毎日新聞 2014年01月29日
労働者派遣制度のイメージ (省略)
労働者派遣法の改正を議論してきた厚生労働省の労働政策審議会は29日、正社員の仕事を派遣労働に置き換えることを防ぐ「常用代替防止」のルールを大きく緩和する内容の報告書をまとめ、田村憲久厚労相に建議(答申)した。厚労省は今国会に派遣法改正案を提出、来年春からの実施を目指す。企業は派遣を活用しやすくなる一方、雇用が不安定化する懸念があり、派遣で働く人たちからは不安の声が上がっている。
報告書によると、派遣受け入れ期間の上限(現行3年)を事実上撤廃、3年を超えて派遣社員を使う場合、民主的な手続きで選ばれた労働者の代表から意見を聞いたうえで人を入れ替えれば、派遣先企業の判断で無期限に派遣を使うことができるようになる。
派遣会社と無期限の雇用契約を結んだ人は期間の制限を受けず、これまでも無期限派遣が可能だった通訳などの「専門26業務」は廃止。派遣先による事前面接を解禁する案は削除され、待遇面では派遣先の正社員と「バランスを考えた均衡処遇を推進する」とした。
経団連の米倉弘昌会長は「派遣社員にとっても(権利が)保障され、バランスが取れている」と評価した。一方、「NPO法人派遣労働ネットワーク」は「雇用安定と待遇改善への期待を裏切った」として建議撤回を求める声明を発表。事務職への派遣で7年間働いている千葉市の女性(32)は「派遣を抜け出したいと思っている人には正社員の仕事を得ることがますます厳しくなる」と語った。【東海林智】
◇解説 「常用防止」形骸化も
1985年に労働者派遣法が制定された当時、派遣は専門的な仕事に限って認められる「例外的な雇用」と規定された。職業安定法が「中間搾取」や「強制労働」につながる「人貸し」を原則として禁じていたためだ。人を雇った企業がその人を使う「直接雇用」の原則から外れると使用者責任が不明確になり、雇用が安定しないことも理由だった。
これに対し、今回の報告書に基づいて派遣法が改正されれば、派遣先企業は受け入れ期間の3年が経過しても、労働組合や従業員代表の意見を聞くだけで派遣の利用を継続できる。これを繰り返せば永久に派遣を使うことが可能だ。例外的な雇用が恒常的となり「常用代替防止」が実質的に機能しなくなるおそれがある
報告書には「派遣労働の利用を臨時的・一時的なものに限ることを原則とする」と乱用の歯止めとなる一文が入った。だが、この原則を担保する規制は見当たらず、改正法案に盛り込まれるかも不透明だ。
規制緩和を訴える経営者側は「多様な働き方が求められている」と説明してきた。法改正にそうしたメリットがあるとしても、働く人を守る原則をおろそかにすることは許されない。日本の雇用制度を守るために慎重な法案審議が求められる。【東海林智】