脇田滋の連続エッセイ - 最新エントリー

育児支援で注目すべき制度改善をした韓国と日本を比較して

□韓国で10月から配偶者出産休暇制を大幅改善

 韓国は10月から、「男女雇用平等と仕事・家庭の両立支援に関する法律」の改正により、夫が有給で休暇をとる独自の「配偶者出産休暇」を大幅に改善しました。出産から30日以内に、従来は最大5日、有給3日の休暇を取得できるものであったのを、90日以内に有給10日を取得できるようにに大幅拡充されました。分割も1回認められます。これによって配偶者(妊婦)が産後養生院を出た後にも夫が休暇を使用することで短い期間ですが、夫と配偶者が共に子どもを世話することができるようになりました。この制度は、国の法律に基づく制度ですので、大企業だけでなく中小企業にも適用されます。法的には、非正規雇用労働者、派遣労働者にも区別なく適用されます。有給分の負担者は使用者です。使用者がこの休暇を与えなかった場合には「過怠金」(500万ウォン=約50万円)が定められていただけでしたが、改正法では、それに加えて、もし、使用者が配偶者出産休暇を使用したという理由で解雇など不利な処遇をした場合、3年以下の懲役または3000万ウォン(=約300万円)以下の罰金を受けることになりました。※

 ※なお、今回の改正では「育児期労働時間短縮制度」も拡大されました。 これまで、8歳未満〔または小学校2年生以下〕の子ども(養子を含む)をもつ労働者は、育児休職と育児期労働時間短縮期間を合わせて最大1年まで使用できましたが、育児休職を1年した場合には、労働時間短縮 ができませんでした。10月からは、育児休職を使用しても育児期労働時間短縮はそのまま1年が保証され、育児休職未使用期間は育児期労働時間短縮の使用期間に加算して最大2年使用できることになりました。

 韓国でも日本と類似して「男性片働き慣行」が広がっていて、上の図のように男性が育児休職を取得したり、育児期勤労時間短縮をとる比率はきわめて低い状況です。たしかにこの10年に男性の育児参加は増えてはいますが、まだまだ不十分です。こうした状況を今回の制度改善でどこまで変えることができるのか大いに注目することができます。

■配偶者の出産時期に独自の支援が不十分な日本
日本では配偶者の出産の際に、せいぜい年休を利用することが多く、独自の配偶者出産休暇制度は、公務員・大企業など例外的です。むしろ、今年春に大きな問題になったカネカなど一部企業で、妻の出産時期に休んだ男性社員に対する「遠隔地配転命令」がSNSを通じて、会社のハラスメント的労務管理として社会的に批判されました。
ところが、安倍内閣は時代錯誤の発想のまま、働く人の生活や権利を支援するどころか、企業幹部のパワハラへの厳しい対応をせず、事実上放置したまま、企業最優先の立場を改めようとしていません。とくに、韓国のように出産をめぐる労働者の困難に対して具体的な支援を実施しようとはしません。ただ、「次世代育成支援対策推進法」に基づき、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組む「一般事業主行動計画」の策定・届出を義務付けるだけの法・政策です。こんな法律では多くの企業は本気で状況を変えようとしません。
この法律は、使用者を罰則などで強制するのではなく、企業の自発性・自主性を重視する、いわゆる「ソフト・ロー(soft law)」です。最近の労働法学界では、これを評価する傾向が強まっています(代表的な論者は荒木尚志・東大教授〔参考:荒木尚志「努力義務規定の意義と機能:労働立法を素材として」https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/torihiki_rule/doc/002_180412_shiryou2.pdf 〕。私に言わせれば、「ソフト・ロー」とは罰則や経済的制裁をできるだけ避け、使用者に「甘く」「なまぬるく」対応する法律です(それでも「労働法」と言えるのか大いに疑問)。この「ソフト・ロー」論は、経済団体や、労働法の規制緩和を進める安倍政権には歓迎される考え方です。

□日韓「働き方改革」の違いと今後の課題
韓国での新たな法規制は、文在寅大統領が大統領選挙時の公約で示し、政権発足後の「雇用政策5年ロードマップ」にも掲載していた政策実現の一つです。昨年7月の政府ブリーフィングでは「男性も最初から育児を経験する機会を享受できるように、配偶者の有給出産休暇を政府が支援する」ことが目的だと説明されていました。
日韓両国の社会は、企業間格差、男女差別、少子化、非正規雇用等の深刻な問題状況があり、共通・類似点が多かったのですが、政府が進める「働き方改革」や、それを根拠づける労働法の動向ではかなり大きな違いが目立ってきました。この「配偶者出産休暇制度」は、非正規雇用対策などと並んで、韓国が日本よりも先行することになった労働関連の法政策の一つだと思います。 今回の韓国での新制度は、育児についても男女平等での責任をもっていこうとしている点で、類似した労働環境の日本でも大いに参考にできるし、日本の実情に合わせた制度の検討や議論を広く行うことが必要です。上記の通り、日本政府は企業の努力を呼びかける微温的な対策が中心です。労働組合が高い意識性を発揮して、組合内外での議論を広め、さらに団体交渉や協約によって個別企業、できれば職種・産業単位での制度化をめざすことが考えられます。そして、それを国の制度に高める方向を目指すべきだと思います。

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原子力に反対し続けてきた小出裕章さんの動画を見て

昨晩、Youtubeで、20190911 UPLAN 小出裕章「福島は終っていない、原発はクリーンではない」という講演動画を見た。原発の問題を訴え続けて来られた、原子力問題研究者である小出裕章さん。良心のある真の研究者として敬意をもって、その発言や活動を見てきた。その最新の講演(2019年9月11日)と質問へのやりとりのYoutube動画である。
https://www.youtube.com/watch?v=CL_yjWM69VY

 

2011年3月の福島原発事故から既に8年半を経過して、政府やマスコミがまったく報道しない中で、日本社会では多くの人の記憶が薄れ、問題意識が消えてきていることを感じた。
現在も、被曝労働に従事する労働者の危険な労働環境の問題点が指摘されて、労働法研究者の一人としても改めて驚き、気がつかなかった捉え方を示された。とくに、「被曝労働」をめぐり、下請け、孫請けなどの労働者に危険作業を押し付けていることが問題であることは知っていたが、さらに、昨年、政府・与党が、外国人労働を受け入れる「出入国管理法」を突然改正した。小出さんは、この被曝労働を「外国人材」に押し付けるためであったと、政府と電力会社の隠された意図を鋭く指摘された。
この小出さんの講演を聞いて、個人的にいくつか考えることがあった。

