毎日新聞 <消費増税法案>見えぬ未来、募る不安…求職者ら

毎日新聞 6月26日(火)22時4分配信

◇「説明、納得できない」
 
「なぜ消費税を上げなきゃならないのか、その説明が最後まで納得できなかった」。2年前に職を失い、スーパーのレジ打ちのアルバイトをしながら求職活動をしている東京都小金井市の男性(37)は言う。
 
26日はアルバイトが休みで、消費増税法案可決の瞬間を自宅のテレビで見て「ついに通ってしまいましたね」。民主党の小沢一郎元代表のグループが反対票を投じたことに「国民を納得させるだけの十分な説明もしないまま通そうとするよりずっといい。次の選挙では民主党には投票しないと心に決めた」と話した。
 
男性は就職氷河期の99年に大学を卒業。正社員になれず、パソコン周辺機器のレンタル会社で契約社員として働いた。それも10年に雇い止めに遭った。
 
ハローワークでIT関係の職業訓練を受け、いくつかの企業の面接にこぎ着けたが、採用まで届かない。「アルバイトでも派遣でも、長く続けられる仕事があれば」。1日7時間、週5回のレジ打ちは時給992円。年収は200万円を切る計算になる。6畳1間のアパートの家賃4万6000円も負担が重い。バイトを掛け持ちしようか思案中だ。
 
三重県でラーメン屋を営んでいた両親は、目の前にできたチェーン店に客を奪われ、昨年11月に店をたたんだ。
 
家のローンを抱える父(63)は食堂でアルバイトをしながら国民年金で細々と暮らす。「自分たちの世代は、年金も当てにならない。国に頼らずに老後を生きる手立ても考えなければ」
 
できれば結婚して、子供もほしい。でも、今のままでは希望は持てない。アパートの隣室の男性は仕事で体を壊し、生活保護を受けている。もう片方の隣人は透析治療を受けながらの年金暮らし。買い物以外ほとんど自宅から出てこない。孤独死してもおかしくない単身の高齢者たち。その姿が、将来の自分に重なる。【市川明代】

 
◇「景気対策急いで」
 
「キューポラのある街」として知られる埼玉県川口市はいまも鋳物業が盛んだが、東京電力の電気料金値上げに続き、消費増税は“ダブルパンチ”となる。市内にある「田中鋳物工場」専務の田中大裕(まさひろ)さん(38)は「ユーロ圏で何か起きたら為替や株価に響く。景気が底に近い状態での増税はいかがなものか」と不安を隠さない。
 
鋳物業は金属材料を溶かす大量の電力が必要。同社の電力値上げ率は15.6%となり、年間の電気料金は約656万円増えると試算された。6月末までの契約期間は旧料金で済んだが、7月からの新たな契約は値上げ料金を受け入れざるを得なかった。
 
中国や韓国からの輸入品との激しい競争にもさらされ、電気料金や消費税をそのまま商品の価格に転嫁できない。田中さんは「政権交代した際の民主党のマニフェストには、消費税の増税のことは一切書かれていなかった。増税をするなら、衆院を解散し、総選挙で信を問うてからにすべきだ。震災復興のためにもスピード感のある景気対策を実施してほしい」と注文した。【木村健二】
 
◇「介護現場に安心を」
 
東京都豊島区で特別養護老人ホームなど20施設を運営する社会福祉法人「フロンティア」の松室(まつむろ)登志子理事長は「増税するなら安心できる社会保障制度の設計を目指してほしい」と注文を付ける。
 
低賃金で重労働と言われる介護の仕事。今年度は6人を採用したが、まだまだ足りない。採用しても1〜2年で辞めてしまう職員もいる。
 
「せっかくこの道を志してくれたのに残念」。介護職員も看護師も、派遣スタッフに頼らざるを得ないのが現状だ。
 
区内の特別養護老人ホームの待機者は数百人。ショートステイも常に満床。デイサービスで一時宿泊を受け付ける介護保険制度外のサービスのニーズが高まっているが、国は在宅を基本とする介護へと転換を図る。
 
現場のニーズと、国の方針が一致していないことに不安を感じている。「増えた税収は介護に充てられるのでしょうか」【市川明代】

この記事を書いた人