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脇田滋の連続エッセイ - 脇田滋の連続エッセイカテゴリのエントリ

韓国で「労働時間算定」をめぐって注目すべき判決

毎日労働ニュースが、9月4日、裁判所「ソウル市響団員、個人練習時間も勤務時間」、年次有休手当支給請求訴訟で労働者勝訴…全体練習での熟達有無の確認を判決根拠にという記事を掲載しました。
それによれば、ソウル中央地方法院、41民事部が、楽器を演奏する労働者たちの個人練習時間を勤務時間と認定したのです。ソウル市交響楽団の楽団員が、提起した年次有休手当支給請求訴訟で、原告勝訴の判決が出たということです。勤労基準法(60条)は「使用者は1年間80%以上出勤した勤労者に15日の有給休暇を与えなければならない」と規定しています。ソウル市響は、団員が個人練習をする日は勤労を提供しないと見なしていたため、大多数の団員が1年間80%未満の出勤であったとみなして、年次有給休暇や手当を与えなかったのです。
これに対して、労組(公共運輸労組文化芸術協議会)の支援を得て、楽団員が裁判を提起していました。
裁判所は、楽団員は個人練習をせざるを得ない状況があり、自宅などでの練習もしていました。楽団が、その熟達度を全体練習で確認していたことが、大きな根拠となって、練習時間も労働時間であると判断したということです。
詳しくは、全国公共運輸労組文化芸術協議会の論評を試訳してみなしたので、参照して下さい。
この判決は、5月14日に欧州司法裁判所(ECJ)が下した、使用者の労働時間把握義務を厳しく認めた判決(※)と共通する視点をもった注目すべき判断だと思います。
(※)脇田滋の連続エッセイ - 第9回 欧州司法裁判所が画期的判決。企業には全労働時間を客観的に把握・記録する義務あり!http://hatarakikata.net/modules/wakita/details.php?bid=11
使用者側は楽団員が個人でする練習時間を労働時間と算定しないで個人の裁量にまかせる形式をとっていました。しかし、練習による熟達があったか否かを全体練習で確認するという厳しいチェックをしていたのです。一定以上の練習(=労働)をするように指揮していたことになります。今回の判決は楽団員(音楽家)という特殊な業務の労働者だけの問題ではありません。サービス労働などで広く類似した労働が広がっています。
この判決は、ECJ判決と共通して注目すべき判断です。それらは、裁量労働、高プロ、副業の拡大、雇用によらない働き方拡大など、使用者の労働時間算定義務回避を拡大しようとする日本の安倍政権の労働時間再作の方向とは真逆だと思います。
本日、済州大学で、日韓労働法フォーラムが台風の真っ最中に行われます。今、TVが台風状況を伝えるなかでパソコンに向かっています。フォーラムのテーマは、「労働時間」問題です。両国で進められる政策や裁判の動向も議論の中では出てくると思います。フォーラムでどのような議論がされるのか、期待をもって参加したいと思います。
これから朝食を終えて、嵐の中を出発する予定です。


全国公共運輸労組文化芸術協議会
[論評]「「個人練習も勤務したとみなす」「ソウル市交響楽団年次有休訴訟勝訴判決歓迎

作成者 組織争議室 作成日2019-09-03
https://www.kptu.net/board/detail.aspx…

[論評]
「個人練習も勤務したとみなす」
ソウル市交響楽団、年次有休訴訟勝訴判決歓迎、芸術団業務の特性を見直す契機にしなければない

 ソウル市立交響楽団で団員が出勤せず、個人練習をする日も出勤日とみなすという判決が下された。公演や全体練習でない、家や他の場所でする個人練習も業務の特性上、勤務時間に該当するという内容である。去る8月22日、ソウル中央地方法院は、ソウル市立交響楽団団員が請求した年次有休手当支給請求訴訟で、このように判決した。(事件番号2018ガハプ540112)
使用側は「個人練習をする日は、勤労を提供するのではないので、1年間80%以上出勤した勤労者に該当しない」という理由で、年次休暇手当を支給する義務がないと主張した。
しかし、裁判所は「公演業務の特性上、個人練習が伴うので団員の勤労時間を公演と全体練習だけに限定できない」と判示して、その根拠として「通常、公演一ヵ月前に楽譜を配布して、これを熟知させて全体練習で熟達の有無を確認した点、個人練習施設が別になく家や他の場所で練習をしなければならない点」をあげた。したがって、個人練習も使用側の指揮、監督下にある勤務時間に該当するので、1年に80%以上出勤が正しく法が保障した年次休暇手当を本来の通りに支給しろと言ったのである。
また、裁判所は芸術団団員の個人練習時間を勤労基準法第58条第1項の「勤労時間を算定しにくい場合」に該当するとみなした。勤労者が出張その他の理由で、勤労時間の全部、または一部を事業場外で勤労して勤労時間を算定しにくい場合には「所定勤労時間を勤労したとみなす」という条項である。
このような判決は、2015年にもあった。当時ソウル市交響楽団団員の不当解雇救済申請再審審判でも、裁判所はやはり同じ理由で「団員は、週15時間未満の短時間勤労者に該当しない」と判決したことがある。
「個人練習も勤務時間」という判決は、芸術団員の勤務時間に対して再び見直してみる契機にしなければならない。芸術団の業務は、規定されている勤務時間だけ勤務をする一般的な労働形態ではない。夜間勤務、休日勤務、地方出張、海外出張にも一般職場とは違った観点で働いても手当や時間を計算されることがない。
芸術団に労働組合ができれば一番最初に勤務時間をめぐって労使間の争点が生まれることもある。一部の使用(者)側は、勤務時間を団員を圧迫する手段に使っている。練習の強度を考慮しないで、規定上の勤務時間だけを守ることを要求してフルタイムで練習することを注文することもある。それなら、勤務時間以外の個人練習時間、出張時の移動時間、夜間手当、休日手当すべてを計算してこそ正しい。
演奏は、高度な集中力とエネルギーを必要とすることであるから、多くの芸術団では芸術監督の裁量下にある勤務時間内での練習時間を柔軟に運営することが慣行である。勤務時間を機械的に満たせとの圧迫は、芸術団の業務特性を知らない無知の所産に過ぎない。
勤務時間で葛藤を生じさせている芸術団は、今回の判決が示唆するところを再確認しなければならない。現場で働く団員に業務特性に見合う適切な練習時間の運営が保障され、安定した勤務環境が作られるように願う。

2019年9月3日
全国公共運輸労組文化芸術協議会


【参考】毎日労働ニュース2019.09.04 裁判所「ソウル市響団員、個人練習時間も勤務時間」

年次有休手当支給請求訴訟で労働者勝訴…全体練習での熟達有無の確認を判決根拠に

http://labortoday.co.kr/news/articleView.html?idxno=160293 

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前は見えないが正義は見える

 NHKの逆転人生(2019/9/9,10時~)という番組に竹下義樹弁護士が登場します😀
https://www4.nhk.or.jp/gyakut…/x/2019-09-09/…/21712/1795018/

