「無給医問題シンポジウム」(7/13)

 「全大学病院の無給医緊急点検」を厚労省に要望、全国医師ユニオン

「悪質例には司法警察権限行使を」、7月28日にホットライン開設
医療維新 2019年7月13日 橋本佳子(m3.com編集長)
 
 全国医師ユニオン代表の植山直人氏は、7月13日に都内で開催した「無給医問題シンポジウム」で、労働基準監督署による無給医についての全大学病院の緊急点検と厚生労働省による結果発表を求める要望を、7月16日に同省に提出することを明らかにした。12の緊急点検項目を挙げ、違法があった場合には改善指導の徹底、悪質な場合には司法警察権限の行使を求める内容だ。
 
〔写真〕全国医師ユニオン代表の植山直人氏
 
 植山氏は、6月末に公表された文部科学省による無給医調査結果について、「労働基準法違反の当事者に対して、『どのくらい違反していますか』と回答を求めたもの。2000人以上が無給医という結果だが、それは氷山の一角」と問題視。約3600人は研究や研鑽などの「合理的な理由」から給与支給対象ではないとの結果についても、「具体的な内容は大学の判断に任されており、不透明のまま」と指摘した(『大学病院の「無給医」、少なくとも2191人、文科省調査』を参照)。
 
 全国医師ユニオンでは、日本労働弁護団との共催で7月28日に、緊急電話相談「医師の長時間労働・無給医ホットライン」を開設する。植山氏は、「できるだけ現場の声を拾い上げて、この無給医問題の解決に向けて動いていきたい」と決意を新たにした。「もっとも、現在無給医である医師は、なかなか声を上げてくれないだろう」とも語り、賃金未払いの時効は2年のため、過去に無給医だった医師からの相談にも応じると説明。「本当にひどい大学には集団訴訟ができないのかとも考えている。そうした形で圧力がかからないと、大学は変らないだろう」(植山氏)。
 
 ホットラインは、7月28日(日)の午前10時〜午後4時に開設(TEL:03-3251-5363)。
 
 「無給医問題シンポジウム」では、過労死弁護団全国連絡会議代表理事で弁護士の松丸正氏が、鳥取大学の大学院生の事例を基に、「大学院生の過労運転事故死から無給医問題を考える」とのテーマで基調講演(『医師の“過労・交通事故死”裁判、その三つの特徴とは?』を参照)。愛知県保険医協会副理事長の板津慶幸氏が「50年前にあった無給医運動」を紹介。
 
 さらに2人の無給医が、現状の厳しい勤務環境を赤裸々に語り、問題解決の必要性を訴えた(記事は、別途掲載予定)。
 

【無給医に関して、労基署による全大学病院の緊急点検と厚労省による結果発表を求める】
(全国医師ユニオン)
(1)無給医の存在に関する数および実態の把握
(2)雇用契約(労災保険の適用に必須)を結ばずに、診療や研究に従事している医師の数の把握
(3)健康保険に入っていない医師の数の把握
(4)最低賃金以下で働かされている医師の有無
(5)労働時間の一部しか賃金が支払われていない医師の有無
(6)初期研修医の給与を下回る医師の有無
(7)客観的な時間管理の有無の把握と、7月1日厚労省通達に基づく労働時間管理の徹底
(8)不払い残業代の実態の把握
(9)他の医療機関等から派遣されている医師の労務管理の実態把握、派遣業法違反の有無
(10)無給医が行った診療にもかかわらず、他の医師の名義を使った保険請求の有無
(11)同一労働・同一賃金等の均等待遇に関する実態の把握
(12)放射線被ばくをする診療に当たる全医師が適切に放射線管理されているかの確認(無給医で放射線バッチが渡されずに、診療業務に従事されられていたとの声が散見される)
(13)上記で、違法があった場合の改善指導の徹底、なお悪質な管理者に対しては司法警察権限の行使

 「無給医は究極のサービス残業」
 
 松丸氏が紹介した鳥取大学大学院生の過労運転事故死は、2003年3月8日に起きた。事故直前の勤務は過重で、事故前3カ月の休日は3日のみ、事故前1カ月の時間外労働は200時間超、事故前2週間の宿直は6日。事故前日の3月7日は7時40分始業、夜間に緊急手術が入り、翌8日午前5時21分に終了。いったん自宅に戻り、関連病院の勤務に自ら車を運転して向かう途中、午前8時55分に事故が起きた。遺族は大学側に損害賠償を求めて提訴。2009年10月、鳥取地裁は約2000万円の損害賠償の支払いを大学に命じた。
 
