脇田滋の連続エッセイ - 最新エントリー

過労死・過労自殺のない社会を実現するために わたしたちにできること

市民団体が開いた過労死防止シンポジウム

 政府は、毎年11月を「過労死防止月間」と位置づけ、全国各地で「過労死等防止対策推進シンポジウム」を企画し、また、「過重労働解消キャンペーン」などを通じて、国民に自覚を促し、過労死について関心と理解を深めるための啓発活動を実施しています。こうした活動の根拠となったのが、2014年に制定された「過労死等防止対策推進法」です。

 今年、私は、政府・厚労省の主催ではなく、11月30日(土)、龍谷大学深草学舎で開かれた、京都の市民団体が主催するシンポジウムに参加しました。「過労死・過労自殺のない社会を実現するために わたしたちにできること」をテーマにした集会です。2015年12月、電通の新入社員であった高橋まつりさんが過労死しました。この集会では、まつりさんのお母さんである高橋幸美さんが「娘・高橋まつりの過労死と向き合って−学生と一緒に考える」と題する話をされるということで注目されました。

 最近の若い世代は社会問題、とりわけ労働問題には関心がないと言われます。この市民団体がこれまでに開催してきた集会では、平和や民主主義を取り上げてきたこともあり、高齢者が多かったようです。しかし、当日、会場に入ってみると、予想に反して学生と思える20代の若い参加者がかなり参加していました。図書館で勉強していたところ、集会で高橋幸美さんが話されることを友人から聞いてやってきた学生もいたとのことです。就職先の企業が新入社員を過労死させる「ブラック企業」であるか否かは、避けることができません。どこまで深刻に考えているのかは分かりませんが、学生にとって切実な問題であるのは間違いありません。

 集会では、龍谷大学の経営学部のゼミに所属する4人の学生から高橋まつりさんの過労死にかかわる質問が出され、それに幸美さんが答えるという形で進められました。幸美さんは、一つずつの質問に対して、いくつかのエピソードを思い出すように、とても丁寧に話されました。まつりさんは、明るくて活発でしっかり勉強する普通の学生であったこと、社会で役立つ仕事をしたいと出版社でアルバイトをしていたこと、また、試験を受けて中国に留学し中国語が話せるようになって帰って来たことなどが話されました。明るく積極的でまじめに努力する優秀な学生であり、とても前向きな考えをもっていた高橋まつりさんの姿が浮かびました。

 ところが、希望して入社した電通でしたが、実際の働き方は過酷でした。入社半年後、試用期間が終わってから業務担当者の人数が大きく減らされたため、仕事量が急に増えたこと、担当したネット広告関連業務はアクセス数などを細かくチェックする単純業務で夜遅くまで長時間働かざるを得なかったこと、忙しい新入社員に担当業務以外の仕事も回されたこと、上司や先輩社員からの厳しい言葉や扱いがあったことなど、お母さんはとつとつと話されました。また、働いているまつりさんのことを知っている方から、まつりさんが入社当初は元気な印象だったのに時間を経るにつれて大きく変わっていったという証言もありました。

 関連した文献や記事によれば、電通は広告業界で圧倒的な占有率を持っています。売り上げでは業界全体の30%水準で、業界2位の博報堂の2倍にも達しています。とくに、TV広告では、広告主募集で電通への依存が大きくTV業界での電通の影響力は絶大だと言われます。ただ、広告がTVからインターネットに比重が移りました。電通でも売り上げの50%にまでネット広告が増加したとのことです。ただ、ネット広告はTV広告などと違い、広告への照会(チェック)数を根拠に収入が発生します。まつりさんが担当させられたのは、まさに、この手間のかかるチェック業務でした。現在ではシステム上、自動化されつつあるようですが、当時、電通は人員補充をするどころか、担当者を削減して既存社員の負担増で乗り切ろうとしました。人員増による費用負担を嫌っての対応だと推測できます。高橋幸美さんの話を聴きながら、大事な新入社員の健康や生命よりも、企業利益を優先する電通の「企業体質」について考えていました。

「鬼十則」と「軍隊的社風」ブラック企業

 電通と言えば、1947年第4代社長になった吉田秀雄氏の「鬼十則」(1951年)が有名です。「鬼十則」には、「仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない」「仕事とは、先手々と働き掛けていくことで、受け身でやるものではない」「大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする」「難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある」「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……」など、社員を仕事にあおり、駆り立てる言葉がこれでもかと並んでいます。

 電通(「日本電報通信社」が前身)は、1947年、吉田社長が就任して「電通」として復元しました。「鬼十則」が出された1951年は、GHQが「逆コース」と呼ばれる反動期に入り、戦争直後の労働政策を大きく後ろ向きに転換し、労働組合弾圧する方向に変わった時期です。この時期に、電通は、旧満州国や満州鉄道関係者、旧軍人、さらに、戦争責任を問われて公職追放されていた戦前・戦中の新聞業界の重要人物を会社幹部として迎え入れています。

 「鬼十則」は、現代流に言えば、「ブラック企業」の思想そのものです。私は、電通が誕生する歴史的経緯から、「鬼十則」には旧日本軍の古くさい考え方の臭いがしてなりません。ブラック企業の多くは、経営者が「カリスマ」的に独裁権限を振るいます。その専権的支配のもとで業績拡大や海外進出という目標が絶対化され、従業員を「企業戦士」として過密労働に駆り立てています。「ブラック企業」では、労使対等の民主的労働関係は存在しません。「軍隊的社風」のなかで、労働組合を作ることなど許されるものではないからです。まさに、戦前日本の軍隊で見られた、‐校、下士官、J嫉里帽鷸した、上意下達の身分的・階級的序列関係が生み出されています。*
〔*注〕 脇田滋「『ブラック企業型労使関係』ではなく、働く者に優しい労働政策を!」労働法律旬報2014年1月25日45-48頁。

 「ブラック企業」は、若者の就職難に乗じて労働者を劣悪条件で募集し、カリスマ経営者の「理念集」を暗記させるなど、「マインドコントロール」をしたうえで、人間としての尊厳や生命を軽視して、「兵士」のように使い捨てるのが特徴です。2008年、森美菜さんを過労自殺に追いやった外食産業「ワタミ」の会長・渡邊美樹氏の考え方にも「鬼十則」と共通した点が見られます。しかし、電通の「鬼十則」こそ「軍隊的社風」の日本的ブラック企業の思想を表現した元祖であると思います。とくに、「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは……」など、生死を持ち出す社訓は尋常でありません。「死は羽毛よりも軽いと覚悟せよ」とした日本軍の発想そのものです。

 労働法の視点から見れば、「鬼十則」は日本国憲法に基づく労働基準法や、国際労働機関(ILO)が強調する労働尊重の考え方とは真逆(まぎゃく)です。働く人の個人としての尊厳、自由、生活、権利などの尊重(リスペクト)がまったく見られません。とくに、ILOは「全ての人にディーセント・ワーク - Decent Work for All- 」の実現を目指していますが、ディーセント・ワークとは、権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事です。「働きがいのある人間らしい仕事」とも言い換えられています。その仕事は、権利、社会保障、社会対話が確保されていて、自由と平等が保障され、働く人々の生活が安定する、すなわち、人間としての尊厳を保てる生産的な仕事」と表現されています。*
〔*注〕 ディーセント・ワークは、1999年の第87回ILO総会でファン・ソマビア事務局長が初めて用いた用語ですが、その後、ILOの活動の主目標とされています。(https://www.ilo.org/tokyo/about-ilo/decent-work/lang--ja/index.htm)

2000年最高裁判決を軽視し、再発防止策徹底の約束を破った電通

 「過労死」を生み出す背景は複雑です。多くのことを指摘することができると思います。電通事件から私が痛感するのは、企業の反労働法的な労務管理に対して、労働法が実効的に機能してこなかったということです。とくに、電通という日本を代表する広告業界の大企業が、「鬼十則」という、労働法を真っ向から否定する異常な思想を維持してきたことは深刻です。

 電通では、1991年8月、前年に入社した新入社員(大島一郎さん)が、長時間過重労働の結果、自殺するという事件がありました。両親を原告とした民事裁判が争われ、最高裁が、2000(平12)年3月24日の判決で会社側の上告を棄却した上、原告敗訴部分を取消し高裁へ差戻すという画期的な判決を下しました。東京高裁で、2000年6月に、_饉劼楼簑 (両親)に謝罪するとともに、社内に再発防止策を徹底する、会社は一審判決が命じた賠償額(1億2600万円)に遅延損害金を加算した合計1億 6800万円を遺族に支払う、という趣旨で合意し和解が成立しました。かつてない高額の損害賠償が認められたということともに、最高裁が過労自殺について判断を下したことは重要な意味を持ちました。

 この電通事件・最高裁2000年判決は、同年の過労死をめぐる2つの判決(東京海上事件、淡路交通事件)と合わせて労働行政にも大きな影響を与えました。厚生労働省は、翌年に「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(2001年12月12日基発第1063号通達)、いわゆる「過労死認定基準」を大幅に改定しました。また、過労自殺についても、その後、労災認定が広がり、認定基準が定められるきっかけになりました。

 ところが、2016年10月7日、お母さん高橋幸美さんが記者会見で、2016年9月、労働災害と認められたことを発表されました。それによって、前年(2015年)に娘の高橋まつりさんが過労自殺に追いやられていたことが明らかになりました。2000年に、電通は過労死再発防止策の徹底を約束していたことが広く知られていました。にもかかわらず、再び同じような事件を起こしたことで、世論の厳しい批判を受けることになりました。実際には、2013年6月、当時30才の男性社員が過労死しており、2014年6月、関西支社が、2015年8月、本社が労働基準監督から長時間過重労働をさせていたことについて是正勧告を受けていた事実も明らかになりました。

 本日(2019年12月5日)の朝日新聞は、一面で、「電通、『有罪』後も違法残業 18年 最長月156時間 是正勧告」という記事を掲載しましたhttp://hatarakikata.net/modules/hotnews/details.php?bid=1646

 高橋まつりさんの事件の後、「法人としての電通が労基法違反容疑で書類送検され、17年1月に石井直社長(当時)が引責辞任。17年10月に罰金50万円の有罪判決が確定し」ていました。しかし、労基法違反2件、安衛法違反1件で、いずれも18年中の法令違反が対象となって、今年9月、三田労働基準監督署(東京)から是正勧告を受けた、という内容です。

日本経団連「企業行動憲章」にも反する電通の労基法違反

 ところで、電通も会員となっている「日本経済団体連合会」(日本経団連)は、企業が高い倫理観と責任感をもって行動し、社会から信頼と共感を得る必要があると提唱してきました。そのため、1991年に企業行動憲章を制定し、企業の責任ある行動原則を定めています。さらに、国際社会の「ビジネスと人権に関する指導原則」(2011年)などを踏まえて、2017年に「企業行動憲章」を改定しました。同憲章の第6項は、次のように定めています。
 (働き方の改革、職場環境の充実)
 従業員の能力を高め、多様性、人格、個性を尊重する働き方を実現する。また、健康と安全に配慮した働きやすい職場環境を整備する。

 電通の二度にわたる新入社員の過労自殺事件や監督署から相次いで勧告を受けているという事実は、日本経団連の「企業行動憲章」にも明らかに反していると思います。

 電通のような大企業は、多くの企業に模範を示すべき社会的責任を負っています。日本経団連の「企業行動憲章」に反する、常習的に法令違反を繰り返す悪質企業ということで、日本経団連としても何らかの制裁を行うことが当然だと思います。そうでなければ、日本経団連も、国内だけでなく国際的に批判を受けることになると思います。労働法的には、売上金額が連結で5兆円(単独1兆円)の巨大法人に対して罰金50万円というのは余りにも軽すぎます。この点では、刑事制裁を格段に厳しくすることが必要だと思います。

過労死防止法の趣旨と相反する「働き方改革」関連法

 上記11月30日の集会で、私が「『働き方改革』関連法と『健康に働く権利』」をテーマに話しました。まず、2014年の「過労死防止対策推進法」は、「過労死」という言葉を法や政策の中に初めて導入したことや、国・自治体が中心となって過労死防止のための調査・啓発・研究などの責務を負うとしました。しかし、実際の労働環境改善の主体となるのは企業ですが、こうした企業に法的義務を課す規制という点では不十分でした。

 実効ある規制のためには、労働基準法や労働安全衛生法などで使用者に、過労死を生む労働環境を改める法的義務を具体的に定める法規制が必要でした。少なくとも、ILO条約・勧告やEUの労働時間指令など世界標準の労働時間規制に追いつくことが必要です。EUの労働時間指令は、〇超隼間を含めて1週間に48時間が上限、勤務と勤務のインターバル(間隔)11時間以上、G休は4週間以上などを定めていますので、これが当面の目標にすべきだったと思います。とくに、過労死を生む長時間労働規制のために、残業時間上限を短く定める必要がありました。

 ところが、昨年(2018年)、安倍内閣が上程した「働き方改革」関連推進法は、こともあろうに「過労死認定基準」と同水準の月80〜100時間としたのです。これでは残業を削減するどころか、「過労死認定基準まで働かせても処罰を受けない」という誤ったメッセージを企業に送る結果になってしまいます。しかも、労働時間を算定しない働かせ方である「高度プロフェッショナル制度」を導入するなど、長時間労働助長という内容まで盛り込まれたのです。これらは法規制への期待に大きく反する内容でした。森岡孝二さんは、「この法律では過労死はなくならない」と指摘されました。

なぜ、労使協定で最低基準を下回ることができるのか?