 竹下義樹さんとは、龍谷大学の法科大学院で「社会保障法」という授業を9年間(2007-2015)一緒に担当しました。
竹下さんは、最初の授業では自分自身が弁護士として歩んできた歴史を語りました。私より4歳年下の竹下さんは14歳のとき、石川県の中学校で相撲部に所属し練習中の事故が原因で目がまったく見えなくなりました。京都の盲学校高等部に入学して点字を覚えたということです。当時、視覚障害者の仕事はマッサージなどに限られていました。
しかし、竹下さんは何としても弁護士になろうと大学進学を目指し、視覚障害学生を受け入れてくれた龍谷大学法学部に入学しました。法学部に入学後、司法試験を受けようとしましたが、当時、日本では点字による司法試験は実施されていませんでした。法務省に問い合わせをすると、点字の受験は実施していないので、視覚障害のない人と同条件で、通常の試験を受けるようにという回答があったそうです。日本国憲法第14条は「法の下の平等」を保障していますが、当時の政府は、「盲人を特別扱いをしないことが平等だ」という立場で点字受験を冷たく拒否したのです。
竹下さんは諦めませんでした。自分の熱い思いを周囲の人に伝えました。龍谷大学の学生の中で学部を越えて支援の輪が広がりました。さらに、大学を越えて、京都大学、同志社大学、立命館大学など、京都市内の多くの大学、大学院の学生たちも支援に加わりました。国会でも点字受験問題が取り上げられ、竹下さんは参考人として、点字受験の必要性を強く訴えました。その結果、政府・法務省も従来の立場を変えて、点字での司法試験受験を認めることになったのです。
そこから、彼の本当の苦労が始まりました。目が見えても合格が難しい司法試験を視覚障害をもつ人が合格することは至難のことです。まず、点字の六法や法律書がありません。そこで、多くの学生、院生たちが法律関係の多くの本をテープに録音すること、さらに大学を越えた勉強会など、ボランティアで協力してくれました。竹下さんは9回目の受験でようやく合格することができました。その間、支援者の一人であった女性と結婚し、子どもも生まれたので、お金を稼ぐためにマッサージなどのアルバイトをしながら、苦労をしながら勉強を続けたのです。
竹下さんの勉強方法は独特です。多くの人が吹き込んでくれた録音テープを通常の数倍の早さで聴きます。私には早すぎて聞き取れない高い音を彼は聞き分けることができるのです。また、法律の条文を単語カードのように点字に打ち出したものを腰にぶらさげて、それを触りながら歩いて条文をそのまま覚えるのです。また、竹下さんは勉強会や研究会では必ず大きな声を出して質問します。積極的に質問をすることで問題点をすぐに理解しきろうとするのです。
法科大学院の授業では、竹下さんは、学生に向かって、ときどき鋭い指摘をしました。「一流国立大学出身の秀才弁護士は判例について詳しく知っているが、社会保障や労働の事件は、そうした文献だけの知識だけでは、とうてい解決することができない。弱い立場の相談者の実際の悩みを、その生活を含めて深く深く理解しなければならない。たとえば、日本政府は、在日外国人、野宿者、稼働能力のある若い失業者たちが、生活保護を受ける当然の権利を不当に抑圧してきた。こうした政府の態度に対抗するためには、多くの人が協力するネットワークを作ることが必要であり、日本国憲法、国際条約、外国法について詳しい研究者とも連携し、官僚に対抗できる論理を導き出さなければならない」と。
竹下義樹弁護士と私は、彼が修習生時代に京都で行われていた、研究者、弁護士、裁判官、修習生をメンバーとする「労働判例研究会」以来、40年以上に及ぶ付き合いです。
私が保育所保護者会の役員として活動して、市長を相手に保育料引き上げをするなと行政訴訟を起こそうとしたときにも、迷わず竹下さんに代理人を依頼しました。行政を相手の裁判は簡単には勝訴できないので、引き受ける弁護士が少ないのですが、快く引き受けてもらいました。
常に前向きで実践的な竹下義樹さんの話は、これから困難な司法試験を受験しようとする学生たちに大きな力を与えるものでした。一緒に進めた授業の中で竹下さんが話す言葉は何度聞いても、不条理な社会に抗して最も弱い立場の人のために法を活かそうとする点で、法学を学ぶ原点を思い出させるものでした。
竹下義樹さんの半生をまとめて、小林照幸『全盲の弁護士 竹下義樹』(岩波書店、2005年)が刊行されています(https://www.iwanami.co.jp/book/b264177.html)。この本は、韓国語に翻訳され、2008年『앞은 못 봐도 정의는 본다』(前は見えないが正義は見える)として出版されています。

韓国では、2014年、視覚障碍者のための「点字選挙公報義務」を憲法裁判所が拒否したことが問題になりました。
そのときに、市民新聞Ohmynewsが、「前は見えるが正義が見えない大韓民国憲法裁判所」という表題の記事を書きました。この記事の中でも、竹下義樹さんのことが詳しく紹介されています。
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http://www.ohmynews.com/NWS_Web/view/at_pg.aspx…
앞은 보지만 정의는 못 보는 대한민국 헌법재판소
'시각장애인 위한 점자형 선거공보 의무' 거부결정 무엇이 문제인가
14.06.24 17:28l최종 업데이트 14.06.24 17:28l김인회(miraeyeon)
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 「労働法のない世界」で働く医師たち

「労働情報」9月号が届きました
労働情報No985(2019年9月号)に寄稿しました。「労働情報」は、各地の労働問題に関する貴重な情報を提供する雑誌です。

 9月号の「特集 告発!無給医問題」は、次の記事を掲載しています。

〇全国医師ユニオン 声を出さない医師たち(植山直人)
〇当事者たちの声 
〇無給医ホットライン 不利益おそれ権利行使ためらう 無給ゆえに長時間労働の実態も(竹村和也)
〇労働法の視点から 明らかな労働者性 団体行動と連帯が不可欠(脇田滋)

(朝日新聞2019年6月29日)

 私の記事は、医師も労働法が適用される「労働者」であることを指摘し、若い医師が過労によって死亡した関西医大研修医事件、鳥取大学病院事件を紹介して、労働法的な問題点を指摘しています。

医師と労働法

 かつて国立大学の法人化の際に、ある大学の組合に呼ばれて学習会で講演したことがありました。「医師にも労働基準法が適用され、原則、法定時間を超える長時間労働はできない。例外的に36協定締結などの要件を満たさないと違法だ」と話しました。
すると「大学病院の現在の働き方では法違反になってしまう。どうしたら違法とならないのか」という質問が異口同音に出たことがありました。長時間労働の現実を改める必要を指摘した積りでしたが、現状を変えるのは無理だという前提での質問ですので、納得してもらうのは大変だと思ったことがあります。
労働法的には大学病院の勤務医に「労働者性」があるのは明白ですが、きわめて専門性の高い医師の多くは自身が労働者であると思っていないと感じました。
この8月4日に参加した医師の働き方をめぐる研究会で、医学部教育の中で「労働法」の話を聞く授業はほとんどないこと、ドイツ、イギリスなどと違って、日本では医師の労働組合加入はきわめて少数であることなどの現状を知りました。

患者にとっても、人間らしい医師の働き方が重要

 若い時にはほとんど大きな病気をしなかった私も、定年退職後は入院や通院を繰り返して何とか健康を維持できています。まさに、医療サービスのおかげだと実感します。患者の立場からも医師、看護師をはじめ医療従事者が過労で倒れるのは大いに困ることです。
「無給医」が数多く存在し、医師の過労死も少なくないのが日本の医療界の現状です。まさに、医師の世界は「労働法のない世界」と言える状況です。ドイツでは、医師が労働組合を通じて自らの労働条件改善を求め大きなストライキもあったとのことです。労働法の視点からだけでなく、医療の安全や医療サービスの保障という患者・住民の視点からも「医師の働き方改革」が重要です。
医師ユニオンが長年、医師の働き方を改めることを問題提起してきました。しかし、現在、厚労省が進めているのは過労死認定基準の約2倍に当たる長時間労働をも可能とし、異常な現状を追認する方向です。これでは問題の解決にはなりません。
社会全体で医師の長時間労働の現実について正確な認識を共有し、それに基づく議論を急いで広めていくことが必要だと思います。労働法学の世界でも医師の問題を本格的に検討する必要があると思います。マスコミも、政府の情報を無批判に垂れ流すのではなく、しっかりと取材をして医師の働き方の現実を伝えることが必要だと思います。

