【声明】高市自民党新総裁「私自身もワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」発言について

 自民党の高市早苗氏が新総裁に選出後、「全員に馬車馬のように働いてもらう。私自身もワーク・ライフ・バランスという言葉を捨てる」と発言した。

 ネット上では「馬車馬のように」という比喩表現を巡っても物議を醸している。揚げ足を取るな、などという批判もあるが、言論の府と言われる国会議員としても、比較第一党の党首としても言葉の使い方としては適切とは思えない。

 近代以降、規制のない労働時間は、人間らしく生活する問題として捉えられ、法的な整備を以って規制されてきた。過労死という言葉が認知され、過剰な労働で死ぬことのない社会を目指し、保守・革新問わず社会全体の問題として捉えられてきた。

  しかし、この発言は高市氏の個人的な時代錯誤に基づくものでもなく、ことばの使い方のセンスの問題にとどまるものではない。

  これまで不十分ながらも「働き方改革」や「WLB(ワークライフバランス)」が進んできたのは、内外の圧力、とくに過労死家族の会、国連、OECDや、ILOなどからの日本の過労死を生む、働き過ぎ批判に応えるものであった。しかし、2018年の働き方改革法に対する財界の労働力不足への不満に応える形で、夏の参院選挙の自民党公約は「働きたい改革」が掲げられている。今後の働き方改革関連法の施行5年見直しへの警戒が必要である。

  さらに公明党、参政党といった政党が、働きたい人が働けるようにしていく、と主張している。これらの情勢を考えると、高市発言は、新総裁の慣用句を使った気構えの発露と解することはできず、政治的な意図を多分に含んだものであると考えなければならない。

 この発言について、過労死弁護団全国連絡会議は10月6日、「強く抗議し、撤回を求める」などとする声明を出した。弁護団声明は「公務員など働く人々に過重労働・長時間労働を強要することにつながり、古くからの精神主義を復活させる」と批判している。

 過労死弁護団が取り組んできた活動を振り返ると、今回の高市発言がいかに過労死の問題を軽視し、働き手の過剰労働を軽視した発言であるか、理解できる。

 平清盛が衣の下に鎧を着ていて、息子の重盛が諫言した。高市発言の衣の下から見える鎧を私たちは冷静に見つめなければならない。

 「働き方ASU-NET」の構成員として過労死弁護団全国連絡会議の声明に賛同するものである。



2025年10月10日
 NPO法人 働き方Asu-net 
      共同代表理事 岩城穣 伊藤大一 

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