画期的なEU新ガイドライン(2022.9.29)
欧州連合(以下、EU)委員会は、2022年9月29日、「単独自営業者の労働条件に関する団体協約への欧州連合の競争法の適用に関する指針(Guidelines on the application of Union competition law to collective agreements regarding the working conditions of solo self-employed persons)」(以下、「ガイドライン」と略称)を公表し、加盟諸国と関係機関・団体などに通知しました。EU委員会が新たに採択した、この「ガイドライン」は、特定の自営業者が、EU機能条約(TFEU)などが定める「競争規則(EU competition rules)」に違反することなく、労働条件の改善について団体交渉を行うことができる場合を明確にしたものです。
EUのプレスリリースによれば、EU委員会の担当者であるヴェスタガー(Margrethe Vestager)氏は、「ガイドライン」の目的について、「デジタル経済とその先にいる単独自営業者は、個人で良好な労働条件を交渉することができないため、困難な労働条件に直面する可能性がある。集団で交渉することは、そのような状況を改善するための強力な手段となり得」ること、そして、「ガイドライン」は、「競争法が、より良い取引のための団体交渉の努力の妨げにならない場合を明確にすることで、単独自営業者に法的確実性を提供すること」を目的としていると述べています。
つまり、EUの機能条約(TFEU)第101条は、競争を制限する事業者間の協定を禁止しています。企業(事業者)の自由な経済競争がEUの基本原則とされ、経済競争を不当に制約する「トラスト」や「カルテル」などの独占行為を規制することが重視されてきました。ただ、使用者と、雇用による労働者の間の労働協約は、EUの競争規則の対象外とされてきました。しかし、自営業者は「事業(undertakings)」とみなされるため、料金やその他の取引条件について団体交渉を行う場合、競争規則に抵触する恐れがあることになります。そして、実際に、自営業者の労働条件をめぐる団体交渉がEU競争規則に違反する場合と、そうでない場合の区別が不明で、関係の間での見解が分かれて、争われる例が多くなっていたのです。
今回の「ガイドライン」は、こうした争いが生じないようにするためのもので、次のような規制を導入しています。
第一に、「ガイドライン」の適用対象者は、「単独自営業者(solo self-employed people)」に限られます。この「単独自営業者」とは、「完全に自分だけで仕事をし、他人を雇用しない自営業者」とされています。
第二に、「ガイドライン」は、特定の自営業者が、EUの競争規則に違反せずに、労働条件を改善する団体交渉を行える状況を明確にしています。そして、「ガイドライン」の主要な規制内容として、以下のことが明確にされました。
(1)競争法は、労働者と同等の(comparable)状況にある単独自営業者には適用されません。その例としては、
①独占的または主に一つの事業に対してサービスを提供する単独自営業者
②労働者と肩を並べて(side-by-side)働く単独自営業者
③デジタル労働プラットフォームに対して、または、それを通じてサービスを提供する単独自営業者
(2)交渉力の弱い(in a weak negotiating position)単独自営業者が結んだ労働協約に対しては、EU競争規則は適用されません
第三に、この「ガイドライン」は、オンライン以外の単独自営業者も対象にしていますが、プラットフォーム労働をめぐる指令案などのオンライン経済で働く労働者に対するEUの一連の行動の一環でもあるということです。
上記「ガイドライン」の英語原文(Guidelines on collective agreements by solo self-employed)を日本語に仮訳しました。EU法の専門知識が乏しいために訳語は正確でない箇所がありますが、日本語仮訳のpdfファイルをアップしました(クリックしてダウンローすることが可能です)。誤訳や意味が不明な箇所など、お気づきのことがあれば、是非、ご指摘下さい。
自営業者の集団的活動が直面してきたEU諸国の障壁