 

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 東京新聞8.29付<働き方改革の死角>を読んで

<働き方改革の死角>日本、続く賃金低迷 97年比 先進国で唯一減
https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201908/CK2019082902000151.html

 「真面目に働いているのに、なぜ賃金が下がって生活が苦しく、将来への希望がなくなるのか?」という、日頃抱いていた疑問に対して、この記事は多くのことを考えさせてくれた。

 「時間あたりでみた日本人の賃金が過去21年間で8%強減り、先進国中で唯一マイナスとなっていることが経済協力開発機構(OECD)の統計で明らかになった。企業が人件費を抑制しているのが主因だが、「働けど賃金低迷」の状況が消費をさらに冷え込ませる悪循環を招いている。」
とくに、
「派遣法改正などの規制緩和で企業の人件費削減を容易にした。賃金の安い非正規雇用の比率は97年の23.2%から、2018年の37.8%に上昇」
が目についた。

「毒の缶詰」=派遣法がもたらした弊害

 私が労働法の研究を始めて間もない1980年代初め、当時、違法であった派遣労働(偽装請負形式の間接雇用)を「合法化」するという、政府・経営者団体の政策動向に直面した。推進者たちは、「ごく限られた専門的対象業務で弊害は少ない」と主張した。しかし、私は、民主法律協会の派遣労働研究会などで実際の事例相談に参加していたので、こうした主張が明らかに現実と乖離した間違ったものであると確信した。

 私は、政府・財界の「労働者派遣法制定」の狙いは、
(1)違法な間接雇用(偽装請負形式での労働力利用)の合法化
(2)男女平等の動きに対抗して性別差別を雇用形態差別へのすり替え
(3)事実上、解雇しやすい労働者の導入(=解雇自由の偽装的拡大)
(4)労働者間の分断(直接雇用と間接雇用、正規と非正規)による労働組合の「正社員組合化」による弱体化と、労働組合の「代表性」喪失
にあると考えた。

 当時、研究室や研究会の先輩には、
「対象業務が限られており、人数も10数万人と限られている。そんな派遣を研究テーマにするのか?」とか、
「通訳など専門業務では、企業も正社員として雇うのは難しい。企業だけでなく、専門的能力を活かせる派遣には働く側にもメリットがあるのでは?」
「派遣は、労働法の中心問題とは言えない。先行研究もない」
などと、派遣労働を研究テーマにしようとする後輩の私に対する「忠告」もあった。

 しかし、労働者派遣法が施行されてから既に30年以上になるが、私が憂慮していた派遣労働の弊害が現実化してしまった。派遣労働は、労働法の中での「縁辺的な問題」どころか、いまや「核心的な問題」になっている。

 実際、労働者派遣法は「毒の缶詰」として、30年以上、日本の雇用社会に「毒」を流し続けてきた。その一つが、労働者全体の賃金低下である。東京新聞が指摘するように、日本の労働者の賃金は、近年、下がり続けている。その大きな原因は、低賃金の非正規雇用が4割にもなっているからであるが、非正規雇用が職場の中で同一労働を差別的低劣待遇で行えば正社員の存在意義はなくなるか、少なくも大きく減少する。現在、労働者全体の約3割の「大企業型」(正社員)は、財界やそれと結びつく政府の政策動向が進められていけば、近い将来、1割から2割になるだろうと指摘されている(小熊英二『日本社会のしくみ』講談社現代新書)。

「労働組合弱体化」を進めた派遣労働拡大

 私は、労働組合での学習会などで「派遣法は『毒の缶詰』であり、派遣労働導入は労働組合にとっては、同じ職場で働く全ての労働者を代表するという役割=全体代表性を破壊し、労働組合を弱体化させる」ことを言い続けてきた。そして、「今日の正規雇用は、明日の非正規雇用」とか、「親が正規雇用でも、息子・娘は非正規雇用になる」と訴えてきた。

 残念ながら、派遣労働の導入に抵抗し同じ職場で共に働く派遣労働者を自分たちの仲間だとして連帯する労働組合は余りにも少ない。その結果、日本の労働組合の多くは、「比較的恵まれた」自らの利益や権利だけを擁護する「エゴイスト(egoist)」集団だという攻撃が出てくるようになった。その攻撃に対して、多くの労働組合は、連帯活動の実際に基づく反論の根拠を提示できなくなっている。

 要するに、労働者派遣法の危険な狙い=「労働者の分断」「労働組合の弱体化」が現実化したと言わざるを得ない。

 今年3月、韓国のナショナルセンターの一つ「民主労総」の非正規雇用・未組織対策の担当者と会って、話を聞いた。そのとき、私は「1998年に制定された『派遣勤労者保護法』(韓国の派遣法)をどう思うか?」と質問した。すると、担当者は即座に、「派遣法は廃止するしかない」と断固とした口調で答えた。

 韓国でも単位労組レベルでは、非正規職との連帯という点で依然として遅れた意識(=正規職主義)があるという。しかし、少なくともナショナルセンターである民主労総は、「派遣法廃止」「非正規職撤廃」を毅然と主張し続けている。改めて「これこそ本来の労働組合だ」と感心した。

「全労働者を代表する労働者団結」で賃金の引き上げを

 「賃金の引き上げ」は、労働者の集団的対抗力がなければ実現しない。その意味で「官製春闘」と呼ばれる現状は異常である。「賃金引上げに王道はない」と思う。

 東京新聞の記事によれば、韓国の急激な賃金増加は日本とは真逆である。韓国では労組は、97-98年の経済危機の際、リストラをめぐる正規・非正規間の深刻な分裂があった。その苦い経験から、企業別正社員組織のままでは「日本のように弱体化する」という議論が生じた。それから、労労対立や、政府・財界による過酷な組合弾圧を乗り越えて、多くの犠牲を伴いながら、実に真剣な活動が展開されてきた。そして、「企業別組織から産業別組織への転換」という、世界でも稀な労働組合の組織転換事業を成功裡に展開してきた。

 日本よりも厳しい状況の中であったのに、韓国労働組合は頑張っている。民主労総は、この数年間に70万人から100万人へと5割も組合員を増加させた。現在も民事的刑事的な弾圧は無くなっていないし、単位労組には遅れた意識がある。しかし、ナショナルセンターを始め、組合活動家の多くが、「全労働者の代表」としての活動を目指している(Asu-net エッセイ「労働者分断」を乗り越えてきた韓国労働運動 13回(上) https://bit.ly/338h2BW 14回(下) https://bit.ly/2Ylaykb参照)。

 日本の賃金の現状は、労働組合の残念な状況の反映である。1985年派遣法制定当時からの「ボタンの掛け違い」を元に戻すことが必要である。それを含めて、この30年余りの労働運動、労働法・政策の誤りを反省的に振り返り、将来に向かっての展望、そのための労働組合再生をめぐる議論が必要だと思う。

 私も、この東京新聞の記事を読んで、改めて、すべての労働者を代表する労働者団結の新たなあり方を考えなければならないと思った。
 

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東京五輪は「命より金」でなく「金より命」を大切にすべきだ

http://www.ourplanet-tv.org/?q=node/2400

 今年5月、国際建設林業労働組合連盟(BWI)が「東京五輪組織委は人命軽視の危険な労働環境で働かせている」と警告していた。BWIは約130の国・地域の労働組合が加盟する国際労働組合組織で、2006年から五輪やサッカーワールドカップなど大規模イベントの建設現場で劣悪な労働環境で死亡事故などが多いことから、状況を調べていたが、詳しい提言書(The Dark Side of the Tokyo 2020 Summer Olympics)をまとめて組織委などに伝えていた。参照(http://hatarakikata.net/modules/data/details.php?bid=2256