□放射能を避けて家族と帰国したアメリカ人教員
一つは、福島原発問題については関西地域に住むためか、私も問題の捉え方が弱かった。ただ、現役時代、法学部の同僚であった英語担当のアメリカ人教員、Jさんが放射能問題を深刻に受け止めて、大学を退職してアメリカに帰ってしまった。
その前に、彼は40歳半ばで日本で就職した外国人教員は、高い公的年金保険料を毎月の給料から天引きされていたことに疑問をもった。60歳まで働いても、資格を得る25年にならないので多くの外国人教員が老齢年金を受ける資格がない。その理不尽さを、社会保障法を担当していた私に訴えた。
1998年、私は「京滋私大教連」(京都・滋賀地域の私立大学教職組の連合組織)の役員をしていたので、彼の訴えを受けて「外国人教員が抱える年金問題」を取り上げ、龍大だけでなく京都産大、京都女子大など、他大学教員の事例を集めて交渉団を作り、上京して厚労省等に陳情した。応対した厚労省の若手官僚は、「問題点はよく分かったが、外国人の要求は少数で、票にならない。改善を提案しても順序が低くなる」と答えた。→関連資料「1998外国人教職員の年金制度の改善に向けての要請」(https://bit.ly/2mkMg7J)〔なお、ごく最近になって、年金受給資格のための25年が10年に短縮された。〕
Jさんは、この年金問題に一緒に取り組んだことからも、おそらく定年を過ぎても日本に長く暮らすことを考えていたと思う。実際、Jさんは、その後、結婚して子どもさんも生まれた。そのJさんが、日本を離れるのは余程のことであったと思う。何事にも関心をもって深く考える知的な彼のことだから、放射能の問題についても英語文献を詳しく調べて深く深く考えての結論であったと思われる。
私は、親しくしていたJさんが帰国することに寂しさを感じるととともに、放射能問題についての深い捉え方に驚いた記憶がある。

□少数であっても、真実を伝える研究者の役割
小出裕章さんは、研究者として、原子力の危険性を訴え続けてきた。マスコミや学界が、政府や大企業に忖度して真実を伝えない中で、原子力の危険性を訴え続けてきた小出さんの役割は貴重だと思う。研究者のあるべき生き方を実践されていると思う。
理系と文系の違いはあるが、私も研究者の一人として、日本の雇用社会における働き方(実は、働かせ方)の問題点を分析し、訴えていきたい。労働法の学界では、「派遣法は『毒の缶詰』」だという私の指摘は、小出さんの主張と同様に圧倒的少数かも知れない。しかし、真実は長く覆い隠すことはできない。
とくに、この小出さんの講演では、以下のように、労働法とも密接な論点として「被曝労働」「外国人労働」の問題が鋭く指摘された。小出さんの研究者としての生き方に学ぶとともに、学界の主流が扱わない「被曝労働」「外国人労働」などの問題についても、目をそらさず考えて行きたい。


<小出講演の一部メモ>
●福島第一原発2号機で「苦闘は今も続いている」
>溶け落ちた炉心がどこにあるか、8年半経った今も探し続けている。
>国と東電は溶けた炉心を、30〜40年かけてつまみ出すとしていた。
>ロボットは放射線の強い現場に近づけない。
>胃カメラのようなものを使わざるを得なくなった。
>当初の計画が次々に大きく変わっている。
>100年後にも事故は収束できない。
●被曝労働と劣悪な労働環境
>でもやらなければならない、この困難な作業に何千人という、多くの労働者が従事している。
>普通の労働と違い、被曝労働は「被曝限度に達するまでの被曝を売る」
>被爆限度(1年で20mシーベルト、5年で100mシーベルト)まで。この被爆限度に達してしまうと働けない。
>被曝労働に従事しているのは下請け、孫請けなので、限度に達すると解雇。
>解雇されて、病気になっても因果関係の証明ができない。何の補償も受けられない。
●外国人材と差別の世界
>最近、外国人材導入が話題になった。
>今後、何十万、何百万の被曝労働者が作業せざるを得ない。
>どれくらいの被曝労働者が必要か。誰に押し付けられるのか。
>昨年「出入国管理及び難民認定法」(外国人材拡大法)が突然、改正
>法改正の目的=「人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野に属する技能を有する外国人材の導入を図るため」
>「私(小出さん)は、これを見たときに福島に連れて行くんだな」と思った。
>すぐに東電は「やる」と言ったが、大きな批判が巻き起こって、今、東電は「当面やりません」と言っている。いずれ「やる」ということ。外国人だから許されるのではない。こんなことは、人としてどうなのか。


●敷地外でも苦闘が続いている
>膨大な放射線の放出と広大な汚染地
>生活を根こそぎ破壊され、流浪させられた人
>汚染地に棄てられた人
>一度は逃げたが、帰還させられる人
>大気中に放出されたセシウム137だけで
>1、2、3号機合計で、広島原爆の168発分をばらまいた(日本政府発表)
>この「死の灰」は、汚染地図(政府作成)でも、福島から関東の広大な範囲に拡大
>1平方当たり3〜6万ベクレルの汚染も。
>それまでの法律では、「放射線管理区域」では4万ベクレルを超えてはならない、となっていた。
>日本の広大な範囲が「放射線管理区域」並みの汚染が、現在も続いている。
>「原子力緊急事態宣言」を発して、法律上の制限を反故(ほご)にした。
>この緊急事態宣言は、8年半経っても続いている。100年を経っても「緊急事態」が続く。
>ほんのわずかな放射線物質をばらまいても、ものすごい状況になる。
>「放射能は目にみえない」→政府は、風評だというが、実害はある。
>マスコミは、口をつぐんで何も言わない。
>ほとんどの日本人は「緊急事態」が続いていることを忘れている。
 