 労働法の視点からは、最低基準を下回る「労使協定」が過度に濫用されている問題点を指摘したいと思います。残業時間について事業場単位の「36協定」が労働基準法の法定基準(週40時間、日8時間)を下回る基準設定のために多様されています。また、各種の変形労働時間制や裁量労働制、高度プロフェッショナル制度導入にも事業場単位の「労使協定」が多用されています。なぜ、最低基準である労働基準法の水準を、事業場単位の過半数代表との協定で下回ることができるのか?労働法的にはどうしても納得できない疑問点です。

 本来、労働基準法や最低賃金法は、それ以下の劣悪な労働条件を許さないという意味で最低基準です。労働組合が、労働協約で労働基準法を上回る労働協約を締結したときには、協約の水準に労働条件が引き上げられます。しかし、その労働協約でも労働基準法の基準を下回ることはできません。なぜ、最低賃金法でも、最低賃金は最低基準ですので、それを労働協約で下回る賃金を定めることはできません。まして、事業場単位に過半数代表との労使協定で最低賃金を下回る最低賃金を定めることはできません。ところが、労働時間については、法定基準を下回る長時間労働を事業場単位に定めるというのは理解しがたい点です。

 百歩譲って、1947年に労働基準法が制定された当時、過半数代表は労働組合が念頭にあったので弊害が少なかったと言えるかもしれません。当時、工場や事務所を単位に労働組合の結成が爆発的に増加し、全体の50%を超えるほどの組織率を示していました。残りの未組織事業場でも労働組合結成が期待されていたので、その時期には、労働組合が過半数代表になることが想定されていたと考えられます。しかし、現在は当時と状況が大きく変わっています。労働組合の組織率は毎年、低下を続け、最近では17%しかありません。しかも、大企業では組織率は高い一方、中小零細企業ではゼロに近く、無労組事業場も少なくありません。過半数労働者代表といっても名ばかりの事業場が少なくありません。そうした事業場では、労使協定と言っても実際上は、使用者の一方的な裁量で内容がきまる、形骸的協定になっています。

 過労死にかかわる長時間残業を容認しかねない上に、形骸的な労使協定に多くを委ねるという、「働き方改革」関連法は、森岡さんが的確に指摘されたように「過労死をなくせない」どころか、現状を追認・温存し、使用者の責任回避を助長する改悪法であったと言うしかありません。過労死防止のためには、改めて、EUの労働時間指令などの内容を取り入れた真に過労死を防止できる法規制が必要だということを強調したいと思います。

過労死をなくすための抜本的法規制=「企業処罰法」

ただ、電通など繰り返し過労死を発生させ、法令違反を何度も繰り返す社風を変えるためには従来の発想を越えた思い切った法規制が必要だと思います。この点で韓国では、労働災害による死亡がOECD諸国の中で格段に多いこと、また、セウォル号沈没事件など企業による重大な過失で多くの労働者や市民(学生)が死亡した事件が生じたことがきっかけとなって、「企業処罰法」の制定をめぐる議論が提起されています。議員立法の法案も国会で発議されており、かなり具体的に議論が進んでいます。

 韓国でモデルとされているのは、オーストラリア、カナダ、イギリス3国の「企業処罰法」です。つまり、従業員を死亡させた企業(法人)を処罰するオーストラリア「産業殺人法」〔Crimes (Industrial Manslaughter) Amendment Act 2003〕、カナダ「団体の刑事責任法」〔An Act to amend the Criminal Code (criminal liability of organizations 2003)〕、イギリス「企業殺人法」〔Corporate Manslaughter and Corporate Homicide Act 2007〕の3ヵ国の法制度です。これらの立法を導入した3ヵ国では、法制定後、労災などの死亡万人率が持続的に低くなっていること、単に企業処罰を強化するだけでなく、政府が積極的な企業による災害発生防止の意志を示すこと、具体的には、企業が安全義務違反によって重大災害を起こしたときに対応するべき基準となることなどが、企業処罰法制定の理由とされています。

 こうした「企業処罰法」は、世界の中でも長時間労働を改めることができず、過労死や過労自殺が深刻な問題となっている日本でも導入を検討するべきだと思います。とくに電通事件のような若い労働者の過労死・過労自殺という悲劇を繰り返さないために、どこであっても働く人が健康で働き続けられる職場風土に変えていくためにも、急いで議論すべきテーマだと思います。

 

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チョンテイル(全泰壹)記念館を初めて訪問して

 2019年11月15日(金曜日)、関空からソウル・金浦空港に到着しました。民弁(民主社会のための弁護士の集い)労働委員会と大阪労働者弁護団の定期交流会(翌16日)に参加するためです。民弁と大阪労弁の交流は1999年に始まり、日韓で毎年交互に開催して、今年で21回目になりました。私も最近約10年間、欠かさず参加するようになりました。ただ沖縄開催の昨年の交流会は手術後で体調を優先して、残念ながら不参加でした。今年は2年ぶりの参加です。

 15日、ソウルは気温はかなり低く、防寒着を用意したのが正解でした。自由参加の企画ですが、夕方、多くの労弁の皆さんと一緒にチョンテイル(全泰壹)記念館を訪問しました。仁寺洞の定宿ホテルに荷物を置いて、強くなった雨の中を15分程歩いてチョンゲチョン(清渓川)前の記念館に到着しました。チョンテイル記念館は、自治体として独特な労働行政を進める朴元淳・ソウル市長の下で建設された、「労働尊重都市ソウル」を象徴する施設です。2019年3月に完成したばかりで、「ソウル市労働権益センター」のほか、アルバ・ユニオンなど青年関連の団体も入る「労働ハブ」となっており、会議、集会、教育などを目的とする、労働関連複合施設という位置づけです。

過酷な状況にある青年のための記念館

 少し早く着いたので建物の入口前でウロウロしていると、民弁の若い弁護士の皆さんが待っておられたので挨拶をした後、一緒に労弁の皆さんが到着されるのを待ちました。記念館の入口には、チョンテイル(全泰壹)青年とチャングレの二人が肩を組んでいる看板がありました(写真)。

 チャングレは元々は劇画のようですが、韓国人気TVドラマ「ミセン(未生)」*(2014年)の主人公の青年です。このドラマは、囲碁のプロを目指していた若者が挫折してサラリーマンになって大変な苦労を重ねていく物語です。囲碁では相当な能力があるチャングレは学歴も資格もなにも持たず、非正規職として本採用(正規職)になるために周囲の同僚や上司・先輩と様々な葛藤をしていきます。
〔*ドラマ「未生」は日本でも2015年に放映され話題となりました。https://www.facebook.com/ミセン未生-1640809432828165/?ref=hl)

 「未生」は、韓国企業の厳しい競争主義の環境で働いている人々、とくに青年の状況を等身大で描いた珍しい劇画・ドラマです。舞台となる大企業職場は、成果が乏しい者、能力のない者を振り落としていきます。そこで余裕なく働く社員、若年者、非正規職、女性、低学歴者に対するいじめやパワハラ等の現実が描かれます。このチョンテイルとチャングレの看板が正面にあるのは、この記念館が、厳しい労働社会で苦悩する青年たちを対象にしていることを端的に示しているのだと思いました。

民主労組設立の先駆者=チョンテイル

 韓国の過酷な労働社会の中で、働く者のために真剣に活動する「民主労組(ミンジュノジョ)」を作るきっかけになったのが、まさにチョンテイル(全泰壹)青年でした。記念館には、チョンテイルが「民主労組」の先駆けとなる組織を作り、抗議の自殺をするまでの経過と、亡き息子に代わって労働者のために活動する母・イソソン(李小仙)さんの足跡と記念の文書や品物が陳列されていました。説明をしていただいたのは、チョンテイル財団のキム・テヨンさん*、日本語通訳は、民弁のチョン・ミンギョン弁護士でした。
〔*偶然ですが、キム・テヨンさんが民主労総の政策局長をされていた約10年前にシンポジウムでお会いしたことがありました。〕

極貧の少年時代
 20年もの長い軍事独裁政権が続いた韓国は、1960〜70年代に「漢江の奇跡」と呼ばれる経済成長を果しました。独裁政権から資金や需要を得た財閥大企業が中心でした。労働者の状況は悲惨でした。労働組合は、企業内外で自由な活動を厳しく禁止されたのです。チョンテイル(全泰壹)は、1948年、テグ(大邱)で生まれました。私と同い年です。お父さんの事業が失敗したために一家は釜山、ソウルと転居を重ねます。チョンテイル少年は極貧の家族を助けるため小学校を中退して新聞売りなどをして働き始めます。何とか小学校に戻れて中学に入学しますが、再び働くために中退します。そして、色々な仕事を経験して、1965年、ソウルの平和市場(東大門)にある屋根裏の縫製工場で働き始めました。

平和市場の過酷な縫製工場
 縫製は、お父さんの仕事だったので、チョンテイル(全泰壹)は、幼いときに見慣れていたこともあって早く仕事を覚えてすぐにテーラー(裁断師)になりました。その職場には、高さ1m半しかない作業場で朝8時から夜23時まで1日15〜16時間も働く女性たちがいました。妹のように幼い女性労働者たちを助けようとチョンテイル青年は悩みます。そして、勤労基準法の存在を知り、勉強を始めました。当時は、パクチョンヒ(朴正煕)大統領の独裁政権の時代でした。勤労基準法は、大部分が漢字で書かれていたので、まともに学校に通えない貧しい労働者のほとんどは条文を読むことさえできませんでした。
 チョンテイル青年は、パボフェ(바보회=直訳は「バカの会」*)という集まりを作りました。そこで勤労基準法の勉強会を始めました。労働者たちの働かされ方は、勤労基準法とは大きく異なっていることを知ることになりました。

〔*注 「バカの会」というのは、ゞ佻基準法について全く知識がなかった、∋藩兌圓坊われることが明らかなのに労働条件の改善を求めるからという2つの意味がある、という説明でした〕

勤労基準法違反を告発する闘い
 チョンテイル(全泰壹)青年が非凡であったのは、労働者を対象にアンケート調査を実行したことです。労働者の実態を明らかにして、勤労基準法違反を告発するためです。しかし、それが理由で企業主に嫌われ、1969年に解雇されてブラックリストに載ったため縫製の仕事ができなくなってしまいました。数年間、建設現場などで働きますが、平和市場に戻って今度は「三同親睦会」を組織します。再び屋根裏工場での労働実態の調査を実施し、以前より多くのアンケートを集めて労働庁(日本の労基署に当たる国の行政機関)に労働環境改善の陳情闘争を行ないました。
 しかし、国(労働行政)は何の改善もしませんでした。そこで、1970年11月13日、勤労基準法は形骸にすぎないとして、その「火刑式」*を行おうとしました。しかし、その集会とデモも警察によって封じられました。そこでチョンテイルは、「勤労基準法を守れ」「私たちは機械ではない」と叫んで自らの身に火をつけ「焼身抵抗」を行なったのです。病院に運ばれましたが、14日未明に死去しました。享年23歳(満22歳)の短い生涯でした。
〔*「火刑式」というのは形骸に過ぎない勤労基準法の本を燃やすこと)

先駆者=チョンテイル精神を受け継ぐ韓国労働運動

 チョンテイル(全泰壹)の死から17年も経過した1987年民主化運動まで、独裁政権が続きました。国や企業に対抗する「民主労組(ミンジュノジョ)」結成は、独裁政権時代から現在まで、韓国労働運動の最大の目標となっています。チョンテイルの活動は、独裁政権初期に「民主労組」作りを目指すきわめて先駆的なもので、韓国労働運動の出発点となったのです。
 チョンテイルの母であるイソソンさんは、亡くなった息子の代わりとなって各地の労働者の闘いを励まし続けました。そのため、韓国政府(警察、裁判所)からも厳しく抑圧され、数多くの逮捕と拘束、獄中生活を繰り返しました。そのため、イソソンさんは「労働者のお母さん(オモニ)」と呼ばれ、息子と並んで韓国労働運動の象徴的な存在となったのです。

 韓国では、チョンテイルの亡くなった日を記念して、毎年、11月13日に全国から労働者大会がソウルで開催されます。私も、この時期に訪韓して、チョンテイルと母イソソンさんの墓地がある南楊州市のモラン(牡丹)公園での追慕祭に何度か参加しました。民主労総や韓国労総だけでなく、保守政治家を含めて各界からも参加があります。

 文在寅大統領も、今年の11月13日、次のようなTweetを発信しています(訳文責:脇田滋)。
https://twitter.com/moonriver365


 チョン・テイル烈士を考えます。
 平和市場、劣悪な屋根裏部屋の作業室での労働と幼い女工のお腹を満たしたタイ焼きを考えます。勤労基準法と労働者の権利、人間らしく生きるのが何かを考えた美しい青年を考えます。彼の叫びで国民は初めて労働の価値について考えることになりました。
 大韓民国の今日は、無数の汗の雫が集まった結果です。戦場に捧げた命と田畑を作った皺だらけになった手、工場の残業と徹夜が積もって、私たちはこれほど良い暮らすをすることになりました、誰一人例外なしに尊敬を受けなければなりません。
 烈士の意志は「共に良く暮らす国」だったと信じます。烈士が散華して49年、まだ私たちが抜群の大きな成長をしたほどに差別と格差を減らすことができずにいて残念です。労働が尊重される社会、皆が公正な社会への烈士の意志を継承します。


 このように韓国では、現在もチョンテイル青年と、イソソン・オモニが敬愛され続け、手厚い追慕が続いているのです。

 私から見て、チョンテイル精神を最も強く継承しているのは「民主労総」だと思います。その今年の最優先課題は「労働組合をする権利」*の実現です。韓国の労働運動は、企業や政府から真に独立した労働組合(=民主労組)を作り、活動する権利を第一の目標に挙げているのです。
〔*日本では「団結権」に当たる表現ですが、韓国語では、”노조할 권리(ノジョハルクォルリ)”、直訳すれば「労働組合をする権利」です。〕

 韓国では、労組組織率が11%しかなく、労働組合活動の結果である労働協約の適用を受ける率が欧州諸国と比較して余りにも低いことが常に反省的に指摘されています。とくに、非正規職や中小零細業では組織率はゼロに近いことが弱点とされ、民主労総は企業別・正社員組織でなく、産業や地域で最も弱い立場の労働者を含めて全体労働者を代表する組織を目指しています。この3年間に50%近くも組合員を増やして70万人から100万人を超えた民主労総は、それで満足せず、一層の組織拡大を目指しています。さらに、労働団体からの推薦を受けて3選し、この11月に任期9年目に入った朴元淳(パクウォンスン)ソウル市長は「ユニオン・シティ」ソウルを目指しています。

 韓国の労働社会は決して良い状況にあるとは言えません。過労死、パワハラ、正規・非正規差別、男女格差、低賃金、不十分な社会福祉・社会保障など、日本とも酷似した状況があります。しかし、企業別組織に安住することなく、産別組織や非正規撤廃など、全体の底上げを図ろうとしています。「初心忘れず」(韓国語では、처음처럼=初めのように)という言葉が、韓国民主運動でよく聞く標語です。まさに、チョンテイル精神を堅持し続けていること、そこに韓国労働運動の原点があり、未来があるのだと思います。韓国の労働運動に関心のある人は、一度はチョンテイル記念館を訪問されることを勧めます。

 ただ、記念館を初めて訪問して大きな感動を覚える一方、私個人は、「日本では、チョンテイル精神に相当するものがあるのだろうか」と、日本の労働運動について考え込むことになりました。

 

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話題の「桜を見る会」をめぐる国会質問を見て(2)

 「不都合な真実」を明らかにした「フリーター漂流」

 派遣切りをめぐる問題が大きく取り上げられるようになった、きっかけの一つは、2005年2月6日、NHKが放映した「フリーター漂流」というドキュメンタリー番組でした。当時、「フリーター」という言葉は、正社員としてきちんと就職せず、派遣社員や契約社員(有期雇用)で、好きなときに自由に働く若者の新たな傾向として一種の「非難」のニュアンスを含んで使われていました。
しかし、NHKの「フリーター漂流」は、フリーター像を根底から覆す衝撃的映像を放映しました。若い男性労働者が、所属する協力会社(事業場内下請)から派遣されて、製造大企業や系列の下請企業の工場現場で働き、経営側の都合に応じて、きわめて短期間に移動(漂流)する不安定で低劣労働条件で働く姿が描かれたのです。

