「企業理念は共生」「人を大切にします」「人々の生活を豊かに」……。大手企業が競うようにホームページに掲げる「企業理念」が、今ほど色あせ、むなしく映ることはない。
契約を打ち切られ、職を失う派遣社員や期間従業員ら非正規社員の増加が止まらない。厚生労働省の19日時点の調査で、契約期間満了で更新しない雇い止めや契約途中の解約で10月〜来年3月に失職する非正規は8万5000人を超え、前回調査から1カ月もたたないうちに2・8倍にも膨れ上がった。
このうち少なくても2000人以上が寮などを追われて住まいも失い、5万人の住居状況は把握できていないという。年末年始のことを考えると、暗たんたる気持ちになる。
世界不況が日本に及び始めた秋以降明らかになったのは、雇用の悪化を招くことを顧みず、大量の「非正規切り」でコスト削減を図ろうとする企業の姿勢だ。NPO法人や労働団体が失業者の支援に動き、各地の自治体が臨時採用や住居提供に名乗りを上げ、政府も緊急の雇用対策に踏み出した中で、さらに切り続けて何もしようとしない企業の無責任ぶりが際立つのだ。
中には、期間従業員の中途解約を撤回した企業もあるが、同じ職場で働いていた派遣社員は切ったままだ。体力のある大手企業の間でも非正規の雇用を守ろうという動きが出てこないのは理解しがたい。
不況直前までの大手企業の好業績を支えたのが、低賃金で働く非正規の人たちだった。この間、大手企業は多額の収益を従業員に回さずに内部留保としてため込み、不安定な働き方を強いられる非正規を放置してきた。今こそ、その収益を非正規の雇用維持のために向けるのが筋ではないか。
こうした理不尽がなぜ許されるのか。非正規が法的に十分に守られる仕組みになっていないからだ。
今回の7割近い5万7000人余りが派遣だが、派遣を実際に使う企業には雇用主としての責任がないというのが労働者派遣法の枠組みだ。期間従業員は直接雇用だが、期間満了になれば更新は基本的に企業次第だ。正社員に比べ非正規ははるかに不利な立場に置かれている。派遣法の抜本改正をはじめ、非正規を正社員並みに保護するような労働法制の見直しが必要だ。
労働組合の一部からは、正社員の賃上げ分や残業分を非正規の雇用確保や格差是正に回す緊急ワークシェアリングを考えてはどうかとの声も上がる。今後、検討すべきテーマになるかもしれない。
それにしても、雇用がさらに悪化すれば消費の低迷は一層深刻になり、企業の経営に影響を及ぼす悪循環に入り込む。内需を拡大し、景気悪化を少しでも食い止めるためにも、企業は雇用を守るという社会的責任を果たしてもらいたい。