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韓国で「労働時間算定」をめぐって注目すべき判決

毎日労働ニュースが、9月4日、裁判所「ソウル市響団員、個人練習時間も勤務時間」、年次有休手当支給請求訴訟で労働者勝訴…全体練習での熟達有無の確認を判決根拠にという記事を掲載しました。
それによれば、ソウル中央地方法院、41民事部が、楽器を演奏する労働者たちの個人練習時間を勤務時間と認定したのです。ソウル市交響楽団の楽団員が、提起した年次有休手当支給請求訴訟で、原告勝訴の判決が出たということです。勤労基準法(60条)は「使用者は1年間80%以上出勤した勤労者に15日の有給休暇を与えなければならない」と規定しています。ソウル市響は、団員が個人練習をする日は勤労を提供しないと見なしていたため、大多数の団員が1年間80%未満の出勤であったとみなして、年次有給休暇や手当を与えなかったのです。
これに対して、労組(公共運輸労組文化芸術協議会)の支援を得て、楽団員が裁判を提起していました。
裁判所は、楽団員は個人練習をせざるを得ない状況があり、自宅などでの練習もしていました。楽団が、その熟達度を全体練習で確認していたことが、大きな根拠となって、練習時間も労働時間であると判断したということです。
詳しくは、全国公共運輸労組文化芸術協議会の論評を試訳してみなしたので、参照して下さい。
この判決は、5月14日に欧州司法裁判所(ECJ)が下した、使用者の労働時間把握義務を厳しく認めた判決(※)と共通する視点をもった注目すべき判断だと思います。
(※)脇田滋の連続エッセイ - 第9回 欧州司法裁判所が画期的判決。企業には全労働時間を客観的に把握・記録する義務あり!http://hatarakikata.net/modules/wakita/details.php?bid=11
使用者側は楽団員が個人でする練習時間を労働時間と算定しないで個人の裁量にまかせる形式をとっていました。しかし、練習による熟達があったか否かを全体練習で確認するという厳しいチェックをしていたのです。一定以上の練習(=労働)をするように指揮していたことになります。今回の判決は楽団員(音楽家)という特殊な業務の労働者だけの問題ではありません。サービス労働などで広く類似した労働が広がっています。
この判決は、ECJ判決と共通して注目すべき判断です。それらは、裁量労働、高プロ、副業の拡大、雇用によらない働き方拡大など、使用者の労働時間算定義務回避を拡大しようとする日本の安倍政権の労働時間再作の方向とは真逆だと思います。
本日、済州大学で、日韓労働法フォーラムが台風の真っ最中に行われます。今、TVが台風状況を伝えるなかでパソコンに向かっています。フォーラムのテーマは、「労働時間」問題です。両国で進められる政策や裁判の動向も議論の中では出てくると思います。フォーラムでどのような議論がされるのか、期待をもって参加したいと思います。
これから朝食を終えて、嵐の中を出発する予定です。


全国公共運輸労組文化芸術協議会
[論評]「「個人練習も勤務したとみなす」「ソウル市交響楽団年次有休訴訟勝訴判決歓迎

作成者 組織争議室 作成日2019-09-03
https://www.kptu.net/board/detail.aspx…

[論評]
「個人練習も勤務したとみなす」
ソウル市交響楽団、年次有休訴訟勝訴判決歓迎、芸術団業務の特性を見直す契機にしなければない

 ソウル市立交響楽団で団員が出勤せず、個人練習をする日も出勤日とみなすという判決が下された。公演や全体練習でない、家や他の場所でする個人練習も業務の特性上、勤務時間に該当するという内容である。去る8月22日、ソウル中央地方法院は、ソウル市立交響楽団団員が請求した年次有休手当支給請求訴訟で、このように判決した。(事件番号2018ガハプ540112)
使用側は「個人練習をする日は、勤労を提供するのではないので、1年間80%以上出勤した勤労者に該当しない」という理由で、年次休暇手当を支給する義務がないと主張した。
しかし、裁判所は「公演業務の特性上、個人練習が伴うので団員の勤労時間を公演と全体練習だけに限定できない」と判示して、その根拠として「通常、公演一ヵ月前に楽譜を配布して、これを熟知させて全体練習で熟達の有無を確認した点、個人練習施設が別になく家や他の場所で練習をしなければならない点」をあげた。したがって、個人練習も使用側の指揮、監督下にある勤務時間に該当するので、1年に80%以上出勤が正しく法が保障した年次休暇手当を本来の通りに支給しろと言ったのである。
また、裁判所は芸術団団員の個人練習時間を勤労基準法第58条第1項の「勤労時間を算定しにくい場合」に該当するとみなした。勤労者が出張その他の理由で、勤労時間の全部、または一部を事業場外で勤労して勤労時間を算定しにくい場合には「所定勤労時間を勤労したとみなす」という条項である。
このような判決は、2015年にもあった。当時ソウル市交響楽団団員の不当解雇救済申請再審審判でも、裁判所はやはり同じ理由で「団員は、週15時間未満の短時間勤労者に該当しない」と判決したことがある。
「個人練習も勤務時間」という判決は、芸術団員の勤務時間に対して再び見直してみる契機にしなければならない。芸術団の業務は、規定されている勤務時間だけ勤務をする一般的な労働形態ではない。夜間勤務、休日勤務、地方出張、海外出張にも一般職場とは違った観点で働いても手当や時間を計算されることがない。
芸術団に労働組合ができれば一番最初に勤務時間をめぐって労使間の争点が生まれることもある。一部の使用(者)側は、勤務時間を団員を圧迫する手段に使っている。練習の強度を考慮しないで、規定上の勤務時間だけを守ることを要求してフルタイムで練習することを注文することもある。それなら、勤務時間以外の個人練習時間、出張時の移動時間、夜間手当、休日手当すべてを計算してこそ正しい。
演奏は、高度な集中力とエネルギーを必要とすることであるから、多くの芸術団では芸術監督の裁量下にある勤務時間内での練習時間を柔軟に運営することが慣行である。勤務時間を機械的に満たせとの圧迫は、芸術団の業務特性を知らない無知の所産に過ぎない。
勤務時間で葛藤を生じさせている芸術団は、今回の判決が示唆するところを再確認しなければならない。現場で働く団員に業務特性に見合う適切な練習時間の運営が保障され、安定した勤務環境が作られるように願う。

2019年9月3日
全国公共運輸労組文化芸術協議会


【参考】毎日労働ニュース2019.09.04 裁判所「ソウル市響団員、個人練習時間も勤務時間」

年次有休手当支給請求訴訟で労働者勝訴…全体練習での熟達有無の確認を判決根拠に

http://labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=160293 

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前は見えないが正義は見える

 NHKの逆転人生(2019/9/9,10時~)という番組に竹下義樹弁護士が登場します😀
https://www4.nhk.or.jp/gyakut…/x/2019-09-09/…/21712/1795018/