 NHKの「フリーター漂流」は、現場を重視した丁寧な取材による報道番組として大きな影響を与えました。(松宮健一『フリーター漂流』(旬報社、2006年1月)http://www.junposha.com/book/b316642.htmlその後、民放でも、不安定で劣悪な労働現場を取材に基づいて報道する番組が続きました。(私自身も取材を受けた、関西テレビの徳島・光洋シーリングの偽装請負事件を取り上げた報道は特筆すべきものでした。この事件については、伊藤大一『非正規雇用と労働運動−若年労働者の主体と抵抗』(法律文化社、2013年)参照。)これらの報道を通じて、莫大な利益を上げながら、それを支える労働者を不安定で低劣な条件で働かせていることが社会的に大きな問題となりました。

 私は1996年からインターネットで「派遣労働者の悩み110番相談」活動を開始していました。動機は、悩み相談を通じて派遣労働者の実態を把握したいという思いでした。政府・財界は、1985年に制定した労働者派遣法を、対象業務拡大の規制緩和の方向で、1996年、1999年、2003年と連続的に法改正しました。日本経団連など経済団体は、規制緩和の筆頭項目として派遣法改正を求めました。それに呼応して政府・労働省(後に、厚労省)は、法改正に都合の悪い派遣労働者の実情や問題点を調査や統計を通じて明らかにしようとはしなかったのです。

 「フリーター漂流」は、マスコミが映像で、政府・財界にとって知られたくない「不都合な真実」を明らかにしたのです。NHK番組の発信力は、個人のホームページとは桁が違っていました。規制緩和によって派遣労働が解禁されたはずなのに、世界的な製造大企業の現場に「偽装請負」による労働力利用が広がっていたのです。偽装請負は、明らかに違法です。とくに、当時の派遣法によれば、派遣先は同一業務について派遣社員の受け入れが1年に限られ、それを超えると直接雇用する義務を負うことになっていました。また、安全衛生などの法的義務・責任を負担しなければなりません。そうした派遣法に基づく法的責任を負うのを避けるために、偽装請負形式を利用し続けていたのです。2005年放映の「フリーター漂流」以降、「偽装請負」が大きな社会問題になったことを背景に、それまできわめて消極的であった厚労省(労働行政)も監督や取り締まりに動かざるを得なくなりました。

 「不都合な真実」隠しにどう対抗するか

 その後、「派遣切り」によって「ワーキング・プア」が大量に存在することが可視化されました。労働法における規制緩和の弊害解消がようやく社会的課題となったのです。これが2009年の「政権交替」につながったのです。ところが、連立政権は、2009年総選挙前に合意した労働者派遣法についての改正案(=野党3党合意案)を実現する公約を実現できませんでした。やっとのことで政権末期の2012年に、微温的内容の「派遣法改正」と、労働契約法改正による「有期雇用規制」導入を実現しました。

 しかし、2012年末に成立した第2次安倍内閣は、折角の改善内容を「ちゃぶ台返し」するように、規制緩和路線に逆戻りさせました。今回は、経営者団体だけでなく、人材ビジネス界の要望まで露骨に受けいれました。その結果、強行可決された2015年改正派遣法は、派遣先の雇用責任回避をより可能にするとともに、不安定で差別的待遇の派遣労働を長期に受け入れることを容認するものでした。派遣労働者は正社員化の道をほぼ閉ざされ、「生涯派遣」を強いられることになってしまいました。

 安倍政権の7年間、私が一番問題だと思っているのは、派遣労働者の実態がきわめて分かりにくくされたことです。NHKをはじめ派遣労働者の実態や悩みを取材・調査して報道する番組はほとんど見られません。NHKに加える政権の露骨な圧力を感じます。民放は派遣・非正規を濫用する企業からの広告収入に依存しています。放送会社自身が間接雇用を多数導入しているのです。

 現時点では、「フリーター漂流」のような番組制作をマスコミに期待することは無理かもしれません。代わりになるのは主体的な姿勢をもつ労働組合や労働関連市民団体だと思います。どのような活動をしていけば良いのか?その点では、田村議員による国会質問の手法は、私たちにも貴重なヒントを与えています。今後は、取材や調査を経て「不都合な真実」を明らかにしながら議論を展開していくことが重要です。官庁統計に安易に依存する訳にはいきません。弱い立場で働く人々の実態や悩みを一つずつ集め、それらを整理することが基本的作業となります。それを基に、多くの人の参加を得て開かれた議論をし、問題解決の方向をインターネットなどを通じて広く提示していくことが必要です。Asu-netでも、今後の活動について議論を強める必要があると思います。

【関連記事】
話題の「桜を見る会」をめぐる国会質問を見て(1)

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話題の「桜を見る会」をめぐる国会質問を見て(1)

 「桜を見る会」をめぐる国会質問

 退職して自宅にいることが増え、テレビを見る機会が増えました。そして、11月8日、NHKの国会中継を見ました。参議院予算委員会で共産党の田村智子議員の質問です。

 その田村議員の質問を、30分間、引き込まれるように見入りました。安倍総理の「桜を見る会」をめぐって、徹底した取材と調査を基にして事実を次々に積み重ねて、総理自身や内閣官房官僚の逃げの答弁に、これでもかこれでもかと次々に鋭い質問をぶつけていく田村議員。論理的な追及にたじたじとなる安倍総理。30分があっという間でした。ドラマのような迫力でした。他党議員も質問の終わりと同時に拍手をしていましたが、私もテレビに向かって思わず拍手しました。田村議員の質問には、きっと時間をかけて多くの人が有無を言わせぬだけの事実を調べ上げたone teamの努力があるのだと思いました。

 田村質問について、Youtubeでは10万回以上再生されていますhttps://www.youtube.com/watch?v=FqG_eybQ_ZE。また、全文文字起こしをしたサイトも現れていますhttps://naomikubota.tokyo/blog/cherry_bribe?fbclid=IwAR0S8WKW6NX-yea2N5sT-cF4wpIGIe_kDjxmI9gA1tHi_LzL_QqF7ogyZ4w。そして、野党と共産党が取り上げるなかで「桜を見る会」が大きな政治問題に浮上してきました。当初、ほとんど報道しなかったマスコミも変わりました。本日(12日)朝、テレビ(民放)のほとんどのチャンネルが「桜を見る会」を取り上げて詳しく報道するようになり、NHKもニュースで取り上げました。

 ただ、私が思ったのは、田村議員が取り上げた事実は、本来、マスコミが先に報道していてもおかしくないことです。国会で取り上げられてから報道するという、マスコミの後追い姿勢に釈然としないものを感じています。もちろん、後からでも取り上げないよりは良いと思います。しかし、政府・与党の不都合な真実を取り上げるのが、権力チェックを使命とする報道機関の役割ではないのか?「後援会850人のご招待」といった「桜を見る会の私物化」についてはSNSをはじめ多くの取り上げるべき材料があったはずなのに、どうして新聞、テレビなどのマスコミが取り上げなかったのか、マスコミ関係者の感覚が鈍ってきているのか、田村質問を聞きながら思いました。

 請負・派遣を利用した製造大企業

 田村智子さんとは、2011年6月、お会いして名刺を交換した記憶がありました。横浜で開かれた派遣労働者の闘いをめぐる集会で私が講演したときです。田村さんは、当時、既に参議院議員(厚生労働委員)として活躍されていて、この集会には来賓として参加されました。集会は、日産、いすずをはじめ神奈川の製造大企業で働く派遣労働者や非正規雇用労働者の雇用と権利の確保をテーマとするものでした。

 労働組合も多くが企業別正社員組織です。派遣先となる大企業では、労使協調的な労組が多く、その姿勢から派遣労働問題には消極的でした。大企業労組のほとんどが、使用者が異なる別会社(派遣会社)に所属する派遣労働者を労組に加入させることなく、その要求をほとんど取り上げません。その結果、派遣労働者の不満や要求が労組を通しても明らかになりませんでした。

 2011年6月の横浜集会は、2008年〜2009年に吹き荒れた「派遣切り」の嵐によって、製造大企業が請負や派遣を打ち切って、ベルトコンベア職場などに受け入れた派遣労働者を職場から排除したのです。自動車製造によって莫大な利益を上げていた企業が、「不況」を口実に、製造過程の現場で働いてきた労働者をボロ切れのように切り捨てたのです。大企業にとっては請負労働者や派遣労働者は直接の雇用関係がある社員ではなく、形式上は請負や派遣の契約を打ち切るだけであり、「解雇には当たらない」と主張しました。

 しかし、請負会社や派遣会社は、雇用主としての実体をもっておらず、当事者能力の乏しい「形骸的な存在」、つまり「名ばかり雇用主」に過ぎません。大企業が、請負や派遣を打ち切ってきたら抵抗することなく、当然のように労働者との雇用を打ち切ります。大企業にとっては、請負や派遣という「間接雇用」を利用すれば、「事実上の解雇」を、労組の抵抗も受けずに「痛みなく」行うことができるのです。まさに「毒の缶詰」といえる派遣労働(=間接雇用)の蓋が開いて、その猛毒が最も弱い立場の派遣労働者に振りかかったのです。
(続く) 

第28回 話題の「桜を見る会」をめぐる国会質問を見て(2)http://hatarakikata.net/modules/wakita/details.php?bid=31

 

 

 

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「雇用によらない働き方」についての考察(下)

(前回まで)
第25回 「雇用によらない働き方」についての考察(上)
1 働き方ASU-NET第30回つどい この"働き方" おかしくない!?
2 古くて新たな「労働者性」の問題
3 「雇用によらない働かせ方」拡大

第26回 「雇用によらない働き方」についての考察(中)
4 韓国の新たな動き
(1)特殊雇用の広がりと労働研究院の推計(2019年3月)
(2)国家人権委員会の勧告
(3)シェア・タクシーをめぐる最近の動き
(4)労働法的に見た「TADA」の問題点

(第27回の目次)
5 欧米の動き
(1)プラットフォーム労働に対する欧米の動向
(2)カリフォルニア州法(AB5法)制定
6 ILOと「雇用によらない働き方」
(1)2006年勧告
(2)労働統計会議

 5 欧米の動き

 (1)プラットフォーム労働に対する欧米の動向

 欧米諸国では、ディジタル・プラットフォームによる新たな働き方が、日本や韓国より先んじて急速に広がっています。その中で、各国の研究者、市民団体、労働組合、そして政府や自治体の機関などが、その弊害や問題点を調査し、さらに対抗する措置や法規制の検討が進んできています。
これらの検討や議論から明らかになってきたプラットフォームを通じた働かせ方は、一般的に、次のような特徴があることです。
‘かせる「使用者」が「プラットフォーム運営主体」であるのか、サービスを利用した「顧客」なのかが暖昧にされていること、
不特定多数の労務提供者は、働き方や労働条件について共通した悩みや問題点を含めて、相互の意思疎通や連絡・連携などがきわめて困難であること、
3催業務を遂行する労働者が、「個人請負業者」とされ、自己責任を負わされる「自営業者」と位置づけられていること、
は働法などで保護される「労働者」と認められず、法的に保障された権利がないこと
ゴ慙△垢訛燭の情報がプラットフォーム運営者に独占され、働く人は自由や独立した働き方という宣伝とは逆に、実際には、個々に孤立して過酷な労働と余裕のない生活に追いやられる実態があること
こうした多くの問題点が長い期間を経てようやく明らかになる中で、プラットフォーム労働者自身が立ちあがり、団結が広がることになりました。そして、団体交渉やストライキを含めた労働組合の闘いが始まり、自治体や国に対策や法的規制を求める運動が広がることになったのです。

 2017年、イギリスのオックスフオード大学インターネット研究所が、アマゾンの翻訳業務などを対象に世界に広がるプラットフォーム労働(同報告書は「ギグ労働(gig work)」と呼んでいます)を、3年間にわたって調査し、その結果を報告書にまとめています。〔注14〕
〔注14〕 https://www.oii.ox.ac.uk/wp-content/uploads/ 2017/03/gigwork.pdf

それによれば、「オンラインの仕事には、多大な利益(rewards)がある一方で、重大なリスクもある。差別、低い賃金、働き過ぎ、不安定さは全て真正面から取り組まねばならない」。とくに、問題点として、]働提供者が、社会的・労働法的保護システムから排除されていること、∀働提供者が不特定多数のため「供給過剰(oversupply)」となるため、対価(報酬)が安く買いたたかれ易いこと。アジア、アフリカなどの出身国による差別が見られることなどが明らかにされています。〔注15〕
〔注15〕 https://wiredjp/2017/04/04/gig-economyjobsbenefits-dangers/

 また、アメリカや欧州諸国で、ウーバー(Uber)社をプラットフォームとし、個人が所有した自動車による「タクシー事業」が広がってきました。このウーバーなどを通じて働く運転手が、法的な保護の対象となる労働者か否か(=労働者性)をめぐる争いが各国で提起されるようになり、裁判所や行政当局によって、その労働者性を肯定する判断が出されるようになってきました。(〔表2〕)

 〔表〕プラットフォーム労働をめぐる主な法的争訟・立法一労働法適用問題

 (出所)脇田滋「『雇用関係によらない働き方』をどうすべきか−安倍政権のねらいとあるべき方向」月刊全労連254号(2018年04月)14頁

 イギリスでは、ウーバー社がロンドン市の交通局から営業許可を得て民間タクシーの3分の1を占め、運転手が4万人にまで増えていましたが、運転手らの裁判やストライキ、デモなどが相次ぐようになりました。そして、2016年10月、ロンドンの雇用審判所が、ウーバー社の運転手を「労働者」と認め、最低賃金適用や有給休暇の権利を認める判決を下しました。同判決では、ウーバー社からの「単なるアプリの提供者」という主張を退け、配車サービス提供で中心的役割をしている使用者と認め、運転手・乗客間の「契約」や、運転手を「顧客」とする表現に疑問を示し、労働時間の範囲も運転手側の主張を認めて広く解する判断を示しています。〔注16〕
〔注16〕 JIL-HP「国別トピック英国2016年11月」 https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2016/11/uk_02.html