EU諸国では、雇用労働者が労働組合を組織し、使用者(使用者団体)との団体交渉を通じて、賃金、労働時間をはじめとする労働条件を定める労働協約締結などの集団活動をすることが重視され、労使慣行として定着してきました。
ところが、自営業形式の就労者は「事業者」であるとして、競争法の適用があるとして雇用労働者とは大きく違った扱いをする、経営者、国(行政、裁判所)の対応が見られました。伝統的な労働組合にも、自営業者の集団活動への理解、共感が強まってきたのは比較的最近である国も少なくありません。とくに、労働組合の中では、新自由主義的傾向が強まり、非標準的雇用の広がり、さらに、偽装的な自営業の広がりなど、企業・使用者側の法的責任回避の濫用的雇用管理にたいする危機感が高まってきました。
こうした背景で、自営業者の団体(組合)が、対抗する使用者(業者)団体と集団交渉を通じて「協約」を締結することが、「競争法」対「労働法」の対立として、裁判を含む法的な争いの焦点になってきたのです。
Fulton(2018) 『自営業労働者を保護する労働組合』(FULTON L. (2018) Trade unions protecting self-employed workers)は、EU諸国での自営業者をめぐる欧州労連(ETUC)調査をまとめた小冊子です。自営業については、「雇用の地位」とともに、集団的活動をめぐる状況と障壁についても概観しています。その「競争法が団体交渉権に及ぼすマイナスの影響」という箇所(66頁)では、自営業者の団体交渉が困難な理由は、使用者側の敵意だけでなく、「競争法の影響」が指摘されています。つまり、EU機能条約第101条の国内実施を通じて、競争を歪曲または排除するために事業者が合意することを禁止することを意図していますが、この競争法の現在の解釈によって、自営業者の団体交渉に直接的な損害が与えられていることが指摘されているのです。各国での主な問題点は以下の通りです。
・ デンマークでは、2002年と2010年に、最初は、競争当局が、次に労働裁判所が判決を下し、団体交渉で条件を決めるフリーランス記者の数を激減させました。
・アイルランドでは、2004年に競争当局が俳優対象の協定を違法とする判決を下しました。なお、これは、2017年の新しい法律で覆されています。
・オランダでは、2007年、競争当局の判決で、まず、欧州裁判所に提訴され、その後、国内裁判所で競争当局の判決が覆されましたが、それにもかかわらず、競争当局は自営業者の団体交渉について非常に制限的な指針を出し続け、直近では2017年2月に発表しています。
・スペインでは、一部の自営業者に対する限定的な交渉形態を認める法律がありますが、同法は、EU競争法に定められた「制限と条件」に特に注意を促しています。
・さらに、デンマーク、ドイツ、スウェーデンでは、競争法がジャーナリストの推奨料金作成に否定的な影響を与えています。
新ガイドラインを歓迎する労働組合
今回の「ガイドライン」は、この問題をめぐって、従来の判例も踏まえて、自営業者の団体交渉と協約締結を広く認める方向に大きく舵を切ったことになり、大きな注目を集めているのです。そして、「ガイドライン」に対して、多くの労働組合からの「歓迎」の声が寄せられています。
欧州労連(ETUC)
欧州労連(ETUC)は、従来、自営業者(self-employed worker)が団体交渉に参加しているのは、10ヵ国にとどまり(2018年調査)、EU諸国の大半で自営業者の団体交渉に対して「EU競争規則」の不正確な適用によって、団体交渉権の行使に苦慮する状況があったが、欧州委員会の今回「ガイドライン」が、「EUの競争法が単独自営業者が団体交渉に参加することを妨げるものではないことを明確にした」との評価を表明しました(ETUC「自営業者の団体交渉を後押し」)。
ETUCは、「ETUCと加盟組合の長年の要求は、いかなる労働組合も反トラスト法上のカルテルとして扱われないようにすることであった」とし、新たな「ガイドライン」が「自営業者が労働条件を集団的に改善する権限を与える一方で、団体交渉のプロセスを国家レベルの労働組合に委ねることを重要視している」と指摘しています。そして、「ガイドライン」は、「EUに2,400万人以上いる自営業者やフリーランスの労働者の多くに恩恵をもたらすだろう」として、その意義を高く評価しています。とくに、自営業者(フリーランス)形式の就労者が多い分野である、メディア、芸術、娯楽などの分野(全労働者の約半数)や建設業(約4分の1)、さらに、デジタル・プラットフォーム分野の労働者について、組合組織化と団体交渉の可能性が広がることを指摘しています。