 竹下義樹さんとは、龍谷大学の法科大学院で「社会保障法」という授業を9年間(2007-2015)一緒に担当しました。
竹下さんは、最初の授業では自分自身が弁護士として歩んできた歴史を語りました。私より4歳年下の竹下さんは14歳のとき、石川県の中学校で相撲部に所属し練習中の事故が原因で目がまったく見えなくなりました。京都の盲学校高等部に入学して点字を覚えたということです。当時、視覚障害者の仕事はマッサージなどに限られていました。
しかし、竹下さんは何としても弁護士になろうと大学進学を目指し、視覚障害学生を受け入れてくれた龍谷大学法学部に入学しました。法学部に入学後、司法試験を受けようとしましたが、当時、日本では点字による司法試験は実施されていませんでした。法務省に問い合わせをすると、点字の受験は実施していないので、視覚障害のない人と同条件で、通常の試験を受けるようにという回答があったそうです。日本国憲法第14条は「法の下の平等」を保障していますが、当時の政府は、「盲人を特別扱いをしないことが平等だ」という立場で点字受験を冷たく拒否したのです。
竹下さんは諦めませんでした。自分の熱い思いを周囲の人に伝えました。龍谷大学の学生の中で学部を越えて支援の輪が広がりました。さらに、大学を越えて、京都大学、同志社大学、立命館大学など、京都市内の多くの大学、大学院の学生たちも支援に加わりました。国会でも点字受験問題が取り上げられ、竹下さんは参考人として、点字受験の必要性を強く訴えました。その結果、政府・法務省も従来の立場を変えて、点字での司法試験受験を認めることになったのです。
そこから、彼の本当の苦労が始まりました。目が見えても合格が難しい司法試験を視覚障害をもつ人が合格することは至難のことです。まず、点字の六法や法律書がありません。そこで、多くの学生、院生たちが法律関係の多くの本をテープに録音すること、さらに大学を越えた勉強会など、ボランティアで協力してくれました。竹下さんは9回目の受験でようやく合格することができました。その間、支援者の一人であった女性と結婚し、子どもも生まれたので、お金を稼ぐためにマッサージなどのアルバイトをしながら、苦労をしながら勉強を続けたのです。
竹下さんの勉強方法は独特です。多くの人が吹き込んでくれた録音テープを通常の数倍の早さで聴きます。私には早すぎて聞き取れない高い音を彼は聞き分けることができるのです。また、法律の条文を単語カードのように点字に打ち出したものを腰にぶらさげて、それを触りながら歩いて条文をそのまま覚えるのです。また、竹下さんは勉強会や研究会では必ず大きな声を出して質問します。積極的に質問をすることで問題点をすぐに理解しきろうとするのです。
法科大学院の授業では、竹下さんは、学生に向かって、ときどき鋭い指摘をしました。「一流国立大学出身の秀才弁護士は判例について詳しく知っているが、社会保障や労働の事件は、そうした文献だけの知識だけでは、とうてい解決することができない。弱い立場の相談者の実際の悩みを、その生活を含めて深く深く理解しなければならない。たとえば、日本政府は、在日外国人、野宿者、稼働能力のある若い失業者たちが、生活保護を受ける当然の権利を不当に抑圧してきた。こうした政府の態度に対抗するためには、多くの人が協力するネットワークを作ることが必要であり、日本国憲法、国際条約、外国法について詳しい研究者とも連携し、官僚に対抗できる論理を導き出さなければならない」と。
竹下義樹弁護士と私は、彼が修習生時代に京都で行われていた、研究者、弁護士、裁判官、修習生をメンバーとする「労働判例研究会」以来、40年以上に及ぶ付き合いです。
私が保育所保護者会の役員として活動して、市長を相手に保育料引き上げをするなと行政訴訟を起こそうとしたときにも、迷わず竹下さんに代理人を依頼しました。行政を相手の裁判は簡単には勝訴できないので、引き受ける弁護士が少ないのですが、快く引き受けてもらいました。
常に前向きで実践的な竹下義樹さんの話は、これから困難な司法試験を受験しようとする学生たちに大きな力を与えるものでした。一緒に進めた授業の中で竹下さんが話す言葉は何度聞いても、不条理な社会に抗して最も弱い立場の人のために法を活かそうとする点で、法学を学ぶ原点を思い出させるものでした。
竹下義樹さんの半生をまとめて、小林照幸『全盲の弁護士 竹下義樹』(岩波書店、2005年)が刊行されています(https://www.iwanami.co.jp/book/b264177.html)。この本は、韓国語に翻訳され、2008年『앞은 못 봐도 정의는 본다』(前は見えないが正義は見える)として出版されています。

韓国では、2014年、視覚障碍者のための「点字選挙公報義務」を憲法裁判所が拒否したことが問題になりました。
そのときに、市民新聞Ohmynewsが、「前は見えるが正義が見えない大韓民国憲法裁判所」という表題の記事を書きました。この記事の中でも、竹下義樹さんのことが詳しく紹介されています。
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http://www.ohmynews.com/NWS_Web/view/at_pg.aspx…
앞은 보지만 정의는 못 보는 대한민국 헌법재판소
'시각장애인 위한 점자형 선거공보 의무' 거부결정 무엇이 문제인가
14.06.24 17:28l최종 업데이트 14.06.24 17:28l김인회(miraeyeon)
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 「労働法のない世界」で働く医師たち

「労働情報」9月号が届きました
労働情報No985(2019年9月号)に寄稿しました。「労働情報」は、各地の労働問題に関する貴重な情報を提供する雑誌です。

 9月号の「特集 告発!無給医問題」は、次の記事を掲載しています。

〇全国医師ユニオン 声を出さない医師たち(植山直人)
〇当事者たちの声 
〇無給医ホットライン 不利益おそれ権利行使ためらう 無給ゆえに長時間労働の実態も(竹村和也)
〇労働法の視点から 明らかな労働者性 団体行動と連帯が不可欠(脇田滋)

(朝日新聞2019年6月29日)

 私の記事は、医師も労働法が適用される「労働者」であることを指摘し、若い医師が過労によって死亡した関西医大研修医事件、鳥取大学病院事件を紹介して、労働法的な問題点を指摘しています。

医師と労働法

 かつて国立大学の法人化の際に、ある大学の組合に呼ばれて学習会で講演したことがありました。「医師にも労働基準法が適用され、原則、法定時間を超える長時間労働はできない。例外的に36協定締結などの要件を満たさないと違法だ」と話しました。
すると「大学病院の現在の働き方では法違反になってしまう。どうしたら違法とならないのか」という質問が異口同音に出たことがありました。長時間労働の現実を改める必要を指摘した積りでしたが、現状を変えるのは無理だという前提での質問ですので、納得してもらうのは大変だと思ったことがあります。
労働法的には大学病院の勤務医に「労働者性」があるのは明白ですが、きわめて専門性の高い医師の多くは自身が労働者であると思っていないと感じました。
この8月4日に参加した医師の働き方をめぐる研究会で、医学部教育の中で「労働法」の話を聞く授業はほとんどないこと、ドイツ、イギリスなどと違って、日本では医師の労働組合加入はきわめて少数であることなどの現状を知りました。

患者にとっても、人間らしい医師の働き方が重要

 若い時にはほとんど大きな病気をしなかった私も、定年退職後は入院や通院を繰り返して何とか健康を維持できています。まさに、医療サービスのおかげだと実感します。患者の立場からも医師、看護師をはじめ医療従事者が過労で倒れるのは大いに困ることです。
「無給医」が数多く存在し、医師の過労死も少なくないのが日本の医療界の現状です。まさに、医師の世界は「労働法のない世界」と言える状況です。ドイツでは、医師が労働組合を通じて自らの労働条件改善を求め大きなストライキもあったとのことです。労働法の視点からだけでなく、医療の安全や医療サービスの保障という患者・住民の視点からも「医師の働き方改革」が重要です。
医師ユニオンが長年、医師の働き方を改めることを問題提起してきました。しかし、現在、厚労省が進めているのは過労死認定基準の約2倍に当たる長時間労働をも可能とし、異常な現状を追認する方向です。これでは問題の解決にはなりません。
社会全体で医師の長時間労働の現実について正確な認識を共有し、それに基づく議論を急いで広めていくことが必要だと思います。労働法学の世界でも医師の問題を本格的に検討する必要があると思います。マスコミも、政府の情報を無批判に垂れ流すのではなく、しっかりと取材をして医師の働き方の現実を伝えることが必要だと思います。