報道によれば、BWIの提言書では、
「・作業員の半数が雇用契約でなく、請負契約のため(一人親方が請負う)、法的な保護が手薄
・選手村で月28日間、新国立競技場で月26日間、勤務した作業員がいた
・作業員の中には安全器具を自腹で購入した者がいた
・薄暗い中での作業の改善を求める労組からの通報をJSCが受理しなかった
・外国人技能実習生の人権が守られていない、資材運搬など単純作業ばかりを強いる
・作業員が失職などを恐れて労働環境の改善を訴えにくい雰囲気がある」

 さらに、BWIは、労働者からの直接に聞き取り調査もしており、次のように指摘していた。それは、
 「労働者は、外国人労働者たちが原材料の取り扱いなど単純作業(menial tasks)だけをさせられていると答えた。彼らは、建設過程の遅れが労働者の間でどのようにストレスを引き起こし、質の悪い(poor)安全慣行を生み出したかについて話した。はるかに問題のある調査結果(findings)は、労働者が懲戒を受けるか失業する恐れがあるために、労働者が労働条件について苦情を申し立てるのを妨げる『恐怖の文化(culture of fear)』が蔓延していると報告した」など、
かなり深刻な内容であった。

 この提言書が公表されてから3ヵ月も経過するのに、いまだに協議もしていなかったことに驚かされる。
実際、建設計画が余りにも過密なスケジュールで進められた。そのため、携わっていた労働者があまりにも長時間の過密労働で過労自死する事件も生じていた。この8月には、熱中症で建設作業員が死亡している。
むしろ、東京五輪組織委は、こうした労働者死亡とBWIの提言にも関わらず、来年の猛暑時期に大量の「ボランティア」を利用する計画をそのまま進めている。否、その計画を一層拡大しようとしている。最近、医療スタッフまでボランティア形式で利用しようとする計画が明らかになった。医療団体にはボランティアに応ずることが要請されており、関係者から戸惑いの声が上がっている。
東京五輪では、こうしたボランティア形式だけでなく、建設重層下請、派遣労働利用(パソナなど)も広く行われている。これらはいずれも、労働法の定める使用者責任の回避、とくに労働安全衛生法による熱中症対策などの使用者責任回避につながり、労働者保護の視点からきわめて疑問である。上記BWI提言書も、「法的保護が手薄な働かせ方」として、個人請負の利用があることを問題として指摘している。これらの多様な雇用形態利用は、東京五輪組織委が、働く人の生命・健康を軽視し、配慮責任を回避しようする姿勢を示すものである。
五輪であっても、それを至上目的に生命・健康を軽視してはならない。本間龍さんは東京五輪について、「東京インパール」と表現して旧日本軍の無謀な作戦(インパール作戦)になぞらえて的確な批判を続けておられる。最も大事なことは「金より命」である。五輪を口実に庶民が納めた税金から莫大な利益をあげ、大きな利権を得ようとする関連企業や、それと癒着するマスコミ、政治家などの輩(やから)は「命より金」を優先していると考えざるを得ない。口先では「お・も・て・な・し」など、華やかで綺麗なことを言っても、実際に準備作業の現場で進められているのは「金」を重視して「命」を軽視する事例が多すぎる。
こうした東京五輪開催そのものに強い疑問があるが、少なくともBWIが提言するように「金より命」の考え方を最優先に、働く人の生命・健康を守ることを政府、東京都、組織委などに求めていく必要がある。莫大な利権を減らせば、「命」を守るための財源をねん出することができるはずだ。そうしなければならない。
もし、五輪推進者たちが、「財源」を理由として「金より命」を否定するのであれば、そんな五輪は許されない。今からでも返上すべきである。 

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BBCが世界に伝える日本の外国人労働者問題

 平野啓一郎さんのTweetで知った、BBC Japanのニュース動画(日本語字幕付き)を見た。
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2019.8.26視聴時間 08:24
日本で「搾取」される移民労働者たち
低賃金で長時間働かされた――。日本で「搾取」されたと訴える移民労働者たちをBBCが取材した。世界的服飾ブランドの服を作っていた人や、自殺を図った人もいた。
BBC News Japan


https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/57445?utm_source=newspicks&utm_medium=feed&utm_campaign=link&utm_content=title
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 動画の内容は、この7月、大阪で開かれた労働法の研究会で聞いた話とほぼ重なっている。研究会では、日本で働くベトナム人労働者を支援してきた研究者から、きわめて実際的、実践的な報告を受けた。最賃を下回る低賃金、長時間労働、自由の束縛、セクハラ・性暴力など、余りにも酷い実態に驚かされた。不自由な日本語、在留資格、母国で抱えた借金など、弱い立場に置かれた外国人労働者たち。その弱い立場につけ込み、過酷な労働環境で働かせて搾取する人権侵害の数々。若い世代の報告者自身が体験した話を基に、現在日本の雇用社会の紛れもない現実が浮かび上がった。

 外国人労働者と言っても、とくに韓国、中国、ベトナム、フィリピンなど、アジア諸国出身の労働者が差別的に搾取や人権抑圧の対象となってきた。朝鮮半島出身の「徴用工」問題も、そうしたアジア出身者への差別という点で問題になる。アメリカ人やヨーロッパ人も日本国内で就労しており、制度的な不備から問題がない訳ではないが、それと比べるとアジア出身者への差別的処遇には余りにも劣悪な場合が少なくない。

 私が、研究会での話を聞いたときに感じ、この動画を見て改めて思ったのは、次の4点である。

 第一は、マスコミでの報道や議論が余りにも少ないことである。深刻な外国人労働者をめぐる差別と人権無視という事実があるのに日本のマスコミは何故報道しないのか、いったい何をしているのかという疑問である。イギリスのBBC放送が、わざわざ日本に来て取材し報道している。NHKや民放にも多くの報道番組があるのになぜ報道しないのか強く疑問に思う。日本のマスコミも深刻な労働実態を報道するべきである。

 第二は、外国人労働問題も、あくまで本質は労働問題だと思う。「外国人は別だ」と考えるべきではない。日本国憲法の下では外国人にも基本的人権を平等に保障する。戦後の世界では、日本だけでなく、労働法や社会保障法では「内外人平等」が原則となっている。労働基準法第3条は、国籍による差別扱いを明文で禁止している。これは、労働関係における「内外人平等」を確認したものであり、労働・社会保障分野では外国人差別は許されない。これは必ずしも常識となっておらず、誤解の多い点である。労働者としての権利よりも、国籍区別を重視する考え方が依然として根強い。むしろ、最近になって、日本だけでなく世界各国でも外国人への冷たい対応が広がっているので、「内外人平等原則」の意義を強く訴えたい。

 第三は、現在、大きな焦点となっている「徴用工」には多様な側面があるが、その中の一つは労働者の人権を尊重していないことである。現在の外国人労働者も、過去の徴用工も、労働者の人権を尊重しない使用者の下での働かせ方という点で共通している。そうした労働人権は、人権保障がはるかに遅れていた第二次大戦中には、現在より酷い形で行われていたと考えられる。
1947年制定の労働基準法は使用者による差別禁止(第3条)、強制労働禁止(第5条)、中間搾取禁止(第6条)を規定した。これらの規制が必要であったのは、それ以前は、深刻な人権侵害の労働環境があったからである。
現在の外国人労働者も、労働者としての人権問題が、「外国人の弱い立場だから対抗できないだろう」と考える、悪徳使用者によって、きわめて露骨に現れているのだと思う。

