<くらし調査隊> 外国人にも労災権利
中日新聞 2019年8月3日
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トラック運転手の過労を取り上げた連載企画「モノ運びの陰で」(六月十七日、二十四日、七月一日付生活面)。記事を知った日系ブラジル人の運転手から、過労で倒れ、労災申請した際に会社側から取り下げを促されたとの声が寄せられた。社会保険は外国人労働者も受けられるが、原則申請が必要なのに加え、言葉の壁がある。内容を十分理解できないまま、適切な給付を受けられない可能性もあり、注意が必要だ。
愛知県内の日系ブラジル人の男性(47)は五年前の夏、勤務先で脳出血を発症。左半身まひの障害が残り、車いす生活となった。
二十四時間操業の工場に、二交代で部品を届ける。運んだ部品の空き箱整理のため拘束時間は毎日十二時間を超え、残業が恒常的に月八十時間、多い時には百時間に上る日々が数年続いていた。
男性は「過労が原因」として労災保険を申請。認められれば、医療費が全額保険から支払われるほか、休業補償や障害に応じた障害補償年金なども支給される。ただ、脳卒中のように業務に起因するのか、すぐに分からないようなケースでは決定までに時間がかかることもある。
一方、会社は男性に労災保険ではなく、健康保険の「傷病手当」を受けるよう勧めた。「手続きが二週間ほどで終わり、労災よりも早く支給される」と説明されたため、男性は従い、いったん労災保険の申請を取り下げた。
ところが、ブラジル人仲間との話の中で、健康保険は業務に起因しない私傷病が対象で、傷病手当は最長一年半で打ち切られることなど、労災保険の方が補償が手厚いことを知った。労災保険を申請し直し、その後認定された。
業務に起因する病気やけがは労災保険の対象で、私傷病に対応する健康保険を利用することはできない。ただ、原因がよく分からないときには、いったん健康保険を利用しながら療養し、労災認定されれば、健康保険で受給した傷病手当などを返還するといった運用も行われている。
男性は日本で二十年以上働くが、日本語は十分理解できず「そんな仕組みは知らなかった」と話す。
労災保険は外国人も含め全従業員の保険料を会社側が負担。労災が続くと、保険料率が上がる可能性がある。また、労基署の立ち入り調査を受け、労務管理の不備などが見つかることもあり、それらをおそれて「労災隠し」をする会社も後を絶たない。
さらに労災保険を含め、社会保障の多くは申請主義。利用者が仕組みを理解し、申請する必要がある。ただ、制度が複雑なのに加え、外国人は言葉の壁もある。労災保険の概要を外国人向けに英語やポルトガル語などで説明したパンフレットを国が作成しており、活用したい。
外国人労働者の相談にも応じている労組「名古屋ふれあいユニオン」(名古屋市)にも、妊娠が分かると、育休が利用できることを知らせずに、雇い止めにされたという外国人の相談も少なくない。
浅野文秀副委員長(63)は「日本人と同じ権利があっても、十分に利用できずに『差別』という思いを強く持つ外国人も多い」と指摘する。
(三浦耕喜)