 

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 東京新聞8.29付<働き方改革の死角>を読んで

<働き方改革の死角>日本、続く賃金低迷 97年比 先進国で唯一減
https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201908/CK2019082902000151.html

 「真面目に働いているのに、なぜ賃金が下がって生活が苦しく、将来への希望がなくなるのか?」という、日頃抱いていた疑問に対して、この記事は多くのことを考えさせてくれた。

 「時間あたりでみた日本人の賃金が過去21年間で8%強減り、先進国中で唯一マイナスとなっていることが経済協力開発機構(OECD)の統計で明らかになった。企業が人件費を抑制しているのが主因だが、「働けど賃金低迷」の状況が消費をさらに冷え込ませる悪循環を招いている。」
とくに、
「派遣法改正などの規制緩和で企業の人件費削減を容易にした。賃金の安い非正規雇用の比率は97年の23.2%から、2018年の37.8%に上昇」
が目についた。

「毒の缶詰」=派遣法がもたらした弊害

 私が労働法の研究を始めて間もない1980年代初め、当時、違法であった派遣労働(偽装請負形式の間接雇用)を「合法化」するという、政府・経営者団体の政策動向に直面した。推進者たちは、「ごく限られた専門的対象業務で弊害は少ない」と主張した。しかし、私は、民主法律協会の派遣労働研究会などで実際の事例相談に参加していたので、こうした主張が明らかに現実と乖離した間違ったものであると確信した。

 私は、政府・財界の「労働者派遣法制定」の狙いは、
(1)違法な間接雇用(偽装請負形式での労働力利用)の合法化
(2)男女平等の動きに対抗して性別差別を雇用形態差別へのすり替え
(3)事実上、解雇しやすい労働者の導入(=解雇自由の偽装的拡大)
(4)労働者間の分断(直接雇用と間接雇用、正規と非正規)による労働組合の「正社員組合化」による弱体化と、労働組合の「代表性」喪失
にあると考えた。

 当時、研究室や研究会の先輩には、
「対象業務が限られており、人数も10数万人と限られている。そんな派遣を研究テーマにするのか?」とか、
「通訳など専門業務では、企業も正社員として雇うのは難しい。企業だけでなく、専門的能力を活かせる派遣には働く側にもメリットがあるのでは?」
「派遣は、労働法の中心問題とは言えない。先行研究もない」
などと、派遣労働を研究テーマにしようとする後輩の私に対する「忠告」もあった。

 しかし、労働者派遣法が施行されてから既に30年以上になるが、私が憂慮していた派遣労働の弊害が現実化してしまった。派遣労働は、労働法の中での「縁辺的な問題」どころか、いまや「核心的な問題」になっている。

 実際、労働者派遣法は「毒の缶詰」として、30年以上、日本の雇用社会に「毒」を流し続けてきた。その一つが、労働者全体の賃金低下である。東京新聞が指摘するように、日本の労働者の賃金は、近年、下がり続けている。その大きな原因は、低賃金の非正規雇用が4割にもなっているからであるが、非正規雇用が職場の中で同一労働を差別的低劣待遇で行えば正社員の存在意義はなくなるか、少なくも大きく減少する。現在、労働者全体の約3割の「大企業型」(正社員)は、財界やそれと結びつく政府の政策動向が進められていけば、近い将来、1割から2割になるだろうと指摘されている(小熊英二『日本社会のしくみ』講談社現代新書)。

「労働組合弱体化」を進めた派遣労働拡大

 私は、労働組合での学習会などで「派遣法は『毒の缶詰』であり、派遣労働導入は労働組合にとっては、同じ職場で働く全ての労働者を代表するという役割=全体代表性を破壊し、労働組合を弱体化させる」ことを言い続けてきた。そして、「今日の正規雇用は、明日の非正規雇用」とか、「親が正規雇用でも、息子・娘は非正規雇用になる」と訴えてきた。

 残念ながら、派遣労働の導入に抵抗し同じ職場で共に働く派遣労働者を自分たちの仲間だとして連帯する労働組合は余りにも少ない。その結果、日本の労働組合の多くは、「比較的恵まれた」自らの利益や権利だけを擁護する「エゴイスト(egoist)」集団だという攻撃が出てくるようになった。その攻撃に対して、多くの労働組合は、連帯活動の実際に基づく反論の根拠を提示できなくなっている。

 要するに、労働者派遣法の危険な狙い=「労働者の分断」「労働組合の弱体化」が現実化したと言わざるを得ない。

 今年3月、韓国のナショナルセンターの一つ「民主労総」の非正規雇用・未組織対策の担当者と会って、話を聞いた。そのとき、私は「1998年に制定された『派遣勤労者保護法』(韓国の派遣法)をどう思うか?」と質問した。すると、担当者は即座に、「派遣法は廃止するしかない」と断固とした口調で答えた。

 韓国でも単位労組レベルでは、非正規職との連帯という点で依然として遅れた意識(=正規職主義)があるという。しかし、少なくともナショナルセンターである民主労総は、「派遣法廃止」「非正規職撤廃」を毅然と主張し続けている。改めて「これこそ本来の労働組合だ」と感心した。

「全労働者を代表する労働者団結」で賃金の引き上げを

 「賃金の引き上げ」は、労働者の集団的対抗力がなければ実現しない。その意味で「官製春闘」と呼ばれる現状は異常である。「賃金引上げに王道はない」と思う。

 東京新聞の記事によれば、韓国の急激な賃金増加は日本とは真逆である。韓国では労組は、97-98年の経済危機の際、リストラをめぐる正規・非正規間の深刻な分裂があった。その苦い経験から、企業別正社員組織のままでは「日本のように弱体化する」という議論が生じた。それから、労労対立や、政府・財界による過酷な組合弾圧を乗り越えて、多くの犠牲を伴いながら、実に真剣な活動が展開されてきた。そして、「企業別組織から産業別組織への転換」という、世界でも稀な労働組合の組織転換事業を成功裡に展開してきた。

 日本よりも厳しい状況の中であったのに、韓国労働組合は頑張っている。民主労総は、この数年間に70万人から100万人へと5割も組合員を増加させた。現在も民事的刑事的な弾圧は無くなっていないし、単位労組には遅れた意識がある。しかし、ナショナルセンターを始め、組合活動家の多くが、「全労働者の代表」としての活動を目指している(Asu-net エッセイ「労働者分断」を乗り越えてきた韓国労働運動 13回(上) https://bit.ly/338h2BW 14回(下) https://bit.ly/2Ylaykb参照)。

