で闘い、直用化を見事に実現しました。
 また、ことし4月に通算6人目となる無期雇用転換社員が実現しました。労働契約法18条にそって粛々と行ったわけですが、全国で雇い止めが相次ぐ中では意義ある成果と言えます。
 
 さらに、組合としての今回闘争の総括として、次の6点が挙げられています。
 。嫁前の直用化闘争勝利の力関係、∩塙腓稜瓦蟠い闘いの姿勢、A歓場適用を前提に1点突破全面展開、ぢ垓改善と対象拡大をめざす闘争継続、ス銃發任稜標・常勤アルバイト一掃への第一歩、150名の構内スタッフの闘いの大きな到達点。
 
 KBS労組の闘いがもつ大きな意義
 
 KBS労組の闘いとその成果の意義については、上記の冊子の中で、伍賀一道さん(金沢大学名誉教授)が的確に指摘されています。
  「契約法に基づく措置とはいえ脱法行為を行う使用者が後を絶たない現状のもとでは大きな意味がある」
 
 この指摘のとおり、現在、少なくない事業所で契約更新された非常勤講師や有期雇用職員の無期雇用転換を受け入れない脱法的対応が見られます。
  全国的には日立製作所や東北大学では法的な争訟が提起されており、関西でも非常勤講師への対応をめぐって大手私立大学等で「無期雇用転換ルール」を遵守しない事例が少なくありません。非常勤講師組合や地域労組と大学の間で、労働契約通りに無期転換を求めて行われる団体交渉や裁判等の争訟例が報じられています。
 〔注〕 関西圏非常勤講師組合『非常勤の声』第59号(http://www.hijokin.org/doc/koe59.pdf
 
 「無期雇用転換ルール」は、労働契約法で定められ、すべての大学や企業に適用されるものです。様々な脱法的な理由で、これを遵守しない使用者が多いことはそれ自体問題です。しかし、残念ながら、多くの労働組合の消極的姿勢にも原因の一つがあると思います。もし、無期雇用転換権をもつ有期雇用労働者が職場にいるとき、労働組合が支援活動をすれば、無期転換される比率は飛躍的に高まると思われるからです。
 実際、東京大学では教職員組合が、首都圏大学非常勤講師組合と連携して、大学側に労働契約法の遵守を迫る取り組みを進めました。その結果、有期契約の教職員については労働契約法通りに無期雇用転換することを大学が受け入れるという大きな前進がありました。
 〔注〕 佐々木彈「無期転換権獲得に至った闘争の裏側−非正規との分断を乗り越えて」(https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/doc/201804POSSE38.pdf
 
 労働組合は、憲法28条に基づく団結権、団体交渉権、団体行動権を認められた特別な主体です。これら特別な権利を認められるのは、同じ職場で共に働く弱い立場の労働者を代表して、その権利実現のために共同して取り組むことが期待されているからです。KBS労組や東京大学教職員組合は、この憲法28条が要請する労働組合の役割を果たしており、最も労働組合らしい組合と言えるのです。
 
30年を超えて一貫した活動の姿勢
 
 KBS労組は30年以上も前から、正規と非正規の分断を乗り越える、きわめて先駆的な活動を進めてきました。KBS労組の長年にわたる闘いには、実に豊富な教訓が含まれています。私は労働法の一研究者として、また、大学教職員組合の活動経験から、KBS労組の活動からは次のような三つの教訓を引き出すことができると思っています。それは、
  ‘本では非正規雇用をめぐる闘いを困難にする要因(とくに、企業別・正社員組織が多数)がきわめて多いにも拘わらず、それを克服して闘いを持続してきたこと、
 闘いの基本となる原則が明確で一貫しており、また、解決が半端なものでなく「非正規雇用の徹廃」という点で徹底していること
 3萋阿竜録をきちんと残し、若い世代にその経験と教訓を伝えようとしていること
という3点です。
 
企業別組織を乗り越えた活動
 
 KBS労組は、KBSの正社員だけを組織するだけでなく、企業別・正社員組織という制約を乗り越えて、正社員だけでなく、職場で働くすべての労働者全体を代表しようという姿勢を一貫して堅持してきたことです。
 
非正規雇用が急速に拡大した1990年代
 
 私は、単位組合(単組)である大学教職員組合の役員を務めたことがあります。その際に、正規・非正規の壁を越えて連帯することの難しさを実感しました。
 大学の授業を担当する教員では、とくに外国語科目などで、専任ではない非常勤講師に7割から8割も依存する大学が少なくありません。一般には知られていませんでしたが、非常勤講師の講師料は常識では考えられない低額でした。本務校がなく、非常勤講師だけで数校を掛け持ちし、専任教員の数倍も多くの授業を担当して生活を支える「専業的非常勤講師」も相当な規模で生まれていました。
  教員の非常勤講師だけでなく、事務職員でも嘱託職員、契約職員など、有期契約に基づく労働者が働いており、派遣労働者の就労も広がっていました。また、受付・清掃、機械・設備管理などを担当する「現業部門」については外注化が進み、事業場内下請会社所属の労働者が働いていました。
 1990年代には、大学職場でも一般企業と同様な多様な非正規雇用形態が働く状況が広がっていたのです。
 
