(時時刻刻)問われる「政治とカネ」 経団連、献金呼びかけ再開

朝日新聞 2014年9月9日

写真・図版:政治と企業団体献金をめぐる動き(省略)

 経団連が、会員企業への政治献金の呼びかけを再開する。政治との癒着だという批判を顧みず、政権との一体化に突き進む。ただ、「財界寄り」と取られることを恐れる自民党側は歓迎一色ではない。政党の主な収入源となった政党交付金のあり方も含め、「政治とカネ」が改めて問われている。▼1面参照

 ■政権と一体化、さらに

 「『政策をカネで買う』といった低レベルな話では全くない。非常に心外だ」

 いつもは穏やかな経団連の榊原定征会長だが、8日の会見では語気を強めた。

 強調したのは、献金呼びかけの「社会的意義」だ。「二等国、三等国になりそうだった日本がようやく、立ち直りつつある。経済再生を果たすため、政治と経済が徹底的に手をつなぐことが必要だ」

 「政策をカネで買う」ことは躍起になって否定し続けた。だが、なぜ違うのかについては必ずしも正面から答えず、献金の「大義」を説くばかりだった。

 5年ぶりの献金関与復活――。それは、榊原経団連にとって、安倍政権との関係を「正常」に戻すための詰めの作業だ。

 2009年の民主党政権誕生で、開いた政治との距離。そして前会長時代にぎくしゃくとした安倍政権との関係。榊原会長は今年6月の就任以来、これを元に戻すことに腐心してきた。

 成果は着実に出ている。榊原会長は経済財政諮問会議の民間議員にも加わる。そして、献金呼びかけの再開だ。「献金の規模も(民主党政権前の)元の水準に戻したいという雰囲気は感じる」と、財界関係者。

 経済界がめざす政策は着実に進んでいる。法人税減税は成長戦略に来年度からの引き下げ方針が盛り込まれた。法人税を1%下げると5千億円近くの減税になる。原発再稼働や労働時間よりも成果で賃金を支払う新しい働き方をどう導入するかなど、政策課題が並ぶ。

 批判に答えないまま、政治との関係を元に戻そうとする経団連。ただあっせん方式をやめると決めた1993年には自ら、「企業献金は一定期間の後、廃止を含めて検討すべきだ」とも主張していた。「やめると言っていたのに、また増やすのはおかしい」という声は、財界内部からも出ている。

 (稲田清英)

 ■自民は歓迎、反発を警戒

 「自民党を政策的に評価してもらえるなら、ありがたい」。自民党幹部の一人は8日、経団連の政治献金呼びかけ再開を歓迎した。

 野党時代、自民党への企業・団体献金は激減した。経団連の呼びかけで、合法的な政治資金が増えるのはありがたい話に違いない。

 さらに、企業・団体献金は政党と企業の癒着の象徴と指摘されがちだが、透明性があるという指摘もある。例えば、電力業界は企業献金を全面禁止しているが、1990年代から役員らが組織的に個人献金していたことが分かっている。企業名が隠れる分、かえって誰が献金しているのかが不透明になる面がある。

 自民党内には「政治家の財布を自身の資金管理団体と政党支部の二つにし、企業献金をきちんと情報公開した方が透明性は増す」(河野太郎衆院議員)との指摘もある。

 しかし、自民党は経団連の献金呼びかけ再開について、もろ手を挙げて賛成しているわけではない。

 理由の一つは、国民1人当たり約250円を出す形の政党交付金によって、政党の「国営化」が進んでいることだ。

 経団連によると、2012年の自民党本部の収入約140億円のうち7割の約100億円が政党交付金だ。国会議員数などに合わせて配分されるため、政権復帰後の14年4月には政党交付金は約158億円に跳ね上がった。企業・団体献金があるにこしたことはないが、何がなんでも、というわけではないのが本音だ。

 さらに、安倍政権が「財界寄り」とみられることへの懸念がある。

 安倍政権は年内に、消費税率を10%に引き上げるかどうかの判断を迫られる。一方、法人税率の引き下げはすでに決めている。国民に負担増を求める一方、企業から献金を受けて企業を優遇するのかという批判を浴びる可能性があるのだ。

 もともと政党交付金導入の狙いは、将来の企業・団体献金の廃止だったのに、一向にその気配はない。野党は、経団連の献金の呼びかけ再開を受けてさっそく批判を始めた。

 政権公約(マニフェスト)に企業・団体献金の禁止を盛り込んでいた民主党の海江田万里代表は8日、「献金する金があれば働く人たちの賃金を上げるべきだ」と批判。日本維新の会の橋下徹代表も「金で政治を動かすのは前近代的な政治だ。(結いの党と合併する)新しい政党は『企業献金はなしにしよう』という方針を掲げる」と経団連の動きを牽制(けんせい)した。

 (蔵前勝久)

 ■「社会貢献の理屈通用せず」「個人献金増やす工夫を」 識者ら批判

 榊原会長は8日、企業献金の意義を「社会貢献」と述べた。しかし反発は根強い。株主オンブズマン事務局長で関西大学名誉教授の森岡孝二氏は「株主の支持政党は多様だ。慈善寄付ならともかく、企業が長期間、特定の政党に献金し続けることが社会貢献、という理屈は通用しない。献金が企業の利益につながるなら『献金は賄賂』と自ら認めているのに等しい」と批判する。

 では、政党交付金なら万能なのか。日本大学の岩井奉信教授(政治学)は「欧米にも企業献金はある。政治を支える資金のバランスが重要。今の政治は政党交付金に重きが置かれすぎている」と指摘する。

 政党助成法に基づく政党交付金の総額は年間約320億円。毎年、元日時点の政党の議員数と、国政選挙での得票率を基に配分額が決まる。岩井教授は「政党交付金頼みで、『国営政党化』が進んだ。一方で企業献金には賄賂性がつきまとう。国の助成、企業献金、個人献金の3本柱を、同比率にしていくのが理想」。

 政治資金の問題に詳しい神戸学院大大学院の上脇博之教授(憲法学)は、政党交付金が、政治と国民の距離を遠ざけたと考える。政党が有権者の支持を得ようと努力する必要がなくなり、結果として個人献金が増えないとの見方だ。「政治は個人献金を基本とし、国民も自分たちが政党を育てていく意識を持たねば民主主義は機能しない。業界色のない個人献金をどう増やすか考える必要がある」

 (土居貴輝)

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