 日本の賃金の現状は、労働組合の残念な状況の反映である。1985年派遣法制定当時からの「ボタンの掛け違い」を元に戻すことが必要である。それを含めて、この30年余りの労働運動、労働法・政策の誤りを反省的に振り返り、将来に向かっての展望、そのための労働組合再生をめぐる議論が必要だと思う。

 私も、この東京新聞の記事を読んで、改めて、すべての労働者を代表する労働者団結の新たなあり方を考えなければならないと思った。
 

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東京五輪は「命より金」でなく「金より命」を大切にすべきだ

http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2400

 今年5月、国際建設林業労働組合連盟(BWI)が「東京五輪組織委は人命軽視の危険な労働環境で働かせている」と警告していた。BWIは約130の国・地域の労働組合が加盟する国際労働組合組織で、2006年から五輪やサッカーワールドカップなど大規模イベントの建設現場で劣悪な労働環境で死亡事故などが多いことから、状況を調べていたが、詳しい提言書(The Dark Side of the Tokyo 2020 Summer Olympics)をまとめて組織委などに伝えていた。参照(http://hatarakikata.net/modules/data/details.php?bid=2256

報道によれば、BWIの提言書では、
「・作業員の半数が雇用契約でなく、請負契約のため(一人親方が請負う)、法的な保護が手薄
・選手村で月28日間、新国立競技場で月26日間、勤務した作業員がいた
・作業員の中には安全器具を自腹で購入した者がいた
・薄暗い中での作業の改善を求める労組からの通報をJSCが受理しなかった
・外国人技能実習生の人権が守られていない、資材運搬など単純作業ばかりを強いる
・作業員が失職などを恐れて労働環境の改善を訴えにくい雰囲気がある」

 さらに、BWIは、労働者からの直接に聞き取り調査もしており、次のように指摘していた。それは、
 「労働者は、外国人労働者たちが原材料の取り扱いなど単純作業(menial tasks)だけをさせられていると答えた。彼らは、建設過程の遅れが労働者の間でどのようにストレスを引き起こし、質の悪い(poor)安全慣行を生み出したかについて話した。はるかに問題のある調査結果(findings)は、労働者が懲戒を受けるか失業する恐れがあるために、労働者が労働条件について苦情を申し立てるのを妨げる『恐怖の文化(culture of fear)』が蔓延していると報告した」など、
かなり深刻な内容であった。

 この提言書が公表されてから3ヵ月も経過するのに、いまだに協議もしていなかったことに驚かされる。
実際、建設計画が余りにも過密なスケジュールで進められた。そのため、携わっていた労働者があまりにも長時間の過密労働で過労自死する事件も生じていた。この8月には、熱中症で建設作業員が死亡している。
むしろ、東京五輪組織委は、こうした労働者死亡とBWIの提言にも関わらず、来年の猛暑時期に大量の「ボランティア」を利用する計画をそのまま進めている。否、その計画を一層拡大しようとしている。最近、医療スタッフまでボランティア形式で利用しようとする計画が明らかになった。医療団体にはボランティアに応ずることが要請されており、関係者から戸惑いの声が上がっている。
東京五輪では、こうしたボランティア形式だけでなく、建設重層下請、派遣労働利用(パソナなど)も広く行われている。これらはいずれも、労働法の定める使用者責任の回避、とくに労働安全衛生法による熱中症対策などの使用者責任回避につながり、労働者保護の視点からきわめて疑問である。上記BWI提言書も、「法的保護が手薄な働かせ方」として、個人請負の利用があることを問題として指摘している。これらの多様な雇用形態利用は、東京五輪組織委が、働く人の生命・健康を軽視し、配慮責任を回避しようする姿勢を示すものである。
五輪であっても、それを至上目的に生命・健康を軽視してはならない。本間龍さんは東京五輪について、「東京インパール」と表現して旧日本軍の無謀な作戦(インパール作戦)になぞらえて的確な批判を続けておられる。最も大事なことは「金より命」である。五輪を口実に庶民が納めた税金から莫大な利益をあげ、大きな利権を得ようとする関連企業や、それと癒着するマスコミ、政治家などの輩(やから)は「命より金」を優先していると考えざるを得ない。口先では「お・も・て・な・し」など、華やかで綺麗なことを言っても、実際に準備作業の現場で進められているのは「金」を重視して「命」を軽視する事例が多すぎる。
こうした東京五輪開催そのものに強い疑問があるが、少なくともBWIが提言するように「金より命」の考え方を最優先に、働く人の生命・健康を守ることを政府、東京都、組織委などに求めていく必要がある。莫大な利権を減らせば、「命」を守るための財源をねん出することができるはずだ。そうしなければならない。
もし、五輪推進者たちが、「財源」を理由として「金より命」を否定するのであれば、そんな五輪は許されない。今からでも返上すべきである。 

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BBCが世界に伝える日本の外国人労働者問題

 平野啓一郎さんのTweetで知った、BBC Japanのニュース動画(日本語字幕付き)を見た。
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2019.8.26視聴時間 08:24
日本で「搾取」される移民労働者たち
低賃金で長時間働かされた――。日本で「搾取」されたと訴える移民労働者たちをBBCが取材した。世界的服飾ブランドの服を作っていた人や、自殺を図った人もいた。
BBC News Japan


https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57445?utm_source=newspicks&utm_medium=feed&utm_campaign=link&utm_content=title
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 動画の内容は、この7月、大阪で開かれた労働法の研究会で聞いた話とほぼ重なっている。研究会では、日本で働くベトナム人労働者を支援してきた研究者から、きわめて実際的、実践的な報告を受けた。最賃を下回る低賃金、長時間労働、自由の束縛、セクハラ・性暴力など、余りにも酷い実態に驚かされた。不自由な日本語、在留資格、母国で抱えた借金など、弱い立場に置かれた外国人労働者たち。その弱い立場につけ込み、過酷な労働環境で働かせて搾取する人権侵害の数々。若い世代の報告者自身が体験した話を基に、現在日本の雇用社会の紛れもない現実が浮かび上がった。

 外国人労働者と言っても、とくに韓国、中国、ベトナム、フィリピンなど、アジア諸国出身の労働者が差別的に搾取や人権抑圧の対象となってきた。朝鮮半島出身の「徴用工」問題も、そうしたアジア出身者への差別という点で問題になる。アメリカ人やヨーロッパ人も日本国内で就労しており、制度的な不備から問題がない訳ではないが、それと比べるとアジア出身者への差別的処遇には余りにも劣悪な場合が少なくない。