 そして、その控訴審も2017年11月、原審判決を支持しました。他方、ロンドンの交通局は、ウーバー社の営業許可を2017年9月末で更新しない決定を下しています。〔注17〕
〔注17〕 2017年ll月4日_朝日新聞デジタル(特派員リ ポート@ロンドン)ウーバー問題が投げかける働 き方改革
また、欧州連合(EU)司法裁判所は、2017年12月20日、米ウーバー・テクノロジーズについて、客と運転手を仲介しているだけという同社の主張を退け、ウーバーが「仲介サービス以上のものを提供している」として、運転手の管理など厳しい規制を受けているタクシー業者と同じ厳格な規制を適用すべきだという判決を下しました。〔注18〕
〔注18〕 朝日新聞2017年12月22日
アメリカでも、ウーバー社とタクシー運転手や、物流サービス大手のフェデックス社とトラック運転手の間の契約関係が雇用関係か、請負関係をめぐって訴訟を含む争いがされています。そして、カリフオルニア州の労働委員会は、2015年6月3日、タクシー運転手とウーバー社との間に雇用関係があったとする判断を下し、ウーバー社に、運転手が負担した2ヵ月分の走行距離に応じた経費と高速道路通行料、4152ドルの支払いを命じました。2015年6月、フェデックス社が、同様な状況でカリフォルニア州のトラック運転手2300人を雇用労働者と認定して、2億2800万ドルの和解金を支払っています。〔注19〕
〔注19〕 JIL海外労働事情2015年8月 https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2015/08/usa_01.html
また、ニューヨーク州労働省の行政審判官(Anadministrativelaw judge)は、2017年6月9日、ウーバー社側による労働提供者が「請負労働者」であるという主張を退け、元運転手3人に失業保険の受給資格を認める判定を下しました。〔注20〕
〔注20〕 JIL「国別トピック2017年8月」 https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2017/08/usa_01.html
こうした動きの中で、アメリカでは連邦議会でも、労働省労働統計局(BLS)の労働調査などを受けて、「独立請負労働者(Independent Contractor)」を保護するためのギグ(GIG法)立案に向けた議論が盛んになっているということです。〔注21〕
〔注21〕 「国別トピック2018年8月」 https://www.jil.go.jp/foreign/jihou/2018/08/usa_02.html

 ここ数年間、アメリカでは多くの州で同様な問題で訴訟や立法の動きが見られます。ニューヨークでは、ウーバーなどの登場で交通渋滞は増えるととも、タクシー運転手が生活苦に陥って8人のタクシー運転手が自殺をするなど悲惨なニュースが流れました。そして、自動車共有事業を行うプラットフォームの「規制のない成長」に反対する運動が盛り上がり、タクシー運転手たちは、1万4000台余りに制限されたイエローキャブに比べて、ウーバーとリフト(Lyft)などの車両が8万台を超えタクシー業界は枯死する直前だと訴えたのです。そして、2018年年8月、ニューヨーク市はウーバーとリフトなどに対する新規免許発行を1年間中断すると発表しました。ただ、これに対して、ウーバーなどが、新規免許発行停止をめぐって、ウーバーがニューヨーク市を相手に明確な証拠なしに営業を妨害しえちるとして訴訟を提起しています。〔注22〕
〔注22〕 MoneyToday2019年2月25日 [MTリポート]「ウーバー→カープール→タダ」タクシーはなぜ反対するのか http://m.news.zum.com/articles/50794659(原文は韓国語)

 他方、フランスでは、2016年8月、労働・社会的対話の現代化、職業の安定化に関する法律(Loi relative au travail. a la modernisation du dialogue social et a la securisation des parcours professionnels)が改正され、デジタル・プラットホームを利用する労務提供者などの権利を定める規定を追加して、かれらに労働3権を付与したということです。つまり、改正法は、労務提供者を自営業者とするが、その職業活動遂行のために一つ以上のプラットフォームを利用するときに、そのプラットフォームに社会的責任があることを規定したということです。主な内容は、 箆災保障)自営業者が任意で労災保険加入するとき、一定範囲でプラットフォームが保険料を負担する。◆平Χ閥軌蕁墨働法典が保障する自営業者の職業教育も、自営業者が通常、自己負担する拠出金をプラットフオームが負担する。(団体結成・団体行動への対応)プラットフォーム労働者の労組結成権、スト権などの集団的権利を付与し、自営業者に、組合設立、組合加入、組合を通じて集団的に自らの利益を主張できることが明記され、自らの要求を実現のために労務提供を集団的拒否したとき、それが濫用的でない限り、自営業者に契約上の責任が発生せず、プラットフォームとの関係断絶や制裁措置が不当とされる、ということです〔注23〕
〔注23〕 笠木映理「Uber型労働と労働法改正」日本労働協会雑誌No.687(2017年10月)89-90頁

 (2)カリフォルニア州法(AB5法)制定

 こうした世界の流れの中で、注目されるのが、カリフォルニア州議会(上院)で、2019年9月、可決成立した「ギグ法(AB5法)」(カリフォルニア州議会法案5(2019)=正式名は、「労働法第3351項を改正し、第2750.3項を労働法に追加し、失業保険法第606.5号および621号を雇用、および歳出に関連して改正する法律」)です。2018年12月3日に州議会に上程され、下院で2019年9月11日、下院で2019年5月30日に53対11で可決、上院で9月10日、29対11で可決され、ギャビン・ニューサム知事が、同9月18日に署名して成立しました。来年(2020年1月)施行予定です。

 この法律は、レベッカ・スミス氏(NELP 全国雇用法プロジェクト)によれば、ウーバードライバーなど、ギグ労働者の労働者(employee)の権利を保護する「ランドマーク法」と評価される画期的な法律と指摘されています。〔注24〕
〔注24〕 NELP_ CALIFORNIA PASSES LANDMARK LAW PROTECTING EMPLOYEE RIGHTS OF UBER DRIVERS, GIG WORKERS, OTHERS (2019年9月11日) https://www.nelp.org/news-releases/california-passes-landmark-law-protecting-employee-rights-of-uberdrivers-gig-workers-many-others/

 その指摘によれば、AB5法は、明確で公正な「ABCテスト」を提示し、労働者を独立した請負業者として扱おうとする企業は、労働提供者が次の三つのテストにパスすることが必要とされます。
 (A)労働提供者が、企業による支配や指揮命令から自由であること(free from control and direction by the hiring company)
(B)労働提供者が、企業の通常の業務過程とは別に仕事を完成すること(perform work outside the usual course of business of the hiring entity)
(C)労働提供者が、取引、職業または業務において独立していること(independently established in that trade, occupation, or business)

この三つのテストをパスすることができなければ、会社が、契約を形式的に請負として、労働提供者を独立事業者(indipendent contractor)としても、労働者(employee)とみなされ、企業が労働者について課せられた責任(納税、労働法・社会保障法に基づく責任)を負う必要があることになります。要するに、労働法などの適用を受ける「労働者性」については労働側に立証責任が課せられているのを、逆に使用者に立証責任を負わせることにしたのです(立証責任の転換)。

 この「ギグ法(AB5法)」の対象は、管理人、ネイルサロン労働者、建設労働者、造園業者、乳母、在宅介護労働者、乗用車とトラックの運転手、配達労働者など、相当に広範囲の多くの職種に及ぶことになります。

 レベッカ・スミス氏によれば、
「カリフォルニア州でのAB5の通過は、その州および全国の労働者と責任ある企業にとって大きな勝利です。カリフォルニア州は、他州が労働提供者が必要とするに値する従業員としての権利と福利厚生から切り離されないようにする道を開きました。」「私たちはAB5の通過を祝い、大企業に立ち向かった労働者、支持者、立法者を称えます。新しい法律と既存の法律の両方の施行で、賃金引上げ、労働者の補償、安全な職場、有給の病欠と有給休暇、および差別と嫌がらせに対する保護をすべての労働者が利用できるように協力しなければなりません。」
「重要なことは、すべての労働者が、会社側とより高い基準で団体交渉できるようにすることです。それを実現する革新的な新しい戦略への道は開かれたのです。次はニューヨーク州です。」

 カリフォルニア州法が定める「ABCテスト」は、同法が初めて導入したものではありません。
すでに、労働提供者の地位を判断するために、全国の裁判所や政府機関で広く使用されているものです。カリフォルニア州の最高裁裁判所が、「トラック輸送を営むダイナメックスオペレーションウェスト社が、個人請負労働者として活用していたトラック運転主が実質的には同社に雇用されている状態にあるかどうかを争う訴訟をきっかけとする」もので、この訴訟で、州最高裁が判断に用いたもんで、「ダイナメックス・テスト」とも呼ばれてるとのことです。〔注25〕
〔注25〕 山崎憲「アメリカ カリフォルニア州ギグ法が下院議会を通過―プラットフォームビジネスに雇用を求める」Business Labor Trend 2019.7 https://www.jil.go.jp/kokunai/blt/backnumber/2019/07/062-068.pdf

 現在、カリフォルニア州に加えて、マサチューセッツ州、ニュージャージー州、バーモント州の3つの州で、すべての賃金および時間に関する法律の雇用関係を決定するためにABCテストが使用されています。さらに9つの州が一部のセクター(通常は建設業)でテストを使用し、半数以上の州が失業保険法でテストを使用しています。

 とくに、この「ABCテスト」については、日本ではあまり議論されませんが、アメリカでは、税収や社会保障財源の確保という視点から重視されています。つまり、プラットフォーム関連事業だけでなく、事業主が、経費削減を目的として、労働者(employee)にすれば必要な負担が請負労働者とする誤分類(Misclassification)によって、負担回避が横行していることが以前から問題になってきました。つまり、国や自治体による税収や社会保障費用確保という要請から、企業による意図的な労働提供者の「誤分類」を防ぐ必要が議論されているのです。つまり、「カリフォルニア州に限らず、米国では本来は雇用労働者であるにもかかわらず、この傾向は、スマートフォンのアプリケーションで利用者と個人請負労働者をつなぎ合わせるプラットフォームビジネスの躍進により拡大の途上にある」ことが問題ということになります。つまり、「政府としては税収の低下を招くことになる。人件費に関連した税は人件費総額にかけられる。これは労働者一人ひとりにかけられる日本と異なる。事業主からすれば人件費総額を圧縮すればそれだけ税負担が減ることを意味する。加えて、誤分類によって請負とされた労働者は低収入であることが多いため、こうした労働者が、生活保護が必要になるといった場合に必要な経費を政府が負担しなければならないことになる」〔注26〕という指摘に注目する必要があると思います。
〔注26〕 山崎憲「アメリカ カリフォルニア州ギグ法が下院議会を通過」前掲論文。

 6 ILOと「雇用によらない働き方」

 (1)2006年勧告

 ILOは、通常の雇用に基づく労働関係とは異なる請負や委託による働き方が世界的に広がることについて問題だと考え、2006年のILO総会に向けて議論を行いました。そして、条約には至りませんでしたが、「雇用関係に関する勧告(198号)」を採択することになりました。この勧告は、現在の「雇用によらない働き方」問題を考える際に、必ずや踏まえるべき重要な視点を提示していると思います。以下、既に私自身が書いた論文に基づいて、ILO勧告の意義を要約的に述べたいと思います。〔注27〕
〔注27〕 脇田滋「個人請負労働者の保護をめぐる解釈・立法の課題_2006年ILO雇用関係勧告を手がかりに」龍谷法学43巻3号(2011年3月)1024頁以下〔https://bit.ly/2NhMart〕、脇田滋「『雇用関係によらない働き方』をどうすべきか −安倍政権のねらいとあるべき方向」月刊全労連254号(2018年4月)11頁以下〔http://www.zenroren.gr.jp/jp/koukoku/2018/data/254_02.pdf

 そこでは、雇用関係を特徴づける典型的な要素がはっきりしない「暖昧な雇用関係(ambiguous employment relationship)」にある人々に対する保護が必要となっていること、そういう保護は労働における基本的な原則と権利に関するILO宣言(the ILO Declaration on Fundamental Principles and Rights at Work 、1998) に明示された原則に基づかなければならないとしています。

 この2006年勧告は、エッセイ(上)で指摘した、末弘厳太郎博士の考え方とも共通する、「広い労働者概念」を再確認している点が特徴です。同勧告は前文で、次の6点を指摘しています。)[疆による労働者保護の必要性、◆峙響雇用(disguise the employment relationship)」慣行の問題性(権利・義務が不分明、雇用関係偽装の試み、法解釈・適用上の限界と雇用関係存在確認の困難、労働者が当然受けるべき保護剥奪)、「偽装雇用」に対する加盟国の責務(特にぜい弱労働者への有効かつ効果的保護)、だ労使協議による政策の必要性、ハ働者の国際移動と保護の必要性、μ簑蠅亮匆饒澗里悗旅がり、です。

 勧告は、「機仝柩儡愀犬砲△誅働者を保護するための国内政策」、「供仝柩儡愀犬梁減澆侶萃蝓廖◆岫掘ヾ道覽擇喙損棔廚了鮎呂嚢柔され、気鉢兇任蓮各国の事情に適合して、労働者である者と労働者でない者を区分する基準を法律で定めることなどを求めています。その要点は、ー営業者と労働者を区分する指針の提示、偽装雇用の克服と労働者保護、B真当事者契約(間接雇用)において保護責任者を確認する基準の確保、づ切、迅速、簡易、公正、有効な救済制度、ナ響莢魴莎ヾ悄丙枷十蝓∀働監督機関など)関係者への国際労働基準教育実施です。
私は、この雇用関係勧告は、個人請負形式による使用者の法的責任回避に対抗するために、労働法上の保護を受ける労働者の範囲を広げようとした、現在のプラットフォーム労働についても問題を考えるときに重要な意味をもっていると考えています。

 具体的には、次の三つの原則を提示した点に大きな意義があります。

 (1)事実優先の原則(primacy of the facts)

 雇用関係が存在するか否かについての決定は、合意された契約の名称や形式にかかわらず、ゞ般海凌觜圓函↓∀働者の報酬に関する事実(the facts)を第一義的に(primarily)判断することを求めていることです。つまり、雇用関係の存在は、当事者の合意によって関連法令の適用を排除できないという点で、労働・社会法の強行法規性を確認するものであり、同勧告の中で最も核心的な内容です。

 (2)雇用関係存在判定の指標(criteria foridentifying an employment relationship)

 勧告13項は、「加盟国は、雇用関係が存在することについての明確な指標を国内法令又は他の方法によって定義する可能性を考慮すべきである」とし、その指標として、下記の〔表〕の事実が含まれ得る、としています。


表  ILO雇用関係勧告が示す指標
(a)
他人の指示と統制により労働が行われること、
労働者が企業組織に統合されていること、
専らまたは主に、他人の利益のために労働が行われること、
労働者自身によって(personally)労働が行われること、
契約の相手方が求めた、特定の労働時間または特定の場所で労働が行われること、
特定の期間また一定の期間、継続して労働が行われること、
А柄蠎衒が)労働者に待機(worker's availability)を求めること、
労働を求める相手方が、道具、材料、機械を提供すること、
(b)
労働者に対する報酬が定期的に支給されていること、
この報酬が労働者の唯一の、あるいは主な収入の源泉となっていること、
食事代、住居、交通手段、あるいはそれらのための費用を支払うこと、
週休や年休などの権利が保障されること、
労働を求める相手方が交通費を支払うこと、
労務提供者が財政的危険(financial risk)を負担しないこと