 第四に、「徴用工」問題については、上記の労働者の人権尊重という面とともに、とくに、日本国憲法制定の意味からも考えるべきだと思う。
つまり、戦前のナチス・ドイツは、ユダヤ人をはじめ、ポーランド、イタリア等で、生命、自由、財産を奪う蛮行を行った。それらを許されないことであったと認め、その深い反省に基づいて、戦後、再出発した。それがドイツが国際社会に再び受け入れられる前提になった。戦後制定されたボン基本法は外国人を含めて、自由、平等、人権を保障することを約束して民主国家になることを国内外に約束する証(あかし)であった。日本国憲法も、大日本帝国時代の軍国主義や人権抑圧を改めることを国内外に約束する証(あかし)として制定された。それによって東アジアを含む国際社会に復帰することを認められたのである。

 過去の「徴用工」問題を無視・軽視したり、現在の外国人労働問題を深刻な問題と考え議論しないのであれば、どんなに「お・も・て・な・し」と口先で言っても、「過去も現在も労働人権を尊重しない日本」になってしまう。そうであれば東アジア諸国だけでなく全世界からの日本への厳しい眼差しは、より厳しさを増すことになるだろう。

 

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最低賃金引上げのために真剣な議論をするべき時だ

日経の「最低賃金」ビジュアルデータ

 日経による「最低賃金」をめぐるビジュアルデータが公表された。データ部分は、従来の単純な図表と違うので興味深い。
https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/minimum-wage/?n_cid=NMAIL007

最賃引上げで雇用が悪化するという「俗説」
しかし、解説部分は不正確で疑問が多い。とくに「最近では韓国が文在寅政権による急激な最低賃金の引き上げで雇用不振に見舞われています」という説明は酷い俗説だと思う。
これは、最低賃金引上げに反対する韓国の保守陣営(経営者団体、保守的新聞)が、文在寅政権への政治的攻撃に使ってきた議論である。データを大切にすると思ってきた日経新聞が、そうした俗説に簡単に組していることは誠に残念である。経営者側要望にだけ耳をかすのではなく、最低賃金引上げの意義も踏まえて、データを正確に分析し経済全体の改善を考えるのが日経の役割ではなかったのか?

最低賃金と雇用の因果関係
最低賃金引上げと雇用・経済との因果関係を確認することは簡単ではない。最低賃金引上げの効果を測定するには、長期間の変化をみることが必要である。韓国の場合、最低賃金引上げからあまりにも時間が短すぎる。とくに経済不振についても多くの指標との相関関係を見る必要がある。様々な要因がある中で最低賃金引上げが経済停滞の原因だと実証的に判断することは簡単ではない。こうした慎重さがまともな分析には求められている。
実証的な労働経済分析で著名な韓国労働社会研究所のキム・ユソン博士は、いくつかの指標から最低賃金引き上げの効果と言える面があったことを指摘されている。今後は最低賃金引上げによって何が変わったのか、改善点も含めてより実証的で深い研究が求められている。

イ・ナムシン韓国非正規労働センター所長の見解

 ごく最近、日本の市民団体が訪問して話を聞いた韓国非正規労働センターのイ・ナムシン所長〔最低賃金委員会・労働者委員〕も、そのような慎重な見方をされていた。従来から、非正規職など「脆弱労働者層」にとっては最低賃金引き上げの意義があることを強調されていた。そして、保守陣営の攻撃にたじろいで、自ら最賃引上げにブレーキをかけようとした文在寅政権の姿勢を批判されている。詳しくは、関連した同所長のコラム日本語試訳(「文在寅政府に尋ねる」「経済社会労働委員会1期はなぜ失敗したのか」http://hatarakikata.net/modules/column/details.php?bid=512)を参照されたい。

俗説を克服して最低賃金引上げについて真面目な議論を
最低賃金を引き上げたら、経済や雇用が悪化するというのは一部の「経済学」によって広められた俗説である。アメリカでは逆の研究結果もあると聞いた。各国の時代・状況によっても最賃と雇用の因果関係は異り、一般化は難しいと思う。世界で最も長く賃金が下がり続けている現在の日本は経済状況が悪化している。非正規雇用が4割に近づき、雇用状況も改善されていない。その日本で最低賃金を引き上げれば低賃金労働者の生活だけでなく、経済も改善される可能性が大きいと思われる。俗説に惑わされることなく、最低賃金引き上げの意義を広く議論するべき時点である。


【関連記事】
□ 連続エッセイ - 第3回 最低賃金引上げと全国一律制導入に向けて 
□中澤秀一さん「最低賃金の引き上げが失業率を高める」は本当か? 最低賃金は1500円が妥当 (8/16) 

 

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 派遣労働者の労働災害、派遣先の安全衛生責任回避

 派遣労働者が派遣先で重大事故に遭い、派遣先会社の責任者が送検されたという記事が、労働新聞社のHPで本年上半期に最もよく読まれた記事だったことを報ずるTweetがありました。
 
派遣2日目で被災 右腕切断労災で霧島酒造を書類送検 都城労基署
2019.06.11 【送検記事】
 宮崎・都城労働基準監督署は、工場内における安全対策を怠ったとして、霧島酒造蝓糞楮蠍都城市)と同社主任を労働安全衛生法第20条(事業者の講ずべき措置等)違反の容疑で宮崎地検都城支部に書類送検した。平成30年11月、同社に派遣されていた労働者が右腕を切断する労働災害が発生している。
 被災した労働者は、同社に派遣されて2日目に被災した。焼酎の原料となる芋の運搬に使うコンベヤーの清掃作業に従事していた際、使用していたホースごと身体を巻き込まれている。
 同社は、清掃作業を行わせる際に機械を止める措置を講じなかった疑い。巻き込まれ防止のために設置されていたカバーは、清掃作業を行うために一時的に外していたという。
【令和元年6月4日送検】
 
 新聞報道によれば、元の事件は次のようなものでした。
福井新聞 2019年6月4日 午後7時30分
 焼酎「黒霧島」などのブランドで知られる霧島酒造(宮崎県都城市)の工場で昨年11月、コンベヤーを清掃中の女性が右腕を巻き込まれ切断する事故があり、都城労働基準監督署は4日、安全措置を怠ったとして、労働安全衛生法違反の疑いで同社と男性現場主任(37)を書類送検した。
 書類送検容疑は昨年11月21日、派遣会社から来ていた当時47歳の女性が、焼酎の原料のサツマイモを運搬するコンベヤーを清掃した際、運転を止めるか、危険な箇所に覆いを設けるなどの措置を取らなかった疑い。
 同社の担当者は「厳粛に受け止め、法令順守と労働環境の改善に全力で取り組む」とコメントした。
 
相次ぐ派遣労働者の重大事故 
 派遣労働者は、派遣元、派遣先との3面関係で働きますが、実際に働く派遣先事業場での安全衛生教育などが不十分なまま重大事故に遭う事件が少なくありません。
 私にも問い合わせがあった奈良の廃棄物リサイクル工場の事例では、同じ会社で3人もの派遣労働者が短期間に相次いで死亡する悲惨な事件でした。
奈良・コンベヤー死亡事故:リサイクル会社と責任者を書類送検 /奈良
 毎日新聞2016.10.12 地方版 
 奈良市の廃棄物リサイクル会社「I・T・O」の南庄工場(同市南庄町)で8月、ショベルカーとトラックに挟まれた男性作業員(56)が死亡した事故で、奈良労働基準監督署は11日、同社と工場責任者の男性生産管理課長(41)を労働安全衛生法違反の疑いで奈良地検に書類送検した。
 送検容疑は8月20日、技能講習を修了していない男性派遣社員(56)に無資格でショベルカーを運転させたとされる。死亡した作業員は木材チップを積んで後退中のショベルカーと停車中のトラックに挟まれた。
 今回の件も含め、同社の吉野工場(大淀町)と南庄工場では8月2日〜9月5日、労災死亡事故が3件相次いでいる。【塩路佳子】 

