「心の病」労災認定、過去最多 背景には長時間労働

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朝日デジタル 2015年6月26日

 仕事のストレスなどで「心の病」を患って、労働災害(労災)と認められた人が過去最多となった。2014年度は、前年度より61人多い497人に達した。このうち自殺や自殺未遂をした人も最多を更新。心の病になっても労災と認められる人は限られ、実態はより深刻な可能性がある。

 厚生労働省が25日、過労死などの労災補償状況を公表した。14年度にうつ病などの心の病になって労災を請求した人は1456人で、統計が残る1983年度以降で最も多かった。認定も最多で、30〜40代が約6割を占めている。原因別では、労災事故など「悲惨な事故や災害を体験・目撃」が一番多かった。

 13年の国民生活基礎調査(厚労省)によると、15歳以上で仕事がある人のうち、「うつ病やその他の心の病気」で通院している人らは約83万人と推計され、心の病で苦しむ人は多い。

 心の病で労災認定された人のうち、自殺や自殺未遂をした人は前年度より6割増の99人で、こちらも過去最多だった。

 こうした労災に、長時間労働が影響していることも浮き彫りになった。時間外労働が「過労死の危険ライン」とされる月80時間以上の人は約4割、同160時間以上は1割強いた。自殺や自殺未遂をした人に絞ると、月80時間以上の割合は約6割に高まる。

 一方、体の病による認定も減っていない。くも膜下出血など「脳・心臓疾患」で認定された人は277人で、前年度より29人減ったが、ここ数年300人前後で高止まりしている。ここでも月80時間以上の時間外労働をしていた人は9割近くを占める。

 いずれの理由にしても、長時間労働を減らすことが労災を減らすための共通の課題となっている。

■国の対策、実効性に疑問

 相次ぐ過労死を防ごうと、国もようやく対策に乗り出した。厚労省は「過労死等防止対策推進法」が昨年成立したのを受け、「過労死ゼロ」をめざす防止策の大枠を今夏にまとめる。具体的には、労災が申請されたケースについて勤務の状況をくわしく調べ、働きすぎやメンタルヘルスの相談窓口を整える。

 だが、肝心の長時間労働防止に踏み込めておらず、実効性に疑問符もつく。遺族らは厚労省に「残業時間に上限を設ける」ことなどを求めてきたが、「(働く時間のルールを定めた)労働基準法の改正が必要になる」などの理由で、対策に盛り込まなかった。

 その労基法で、政府は「残業代ゼロ」の働き方の新設を含む改正案を今国会に出している。労働組合などは「長時間労働を助長し、過労死を増やす」と批判する。過労死問題に詳しい関西大学森岡孝二名誉教授は「政府は過労死防止法の趣旨と逆行するような制度はつくるべきではない」と話す。(牧内昇平、平井恵美)

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 〈労災認定〉 仕事で病気やけがなどをした際、本人や遺族の請求に基づいて労働基準監督署が業務に起因するものかどうかを客観的に判断する。認定されると療養補償などが給付される。過労の場合、労働時間やストレス度合いなどで総合的に評価される。

 

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