企業責任 欧州発の「ビジネスと人権」センターがジュネーブに設立
https://www.swissinfo.ch/jpn/business/
Jessica Davis Plüss 2019-12-08 06:00
このコンテンツは2019/12/08 6:00に配信されました
2019-12-08 06:00
コンゴ民主共和国のコバルト鉱山で働く労働者の人権問題は、今年11月にジュネーブ大学に設立されたビジネス・人権センターの主要研究課題だ
(Keystone / Schalk Van Zuydam)
ジュネーブ大学は「平和の首都」ジュネーブを責任ある企業行動の拠点にしようと、ヨーロッパで初めて人権に特化した「ビジネス・人権センター」を設立した。swissinfo.chは所長を務めるドロテ・バウマン・パウリー教授に、企業の利益と規範が共存するためには何が必要かを聞いた。
ジュネーブは企業活動よりは和平協議や外交交渉の舞台として知られるが、産業界において存在感が薄いわけではない。ジュネーブで多くのスイス時計メーカーが誕生しただけでなく、トラフィグラやビトルといった商社、消費財大手プロクター・アンド・ギャンブルなど数百社の多国籍企業がひしめく。
ドロテ・バウマン・パウリー氏はジュネーブ大学の助教授で、経済経営学院(GSEM)でビジネス・人権センターの所長を務める
(Nicolas Spuhler)
この混在はジュネーブを「ビジネスと人権の明白な中心地」にする――ニューヨーク大学のマイケル・ポズナー教授は先月25日、同センターの開校式でこう語った。ポズナー氏は世界初となる人権とビジネスをテーマにした施設をニューヨークに設立した。5年前の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で共に朝食を取ったときに、ジュネーブにもこうした拠点を作ることを提案した。
実現までには5年もかかったが、所長のパウリー氏は未来志向だ。開校式で「スイスでは何事も時間がかかるが、一度進めば人々は確実にやり遂げる」と胸を張った。
新センターはスイスに関連する産業に特化して、世界的な人権の原則を企業活動の現場にどう適用させるかについて対話・研究することを目的とする。既に二つのプロジェクトが動き始めている。一つは金融業界のベンチマーク、もう一つは自動車産業のバッテリー需要の増加に伴うコバルトの鉱山労働者だ。
swissinfo.chはバウマン・パウリー氏に今後のビジョンや、企業の責任に関して話を聞いた。
swissinfo.ch:企業の利益追求と規範は共存できる、という説に懐疑的な見方があります。あなたを確信させるものは何ですか?
ドロテ・バウマン・パウリー氏:人権のいわゆる投資対効果は定まっていない。必要なのは長期的な視点だ。人権の尊重を確保するには初期投資がかかるが、長期的にみれば企業は強くなる。
例えばファッション業界の企業が単なる取引関係から脱却し、人権基準を購入計画に採り入れたりサプライヤーとの長期関係に配慮したりするようになった企業は多い。衣類・工場労働者にとってプラスとなるだけでなく、アパレルブランドにとっても良いことだ。労働者が健康で有能、公平な報酬を得ていれば生産性と労働の質が向上するためだ。
swissinfo.ch:人権に関して商社はこれまで良い歴史がありません。人権問題を深刻に受け止めているのでしょうか?
バウマン・パウリー氏:商社業界は人権に対する責任を受け入れるという大きな進歩を遂げた。だが実際は分野より大きな違いがある。人権に関して勝者に何が求められているのか、はっきりしていないことが一因だ。昨年ガイダンス(指針)が発表されたが、多くの疑問が残っている。
swissinfo.ch:「責任ある企業イニシアチブ」で最も議論に呼んでいる点の一つは、法的責任を導入するかどうかです。企業は、国外の取引相手の行動に対して法的責任を負うべきなのか、それとも努力規定で十分なのでしょうか。
バウマン・パウリー氏:法的責任は企業に人権を守らせるための一つの手段だ。だがそれが唯一の手段でもなければ十分でもない。最も重要なのは、進捗を確認するための明確な産業共通の基準だ。
企業にとって、法的席には確かに強力な道具だが、人権問題を企業の顧問弁護士に任せ、コンプライアンス(法令順守)の観点からしかものを見なくなる危険がある。
責任ある企業イニシアチブ
スイス企業が外国で行う活動の責任を問う難しさ
スイス企業が外国で行う活動による人権侵害や環境被害に対する法的責任を企業に問うことができるようにする「責任ある企業イニシアチブ(国民発議)」の賛否が、スイス国民に近く問われる。この記事で取り上げる3つのケースは、現行の制度の下で正義を獲得する困難さを浮き彫りにする。
Anand Chandrasekhar
企業が人権をビジネスチャンスとして重んじることが重要で、それにより企業内のあらゆるレベルの賛同が必要になる。法的責任の有無に関わらず、企業は人権へのコミットメントを実行できなければならない。
swissinfo.ch:一部のスイス企業は、法の支配が弱く、人権侵害の蔓延する多くの国で事業を展開しています。そのような状況で企業は何をすべきだと思いますか?
バウマン・パウリー氏:我々の生きる世界の現状を踏まえると、法の支配が弱い国、ガバナンス(統治)の弱い国は例外ではなく標準だ。世界中で事業を展開する企業は、ガバナンスの違いに対処するために、普遍的な人権に根差したグローバルな基準を整えている。原則と一貫性があり、取引相手にとって予測可能性の高いアプローチ方法だ。
swissinfo.ch:企業と協力しても問題は解決せず、ただ企業の評判を高めるだけとの批判もあります。コラボレーションと行動主義の役割は何でしょうか?
バウマン・パウリー氏:コラボレーションと行動主義の間には相互作用がある。異なる主体は異なる役割を果たす。ジュネーブのビジネス・人権センターは企業と協力し、最も必要な人権問題をよりよく理解し、実行可能な解決方法を解決したい。我々のアプローチは、企業や政策立案者に対する提案や、企業の利益と規範の両立を可能にするビジネスモデルの研究に基づいている。
業界共通の基準策定にも貢献したい。こうした基準が開発されれば、人権に対して象徴的に取り組むだけでは企業のイメージアップにはつながらなくなる。
世界潮流の先端を行く
多国籍企業よ、人権を守れ! スイス市民が求める企業責任
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Jessica Davis Pluess
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)