 労働組合は職場、地域のすべての労働者を代表する必要
 私には、派遣労働者の労災の話を聞くたびに労働組合は何をしていたのかと思います。こうした事件が頻繁に起こっているのに労働組合がこれを取り上げて闘う話はほとんど聞いたことがありません。派遣労働者を代表して闘う労働組合がほとんどないからです。
 
1)地域全体の「安全に働く権利」を守るイタリア地域労組
 30年前(1988年)、私はイタリアのボローニャに研究員として滞在していました。ボローニャの労働評議会(地域の労組組織)を訪ねた時に、ボローニャ地域の建設現場で労働者が死亡事故に遭ったということでした。その被災者は南部出身の出稼ぎ労働者でどの労働組合にも加入していませんでした。ところが、地域労働評議会の役員は、「私たちはボローニャという地域全体を代表しており、ボローニャで労働者の安全に働く権利が侵害されたのだから、私たちがこの問題に取り組むのは地域労組として当然の責務だ」と話してくれました。そして、その労働者の遺族を探し出して、評議会所属の専従弁護士が会社を相手とする訴訟代理人になるだろうとのことでした。
 
2)労安法は、労働者側の委員は、派遣労働者をも代表することを予定
 本来、労働組合は職場、地域、産業のすべての労働者を代表して闘う組織です。だから日本国憲法28条は、労働組合に特別な権利を認めたのです。別会社(派遣会社)に所属する派遣労働者を同じ職場で働いていても「仲間」と思わないのであれば、職場全体を代表する組合とは言えません。憲法が予定する労働組合の役割を果たしていません。現行労働安全衛生法は、派遣労働者も安全(衛生)委員会を作る人数にカウントしています。組合員だけを代表する労組であってはならないのです。
 
3)韓国の「危険の外注化」禁止を求める労働・市民運動
 昨年、韓国では、若い派遣労働者が、上記の日本の事件と同様に、機械に巻き込まれて亡くなるという事件が起きました。
 民主労総や労働安全保健団体が「危険の外注化」だと全国的な運動を起こしました。文在寅政府が国会に提出していた「産業安全保健法」(日本の労安法に当たる)改正案を保守系野党(自由韓国党)が審議を引き延ばして抵抗していました。これを批判して、労働組合や市民団体は、野党党本部の建物前で抗議集会を開くなど、活発な取り組みを展開しました。その結果、国会は昨年末ぎりぎりに産業保健法全面改正案を可決しました。改正法では、下請労働者に危険有害業務を押し付けること(危険の外注化)を原則禁止しています。つまり、韓国の派遣勤労者保護法(派遣法)では、派遣労働者が危険有害業務をすることを禁止していますが、これをさらに事業場内下請けにまで拡大し、発注企業(元請)の責任を強化しています。関連した情報は、下の(参照)urlからダウンロードできます。
 日本では、こうした「危険の外注化」禁止の取り組みは遅れています。原発での重層下請で危険業務は最も弱い間接雇用労働者に押し付けています。
 韓国でも日本と酷似した状況がありましたが、労働組合は、組合員だけでなく、未組織の派遣労働者を含めてすべての労働者を代表して、「危険の外注化」禁止の運動を進めてきたのです。
 イタリアや韓国の労組が、最も弱い立場の派遣労働者や出稼ぎ労働者(いまでは、外国人労働者)をも代表して労働者全体の権利を守る運動を粘り強く進めていることに学ぶ必要があると思います。
 
(参照)韓国における働くもののいのちと健康を守る取り組み http://hatarakikata.net/modules/column/details.php?bid=432
とくに、脇田滋「韓国における雇用安全網関連の法令・資料(9) : 産業安全保健法改正の概要(危険の外注化原則禁止等)」参照。
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非正規雇用労働をめぐる闘いの方向(4)
「労働者分断」を乗り越えてきた韓国労働運動(下)

第13回 「労働者分断」を乗り越えてきた韓国労働運動(上)http://hatarakikata.net/modules/wakita/details.php?bid=15 の続き

 
民営・韓国通信のリストラと労働者分断−契約職の孤立した闘い
 
 この20年間、韓国における非正規労働運動をめぐって実に多様な事件が生じました。その一つが、韓国通信をめぐる労働者の分断に伴う契約職労働組合の孤立した闘いです。2000年1月当時、公企業「韓国通信」(略称、KT。日本のNTTに相当する巨大企業)では、正規職が3万8000人、非正規職が約1万人雇用されていました。97-98年、韓国を襲った経済危機の中で、公的通信事業部門の「民営化」が進められました。民営化されたKTは、大規模なリストラ策を強行しましたが、その中で身分保障される正規職と、リストラの嵐が直撃する非正規職の間で深刻な対立・分裂が生まれました。そして、KT労組として団結・統一してリストラと闘うことができないまま、非正規職だけで組織された「韓国通信契約職労働組合」が結成されたのです。同年9月、正規職労組の規約変更によって、当時の労組法に基づき設立されました。当時、契約職労組の組合員は1000人近くに達し、個別企業の非正規職労組としては最大の組織でした。
 
 しかし、会社側のリストラ策は厳しいもので、約7000人の契約職を同年11月から12月にかけて解雇するとともに、補修業務部門(男性契約職)を請負化し、翌年(01年)には女性契約職らによる番号案内等の業務を廃止したのです。これに対して、韓国通信契約職労組は、賃金引き上げと待遇改善、雇止め反対と正規職化を要求して、2000年12月13日、ストライキに突入しました(800人参加)。以後01年1月18日まで、4次にわたるソウル上京闘争、12月28日には早朝の本社侵入座り込み、1月16日、漢江大橋「高空デモ」などを展開しました。その後も、会社側との衝突や電話局占拠等で警察と衝突し、負傷や拘束を受けながら、02年5月12日、具体的な成果のないまま517日間の長期闘争を終えました。 
 
通信契約職労組の抗議活動 漢江・高空籠城
(ハンギョレ新聞2014年1月5日) 
 この契約職らの運動は、「非正規職問題の社会化と非正規職運動の前進」に決定的な役割を果たすものでした。非正規職化を政策的に推進する政府や資本に対抗して、非正規職全体の利害と要求を掲げて闘った「代理戦的な性格」の闘争でした。この闘いを非妥協的に献身と犠牲によって展開した精神は、以後の多くの非正規職労働運動に貴重な教訓を残したものとされています。
 
 ただ、正規職で組織されるKT労組は、民主労総に所属する3万人規模の大組織でした。しかし、通信契約職たちを組織せず、また、その闘争に一切共同することもなく孤立させたまま「見殺す」ことになりました。これについて、民主労総の中でKT労組に対する強い批判の声が上がりました。これは、その後、同労総が内部に抱える深刻な葛藤要因となりました。そして、2009年7月、KT労組は組合員3万人による投票の結果、95%の賛成で脱退案を可決し、「共生と連帯の運動」を進めるとして民主労総から離れ、独自の労使協調路線をとることになったのです。〔注5〕
〔注5〕李元甫『韓国労働運動史-100年の記録』(2005年)(韓国語)、民主労総政策研究院『民主労総10年年表、1995―2005年』2005年(韓国語)、全国非正規職労働組合代表者連帯会議(準)「非正規職労働者闘争の歴史」(2005年1月)(韓国語)
 
