東京新聞 2018年2月15日 朝刊
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201802/CK2018021502000149.html
安倍晋三首相は十四日の衆院予算委員会で、裁量労働制で働く人の労働時間が一般の労働者より短いというデータがあるとした自らの国会答弁を撤回し、「おわび申し上げたい」と陳謝した。野党からデータの疑義を指摘されていた。裁量労働制を巡っては、企業による不適切な運用が相次いで発覚している。野党は長時間労働につながると批判するが、政府は柔軟な働き方で生産性が上がるとして、今国会で成立を目指す「働き方」関連法案に対象拡大を盛り込んでいる。 (木谷孝洋)
裁量労働制は、仕事の進め方を労働者の裁量に任せ、残業代を定額で支払う制度。個人の能力を生かす働き方として導入された。現在はゲーム制作やシステムコンサルタントなど十九の専門職「専門業務型」と、事業運営で企画や立案、調査を行う「企画業務型」が対象となっている。
企業にとっては、労働者がいくら働いても残業代を上乗せする必要がない。このため対象外の職種に適用したり、過大な業務を命じて長時間労働につながったりと、さまざまな問題点が指摘されている。
昨年八月に発足した労働組合「裁量労働制ユニオン」(東京都)には、約三十件の相談が寄せられた。不適切な制度運用は出版やゲーム制作などの業界に多いという。
不動産大手の野村不動産(同)は昨年十二月、裁量労働制が認められていない営業職の社員六百人に適用していたとして、東京労働局から是正勧告と指導を受けた。厚生労働省は全国一万三千社の実態調査に乗り出した。
働き方関連法案には、企画業務型に、品質管理など管理的な業務を行う人と、一部営業職を加える内容が盛り込まれている。
厚労省は対象人数を明らかにしていないが、全産業で営業職は三百四十二万人に上り、多くの労働者が「定額残業代」で働くことになる可能性が指摘される。
労働問題に詳しい市橋耕太弁護士は「裁量労働制は企業の残業代抑制につながるが、労働者のメリットは乏しい。現行でも問題があるのに、なし崩し的に対象を拡大するのは問題」と指摘する。
<裁量労働制> 実態にかかわらず、あらかじめ決まった時間を働いたとみなす制度。出退勤の時間や仕事の進め方に裁量が与えられる一方、深夜や休日以外の割増賃金は支払われず、残業代は定額となる。1987年の労働基準法改正でシステムエンジニアなどの専門職に導入され、98年の同法改正で事業の運営で立案や調査を行う事務職に適用が拡大された。