SankeiBiz 2014.8.10
スマートフォン市場への参入を表明するアマゾンのベゾスCEO。事業が急拡大している中、各方面からの批判も相次いでいる=2014年6月18日(AP)
米IT大手アマゾン・コムが激しい逆風にさらされている。労働組合などから「元祖ブラック企業」とやゆされる職場環境の厳しさが、メディアの潜入ルポなどを通じて世界中で社会問題化。さらに、ゲームソフトを購入した子供が高額請求される問題で当局が同社を提訴し、「子供を食い物にしている」との批判も高まっている。いずれもアマゾンは「法律は守っている」と反論しているが、非難の声はにわかにおさまりそうにない。
潜入ルポ
日本ではほとんど報じられていないが、ドイツ発のあるニュースが世界の労組関係者や経営者の間で最近ずいぶん話題になった。
労組の国際組織である国際総連合(ITUC)が五月にベルリンで世界大会を開催したのだが、そこでのアンケートで、「世界最悪の経営者」に、アマゾンの創業者で最高経営責任者(CEO)のジェフ・ベゾス氏が選ばれたのだ。
ベゾス氏は、米新聞・雑誌大手ニューズ・コーポレーションを率いるルパート・マードック氏らノミネートされた他の8人を抑え、約23%の得票率でトップだった。
ITUCのバロー書記長は「アマゾンは従業員をロボットのように扱っており、ベゾス氏は雇用者としての残虐性を象徴している」と痛烈に批判した。
昨年末の年末商戦では、そのドイツで、アマゾンの従業員が大規模なストライキを実施した。ドイツはアマゾンにとって本国の米国に次ぐ大市場で、労組幹部は「アマゾンの制度は低賃金と短期契約で特徴づけられる」と切り捨てる。
ジャーナリストの潜入ルポが数多いのもアマゾンという企業の特徴だ。最近では英BBCの記者の潜入取材が話題となった。
BBCの記者は英ウェールズ南部のアマゾンの物流センターで働き、台車を押して商品を収集する作業に従事した。記者によると、従業員は「想像を絶する」重圧の中で仕事を強いられ、「精神的および身体的疾患を招きかねない」ほどという。10時間強に及ぶ夜間の1回の勤務シフトで従業員が歩く距離は17キロにも達する。作業が遅いと、「訓練の必要がある」と警告を受けるという。
足が水ぶくれになった」といった健康被害を訴える報告が絶えない
もっとも、アマゾンは「従業員の安全を最優先にしているし、法律も守っている」と反論している。作業自体は他の多くの業界と同様で、「第三者的な立場の専門家から整然かつ法律に準拠しているとの評価を得ている」し、精神的・肉体的な病気を招くとの指摘もあたらないという。
ただ、米国やフランスでも、アマゾンの苛酷な労働現場を伝える報道が相次ぎ、「足が水ぶくれになった」といった健康被害を訴える報告が絶えない。
当局とも対決
米連邦取引委員会(FTC)は7月10日、アマゾンをワシントン州の連邦地裁に提訴した。
当局がやり玉にあげたのが、アマゾンがスマートフォン(高機能携帯電話)など携帯端末向けに展開しているゲームなどのアプリ配信だ。このサービスでは、一度パスワードを入力すると、しばらくの間は無制限でクレジットカードでアイテムなどが購入できる。
これに目をつけた子供が親に無断で利用しまくり、後から目が飛び出るような高額請求で腰を抜かすといったトラブルが多発している。
FTCは、数百万ドルにも上る請求は違法であるとして、代金の返還と、子供の利用を監視し消費者保護につながる仕組みの改善をアマゾンに求めた。
実はこうした事例が米国では社会問題化しており、アップルもゲームでの課金をめぐって、代金を利用者に返還することで1月にFTCと和解した。
しかし、アマゾンは「違法ではない。裁判でわれわれの立場を主張する」と真っ向から争う姿勢だ。これが教育関係者や消費者団体などからの批判も招き、騒ぎが大きくなっている。
広がる軋轢
さらにアマゾンを非難する声は近年、各方面から上がっている。たとえば、米IT企業が各国の課税制度の違いを利用し、節税にいそしんでいるニュースが話題になったが、アマゾンの場合は低税率国のルクセンブルクを経由し、たとえば欧州では税率の高い英国などで現地法人が大幅な税の支払いを免れている。
アマゾンが「脱法行為ではない」と主張しているように、こうした手法は合法的な節税手段ではある。それでも、欧米の議会で「課税逃れ」と反発する声が高まり、経済協力開発機構(OECD)などが国際的な税制の調整や見直しを提言する事態へと発展した。
また、最近では、フランスで、小規模書店の保護を目的に、オンラインの書籍販売で配送無料のサービスを禁じる法案が可決された。法案が電子書籍市場の巨人であるアマゾンを狙い撃ちしているのは明白で、アマゾンは規制強化の動きに、「消費者に不利益をもたらす」と反発していた。
アマゾンの総帥であるベゾス氏は「顧客中心」主義を掲げ、そのために自社の方針を守るためなら、社内外で軋轢を恐れぬ企業文化を持つとよく指摘される。
ただ、ベンチャーだった時代とは違い、ネット通販の覇者として巨大企業となった今、摩擦をどう乗り越えて成長を続けていくか、正念場を迎えている。