企業別・正社員意識に囚われた組合
 
 私が、京滋地区私立大学教職員組合連合の役員であったときに、こうした状態を改善するために、最低基準の賃金・労働条件や無期雇用原則など、大学職場で働く人すべてに適用される「産別ミニマム」設定を組合の課題として提起しました。しかし、各大学、とくに規模の大きな大学の単位組合から理解を得ることはきわめて困難でした。
 産別ミニマムや非正規雇用問題への取り組みには、次のような「反対の声」が寄せられました。
 〇「組合の活動は、組合員(正規教職員)の条件改善が基本だ。組合員以外の課題に取り組む余裕はない」
 ●「正規雇用と非正規雇用は、採用過程や賃金体系が違うので、組合として一緒に取り組むことはできない」
 〇「教職員組合は、大学の正規教職員が参加する組織だ」
 ●「派遣や下請労働者は別会社の人間。組合に参加できる労働者ではない」
 〇「非正規雇用、非常勤講師は、大学の教職員組合ではなく、全国一般や地域労組に参加すべきだ」
  労働組合役員から出たものとは思えない発言でした。労働組合への期待と信頼が大きかっただけに、これらの発言を聞いた時の、悔しく、情けない思いが今でも忘れられません。
 
 KBS(京都放送)は民間企業です。KBS労組にも多かれ少なかれ正社員意識を強く持つ労働者もいたはずです。そうした中で、非正規雇用問題を論議することは簡単ではなかったと思います。それを乗り越えるには、高い意識性に基づく組合指導部の粘り強い働きかけと、継続・反復した学習・議論があったと推測されます。
 
団結破壊の狙いを秘めた派遣法制定
 
 1985年制定の労働者派遣法は、多様な立法目的を複合的にもつものでした。その中で見過ごしてはならないのは、派遣労働の拡大よって日本の企業別労働組合を弱体化させる「団結破壊」の狙いでした。
  この点を指摘する研究者は、私以外には少ないかもしれませんが、これは20年以上前に、主観的には、労働組合の自覚を期待して発した「警告」でした。ところが、派遣労働拡大と逆比例して、労働組合(とくに、企業別組合)は、目を覆うほどに弱体化してしまいました。
 
 派遣労働関係では、同じ職場で働く労働者が所属企業によって分断されるという重大な問題があります。派遣先企業にすれば、低賃金で同じ労働をする派遣労働者が増えれば人件費を削減できる上に、労働組合を弱体化させることができます。
 労働組合自身が、正社員だけの組織ということで、別会社所属の派遣労働者の問題に取り組まないとすれば、職場の労働者全体を代表する地位(全体代表性)を失うことになります。同一労働なのに差別的低賃金で働く労働者を支援しない組織になり下がるのです。
 
 派遣労働は、短期的には労働組合に無関係のように思われるかもしれません。しかし、派遣労働者が増加すればするほど、その組織化や支援をせず、無為に過ごす労働組合はその社会的地位を大きく低下させます。つまり、派遣労働合法化には、労働者間の分断を広げ、組合への信頼を失わせ、長期的には労働組合を弱体化させる「毒素」が含まれていました
 とくに、法制定時は、中曽根康弘内閣でした。中曽根氏は労働組合を嫌悪し、当時の国鉄労使関係に「国家的不当労働行為」と呼ばれる強権的介入をし、国鉄労働組合などの弱体化を強行した政治家でした。その中曽根内閣が、企業別・正社員組織の弱点を熟知した上で、派遣法制定を進めたのです。そこには、長期的に民間分野も含めて日本の労働組合全体を弱体化する危険な狙いがあったと思います。
 
民放労連と間接雇用・派遣法制定反対の取り組み
 
 民間放送では、派遣法制定以前に、労働組合の活動によって労働条件改善が大きく進みました。そこで会社側は放送業務の一部(「周辺業務」)を「事業場内下請」形式で別会社に委託したのです。この「間接雇用」(=偽装請負)導入によって労働組合が獲得してきた労働条件を切り下げ、人件費を削減することが目的でした。
  しかし、民放労連(民間放送各社の組合の産別組織)は、この間接雇用が労働者の分断であることを早くから見抜いて、偽装請負が職業安定法違反だとして活発な闘争を全国的に展開しました。KBS(当時は「近畿放送」)でも、番組作りの一部業務(照明など)に下請会社(大阪東通)から労働者が派遣されてきました。
 民放労連、近畿放送労組、そして民放労連近畿地区労組が共闘して、間接雇用をめぐる闘い、下請労働者の直接雇用の闘いが展開されたのです。地労委、職安、裁判所のいずれも労働側が勝利し、下請労働者の直接雇用化(正社員化)という結果に至ったのです。この闘いがKBS労組の、現在に至る長い闘いの出発点になりました。
 〔注〕民放労連近畿地区労組=民放各社で働く下請や有期、パートなどが個人加入できる地域組合組織。放送各社の組合と並んで民放労連近畿地連に所属。
 
 派遣法制定の際、これに反対した労働組合は多かったとは言えません。その中で規模が大きい組合として挙げられるのは、職安法違反をめぐる闘争をしていた民放労連でした。民放労連は1970年代から間接雇用拡大との闘いを続けていましたので、労働者派遣法制定については、その危険性を早くから認識して強く反対する活動を展開しました。
 KBS労組が現在に至るまで筋の通った一貫した闘いができる基礎には、こうした民放労連の間接雇用闘争の歴史があったことが重要です。こう考えるとKBS労組の活動は「古い」と思われるかも知れません。
  しかし、日本の企業別労組の多くが、近年、低迷しているのとは大きく違って、KBS労組は現在も活発な活動を継続し、組合員だけでなく全体の労働条件も改善し、さらに闘いの中で組合員を拡大し続けています。現在の日本で労組として活動を活発にするには、KBS労組の現在に至る一貫した筋の通った活動と闘いの歴史に注目する必要があると思います。
 
 さらに、次のエッセイ(第12回)で詳しく触れますが、パンフが伝えるKBS労組の活動は、欧州や韓国の運動とも多くの共通点をもっており、日本の労働組合として稀少な国際性ある活動だと指摘できるのです。
               (続く)
 

 

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