ETUCのシェマン書記は、「競争政策は、労働組合が偽装自営業や真の自営業者の虐待に取り組むことを妨げてはなりません。請負業者やデジタル・プラットフォームは、競争に関する懸念を、労働組合と交渉に応じない口実として使うことはできません。自営業者を二級労働者として扱ってはならないのです」と述べ、「労働組合に加入する権利、団体交渉権、団体行動を起こす権利はすべて、国連やILO、欧州評議会やEU自体によって認められている普遍的な労働権です。これらの基本的な権利は、もちろんEUの競争法をも拘束します。これらの権利の尊重は、自営業者と関わる競争当局や企業の慣行に反映されなければなりません」と表明しました(2022年9月29日EFJサイト)。
欧州ジャーナリスト連盟(EFJ)
自営業(フリーランス)が多いジャーナリスの組合(Europena Federation of Journalists = EFJ 欧州ジャーナリスト連盟)も、「フリーランスの労働協約交渉にEUからゴーサイン」という記事をアップし、新「ガイドライン」を歓迎しました。そして、同ガイドラインは、「特定の自営業者が、EU競争規則に違反することなく、労働条件の改善について団体交渉を行うことができる場合を明確にするものす。これは、何万人ものフリーランスのジャーナリストの多くに恩恵をもたらすことになります」(2022年9月29日EFJサイト)。
UNIglobaunion
UNIglobalunionも、オリバー・ロエヒグ氏(UNIヨーロッパ地域事務局長)が、「ガイドライン」は、「人々の尊厳を競争の領域から取り除くための重要なステップです。労働者の賃金と条件が、競争上の優位性を獲得するための予算ラインとしてのみ見られる場合、それは底辺への競争を引き起こします。強力な団体交渉が解決策です。一緒に、働く人々は、すべての人に共通の尊厳の土台を確保するために交渉することができます」と、歓迎の意見を表明しました(2022.9.29Uniglobalunionサイト)。
EUのプラットフォーム労働対策
EUでは、2017年に就任したユンケル委員長を先頭に、従来の「フレキシキュリティ」と呼ばれる方向から、新自由主義的政策を修正し、社会的格差を解消し、非標準的雇用や自営業形式で働く脆弱な階層の人々の社会的権利を重視する方向へ大きく転換しました。それを象徴する「社会権の柱(Pillar of Social Rights)」を公表しています(JIL 欧州委、「欧州における社会権の柱」を公表、2017年9月参照)。
EUは、新たに登場した「デジタル労働プラットフォーム」を介して働く労働者の保護についても、アメリカ、日本などには見られない積極的な対応策を示しています。
その一つは、「オン・コール労働」や「オン・デマンド労働」、あるいは「ゼロ時間契約」と呼ばれる、新たな就労形態の弊害への対策です。これに対してEUは、2019年、「透明で予見可能な労働条件指令」を採択し、それに基づいて現在、加盟27ヵ国は、同指令に基づく国内法の制定や改正を進めています。この指令は必ずしもプラットフォーム労働だけを対象にしたものではありません。しかし、Uberなどに代表されるプラットフォーム企業で働く労働者は、自営業形式であるというだけでなく、アプリを通じて不確実な・不安定な形で仕事の要請を受け、それに応じて働いていますので、「オン・コール労働」という特徴をもっています。2019年指令は、明らかにプラットフォーム労働にも適用されると考えられるのです。※
※「オン・コール労働」は、日本では「シフト制労働」として問題になっているが、世界的に広がる、新たな不安定労働として重視することが必要です。EUの2019年指令については、濱口桂一郎『新・EUの労働法政策』(労働政策・研修機構、2022年)、同「EUにおける『シフト制』労働に対する法規制」労働法律旬報1996号(2021年)7頁以下参照。
「誤分類」=「雇用上の地位」をめぐるEU各国での裁判
2020年、コロナ禍が世界に広がる中で、食事をはじめ必要物資を宅配する運送・物流業でUberやAmazonなどのデジタル労働プラットフォームで働く労働者に注目が集まりました。とくに、労働法の適用を受けない「自営業者」として働く、プラットフォーム労働者が、コロナ感染や交通事故の危険がある身近な地域を走り回っているのにもかかわらず、きわめて不安定で低劣な労働条件である問題が浮上したのです。