 私が、研究会での話を聞いたときに感じ、この動画を見て改めて思ったのは、次の4点である。

 第一は、マスコミでの報道や議論が余りにも少ないことである。深刻な外国人労働者をめぐる差別と人権無視という事実があるのに日本のマスコミは何故報道しないのか、いったい何をしているのかという疑問である。イギリスのBBC放送が、わざわざ日本に来て取材し報道している。NHKや民放にも多くの報道番組があるのになぜ報道しないのか強く疑問に思う。日本のマスコミも深刻な労働実態を報道するべきである。

 第二は、外国人労働問題も、あくまで本質は労働問題だと思う。「外国人は別だ」と考えるべきではない。日本国憲法の下では外国人にも基本的人権を平等に保障する。戦後の世界では、日本だけでなく、労働法や社会保障法では「内外人平等」が原則となっている。労働基準法第3条は、国籍による差別扱いを明文で禁止している。これは、労働関係における「内外人平等」を確認したものであり、労働・社会保障分野では外国人差別は許されない。これは必ずしも常識となっておらず、誤解の多い点である。労働者としての権利よりも、国籍区別を重視する考え方が依然として根強い。むしろ、最近になって、日本だけでなく世界各国でも外国人への冷たい対応が広がっているので、「内外人平等原則」の意義を強く訴えたい。

 第三は、現在、大きな焦点となっている「徴用工」には多様な側面があるが、その中の一つは労働者の人権を尊重していないことである。現在の外国人労働者も、過去の徴用工も、労働者の人権を尊重しない使用者の下での働かせ方という点で共通している。そうした労働人権は、人権保障がはるかに遅れていた第二次大戦中には、現在より酷い形で行われていたと考えられる。
1947年制定の労働基準法は使用者による差別禁止(第3条)、強制労働禁止(第5条)、中間搾取禁止(第6条)を規定した。これらの規制が必要であったのは、それ以前は、深刻な人権侵害の労働環境があったからである。
現在の外国人労働者も、労働者としての人権問題が、「外国人の弱い立場だから対抗できないだろう」と考える、悪徳使用者によって、きわめて露骨に現れているのだと思う。

 第四に、「徴用工」問題については、上記の労働者の人権尊重という面とともに、とくに、日本国憲法制定の意味からも考えるべきだと思う。
つまり、戦前のナチス・ドイツは、ユダヤ人をはじめ、ポーランド、イタリア等で、生命、自由、財産を奪う蛮行を行った。それらを許されないことであったと認め、その深い反省に基づいて、戦後、再出発した。それがドイツが国際社会に再び受け入れられる前提になった。戦後制定されたボン基本法は外国人を含めて、自由、平等、人権を保障することを約束して民主国家になることを国内外に約束する証(あかし)であった。日本国憲法も、大日本帝国時代の軍国主義や人権抑圧を改めることを国内外に約束する証(あかし)として制定された。それによって東アジアを含む国際社会に復帰することを認められたのである。

 過去の「徴用工」問題を無視・軽視したり、現在の外国人労働問題を深刻な問題と考え議論しないのであれば、どんなに「お・も・て・な・し」と口先で言っても、「過去も現在も労働人権を尊重しない日本」になってしまう。そうであれば東アジア諸国だけでなく全世界からの日本への厳しい眼差しは、より厳しさを増すことになるだろう。

 

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最低賃金引上げのために真剣な議論をするべき時だ

日経の「最低賃金」ビジュアルデータ

 日経による「最低賃金」をめぐるビジュアルデータが公表された。データ部分は、従来の単純な図表と違うので興味深い。
https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/minimum-wage/?n_cid=NMAIL007

最賃引上げで雇用が悪化するという「俗説」
しかし、解説部分は不正確で疑問が多い。とくに「最近では韓国が文在寅政権による急激な最低賃金の引き上げで雇用不振に見舞われています」という説明は酷い俗説だと思う。
これは、最低賃金引上げに反対する韓国の保守陣営(経営者団体、保守的新聞)が、文在寅政権への政治的攻撃に使ってきた議論である。データを大切にすると思ってきた日経新聞が、そうした俗説に簡単に組していることは誠に残念である。経営者側要望にだけ耳をかすのではなく、最低賃金引上げの意義も踏まえて、データを正確に分析し経済全体の改善を考えるのが日経の役割ではなかったのか?

最低賃金と雇用の因果関係
最低賃金引上げと雇用・経済との因果関係を確認することは簡単ではない。最低賃金引上げの効果を測定するには、長期間の変化をみることが必要である。韓国の場合、最低賃金引上げからあまりにも時間が短すぎる。とくに経済不振についても多くの指標との相関関係を見る必要がある。様々な要因がある中で最低賃金引上げが経済停滞の原因だと実証的に判断することは簡単ではない。こうした慎重さがまともな分析には求められている。
実証的な労働経済分析で著名な韓国労働社会研究所のキム・ユソン博士は、いくつかの指標から最低賃金引き上げの効果と言える面があったことを指摘されている。今後は最低賃金引上げによって何が変わったのか、改善点も含めてより実証的で深い研究が求められている。

イ・ナムシン韓国非正規労働センター所長の見解

 ごく最近、日本の市民団体が訪問して話を聞いた韓国非正規労働センターのイ・ナムシン所長〔最低賃金委員会・労働者委員〕も、そのような慎重な見方をされていた。従来から、非正規職など「脆弱労働者層」にとっては最低賃金引き上げの意義があることを強調されていた。そして、保守陣営の攻撃にたじろいで、自ら最賃引上げにブレーキをかけようとした文在寅政権の姿勢を批判されている。詳しくは、関連した同所長のコラム日本語試訳(「文在寅政府に尋ねる」「経済社会労働委員会1期はなぜ失敗したのか」http://hatarakikata.net/modules/column/details.php?bid=512)を参照されたい。

俗説を克服して最低賃金引上げについて真面目な議論を
最低賃金を引き上げたら、経済や雇用が悪化するというのは一部の「経済学」によって広められた俗説である。アメリカでは逆の研究結果もあると聞いた。各国の時代・状況によっても最賃と雇用の因果関係は異り、一般化は難しいと思う。世界で最も長く賃金が下がり続けている現在の日本は経済状況が悪化している。非正規雇用が4割に近づき、雇用状況も改善されていない。その日本で最低賃金を引き上げれば低賃金労働者の生活だけでなく、経済も改善される可能性が大きいと思われる。俗説に惑わされることなく、最低賃金引き上げの意義を広く議論するべき時点である。


【関連記事】
□ 連続エッセイ - 第3回 最低賃金引上げと全国一律制導入に向けて 
□中澤秀一さん「最低賃金の引き上げが失業率を高める」は本当か? 最低賃金は1500円が妥当 (8/16) 

 

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 派遣労働者の労働災害、派遣先の安全衛生責任回避

 派遣労働者が派遣先で重大事故に遭い、派遣先会社の責任者が送検されたという記事が、労働新聞社のHPで本年上半期に最もよく読まれた記事だったことを報ずるTweetがありました。
 