 (3)「法的推定(legal presumption)」と「みなし(deeming)」

 勧告11項は、一定の労働者性についての指標に該当する場合には、一般的に「法的推定」を与えること、一般的又は特定の部門の特定の労働者については、「みなし」制度も導入できるとしています。

 日本政府は、この2006年勧告の採択には賛成しました。しかし、その後13年間、この勧告を踏まえた立法措置はもちろん、従来の行政解釈の見直しも行っていません。現在の「雇用関係によらない働き方」論議では、まず第一にこの2006年勧告の意義を再確認し、それに基づく労働者性判定や積極的労働者保護について具体的検討を行うことが必要です。

 (2)労働統計会議

 最後に、Iきわめて重要なLOの動きがあることを指摘したいと思います。
それは、ジュネーブのILO本部で2018年10月10日から開かれていた第20回国際労働統計家会議です。同会議は、ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)及び労働に関する統計の拡大と大幅な改定に合意していることです。〔注28〕
〔注28〕 第20回国際労働統計家会議閉幕:統計に表れていない新しい労働形態を測定する基準を設定 記者発表 2018/10/19 https://www.ilo.org/tokyo/information/pr/WCMS_647806/lang--ja/index.htm

 とくに、重要だと思うの次の点です。

 〔プラットフォーム等による新たな形態を考慮にいれた分類〕
「主として労働事項担当省と統計局を代表する政府側専門家、労使団体専門家、国際・地域機関の代表約360人が世界中から参加した会議で採択された労働関係統計に関する新たな決議は、単一の使用者との間で結ばれる伝統的な雇用関係の下にある従属労働と自営業の境が曖昧になってきたこと、より個別的な労働形態、そしてオンライン・プラットフォームを介しての労働や要求に応じてその都度提供される労働、クラウドワーク、臨時雇用、派遣労働などのような新しい就労形態を考慮に入れた新たな職分類を示すものとなっています。」

 〔ボランティアや無償家事労働など、非公式(インフォーマル)性の検討〕
「会議ではまた、非公式(インフォーマル)性の問題や関連する政策に助言を提供するより良い方法についても詳しい検討が行われました。家事労働の役割と家事労働者を新しい労働関係分類の中にどのように含むかについての検討も行われました。」
「新しい定義では初めて労働を、賃金または利潤のために行う就労という狭い概念を越えて自家消費のための生産や無償労働、ボランティア労働を含むものと定めていますが、発表されたツールは各国がこの新しい概念を労働力調査に用いるのを手助けすることによって、より良い情報を得た上で政策決定に至る基盤になることが期待されます。会議では無償労働に経済価値を付与する問題や、例えば、地域社会の奉仕員・ケア労働者などのボランティアや無償の家事労働を行っている女性など、これまで統計に表れてこなかった労働者を可視化する方法についても掘り下げた議論が行われました。」

 この動きについて、厚生労働省の官野千尋さんの短い論考があります。

 それによれば、ILOは、従来の「従業上の地位の国際分類(ICSE-93)」がおおまかであったものを、より詳細な分類に分けて統計調査することを提案しています。〔注29〕
〔注29〕 官野千尋「第20回ILO国際労働統計家会議の概要」厚生の指標第66巻第4号(2019.04)p.48-50

 〔表〕従来の「従業上の地位の国際分類(ICSE-93)」

 〔表〕新たな「ICSE-18」による分類

 まだ、研究者や労働運動内での検討はほとんど見られません。このエッセイ(中)で指摘した、韓国労働研究院の調査は、こうしたILOの労働統計の変化を意識して「特殊雇用」労働者を把握しようとするものです。日本でも、こうした動きに対応した研究や議論が必要だと思います。

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第26回 「雇用によらない働き方」についての考察(中)
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第27回 「雇用によらない働き方」についての考察(下)
http://hatarakikata.net/modules/wakita/details.php?bid=29

韓国_非正規労働者87万人急増…「見えざる50万人」おもてに (11/3)
http://hatarakikata.net/modules/hotnews/details.php?bid=1463 (ハンギョレ新聞 2019/11/3(日) 10:52配信)

 

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「雇用によらない働き方」についての考察(中)

第25回 「雇用によらない働き方」についての考察(上)
1 働き方ASU-NET第30回つどい この"働き方" おかしくない!?
(1)問題の所在
(2)森岡孝二さんの的確な問題指摘
2 古くて新たな「労働者性」の問題
(1)末弘厳太郎博士の「労働法上の労働者」概念
(2)労働法の発展・拡充と使用者の責任回避策
(3)家内労働法制定を口実にした「労働者性」判断の後退
(4)シルバー人材センターによる高齢者就業
3 「雇用によらない働かせ方」拡大
(1)安倍政権の狙う「働き方の未来」=究極の使用者責任回避策推進
(2)ILO1996年「在宅形態の労働条約」(第177号)の批准回避
(3)年金削減で劣悪な「雇用によらない働き方」に追いやられる高齢者

 4 韓国の新たな動き

 (1)特殊雇用の広がりと労働研究院の推計(2019年3月)

 韓国では、「特殊雇用形態従事勤労者」など(以下、「特殊雇用」と略称)と呼ばれる「個人請負形式の労働者」が多様な職種で存在しています。

 サービス産業が拡大し、情報通信技術が発展してきたことなどを背景に、世界全体の動向と同様に、韓国でも1990年代前後から、教育、運送、販売などのサービス部門の職種に個人請負形式の就労が現れ始めました。そして、1997-98年の為替危機による不況のなかで、従来、常用雇用(正規職)として雇っていた従業員を人件費削減の目的で非正規職(有期雇用など)に変えるのと同方向で、労働・社会保険料負担を回避できる個人請負形式にする企業が増えました(トラック運転手、学習誌教師など)。

 最近ではスマート機器やデジタル・プラットホームを通じて、特定サービスの需要者と供給者を中継する代行業が「特殊雇用」形式を利用する例が増加するなど、次第に多様な業務に拡大する傾向が強まっています。こうした「特殊雇用」労働者の法的保護の動きが、2001年7月から政府内で始まり、多くの議論を経て産業災害保険(=日本の労災保険に当たる)が、2008年7月から、保険設計士、レミコン運転者、学習誌教師、ゴルフ場キャデイーに適用され、その後、宅配運転手、専属クィックサービス運転手(2012年5月)、金融貸出募集人、クレジットカード会員募集人、代理運転手に(2016年7月)に拡大適用されました。

 さらに、文在寅政権の下、産災適用が、以上の8職種に加えて4業種(レストラン、小売、却売・商品仲介、その他の個人請負)が追加され(2018年12月)、また、レミコン運転者だけであったものが、建設機械27職種(掘削機、ダンプトラック、タワークレーン、起重機等)の運転者に拡大されました。ただ、いずれも任意加入であるために、実際の産災保険適用者は10人中1.3人しかいないことが明らかになり、論議を呼んでいます。

 2014年の政府統計では特殊雇用職は229万人で、就業者全体の8.9%に達しているとされていましたが、一部の研究者は既に300万人を超えているとの推計もあり、正確な調査の必要が指摘されていました。そうした中で、今年(2019年)3月、韓国労働研究院が「特殊形態勤労(特殊雇用)従事者の規模推定のための基礎研究」という報告書を発表しました。〔注10〕
〔注10〕 毎日労働News2019年3月25日付[労働研究院初めて大規模サンプル調査]特殊雇用労働者最大221万人、新しい類型55万人賃金労働者と1人自営業者の間に幅広く位置」 http://m.worknworld.kctu.org/news/articleView.html?idxno=249266

 〔図1〕特殊形態勤労(特殊雇用)従事者の規模推定

 同報告書によれば、まず、就業者(2709万人)を賃金労働者(2027万人)と非賃金労働者(681万人)に区分しました。そして、賃金労働者の中で、4大保険(産災、雇用、年金、健康)に加入して最低賃金法を適用される労働者=「真性賃金労働者」を1849万人と推算しました。(以下、〔図1〕参照)

 さらに、非賃金労働者(681万人)は、「自営業者特徴」があるか否かの基準で判断して、「1人自営業者」と答えた人(402万人)の中で、さらに「真性1人自営業者」と「特殊雇用労働者」に分けています。その基準は、次のようなものです。
(1)賃貸または所有した店舗(作業場)があって、契約対象者が特定されていなかった場合、(2)報酬やサービスを自身が定める場合、(3)一切の業務指示がない場合、(4)出退勤時間制約がない場合
この中で一つでも該当すれば「真性1人自営業者」として、その数は248万人と算定しました。
これに対して、〔1〕店舗や作業場がない場合、〔2〕報酬やサービス価格を会社が一方的に定める場合、〔3〕業務指示を部分的にでも受ける場合、〔4〕出退勤時間が定められている場合のうち一つでも当てはまるときは、特殊雇用労働者とみなし、その数を91万3千人と推定しました。さらに、別のフィルタリングの末に推定した特殊雇用労働者を74万5千人と算定して、結論として「賃金労働者・非賃金労働者から抽出した特殊雇用労働者を合わせれば165万8千人の特殊雇用労働者規模と推定」したのです。

 注目できるのは、伝統的な特殊雇用従事者に分類するには無理があるけれど、真性1人自営業者でもないので、従属性が多少弱い、広い意味の特殊雇用従事者に分類できる「新しい類型55万人」を抽出したことです。「ここに翻訳家のような相対的に新しい職業群と従属性が弱い特殊雇用やプラットホーム労働を含めることができる」と説明されています。

 (2)国家人権委員会の勧告

 「特殊雇用」従事者は、個人事業者ですが、実際には他人のために直接労務を提供し、その見返りに得た収入で生活し、労務の提供相手と対等な交渉の地位にはありません。その点で一般的な労働者にきわめて近い働き方です。しかし、労働法や社会保障法の適用がなく、その保護が大きな問題となり、(1)で述べたように、産災保険については徐々に改善が進みました。

 そうした改善の一つのきっかけになったのは、2007年9月17日、国家人権委員会が、「特殊雇用」従事者に対して労働者と類似した水準の社会的保護が必要だと判断して、国会と政府に、個別的・集団的権利と、社会保障的保護のための法律を早く制定・改正するように勧告したことでした。しかし、産災保険の適用拡大を除けば、その後、12年間、「特殊雇用」従事者のための立法的努力はほとんど実を結びませんでした。

 むしろ、「特殊雇用」従事者が、多くの困難を乗り越えて労働組合を結成しても、行政官庁が、労働組合の設立を否認する事例が続きました(ゴルフ場キヤデイー労組の設立申告を取消(1989年)、全国保険募集人労組の設立申告を返還(2000年)、貨物車・レミコンなど運送車主加入の運輸労組、建設労組への規約是正命令(2009年)等、行政官庁が労組法上の労働者に該当しないという理由で、特殊雇用従事者の労組を否定する態度をとり続けたのです。

 これに対して、労組側がILO(国際労働機関)に提訴しました。そして、ILOは、韓国に対して、貨物車・レミコン運送車主のような自営労務提供者(self-employed workers)を含む、すべての労働者の自由な労働組合結成・加入の権利保障と、加入した労組に対する規約是正命令撤回を勧告しました(ILO結社の自由委員会第359次報告書(2011.3.)、第363次報告書(2012.3.))。また、国連の平和的集会および結社の自由特別報告官も「特殊雇用」従事者の結社の自由制限状況に憂慮を表明しました(大韓民国に対する平和的集会および結社の自由特別報告官報告書、2016.6.15.)。〔注11〕
〔注11〕 脇田滋「韓国における雇用安全網関連の法令・資料(7) - 特殊形態勤労従事者労働3権保障立法勧告」龍谷法学50巻3号(2018年)733頁以下 ( https://bit.ly/321eHXO )参照。

 そして、国家人権委員会は、文在寅政権が誕生した直後の2017年5月29日、「特殊雇用」従事者らの団結権など労働基本権保護をすることを求めて、政府と国会に対して、制度改善勧告と意見表明をしたのです。大統領選挙で文在寅候補は、「特殊雇用」従事者の労働基本権保障を公約に掲げていました。(1)で紹介した労働研究院の調査は、こうした「特殊雇用」従事者のための立法作業を進めるために前提となる調査であると理解されています。

 (3)シェア・タクシーをめぐる最近の動き

 韓国で現在、大きな問題になっているのはタクシー業界と、ウーバータクシーのような自動車共有のモビリティープラットホーム業界との対立です。タクシー業界労使は生存権にかかわると猛反対したため、2013年、韓国に進出したウーバーも、タクシー業界の反発とソウル市の規制のために、カカオも、タクシー業界労使からの強い反発を受け、社会的な批判も高まったので、「カープール」という事業を撤退させました。その結果、現在は、高級車サービスである「ウーバーブラック」やTADAなど、きわめて限定されたサービスに限られています。その中で、とくに、ソカ社の運営子会社であるVCVNの車両共有サービス「TADA(タダ、타다)」の事業は、地域はまだソウル市近辺に限られていますが、短期間に驚くほどの急成長を示していて注目されています。

 ソカ社によれば「TADAベーシック」は、2018年10月8日に開始して以後、2ヶ月で呼び出し件数が200倍に増え、会員数30万人を突破したということです。乗客優先サービスを前面に出して、移動手段市場で革新を起こしたという評価を受け、再搭乗率は89%にもなり、顧客満足度が高いとのことです。「TADA(ベーシック)」は、11人乗りの乗用車を活用した運転手付きのレンタカーサービスという形式です。登録した利用者が、TADAアプリで目的地を入力した後、車両を呼び出せば近い距離にいる車両が配車される自動配車システムで運営されています。現在、ソウルとその周辺で400台を運営しており、料金は一般タクシーより20%程度高くなりますが、TADAは、高水準の顧客対応サービスを提供するという点が挙げられます。TADAの運転手は配車拒否が禁止され、利用者は乗車拒否や乗客選びなどの問題が発生しないこと、TADA運転手は、安定した運転と乗客に先に話しかけないなどの事前教育を受けているとされます。広くて快適な乗車環境と、最大5人(乳児同伴時7人)が搭乗できる点も好評の原因とされています。

〔写真〕ハンギョレ新聞2019年10月23日「タクシー運転手1万名、国会前で『TADAアウト』」

http://flexible.img.hani.co.kr/flexible/normal/821/537/imgdb/original/2019/1023/20191023502720.jpg

 しかし、こうしたレンタカー基盤の乗車共有サービスTADAをめぐって、法的紛争が本格化しています。2019年2月11日、タクシー事業者側はイソカ社のイ・ジェウン代表とTADAを運営する子会社VCNCのパク・ジェウク代表を検察に告発しました。その主張は、レンタカーと運転手をリアルタイムで貸す形態のTADAが、旅客自動車運輸事業法に違反しているということです。つまり、バスやタクシーなど自動車を使って有償で旅客を運送するには、地方自治体から免許を受けて登録しなければならず、また、レンタカーの有償運送は禁止されているのに、TADAは、これらに反しているという主張です。TADA側は、レンタカーを貸すことに運送事業免許の必要がないし、レンタカーについても、11人未満の車では、「例外」として運転者を斡旋できるとされているので違反はないと主張しています。つまり、TADAサービス利用者は利用にあたって「自動車レンタル契約」と「運転サービス契約」の二つを同時に締結していることになります。

