経団連、この恐るべき同質集団 編集委員 西條都夫
日本経済新聞 電子版2018/6/21
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31995500Q8A620C1X12000/
日本経済新聞の朝刊コラム「経営の視点」で経団連の正副会長について分析したところ、かなりの反響があったので、その続きを書いてみよう。
経団連といえば経済界の司令塔であり、正副会長は会社でいえば取締役に相当する存在だ。5月末に就任した中西宏明会長(日立製作所会長)と、それを支える18人の副会長の経歴を調べることで、日本経済を引っ張るパワーエリートの横顔を浮き彫りにしたい。
前回の記事では、正副会長の出身母体の企業は平成元年に比べると、ずいぶん裾野が広がり、30年前の製造業一辺倒から金融や運輸、商社などに多様化した、と評価した。
会長に就任し記者会見する経団連の中西会長(5月31日、東京・大手町)
ところがそれとは対照的に、人の属性の多様化は全く進まず、(1)全員男性で女性ゼロ(2)全員日本人で外国人ゼロ(3)一番若い杉森務副会長(JXTGエネルギー社長)でも62歳。30代、40代はおろか50代もいない――という「超同質集団」であると指摘した。
加えて経営者としてのカテゴリーでも、全員がいわゆるサラリーマン経営者。かつて副会長に名を連ねたソニーの盛田昭夫氏やダイエーの中内功氏のようなアントレプレナー(起業家)が姿を消し、いわゆるプロ経営者もいないのは物足りない、とも書いた。
その後、いろいろ調べると、さらに同質性を補強するような材料を見つけた。19人の正副会長全員のだれ一人として転職経験がないのだ。別の言い方をすれば、全員が大学を出て今の会社の門をたたき、細かくみれば曲折があったにせよ、ほぼ順調に出世の階段を上ってきた人物であるということだ。
年功序列や終身雇用、生え抜き主義といった日本の大企業システムの中にどっぷりとつかり、そこで成功してきた人たちが、はたして雇用制度改革や人事制度改革、あるいは「転職が当たり前の社会」の実現といった目標に本気で取り組めるものなのだろうか。
19人の出身大学も調べてみたが、やはりというべきか、圧倒的な1位は東大で、中西会長以下12人が東大卒。次いで一橋大が3人、京大、横浜国大、慶応大、早稲田大が各1人だった。
地方創生が叫ばれるなかで、首都圏以外の大学を出たのは山西健一郎・三菱電機取締役相談役ただ1人(京大工卒)というのも、どうか。
誤解のないよう急いで付け加えると、「東大卒がダメ」とか「転職経験がないからダメ」と言いたいわけではない。むろん「男性はダメ」「60歳を超えているとダメ」というのでもない。
問題は正副会長が19人もいて、似たような経歴の人しかおらず、ダイバーシティー(多様性)に欠けることだ。「老壮青」や「老若男女」といった姿からは大きく乖離(かいり)している。
日本企業がかつて躍進したのは社員の同質性が高く、それがチームワークの良さにつながり、品質の改良などに威力を発揮したからだ。だが、近年は同質性より異質性が重要になった。異なるモノの見方や経験がぶつかり合うことで、そこにイノベーションが生まれる。
移民や外国人の活躍する米シリコンバレーの繁栄がその証しであり、逆に同質性を色濃く引きずる日本企業は失速した。
中西会長自身が3年前の筆者とのインタビューで多様性の重要性を強調し、「どれほど優秀な外国人に日立に来てもらえるかが経営の勝負どころ」「女性の起用に数値目標を導入するのは賛成。多少無理をしてでも女性の役職を引き上げることで、組織に新風が吹き込まれ、よりイノベーティブな企業風土に生まれ変わるだろう」と述べている。
日立の再生で発揮した剛腕を経団連でも振るうことを新会長には期待したい。