そして、EU各国では、プラットフォーム労働者が、自営業者であるのか、それとも労働者であるのかという「雇用上の地位」をめぐって多くの裁判が提起されました。実態は雇用労働者と変わりがないのに、労働法適用のない「自営業者」として使用者責任を回避する企業の対応が「誤分類(misclassification)」であるとする問題です。そして、フランス、イタリア、スペイン、イギリスでは、最高裁判所(または、破毀院)では相次いで、いずれもプラットフォーム労働者が労働法の適用を受ける雇用上の地位があると認めることになりました(下表参照)。
EU各国でのプラットフォーム労働者保護立法
さらに、フランス、イタリア、スペインでは、配達関連の労働者(ライダー)の権利を守る法律制定の動きが見られました。
まず、フランスでは、 2016年の「労働と社会的対話の現代化、職業的経路の保障に関する法」が制定されました。この法律は、「電子的方式のプラットフォーム(PF)を利用して作業活動を行う非賃金労働者」について注目すべき規制を導入しました。つまり、○労働組合を結成する権利、○労働組合に加入する権利、○労働組合を通じて自らの利害を代弁させる権利、○集団行動ができる権利、○プラットフォームで働いた経歴確認書をプラットフォームに要請できる権利、○プラットフォーム企業の労働者が労災保険に任意加入するとき、保険料を支払う義務、○一定時間以上働く労働者に職業訓練分担金などを認めています。
次に、イタリアでは、ボローニャ(Bologna)市が主導して、ライダーユニオン(Rider Union)、3大労組、ボローニャ市議会、配達プラットフォーム数社 が共同で参加して、2018年5月 「デジタル労働権の基本原則に関する憲章」を定め、大いに注目されました。そこでは、○報酬を公正な固定時給で支給、 ○国内の同一 ・類似産業を代表する労働組合が結んだ団体協約の最低賃金以上を支給、○時間外、休日勤労などの手当支給、○差別禁止、○解雇の公式通知と事由提示、○労災保険適用、○移動手段(二輪車など)の維持費用支給、○結社の自由とストライキ権の保障が定められていました(憲章の条文訳を含めて、詳しくは、エッセイ第61回「雪のストライキ」とボローニャ市・ライダー基本憲章」参照。)
さらに、スペインでは、ヨランダ・ディアス労働長官が仲介して政・労・使の話し合いが進み、その合意を基にして、2021年5月、ライダー(Ley Riders)法が制定されました。この「ライダー法」(正式名「デジタルプラットフォームを介した配達に専念する人々の労働者の権利の保護」に関する法令)は、ライダーについて「雇用の推定」を前提に労働者としての地位を安定化させ、また、「労働条件に影響を与えるアルゴリズムまたは人工知能システムについて労働者に通知する」義務をPF企業に課するという画期的な内容で、これは、後述のEU指令案のモデルになったと考えられています。
EU「プラットフォーム労働者の労働条件」指令案をめぐる動向
EU指令案とその内容
その後、2021年12月9日、EU委員会「プラットフォーム労働における労働条件の改善に関する指令案」を発表しました。「指令案」では、「雇用上の地位改善」と「アルゴリズムの情報公開」が取り上げられました。
まず、指令案は、デジタル労働プラットフォームを通じて働く人々が、実際の仕事の取り決めに対応する法的な雇用上の地位を確実に与えられることを目指すことになり、プラットフォームが「使用者(employer)」であるかどうかを判断するための管理基準のリストを提供し、①報酬水準を設定しているか、②電子的手段で労働状況を監督しているか、③労働時間や休暇取得の自由を制限しているか、④服装や行動などを拘束する規則があるか、⑤顧客基盤の構築や第三者のために働く可能性を制限しているか、という5基準のうち、プラットフォーム企業がこれら5基準のうち少なくとも2つを満たしていれば、法的には、「使用者」であると推定される、とするものです。これは、「立証責任の転換」を意味するもので、使用者側が「真の自営業者」であることを証明しなければ、プラットフォームを通じて働く人々は、「労働者(worker)」の地位が認められることになります。その結果、それに付随する労働者の諸権利および社会保障上の諸権利を享受することになります。つまり、労働者として再分類された人々が、最低賃金(存在する場合)、団体交渉、労働時間と健康の保護、有給休暇の権利や労働災害に対する保護の改善、失業給付と疾病給付、拠出型老齢年金などの権利を享受することを意味しています。※