 直近のニュースによれば、「ソウル中央地検刑事5部は、イ・ジェウン ソカ代表と子会社VCNCのパク・ジェウク代表を、旅客自動車運輸事業法違反疑惑で不拘束起訴したと、2019年10月28日、明らかにした。検察はソカとVCNCを両罰規定に基づき起訴した。」ということです。〔注12〕
〔注12〕 朝鮮日報2019年10月28日「検察、TADA営業は不法」...イ・ジェウン ソカ代表裁判に( https://news.chosun.com/site/data/html_dir/2019/10/28/2019102802453.html

 (4)労働法的に見た「TADA」の問題点

 TADAで、実際に働くドライバーの状況はどのようになっているでしょうか?まず、2019年10月現在、TADAのドライバーは約9000人と推定されています。その中で600人は、派遣業者が雇用してTADAに派遣されたた労働者で、残りの8400人は用役(請負)業者を通じてフリーランサー(個人事業者)として働いています。〔注13〕
〔注13〕 この(4)は、毎日労働News2019年10月11日「深まる『TADA』不法派遣情況」( http://www.labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=160846)を参照し、要約したものです。

 しかし、TADAには実際の所有車両もなく、雇用した運転手もいないことが特徴です。つまり、TADAは、親企業であるソカ社から11人乗りのスターレックス乗用車を借りて、乗客に運転手とともに提供する一種の運転手付きレンタカー中間紹介会社です。ドライバーと呼ばれる運転手は、5つの派遣業者と、22の用役業者から供給されています。つまり、.愁社、TADA、G標業者(用役業者)、ぅ疋薀ぅ弌次↓ネ用者(顧客)の5社が複雑に絡み合う法律関係になっているということです。以下の図の通りです。

 〔図2〕ソカ・TADA運営体系

 TADAは、ドライバーに業務指揮・監督をしているだけでなく、きわめて厳格な統制をしています。
”須応対語
 TADAは、次のようにドライバーが乗客にかけるを定めています。
「・・・・を目的地とされる、○○○様をお迎えしたのでよろしいですか? お望みの経路がおありですか。とくにないようでしたらナビが案内する方向に移動します。(走行後3〜5分以内)室内温度とラジオ音量は適当ですか?」
このマニュアル通りにしなければ評価点数が低くなります。
服装
 単色の暗い系統のシャツ、スラックスやスーツズボン、暗い色のズボンの着用が義務づけられ、運動服やジーンズ・チェック模様、Tシャツは不可とされ、規定遵守は業務遂行評価に反映されます。点が低ければペナルティを受け、再教育と契約解約につながります。
B垓
 ドライバーは派遣かフリーランサーかに関係なく、時間当り1万ウォン(ピーク時間1万2千ウォン)で契約し、TADAは、毎月15日、アプリを通じて給与を精算した後、ドライバーに支給します。ドライバーは、勤務時間を選択できるが、運行中15秒ですぐ配車を受諾しなければ不利益を受けます。注油や事故収拾・洗車などで休むときには、「特別休息時間証明書」をTADAに提出して承認を受けて初めて給与精算時に反映されます。もし決められた時間より遅くログインしたり、欠勤すればペナルティが与えられ、遅刻や欠勤が続けば契約解約通知を受けることになります。
ざ般蛙觜堋度評価
 「Basic」「Good」「Best」「Perfect]の4段階でレベルを評価するドライバーレベル制が実施され、等級による特別手数料が給与と合わせて計算されます。TADAの各種規定と指示に従えば従うほど給与が多くなるシステムになっています。TADAはドライバーを解雇する権限を持っており、TADAの車両を他人に貸して業務を代行すれば契約解除され、また、人材削減方針により契約解約された事例もあった。

 こうしたTADAの働かせ方には、多くの法的な問題点があること、とくに、「不法派遣」の可能性が大きいという指摘が出ています。正義党のイ・ジョンミ議員は「8400人のフリーランサーは、請負契約形式であるが、実際には労働者派遣であり、偽装請負に該当する」として、雇用労働部に監督を求めました。
(続く)

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 「雇用によらない働き方」についての考察(上)

 1 働き方ASU-NET第30回つどい この"働き方" おかしくない!?

 (1)問題の所在

 NPO法人「働き方Asu-net」は、毎年の大きな行事として「つどい」を開催しています。2019年で第30回目を迎えました。今年は、10月30日に例年と同様にエルおおさかで開催します。テーマは、〈この"働き方"おかしくない!?〜『雇用によらない働き方』を考える〜〉で、北健一さん(出版労連書記次長)に基調講演「雇用によらない働き方の現状と課題」をお願いしました。その後、業務委託形式で働く音楽教室講師、放送局番組制作者、保険外交員の現場や、ハラスメントについてのアンケートをめぐる報告などを受けて議論する予定です。

 つどいのテーマを決める時に事務局で色々と議論しました。問題となったのは、「対象となる働く人」の範囲をどう定めるかという点です。とくに、5月の過労死防止学会でも取り上げられ、24時間営業強制で長時間労働をする「コンビニ店主」や、損害保険の「代理店主」など、自営業という性質が強いが労働者以上に過酷な状況での働き方も問題となっていることも指摘され、この問題は、きわめて大きな広がりがあることが確認されました。ただ、今回のつどいでは対象や問題点を絞って、「実際には労働者と変わらない働き方をしているが、法的には労働者として保護されない人」を対象にすることになりました。

 (2)森岡孝二さんの的確な問題指摘

 Asu-netを立ち上げの中心となった森岡孝二さんは、2018年5月31日の過労死等防止対策推進協議会で、次のように的確な問題指摘をされていました。私は、今回のつどいは、この問題指摘の2ヵ月後に亡くなられた森岡さんの遺志を受けたものと考えています。

 近年、「雇用によらない働き方」とか、あるいは「雇用類似の働き方」ということが政府の「働き方改革」の中でもしきりに言われるようになって、フリーランスに注目が集まっています。これは公式の統計ではありませんが、アメリカではおよそ3,000万人、日本では1,000万人いるとも言われています。その方々は、ある面で兼業労働者(マルチプルジョブホルダー)、雇用関係に入ってない個人営業、独請け、インディペンデントコントラクターという形をとっている場合も多い。いずれにせよ、雇用関係に入らないと労基法の適用対象でない。
しかも、例えば1980年代末の過労死110番からずうっと経過を見ると、日本社会の一つの特徴として、低賃金労働者が急激にふえて、非正規比率が随分高まって、最近、ここ1〜2年は下げどまっている感もありますが、高い数字であることは間違いない。
そのフリーランスを含む非正規の低賃金労働者の間では、兼業、副業で長時間働いている人も多い。近年、そういう労働者の合計労働時間がふえ、例えば一回のアルバイトが20時間で、それを1週間に5カ所していると、100時間働くなんてちょっと考えがたいような事例もあります。
その点で言うと、雇用関係によらない、労働基準法の保護を受けない長時間労働者の問題でもあるのですね。この協議会は、その辺も含めて全ての働く人々の健康配慮なり過労死防止というミッションがあると考えますし、そこは切り捨てられないと。今後の検討課題として重視していく必要があるのではないでしょうか。
〔注1〕
〔注1〕 脇田滋「『過労死防止大綱』見直しの意義」労働法律旬報1923号(2018年11月)13頁。

 2 古くて新たな「労働者性」の問題

 Asu-netのつどいでは、私も短い発言をすることになりました。そこで、専門の労働法の視点から、古くて新しい問題と言える「雇用によらない働き方」について考えてみることにしました。最近の国内での動向については、北健一さんから詳しい報告があると思いますので、簡単な歴史的な経過と、世界の動きを調べて報告することにしました。

 以下は、その報告の要点です。

 (1)末弘厳太郎博士の「労働法上の労働者」概念

 「労働者」であれば、労働法や社会保険(被用者保険)法の適用を受けて働く者としての権利が手厚く保障されます。それは企業にとって負担となるので、これを嫌う企業(使用者)との間で利害の対立が生じます。そして、ある就業者が労働法上の「労働者」か否かということ(これを「労働者性」と言います)が、最も基本的な法的・実務的問題として議論されることになりました。

 1947年、労働基準法制定当時、日本経済はまだ破綻状態でした。常用労働者が少なく、失業者以外に、日雇い、内職、臨時工など不安定な働き方が多い時期で、雇用ではなく、請負や委託の形式で働く人も多かったのです。この時期に制定されたのが、労働基準法でした。その制定にも大きな影響を与えた末弘嚴太郎(すえひろ・いずたろう)博士(元東京帝国大学教授)は、労働者を定義する、労働基準法第9条〔この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。〕について、次のように「労働者」の範囲をきわめて広く認める必要性を指摘されていました。

 「具体的の諸場合を考えると、判定困難な場合が少なくないと思うが、要するに食わんがために他人に使われているもの、従って放任して置くとこの法律が全般的に心配しているような搾取的弊害に陥り易いものはすべて労働者であると思えば間違いない」〔注2〕
〔注2〕 末弘厳太郎「労働基準法解説(一)」法律時報20巻3号(1948年3月)11頁。

 このように広く捉えられた「労働者」の概念は、契約形式が民法上の「雇用」である場合はほぼ全員が、労働法上の「労働者」に該当し、契約が「請負」や「委託」の場合であっても、企業など(使用者)に指揮命令を受けて働き(=「使用される」)、生活を支えるための水準の報酬(=賃金)を支払われるときには、労働法上の「労働者」として保護されるという解釈が、労働行政や労働裁判でも受け入れられることになりました。〔注3〕
〔注3〕 脇田滋編著『ワークルール・エグゼンプション 守られない働き方」(学習の友社、2011年)105頁以下。なお、最近の動向を踏まえた「労働者性」の問題点を網羅的に整理する論文として、石田眞「『雇用によらない働き方』と労働者性問題を考える」季刊・労働者の権利Vol331(2019)45頁以下参照。

 そして、請負・委託などの形式の就業者にも労働基準法や労働組合法が適用されることになりました。例えば、京都の西陣織の労働者をめぐって「労働者性」が問題になりました。企業(問屋)が工場に設置した織機で作業をする労働者(=内機 うちばた)だけでなく、伝統的に西陣地域で自宅の織機で作業する出機(でばた)に仕事を委託する家内労働による働かせ方が残っていたからです。低い工賃や福利厚生の改善を求めて地域の産業別労働組合が出機も労働者であるとして労働基準法や労災保険法の適用を求めました。これを受けて、京都労働基準審議会(会長 末川博・立命館大学総長)が、「西陣出機は労働基準法上の労働者である」という判定(末川判定)を下したのです。

 (2)労働法の発展・拡充と使用者の責任回避策

 末弘博士の「搾取的弊害に陥り易いものはすべて労働者」という、広い「労働者性」判断は高度経済成長に至る時代には、労働力不足の基調の下、製造業を中心に労働条件の改善が進み、労働組合も影響力を強める中で、労働行政や労働裁判をはじめ雇用社会に広く受け入れられました。もちろん、建設業、運送業、芸能・サービス業や中小零細企業が多い部門では、請負・委託形式による働かせ方が少なくなく、「労働者性」問題は継続して争われていました。

 しかし、労働法による保護が拡充し、労働・社会保険制度の充実で使用者の法的・経済的負担が増加する中で、新たな状況で使用者が労働者としての待遇による責任や負担を回避する動きが現れました。とくに、1970年代後半から経済の低成長時代に入ると、パートタイム労働、事業場内下請、臨時工など、従来の常用雇用(正規雇用)とは大きく異なる「非正規雇用」が導入され、使用者の責任回避策が広がることになりました。

 こうした「非正規雇用」は、同一労働同一賃金、男女雇用平等、間接雇用禁止などの労働法の基本原則に反するものでした。しかし、日本政府は、1980年代初めに、こうした「非正規雇用」を法・制度的に追認するという労働政策を推進し、1985年には「労働者派遣法」を制定しました。その後、約30年間、労働法の規制緩和政策に基づく法改正が相次ぎました。その結果、日本は、労働法が適用されても、”坩堕蝓↓∈絞迷垓、L妓⇒、じ瀕という過酷な特徴をもつ「非正規雇用」が全労働者の4割を占める「非正規大国」(伍賀一道教授)になったのです。〔注4〕
〔注4〕 伍賀一道『「非正規大国」日本の雇用と労働』(新日本出版社、2014年)、森岡孝二『雇用身分社会』(岩波書店、2015年)参照。

 (3)家内労働法制定を口実にした「労働者性」判断の後退

 政府も、労働法・労働政策を大きく後退させました。ただし、「労働者性」判断については、その骨格を維持して、契約の形式でなく、実際の指揮命令関係や経済的力関係から、労働者性を判断するという考え方は維持されました。しかし、周辺的な領域では、見過ごすことができない後退がありました。

 その一つは、家内労働法の制定です。東京の下町でサンダル製造をしていた、請負契約による家内労働者が、有機溶剤中毒で死亡する事件が発生しました。この事件をきっかけに家内労働者保護が社会問題になり、1970年「家内労働法」が制定されました。京都の西陣織労働者については、前述のように、法制定直後から労働関連法が適用され、企業(問屋)は内機と同様に出機労働者にも労災保険料を負担していました。ところが、1978年11月、事故で左腕を切断した出機労働者が労災申請をしたところ、京都上労働基準監督署は、出機労働者は、家内労働法適用の家内労働者で、「労働基準法上の労働者でない」として、従来の「末川判定」を覆して労災認定をせず不支給決定したのです。その後の労働保険審査会も不支給決定を支持しました。家内労働法を口実に、20年間維持されてきた「出機の労働者性」を、政府・労働行政が後退させたのです。〔注5〕
〔注5〕 村井豊明・森川明・中山福二「西陣織の出機(でばた)(賃織)は「労働者」か--山田労災認定闘争の意義と課題」労働法律旬報1053号(1982年8月)13頁以下、脇田滋「西陣出機労働者の労災保険適用資格」同20頁以下参照。

 (4)シルバー人材センターによる高齢者就業

 さらに、政府自身が導入した「労働法不適用の個人請負」形式での就労形態として、その問題点を指摘する必要があるのは「シルバー人材センター」による就労です。第二次大戦後、継続してきた「失業対策事業」の縮小に伴い、定年退職者等、65歳以上の高齢者の就労については、「シルバー人材センター」などでの就労事業が各地の自治体で広がりました。