非正規労働運動の本格的開始
 
 韓国通信=KTをめぐる事態は、民営化をめぐって有数の大労組が分裂に至ったという点で日本の国鉄民営化をめぐる状況と重なる面があると思います。日本との違いは、この事件が、韓国の労働組合運動に大きな影響を与え、運動の方向を変えることになったことです。民主労総だけでなく、民主労組運動を進める中心であった活動家たちが、この事件がもたらした結果は、韓国労働運動にとっては重大な危機であり、運動の大きな後退につながりかねないと懸念して真剣な議論を展開しました。この議論を経て提起された新たな方向が二つありました。つまり、(1)非正規職問題に特化して取り組む市民団体の結成と、(2)企業別組合の組織的限界を脱して産業別組織に転換することでした。
 
(1)「韓国非正規労働センター」の設立
 
 民主労総だけでなく、もう一つのナショナルセンターである韓国労総を含めて、労組、市民団体の活動家、労働社会研究所など労働側シンクタンク所属の研究者が中心となってNPOを結成し、「非正規労働センター」を設立しました(2000年5月20日)。その直後、同年5月29日、ソウル市中小企業会館で設立記念シンポジウムが開催されました。このシンポジウムのテーマは「派遣勤労者保護法2年 どう正規職化するか」でした。
 
 
 1998年、韓国で制定された派遣法(派遣勤労者保護法)では、派遣は2年が上限でそれを経過すると正規職に転換したとみなすという、ドイツ派遣法に近い内容が含まれており、日本より厳しい規制でした。この法施行2年が経過する直前の時期でした。それで、シンポジウムのテーマとして、派遣先への正規職転換問題が取り上げられたのです。同シンポジウムでは、|鋪杞澄淵瀬鵝Ε咼腑鵐曄北閏舅総委員長の挨拶に続いて、∨兢剤(パク・スンフップ)センター長が基調報告し、F韓の派遣法についての報告、て鸞舅総、政府、主要政党代表、民弁などからの発言が続き、熱心な議論が展開されました。〔注6〕
〔注6〕 このうち、の日本報告は、直前に同センターから依頼されて訪韓していた私が担当することになりました。85年の派遣法が限られた対象業務で出発したが、99年法で業務限定がなくなったこと、派遣労働者の過酷な状況などを報告し、派遣法は「毒の缶詰」で撤廃するべきだと主張しました。
 
(2)企業別から産業別への労組組織の転換
 
 KT事態をきっかけに「産業別労働組合への組織転換」を速めようという議論が高まりました。労組として真正面から非正規職問題に対応しないと、財界と政府が進める労働政策は正規・非正規に労働者を分断し、労働組合運動全体を弱体化させるものだという認識が深まったのです。非正規職が最初にリストラされても、正規職は、自らの雇用は、それを安全弁に保障されると「誤解」するが、それこそ経営側の戦略だということです。実際、経済危機のときには人件費がかかる正規職のリストラも少なくなかったのです。
 
 そして、こうした企業側の労働者分断政策に対抗するには、企業別正規職組織では不可能だから、企業別組織の限界を乗り越えて産別労組に組織転換するべきだという声が労働組合運動の中で広く沸き起こってきたのです。とくに、民主労総は1995年の創立時に既に「産別組合化」を基本方針にしていましたが、それは遠い目標であって、実際には、1987年の民主化闘争時に、事業所・工場ごとに自然発生的に結成された企業別組織のままだったのです。私は、2000年に訪韓したとき、韓国の労働組合活動家の間では、「このまま企業別組織に止まれば、日本のように闘えない労働組合になってしまう」という議論もあったことを聞きました。
 
 そして、2000年前後から産別労組転換への取り組みが本格化します。金属産業部門では企業別組織の連合体であった「金属産業連盟」が、自ら産別労組への転換方針を立てました。事業場別で闘うだけで困難な状況が現れたので、企業を超えて一つに団結し産別労組に転換することが組織的な課題と認識されることになったのです。そして、2001年2月、代議員大会で産別労組転換方案を決議した後、労働組合設立申告手順を踏んで全国金属労働組合が設立されたのです。同様に、この時期に保健医療労組、金融労組といった大規模産別労組が発足しました。
 
 金属労組の場合、2006年に、現代自動車など大工場労組が転換を決議して名実ともに産別労組への転換が実現しました。そして、次に述べる現代重工労組の「除名」という難関を越えて、ようやく15万人を組織する単一産別労組として非正規職や中小・零細事業所の劣悪労働条件問題、さらには大規模整理解雇、長時間労働問題の解決に向けて大きな役割を果たしてきたのです。〔注7〕
〔注7〕キム・ギドク「産別労組への道」毎日労働News2018年9月4日
 
 現代重工業には民主労総を代表する「剛性」の大労組があり、90年代まで全労働運動の先頭に立ってきました。ところが、経済危機以降、労組執行部が労使協調の「会社派」に変わりました。その結果、重層下請関係で最底辺下請労働者の組織化を進めようとしていた産別組織=金属労組中央と、現代重工労組が厳しく対立しました。そして、2004年2月、労働条件改善に率先してきた下請労働者が焼身自殺しました。ところが、正規職労組執行部は、労働者の死を無視して霊安室に乱入して暴力を振るうなど反労働者的行為をしました。これにより、2004年9月、上部団体の民主労総・金属連盟は現代重工労組を「除名」したのです。その後、約13年を経過して労組選挙で執行部が交代して産別組織に復帰しました。〔注8〕
〔注8〕現代重工業労組の変転は、韓国労働運動にとって特筆すべきことだと思います。李元甫『韓国労働運動史-100年の記録』(2005年)(韓国語)
 
 2019年になって、この現代重工業で、正規職労組と非正規職労組が共闘することになったというニュースが伝えられました。
(下の写真は2019年7月8日、民主労総蔚山本部で開催された現代重工業元・下請労働者共同の決起集会)
 
 今回は、造船業の低落で会社自体が分社化などリストラを開始しようとする時期です。KTのリストラをめぐって正規・非正規が分断された事態と重ねて考えると、今回は、民間企業の大労組が非正規職と共闘して会社側と対峙するということになります。日本の労使関係ではほとんど聞くことのない驚くべき事実です。この現代重工業をめぐる労使紛争がどのように進展するのか、目を離すことができません。
 
 以上述べた通り、韓国労働運動は、KT事件や現代重工事件で、正規職と非正規職の分断を利用して労組を分裂・破壊しようとする経営側と対抗してきました。その中で、非正規問題に取り組むことは、労働者全体の団結を守ることと不可分であるという認識が深まりました。労働者の分断を乗り越え、現在では非正規運動を周辺問題でなく、労働組合にとって中心的問題と位置づけるようになりました。そして、その過程で産別労組転換という世界にも稀な事業を実現し、さらに近年は、「多くの市民運動と連帯する開かれた労働運動」が目立っています。
 
 こうした韓国労働運動の動向は、労働組合運動の停滞が長く続く日本において、今後、どのように困難を乗り越えれば良いのか、大いに参考にできることだと思います。
 

【関連動画】2017年6月30日 民主労総を中心とした「社会的ゼネスト」(日本語字幕付き)

https://drive.google.com/open?id=1gMbrgs_p6YoHWc82OiRWB9DIQP1RbMHE

 

 

 

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非正規雇用労働をめぐる闘いの方向(3)
「労働者分断」を乗り越えてきた韓国労働運動(上)
 