派遣2日目で被災 右腕切断労災で霧島酒造を書類送検 都城労基署
2019.06.11 【送検記事】
 宮崎・都城労働基準監督署は、工場内における安全対策を怠ったとして、霧島酒造蝓糞楮蠍都城市)と同社主任を労働安全衛生法第20条(事業者の講ずべき措置等)違反の容疑で宮崎地検都城支部に書類送検した。平成30年11月、同社に派遣されていた労働者が右腕を切断する労働災害が発生している。
 被災した労働者は、同社に派遣されて2日目に被災した。焼酎の原料となる芋の運搬に使うコンベヤーの清掃作業に従事していた際、使用していたホースごと身体を巻き込まれている。
 同社は、清掃作業を行わせる際に機械を止める措置を講じなかった疑い。巻き込まれ防止のために設置されていたカバーは、清掃作業を行うために一時的に外していたという。
【令和元年6月4日送検】
 
 新聞報道によれば、元の事件は次のようなものでした。
福井新聞 2019年6月4日 午後7時30分
 焼酎「黒霧島」などのブランドで知られる霧島酒造(宮崎県都城市)の工場で昨年11月、コンベヤーを清掃中の女性が右腕を巻き込まれ切断する事故があり、都城労働基準監督署は4日、安全措置を怠ったとして、労働安全衛生法違反の疑いで同社と男性現場主任(37)を書類送検した。
 書類送検容疑は昨年11月21日、派遣会社から来ていた当時47歳の女性が、焼酎の原料のサツマイモを運搬するコンベヤーを清掃した際、運転を止めるか、危険な箇所に覆いを設けるなどの措置を取らなかった疑い。
 同社の担当者は「厳粛に受け止め、法令順守と労働環境の改善に全力で取り組む」とコメントした。
 
相次ぐ派遣労働者の重大事故 
 派遣労働者は、派遣元、派遣先との3面関係で働きますが、実際に働く派遣先事業場での安全衛生教育などが不十分なまま重大事故に遭う事件が少なくありません。
 私にも問い合わせがあった奈良の廃棄物リサイクル工場の事例では、同じ会社で3人もの派遣労働者が短期間に相次いで死亡する悲惨な事件でした。
奈良・コンベヤー死亡事故:リサイクル会社と責任者を書類送検 /奈良
 毎日新聞2016.10.12 地方版 
 奈良市の廃棄物リサイクル会社「I・T・O」の南庄工場(同市南庄町)で8月、ショベルカーとトラックに挟まれた男性作業員(56)が死亡した事故で、奈良労働基準監督署は11日、同社と工場責任者の男性生産管理課長(41)を労働安全衛生法違反の疑いで奈良地検に書類送検した。
 送検容疑は8月20日、技能講習を修了していない男性派遣社員(56)に無資格でショベルカーを運転させたとされる。死亡した作業員は木材チップを積んで後退中のショベルカーと停車中のトラックに挟まれた。
 今回の件も含め、同社の吉野工場(大淀町)と南庄工場では8月2日〜9月5日、労災死亡事故が3件相次いでいる。【塩路佳子】 

 労働組合は職場、地域のすべての労働者を代表する必要
 私には、派遣労働者の労災の話を聞くたびに労働組合は何をしていたのかと思います。こうした事件が頻繁に起こっているのに労働組合がこれを取り上げて闘う話はほとんど聞いたことがありません。派遣労働者を代表して闘う労働組合がほとんどないからです。
 
1)地域全体の「安全に働く権利」を守るイタリア地域労組
 30年前(1988年)、私はイタリアのボローニャに研究員として滞在していました。ボローニャの労働評議会(地域の労組組織)を訪ねた時に、ボローニャ地域の建設現場で労働者が死亡事故に遭ったということでした。その被災者は南部出身の出稼ぎ労働者でどの労働組合にも加入していませんでした。ところが、地域労働評議会の役員は、「私たちはボローニャという地域全体を代表しており、ボローニャで労働者の安全に働く権利が侵害されたのだから、私たちがこの問題に取り組むのは地域労組として当然の責務だ」と話してくれました。そして、その労働者の遺族を探し出して、評議会所属の専従弁護士が会社を相手とする訴訟代理人になるだろうとのことでした。
 
2)労安法は、労働者側の委員は、派遣労働者をも代表することを予定
 本来、労働組合は職場、地域、産業のすべての労働者を代表して闘う組織です。だから日本国憲法28条は、労働組合に特別な権利を認めたのです。別会社(派遣会社)に所属する派遣労働者を同じ職場で働いていても「仲間」と思わないのであれば、職場全体を代表する組合とは言えません。憲法が予定する労働組合の役割を果たしていません。現行労働安全衛生法は、派遣労働者も安全(衛生)委員会を作る人数にカウントしています。組合員だけを代表する労組であってはならないのです。
 
3)韓国の「危険の外注化」禁止を求める労働・市民運動
 昨年、韓国では、若い派遣労働者が、上記の日本の事件と同様に、機械に巻き込まれて亡くなるという事件が起きました。
 民主労総や労働安全保健団体が「危険の外注化」だと全国的な運動を起こしました。文在寅政府が国会に提出していた「産業安全保健法」(日本の労安法に当たる)改正案を保守系野党(自由韓国党)が審議を引き延ばして抵抗していました。これを批判して、労働組合や市民団体は、野党党本部の建物前で抗議集会を開くなど、活発な取り組みを展開しました。その結果、国会は昨年末ぎりぎりに産業保健法全面改正案を可決しました。改正法では、下請労働者に危険有害業務を押し付けること(危険の外注化)を原則禁止しています。つまり、韓国の派遣勤労者保護法(派遣法)では、派遣労働者が危険有害業務をすることを禁止していますが、これをさらに事業場内下請けにまで拡大し、発注企業(元請)の責任を強化しています。関連した情報は、下の(参照)urlからダウンロードできます。
 日本では、こうした「危険の外注化」禁止の取り組みは遅れています。原発での重層下請で危険業務は最も弱い間接雇用労働者に押し付けています。
 韓国でも日本と酷似した状況がありましたが、労働組合は、組合員だけでなく、未組織の派遣労働者を含めてすべての労働者を代表して、「危険の外注化」禁止の運動を進めてきたのです。
 イタリアや韓国の労組が、最も弱い立場の派遣労働者や出稼ぎ労働者(いまでは、外国人労働者)をも代表して労働者全体の権利を守る運動を粘り強く進めていることに学ぶ必要があると思います。
 
(参照)韓国における働くもののいのちと健康を守る取り組み http://hatarakikata.net/modules/column/details.php?bid=432
とくに、脇田滋「韓国における雇用安全網関連の法令・資料(9) : 産業安全保健法改正の概要(危険の外注化原則禁止等)」参照。
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