また、別途詳しく紹介したいと思いますが、プラットフォーム労働者をアプリを通じて厳しく管理し、AIによって評価する、PF企業の「アルゴリズム」を労働者代表(労働組合)に情報公開する義務を課したことは大いに注目されるものです。
この「雇用の推定」による立証責任転換は、スペインの2021年「ライダー法」だけでなく、その2年前の2019年のアメリカ・カリフォルニア州法(AB5法)が採用したものです。詳しくは、エッセイ「第27回 「雇用によらない働き方」についての考察(下)」参照。
プラットフォーム企業からの反発とロビー活動
このEU指令案に対して強い危機感を抱いたのが、プラットフォーム企業の中でもUberなどは、EU議会メンバーなどを相手に活発なロビー活動を行って、PF企業の利益を守ることに躍起になっていることが報道されています。それ以外にも、指令案への企業側の反発もあって、EU各国の政労使の合意を得て、指令案が最終的に確定するまでには紆余曲折があると思われます。※
日本のメディアで報じられることは、マクロン仏大統領、Uberに便宜か 英紙が社内文書を入手(2022.7.12 朝日新聞)などがありますが、多くはありません。しかし、欧州では「Uberファイル」というキーワードで、PF企業の暗躍に大きな注目が集まっています。例えば、波紋呼ぶ「Uberファイル」 首脳級巻き込む国家スキャンダル?(2022.7.23 the OWNER)参照。
このスキャンダルを厳しく告発する立場から、IAATW(アプリ型運輸労働者国際連盟)は下記(日本語仮訳)のような説明を要求しています。(赤字部分をClickして下さい)
アプリ型運輸労働者国際連盟(IAATW-International Alliance of App-Based Transport Workers)
2022年7月12日
ドライバーは説明責任を要求
Uber、政府、労働組合、政策立案者に説明責任を求める
最近公開されたUberの内部業務に関する数千のメモや電子メールは、市場シェアを拡大するために法的・倫理的基準を妥協してきたアプリ型輸送業界の醜い裏面を明らかにしています。Uberやその他のプラットフォーム労働企業で働くアプリベースドライバーの世界的な連盟の加盟団体として、私たちは共に立ち上がり、意図的に法律を破り、ドライバーや乗客への安全を著しく無視して命を危険にさらし、危険で無慈悲な方法で営業を続けているUberへの対策を議員に要求しています。
これらの暴露は驚くことではありません:ドライバーは、企業リーダーによるこうした危険な行為を何年も見てきました。「私は、Uberファイルによって明らかになったことにショックを受けてはいません。詳細を読んで感じたことは、労働者と一般人の権利に対するこの犯罪的法違反に参加し、参加し続けた人々の数に愕然としたということです」と、シャイク・サラウディン氏(インドのアプリ型交通労働者連盟(IFAT)、IAAATWの加盟団体)は述べました。
Uberは、これらのファイルによって強調された本来の危険な使命から脱却していません:法律を破り、運転手と乗客の命を危険にさらし、市場シェアを獲得するために、今もなお活動を続けているのです。Uberの再製はありません。Uberは長い間、我々は初期のUberではないと言おうとしてきましたが、Uberが現在ドライバーに対して行っていることをざっと調べただけでも、最低水準以下の賃金と危険な労働条件でドライバーを残酷に搾取するための慣習を続けていることは明らかです。
Uberは、その違法なビジネスモデルによって引き起こされている人的被害について責任を負わなければなりません:ニューヨークからムンバイまで、世界中の都市で、数え切れないほどのドライバーが自殺し、うつ病になり、借金を背負うことになりました。人間の苦しみに加え、運転手や乗客から金を巻き上げ、法の外で活動する会社の破壊的な行為によって、都市交通システムや都市経済に取り返しのつかない損害が発生しています。私たちは、世界中の政府が調査委員会を設置し、議会や公聴会を開き、選出された代表者による委員会を構成し、Uberやその他のアプリ企業の責任を追及するための他の制度的方法を実行することを要求します。そのようなプロセスは、国民の説明責任を保証するだけでなく、ドライバーの労働基準やすべての人の安全を向上させる適切な規制インフラを整備するための土台となるものです。
