脇田滋の連続エッセイ - 第16回 最低賃金引上げのために真剣な議論をするべき時だ

第16回 最低賃金引上げのために真剣な議論をするべき時だ

2019/8/24 17:52

最低賃金引上げのために真剣な議論をするべき時だ

日経の「最低賃金」ビジュアルデータ

 日経による「最低賃金」をめぐるビジュアルデータが公表された。データ部分は、従来の単純な図表と違うので興味深い。
https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/minimum-wage/?n_cid=NMAIL007

最賃引上げで雇用が悪化するという「俗説」
しかし、解説部分は不正確で疑問が多い。とくに「最近では韓国が文在寅政権による急激な最低賃金の引き上げで雇用不振に見舞われています」という説明は酷い俗説だと思う。
これは、最低賃金引上げに反対する韓国の保守陣営(経営者団体、保守的新聞)が、文在寅政権への政治的攻撃に使ってきた議論である。データを大切にすると思ってきた日経新聞が、そうした俗説に簡単に組していることは誠に残念である。経営者側要望にだけ耳をかすのではなく、最低賃金引上げの意義も踏まえて、データを正確に分析し経済全体の改善を考えるのが日経の役割ではなかったのか?

最低賃金と雇用の因果関係
最低賃金引上げと雇用・経済との因果関係を確認することは簡単ではない。最低賃金引上げの効果を測定するには、長期間の変化をみることが必要である。韓国の場合、最低賃金引上げからあまりにも時間が短すぎる。とくに経済不振についても多くの指標との相関関係を見る必要がある。様々な要因がある中で最低賃金引上げが経済停滞の原因だと実証的に判断することは簡単ではない。こうした慎重さがまともな分析には求められている。
実証的な労働経済分析で著名な韓国労働社会研究所のキム・ユソン博士は、いくつかの指標から最低賃金引き上げの効果と言える面があったことを指摘されている。今後は最低賃金引上げによって何が変わったのか、改善点も含めてより実証的で深い研究が求められている。

イ・ナムシン韓国非正規労働センター所長の見解

 ごく最近、日本の市民団体が訪問して話を聞いた韓国非正規労働センターのイ・ナムシン所長〔最低賃金委員会・労働者委員〕も、そのような慎重な見方をされていた。従来から、非正規職など「脆弱労働者層」にとっては最低賃金引き上げの意義があることを強調されていた。そして、保守陣営の攻撃にたじろいで、自ら最賃引上げにブレーキをかけようとした文在寅政権の姿勢を批判されている。詳しくは、関連した同所長のコラム日本語試訳(「文在寅政府に尋ねる」「経済社会労働委員会1期はなぜ失敗したのか」http://hatarakikata.net/modules/column/details.php?bid=512)を参照されたい。

俗説を克服して最低賃金引上げについて真面目な議論を
最低賃金を引き上げたら、経済や雇用が悪化するというのは一部の「経済学」によって広められた俗説である。アメリカでは逆の研究結果もあると聞いた。各国の時代・状況によっても最賃と雇用の因果関係は異り、一般化は難しいと思う。世界で最も長く賃金が下がり続けている現在の日本は経済状況が悪化している。非正規雇用が4割に近づき、雇用状況も改善されていない。その日本で最低賃金を引き上げれば低賃金労働者の生活だけでなく、経済も改善される可能性が大きいと思われる。俗説に惑わされることなく、最低賃金引き上げの意義を広く議論するべき時点である。


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