男性の育休、情報共有で雪だるま式に 話題の著者に聞く (9/22)

男性の育休、情報共有で雪だるま式に 話題の著者に聞く
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朝日新聞デジタル 立松真文 2019年9月22日08時00分

〔写真・図版〕山口慎太郎・東京大学准教授

 労働経済学者の山口慎太郎・東京大学准教授の「『家族の幸せ』の経済学」(光文社新書)が話題を呼んでいる。家族や育児を巡る俗説やモヤモヤを、海外のデータや自身の研究成果も紹介しつつ、経済学的に考察する。なぜ、待機児童の解消を急いだほうがいいのか。男性の育休取得を増やすにはどうしたらいいのか。山口さんに聞いた。

 山口さんによると、欧米では、保育園・幼稚園での幼児教育を「人材投資」ととらえ、その効果について研究が進んでいるという。一方で、日本の保育政策の議論は、ずっと「親の働きやすさ」が中心だった。その半面、当事者である子どもへの影響は、あまり重視されてこなかった。

 山口さんらは、保育園の持つ幼児教育施設としての機能に着目し、厚生労働省が実施した大規模調査のデータを分析した。

 ログイン前の続きその結果、保育園通いが、子どもの言語発達にプラスの影響をもたらし、とりわけ、特定の家庭環境にある子の多動性や攻撃性を減少させることを明らかにした。さらに、子どもだけでなく、母親のしつけの質やストレスまで改善していたことも分かった。

 日本では、10月からは幼児教育・保育の無償化が実施される。ただ、山口さんは、自らの研究結果を踏まえ、急ぐべきは、「待機児童の解消」だという。

 「現在進められている無償化は、保育所を増やす政策を十分に伴っていません。そうすると、保育所を利用できる家庭とそうでない家庭の間の不公平感を一層高めることになりかねません」と指摘する。

 日本の男性の育休制度は、期間や給付金でみた場合、世界的にも「先進国」といえる。だが、その制度の充実ぶりとはうらはらに、取得は進んでいない。

 取得率は6%(18年度)にとどまり、20〜80%の欧米先進国とは大きな開きがある。

 「周囲の視線」や「キャリアへの不安」が取得の大きな壁だ。取得率を上げるにはどうしたらいいのか。山口さんは、ノルウェーの事例をヒントとして挙げる。

 同国は、1993年の育休改革で、当時3%程度だった取得率を一気に35%まで伸ばし、そこから10年以上かけて約70%まで引き上げた。当初は、給付金の充実など政策誘導の効果が大きかったが、その後は、育休の「連鎖」が広がったことが、上昇の要因だったという。同国の経済学者の分析によると、同僚や兄弟に率先して取得した人がいた場合には、取得率が11〜15%上昇。さらに、上司が取得した場合は、その2・5倍の影響があったという。

 山口さんは、日本でも、短期的に育休の給付金を引き上げることは効果的だとしつつ、取得が職場で不利にならないことを保証することが欠かせない、と説く。

 「例えば、企業は、取得者が社内でその後どのように活躍・昇進したのか、社内で情報共有したらどうでしょうか。上司や同僚の姿を見て、キャリアへの安心感が生まれれば、日本でも『雪だるま式』に取得が増えていくでしょう」(立松真文)

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 やまぐち・しんたろう 東京大学准教授(労働経済学・家族の経済学)。米ウィスコンシン大学経済学博士。カナダ・マクマスター大学准教授を経て2017年から現職。
 

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