労働者を売り渡す取引はあり得ません:流出した文書は、政治指導者、学者、政策立案者が妥協する体系的なパターンを明らかにしています。このような妥協パターンは、ドライバーを売り渡し、Uberに隠れ蓑を与えてきた数多くの組合やその他の組織にも当てはまります。私たちは、労働運動が最高の労働基準のもとに団結し、黄色企業組合や労働基準を低下させるそのようなすべての活動に終止符を打つことを強く求めます。「もう秘密は残されていません。私たちはUberがそのイメージを誇張し続けることを期待していますが、政府、大学、労働運動、シンクタンクの関係者も同様に責任がある。これは終わらせなければなりません」と、ダマリス・ゴードン氏(IAATWのパナマ支部=ACOPLADES)は表明しました。
詳細については、
Yaseen Aslam(ADCU、イギリス)電話:+44-7894-528-992、
Damaris Gordén(スペイン語)電話:+507-6152-8029にお問い合わせください。
2021年12月「指令案」と2022年9月「ガイドライン」の関連
こうしたEUの状況から考えると、時間的には先に出された「雇用上の地位」に関する2021年指令案とは別に、今回の「ガイドライン」が先に確定したのは、個別的な労働関係ではなく、「単独自営業者」の集団的関係の方が、政労使の合意が得られやすいという状況があったからであると推測できます。
たしかに、理論的には、「EU競争法」を厳格に解釈する考え方が、一部の国の政府や裁判所にはありましたが、現実には、自営業形式で働く多くの人が、自主的な組合を結成し、実際に集団行動を行って使用者(業界)団体との間で協約を締結する例が増えているという状況があることが、今回の「ガイドライン」の採択の背景にあるからだと思います。そして、この「ガイドライン」自体が、2021年「指令案」の確定に大きく影響することになると推測できるのです。
EU「ガイドライン」の日本への影響・示唆
今回のEU「ガイドライン」は、日本にも大きな示唆を与えるものです。積極的にその意義を捉えて、日本の状況改善に活かすことが必要です。
偽装的な自営業形式での就労の広がり
この20年間、とくに、自営業形式で働く労働者の権利実現をめぐる問題が増えてきました。働き方Asu-netでは、2019年10月に北健一さんに講演していただき、問題を提起していただきました(Asu-net第30回 つどい この”働き方”おかしくない)。また、私自身、二つの関連した本を編集し、問題の所在と、その解決の必要性を訴えてきました(下記)。労働法や社会保障法の適用をほぼ全面的に否定される、こうした働き方を改善するには、働く人自身が団結し、自らが「労働者」であることを主張して、集団的に問題を解決することがきわめて重要であることが明らかになってきました。その中で、Asu-netが直接支援活動をしてきた「ヤマハ英語講師」の事例では、Webなどを通じて、講師の皆さんが労働組合を結成し、団体交渉を通じて労働条件を改善し、雇用への道を切り開いてきました(詳しくは、川西玲子「ヤマハ英語講師ユニオンの闘いから見えてきたもの」参照)。つまり、個人請負・偽装自営業形式で働く人々にとって、集団的活動の役割がきわめて大きいことが改めて確認されています。
政府の「フリーランス対策」
政府は、昨年(2021年)3月、「フリーランス・ガイドライン」を定めました。しかし、その内容はきわめて不十分なもので、逆に、無権利・不安定な状況をほとんど改善させることなく、「低劣労働力」として活用していくことを真の狙いにしているのではないかという疑念を抱かせるものです(第51回 「死ぬまでギグ・ワークの劣悪環境で働け」ということか?)。
とくに、政府は、ILO2006年「雇用関係」勧告が提起し、最近になってEUやアメリカで注目されている「雇用推定」による立証責任転換の動向などを無視して、従来のきわめて狭い「労働者性」概念に拘泥し、その変更を問題点としていません。社会・労働保険の適用についても、消極的な態度を変えていません。とくに、労災保険適用を求めるウーバー・イーツ・ユニオンなどの要求を退けて、労働者が全額保険料を負担する「労災保険の特別加入」の対象拡大といった、低水準の「改善」で対応しています。中身とされています。