 これらの勤務実態は、電子カルテのアクセス記録から把握が可能だった。松丸氏は、「いまだ労働時間の適正な把握がされていないことが多い。誰も気付かないうちに長時間労働になっており、そのチェック機能が働かないことが問題」と指摘。
 
 もっとも、「当時はこの無給医問題としては捉えていなかった」と松丸氏。研修医が労働者かどうかが争われた裁判としては、1998年の関西医科大学の研修医の過労死事件がある。未払い賃金の支払いを求めた裁判では、最高裁は2005年、研修医の労働者性を認める判決を下している。大学院生などの無給医も、「勤務スケジュールに組み込まれ、病院の指揮命令下で業務を行っている以上、たとえ研修目的でも、労働者性が失われることはなく、対価は支払われるべき」(松丸氏)。労基法は、労務があれば、その対価の支払いを求めていることから、無給医は「究極のサービス残業」とも称した。
 
 さらに松丸氏は、文科省の無給医調査について、各大学が各自の判断に基づいて回答していることから、植山氏と同様に、「実態を反映しているのか」と疑問を投げかけ、厚労省が実態調査をしたり、調査権限を持つ労基署が調べ、改善につなげる必要性を訴えた。
 
 無給医の労働者性が認められた場合でも、最低賃金に抑えられることへの懸念も呈した。「雇用形態によって給与の著しい差があるのは、違法。大学院生の医師であっても、通常の医師とは、整合性をもった給与水準が確保されるべきだろう。同一労働同一賃金としなければ、本当の解決にならない」(松丸氏)。
 
〔写真〕過労死弁護団全国連絡会議代表理事で弁護士の松丸正氏
 
 約50年前にも「無給医運動」、診療放棄を実施
 
 板津氏が所属していた名古屋大学医学部では「無給副手」で構成する「副手会」が1963年に発足、板津氏が書記長を務めた。同会の呼びかけで、1964年4月に、15大学のメンバーから成る「無給医全国対策委員会」が発足。当時、全国46大学で約1万人の無給医がいると言われていたという。
 
 1965年12月には、「第1回無給医全国統一行動」を実施。名大と群馬大学は全面的に、東京大学は一部で「研究専念日」と銘打って、無給医らが診療放棄を実施。その他の大学も討論集会を実施するなど、大きな反響を呼んだ。1966年6月24日にも、「無給医の実態を訴える全国統一行動」として、10大学で全面的に、2大学では一部で、診療放棄を行った。
 
 これらの結果、「診療協力謝礼金」との名目で、1967年には日額400円、翌1968年には日額600円がそれぞれ提示されたが、拒否。1970年に「非常勤医員制度」として、一応の有給化を勝ち取った。ただし、月額4万2500円で、定員が全国で3300人と上限があり、名大医学部教授会は251人分を要望したが、配分は149人だった。しかも、非常勤であり、「日雇い労働者」扱いだった。その後も文部省交渉など、運動は多彩に続いたという。
 
〔写真〕愛知県保険医協会副理事長の板津慶幸氏
 
□「無給医」過酷な勤務実態 医師が語るシンポジウム
NHKWebNews 2019年7月13日 18時48分
 
大学病院などで診療に当たりながら給与が支払われない「無給医」の問題を議論するシンポジウムが東京で開かれ、当事者の医師も参加し、過酷な勤務の実態を語りました。
 
このシンポジウムは、勤務医でつくる労働組合「全国医師ユニオン」が開き、東京千代田区の会場には若手の医師などが集まりました。
 
「無給医」は、大学病院などで診療にあたっていても給与が支払われない若手医師のことで、文部科学省は先月、全国に2191人の無給医がいることを初めて認めました。
 
まず、過労死問題に取り組んでいる松丸正弁護士が「自己研さんの名の下に給料を支払わないでいると、勤務管理がされず長時間労働が横行する。厚生労働省が監督権限を発揮して解決すべきだ」と指摘しました。
 
また、大学病院で無給医として勤務していた30代の男性も登壇し、病院に泊まる当直勤務を月に14日行っていたなど過酷な勤務の実態を語り、「無給はおかしいと言うと上司からはわがままだと言われる。医療の世界では自浄作用が働かないので、社会から是正を促してほしい」と訴えました。
 
主催した全国医師ユニオンは今月28日に無給医の電話相談会を行うということで、植山直人代表は「若い医師がやりがいを持って働けるようにすることが患者のためにもなる。無給医はさらにいる可能性があるのでしっかり国が調査すべきだ」と話していました。
 
【関連情報】
20190713NHKBSニュース
 
 
 

 

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