注目ニュース 非正規職の大規模ストライキ
 
 最近、韓国で非正規労働運動をめぐって注目されるニュースがありました。公共部門の一つである「学校非正規職」(「非正規職」は非正規雇用労働者のこと)たちが、7.3.〜7.5.の3日間にわたって全国で10万人が参加するストライキを実施したことです。〔注1〕
〔注1〕 「学校非正規職」とは、全国の小中学校で働く給食調理員、学童指導員、司書、栄養士、売店管理、教務実務士、専門相談士、スポーツ講師など多様な業務で働く非正規職。毎日労働News2019年7月4日 http://hatarakikata.net/modules/hotnews/details.php?bid=873
 
 従来、ストライキどころか労組活動も難しかった公共部門非正規職たちが労働運動の前面に出てくるようになりました。多くの困難を乗り越えて団結し、自らの雇用安定と労働条件改善のためにストライキ権を行使できるまでになったのです。ストライキが多い韓国ですが、非正規職がこれほど大規模なストライキを実施したのは初めてです。
 
 近年、日本ではストライキそのものが少なくなり、ほぼ皆無に近い状況です。第二次大戦前の争議日数より少ないと指摘され、いつの間にか日本は「ストライキのない国」になっています。〔注2〕
〔注2〕日本の労働争議については、JIL「労働争議件数の推移 1946年〜2017年」参照。 https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0702_01.html
 
 韓国でも使用者は労組を嫌ってストライキには解雇、損害賠償など民事責任を厳しく追及しますが、政府・警察も、ストライキに伴い労組役員を逮捕・拘禁する刑事弾圧が頻繁に生じています。そうした韓国で、何故、最も弱い立場にある非正規職たちが大規模なストライキを実行できるまでになったのか、今回エッセイでは、その背景を調べて見ました。
 
企業別「縦断」的労使関係で深刻化する非正規雇用 共通する日本と韓国
 
 日本では、非正規雇用と正規雇用との間には大きな格差があります。この「常識」は、欧州では通用しません。日本と欧州の状況は大きく違っており、非正規雇用といっても日本ほどの格差はありません。ドイツ、フランスでは、産業別全国労組と使用者団体が、個々の企業を「横断」して団体交渉を行い、全国規模で労働協約を締結します。この協約は、組合員以外の労働者にも拡張適用されるという慣行が確立しています。
 
 これによって企業を超えて仕事(職務)別に賃金をはじめとする労働条件が最低基準として決まり、正規・非正規の区別なく同一労働同一賃金原則が貫徹されます。そして、こうした各国内の慣行を前提に、EUはパート、有期、派遣の3指令で、非典型雇用(atypical employment)への「非差別原則」を明示し、この指令に対応して加盟諸国の国内法が改正・適用されています。〔注3〕
〔注3〕 エッセイ - 第12回 正規・非正規雇用の平等を求める外国の労働法制 http://hatarakikata.net/modules/wakita/details.php?bid=14
 
 これとは違って日本と韓国では、非正規雇用の弊害がきわめて深刻です。なぜなら、両国は共通して欧州とは逆に、労使関係・労働条件が企業別に「縦断」されているからです。そのために、非正規雇用が「雇用身分」と言える程に不合理で差別的な待遇を受けることになっています。日韓両国では、経済成長期にヾ覿箸瓦箸飽磴Α崕鎮如彭労働条件、男性片働きモデルの雇用慣行として、4間を定めない契約でで功賃金を特徴とする「正規雇用」(韓国では「正規職」と呼ぶ)が通常の雇用モデルとなりました。
 
 ところが、日本では1980年代から、韓国では1997-8年の為替危機による経済成長の急激鈍化の中で、正規とは対照的な「非正規雇用」(韓国では「非正規職」)が広がりました。その特徴は、…穃瑤箆働条件(パート賃金などは、企業横断的に共通・類似している)、⊇性が多い(なお、韓国では男性の比率が日本より多い)、4間を定めた契約、て碓賚働差別賃金という点です。
 
 ただ、日本では、非正規雇用の中で、(a)パート・アルバイトと、(b)フルタイムの派遣・契約社員の間で大きな違いがあります。(a)は「家計補助型」という点で、夫や親の「被扶養者」として税制や社会保険制度の枠(年収100〜130万円上限)の中で一定の「優遇」を受けるタイプです。なお、韓国の場合、(a)のような制度的年収上限内で働くタイプはありませんが、朴槿恵政権の際に、日本的パート導入を求める経営者団体の要望が強まり、「時給制」で働く「時間勤労」が増加しました。現在、若者の間で、この時間勤労の形態(韓国では「アルバ」と呼ばれる)が広がっています。〔注4〕
〔注4〕 脇田滋「韓国における雇用社会の危機と労働・社会保障の再生」『雇用社会の危機と労働・社会保障の展望』(日本評論社、2017年2月)
 
非正規職の実態 規模と推移
 
 韓国で注目できるのは、非正規職の実態について調査や分析が日本よりも詳細であり、また、多くの研究者がこのテーマで議論を行っていることです。日本と違って韓国では「統計庁」が設置され、「統計」を重視しています。この統計庁が毎年、「経済活動人口調査」を行い、その「付加調査」で雇用形態にかかわる調査結果を発表します。これを基に、政府機関の雇用労働部や、政府系研究機関の労働研究院だけでなく、民間研究機関である「非正規労働センター」や「労働社会研究所」が独自の分析を行っています。
 〔図1〕は、非正規労働が増加した2000年代初めのものですが、政府系分析では、有期雇用(韓国では「限時労働」という)のうち、期間1年を超えて就労するものを除外するので非正規職の数・比率が少なくなっています。これに対して、民間研究機関では、1年を超えて就労しても有期の場合は雇用不安定だと解釈して非正規職に含まれるので非正規職に分類される数・比率が多くなります。この非正規職の比率の違いは約20%もありました。
 
 その後、非正規職の無期転換が進んで最近は状況が大きく変わってきました。政府統計では、2018年下半期では、非正規職は661万4千人、33.0%です。これに対して韓国労働社会研究所のキム・ユソン理事長が、上記の政府統計を独自に分析して毎年発表されており、これは実態をよく示している分析として広く注目されています。
 
 〔表1〕は、キム理事長が分析した、最新(2018年8月)の非正規職規模・比率です。それによれば非正規職は2018年8月で820万7千人、40.9%で、政府統計より159万3千人、7.9%も多い数字です。これには、有期雇用(限時勤労、期間制)やパート・アルバイト(時間制)だけでなく、派遣と用役(事業場内下請)の間接雇用も含まれるだけでなく、さらに、個人請負形式就業者である「特殊雇用」も広く「非正規職」に含まれています。同博士の分析は、非正規労働センターが独自に分析する結果にも近いもので、非正規職の実態をより正確に表すものとして、労働組合だけでなく多くの研究者からも支持されています。
 
 キム・ユソン博士らの分析によれば、正規職・非正規職は、盧武鉉政権時代に「非正規職保護法」が制定される直前には非正規職が全体の56%と過半数を超えるまでに拡大していました(〔図1〕)。それが、〔図2〕が示すように、同法制定以降、徐々に縮小し始め、朴元淳市長が就任して2年目の2012年以降、ソウル市が大規模な正規職転換を行った時期から大きく低下しています。現在では、非正規職は全体の過半数を大きく下回り、近い将来40%をも下回る趨勢です。とくに最近2年間は、文在寅政府が、ソウル市に倣って公共部門非正規職の正規職転換政策を先頭に立って推進しており、それが統計でも非正規職減少として現れていると考えられるのです。
 
 →エッセイ 第14回 「労働者分断」を乗り越えてきた韓国労働運動(下)http://hatarakikata.net/modules/wakita/details.php?bid=16 へ続く
 

 

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