朝日DIGITAL 2017年10月13日
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製品の検査データを改ざんしていた神戸製鋼所。幹部は、不正の手法は管理職の間で「暗黙の引き継ぎがあった」と話す。神鋼は原因分析と対策を1カ月以内に公表する方針だが、問題の根は深い。取引企業からは製品交換や金銭負担を求める声もあがりはじめた。
「神戸製鋼の信頼度はゼロに落ちた」 社長の一問一答
神戸製鋼社長「深くおわびする」経産省に改ざん問題報告
アルミ・銅製品の検査データの改ざんや捏造(ねつぞう)は、栃木県の工場など4カ所で組織的に行われていた。検査データを事実と違うものにし、契約内容を満たすかのように偽装。10年以上前から続く不正もあった。神鋼は「納期を守り、目標を達成するプレッシャー」があったとみる。
「各工場で、管理職が(改ざんの手法などについて)暗黙の引き継ぎをしていたようだ。証拠として残る形ではなく、口伝えで引き継がれていた」。ある幹部は不正が脈々と続けられていたと語った。
4工場では、「自動車部品」「飲料缶向け」などと、つくる製品が大きく異なる。専門性が高いため、人事異動は少なく、20年以上同じ工場にいる社員も多い。不正をただす機運は生まれにくかった。「顧客に対して、こちら側がなれ合いのような感覚を持ってしまった。これぐらいの不正ならいいやと」
ただ、12日に報道陣の取材に応じた川崎博也会長兼社長は「8月30日に第一報を聞くまでわからなかった」と説明。子会社を含む複数の部門で不正が起きたことをふまえ、「グループ全体の原因を分析しなければならない」と語った。
神鋼の対応は後手に回っている。
当初、12月に不正の原因や対策を公表し、全容の解明は来年度にずれ込むとみていた。しかし、12日午前、方針は一変した。
「安全検証を加速し、2週間ていどで結果の公表を」「徹底的な原因究明と全社的な再発防止策の報告を1カ月以内に」。経済産業省の多田明弘製造産業局長からこう求められた川崎氏は、調査の加速化を表明するしかなかった。
ただ、不正な製品は次々と明らかになっている。
神鋼は当初、不正な製品を出荷したのは200社程度と発表。それが11日には、70社に出荷した製品で新たなデータ改ざんが発覚した。川崎氏は「国内外で複数、さらに疑いがある」。不正はさらに広がる見通しだ。(野口陽、伊藤舞虹)
■費用負担を求める声も
「(神鋼の)費用負担は当然あるものと思っている」。JR西日本の来島達夫社長は12日、東京都内で開いた記者会見で、新幹線の台車に使った神鋼製アルミ部品の交換費用を求める考えを強調した。契約の水準に満たない部品148個について、「安全上は問題ない」としつつ、本来の交換時期を待たず、1年以内に交換を求める方針だ。
改ざんに向けられた視線は厳しい。スバルの吉永泰之社長は12日、「日本の製造業の信頼が失墜する。航空機も扱っており、心配している」と述べた。
米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)は製品への影響について調べ、米航空大手ボーイング社は米連邦航空局と連携して調査を進めるという。
部品の安全性は、自動車メーカー各社が工場でも検査を重ねている。国土交通省も、保安基準を下回る欠陥には至らないとみており、車のリコール(回収・無償修理)に発展する可能性は今のところ低い。
それでも神鋼は、検査や交換の費用のほか、契約違反が問題視されて賠償金を求められる可能性もある。企業法務に詳しい牛島信弁護士は「不祥事による株価下落では、経営陣が株主から訴訟で責任を問われることもある」と指摘する。
国内のものづくりの現場では近年、東洋ゴム工業や三菱自動車などでも品質管理での不祥事が相次いだ。米紙ニューヨーク・タイムズは11日付紙面の1面トップで「日本のイメージに打撃」との見出しで、神鋼問題を報道。日産自動車の無資格検査にも触れた。
森岡孝二・関西大学名誉教授(企業社会論)は、現場で余裕が失われているとみる。「国際競争が激しいなか、企業が人件費を抑制し、人材不足が進んだ。法令を守る意識も薄まっている」(上地兼太郎、村井七緒子)