 政府は、その動きを受けて1986年、高年齢者雇用安定法を制定して、同センターを国の制度として法定化しました。このシルバー人材センターを通じての就労は、労働法上の「労働者」としての労働ではなく、個人請負形式での就労と位置づけられたのです。つまり、年金受給権が発生して経済的にゆとりがある高齢者が「生きがい目的」でする就労という訳です。

 しかし、シルバー人材センター就労者の実態は、その多くが、一般労働者とほとんど異なりません。むしろ、公的年金給付が不十分なために、生活費を補充する経済目的での就労であり、低賃金労働力として企業に受け入れられてる例が多いのです。その結果、剪定(せんてい)作業で高所から落下したり、工場での危険業務に従事して、「労働災害」に遭う事例も少なくありません。しかし、労働者ではないので、災害予防の労働安全衛生法の適用がなく、事後的補償である労災保険の適用も受けられません。災害が重症や死亡など、重篤な場合に被災労働者が争訟を通じて、ようやく労災保険適用が認められた事例も出ています。〔注6〕
〔注6〕赤羽目寛「『生きがい就労』には雇用のルールはなじまないのか−シルバー人材センターの問題点」脇田滋編著『ワークルール・エグゼンプション 守られない働き方」(学習の友社、2011年)8頁以下。

 3 「雇用によらない働かせ方」拡大

 (1)安倍政権の狙う「働き方の未来」=究極の使用者責任回避策推進

 安倍政権は、日本でも最近、請負・委託による新たな就労形態が広がる傾向を強調し、それを労働の近未来の方向として意図的に拡大する政策を展開しようとしています。

 経済産業省は、2016年11月、「雇用関係によらない働き方」に関する研究会を立ち上げ、2017年3月、最終報告をまとめました。そこでは、「第四次産業革命」の進展で、〇纏が「企業単位」から「プロジェクト単位」に変化し、▲薀ぅ侫好董璽犬鳳じて、ある時は企業に雇用され、ある時は雇用関係によらず働く柔軟な働き方を広げることが、長寿命社会で重要となるとし、それで、女性や高齢者などの労働参画を増やすことができると指摘しています。そして、新たな「オンデマンド経済」では、労働提供者は従来の「従業員」ではなく、専門的で意欲的な「個人労働者」として、インターネットを通じたバーチャルな「ヒューマン・クラウド」に集中することを肯定的に強調しています。

 他方、厚生労働省は「働き方の未来2035一人ひとりが輝くために」(2016年8月)で、自立した個人が自律的に多様なスタイルで働くことが求められると同様な議論を展開し、20年後の2035年には、雇用関係を前提にした伝統的な労働法に代わって、経済取引を前提とした民法(民事ルール)が基礎になる等、労働者・労働法の「縮小」ないし「消滅」まで展望しています。

 以上のように、政府の関連文書は、現在、ディジタル経済化の中での「雇用関係によらない働き方」の広がりが必然的な現象であり、労働の未来であるかのように描いていることが特徴です。

 (2)ILO1996年「在宅形態の労働条約」(第177号)の批准回避

 しかし、惑わされてはなりません。個人請負形式利用には、使用者責任回避の脱法的目的があるからです。日本政府は、この30年間、使用者責任回避目的で、労働法の規制を緩和し続け、非正規雇用として、多様な雇用・就業形態を導入してきました。ディジタル経済化以前の段階でも使用者責任回避の目的で、政府自身が、家内労働法の制定による労基法不適用や、シルバー人材センター導入によって、労働法の適用を受けない「雇用関係によらない働き方」を広げてきたからです。

 この点で矛盾があるのは、「雇用によらない働き方」を取り上げながら、関連したILO条約については、本格的な検討をしていないことです。とくに、ILOは1996年「在宅形態の労働条約」(第177号)を採択しています。この条約は、いわゆる「家内労働者(home worker)」について、「独立した労働者とみなされる程度の経済的独立性と自律性を備えておらず、自宅等で使用者等から依頼された有償の作業を使用者のために行う在宅形態の労働者について賃金労働者と平等な待遇を促進することを目的」とし、次の通り、家内労働者に対する手厚い保護を定めています。〔注7〕
〔注7〕 豊田太一「第83回ILO総会家内労働条約を採択する--条約批准,家内労働法抜本改正の運動を」労働総研クォ-タリ-24号(1996年10月)40頁以下。

 


第1条
この条約の適用上、
(a) 「在宅形態の労働」とは、在宅形態の労働者と称される者によって行われる次の労働をいう。
(i)  自宅又は自ら選択する建物(使用者の作業場を除く。)における労働
(ii) 報酬のための労働
(iii) 使用される設備、材料又は他の機材の提供者のいかんを問わず、使用者が特定する製品又はサービスをもたらす労働
ただし、在宅形態の労働者が国内法令又は判決により独立した労働者とみなされるために必要な程度の自律性及び経済的独立性を有する場合は、この限りでない。
(b) 被用者の地位を有する者が被用者として通常の作業場でなく単に自宅において随時労働を行う場合は、この条約に規定する在宅形態の労働者とはならない。
(c) 「使用者」とは、直接に又は仲介者(仲介者が国内法令に規定されているか否かを問わない。)を通じて、自らの事業活動に従い在宅形態の労働を割り当てる自然人又は法人を意味する。
第2条
この条約は、前条に定義する在宅形態の労働を行うすべての者について適用する。
第4条
 1 在宅形態の労働に関する国の政策は、在宅形態の労働の特殊な性質及び、適当な場合には、企業で行われる同一又は類似の種類の労働について適用される条件を考慮し、在宅形態の労働者と他の賃金労働者との間の待遇の均等をできる限り促進する。
2 待遇の均等は、特に、次の事項に関して促進する。
(a) 在宅形態の労働者が自ら選択する団体を設立し又はこれに加入し及び当該団体の活動に参加する権利
(b) 雇用及び職業における差別からの保護
(c) 職業上の安全及び健康の分野における保護
(d) 報酬
(e) 法令上の社会保障による保護
(f) 訓練を受ける機会
(g) 雇用又は労働が認められるための最低年齢
(h) 母性保護


 ところが、現行家内労働法は、きわめて貧弱な最低工賃と安全衛生を規定するだけで、労働基準法と格段に大きな差があります。最近、工賃不払いの家内労働法違反で送検される事例が報道されました。しかし、労働者の場合には、政府の未払賃金立替制度があるのに、家内労働者はこの制度を利用できないことが明らかになりました。

 この家内労働法は、ILO177号条約に明らかに反しています。ところが、日本政府は、この条約を批准しようとしていません。批准するためには、法改正が必要です。前述した西陣出機労働者は、このILO条約が対象とする家内労働者として、労働基準法や労災保険法が適用されて当然の働き方でした。ところが、日本政府は、家内労働法の抜本的改正について、この20年間、ほとんど検討することなく、改善施策を回避し続けてきたのです。〔注8〕
〔注8〕 豊田太一「労働基準法を使えなくした家内労働法−靴工家内労働者の働き方から」脇田滋編著『ワークルール・エグゼンプション 守られない働き方」(学習の友社、2011年)80頁以下参照。なお、このILO177号条約が採択される前に、ILOは各国の家内労働者の状況を調査するために、日本では東京と京都を訪問調査しました。私は、その依頼を受けて、西陣出機労働者の労災認定をめぐる事件についてILO調査団の前で詳しく証言したことがあります。

 (3)年金削減で劣悪な「雇用によらない働き方」に追いやられる高齢者

 さらに、「シルバー人材センター」での就労は、政府自身によって「労働者性」を否定されて「雇用によらない働き方」として、33年もの長く継続して運営されてきました。しかし、シルバー人材センターでの就労については、最低賃金さえ下回る低賃金であり、危険業務による労働災害が多いのに安全衛生法上の予防や、労災保険の補償が不十分である実態が繰り返して指摘され、問題となってきました。しかし、政府は抜本的な対策や、制度の改正などを行ってきませんでした。

 むしろ、安倍政権は、財政を理由に「年金受給開始年齢」を65歳から70歳に繰り下げて高齢者の継続雇用や継続就労を拡大しようとしています。ところが、その場合、65歳以上対象のシルバー人材センター就労者の就労状況や問題点を提示していません。シルバー人材センター就労者の実態を知ることは簡単ではありません。その理由は、「労働者」ではないので、労働基準監督の対象にもならず、労災保険の統計にも算入されないなど、自治体の外郭団体が運営していることもあって、国として責任をもって実態を調査したり、全国的な統計さえ発表することがないからです。

 安倍政権は、最近、「生涯現役」などと、高齢者を現役労働者と同様に働かせるかのように錯覚させる言い方をしています。しかし、騙されてはならないと思います。政府は、シルバー人材センターでの就労制度が示しているように、高齢者は、労働法不適用の「雇用によらない働き方」にされて、低賃金・無権利の就労を予定されているとからです。それは、企業にとっては使用者の責任や負担を回避できる形態で高齢者を働かせることができる企業本位の政策でしかないと思います。

 年金財政については、最近、「マクロ経済スライド」のために、2047年度には厚生年金で約2割、国民年金で約3割減になり、物価、賃金が現在と同じという仮定で、国民年金満額は6万5000円から4万7000円に減るという試算が出ています。政府は、シルバー人材センターでの33年もの経験から、ただでさえ就職が難しい状況がある高齢者は年金削減が進めば、生活を支える切実な必要に迫られて、労働者としての保護を受けない劣悪な「雇用によらない働き方」であっても、応じざるを得なくなると考えているのだと思います。〔注9〕
〔注9〕 「伍賀一道〈アベノミクス 雇用改善の不都合な真実〉(2019/7/18)(http://welfare.fem.jp/?p=352)は、「年金制度の貧弱さゆえに、しかも非正規賃金が低水準のために高齢にもかかわらずフルタイムで働かざるをえない姿」を指摘している。

 「雇用によらない働き方」は、使用者(労働力利用者)が使用者としての法的責任を一切回避できる、究極の「非正規雇用」とも考えられます。つまり、実態は「労働者」であるのに、請負契約形式で就労する形態であり、労働法や社会保険法の適用が全面的に除外されるからです。

                                (続く)

【関連記事】
第25回 「雇用によらない働き方」についての考察(上)
http://hatarakikata.net/modules/wakita/details.php?bid=27
第26回 「雇用によらない働き方」についての考察(中)
http://hatarakikata.net/modules/wakita/details.php?bid=28
第27回 「雇用によらない働き方」についての考察(下)
http://hatarakikata.net/modules/wakita/details.php?bid=29
 

【筆者の関連文献】
本文で引用したもの以外では、
・脇田滋「『雇用関係によらない働き方』をどうすべきか −安倍政権のねらいとあるべき方向」月刊全労連254号(2018年4月)11頁以下〔http://www.zenroren.gr.jp/jp/koukoku/2018/data/254_02.pdf
・脇田滋「『雇用関係にようない働き方』拡大のねらいと課題」働くもののいのちと健康2017年10月秋季73号2頁以下〔https://www.inoken.gr.jp/old/kikan/no73-2-5.pdf
・脇田滋「個人請負労働者の保護をめぐる解釈・立法の課題_2006年ILO雇用関係勧告を手がかりに」龍谷法学43巻3号(2011年3月)1024頁以下〔https://bit.ly/2NhMart

 

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育児支援で注目すべき制度改善をした韓国と日本を比較して

□韓国で10月から配偶者出産休暇制を大幅改善

 韓国は10月から、「男女雇用平等と仕事・家庭の両立支援に関する法律」の改正により、夫が有給で休暇をとる独自の「配偶者出産休暇」を大幅に改善しました。出産から30日以内に、従来は最大5日、有給3日の休暇を取得できるものであったのを、90日以内に有給10日を取得できるようにに大幅拡充されました。分割も1回認められます。これによって配偶者(妊婦)が産後養生院を出た後にも夫が休暇を使用することで短い期間ですが、夫と配偶者が共に子どもを世話することができるようになりました。この制度は、国の法律に基づく制度ですので、大企業だけでなく中小企業にも適用されます。法的には、非正規雇用労働者、派遣労働者にも区別なく適用されます。有給分の負担者は使用者です。使用者がこの休暇を与えなかった場合には「過怠金」(500万ウォン=約50万円)が定められていただけでしたが、改正法では、それに加えて、もし、使用者が配偶者出産休暇を使用したという理由で解雇など不利な処遇をした場合、3年以下の懲役または3000万ウォン(=約300万円)以下の罰金を受けることになりました。※

 ※なお、今回の改正では「育児期労働時間短縮制度」も拡大されました。 これまで、8歳未満〔または小学校2年生以下〕の子ども(養子を含む)をもつ労働者は、育児休職と育児期労働時間短縮期間を合わせて最大1年まで使用できましたが、育児休職を1年した場合には、労働時間短縮 ができませんでした。10月からは、育児休職を使用しても育児期労働時間短縮はそのまま1年が保証され、育児休職未使用期間は育児期労働時間短縮の使用期間に加算して最大2年使用できることになりました。

 韓国でも日本と類似して「男性片働き慣行」が広がっていて、上の図のように男性が育児休職を取得したり、育児期勤労時間短縮をとる比率はきわめて低い状況です。たしかにこの10年に男性の育児参加は増えてはいますが、まだまだ不十分です。こうした状況を今回の制度改善でどこまで変えることができるのか大いに注目することができます。

■配偶者の出産時期に独自の支援が不十分な日本
日本では配偶者の出産の際に、せいぜい年休を利用することが多く、独自の配偶者出産休暇制度は、公務員・大企業など例外的です。むしろ、今年春に大きな問題になったカネカなど一部企業で、妻の出産時期に休んだ男性社員に対する「遠隔地配転命令」がSNSを通じて、会社のハラスメント的労務管理として社会的に批判されました。
ところが、安倍内閣は時代錯誤の発想のまま、働く人の生活や権利を支援するどころか、企業幹部のパワハラへの厳しい対応をせず、事実上放置したまま、企業最優先の立場を改めようとしていません。とくに、韓国のように出産をめぐる労働者の困難に対して具体的な支援を実施しようとはしません。ただ、「次世代育成支援対策推進法」に基づき、企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組む「一般事業主行動計画」の策定・届出を義務付けるだけの法・政策です。こんな法律では多くの企業は本気で状況を変えようとしません。
この法律は、使用者を罰則などで強制するのではなく、企業の自発性・自主性を重視する、いわゆる「ソフト・ロー(soft law)」です。最近の労働法学界では、これを評価する傾向が強まっています(代表的な論者は荒木尚志・東大教授〔参考:荒木尚志「努力義務規定の意義と機能:労働立法を素材として」https://www.cao.go.jp/consumer/kabusoshiki/torihiki_rule/doc/002_180412_shiryou2.pdf 〕。私に言わせれば、「ソフト・ロー」とは罰則や経済的制裁をできるだけ避け、使用者に「甘く」「なまぬるく」対応する法律です(それでも「労働法」と言えるのか大いに疑問)。この「ソフト・ロー」論は、経済団体や、労働法の規制緩和を進める安倍政権には歓迎される考え方です。