さらに、岸田内閣では、その「フリーランス・ガイドライン」の一部を反映するに過ぎない「フリーランス保護法」の制定を進めています。※
私も、9月の政府が募集したパブリックコメントに応じて意見を送りましたが、法案の内容は「フリーランスの取引をめぐる制度を整える」に止まっていて、EUの動向などをほとんど無視するものです。とくに、集団的な労働関係での権利保障については何らの改善も含まれていません。なお、2022年11月4日の朝日新聞は、「フリーランス新法、議論停滞、今国会での成立断念の可能性も」と報じています。中身がない法案ではなく、ILOやEUの動向を踏まえた内容に法案を大幅に修正することが必要です。
ウーバー・イーツ配達員やアマゾン配達運転手の集団活動の意義
こうした状況を打開するためには、「自営業形式」で働く人々自身が主体となる集団活動の広がりを支援することが重要です。その点で、ウーバー・イーツやアマゾンで働く労働者たちが、労働組合を結成し、企業側に対して団体交渉を求めている活動が報じられています。
これらはきわめて意義のある活動です。欧州で見られたように、コロナ禍で感染の危険にもかかわらず、多くの市民の生活を守った宅配や運送の業務に従事する人々の過酷な労働条件に社会全体が目を向けることが重要です。労働組合はもちろん、多くの市民団体が、配達員や運転手の労働条件改善の運動を支援し、世論を大きく高めることが求められています。
企業側も、現場の労働者を虐待するような対応を改めるべきです。憲法、労働組合法などに基づいて、その集団活動を尊重し、切実な改善の要求を誠実に受け止めて、団体交渉、労働協約締結へ積極的に対応することが必要です。
そして、政府、とくに、労働行政、労働委員会は、EUの最近の動向についてもしっかりと学ぶ必要があります。ウーバーや、アマゾンは、日本だけで企業活動をしているのではなく、世界的な規模で同様な労務管理をする多国籍企業です。狭い日本の枠組みで、しかも古くさくなった日本の集団的労働法と、関連の裁判例にこだわる消極的な対応は許されないことを自覚するべきだと思います。
デジタル・プラットフォーム労働者については、「ガラパゴス的な日本の労働法・労働判例」を超えて、世界動向に対応して、その集団的な権利をより積極的に認めるべきです。
現在、政府が提案している「フリーランス新法」も同様です。ILO(国際労働機関)は、1990年代以降、非正規雇用(非標準的雇用)や偽装的自営業について、その改善を進める積極的な方向に転換しています。1994年、ILOが均等待遇を中心的内容とする「パート労働条約」を採択しましたが、その直前の1993年に、日本は「均等待遇」抜きの「短時間労働法(パート労働法)」を駆け込み的に制定しました。「法改正をした」という欺瞞的なアリバイ作りであったと思います。日本政府は、労働法の規制緩和の姿勢を変えず、ILOなどの国際機関に対して不誠実な欺瞞的な対応をしてきました。その結果、日本の雇用社会は、OECD諸国の中でも、労働者の賃金をはじめとする水準が最低レベルにまで低下し続けてきたのです。社会を支える働く人を虐待し続ける国が衰退するのは当然の帰結です。日本的パート労働については、国連からも改善を勧告され続けている日本は「労働人権後進国」です。フリーランスについても、パート労働と同様な対応で中身のない「規制」で「乗り切る」ことは許されないと思います。
日本の裁判所も、日本の「労働人権後進国」化に責任があると思います。偽装的自営業についても、「狭い労働者概念」に基づく古びた判断枠組みからなかなか抜け出すことができてこなかったと言わざるを得ません。「雇用上の地位」を含めて、最近のEU諸国の最高裁判所が、変化する現実に対応する積極的な判決を下していることに学んでほしいと思います。そして、裁判官は、国際人権法、ILO条約・勧告をしっかりと踏まえるなど、国際的感覚を高めて日本に向けられた「労働法後進国」という汚名の返上の先頭に立つことが求められていることを強調したいと思います。
2022年11月25日、東京都労委がウーバーイーツ配達員の組合(ウーバーイーツ・ユニオン)の申し立てを認め、会社側に団体交渉を命ずる救済命令を出しました。そのNewsを聞いてTweetしました。