□日韓「働き方改革」の違いと今後の課題
韓国での新たな法規制は、文在寅大統領が大統領選挙時の公約で示し、政権発足後の「雇用政策5年ロードマップ」にも掲載していた政策実現の一つです。昨年7月の政府ブリーフィングでは「男性も最初から育児を経験する機会を享受できるように、配偶者の有給出産休暇を政府が支援する」ことが目的だと説明されていました。
日韓両国の社会は、企業間格差、男女差別、少子化、非正規雇用等の深刻な問題状況があり、共通・類似点が多かったのですが、政府が進める「働き方改革」や、それを根拠づける労働法の動向ではかなり大きな違いが目立ってきました。この「配偶者出産休暇制度」は、非正規雇用対策などと並んで、韓国が日本よりも先行することになった労働関連の法政策の一つだと思います。 今回の韓国での新制度は、育児についても男女平等での責任をもっていこうとしている点で、類似した労働環境の日本でも大いに参考にできるし、日本の実情に合わせた制度の検討や議論を広く行うことが必要です。上記の通り、日本政府は企業の努力を呼びかける微温的な対策が中心です。労働組合が高い意識性を発揮して、組合内外での議論を広め、さらに団体交渉や協約によって個別企業、できれば職種・産業単位での制度化をめざすことが考えられます。そして、それを国の制度に高める方向を目指すべきだと思います。

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原子力に反対し続けてきた小出裕章さんの動画を見て

昨晩、Youtubeで、20190911 UPLAN 小出裕章「福島は終っていない、原発はクリーンではない」という講演動画を見た。原発の問題を訴え続けて来られた、原子力問題研究者である小出裕章さん。良心のある真の研究者として敬意をもって、その発言や活動を見てきた。その最新の講演(2019年9月11日)と質問へのやりとりのYoutube動画である。
https://www.youtube.com/watch?v=CL_yjWM69VY

 

2011年3月の福島原発事故から既に8年半を経過して、政府やマスコミがまったく報道しない中で、日本社会では多くの人の記憶が薄れ、問題意識が消えてきていることを感じた。
現在も、被曝労働に従事する労働者の危険な労働環境の問題点が指摘されて、労働法研究者の一人としても改めて驚き、気がつかなかった捉え方を示された。とくに、「被曝労働」をめぐり、下請け、孫請けなどの労働者に危険作業を押し付けていることが問題であることは知っていたが、さらに、昨年、政府・与党が、外国人労働を受け入れる「出入国管理法」を突然改正した。小出さんは、この被曝労働を「外国人材」に押し付けるためであったと、政府と電力会社の隠された意図を鋭く指摘された。
この小出さんの講演を聞いて、個人的にいくつか考えることがあった。

□放射能を避けて家族と帰国したアメリカ人教員
一つは、福島原発問題については関西地域に住むためか、私も問題の捉え方が弱かった。ただ、現役時代、法学部の同僚であった英語担当のアメリカ人教員、Jさんが放射能問題を深刻に受け止めて、大学を退職してアメリカに帰ってしまった。
その前に、彼は40歳半ばで日本で就職した外国人教員は、高い公的年金保険料を毎月の給料から天引きされていたことに疑問をもった。60歳まで働いても、資格を得る25年にならないので多くの外国人教員が老齢年金を受ける資格がない。その理不尽さを、社会保障法を担当していた私に訴えた。
1998年、私は「京滋私大教連」(京都・滋賀地域の私立大学教職組の連合組織)の役員をしていたので、彼の訴えを受けて「外国人教員が抱える年金問題」を取り上げ、龍大だけでなく京都産大、京都女子大など、他大学教員の事例を集めて交渉団を作り、上京して厚労省等に陳情した。応対した厚労省の若手官僚は、「問題点はよく分かったが、外国人の要求は少数で、票にならない。改善を提案しても順序が低くなる」と答えた。→関連資料「1998外国人教職員の年金制度の改善に向けての要請」(https://bit.ly/2mkMg7J)〔なお、ごく最近になって、年金受給資格のための25年が10年に短縮された。〕
Jさんは、この年金問題に一緒に取り組んだことからも、おそらく定年を過ぎても日本に長く暮らすことを考えていたと思う。実際、Jさんは、その後、結婚して子どもさんも生まれた。そのJさんが、日本を離れるのは余程のことであったと思う。何事にも関心をもって深く考える知的な彼のことだから、放射能の問題についても英語文献を詳しく調べて深く深く考えての結論であったと思われる。
私は、親しくしていたJさんが帰国することに寂しさを感じるととともに、放射能問題についての深い捉え方に驚いた記憶がある。

□少数であっても、真実を伝える研究者の役割
小出裕章さんは、研究者として、原子力の危険性を訴え続けてきた。マスコミや学界が、政府や大企業に忖度して真実を伝えない中で、原子力の危険性を訴え続けてきた小出さんの役割は貴重だと思う。研究者のあるべき生き方を実践されていると思う。
理系と文系の違いはあるが、私も研究者の一人として、日本の雇用社会における働き方(実は、働かせ方)の問題点を分析し、訴えていきたい。労働法の学界では、「派遣法は『毒の缶詰』」だという私の指摘は、小出さんの主張と同様に圧倒的少数かも知れない。しかし、真実は長く覆い隠すことはできない。
とくに、この小出さんの講演では、以下のように、労働法とも密接な論点として「被曝労働」「外国人労働」の問題が鋭く指摘された。小出さんの研究者としての生き方に学ぶとともに、学界の主流が扱わない「被曝労働」「外国人労働」などの問題についても、目をそらさず考えて行きたい。


<小出講演の一部メモ>
●福島第一原発2号機で「苦闘は今も続いている」
>溶け落ちた炉心がどこにあるか、8年半経った今も探し続けている。
>国と東電は溶けた炉心を、30〜40年かけてつまみ出すとしていた。
>ロボットは放射線の強い現場に近づけない。
>胃カメラのようなものを使わざるを得なくなった。
>当初の計画が次々に大きく変わっている。
>100年後にも事故は収束できない。
●被曝労働と劣悪な労働環境
>でもやらなければならない、この困難な作業に何千人という、多くの労働者が従事している。
>普通の労働と違い、被曝労働は「被曝限度に達するまでの被曝を売る」
>被爆限度(1年で20mシーベルト、5年で100mシーベルト)まで。この被爆限度に達してしまうと働けない。
>被曝労働に従事しているのは下請け、孫請けなので、限度に達すると解雇。
>解雇されて、病気になっても因果関係の証明ができない。何の補償も受けられない。
●外国人材と差別の世界
>最近、外国人材導入が話題になった。
>今後、何十万、何百万の被曝労働者が作業せざるを得ない。
>どれくらいの被曝労働者が必要か。誰に押し付けられるのか。
>昨年「出入国管理及び難民認定法」(外国人材拡大法)が突然、改正
>法改正の目的=「人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野に属する技能を有する外国人材の導入を図るため」
>「私(小出さん)は、これを見たときに福島に連れて行くんだな」と思った。
>すぐに東電は「やる」と言ったが、大きな批判が巻き起こって、今、東電は「当面やりません」と言っている。いずれ「やる」ということ。外国人だから許されるのではない。こんなことは、人としてどうなのか。


●敷地外でも苦闘が続いている
>膨大な放射線の放出と広大な汚染地
>生活を根こそぎ破壊され、流浪させられた人
>汚染地に棄てられた人
>一度は逃げたが、帰還させられる人
>大気中に放出されたセシウム137だけで
>1、2、3号機合計で、広島原爆の168発分をばらまいた(日本政府発表)
>この「死の灰」は、汚染地図(政府作成)でも、福島から関東の広大な範囲に拡大
>1平方当たり3〜6万ベクレルの汚染も。
>それまでの法律では、「放射線管理区域」では4万ベクレルを超えてはならない、となっていた。
>日本の広大な範囲が「放射線管理区域」並みの汚染が、現在も続いている。
>「原子力緊急事態宣言」を発して、法律上の制限を反故(ほご)にした。
>この緊急事態宣言は、8年半経っても続いている。100年を経っても「緊急事態」が続く。
>ほんのわずかな放射線物質をばらまいても、ものすごい状況になる。
>「放射能は目にみえない」→政府は、風評だというが、実害はある。
>マスコミは、口をつぐんで何も言わない。
>ほとんどの日本人は「緊急事態」が続いていることを忘れている。
 

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韓国で「労働時間算定」をめぐって注目すべき判決

毎日労働ニュースが、9月4日、裁判所「ソウル市響団員、個人練習時間も勤務時間」、年次有休手当支給請求訴訟で労働者勝訴…全体練習での熟達有無の確認を判決根拠にという記事を掲載しました。
それによれば、ソウル中央地方法院、41民事部が、楽器を演奏する労働者たちの個人練習時間を勤務時間と認定したのです。ソウル市交響楽団の楽団員が、提起した年次有休手当支給請求訴訟で、原告勝訴の判決が出たということです。勤労基準法(60条)は「使用者は1年間80%以上出勤した勤労者に15日の有給休暇を与えなければならない」と規定しています。ソウル市響は、団員が個人練習をする日は勤労を提供しないと見なしていたため、大多数の団員が1年間80%未満の出勤であったとみなして、年次有給休暇や手当を与えなかったのです。
これに対して、労組(公共運輸労組文化芸術協議会)の支援を得て、楽団員が裁判を提起していました。
裁判所は、楽団員は個人練習をせざるを得ない状況があり、自宅などでの練習もしていました。楽団が、その熟達度を全体練習で確認していたことが、大きな根拠となって、練習時間も労働時間であると判断したということです。
詳しくは、全国公共運輸労組文化芸術協議会の論評を試訳してみなしたので、参照して下さい。
この判決は、5月14日に欧州司法裁判所(ECJ)が下した、使用者の労働時間把握義務を厳しく認めた判決(※)と共通する視点をもった注目すべき判断だと思います。
(※)脇田滋の連続エッセイ - 第9回 欧州司法裁判所が画期的判決。企業には全労働時間を客観的に把握・記録する義務あり!http://hatarakikata.net/modules/wakita/details.php?bid=11
使用者側は楽団員が個人でする練習時間を労働時間と算定しないで個人の裁量にまかせる形式をとっていました。しかし、練習による熟達があったか否かを全体練習で確認するという厳しいチェックをしていたのです。一定以上の練習(=労働)をするように指揮していたことになります。今回の判決は楽団員(音楽家)という特殊な業務の労働者だけの問題ではありません。サービス労働などで広く類似した労働が広がっています。
この判決は、ECJ判決と共通して注目すべき判断です。それらは、裁量労働、高プロ、副業の拡大、雇用によらない働き方拡大など、使用者の労働時間算定義務回避を拡大しようとする日本の安倍政権の労働時間再作の方向とは真逆だと思います。
本日、済州大学で、日韓労働法フォーラムが台風の真っ最中に行われます。今、TVが台風状況を伝えるなかでパソコンに向かっています。フォーラムのテーマは、「労働時間」問題です。両国で進められる政策や裁判の動向も議論の中では出てくると思います。フォーラムでどのような議論がされるのか、期待をもって参加したいと思います。
これから朝食を終えて、嵐の中を出発する予定です。


全国公共運輸労組文化芸術協議会
[論評]「「個人練習も勤務したとみなす」「ソウル市交響楽団年次有休訴訟勝訴判決歓迎

作成者 組織争議室 作成日2019-09-03
https://www.kptu.net/board/detail.aspx…

[論評]
「個人練習も勤務したとみなす」
ソウル市交響楽団、年次有休訴訟勝訴判決歓迎、芸術団業務の特性を見直す契機にしなければない

 ソウル市立交響楽団で団員が出勤せず、個人練習をする日も出勤日とみなすという判決が下された。公演や全体練習でない、家や他の場所でする個人練習も業務の特性上、勤務時間に該当するという内容である。去る8月22日、ソウル中央地方法院は、ソウル市立交響楽団団員が請求した年次有休手当支給請求訴訟で、このように判決した。(事件番号2018ガハプ540112)
使用側は「個人練習をする日は、勤労を提供するのではないので、1年間80%以上出勤した勤労者に該当しない」という理由で、年次休暇手当を支給する義務がないと主張した。
しかし、裁判所は「公演業務の特性上、個人練習が伴うので団員の勤労時間を公演と全体練習だけに限定できない」と判示して、その根拠として「通常、公演一ヵ月前に楽譜を配布して、これを熟知させて全体練習で熟達の有無を確認した点、個人練習施設が別になく家や他の場所で練習をしなければならない点」をあげた。したがって、個人練習も使用側の指揮、監督下にある勤務時間に該当するので、1年に80%以上出勤が正しく法が保障した年次休暇手当を本来の通りに支給しろと言ったのである。
また、裁判所は芸術団団員の個人練習時間を勤労基準法第58条第1項の「勤労時間を算定しにくい場合」に該当するとみなした。勤労者が出張その他の理由で、勤労時間の全部、または一部を事業場外で勤労して勤労時間を算定しにくい場合には「所定勤労時間を勤労したとみなす」という条項である。
このような判決は、2015年にもあった。当時ソウル市交響楽団団員の不当解雇救済申請再審審判でも、裁判所はやはり同じ理由で「団員は、週15時間未満の短時間勤労者に該当しない」と判決したことがある。
「個人練習も勤務時間」という判決は、芸術団員の勤務時間に対して再び見直してみる契機にしなければならない。芸術団の業務は、規定されている勤務時間だけ勤務をする一般的な労働形態ではない。夜間勤務、休日勤務、地方出張、海外出張にも一般職場とは違った観点で働いても手当や時間を計算されることがない。
芸術団に労働組合ができれば一番最初に勤務時間をめぐって労使間の争点が生まれることもある。一部の使用(者)側は、勤務時間を団員を圧迫する手段に使っている。練習の強度を考慮しないで、規定上の勤務時間だけを守ることを要求してフルタイムで練習することを注文することもある。それなら、勤務時間以外の個人練習時間、出張時の移動時間、夜間手当、休日手当すべてを計算してこそ正しい。
演奏は、高度な集中力とエネルギーを必要とすることであるから、多くの芸術団では芸術監督の裁量下にある勤務時間内での練習時間を柔軟に運営することが慣行である。勤務時間を機械的に満たせとの圧迫は、芸術団の業務特性を知らない無知の所産に過ぎない。
勤務時間で葛藤を生じさせている芸術団は、今回の判決が示唆するところを再確認しなければならない。現場で働く団員に業務特性に見合う適切な練習時間の運営が保障され、安定した勤務環境が作られるように願う。

2019年9月3日
全国公共運輸労組文化芸術協議会


【参考】毎日労働ニュース2019.09.04 裁判所「ソウル市響団員、個人練習時間も勤務時間」

年次有休手当支給請求訴訟で労働者勝訴…全体練習での熟達有無の確認を判決根拠に

http://labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=160293 

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